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綿かづき渡りてまかでぬ。夜明けはてぬれば御方々歸り渡り給ひぬ。おとゞの君少し大殿ごもりて日たかく起き給へり。「中將の聲は辨の少將にをさをさ劣らざめるは。怪しくいうそくどもおひ出づるころほひにこそあれ。いにしへの人は誠に賢き方やすぐれたる事も多かりけむ。なさけだつすぢはこの頃の人にえしもまさらざりけむかし。中將などをば、すくすくしきおほやけ人にしなしてむとなむ思ひ置きてし。自らのあざればみたるかたくなしさはもてはなれよと思ひしかど、猶したにはほのすきたるすぢの心をこそとゞむベかめれ。もてしづめ、すくよかなるうはべばかりは、うるさかめり」などいとうつくしとおぼしたり。ばんすらく御口ずさびにのたまひて、「人々のこなたにつどひ給へる序にいかでものゝ音試みてしがな、私のごえんあるべし」との給ひて、御琴どものうるはしき袋どもして、ひめ置かせ給へる、皆引き出でゝ押しのごひてゆるべるをとゝのへさせ給ひなどす。御かたがた心づかひいたくしつゝ心げさうを盡し給ふらむかし。


胡蝶

やよひの二十日あまりのころほひ春のおまへの有樣、常より殊につくして匂ふ。花の色鳥の聲ほかの里にはまだふりぬにやと珍しう見え聞ゆ。山のこだち、中島のわたり色まさる苔の氣色など若き人々のはつかに心もとなく思ふべかめるに、唐めいたる船造らせ給ひける、急