十六 海底を行く
編集目の前に、
關門海峽はさざ波をたたへ、
車窓から何百の船が見える。
- 「おかあさん、
あの海峽をくぐるのね。」
汽車はたちまちトンネルにはいつた、
ざあつとすべつて行く車輪の響き。
- 「おかあさん、
今、海の底を走つてゐるのね。」
本州と九州の握手だ、
日本最初の海底トンネルだ。
- 「おかあさん、
まるでおとぎ話のやうね。」
だいじな物資や、郵便物や、
私たちを一氣に運んでくれる。
- 「ありがたいぢやありませんか。
命がけでほつたおかげですよ。」
ふり返ると、
關門海峽はさざ波をたたへ、
いそがしさうに船が動いてゐる。
- 「おかあさん、
あの下を通つて來たのね。」