61.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 女性は蠍である。その鋏は甘い。


62.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 功績は最初の(行為をした)者にあるが、挨拶されたときは、それより良い挨拶を返しなさい。手助けしてもらったら、それより良いお返しをしなさい。


63.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 仲介は求める者の翼である。


64.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 この世の人々は、眠っている間に運ばれる旅人のようである。


65.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 友達がいないというのは奇妙なことである。


66.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 必要なものを欠くのは、不適当な(ふさわしくない)人に請うよりも楽である(心配がない)。


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67.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 与えるものがわずかでも恥じるな。拒絶するのはそれより狭量なのだから。


68.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 喜捨は貧困の装飾である。(アッラーへの)感謝は富の装飾である。


69.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 意図したことがそのときに起こらなくても、あなたの状態を心配するな。


70.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 あなたが見つけるのは無知の人ではなく、両極端な人である。(怠慢な人か大げさにする人)


71.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 知性が増すと、発言は減る。


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72.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 時間は身体を消耗し、願望を再び新しくし、死を近づけ、大志を取り除く。それに成功した者は、深い悲しみに直面する。それの恩恵を見落とした者は、苦難を体験する。


73.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 人々の指導者となる者は、他者を教育する前に己を教育することから始めなければならない。舌で教える前に、己の行為で教えなければならない。己を教育する者は、他者に教える者よりも尊敬される資格がある。


74.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 人の呼吸は死への一歩である。


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75.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 数えられるものはみな過ぎていく。予期されることは必ずやって来る。


76.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 物事がばらばらのときは(混乱したときは)、先の物事によって最後の物事が正しく理解されねばならない。〈注1〉

注1:農耕者は種を見て、何の植物、果実、花、葉になるかがわかる。同様に、学生の成功はその労働と努力を見ることで推測できる。失敗した学生については、その学生の怠惰を見ることで推測できる。始まりは結末を示すからである。従って、物事の終わりが見えないときは、始まりを見るべきである。始まりが悪ければ終わりも悪くなり、始まりが良ければ終わりも良い。


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77.ディラール・イブン・ハムザ(正確にダムラ)アッ・ディバービー(もしくはアッ・スダッイー)〈注1〉がムアーウィヤの許に出向くと、ムアーウィヤは彼にアミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―のことを尋ねた。彼は言った。 証言する。わたしは夜が深まった頃、何度か彼を見た。彼はモスクの隅に立ち、髭をつかんで蛇にかまれた人のように低い声でこう言っていた。

おお、現世よ、おお、現世よ! わたしから離れなさい。なぜ、わたしの前に居るのか? それとも、わたしのために強く願っているのか? わたしを感心させる機会はないだろう。騙すなら誰か他の者を騙せ。お前に関心はない。わたしは三度、お前と絶縁したのだ。その後で戻らない。お前の命は短い。お前にはわずかの重要性しかない。お前を好むことは重要ではない。ああ、悲しや! 備えは少ない。道は長い。旅路は遠い。目的地への到達は困難なのである。

注1:アミール・アル=ムウミニーンの教友の一人。 アミール・アル=ムウミニーンの死去後、シリアに行き、ムアーウィヤと会った。ムアーウィヤが「アリーを説明してみよ」と言い、彼は「返答は勘弁してもらえないか」と答えたのだが、「アリーのことを説明しなさい」と命じるので、ディラールは言った。 「仕方がない。ならば、このことを知っておかれよ。アリーの人格に限界はなく、力は猛烈、発言は断固とし(明白)、彼の判定は正義に基づき、知識はあらゆる方角へ広がり、叡智は彼のすべての行為に顕れていた。彼の最も好んだ食事は粗食、服装は短い布(慎ましいもの)だった。アッラーにかけて。彼はわたしたちの一員としてわたしたちの中にいた。彼はわたしたちの質問に答え、わたしたちの依頼にはすべて応じた。アッラーにかけて。彼はわたしたちが近くにいることを許し、彼自身もわたしたちの近くにいようとしたが、わたしたちは畏れ多くて彼に話しかけることはしなかった。また、わたしたちの心の中で彼は偉大であったから、わたしたちが最初に発言することはなかった。彼の笑顔はつながった真珠のようだった。彼は敬虔な人を敬い、貧困者に親切だった。孤児、近親、貧窮で困っている人を食べさせるために。裸足の人に衣服を与え、守護者のいない人を助けるために。彼は現世とその開花を嫌った。わたしは証言する……(サイード・アル=ラディが引用した上述の本文に続く)」


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天命について


78.男がアミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―に尋ねた。 我々がシリア人と戦ったのはアッラーの定めだったのか? アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―は詳しく返答した。以下はその中からの言葉。 あなたの上に災いあれ。あなたはそれを(行為をする運命にある)避けられない最終的な宿命とみなしている。〈注1〉そうだったとしたら、報酬も懲罰も問題ではなく、アッラーの約束も警告も意味をなさなかっただろう。(これに対して)栄光のアッラーは人々が自由意志によって行為するよう命じられた。そして警告し、(悪を)やめさせた。人々にたやすい義務を負わしになり、重い義務は課されなかった。小さな行為に対して大きな報酬を与えられる。アッラーが服従されないのは、かれが征服されたからではない。かれが服従されるのは、無理強いのためではない。かれはただ楽しみのために数々の預言者を遣わされたのではなかった。目的なしに人々に神の書を送られたのではなかった。天と地、その間にあるものを悪戯に創造されたのではない。「それは信仰のない者の憶測である。いずれ地獄の火を味わう信仰のない者こそ哀れである。(聖クルアーン38章27節)」


注1:この話の終わりはこうだ。上述の言葉の後、「我々が行かなければならなかったのは、どういう種類の天命だったのか?」と男が質問し、アミール・アル=ムウミニーンはこう言った。「カダル(天命)とはアッラーの御命令を意味する。例えば、アッラーはこう仰せになった。『あなたの主は命じられる。かれの外何者をも崇拝してはならない。(聖クルアーン17章23節)』ここでの〈カダル〉が表わしているのは、命じられたこと、である。」


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79.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 知恵ある重要な事柄は、それがどこから来たものであろうと受け入れなさい。賢明な言葉が似非信者の胸の中にある場合、それが飛び出して、その種の他のものと共に信ずる者の胸の中で落ち着くまで、彼(似非信者)の胸の中でそわそわしているからである。


80.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 賢明な言葉は信ずる者の失ったものであるから、賢明な言葉が似非信者からであっても取りなさい。


81.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 すべての人の価値は、その人の学識にある。


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82.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 あなた方に五つのことを分け与える。これらを求めて、乗った駱駝を速く走らせるなら、価値あるものを見つけるであろう。

 誰もあなた方の主(アッラー)以外に希望を抱いてはならない。自分の罪以外のことを恐れてはならない。自分の知らないことを聞かれたときは、「知りません」と言うのを恥じてはならない。知らなかったことを学ぶのを恥じてはならない。忍耐を実践しなさい。なぜなら、頭が体のためにあるように、忍耐は信仰のためにあるからだ。頭のない体が何の役にも立たないように、忍耐のない信仰は役に立たない。


83.アミール・アル=ムウミニーンを敬服していないのに非常に称賛する男について、 アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 わたしはあなたが期待すること以下、あなたが心中で感じること以上である。


84.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 剣の生存者(剣で殺されなかった人)の人数は多く、子孫が大勢いる。


85.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 「知らない」と言うのを放棄した者は、己の破滅をみる。


86.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 わたしは若者の決意よりも老人の意見を愛する。 (別の伝承では)若者の殉教よりも老人の意見を愛する。


87.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 赦しを請うのが可能なのに希望を失う人のことを、わたしは不思議に思う。


88.(イマーム)アブー・ジャーファル・ムハンマド・イブン・アリー・アル=バーキル―両者の上に平安あれ―がアミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―から聞いて語った。 アッラーの懲罰からの救出には、二つの拠り所がある。その一つは高く置かれ、もう一つはあなた方の前にある。だから、それにしっかり従いなさい。高く置かれた拠り所とは、アッラーの使徒―彼とその子孫の上にアッラーの祝福あれ―である。もう一つの拠り所とは、赦しを請うことである。栄光のアッラーは仰せになった。「だがアッラーは、あなたがかれらの中にいる間、懲罰をかれらに下されなかった。またかれらが御赦しを請うている間は、処罰されなかった。(聖クルアーン8章33節)」

サイード・アル=ラディの言葉 意味を最も美しく語ったものの一つであり、最も繊細な解釈である。


89.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 自身とアッラーの間で適切に行為する者は、アッラーが彼と人々の間の諸事を適切に保たれる。来世の物事を適切に保つ者は、アッラーが現世の物事をその人のために適切に保たれる。自分自身の説教者となる者にはアッラーの守護がある。


90.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 素晴らしいイスラーム法学者とは、アッラーの御慈悲に希望を失わせることがなく、アッラーの御好意に失望させることがなく、アッラーの懲罰から安全であると感じさせることのない者である。