「第65回国会における佐藤内閣総理大臣施政方針演説」の版間の差分

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| day = 22
| notes   = この演説は、1971年(昭和46年)1月22日に行われた。2020年3月20日、国会議事録検索システムを出典として全文を掲載(旧著作権法第11条第3項に基づく、著作権の目的とならない著作物)。便宜上、出典にはないセクションを設けた。<!-- この演説は、1971年(昭和46年)1月22日に行われた施政方針演説の外交に関する部分の抜粋である。<br>残る部分は「公開して行なわれた政治上の演説」であるため著作権法第40条第1項に基づき「同一の著作者のものを編集して利用する場合を除き」利用可能であると考えられるが、CC-BY-4.0と互換性のある原典あるいはCC-BY-4.0で利用することについての著作権者の許諾が確認できなかったため割愛した。 -->
}}
 
==演説==
=== はじめに ===
<p>(前略)</p>
<p> 私は、昭和三十九年秋以来政局を担当し、国運の進展と民生の向上に全力を尽くしてまいりましたが、新しい年を迎え、その任のいよいよ重きを痛感いたしております。ここに第六十五回国会が開かれるにあたり、内外の情勢を展望し、内閣の施策の基本について所信を申し述べたいと存じます。</p>
<p> 戦後の日本経済の繁栄と発展は,世界貿易が拡大と自由化を続けたという恵まれた環境の中で達成されたのであります。その間,商品,資本,技術その他あらゆる面で国際的接触と交流が増大しております。政府はこの一両年,輸入の自由化に努めてまいりましたが,残存輸入制限品目を本年9月末には40以下に縮減して,西欧諸国に伍して遜色のない段階に達する予定であります。今後ともガット,OECDの場をはじめとして世界経済の拡大のための国際的努力に積極的に協力する所存であります。</p>
 
<p> 国際政治の面においてもこのような基本的な認識は変わることはありません。わたくしは日本が国際社会で生きる道は,国際主義に徹するほかはないと考えます。偏狭な自国中心主義を排して,国際社会の中で相互協力によつて生きようというのは,過去の歴史においてわれわれが見いだした教訓であります。戦後四分の一世紀を過ぎ,著しく国力の充実をみた今日,あらためて深く思いをいたすべきところと考えます。自由を守り,平和に徹し,国際協力を推進するというわが国外交の基本方針こそ,国際主義の真髄であります。</p>
===国内の情勢===
<p> この基本方針のもと,わが国の安全と経済の繁栄を維持し,地道に平和に生き抜いていくために,最も重要性をもつのは,米国との関係であります。日米関係の帰趨が国民生活に及ぼす影響は,他のいかなる国との関係に比べても,圧倒的に大きいことは,いまさら申すまでもありません。この事実は,内外情勢が流動する中にあつても,近い将来に変わる可能性はまつたく予見できないところであります。われわれは経済の面においても,近代的技術の面においても,世界の最高水準に到達することを大きな目標にしてまいりました。米国もまたより高度の発展を目ざして懸命の努力を重ねております。このような両国間の友好的競争関係こそが,今日,世界の平和と経済の拡大による民生の安定に大きく寄与しているのであります。</p>
<p> 一九六〇年代においてわが国は、恵まれた国際環境の中にあって、国民の勤勉と努力により、飛躍的な経済発展と完全雇用の実現など歴史的な進歩を遂げることができました。また、国力の充実を背景に、平和外交を積極的に推進した結果、国際的地位も著しく向上いたしました。しかしながら、その間、世界にもまれな高密度社会が形成されたこともあって、物価、公害など、現代社会の諸問題も数多く発生いたしました。一九七〇年代は、このような困難な諸問題を克服し、平和と繁栄と福祉の基盤を一そう強固にし、経済、社会の均衡ある成長を実現できる時代になったと信じます。私はこの際、わが国の国力の基本に立ち戻って考え、あわせて将来の展望を行ないたいと思います。</p>
<p> 最近日米間の重要な懸案となつている日米繊維交渉についても,自由経済と世界貿易の拡大という見地から,互恵互譲の精神に基づいて必ずや妥当な解決がもたらされることを確信しております。わが国と中国との関係は,歴史的にも地理的にも密接なつながりがあり,国益にも深くかかわると同時に,長期的な極東の平和と緊張緩和に関する重要な問題であるだけに,とくに慎重に取り組まなければなりません。</p>
<p> 昨年十月に実施された国勢調査によりますと、わが国の総人口は沖繩を含め一億四百六十五万人で、ちょうど半世紀前、大正九年の調査に比べてほぼ二倍になったのであります。この人口動態から幾つかの特徴をつかむことによって、われわれは国家と民族の将来を予測し、これに対する適切な対応措置を講じていかなければならないと思うのであります。</p>
<p> 中国問題の最も困難な点は,台北の中華民国政府と,北京の中華人民共和国政府が互いに全中国の正統政府たることを主張していることにあります。</p>
<p> わが国の人口構成は、十五歳から六十四歳までのいわゆる生産年齢人口が全体の約七〇%を占め、過去のどの時代よりもその比率が高く、この点から見れば、一九七〇年代のわが国は、現在その長い歴史の中でも、最も力の充実した時期、いわば壮年期にあるということができるのであります。したがって、現代に生きるわれわれは、この旺盛な国民的エネルギーをさらに効果的に燃やし続けて一そうの進歩を遂げ、国家百年の磐石の基礎を確立しなければならないと信じます。これこそ、この時代に生をうけた者の民族の将来に対する使命であり、責任であると考えるのであります。</p>
<p> わが国は1952年,中華民国政府との間に日華平和条約を締結し,爾来親善友好関係を厚くしております。</p>
<p> 一方わが国の経済は、内外の好環境に恵まれて、今日まで高度の成長を続けてまいりました。国民総生産の規模は、四十六年度八十四兆円台の大きさに達する見込みで、昭和五十年には百四十兆円前後、十年後にはさらに一回り大きくなる可能性がきわめて強いのであります。これを国民一人当たりの所得水準で見ますと、昭和三十五年には約四百ドル程度であったものが、昭和四十五年には千五百ドル以上になり、昭和五十年には二千七百ドル前後に達する見通しであります。
<p> 他方,わが国としては中国大陸との交流を積極的に行ない,その関係を改善したいと念願しております。日中友好関係を安定したものとするための基本は,なんといつても日中両民族の相互理解であります。政府としては長期的な見地から,わが国と中国大陸との間の不自然な状態を解消するために,中華人民共和国政府との間に,政府間の各種接触を行なう用意があり,また,民間貿易の拡大や記者交換の円滑化など交流の増大を強く望んでおります。同時に中華人民共和国政府の側からも,これに呼応する努力が行なわれることを期待している次第であります。</p>
<p> このような人口と所得という二つの大きな要因を中心に考えてみれば、われわれはこの大きなエネルギーを前提として、これからの五年、十年の間に、国土利用の効率化をはかり、人間と自然、人間と環境との新しい調和をつくっていくことが可能であります。この過程で環境保全対策をはじめ重要な諸問題に取り組み、真に豊かな国民生活の実現をはかることが期待できるのであります。</p>
<p> 政府は,他方領土の返還問題について機会あるごとに訴え続けておりますが,今後とも日本国民の正当な主張を展開し,一日も早くその実現を図る決意であります。日ソ関係は近年ますます緊密の度合いを深め,貿易経済のみならず,国際政治の分野においても相提携し,国際間の緊張緩和と平和確保に協力し合つております。両国間の友好関係をより深めるためにも,話し合いによつて北方領土問題を解決し,日ソ平和条約を締結しなければならないと信ずるものであります。国民各位の力強い支持のもとに,忍耐強く折衝を続けてまいります。</p>
=== 国内政策 ===
<p> 開発途上国に対する協力についても,国際主義の立場から,相手国の立場と希望に応じ,その自立と真の発展に役だつよう,積極的に援助を進めてまいりたいと存じます。</p>
<p> 政府は一九五〇年代、六〇年代を通じて、東海道新幹線、名神高速道路、東名高速道路をはじめ、大都市周辺の高速道路網、地下鉄網の建設、バイパス道の整備、全国的な電話の自動即時化など、日本列島の主軸となり、発展の根幹となるべき交通・通信体系の整備を重点的かつ計画的に進めてまいりました。これらはすでに国民生活の中にとけ込み、経済活動に不可欠のものとなり、社会資本整備の影響の大きさがあらためて認識されているのであります。</p>
<p> さて本年はいよいよ,国民待望の沖繩返還協定の調印を行なう年であります。日米間の作業は順調に進んでおります。すでに国政参加は実現いたしましたが,明年のできるだけ早い機会に施政権の返還を実現し,沖繩同胞をあたたかく迎え入れることができるよう,政府は格段の努力を傾ける決意であります。(後略)</p>
<p> この影響はすでに今回の国勢調査にも分散集中の傾向として如実にあらわれております。過密の問題はなお深刻ではありますが、東京や大阪のような大都市に対する人口の流入がほぼ停滞し、その周辺でかなり広い範囲で人口が増加しております。また、地方の拠点都市及びその周辺でも非常な人口の伸びが見られ、過疎地域の人口の減り方が少なくなってきていることが注目されます。このことは日本国民にとって、生活を営む上で選択の幅が広がり、地域間の移動が比較的円滑に行なえるようになると同時に、適度に豊かな集中を実現できる時期が到来したことを示すものであります。</p>
<p> 国土総合開発の指針となる新全国総合開発計画は、全国土あまねく情報化の恩恵に浴し、健康な生活が営めるような生活環境にしようとするものであります。現在政府はこの構想に基づいて、各種社会資本の整備を最重点施策の一つとして年々巨額の財政資金を投入し、長期計画のもとに大規模プロジェクトの重点的整備を行なっております。</p>
<p> まず、幹線道路につきましては、昭和六十年を目途として、七千六百キロの国土開発幹線自動車道を完成させる方針であります。このうち東北縦貫、中央、北陸、中国縦貫、九州縦貫の五道をはじめとした約千三百キロを今後四年間で完成させるとともに、他の路線についてもおおむね着工する予定であります。</p>
<p> 新幹線鉄道につきましては、山陽新幹線が四十七年春には岡山まで開通し、五十年には福岡まで全通いたします。東北、上越、成田の三線については四十六年度に着工いたします。さらに北海道、本州の日本海側、四国、九州の南端に至る新幹線鉄道網についても、目下検討を進めております。その中には、青函トンネル、本州四国連絡架橋など世界的大工事も含まれており、これらが完成すれば中核都市間の時間距離は著しく短縮されることになります。また東京、大阪、名古屋など大都市交通の中核となる地下鉄網の建設については、現在の二百三十キロを逐次延長し、都市生活の向上をはかる方針であります。</p>
<p> 建設中の新東京国際空港は、四十六年度中に供用を開始するとともに、関西新国際空港についても、すみやかに着工するよう目下調査を進めております。その他の空港及び港湾、通信網などについても、大規模な基盤整備を計画的に実施しつつあり、一般道路や地方公共団体による社会資本の整備と相まって、一九七〇年代は全国的なネットワークの形成を進め、わが国の国土総合開発が急速に進展することを期待しております。</p>
<p> また、国民福祉の向上と豊かな生活環境の確保のための必須の前提である住宅、生活環境施設及び交通安全施設の整備につきましては、九百五十万戸の住宅を建設する第二次住宅建設五カ年計画、総額二兆六千億円の第三次下水道整備五カ年計画及び交通安全五カ年計画など、思い切った長期計画を四十六年度から発足させることといたしました。</p>
<p> 現在、全国の市街地は全国土のわずか一%程度にすぎませんが、交通体系や生活環境施設の整備など社会開発を一そう推進することによって、次の十年間には市街地面積を倍にも広げることができるばかりでなく、工業立地や農山漁村の条件も大幅に改善することができます。これによって適度の集中、公園緑地の確保、選択の幅の広い生活、自然との調和、さらには余暇の活用など、幾つかの目標を同時に実現することができると思うのであります。このような国土の総合開発こそ工業化のもたらす諸問題に対応する基本的な方策であると信じます。</p>
<p> 以上私は、経済発展の予測を踏まえつつ、日本列島の再編成を重点にした一九七〇年代におけるわが国の未来像について述べてまいりました。このような未来像のもとで、政府はきびしい現代社会の諸問題について、人間と自然、人間と環境の調和をはかりつつ、国民福祉の達成に全力を傾ける所存であります。</p>
<p> まず、教育の刷新と学術文化、科学技術の振興は、最も基本的な重要課題であります。物質的な豊かさを越え、精神的な豊かさが求められる新しい時代の転換期において、幼児教育から高等教育にわたる教育の内容や制度の根本的改革に着手すべきであると信じます。国民すべてがその能力を最大限に発揮できるよう多様性と弾力性を持ち、かつ、将来への発展性を持った教育制度の実現をはからなければなりません。また、すべての国民に生涯にわたって人間形成の機会を提供するため、学校教育と並んで家庭教育、社会教育の充実をはかることも肝要であります。政府は、近く行なわれる予定の中央教育審議会の答申をもとに、総合的、長期的な計画を樹立し、国民の期待にこたえ得る教育改革の推進をはかる方針であります。</p>
<p> わが国経済の現状は、長期にわたる景気上昇のあとを受けて、昨年秋ごろから景気の鎮静化が明瞭になってまいりました。政府としては景気の過熱を防ぐとともに、過度の落ち込みを避けるため、機動的かつ弾力的に財政金融政策の運用をはかり、着実な成長を達成してまいりたいと考えます。同時にこれを契機として、わが国経済を新経済社会発展計画の目ざす持続的安定成長ラインに定着させつつ、その質的充実につとめる所存であります。</p>
<p> 物価問題について政府は、四十六年度の消費者物価上昇率を五・五%と見込み、この線で押えるため総合的な施策を強力に推進いたします。特に消費者物価の場合、消費需要が大きいにもかかわらず生産の弾力性が少ない分野においては、物価の高騰を招きがちであります。ことに季節商品においてこの傾向が強くあらわれます。このため、特に生鮮食料品の安定供給を確保し、総合農政の推進、中小企業の構造改善などをはかって、流通の合理化を積極的に進めてまいります。また、主要な公共料金を据え置くとともに、輸入政策を活用し、競争条件を整備するなど、きめのこまかい消費者行政を行なって、一段と国民生活の安定、向上に努力いたします。同時に、将来にわたる物価安定のために、経済全体としての生産性の上昇と賃金、利潤などの上昇が均衡のとれた形であることが望ましいことは申すまでもありません。企業レベルでの価格、賃金の決定に際し、消費者の立場についても十分配慮が加えられることを期待したいと思います。</p>
<p> 総合農政の推進にあたっては、生産性の高い近代的な農業を育成するとともに、需要の動向と地域の特性に応じた農業生産を進めていくことが肝要であると考えます。政府は、農産物の需給関係を改善するため、農家、農業団体及び地方公共団体の協力のもとに、今後五カ年間に、転作を基本とした米の生産調整を進める方針であります。また、米の管理については、生産調整の効果があがるよう食糧管理の制度、運営の改善をはかり、政府手持ち過剰米の計画的な処理に着手することとしております。さらに、生産者米価の水準は、これを据え置く方針であります。また、消費者米価については、消費者の選択に応じた米の価格形成ができるよう物価統制令の適用を廃止することとしておりますが、流通体制を合理化し、価格の安定をはかる所存であります。</p>
<p> 社会の健全な発展と国民の福祉を確保するためには、社会保障体制の整備をはからなければならないことは申すまでもありません。このため、新たに児童の資質向上をはかることを目的として児童手当制度を創設することといたしました。また、恵まれない立場にある老人、母子家庭、心身障害者に対し福祉年金等の増額、社会福祉施設の整備などあたたかい援助の手を差し伸べ、あわせて老齢者に対する医療給付の改善と財政の長期安定をはかる医療保険制度の改革を実施することといたしました。</p>
<p> 公害問題につきましては、昨年末の臨時国会で、公害対策基本法の改正をはじめ関係法令の整備を行ないましたが、今回環境庁を新設し、今後の最重点課題として取り組むことといたしました。これによって公害行政の一元化をはかり、豊かな生活環境の確保に全力を傾け、国土の保全をはかってまいります。また、公害を克服するための新しい技術の開発を行なって国際社会の進歩にも貢献したいと念願しております。</p>
<p> 行政改革について、政府は年来特に力を注いでまいりましたが、今後とも組織の簡素化、能率化をはかり、真に国民のための行政の実現を期してまいります。</p>
 
=== 国外の情勢 ===
<p> 戦後の日本経済の繁栄と発展は世界貿易が拡大と自由化を続けたという恵まれた環境の中で達成されたのであります。その間商品資本技術その他あらゆる面で国際的接触と交流が増大しております。政府はこの一両年輸入の自由化に努めてまいりましたが残存輸入制限品目を本年9月末には40以下に縮減して西欧諸国に伍して遜色のない段階に達する予定であります。今後ともガット,OECD、OECDの場をはじめとして世界経済の拡大のための国際的努力に積極的に協力する所存であります。</p>
<p> 国際政治の面においてもこのような基本的な認識は変わることはありません。わたくしは日本が国際社会で生きる道は国際主義に徹するほかはないと考えます。偏狭な自国中心主義を排して国際社会の中で相互協力によつて生きようというのは過去の歴史においてわれわれが見いだした教訓であります。戦後四分の一世紀を過ぎ著しく国力の充実をみた今日あらためて深く思いをいたすべきところと考えます。自由を守り平和に徹し国際協力を推進するというわが国外交の基本方針こそ国際主義の真髄であります。</p>
<p> この基本方針のもとわが国の安全と経済の繁栄を維持し,地道に平和に生き抜いていくために最も重要性をもつのは米国との関係であります。日米関係の帰趨が国民生活に及ぼす影響は他のいかなる国との関係に比べても圧倒的に大きいことはいまさら申すまでもありません。この事実は内外情勢が流動する中にあつても近い将来に変わる可能性はまつたく予見できないところであります。われわれは経済の面においても近代的技術の面においても世界の最高水準に到達することを大きな目標にしてまいりました。米国もまたより高度の発展を目ざして懸命の努力を重ねております。このような両国間の友好的競争関係こそが今日世界の平和と経済の拡大による民生の安定に大きく寄与しているのであります。</p>
 
===外交政策===
<p> 最近日米間の重要な懸案となつている日米繊維交渉についても自由経済と世界貿易の拡大という見地から互恵互譲の精神に基づいて必ずや妥当な解決がもたらされることを確信しております。わが国と中国との関係は歴史的にも地理的にも密接なつながりがあり国益にも深くかかわると同時に長期的な極東の平和と緊張緩和に関する重要な問題であるだけにとくに慎重に取り組まなければなりません。</p>
<p> 中国問題の最も困難な点は台北の中華民国政府と北京の中華人民共和国政府が互いに全中国の正統政府たることを主張していることにあります。</p>
<p> わが国は1952年中華民国政府との間に日華平和条約を締結し爾来親善友好関係を厚くしております。</p>
<p> 他方わが国としては中国大陸との交流を積極的に行ないその関係を改善したいと念願しております。日中友好関係を安定したものとするための基本はなんといつても日中両民族の相互理解であります。政府としては長期的な見地からわが国と中国大陸との間の不自然な状態を解消するために中華人民共和国政府との間に政府間の各種接触を行なう用意がありまた民間貿易の拡大や記者交換の円滑化など交流の増大を強く望んでおります。同時に中華人民共和国政府の側からもこれに呼応する努力が行なわれることを期待している次第であります。</p>
<p> 政府は他方領土の返還問題について機会あるごとに訴え続けておりますが今後とも日本国民の正当な主張を展開し一日も早くその実現を図る決意であります。日ソ関係は近年ますます緊密の度合いを深め貿易経済のみならず国際政治の分野においても相提携し国際間の緊張緩和と平和確保に協力し合つております。両国間の友好関係をより深めるためにも話し合いによつて北方領土問題を解決し日ソ平和条約を締結しなければならないと信ずるものであります。国民各位の力強い支持のもとに忍耐強く折衝を続けてまいります。</p>
<p> 開発途上国に対する協力についても国際主義の立場から相手国の立場と希望に応じその自立と真の発展に役だつよう積極的に援助を進めてまいりたいと存じます。</p>
<p> さて本年はいよいよ国民待望の沖繩返還協定の調印を行なう年であります。日米間の作業は順調に進んでおります。すでに国政参加は実現いたしましたが明年のできるだけ早い機会に施政権の返還を実現し沖繩同胞をあたたかく迎え入れることができるよう政府は格段の努力を傾ける決意であります。(後略)</p>
 
=== 結び ===
<p> わが国のような情報化社会におきましては、変化のテンポが激しいだけに、われわれは日常生活の面においても、とかくいら立ちがちであります。平和な民主主義社会をなまぬるく感じて、性急に現状を変更しようとあせったり、中には、極端な行動に走ろうとする者さえあります。しかしながら私は、平和を維持し続けるということは、非常な根気と忍耐と努力が必要だと信ずるものであります。わが国の国力から見ても、わが国が置かれている国際環境から考えても、われわれは壮年期に入った民族として、いまこそ内政、外交のあらゆる面にわたってじみちな努力を続けるべき時期であると確信いたします。またわれわれは、国民の国を守る気概のもと、国力国情にふさわしい防衛力の整備を行なうとともに、国際関係はすべて平和的話し合いによってきめるという平和国家に徹する姿勢を堅持しております。このことは人類の歴史における偉大な実験とさえ一声えるのであります。私は、平和の維持は国民の意思の力一つにかかっていると信ずるものであります。国民各位があらためてその重要さを銘記され、新しい力をふるい起こしていただくことを切に念願してやみません。</p>
<p> 以上、国民各位の心からなる御理解と御協力をお願いして、私の演説を終わります。</p>
<p> ありがとうございました。</p>
 
==出典==
* {{Cite web|title=第65回国会 衆議院 本会議 第2号 昭和46年1月22日|url=https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=106505254X00219710122&spkNum=3&single|publisher=国立国会図書館|date=1971-07|accessdate=2020-03-20}}
* {{Cite web|title=昭和46年版「わが外交の近況」 第3部 I 資料 第65回国会における佐藤内閣総理大臣施政方針演説(外交に関する部分)|url=https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/1971/s46-shiryou-1-2.htm|publisher=外務省|date=1971-07|accessdate=2019-02-16}}
 
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[[Category:内閣総理大臣施政方針演説]]
[[Category:佐藤栄作]]
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