昭和九年 軍令部 機密二五一 (続編昭和十二年軍令部機密三一五)

海軍要務令(写)

昭和三十一年四月複写 防衛研修所戦史室

備考 この写本は、元海軍大臣大佐永石正孝氏が海軍在職中筆記されていたものを借用して複写したものである。

海軍要務令

綱領 一、軍隊の用は戦闘に在り故に凡百の事皆戦闘を以て基準と為すべし。 二、軍機は軍隊の生命なり、和諧は軍隊の血液なり、軍隊の行動指揮官の意図の如くなるを得るは一に厳正なる軍紀と同情ある和諧とに因る故に軍紀は不断の振粛を要し且和気を以て一貫せざるべからず。 三、兵戦は上下の意思疎通し協心戮力以て協同の目的に進むに非ざればその効果顕れず各級指揮官は常に意を此に存し、能く最高指揮官の意図を知了し、戦局の情勢に通し自己の責任を辨え以て協同目的の達成に最善の努力を致すを要す。 四、独断専行は情況の変化に応じ戦機を逸せず協同の実を挙げる所以なり然れども之を為すに当たりては戦勢の大局を鑑み上級指揮官の意図に合することに努め擅恣に陥らざるを要す。 五、勇断決行は戦勝を得るの道なり、従らに巧緻を望みて遅疑することあるべからず。 六、典則は運用を待ちて始て其の光彩を発揮す、各級指揮官は宜しく機宜に応じて之を活用すべし、固より濫に典則に背くべからず又之に拘泥して実効を誤るべからず。

目次

第一篇 戦務 一頁  第一章 令達報告及通報 一頁   第一節 令達 一頁   第二節 報告及通報 三頁   第三節 令達報告及通報の作成 一〇頁

第二篇 戦闘 一一頁  第一章 戦闘の要旨 一一頁  第二章 艦隊の戦闘 一二頁   第一節 各部隊の戦闘任務 一二頁   第二節 戦闘一般の要領  一四頁  第三章 戦隊の戦闘  二五頁   第一節 通則 二五頁   第二節 主力観戦隊の戦闘 二七頁   第三節 CSの戦闘 三一頁  第四章 Sdの戦闘 三三頁   第一節 Sdの昼戦 三三頁   第二節 Sdの夜戦 三六頁  第五章 Ssの戦闘 三九頁  第六章 航空隊の戦闘 四三頁  第七章 其の他の戦闘 四七頁

第一篇 戦務  第一章 令達報告及通報   第一節 令達

第一 令達は各級指揮官が其職権若は特別の委任に依り発するものにして、之を分ちて左の五種とす。 一、命令 二、日令 三、法令 四、訓示 五、告示 各級指揮官とは司令長官、司令官、艦船部隊及特設艦船部隊の長竝独立して行動する駆逐艦長、潜水艦長、艇長、飛行機隊長、飛行船隊長(6/7改正案)気球隊長を謂う。 第二 命令は作戦其の他重要事項を令示するに用う。 第三 命令は発令者の意志及受令者の任務を明確適切に示し、且受令者の識量に適応せざるべからず、而して命令には目的を達する為受令者の処断に委せざる必要の事項を示すを要す、情況に依り受令者の準拠となるべき綱要を添附指教するを可とすることあり。 第四 命令は情況明瞭ならざるか又は其の実行に至る迄の変遷測り難きときに於ては単に受令者の達すべき目的若は遂行すべき任務の要領を示し実施の方法を受令者に委するを可とす。 第五 命令には憶測を加へ将来を希望し又は之を命じたる理由を示し或は未然の形勢を揣摩して一々之に応ずる処置を定むるが如きことを避くるを要す。 第六 作戦命令は左の順序により記述するを通則とす。 一、敵軍及友軍の情況 二、我軍の企図 三、各部隊の任務及行動 四、其の他必要なる事項   補給、通信連絡、天候を其の他の異変に応ずる処置等。 第七 日令は直接作戦に関係なき軽易なる事項に関することを一般に令示するに用う。 第八 法令は法規に関することを一般に令示するに用う。 法令は一事項毎に区分し各別に発布するものとす。 第九 訓示は部下の士気を鼓舞し或は戒飭、督励、慰諭する等の為に用うるものにして受令者は之を服膺すべきものとす。 第一〇 告示は隊内隊外の事件若は情報等を部下に了知せしむる為に用うるものにして一般に示達するを例とす。

第二節 報告及通報 第一一 各級指揮官は任務を受けたる上級指揮官又は直属上級指揮官に対し任務遂行の経過其の他諸種の事件及情況等に就き報告し又任務上関係ある友隊に事情を報告する責任を有す。 第一二 報告は上級指揮官の判断を適切ならしめ通報、相互の協同動作を円滑ならしむる為至大の価値を有す、故に報告、通報は適切確実にして且迅速なるを要す。 不確実なる報告及通報は誤算の因を為すことあり又其の時機遅れたるものは受報者を利すること尠くして却て通信阻礙するに過ぎざることあり。 第一三 報告の根拠は著しく其の価値を左右す、故に報告には自己の目撃せしこと、他より聞知せしこと、若は自己の推測に係ること等を判然区別し推測に係るものは要すれば其の理由を附するものとす。 第一四 任務に関する報告は一般に任務終了後直に之を行うを例とするも情況により任務遂行中と雖之を行うべきものとす。 遭遇せる事件又は不時の事変に関する報告は其の発生後直に之を行うものとす。 第十五 報告は其の内容により戦斗報告、敵情報告、行動報告等と称す。 報告は又其の精粗及時機に従い概報、詳報及時報と称す。 概報は必要に応じ概要を報告するものにして迅速を旨とす。 詳報は概報を行いたる後更に其の詳細を報告するものにして精確を旨とす。 時報は或期間の経過を報告するものにして其の期間に従い之を日報、週報、月報等と称し又定期に非ざるものは其の回次に従い第何回某報告と称す。 第十六 通報は概ね報告の要領に準ずるものとす。 一、敵情報告 第一七 敵情報告は左記の四要件を具備し特に簡明なるを要す。 一、兵力 二、場所 三、時刻 四、動静 情況に依り以上の四要件を具備せんが為時機を失する虞あるときは先ず其の概要を報告し逐次之を補足するを要す。 戦場広潤なる時は場所により天候視界等を異にすることあるを以て敵情報告には時機を得次第天象、海上の模様を追補するを要す。 第一八 敵情報告に於て自己の艦位確ならざる場合には其の旨明示するを要す。特に敵と触接を保持する部隊等に於て然りとす。 第一九 捜索、偵察等に於ける敵情報告は特に迅速を旨とし初めて敵を発見したるとき及敵情変化の際等は機を逸せず之を報告するを要す。 第二〇 急を要する敵情報告は其の上級指揮官に報告すると同時に最高指揮官にも報告するものとす。 二、戦斗概報、戦斗詳報 第二一 戦斗概報は上級指揮官が戦斗直後の処置竝爾後の作戦に対する方策を決定するに極めて必要なるを以て戦斗中止若は終了後特に迅速に艦隊最高指揮官に在りては大本営(大本営置かれざる時は軍令部長、以下做之)に、其の他にありては其の上級指揮官に提出するものとす。 第二二 戦斗概報に挙ぐべき事項概ね左の如し。 一、経過の概要 二、敵の損害 三、我損害竝現状  (イ)主なる兵器艦船の損害及死傷  (ロ)現存艦船兵器の現状     艦船竝航空機数、兵器燃料の残額、出し得べき最大速力等 四、情況判断若は決心 第二三 上級指揮官直率の下に戦斗従事せる各級指揮官の戦斗概報は各其の職責の範囲に従い適宜取捨するを要す。 而して敵の損害等は実際目撃せる事項のみを述ぶるを以て足れりとす。 第二四 戦斗詳報は上級指揮官が作戦の指導上必要なる詳細の資料を収集し得るを以て目的とし戦斗概報提出後なるべく速に艦隊最高指揮官にありては大本営に、其の他にありては其の上級指揮官に提出するものとす。 第二五 戦斗詳報に記載すべき事項概ね左の如し。 一、形勢  発動前に於ける敵情、彼我の兵力、配備、対勢、戦場及天候等。 二、計画  我目的及企図竝之に伴う諸令達等。 三、経過  戦斗の経過を部隊、方面に分ち時刻順に列記し彼我の運動対勢等は行動図、合戦図を以て示す。  戦斗中発受せる主要なる令達報告及通報は本項中に記載するものとす。 四、成果  敵の損害状況、事後に於ける形勢の変化等。 五、我兵力の現状  戦斗後に於ける艦船兵器機関の状況。 六、功績 特に顕著なる部下の功績。 七、所見  計画竝実施の適否、敵に関する新発見、戦斗後に於ける敵情の判断及我企図 、意見等。 戦斗詳報には左記図表竝電信信号発受信誌を添附するものとす。 一、行動図及合戦図 二、死傷者調査表 三、船体兵器機関の故障、欠損調査表 四、兵器消耗調査表 五、燃料消費調査表 六、鹵獲品調査表 七、捕虜調査表 第二六 上級指揮官直率の下に戦斗に従事せる各級指揮官の戦斗詳報は各其の職責の範囲に従い適宜取捨するものとす。

第三節 令達報告及通報の作成 第二七 令達報告は受領者をして容易且明瞭に了解せしむるを主眼として作成するを要す。之が為字句は簡明適切にして奇異婉曲の章句或は不必要の形容詞、副詞等の使用は努めて之を避け兵語は兵語界説に依るものとす。而して作成の後必ず之を復読し受領者が如何に解釈すべきかを考察するを要す。

第二篇 戦闘  第一章 戦闘の要旨 第一 戦斗の本旨は攻勢を執り速に敵を撃滅するに在り、故に情況已むを得ずして一時守勢を執ることあるも苟も時機を得ば決然攻勢に転ずべきものとす。 第二 戦斗の要訳は先制と集中とに在り、先制の利を占むるには克く戦務を観察し機を失せず敵の弱点に乗じ迅速果敢なる攻撃を行うを要す集中の実を挙げるには常に諸部隊の協同連繋を確実にし我全力を以て敵の分力を撃つの時機を捕捉するを要す。 第三 決戦は戦斗の本領なり故に戦斗は常に決戦に依るべし、会敵に当り直に決戦に移るを不利とする場合に於ても、尚克く主動的に行動し敵をして我に随動せしめ以て有利なる決戦時機を作為するを要す。 決戦は犠牲を厭はず敵に接近して果敢なる攻撃を行うを以て要訣とす。 第四 天象地象は戦斗力の発揮に影響を及ぼすこと大なり故に各級指揮官は常に之が利用を忽にすべからず。

第二章 艦隊の戦斗  第一節 各部隊の戦斗任務 第五 艦隊戦斗の要旨は主隊を基準として各部隊之に協同し各其の固有の戦斗力を発揮するに在り、而して戦斗の勝敗は主として此の協同動作の適否に依りて決す。 第六 戦艦戦隊は艦隊戦斗の主兵にして敵主隊の攻撃に任ず。 第七 巡洋艦戦隊は戦艦戦隊と協同して敵主隊を攻撃し又巡洋艦戦隊及Sdの掩護推進に任ず 第八 先頭隊たる各部隊の主なる任務左の如し。  CS 一、Sdの進路を開き其の襲撃を掩護し機宜敵主隊を攻撃す。

        二、敵CS Sd等を撃攘し主隊の先頭を掩護す。

 Sd 一、敵主隊を襲撃す。

        二、敵Sd s等の来襲を阻止撃攘し主隊の先頭を掩護す。

第九 先頭隊の勇敢にして好機に投ずる攻撃は精神的に敵を威圧し其の有形的効果と相俟て主隊の戦斗に至大の効果を齎すものとす。 第一〇 殿隊たる各部隊の主なる任務  CS 一、敵の反転を脅威し機宜之を攻撃す。

        二、敵CS Sd等を撃攘し主隊を掩護す。

 Sd 一、敵の反転を脅威し適宜之を襲撃す。

        二、敵Sd S等を撃攘し主隊を掩護す。

第一一 Ssは他部隊と協同し又は単独敵主隊の襲撃に任ず。 Ssは其の特殊の能力に依り敵を畏怖せしめ其の行動を制肘し奇襲の効果と相俟て主隊の戦斗に至大の効果を齎すものとす。 第一二 航空隊の主なる任務左の如し。  一、敵情を偵察す。  二、敵主力及航母を攻撃す。  三、敵航空隊を撃攘す。  四、敵sを捜索攻撃す。  五、主隊の前路を警戒し又魚雷機雷等を監視す。  六、敵の運動を監視し射撃の効果発揚に協力す。  七、右の外支隊の攻撃に協力す。 航空隊の敏速果敢なる協同動作は戦斗の全局に甚大の効果を齎すものとす。 第一三 戦勢の変化急激なる場合又は展望不良にして対勢の観察困難なる場合等には各部隊は必ずしも固有の戦斗任務に拘泥することなく、戦斗一般の目的に鑑み情況に応じて各其の指揮官の最良と信ずる所を断行すべし。通常斯くの如き情況に於ては最近にして最効果ある目標を選び果敢なる攻撃を行うを要訣とす。

第二節 戦斗一般の要領

第一四 艦隊の戦斗は偵察部隊又は警戒部隊の接敵を以て其の端緒を開く場合多し、此の局に当る指揮官は速に敵情を偵察し、其の一般を報告して最高指揮官に爾後の決心処置を為すに必要なる資料と時間とを与え、適時兵力の分散集結を行い、手段を尽して敵の兵力配備、航進方向及速力等に関し詳細なる偵察をなし、同時に我軍の企図及行動を敵に隠蔽する為敵偵察部隊の前進を阻止するを努むべし、接敵期に於ける航空機の適当なる使用は偵察に至大の効果あるものとす。 第一五 最高指揮官は諸般の情況と自己の観察とに基き直に攻撃すべきか、先ず適当の位置を占むるを努むべきか、又は如何にして攻撃すべきか等戦斗の指導に関する決心を定む。 第一六 最高指揮官は自己の決心に基き適時所要の命令を下すと共に主隊の行動を指示して各部隊に占位の基準を与え要すれば先頭隊又は殿隊たる快速部隊をして敵の展開を脅威し我展開を掩護せしむる為機宜其の行動を指示す。 Ssの配備は最高指揮官之を命ずるを原則とするも一部又は全部を前進部隊指揮官に附属し之を指揮せしむるを利とすることあり、而して其の何れの場合を問わずSsの配備は速に之を各隊に通達するを要す。 第一七 会敵に際し先ず敵を我に随動せしめ決戦時機を作為せんとするに当りては特に我企図の隠蔽と旺盛なる士気の保持に留意し、各部隊の確実なる連繋により敵を個々に撃破するを努むるを要す。 最高指揮官は戦機を洞察し機を逸せず全軍をして決戦に転ぜしむ。 第一八 最高指揮官は我企図、敵情、対勢、地形及天象等を考慮し適時展開を行う。 敵の企図を打破し先制の利を占むるを得るは展開の時機竝其の実施の適否に依る所多し。 第一九 展開の前後に於けるBCSの機動の適否は爾後の戦斗に至大の関係を有す、故にBCSは主隊の戦斗に参加するの機を失せざる限り敵補助部隊を攻撃し我CS Sdの進出を掩護する等克く其の特性を発揮するに努むるを要す。 第二〇 各部隊は展開するに従い最高指揮官の意図に基き固有の戦斗任務に応じ攻撃を開始す、BSは敵主隊に対抗し漸次近接して攻撃力を発揮するに努めBCS之に協力し先頭隊は先ず前方に進出して攻撃に有利なる対勢を占めつつ機を見て敵主力の先頭に対し襲撃を決行し殿隊は直接敵の反転を脅威し得る位置に就き、敵の後尾を攻撃す、而して爾後の戦斗は各部隊の奮斗と協同動作とにより進展す。 第二一 主攻撃点を敵主力の先頭に選ぶは攻撃の効果を大ならしむる所以なり。而して敵主力の先頭に対する集中攻撃は主として主力艦戦隊の砲火と先頭隊の魚雷攻撃に俟つべきものとす。 第二二 彼我の対勢一度空より砲戦将に酷ならんとするに至らば先頭隊は速に突撃に移り航空隊は空中攻撃を敢行し殿隊は敵の後尾を衝き全軍一斉に主隊の戦斗に策応すべし。 第二三 補助部隊の任務は主隊の攻撃を助成するに在り故に自ら甘んじて犠牲となるの覚悟あるを要す。而して其の攻撃の効果は固より時機の適否と戦斗力発揮の如何に存すと雖徒に理想の機会を捉えんが為目前の機会を逸せざると共に過早に失して敵に各個撃破の機会を与うることなきを要す。 第二四 Sdの襲撃は須り猛然果敢なるべし。 Sdの犠牲を厭わざる猛撃は啻に雷撃に依り敵主力を殪し敵隊列を混乱せしめ其の砲火を牽制するの効果あるに止まらず、敵の全軍に精神的混乱を惹起せしめ依て以て戦勝の端緒を開き得るものとす。 第二五 CSはSdの襲撃を有効ならしむる為邁進して之が掩護推進に任ずると共に好機を捉えて敵主力に対し魚雷攻撃を決行せざるべからず。敵CS及Sdの抵抗を排除し我Sdの進路を開くは主としてCSの努力に依る。 第二六 主隊は我Sdの突撃に移らんとするを見ば一層火力を熾にして敵に近づき全軍之に策応して攻撃を敢行すべし、此の際主隊の毅然たる態度と果敢なる奮斗とは協同動作の核心となりて全軍を激励し圧倒的威力を発揮し得るものとす。 第二七 戦斗中敵奇襲部隊の襲撃に対し防禦の完からんことを期する□[と]きは勢い受動的となり、自ら攻撃力の発揮を抑制するの結果に終ることあり。 須く我より発して攻撃に継ぐに攻撃を以てし敵をして応接に遑なからしむべし攻撃を以て最良の防禦と為す所以茲に在り。 第二八 潜水艦又は機雷を以て敵の前路を包囲するを得ば勝利の端緒を得ること容易なり、然れども之と共に猛列なる攻撃を行うに非ざれば敵に回避の余祐を与うる虞あり。 第二九 追撃は戦勝の効果を完うする所以なり、故に敵退却を開始せば機を逸せず猛烈果敢なる攻撃を行い敵をして其の沮喪せる士気と混乱せる隊形とを恢復するに遑なからしめ速に之を殲滅するを要す。 追撃時に於て徒に味方の損害疲労を過大視して追撃を躊躇し、又は一部の成功に甘んじて之を中止するが如きは大なる過失なり。 第三〇 追撃戦の要旨は敵の退却を阻礙し之に戦斗を強うるに在り、故に高速BS BCS CS及Sdは各其の高速力と特性とを発揮して敵を拘束し、航空隊は全力を挙げて敵主力の先頭を攻撃し、其の運動を阻礙すると共に敵情の通報に任じ、BS亦極力近接に努め、Ssは主として敵落伍艦の処分等戦場の清掃に任じ以て友隊水上艦艇の追撃行動を遅滞せしめざる□[筆記体x様文字]努むるを要す。 整然として退却する敵を追撃する場合に於ては敵の詭計に対し顧慮する必要ありと雖一般に迅速果敢なる行動は之を排除する唯一の手段なりとす。 敵潰走するに至らば各部隊は益々追撃を急に敵を殲滅するを要す。此の場合各部隊は深く相互の連繋を顧慮する要なきものとす。 第三一 退却戦の要旨は結合を鞏固にし常に逆撃に転じ得る姿勢を保ちつつ敵より離脱するに在り。 退却戦に在りては、砲戦、魚雷戦又は機雷戦に有利なる戦勢を生ずること多し、此の機会に於て敵の先頭に痛撃を加え全軍一斉に逆撃に転ずるときは敵の機鋒を挫き戦勢を一変し得べし。 第三二 逆撃の意志なき退却は敗退に終るを常とす、故に情況既に退却の目的を達し難きに至らば之を断念して猛然逆撃に転ずるを要す。 第三三 退却戦に於ける後衛部隊は極力敵の追撃を阻止し主隊の離脱を容易ならしむるに努むべし、此の際巧に煙幕等を利用するときは友軍の行動を隠蔽し得ると共に警戒部隊に逆撃の機会を与うること多し。又潜水艦の適当なる協同は克く敵を脅威し其の追撃を断念せしむるに与て力あるものとす。 第三四 夜間は大部隊の協同動作及統一指揮困難なり、故に特別の事情なき限り大部隊を以てする夜戦は之を避くるを可とす、然れども機動性に富む軽快部隊は却て視界の狭小なるを利用し夜戦を決行するに適するを以て優勢なる敵に対しては先ず夜戦に依り其の勢力の減殺を図るを利とす。 第三五 昼間に於て戦局を結ぶ能わざるときは警戒部隊をして夜戦を決行せしめ主隊は敵より離隔して翌朝を期し、更に戦斗開始するを可とす。 第三六 最高指揮官は夜戦に先ち予め夜戦配備を定め且翌朝戦の為適当なる集合点を令する等所要の手段を講ず。 第三七 夜戦の要は周到なる計画の下に敵に肉薄して之を奇襲するにあり。 第三八 夜戦はCS及Sdの適当なる協同に依り効果を奏す、而してSdは夜戦の主兵にして専ら襲撃に任ずるものとす、故にCSの協同はSdの襲撃を容易にし其の効果を大ならしむるを主眼として行うを要す。 Sdは従令他の部隊の協力を欠くことあるも自ら襲撃を準備し、且之を敢行せざるべからず。 第三九 夜戦の効果をして大ならしめるには日没時に於ける触接を完全ならしむるを要す、之が為BCSは敵の阻止部隊を撃攘してCS及Sdを推進し其の触接を容易ならしむるを要す。 第四〇 夜戦に於てはCSは百万手段を尽して敵主力と触接を維持し其の所在竝行動を友隊に通報し、要すれば照射砲撃等に依り敵を牽制し以てSdの襲撃を容易ならしむるに努め好機に乗じ魚雷攻撃を決行するを要す。 夜間に於ける刻々の敵情を最高指揮官に報告し翌朝戦に資するは主としてCSの任なりとす。 第四一 夜戦部隊は屢、黎明時に於て予期せざる敵を発見して奇功を奏し得ることあり、然れども視界漸次拡大するに至らば却て敵の包囲を受けて孤立に陥り又は優勢なる敵の為駆逐せられて其の触接を失う虞あるが故に此の時機に於ては夜戦部隊は速に集合を了して敵に触接し以てその反撃に備うるを要す。 第四二 薄暮及黎明時に於ける航空隊の適当なる行動は速に敵情を明にし且友隊の触接を容易にし、爾後の戦闘を有利ならしむるのみならず好機に投ずる其の勇敢なる襲撃は屢々奇功を奏し得るものとす。 第四三 艦隊敵襲を予期する場合には警戒部隊を配備し、変針回避に便なる隊形を選ぶ等警戒を厳にするを要す。而して敵の追躡を受くるときは夜暗に入るに先ち後衛をして極力之を撃攘せしめ、主隊は高速力を用い適宜変針し其の踪跡を晦ますに努むべし。 情況により艦隊を数隊に分ちて分離行動せしめ又一部隊を分派して敵を他方面に誘致せしむるを可とすることあり。 第四四 戦斗中煙幕の使用は最高指揮官之を令するを例とす。 各部隊指揮官戦勢に応じて独断之を使用する場合には累を友隊に及ぼさざるに留意するを要す。 第四五 戦斗中機雷の使用は最高指揮官之を令するを例とす。 各部隊指揮官独断之を敷設する場合には累を友隊に及ぼさざるに留意するを要す。而して其の何れの場合に於ても之を敷設したる指揮官は其の位置及時刻を速に各隊に通報するを要す。

第三章 戦隊の戦斗 第一節 通則

第四六 戦隊の戦斗隊形は指揮官先頭の単縦陣を基本とす。 第四七 戦隊の戦斗は其の攻撃力を極度に発揮して速に敵を撃滅するを以て要旨とす。 之が為敵の単隊に対しては我列線をして彼我両隊の中央を連ぬる線に成るべく直角ならしめ敵をして同一の対勢を得せしめざるを要し、又敵の複隊に対しては其の挟撃若は叉撃を被らざる如く行動しつつ、先ず其の一隊に対し前記の対勢を執るを要す。 第四八 戦隊友隊と協同して敵と戦うときは各隊互に連繋して敵の一部に攻撃力を集中し逐次に之を撃滅するものとす。 此の場合何れの戦隊を基準とすべきかは各戦隊の任務及情況に依り決すべきも通常有力なる戦隊又は現に有利の戦勢を占めたる戦隊を基準とするを例とす。 第四九 戦斗中戦隊は戦況に応じ機宜速力を増減して常に有利の対勢を占むるに努むると共に絶えず他隊との連繋に注意し孤立に陥らざるを要す。 第五〇 戦隊指揮官の乗艦列より離れ指揮を執り難きに至らば次席指揮官直に隊の指揮を継承するものとす。 第五一 前続艦列外に出でたる為若は陣形変換に依り新に戦隊の先頭となりたる指揮官は戦勢の変化に応じ令を俟たずして隊を有利の方向に嚮導すべきものとす。 第五二 戦斗中定位を保持し得ずして列外に出でたる艦は速に故障を復旧して隊尾に続行するに努むべし、然れども情況之を許さざるときは附近の友隊を合する等適宜の行動を執り自ら孤立に陥るを避くると共に累を友隊に及ぼさざるを要す。 第五三 戦斗中損傷を被り列外に出ずる艦あるも他艦は之を援助する為濫に隊列を離るべからず。 第五四 単縦陣の反転を行うに当り方向転換、列向転換又は一斉回頭の何れに依るべきかは一に情況に依り決すべきも縦長短く速力大なる隊は方向変換を用うるを可とすること多し。

第二節 主力艦戦隊の戦斗 第五五 主力艦戦隊は互に連繋して敵主力に当り機先を制して優大なる攻撃力を発揮し且好機に乗じて決然近迫其の最大威力を発揚して敵を圧倒するを要す。 第五六 近距離に於ける有利なる対勢は縦令短時間なるも我攻撃力を極度に発揮し得るを以て此の対勢を占めんが為には遠距離に於ける多少の不利を忍ぶを要することあり。 第五七 戦斗中は常に有利なる対勢を占むるに努めざるべからずと雖之が為屢変針を行うときは我砲火の効力を害する虞あり、故に戦隊指揮官は絶えず彼我の対勢及砲火の効力に注意して転舵時機を決するを要す。 第五八 戦斗中敵の斜前に占位する対勢は敵の先頭を圧するの利あるのみならず魚雷発射機会を得ること多し。 第五九 竝航戦に於て優速の敵をして我先頭を圧せしめざらんが為には時々非戦側に小角度の方向転換を行い常に敵の先頭を我先頭の正横後に保つ如くするを要し、又劣速の敵に近接して之を圧せんとするには小角度の一斉回頭に依るを可とす。 第六〇 竝航戦に於ける戦斗距離の伸縮は砲力を損せざる範囲に於て小角度の一斉回頭に依るを可とす。 第六一 主力艦戦隊の主砲射撃開始時機は艦隊最高指揮官之を命ずるを例とし、其の射撃の管制は最高指揮官の意図に基き戦隊指揮官之を行う。 副砲以下の射撃は艦長の所信に委するを例とす。 主砲射撃の目標は戦法、対勢其の他の情況に依り適当に配分するを要するも、緒戦期若は特に有利なる対勢を占めたるときは敵の先頭に集中するを可とし、彼我略均等の対勢に在りては其の一部を敵の先頭に集中する外他は適当に分散するを可とす。 第六二 主力艦戦隊の魚雷発射は戦隊指揮官之を管制するを原則とす。 第六三 戦隊の各艦魚雷を発射せんとするに当り射線の関係之を許さざる場合には隊列を乱さざる限り単独に小角度の回頭を行うを可とす。 第六四 交戦中敵dg来襲の気勢を認むるときは速に一部の砲火を以て之が撃攘に努め又要すれば機宜小角度の回頭を以て其の襲撃を未然に防止するを可とす。 第六五 [空白]

第六六 魚雷の航跡又は潜水艦の襲撃を避くるには一般に一斉回頭に依るを可とするも、既に近距離に潜望鏡又は敵魚雷の航跡を発見したるときは各艦機宜の運動を以て之に対応するを要す。 第六七 敵の弾著良好となるに先ち機宜四点以内の変針を行い之を避くるを有利とすることあり。 第六八 敵を追撃するに当りては極力之に追及すると共に我全線の砲火を有効に使用することに努むべし。而して敵の逆撃及び魚雷攻撃等に対しては之に即応するの準備あるを要す。 第六九 敵より離脱するに当り敵縦陣若は梯陣を以て追撃し来るときは其の先頭を圧する如く運動し又敵横陣を以てするときは其の一翼を攻撃するの姿勢を執りて敵の近接を阻礙しつつ臨機一斉回頭を行い之と離隔するを可とす、此の際煙弾、発煙筺等を利用し或は補助部隊をして煙幕、機雷等を使用せしむるときは其の行動を容易ならしむることあり。 第七〇 主力艦戦隊は夜間敵の軽快部隊に対しては成るべく運動により回避韜晦するを可とするも、既に近迫せる敵に対しては直に機宜の運動を行うと共に照射砲撃を以て之を撃攘するを要す、此の際使用するSLは艏方向を敵に認知せしめざる為成るべく上下位置にあるものを選び、又僚艦の照射により射撃し得る艦へ照射せざるを可とす。 照射砲撃に依り敵を撃退するか又は之を見失いたるときは速に消灯して機宜変針し其の踪跡を晦ますを可とす、この場合SLの自己眩惑作用を顧慮し予め避退方向に対する警戒に留意するを要す。

第三節 CSの戦斗 第七一 CS戦斗の要旨は其の高速力と攻撃力とを発揮し最機敏且果敢に戦機の変転に即応して友軍に協同するに在り。 第七二 主隊展開を開始するに至らばCSは特に当面の任務継続を要するものの外速に集結し敵補助部隊の機先を制して艦隊の戦斗に加入するを要す。 第七三 酣戦期に入り戦況漸く錯綜せる際敵の一翼に行動するCSの適切なる敵情報告は最高指揮官の戦斗指導に資すること多し。 第七四 CSの敵主力に対する昼戦は通常Sdを支援して其の襲撃を助成し又自ら敵主力の一翼を圧して其の運動を拘束し好機に乗じて攻撃を決行すべきものとす。 此の際敵阻止部隊と徒に格斗を続け敵主力に対する攻撃の時機を逸するが如きは之を避けざるべからず。 第七五 CSの敵CSに対する昼戦は概ね主力艦戦隊の戦斗に準ず。 第七六 CSの敵Sdに対する戦斗は速に其の先頭を殪し、次で後続隊を撃滅するを以て要旨とし、其の解列分進するものに対しては我も亦適当に分進して之を殲滅するを要す。 第七七 CSの夜戦は極力我Sdを推進し其の襲撃を支援する外概ねSdの夜戦に準ず。

第四章 Sdの戦斗 第一節 Sdの昼戦 第七八 Sdは展開に際し爾余の諸隊との連繋に注意すると共に敵に先ち襲撃に便利なる対勢を占むるに努むべし。 第七九 Sdの襲撃は常に猛烈果敢なるを要す、徒に敵火の危害を顧慮して遠距離発射を企図するが如きことあるべからず。 第八〇 Sdの襲撃は決戦の時機に投ずるを本旨とす、故に彼我主隊の戦斗将に酣ならんとするを看取せばSdは徒に最良の対勢を占むるに焦慮することなく進んで襲撃を敢行して主隊に策応せざるべからず。 然れども已に適当の対勢を占め得たるときは、主隊の策応に期待し得る限り決然進んで自ら戦勝の端緒を開くべきものとす。 第八一 Sd未だ襲撃に便なる対勢を占め得ざる場合に於ても我主隊の戦斗不利なりと見ば猶予なく突進して襲撃を断行すべし、此の際戦勢を転換し得るは一にSdの勇戦による。 第八二 Sd襲撃の時機を得る迄は濫に敵火に暴露せざるを要すと雖、一且襲撃に転じたる後は如何なる妨害も之を排除し 一意目的の達成を期すべし、之が為已むを得ざれば其の一部を割きて敵の阻止部隊を襲撃せしむるを可とす。 第八三 Sdの襲撃は全dgの斉撃に依るを有利とす。 此の際旗艦は自ら其の先頭に立ちて之が進路を開き機を見てdgを放ち其の推進に努むべし。 第八四 Sd襲撃に当り敵Sdに先んぜられたるときは極力之が阻止に任じ敵を圧迫撃攘するに努め苟も戦勢上敵に先ち襲撃を得べき機会を捕捉するか若は敵を阻止すること困難と認むるに至らば決然襲撃に転ずるを要す。 第八五 二個以上のSd同時に敵を襲撃するに当りては有利なる情況にある隊を協同動作の基準とすべし、故に敵の阻止を受け襲撃の実施比較的困難なる情況に在るSdは益々突撃の気勢を旺盛にし以て多数の敵阻止部隊を牽制し友隊の突撃を助成するを努むると共に此の際苟も敵を脱過し得る機会を捕捉したるものは縦令一艦たりとも襲撃を決行するを要す。 第八六 各dgは襲撃位置に到達する以前に於ては互いに協同一致の行動に出すべ



既に襲撃に転ぜば機宜の行動に依り各隊最善の効果を獲るに努むべし、然れども各隊射点の占得に就ては敵の回避運動に対応し得るの用意あるを要す。 第八七 dg旗艦は襲撃を終りたるdgを収容しつつ再挙に便なる位置に占位する如く行動するを例とす。 第八八 襲撃を終りたるdgは一且旗艦に集合し又情況旗艦に集合するを許さざる場合にありては附近友隊に合し再挙の準備をなしつつ敵来襲部隊の阻止に便なる如く行動するものとす。 襲撃に依り水雷兵器を消耗したるSdは敵Sdの来襲阻止竝友隊の突撃掩護に任すも対攻撃の気勢を以て敵を脅威牽制するを可とす。

第二節 Sdの夜戦 第八九 Sd夜襲を決心せば日没前先ず萬難を排して敵と触接を確保するに努むべし、此の際敵後衛の阻止を脱する為解列して広正面に分進するを可とすることあり。 第九〇 二個以上のSd夜襲を行うに当りては視界大なる場合の外襲撃目標を異にするを可とし同一目標を選ぶときは其の襲撃時機を異にするを可とす。 第九一 Sd指揮官追躡又は捜索の為dgを放つに当りては各隊の準拠すべき部署を定め要すれば集合点集合時刻を指示すると共に自隊の現位置旗艦及友軍の行動竝敵情の概要を令示するを例とす。 第九二 襲撃部署は一般に各dg互に協同して敵を挟撃する如く定むるを要す。 第九三 Sd敵と触接したるときは之を逸せざる為襲撃に先ち成るべく包囲の姿勢を執るを可とす。 第九四 索敵中敵を発見せるdgは之と触接を保持しつつ極力敵情を友隊に通報するを要す、然れども情況之を許さざるか又は襲撃に特に有利なる場合に在りては単独襲撃を決行すべきものとす。 第九五 Sd旗艦は終夜敵に触接して味方dgを招致し其の襲撃を容易ならしむると共に友隊に敵情を通報するに努め又情況特に有利なるときは単独敵を襲撃するものとす。 第九六 dgの夜襲は潜行肉薄を本旨とするも情況之を許さざる時は迅速果敢なる強襲を行うべきものとす。 第九七 高度低き月若は月出没の空明の下に敵を見る如く行動するときは潜行に便なること多く、又煤煙、暗雲、濛気、驟[原文では馬に衆]雨等を巧に利用するときは容易に敵に肉薄し得ることあり。 第九八 SL若は星弾等の捜射に依る艦影の視認は正確を欠くこと多し、故に一時敵の照光に浴することあるも之以て所在を覚知せられたるものと速断することなきを要す、又敵に発見せられたること確実なりと判断したるときは襲撃実施を容易ならしむる為却て我より照明具を使用して強襲に転ずるを可とすることあり。 第九九 襲撃に当り敵警戒部隊の阻止を受くるときは極力脱過するに努め已むを得ざれば一部を割きて之を襲撃せしむるを可とす。 第一〇〇 敵の針路速力の不明、回避運動、証明具の眩惑作用等は著しく襲撃を困難ならしむ、是等の障害に打ち克ち能く襲撃の目的を達するは唯肉薄の一途あるのみ。 第一〇一 cdg襲撃を準備するに当り前続隊は後続隊の襲撃に便なる如く全隊を嚮導するを要す雖之が為襲撃の好機を逸する虞あるときは強て後続隊を顧慮する要なきものとす。 第一〇二 dgの各艦魚雷を発射するに当りては隊形に拘泥することなく斉撃を目途とし各自迅速に最良の発射位置を占むるに努むべし、之が為後続艦は一層敵に近接するに非ざれば概ね良位置を得難きものとす。 第一〇三 襲撃を終りたるdgは友軍の襲撃を妨害せざる限り其成果を監視しつつ敵と触接を失わざる如く行動し極力再挙を計るべし。 魚雷、機雷共に尽きたる後に於ても尚敵と触接して友軍を利するを要す。 第一〇四 sd主隊と分離したるときは夜間之に近接せざるを要す、若し近接するの已むを得ざる場合にありては確実に識別信号を交換したる後に於てするものとす。

第五章 Ssの戦闘 第一〇五 Ssの戦斗は適切なる散開配備に依り敵主隊を奇襲するを以て本旨とす。 第一〇六 散開配備は会敵の望を多からしむると共に成るべく多数の潜水艦に攻撃の機会を与うる為戦場及之が推移を予想し敵情、潜水艦の性能、隻数及天象地象等を考慮して決定するを要す。 第一〇七 会敵前Ssは主隊所在地に控置せらるべき一部を除き其の大部は予め適当に前進せしめあるを例とす、此の位置より散開の為進出するSsは敵情に応じ互いに密接なる連繋を保持し克く最高指揮官の意図に合する如く迅速に行動するを要す。 第一〇八 Ss指揮官散開を令する時機は一定の散開正面を以て敵を捕捉する公算を大ならしむる為過早ならざるを利とするも敵の視界内に入るに先ち予定の配備に就き襲撃準備を完成するに十分の余祐ある如くするを要す。 第一〇九 Ss指揮官散開するを令するに当りては集合地点、集合時刻若は敵の我散開面通過後に於ける各潜水艦の行動に就て指示すると共に自隊の現位置、旗艦及友軍の行動竝敵情の概要を令示するを例とす。 第一一〇 Ss指揮官散開配備を了したる時及情況の変化に応じ散開配備を変更したる時は速に之を友軍各隊に通報するものとす。 第一一一 潜水艦の襲撃は潜行肉薄を本旨とす徒に敵より受くる危害を顧慮し遠距離発射を企図するが如きことあるべからず。 第一一二 待敵散開配備に在る潜水艦の触接運動の為其の指定区域外に行動せざるべからざるときは僚艦の行動を阻礙せざる如く特に注意するを要す。 第一一三 散開配備に在る潜水艦は敵が已に近接し来らざるを認めたる場合又は既に襲撃を果したる後と雖尚其の散開面が直に無効に帰せるものと速断することなく、極力襲撃を続行するの準備あるを要す、然れども之が為長く同一散開面に固着して重要なる戦機を逸するが如きことあるべからず、故にSs旗艦は散開後の潜水艦に対し敵情の変化竝友軍の行動を通報すると共に各艦亦諸般の情況を判定して戦務の変化を洞察するに努むるを要す。 第一一四 戦況錯綜し味方艦船に接近するの已むなきに至れる潜水艦は深々度潜航をなすか又は味方識別信号を行う等周到機敏なる処置を執り累を友軍に及ぼさざることに努むるを要す。 第一一五 敵の展開を一方面に強制し若は其の反転を阻止する等脅威を目的とする潜水艦は迅速に所要の方面に進出する為水面航走に依るを利とすることあり。 第一一六 夜間若は視界小なる際に於ける潜水艦の襲撃は迅速に潜航し得べき姿勢を保ちつつ駆逐艦の襲撃に準じ之を行うを可とす。 第一一七 潜水艦の戦斗に於ては情報の接受及び敵航空機の撃攘等に関し友軍航空機の協力に俟つ所多きものとす。 第一一八 潜水艦散開後Ss旗艦は所要の時機迄散開面附近に在りて適宜行動し通信の枢軸となりしを可とするも之が為敵をして我散開面を察知せしむるが如きことあるべからず。 第一一九 散開面を離去したるSs旗艦は通信の為特別の行動を必要とするか又は子隊の収容を要する時機迄は適宜友隊と合同し或は之と協力して戦斗に参加するか若は単独他方面に伴動する等処置に出づるを可とす。 第一二〇 Ssの脅威の為を目的として其の所在を示しつつ一方面に進出せんとする場合に在りては期間は自ら先頭に立ちて其の進路を開き又は子隊を攻撃する敵を撃攘夷する等概ねSd旗艦の昼戦に於ける行動に準ずるものとす。

第六章 航空隊の戦斗 第一二一 航空隊の戦斗は友隊に協力して敵主隊を攻撃するを本旨とす。 第一二二 航空隊の戦斗要領は通常戦斗機隊を以て敵航空隊を制圧しつつ攻撃機隊を以て敵主隊を強襲するを例とす。 第一二三 航空機の戦法は其の任務竝特性に依り方法を異にするも一般に編隊を以て敵に近迫し敏速果敢なる攻撃を行い常に其の集団威力を発揮するに在り。 第一二四 航空機を進発せしむべき時機は一般に敵航空機の機先を制し且主隊の決戦時機に我航空機の全力を発揮せしむる如く之を選定する 第一二五 会敵初頭に於て航空母艦を攻撃し其の活動を不能ならしむるときは爾後の戦斗に利する所多きものとす。 第一二六 航空機の戦斗に於ては敵の不意に乗じて近接攻撃するを特に有利とす、之が為天象地象の利用に留意すること最肝要なり。 第一二七 航空機の適切なる煙幕使用は友隊の戦斗を利すること大なり而して之が展張に当りては其の目的、対勢及風向風力を考慮して展張高度竝位置を選定するを要す。 第一二八 夜戦に於て航空機より証明具を適当に使用するときは友隊の攻撃を利すること多し、然れども之が為友隊の行動を暴露せざる如く特に注意するを要す。 第一二九 戦斗機隊の任務は主として敵航空機を攻撃して其の企図を挫き味方航空隊の行動を容易ならしむるに在り、故に常に自ら敵を索めて之が撃滅に努むるを要す。 第一三〇 戦斗機隊戦斗の要旨は我編隊を以て敵に近迫突入して果敢なる攻撃を加え之を撃破するに在り。 第一三一 偵察機隊、攻撃機隊等の掩護に任ずる戦斗機隊は一般に被掩護部隊の上空に占位して各方面の監視を厳にし敵の来襲を発見せば機を逸せず之を攻撃するものとす、然れども此の際徒に遠く敵を追って其の任務を失することなきに注意するを要す。 第一三二 攻撃機隊の任務は主として敵主隊竝航空母艦を攻撃するに在り。 第一三三 攻撃機隊の敵主力に対する襲撃は決戦の時機に投ずるを本旨とするも敵航空機の機先を制するか又は特に有利なる襲撃位置に到達するか或は、我主隊の戦斗不利なる場合等に於ては決然襲撃を行うものとす。 第一三四 攻撃機隊の襲撃は一般に数隊の斉撃若は間断なき順撃に依るを可とす、然れども黎明薄暮又は煙幕を利用する場合に於ては単機を以てするも尚有効なる襲撃を実施し得ることあるものとす。 第一三五 目標の認識可能なる夜間に於ける攻撃機隊の襲撃は其の効果大なるものとす。 第一三六 攻撃機隊の襲撃は常に猛烈果敢にして身を以て敵に衝撃するの覚悟あるを要す。 敵機の阻止又は敵防禦火砲の危害を顧慮して遠距離発射若は高々度爆撃を企図するが如きことあるべからず。 第一三七 攻撃機隊Sdと協同して敵を雷撃する場合にはSdを基準にとして之と共に敵を挟撃する如くするを可とす。 第一三八 攻撃機隊又は偵察機隊の敵航空機に対する戦斗は強固なる編隊を以て各機互いに死角を側防しつつ我銃火の威力を発揮するを要旨とす。 第一三九 偵察機隊の任務は主として敵情の偵察、艦隊前路の警戒、敵潜水艦の捜索攻撃及弾著観測等に在り、軽快なる艦上偵察機は右外屢戦斗機と同一任務に服することあるものとす。 第一四〇 飛行船の任務は主として長時間の捜索、偵察竝敵潜水艦の発見攻撃に在り。 第一四一 飛行船は常に敵飛行機に対する警戒を厳にし、其の近接を認めなば急速上昇して敵を我直上に在らしめざる如く行動しつつ之が撃墜に努むるものとす。

第七章 其の他の戦斗 第一四二 艦隊敵艦隊と海岸に近く戦うに当りては海洋戦に準ずるの外特に地形、砲台、潜水艦、機雷及航空機等に対し顧慮するを要す。 第一四三 艦隊は海岸砲台と戦わざるを原則とす、然れども已むを得ず之と戦う場合には砲台の叉撃を被らざる如く運動し且距離及方位の変化を大ならしむるに努むるを要す。 第一四四 艦隊敵岸に近接して間接射撃を行うに当りては陸上砲台の威力微弱なる方面を選び特に敵潜水艦、航空機及機雷等に対する警戒を厳にし我航空機をして弾著観測に当らしむるを可とす。 第一四五 守勢にある艦隊敵艦隊と戦うときは地形を利用し特に潜水艦航空機及機雷等を善用するに努むべし、然れども之が為却て艦隊の行動を覊束せられ又攻勢に転ずる時機を逸する等のことあるべからず。 第一四六 輸送船隊を護衛する艦隊の掩護の為著しく其の行動を拘束せらるるを常とす、故に之を攻撃する艦隊は縦令劣勢なる兵力を以てするも尚奏功を期し得るものとす、而して直接輸送船隊を攻撃するを有利とする場合の外通常先ず護衛艦隊の撃滅を図るを可とし且此の際兵力の一部を割きて輸送船隊を攻撃するときは速に敵を壊滅に陥らしむること多し。 第一四七 輸送船隊を護衛する艦隊敵と出会するときは彼我交戦するに先ち適宜輸送船隊を避退せしめ艦隊は極力敵を攻撃して護衛の目的を達成するに努むべし、而して適時輸送船隊を避退せしめるが為には適切なる警戒配備に依り情況を先知するを要す、之が為護衛艦隊には適切なる航空兵力を附するを可とす。