死刑宣告/孤独は無我夢中に遁走する


赤んぼはまだ母胎の匂ひを放つてゐる
女は死体と疲労のまざつた顔を上げてゐる
地震で割れた壁に女の心臓は血をなくしてはりついてゐる

大きな黒い扉が開いた
手と足をむき出した妊婦がうなつてゐる
硝子窓がピリピリゆれる
知らない男の瞳が
ぢつと天上の隅に見つめてさがつてゐる
扉がドダーンとしまる
看護婦が血によごれた手で馳け出した

パクパクパクパクパクパクパクパクパクパクパク
赤んぼは夜の空気を吸つてゐる
トタン屋根からドタリ摺り落ちた首
孤独は無我夢中に遁走する


孤独は無我夢中に遁走する
萩原恭次郎



この著作物は、1938年に著作者が亡くなって(団体著作物にあっては公表又は創作されて)いるため、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(回復期日を参照)の時点で著作権の保護期間が著作者(共同著作物にあっては、最終に死亡した著作者)の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)50年以下である国や地域でパブリックドメインの状態にあります。


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