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:「桂川わがこゝろにもかよはねどおなじふかさはながるべらなり」。
みやこのうれしきあまりに歌もあまりぞおほかる。夜更けてくれば所々も見えず。京に入り立ちてうれし。家にいた至りて門に入るに、月あか明ければ、いとよくありさま見ゆ。聞きしよりもましてい、言ふかいひなくぞこぼれ破れたる。家を預けたりつる人の心も、荒れたるなりけり。「中垣こそあれ、ひとつ家のやうなればのぞ、望みて預れるなり。」「さるは、たよりごとに、物も絶えず得させたり。こよひ今宵、かかゝることゝ聲。」と、声高にものもい言はせず、。いとはつらく見ゆれど志をば、こころざしはせむとす。
さて、池めいてくぼまり、水づつける所あり。ほとりに松もありき。五年六年のうちに、千年や過ぎにけむ、かた枝へはなくなりにけり。いま今生ひたるぞま混じれる。大おほかたの皆あみな荒れにたれば、「あはれ。」とぞ人々い言ふ。思ひ出でぬ事ことなく、思ひ恋ひしきがうちに、この家にて生まれし女子の、もろともに帰らねば、いかゞがはかな悲しき。船人も皆みな、子だたかりてのゝのしる。かゝかるうちに猶か、なほ悲しきに堪へずして密、ひそかに心知れる人とい言へりけるうた歌、
:「 うまれしもかへらぬものを我がやどに小松のあるを見るがかなしさ 」▼
とぞ い言へる。 猶あなほ飽かずやあらむ、またかくなむ、 ▼▲:「うまれしもかへらぬものを我がやどに小松のあるを見るがかなしさ」
:「 見し人の松の ちとせ千年に み見ましかば とほ遠く かな悲しき わか別れせましや 」。▼
わす忘れがたく 、くちをしきこと おほ多かれど 、え つ尽くさず。とまれか くうまれ 疾、とく や破りてむ。 ▼
▲:「見し人の松のちとせにみましかばとほくかなしきわかれせましや」。
▲わすれがたくくちをしきことおほかれどえつくさず。とまれかくまれ疾くやりてむ。
==備考==
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