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 然し、藤田は何と云つても小さい時から、男達の間に這入つて揉まれているから、そこは心得たもので、随分と際どい揶揄い方をされても、飽くまで小供らしく振舞つて平気でいるし、又󠄂特定の人に{{sic}}の厚意を示したりしない。図々しい若者達は彼女から厚意を強奪するように、取れたボタンをつけさせたり、綻びたズボンを縫わせたりする。彼女だつて今の年になつてから会社に這入つて来たのなら、まさかそうした扱いも受けないだろうが、何しろホンの子供の時から来ているのだから、彼女のそう云う時代から知つている社員達は、実に気易く彼女を扱う。然し、彼女は少しも嫌な顔をせず易々として、いいつけられた通り、いろ{{く}}女らしい世話をしてやる。
 然し、藤田は何と云つても小さい時から、男達の間に這入つて揉まれているから、そこは心得たもので、随分と際どい揶揄い方をされても、飽くまで小供らしく振舞つて平気でいるし、又󠄂特定の人に{{sic|持別|特別}}の厚意を示したりしない。図々しい若者達は彼女から厚意を強奪するように、取れたボタンをつけさせたり、綻びたズボンを縫わせたりする。彼女だつて今の年になつてから会社に這入つて来たのなら、まさかそうした扱いも受けないだろうが、何しろホンの子供の時から来ているのだから、彼女のそう云う時代から知つている社員達は、実に気易く彼女を扱う。然し、彼女は少しも嫌な顔をせず易々として、いいつけられた通り、いろ{{く}}女らしい世話をしてやる。


 だから彼女を取巻く人達に、尽く厚意を持つているとも云えれば、尽く厚意を持つていないとも云える。でまあ、自惚れた奴は自分に厚意を持つていると思つて気取つているし、神経質の奴は少くとも自分以外の特定の人間に厚意を持つていないと安心しているし、押の強い奴は直ぐ自由に出来るように思つているし、気の弱い奴は何となく近寄れないでいると云つた訳で、お互の作用反作用で、表面はまあ至極無事で、昼の一時間はみんなで彼女に揶揄いながら、愉快に送つた訳なんだ。
 だから彼女を取巻く人達に、尽く厚意を持つているとも云えれば、尽く厚意を持つていないとも云える。でまあ、自惚れた奴は自分に厚意を持つていると思つて気取つているし、神経質の奴は少くとも自分以外の特定の人間に厚意を持つていないと安心しているし、押の強い奴は直ぐ自由に出来るように思つているし、気の弱い奴は何となく近寄れないでいると云つた訳で、お互の作用反作用で、表面はまあ至極無事で、昼の一時間はみんなで彼女に揶揄いながら、愉快に送つた訳なんだ。