問 十誡の第五か條は如何に唱へらるるや
答 『爾の父母を敬ふべし福祥爾に臨みて地に長寿を得ん』
問 神は此誡を以て如何なることを命じ給へり
答 己の父母を敬ふことを命じ給ふ
問 父母を敬ふとは如何なることなりや
答 能く父母の命に従ひ常に孝養怠らず殊に病気及び老後には大切に世話を為し且つ其霊の救はるることをも神に祈るべきを云ふなり
問 此誡は両親を敬ふことの外に如何なるものを敬ふことを命じ給ふや
答 或る場合に於て我等の父母を代表する所の人々を敬ふことを命じ給ふ例令ば国王牧師有司恩人年長者等なり
問 右の人々のうち殊に誰を敬ふべきや
答 国王なり如何となれば彼は萬民の父神の傅膏者なればなり故に使徒ペートルは『神を畏れ王を敬ふべし』〔彼前七の十〕と教へ又我等の主イイスス ハリストスは『ケサリの物はケサリに帰すべし』〔太二十二の二十一〕と宣へり
問 臣民たる者の国王に対して尽すべきの本分は何なりや
答 国王の命に服し国王の為に祈り国王より立てられたる百官有司の権に従ひ国法の諸税を正しく納め国家の為め勇みて軍役に服する等なり
問 国王に対する本分を破りて罪を犯す者は如何に見做さるるや
答 斯る者は啻に国王の前に罪を犯せしのみならず亦神の前にも罪を犯せし者なり如何となれば使徒パエルの言に『盖神より出ざる権なく凡そ有るところの権は神の立たまふ所なれば也是故に権に悖ふ者は神の定に逆くなり』〔羅十三の一至二〕と云ふに依る
問 十誡の第六か條は如何に唱へらるるや
答 『人を殺す勿れ』
問 神は此誡を以て如何なることを禁じ給ふや
答 人を殺すこと即ち人の生命を害ふことを禁じ給ふ
問 法律に依りて罪人を死刑に処し又は戦争の時に敵を殺す等は矢張り罪なりや
答 是等は罪にあらず如何となれば罪人を死刑に処するは彼が行ふ処の悪業を絶たんが為にして又戦争の時敵を殺すは国王及び生国を敵の侵略より防ぎ護るが為なればなり
問 其他此誡を以て如何なる罪を禁じ給ふや
答 種々の関係を以て殺人の罪に與みすることを禁じ給ふ例令ば教唆を以て商議を以て幇助を以て同意を以て之を為すこと及び其他総て他人の生命を害し傷ふことを禁じ給ふ例令ば憤怒を以て憎悪を以て喧嘩を以て為す等の類なり又此誡にては語或は行を以て他人を不信にい誘ふことをも禁じ給ふ是等は霊魂上の殺人と名づけらる
問 此誡を守るの心得は何なりや
答 何人の生命をも保護し総て他人に対し親切を為すことなり
問 十誡の第七か條は如何に唱へらるるや
答 『淫を行ふ勿れ』
問 神は此誡を以て如何なることを禁じ給ふや
答 邪淫即ち男女の間の不義を禁じ給ふ且つ総て邪淫の罪に導く所の悪しき行為をも亦禁じ給ふ例令ば暴飲暴食すること猥褻なる唄を歌ふこと風儀を害する書物を読むこと等なり
問 此誡を守るの心得は何なりや
答 夫婦互に節操を守り又他人に対して貞潔なることなり
問 十誡の第八か條は如何に唱へらるるや
答 『偸盗する勿れ』
問 神は此誡を以て如何なることを禁じ給ふや
答 偸盗すること即ち其方法の如何に拘はらず不正なる手段を以て他人の所有物を我所有と為すことを禁じ給ふ例令ば窃盗すること強盗すること人を使役して其賃金を払はざること又は賃銭を請取りて其業を果さざること詐偽を以て他人の財産を掠むること善き品物に代へて悪き品物を売ること不正なる度量衡を用ひて不正直なる商売を為す等なり
問 此誡を守るの心得は何なりや
答 怠らず能く働き他人の財を貪らず慈悲深くして律儀正直なることを命ぜらる
問 十誡の第九か條は如何に唱へらるるや
答 『妄證する勿れ』
問 神は此誡を以て如何なることを禁じ給ふや
答 偽りの證を立つること及び総て偽りを云ふことを禁じ給ふ例令ば裁判に於て偽りの證拠を為すこと讒言すること誣ゆること譏ること悪ざまに吹聴すること嘲ること等なり
問 誓を為して偽りの證を立つるは如何なる罪なりや
答 是れ第九の誡と第三の誡を破る者にして其罪最も重し
問 此誡を守るの心得は何なりや
答 常に義きを言ひ『舌を禁へて悪を言はず唇を緘て詭譎を言はざらんことをせよ』〔彼前三の十〕
問 十誡の第十か條は如何に唱へらるるや
答 『隣人の妻及び其僕婢牛驢等並に凡て隣人の物を貪る勿れ』
問 神は此誡を以て如何なることを禁じ給ふや
答 他人に対し唯だ悪きことを行ふことのみならず少しにても其心に悪きことを行はんとする思と望を起すことをも禁じ給ふ
問 此誡を破るの罪は何なりや
答 嫉妬姦淫貪婪なり
問 此誡を守るの心得は何なりや
答 我等は神の授け給ひし分限を以て満足し又他人に対しては親切を行ふべきことなり
- 十誡は信経と同じく祈祷の文にはあらず然れども信徒たる者は能く之を心に記し此誡に照らして其行を矯正すべし若し一日中此誡を破らざりし時は其恩を神に感謝すべし又此誡を破りし時は真実其罪を懺悔して以後再び之を破らざることを奴むべし
正教要理問答 終