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をして、「どうもあかん」とけろりとしている。
 
をして、「どうもあかん」とけろりとしている。
   
 この時に彼の角力の呼名を、係の剽軽な長谷川が奇声山とつけた。始めて呼ばれた時には、みんなドッと笑つたが、本人は抗議を申込みもしなければ、笑いもしないで、平気で呼び名を受けた。それから彼は陰で奇声山々々と呼ばれるようになつたが、終いには面と向かつて云うようになつた。然し、彼の場合では、之を綽名と云うより、寧ろ代名詞と云つた方が適当で、つまり丸山君と呼ぶ代りに、奇声山と呼ぶので、彼もその横りで嫌な顔もせず返辞{{sic}}した。
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 この時に彼の角力の呼名を、係の剽軽な長谷川が奇声山とつけた。始めて呼ばれた時には、みんなドッと笑つたが、本人は抗議を申込みもしなければ、笑いもしないで、平気で呼び名を受けた。それから彼は陰で奇声山々々と呼ばれるようになつたが、終いには面と向かつて云うようになつた。然し、彼の場合では、之を綽名と云うより、寧ろ代名詞と云つた方が適当で、つまり丸山君と呼ぶ代りに、奇声山と呼ぶので、彼もその横りで嫌な顔もせず返辞した。
   
 
 之が奇声山の謂われだが、そうこうしているうちに、病気だつた矢島がすつかり恢復して、近日のうちに出勤すると云う事になつた。とすると矢島の代りに臨時に来ている奇声山は当然辞めなければならない。所が、誰の気持も同じで、奇声山に愛嬌があるとか人望があるとかは云えないが、罪がなくて、重宝で何となく滑稽な所もあり、居ても邪魔にならない、一種の人気役者で、彼が一枚加わつていると、話も何となく面白いと云うので、出来れば辞めないで、居て貰つた方が好いと云う所に自然と一致して来た。本人も多少の蓄財はあり、辞めても差当り食うには困らないらしいが、まあ、彼にして見れば割に気楽な仕事で、月々金が貰えるのだから、このまゝ居座れゝば結構だと云う風だったので、例の長谷川だとか、用度の主任だとかゞ、多少は口を利いたようだつたが、どうも小さな会社の事で、一人余分の人間を置く訳に行かず、始めから臨時と云う約束だつたのではあるし、矢張り三月一杯と云う事で、約束通り辞める事になつたのだつた。
 
 之が奇声山の謂われだが、そうこうしているうちに、病気だつた矢島がすつかり恢復して、近日のうちに出勤すると云う事になつた。とすると矢島の代りに臨時に来ている奇声山は当然辞めなければならない。所が、誰の気持も同じで、奇声山に愛嬌があるとか人望があるとかは云えないが、罪がなくて、重宝で何となく滑稽な所もあり、居ても邪魔にならない、一種の人気役者で、彼が一枚加わつていると、話も何となく面白いと云うので、出来れば辞めないで、居て貰つた方が好いと云う所に自然と一致して来た。本人も多少の蓄財はあり、辞めても差当り食うには困らないらしいが、まあ、彼にして見れば割に気楽な仕事で、月々金が貰えるのだから、このまゝ居座れゝば結構だと云う風だったので、例の長谷川だとか、用度の主任だとかゞ、多少は口を利いたようだつたが、どうも小さな会社の事で、一人余分の人間を置く訳に行かず、始めから臨時と云う約束だつたのではあるし、矢張り三月一杯と云う事で、約束通り辞める事になつたのだつた。
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