とこたへたり。然るあひだその打こみたる人を御尋あるぞ。
縦ひ親にても兄弟にても其外親類けんぞくにても。
ありのまゝにさんげせよ。若又他人他門にてもあれ。此
事におゐて。かすかに成共見聞したる輩は。まつすぐ
に申出よ。當分にかくし置き。後日のせんぎにあらはれな
ば。急度六ヶ敷かるべしと。段〻にいゝつぎ。一〻次第に
ふれ廻す。庄右衛門がことわりには。少も此義しる人あら
ば。早〻申出られよ。まづはその身の罪障懺悔後生菩提のためなるべし。かつは亡者の怨念はらし。速に
成佛させんとの御事にて。祐天和尚の御せんぎぞや。
たのむぞ〳〵人〻と。かなたこなた二三返告渡れ共。皆〻
しらずといふ中に。東の方四五間ばかり隔たる座中より。
老婆のあるがのびあがり。其事は八右衛門に。御尋あれとぞ
訴へける。名主此よし聞よりも。それ八右衛門は何くにある
ぞと呼はれば。今朝よりあれなる木の下に見えけるが
今は居らずといふにより常使にいゝ付こゝかしこと尋
出し。やう〳〵につれ來るを。名主ちかく召よせ。かくの次第と
問ければ。八右衛門よこ手をはたと打。さては其助がま
いりて候かや。是には長き物語の候ものおと。泪をながし
ながら一〻次第にかたりけり。まづ其すけと申わつぱ
しを。川にこみ捨たる事は。六十一年以前の事。それがし
はことし丁六十にて。未生以前の事なれども。親どもの