泉〈B〉
泉〈B〉
この泉の水を汲んでくれ
これはさゝやかな泉だ
恰度茶わんに一ぱいほどの水だ
だが見てくれ
この水は淸冽で
ま新しいのだ
無限の靑空󠄁が
そのはりつめた方寸のおもてに
くつきりうつつてゐるではないか
しんと動かないが
耳を近󠄁づけてきいてくれ
その底にしんしんと
力のみなぎるつぶやきが
聞えるではないか
この泉は四方の大きい岩を
じみじみと永い日夜をかけて
絕えずしみとほつて來た水が
一切の汚辱を去り、
みぢんのにごりもとどめず
今朝󠄁ここに充ちたものだ
見てくれ、底の砂粒の一つ一つが
寶石のやうにきらきらしてゐる
塵一つ、枯葉の
沈んではゐない
もつと頰をその表面に近󠄁づけて
見てくれ
氷のやうな息吹が
泉からたちのぼる冷氣が
君の感覺をさしはしないか
さあ
この泉を汲んでくれ
もろ手を出してすくつてくれ
この著作物は、1943年に著作者が亡くなって(団体著作物にあっては公表又は創作されて)いるため、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(回復期日を参照)の時点で著作権の保護期間が著作者(共同著作物にあっては、最終に死亡した著作者)の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)50年以下である国や地域でパブリックドメインの状態にあります。
この著作物は、アメリカ合衆国外で最初に発行され(かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず)、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつ、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日)に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。