法例 (平成元年法律第27号による改正)


朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル法例ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム

   

明治三十一年六月十五日

內閣總理大臣 侯爵伊 藤 博 文

海  軍  大  臣 侯爵西 鄕 從 道

大  藏  大  臣 伯爵井 上  馨

內  務  大  臣 子爵芳 川 顯 正

外  務  大  臣 男爵西 德 二 郞

陸  軍  大  臣 子爵桂  太 郞

司  法  大  臣   曾 禰 荒 助

遞  信  大  臣  文學博
士男爵
末 松 謙 澄


農 商 務 大 臣   金子堅太郞

文  部  大  臣  文 學
博 士
外 山 正 一


法律第十號

法例別册ノ通之ヲ定ム

此法律施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム

明治二十三年法律第九十七號法例ハ此法律發布ノ日ヨリ之ヲ廢止ス

(別册)

法例

第一條  法律ハ公布ノ日ヨリ起算シ滿二十日ヲ經テ之ヲ施行ス但法律ヲ以テ之ニ異ナリタル施行時期ヲ定メタルトキハ此限ニ在ラス

第二條  公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反セサル慣習ハ法令ノ規定ニ依リテ認メタルモノ及ヒ法令ニ規定ナキ事項ニ關スルモノニ限リ法律ト同一ノ效力ヲ有ス

第三條  人ノ能力ハ其本國法ニ依リテ之ヲ定ム

外國人カ日本ニ於テ法律行爲ヲ爲シタル場合ニ於テ其外國人カ本國法ニ依レハ無能力者タルヘキトキト雖モ日本ノ法律ニ依レハ能力者タルヘキトキハ前項ノ規定ニ拘ハラス之ヲ能力者ト看做ス

前項ノ規定ハ親族法又ハ相續法ノ規定ニ依ルヘキ法律行爲及ヒ外國ニ在ル不動產ニ關スル法律行爲ニ付テハ之ヲ適用セス

第四條  禁治產ノ原因ハ禁治產者ノ本國法ニ依リ其宣吿ノ效力ハ宣吿ヲ爲シタル國ノ法律ニ依ル

日本ニ住所又ハ居所ヲ有スル外國人ニ付キ其本國法ニ依リ禁治產ノ原因アルトキハ裁判所ハ其者ニ對シテ禁治產ノ宣吿ヲ爲スコトヲ得但日本ノ法律カ其原因ヲ認メサルトキハ此限ニ在ラス

第五條  前條ノ規定ハ準禁治產ニ之ヲ準用ス

第六條  外國人ノ生死カ分明ナラサル場合ニ於テハ裁判所ハ日本ニ在ル財產及ヒ日本ノ法律ニ依ルヘキ法律關係ニ付テノミ日本ノ法律ニ依リテ失踪ノ宣吿ヲ爲スコトヲ得

第七條  法律行爲ノ成立及ヒ效力ニ付テハ當事者ノ意思ニ從ヒ其何レノ國ノ法律ニ依ルヘキカヲ定ム

當事者ノ意思カ分明ナラサルトキハ行爲地法ニ依ル

第八條  法律行爲ノ方式ハ其行爲ノ效力ヲ定ムル法律ニ依ル

行爲地法ニ依リタル方式ハ前項ノ規定ニ拘ハラス之ヲ有效トス但物權其他登記スヘキ權利ヲ設定シ又ハ處分スル法律行爲ニ付テハ此限ニ在ラス

第九條  法律ヲ異ニスル地ニ在ル者ニ對シテ爲シタル意思表示ニ付テハ其通知ヲ發シタル地ヲ行爲地ト看做ス

契約ノ成立及ヒ效力ニ付テハ申込ノ通知ヲ發シタル地ヲ行爲地ト看做ス若シ其申込ヲ受ケタル者カ承諾ヲ爲シタル當時申込ノ發信地ヲ知ラサリシトキハ申込者ノ住所地ヲ行爲地ト看做ス

第十條  動產及ヒ不動產ニ關スル物權其他登記スヘキ權利ハ其目的物ノ所在地法ニ依ル

前項ニ揭ケタル權利ノ得喪ハ其原因タル事實ノ完成シタル當時ニ於ケル目的物ノ所在地法ニ依ル

第十一條  事務管理、不當利得又ハ不法行爲ニ因リテ生スル債權ノ成立及ヒ效力ハ其原因タル事實ノ發生シタル地ノ法律ニ依ル

前項ノ規定ハ不法行爲ニ付テハ外國ニ於テ發生シタル事實カ日本ノ法律ニ依レハ不法ナラサルトキハ之ヲ適用セス

外國ニ於テ發生シタル事實カ日本ノ法律ニ依リテ不法ナルトキト雖モ被害者ハ日本ノ法律カ認メタル損害賠償其他ノ處分ニ非サレハ之ヲ請求スルコトヲ得ス

第十二條  債權讓渡ノ第三者ニ對スル效力ハ債務者ノ住所地法ニ依ル

第十三條  婚姻成立ノ要件ハ各當事者ニ付キ其本國法ニ依リテ之ヲ定ム

婚姻ノ方式ハ婚姻挙行地ノ法律ニ依ル

当事者ノ一方ノ本国法ニ依リタル方式ハ前項ノ規定ニ拘ハラズ之ヲ有効トス但日本ニ於テ婚姻ヲ挙行シタル場合ニ於テ当事者ノ一方ガ日本人ナルトキハ此限ニ在ラズ

第十四条  婚姻ノ効力ハ夫婦ノ本国法ガ同一ナルトキハ其法律ニ依リ其法律ナキ場合ニ於テ夫婦ノ常居所地法ガ同一ナルトキハ其法律ニ依ル其何レノ法律モナキトキハ夫婦ニ最モ密接ナル関係アル地ノ法律ニ依ル

第十五条  前条ノ規定ハ夫婦財産制ニ之ヲ準用ス但夫婦ガ其署名シタル書面ニシテ日附アルモノニ依リ左ニ掲ゲタル法律中其何レニ依ルベキカヲ定メタルトキハ夫婦財産制ハ其定メタル法律ニ依ル

一  夫婦ノ一方ガ国籍ヲ有スル国ノ法律

二  夫婦ノ一方ノ常居所地法

三  不動産ニ関スル夫婦財産制ニ付テハ其不動産ノ所在地法

外国法ニ依ル夫婦財産制ハ日本ニ於テ為シタル法律行為及ビ日本ニ在ル財産ニ付テハ之ヲ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ズ此場合ニ於テ其夫婦財産制ニ依ルコトヲ得ザルトキハ其第三者トノ間ノ関係ニ付テハ夫婦財産制ハ日本ノ法律ニ依ル

外国法ニ依リテ為シタル夫婦財産契約ハ日本ニ於テ之ヲ登記シタルトキハ前項ノ規定ニ拘ハラズ之ヲ第三者ニ対抗スルコトヲ得

第十六条  第十四条ノ規定ハ離婚ニ之ヲ準用ス但夫婦ノ一方ガ日本ニ常居所ヲ有スル日本人ナルトキハ離婚ハ日本ノ法律ニ依ル

第十七条  夫婦ノ一方ノ本国法ニシテ子ノ出生ノ当時ニ於ケルモノニ依リ子ガ嫡出ナルトキハ其子ハ嫡出子トス

夫ガ子ノ出生前ニ死亡シタルトキハ其死亡ノ当時ノ夫ノ本国法ヲ前項ノ夫ノ本国法ト看做ス

第十八条  嫡出ニ非ザル子ノ親子関係ノ成立ハ父トノ間ハ親子関係ニ付テハ子ノ出生ノ当時ノ父ノ本国法ニ依リ母トノ間ノ親子関係ニ付テハ其当時ノ母ノ本国法ニ依ル子ノ認知ニ因ル親子関係ノ成立ニ付テハ認知ノ当時ノ子ノ本国法ガ其子又ハ第三者ノ承諾又ハ同意アルコトヲ認知ノ要件トスルトキハ其要件ヲモ備フルコトヲ要ス

子ノ認知ハ前項前段ニ定ムル法律ノ外認知ノ当時ノ認知スル者又ハ子ノ本国法ニ依ル此場合ニ於テ認知スル者ノ本国法ニ依ルトキハ同項後段ノ規定ヲ準用ス

父ガ子ノ出生前ニ死亡シタルトキハ其死亡ノ当時ノ父ノ本国法ヲ第一項ノ父ノ本国法ト看做シ前項ニ掲ゲタル者ガ認知前ニ死亡シタルトキハ其死亡ノ当時ノ其者ノ本国法ヲ同項ノ其者ノ本国法ト看做ス

第十九条  子ハ準正ノ要件タル事実ノ完成ノ当時ノ父若クハ母又ハ子ノ本国法ニ依リ準正ガ成立スルトキハ嫡出子タル身分ヲ取得ス

前項ニ掲ゲタル者ガ準正ノ要件タル事実ノ完成前ニ死亡シタルトキハ其死亡ノ当時ノ其者ノ本国法ヲ同項ノ其者ノ本国法ト看做ス

第二十条  養子縁組ハ縁組ノ当時ノ養親ノ本国法ニ依ル若シ養子ノ本国法ガ養子縁組ノ成立ニ付キ養子若クハ第三者ノ承諾若クハ同意又ハ公ノ機関ノ許可其他ノ処分アルコトヲ要件トスルトキハ其要件ヲモ備フルコトヲ要ス

養子ト其実方ノ血族トノ親族関係ノ終了及ビ離縁ハ前項前段ニ定ムル法律ニ依ル

第二十一条  親子間ノ法律関係ハ子ノ本国法ガ父又ハ母ノ本国法若シ父母ノ一方アラザルトキハ他ノ一方ノ本国法ト同一ナル場合ニ於テハ子ノ本国法ニ依リ其他ノ場合ニ於テハ子ノ常居所地法ニ依ル

第二十二条  第十四条乃至前条ニ掲ゲタル親族関係ニ付テノ法律行為ノ方式ハ其行為ノ成立ヲ定ムル法律ニ依ル但行為地法ニ依ルコトヲ妨ゲズ

第二十三条  第十三条乃至第二十一条ニ揭ケタルモノノ外親族關係及ヒ之ニ因リテ生スル權利義務ハ當事者ノ本國法ニ依リテ之ヲ定ム

第二十四条  後見ハ被後見人ノ本國法ニ依ル

日本ニ住所又ハ居所ヲ有スル外國人ノ後見ハ其本國法ニ依レハ後見開始ノ原因アルモ後見ノ事務ヲ行フ者ナキトキ及ヒ日本ニ於テ禁治產ノ宣吿アリタルトキニ限リ日本ノ法律ニ依ル

第二十五条  前條ノ規定ハ保佐ニ之ヲ準用ス

第二十六条  相續ハ被相續人ノ本國法ニ依ル

第二十七条  遺言ノ成立及ヒ效力ハ其成立ノ當時ニ於ケル遺言者ノ本國法ニ依ル

遺言ノ取消ハ其當時ニ於ケル遺言者ノ本國法ニ依ル

第二十八条  当事者ガ二箇以上ノ国籍ヲ有スル場合ニ於テハ其国籍ヲ有スル国中当事者ガ常居所ヲ有スル国若シ其国ナキトキハ当事者ニ最モ密接ナル関係アル国ノ法律ヲ当事者ノ本国法トス但其一ガ日本ノ国籍ナルトキハ日本ノ法律ヲ其本国法トス

当事者ノ本国法ニ依ルベキ場合ニ於テ当事者ガ国籍ヲ有セザルトキハ其常居所地法ニ依ル但第十四条第十五条第一項及ビ第十六条ニ於テ準用スル場合ヲ含ム)又ハ第二十一条ノ規定ヲ適用スル場合ハ此限ニ在ラズ

当事者ガ地方ニ依リ法律ヲ異ニスル国ノ国籍ヲ有スルトキハ其国ノ規則ニ従ヒ指定セラルル法律若シ其規則ナキトキハ当事者ニ最モ密接ナル関係アル地方ノ法律ヲ当事者ノ本国法トス

第二十九条  當事者ノ住所地法ニ依ルヘキ場合ニ於テ其住所カ知レサルトキハ其居所地法ニ依ル

当事者ガ二箇以上ノ住所ヲ有スルトキハ其住所地中当事者ニ最モ密接ナル関係アル地ノ法律ヲ其住所地法トス

第三十条  当事者ノ常居所地法ニ依ルベキ場合ニ於テ其常居所ガ知レザルトキハ其居所地法ニ依ル但第十四条第十五条第一項及ビ第十六条ニ於テ準用スル場合ヲ含ム)ノ規定ヲ適用スル場合ハ此限ニ在ラズ

第三十一条  当事者ガ人的ニ法律ヲ異ニスル国ノ国籍ヲ有スル場合ニ於テハ其国ノ規則ニ従ヒ指定セラルル法律若シ其規則ナキトキハ当事者ニ最モ密接ナル関係アル法律ヲ当事者ノ本国法トス

前項ノ規定ハ当事者ガ常居所ヲ有スル地ガ人的ニ法律ヲ異ニスル場合ニ於ケル当事者ノ常居所地法及ビ夫婦ニ最モ密接ナル関係アル地ガ人的ニ法律ヲ異ニスル場合ニ於ケル夫婦ニ最モ密接ナル関係アル地ノ法律ニ之ヲ準用ス

第三十二条  當事者ノ本國法ニ依ルヘキ場合ニ於テ其國ノ法律ニ從ヒ日本ノ法律ニ依ルヘキトキハ日本ノ法律ニ依ル但第十四条第十五条第一項及ビ第十六条ニ於テ準用スル場合ヲ含ム)又ハ第二十一条ノ規定ニ依リ当事者ノ本国法ニ依ルベキ場合ハ此限ニ在ラズ

第三十三条  外國法ニ依ルヘキ場合ニ於テ其規定ノ適用カ公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反スルトキハ之ヲ適用セス

第三十四条  本法ハ夫婦、親子其他ノ親族関係ニ因リテ生ズル扶養ノ義務ニ付テハ之ヲ適用セズ但第三十条本文ノ規定ハ此限ニ在ラズ

本法ハ遺言ノ方式ニ付テハ之ヲ適用セズ但第二十八条第二項本文第二十九条第一項第三十条本文及ビ第三十一条ノ規定ハ此限ニ在ラズ

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