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余一身の爲めにするに非ずして、寧ろ諸君の爲めにするのみ。乃ち諸君が神に逆ひて罪を犯すことなく、又余を死刑に處して神の恩惠を拒絕する勿らんが爲めなり。諸君若し余を殺す時は、再び余の如き者を得ることは决して容易の業に非ざるべし。今若し聊か笑ふべき比喩を以てせば、余は神より國家に與へられたる一種の虻の如きものにして、國家は宛も大なる氣高き馬の如く,其體軀の大なるより、自然に遲漫となるを以つて之れを刺擊して活潑ならしめざる可からざるなり。此くて余は神が國家に與へたる虻にして、終日何れの處に至ても、常に諸君に密着して離るゝことなく、或は刺擊し、或は奬勵し、或は譴責するなり。而して諸君は余を措いて他に余の如き者を發見するは容易ならざるが故にて、余は諸君に忠吿するに余を愛惜せんことを以つてす。余は敢て言はん、諸君若し坐睡せる時、突然之れを目覺す者あらんには必ず癇癪を起こして怒る所あるべきなり。諸君はアニュトスの勸吿するが如く、余を殺し去るは實に容易のことたるなり、而して若し余を斃し去る時は、神が他の虻を諸君に與ふるまでは、諸君は餘年安らかに寢ることを得べし。而して余は神より諸君に