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楫枕 作者:橘遅日庵
空艪(からろ)押す水の煙のひとかたに、靡きもやらぬ川竹(かはたけ)の、うきふし繁(しげ)き、繁き浮寝(うきね)の泊(とま)り舟。寄るよる身にぞ思ひ知る。浪か涙か苫(とま)洩(も)る露か、濡(ぬ)れにぞぬれし我が袖の、絞る思ひをおしつつみ、流れ渡りに浮れて暮らす、心尽(こころづく)しの楫枕(かぢまくら)。さして行衛の遠くとも、遂(つひ)に寄る辺は岸の上(うへ)、松の根(ね)堅(かた)き契りをば、せめて頼まん頼むは君に、心許して君が手に、結びとめてや、千代よろづ代も。
この作品は1929年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメインの状態にあります。