当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
1 Xらの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用はXらの負担とする。
1 Yらは、X1に対し、連帯して、4414万4792円及びこれに対する平成30年3月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 Yらは、X2に対し、連帯して、4414万4792円及びこれに対する平成30年3月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 Yらは、X3に対し、連帯して、220万円及びこれに対する平成30年3月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 Yらは、X4に対し、連帯して、220万円及びこれに対する平成30年3月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
本件は、Y1株式会社(以下「Y1社」という。)に所属するアイドルグループのメンバーとして芸能活動をしていたA(以下「A」という。)の親族であるXらが、①YらがAに対して過重な活動をさせていたこと等により、Aを正常な認識等が著しく阻害される精神状態にさせ、②Y1社において、Aの高等学校への進学費用12万円の貸付けを約したにもかかわらず、同校への納付期限の直前の平成30年3月20日、Y1社の従業員であるY4(以下「Y4」という。)がAに対して上記貸付けを撤回すると伝え、③Y1社の代表者であるY2(以下「Y2」という。)が、同日、Aに対して上記グループの活動を続けないのであれば違約金1億円を支払えという趣旨の発言をしたという一連の行為(以下「本件一連の行為」という。)が違法であり、これによりAが翌21日に自死したと主張して、不法行為による損害賠償請求権(Yらの共同不法行為(各行為者ごとの責任原因としては、Y2、Y3(以下「Y3」という。)及びY4につき民法709条及びY1社につき民法715条ないし会社法350条))に基づき、更にY1社については選択的に債務不履行(安全配慮義務違反)による損害賠償請求権に基づき、Yらに対し、連帯して、X1及びX2が相続したAの死亡に係るAの逸失利益・慰謝料の損害金及びAの死亡に係るXらの固有の慰謝料等の損害金及びこれらの合計額に対する不法行為の終期である平成30年3月21日から支払済みまでの平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
なお、本件請求は、Xらが、本件一連の行為によるAの自死に係る損害の賠償を求めるものである。Xらは、本件訴訟において、本件一連の行為を構成する個々の行為(上記①ないし③の各行為)を違法行為として、さらに選択的に個別の行為に対する安全配慮義務違反(債務不履行)を理由として、これらによりAに生じた個別の精神的損害の賠償を求める訴えの追加的変更を申し立てたが、この訴えの追加的変更については不許の決定がされており、本件の審判対象にはなっていない。
1 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
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ア X側
(ア) Aは、平成13年10月23日、X2(以下「X2」という。)と当時の配偶者との間の二女として出生し、平成19年8月15日、X2の再婚に伴い、その配偶者となったX1(以下「X1」という。)と養子縁組をした(甲1、乙1)。
(イ) X3は、平成10年10月19日に出生したAの姉であり、X4は、平成19年9月21日に出生したAの弟である(甲1、乙1)。
(ウ) Bは、Aの1学年下の男子で、平成30年2月頃からAと交際していた者であり、Cは、Bの母である(甲28、29)。
イ Y側
(ア) Y1社は、平成23年6月に設立された農作物及び加工品の生産、販売、研究開発等を目的とする株式会社(農地法2条3項が規定する農地所有適格法人)であり、平成24年1月に「愛の葉」(えのは)という農園事業を開始し、同事業の広告の一環として、「愛の葉Girls」(えのはガールズ)というアイドルグループ(以下「本件グループ」という。)を結成した(甲47、乙17、100)。
(イ) Y2は、Y1社の創立当初から現在まで、Y1社の代表取締役である(乙100)。
(ウ) Y4は、Y1社の創立当初からY1社に勤務し、平成30年当時経理事務等を担当していた(乙100、102)。
(エ) Y3は、平成27年5月からY1社に勤務し、平成30年当時、広報を担当していた(乙101)。
(2) Aの本件グループにおける活動について
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Aは、平成27年6月頃(当時中学2年生)、本件グループのオーディションを受け、同年7月12日から本件グループの研修生、平成28年7月から本件グループのレギュラーメンバーとして活動し、平成29年度の本件グループにおける活動につき最優秀の個人業績であることを表彰され、平成30年1月頃に本件グループのリーダーに就任した(甲3、4、7、9、14、118、36の9)。
ア Aは、平成29年3月に中学校を卒業し、同年4月に通信制課程の愛媛県立松山東高等学校(以下「松山東高校」という。)に入学し、平成29年12月26日付けで松山東高校を退学した(甲18)。
イ Aは、平成30年2月6日、全日制の松山城南高等学校(以下「城南高校」という。)の調理科を一般入試で受験し、同月13日、合格した。その後、Aは、進学先を調理科から普通科に変更した。(甲24、乙11、弁論の全趣旨)
ウ Y1社は、Aに対し、平成30年3月20日までに、城南高校の進学に必要な施設充実費等の学費12万円を貸し付けることとしていた。しかし、Y4は、平成30年3月20日午後4時頃、Y1社の事務所を訪れたAに対し、12万円を貸し付けることはできない旨を伝え、現金12万円を交付しなかった。(乙38、X2【9 - 12頁】、Y4【4 - 6頁】。ただし、これが確定的に貸付けを撤回したものかどうかは、後記のとおり当事者間に争いがある。)
エ Aは、平成30年3月21日、同日開催された城南高校の合格者説明会に参加しなかった(乙12、弁論の全趣旨)。
Aは、平成30年3月21日、自宅で首をつって、同日午後2時19分、死亡が確認された(当時16歳)(甲49)。
Aの法定相続人は、養父であるX1、実母であるX2及び実父の3名であったが、同人らの遺産分割協議により、Aの遺産は、X1及びX2が各2分の1の割合で取得することになった(甲89、弁論の全趣旨)。
(1) 本件一連の行為が違法行為又は安全配慮義務違反に当たるか(争点1)
(2) 本件一連の行為とAの自死との間の相当因果関係(争点2)
(3) Xらの損害(争点3)
(1) 争点1(本件一連の行為が違法行為又は安全配慮義務違反に当たるか)について
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(Xらの主張)
Yらによる本件一連の行為は、以下のとおり、Aに対する違法行為に当たり、また、後記エのとおり、Yらに課せられた安全配慮義務にも反するものである。
ア Aを正常な認識等が著しく阻害される精神状態にさせたこと
(ア) Aは、平成29年4月以降、本件グループの活動を自由に休めない状況におかれた上、別紙エンジェルタッチ記載一覧をみる限りでも、本件グループの活動のために長時間拘束されていた。特に、Aは、本件グループのリーダーに就任した平成30年1月から同年3月21日までの間、高校受験の直前を含むにもかかわらず、本件グループのイベント全てに参加登録させられ、欠席が困難であったことに加えて、リーダーとしてスタッフやメンバーとのLINEのやり取り等をせざるを得ず、拘束時間が長時間で深夜に及ぶこともあり、睡眠時間や休憩時間を十分に確保できない状況であった。このように、Aの本件グループにおける活動は、肉体的及び精神的に過重なものであった。
(イ) Y3は、Aに対し、次のとおり、暴力をほのめかすなどのパワーハラスメントに当たる言動をしていたこと等により、YらはAに対し精神的な支配を行っていた。
a Aが平成29年8月30日にY2に対して本件グループから脱退したい旨を伝えたところ、Y3は、同日、Aに対し、「次また寝ぼけた事言い出したらマジでブン殴る」とLINEでメッセージを送信した。
b Y3は、同年9月25日、Aに対し、「返事せえや」とLINEでメッセージを送信した。
c Aが同年10月4日にY3に対して休日を取得したいと申し出たところ、Y3は、同日、Aに対し、「お前の感想はいらん」、「学校の判断と親御さんの判断の結果をそれぞれ教えろ(それも具体的に)」とLINEでメッセージを送信した。
d Y3は、平成30年1月15日、Aに対し、「貴方の物の考え方受け取り方、その他色々あちこちダメ出ししたい。」「世の中ナメるにも程があるぜ。」とLINEでメッセージを送信した。
(ウ) Yらは、Aが本件グループのリーダーに向いているタイプではなく、Aがリーダーの重圧から精神的に追い詰められていたことを認識していたが、Aに対して精神的なサポートや後見的な配慮を一切行わずに放置していた。また、Aは、仕事と学業とを両立させて学校に行きたいという希望を持っていたが、Yらは、Aに対して本件グループにおける活動について休暇を取得させなかった。さらに、Aは、遅くとも平成29年10月頃に本件グループを脱退したいという希望を持っていたが、Yらは、Aが本件グループを脱退することを認めなかった。
(エ) その他、YらはAに対し口外禁止や秘密保持義務を負わせて、Aが家族と相談することを躊躇させて孤立させた。また、Yらは、Aに対し、Aが忘れ物や遅刻等のミスをした場合、「制裁」と称して報酬から金銭を控除することにより精神的な圧力を加えていた。さらに、Yらは、Aに対し、安易に通信制の松山東高校を退学させ、全日制の城南高校に進学するために必要な資金を貸し付けることを提案して信頼を作出した後に、後記イのとおりY4が12万円の貸付けの撤回をするなど、Aの就学へ不当な干渉・制約を行っていた。
イ Y4が12万円の貸付けを撤回したこと
Y2は、Aに対して貸付けによる金銭的な支援を提案して全日制の城南高校への進学を勧め、AにX2及びX1との相談を十分にさせることなく、両親が学費を払わなくてもY1社から学費を借りればよいという期待及び信頼を醸成していた。また、Y1社は、Aに対し城南高校の入学金として3万円、制服及び鞄代金として6万6000円を貸し付けており、YらはAが城南高校に進学するためには平成30年3月21日までに12万円の借入れが必要であることを認識していた。
それにもかかわらず、Y4は、Aが平成31年8月末日をもって本件グループを脱退したいという意向を持ち始めたことから、貸付けの意思を翻意し、平成30年3月20日、Aに対し、「お金をお貸しすることはできません」と強く述べて、12万円の貸付けを撤回すると伝えた。これにより、Aは、12万円の貸付けが確定的に撤回されたと受け取り、Aの上記期待及び信頼を裏切った。
ウ Y2が本件グループを続けないのであれば違約金1億円を支払えと発言したこと
Aは、たびたび本件グループから脱退することを希望していたところ、Y2は、平成30年3月20日午後11時頃、Aに対し、「愛の葉を続けないのであれば違約金1億円を支払え。」という趣旨の発言をした。これは、Y2がAに対し、支払うことができない多額の金員の支払を求めることにより、Aの意思に反して本件グループにおける活動を強制させようとするものである。
エ 上記アないしウの行為(本件一連の行為)は、Aを正常な認識等が著しく阻害される精神状態にさせた上で、Aに対して進学費用の貸付けを確定的に撤回して、希望していた全日制の高等学校への進学を断念させ、本件グループでの活動を辞めることもできないという精神的負荷が強くかかる状況に追い込んで、Aを自死に至らしめた違法行為である。
また、Aは、本件グループで活動していた当時、未成年者であり、労働内容が不安定かつ過酷で、強度の精神的ストレスを受ける芸能活動に従事していたことからすると、Yらは、Aに対し、労働契約又は労働契約類似の特別な社会的接触関係にある者として安全配慮義務を負うというべきであり、具体的には、Yらは、Aに対し、①本件グループにおける活動が肉体的及び精神的に過重なものとならないように配慮すること、家族と適切に相談できるように配慮すること、制裁を用いることや制裁を予告するなどして労働を強制しないことを含むAの健康に配慮する義務、②Aの就学への希望や進路決定等の私生活上への影響に配慮して労働条件を整備し、Aの就学の機会を不当に妨げることがないようにする義務があった。それにもかかわらず、本件一連の行為を行っているものであり、これらの行為は、Yらに課せられた上記安全配慮義務に反するものである。
(Yらの主張)
Xらの主張する違法行為及び安全配慮義務違反の主張は、否認ないし争う。
ア Aを正常な認識等が著しく阻害される精神状態にさせていないこと
(ア) Aの本件グループにおける活動は、肉体的及び精神的に過重なものではない。平成29年10月以降のAの本件グループにおける活動内容及び時間は、別紙活動表記載のとおりであり、特に過重なものではない。
(イ) Xらが指摘するY3の言動は、いずれもパワーハラスメントに当たるものではなく、その他に、YらがAに対し精神的な支配を行っていた事実はない。
(ウ) Yらは、Aの心身の状況に配慮していた。YらがAに対し本件グループの活動について休暇の取得を制限したことはない。また、Aはたびたび本件グループを脱退する旨を口走ることがあったが、その場の気まぐれやYらの気を引くためのものであり、YらはAが本件グループから脱退することを制限したことはない。
(エ) AとY1社との間の契約における守秘義務条項は、Aが本件グループにおける活動を行う際に知り得た、Y1社及びその取引先に関する情報を対象とするものであり、Aが、本件グループにおける活動に関する悩みについて、Aの家族を含む第三者に相談することを制限するものではない。また、Y1社は、本件グループのメンバーに対し、ペナルティとして報酬の減額及び罰金に関する規定を設けていたが、契約書の記載どおりに適用したことはなく、遅刻等があった場合には、適宜、報酬算定の基礎となる個人別販売ポイントを裁量で各メンバーの同意を得て減少させていたにすぎない。さらに、後記イのとおり、Y4が12万円の貸付けを一時的に留保した行為は、Aを自死に至らせるような精神的負荷を与えるものではなく、その他に、Aの就学へ不当な干渉・制約をした事実はない。
イ Y4は12万円の貸付けを一時的に留保したにすぎないこと
(ア) 学費を拠出するなど、子の教育に必要な措置は、Aの親権者が講じるべきであり、Yらには、Aが城南高校へ進学するため、Aに対し金員を貸し付けるべき法的義務はない。
(イ) Y4は、平成30年3月20日、Aに対する12万円の貸付金を準備していた。
しかし、X2は、同日午前10時頃、部屋の片づけや帰宅時刻などのAの生活態度に関して、Y4に相談し、Y4がAに対して生活指導を行うことになった。X2は、その際、Y4に対し、AがY1社からの借入金はアルバイトをして返せばよいと述べており、これでは、本件グループの活動と学業を両立できるように学費を貸し付けてくれるY2の好意を無下にすることになると伝えた。
これを受けて、Y4は、同日午後4時頃、Aに対し、Y1社の事務所において、X2の同席の下で、部屋の片づけや帰宅時刻等のAの生活態度に関して注意し、アルバイトをして返済するつもりであれば貸し付けることはできない旨を伝え、Aに反省を促すため、その場では、封筒に入れて用意していた現金12万円を交付することはなく、もう一度考えてからY2に連絡するよう伝えて、城南高校への進学に必要な12万円の貸付けを一時的に留保した。
その後、Y4は、Y2に対し、Aとの上記会話を報告して、Y2からAに対して、同日中に貸付金12万円をAに渡すことを依頼し、Y2に現金12万円を預けた。また、Y4及びY2は、同日中に、X2に対し、Y1社がAに対し12万円を貸し付ける意思があることを伝えており、Yらは12万円の貸付けを撤回したものではない。
ウ Y2の発言について
Y2が、Aに対し、「愛の葉を続けないのであれば違約金1億円を支払え。」と発言した事実はなく、Aがそのように受け取るような趣旨の発言をした事実もない。
エ 上記アないしウのとおり、Yらは、Aを正常な認識等が著しく阻害される精神状態にさせたことはなく、Y2がAに対し違約金1億円を支払うよう発言したことはない。Aの進学に必要な12万円の貸付金も一時的に留保したにすぎず、これをもってAに対する違法行為又は安全配慮義務違反に該当することはない。
また、Yらは、X2がAの城南高校への進学に反対していることを認識しておらず、その後、X2がAに城南高校進学を断念させることなど予見できなかったものであり、Aが城南高校へ進学できなくなる結果を生じさせない注意義務を負っていたともいえない。
(2) 争点2(本件一連の行為とAの自死との間の相当因果関係)について
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(Xらの主張)
前記(1)(Xらの主張)のとおり、Yらは、本件一連の行為により、遅くとも平成30年3月19日までに、Aを正常な認識等が著しく阻害される精神状態に追い込んだ上で、同月20日のY4による12万円の貸付けの撤回により、Aは希望していた城南高校への進学の道が断たれ、また、同日のY2による違約金1億円の支払を求める趣旨の発言により、本件グループを辞めることもできなくなり、自死を選択せざるを得ないほど強い精神的負荷を受けたもので、Aが自死をする原因は、本件一連の行為以外には見当たらない。
したがって、本件一連の行為とAの自死との間には相当因果関係がある。
(Yらの主張)
Xらの主張は、否認ないし争う。前記(1)(Yらの主張)のとおり、Yらの行為により、Aが自死を選択せざるを得ないほど強い精神的負荷を受けたとはいえない。
Aは、通信制の松山東高校を退学し、当時交際していたBと共に全日制の城南高校に入学することを希望していたが、X2は、Aが城南高校に入学することを反対していた。X2は、平成30年3月20日、Y4がAに対して12万円の貸付けを一時的に留保したことに乗じて、同月21日、Aに対し、制服の購入のキャンセルや城南高校へ入学辞退の連絡をするよう指示するなどした。これにより、Aは、城南高校への入学辞退という現実を突き付けられ、大きな精神的負荷を受けた。このように、Aは、城南高校への入学が突如断たれたことによる絶望感や城南高校へ進学する旨を伝えていた周囲の者に対する気まずさを覚え、これらに耐えられず自死に至ったものである。
以上によれば、Yらの行為とAの自死との間に相当因果関係はない。
(Xらの主張)
本件一連の行為によりAが自死したことによるXらの損害は、以下のとおりである。
ア X1及びX2 各4414万4792円
(ア) Aに生じた損害を相続したもの
逸失利益4576万3259円(平成29年の賃金センサスにおける女子・産業計・全学歴計・全年齢平均年収377万8200円を基礎として、これに生活費控除率30%を乗じ、就業可能年数49年に対応するライプニッツ係数17.3035を乗じた金額)及び死亡慰謝料2500万円の合計7076万3259円について、X1、X2及びAの実父の間の遺産分割協議により、X1及びX2が各2分の1を相続していることから、X1及びX2は、それぞれ上記合計額の2分に1に相当する3538万1629円を相続により取得した。
(イ) X1及びX2に生じた固有の損害
親権者としての慰謝料として各400万円及び葬儀費用の2分の1相当額として各75万円の合計475万円
(ウ) 弁護士費用 各401万3163円
(エ) 合計 各4414万4792円
イ X3及びX4 各220万円
(ア) Aの姉弟としての固有の慰謝料 各200万円
(イ) 弁護士費用 各20万円
(ウ) 合計 各220万円
(Yらの主張)
争う。
1 認定事実(前記前提事実のほか、掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。)
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ア Aは、平成27年6月頃(当時中学2年生)、本件グループのオーディションを受けて合格し、本件グループの研修生として活動を開始した。その際、AとY1社は、①同年7月12日付けで「愛の葉ガールズチームE研修生契約」(甲3)を締結した。その後、AとY1社は、②平成28年1月25日付けで「タレント専属B(研修)契約」(甲4)を締結した。(前提事実(2)、甲3、4)
Aは、平成28年7月から本件グループのレギュラーメンバーになった。その際、AとY1社は、③同月1日付けで「タレント専属A(レギュラー)契約」(甲7)を締結し、Aの活動には報酬が生じるようになった。その後、AとY1社は、④同年12月15日付けで「『愛の葉ガールズ』レギュラーメンバー トレーニング及び専属マネジメント契約」(甲9)を、⑤平成29年10月15日付けで「『愛の葉ガールズ』レギュラーメンバー トレーニング及び専属マネジメント契約」(甲14)をそれぞれ締結した。(前提事実(2)、甲7、9、14)
イ 上記ア①から⑤までの各契約には、その条項の内容に差はあるものの、Y1社から得た情報についての守秘義務に関する規定があるが、上記ア⑤の契約では、タレント活動その他により知り得たY1社の機密その他営業に係る情報を家族を含む他者に開示してはならないとされ、また、平成28年12月15日付けでAとY1社で締結された「業務秘密保持契約」(甲10)においては、Aが知り得たY1社又はY1社の取引先等からAに開示された情報で公には入手できない情報を家族及び第三者に開示してはいけない旨が規定されていた。
上記ア③から⑤までの各契約(Aの活動に報酬が発生する契約)には、ペナルティ料に関する規定があり、上記ア⑤の契約においては、本件グループの活動でY1社が出演メンバーを選定したものに正当な理由なく欠席した場合には、1回で当月の報酬の5割をカットする旨の定めがあった。また、上記ア⑤契約においては、Aによる契約の解除は、あらかじめ3か月前に書面で申出を行い、解除後1年間はタレント活動を行わない旨の規定もあった。
Y1社は、Aに対し、上記ペナルティ料に関する規定をそのまま適用したことはないものの、Aが活動に遅刻した場合等において、ペナルティとしてAの報酬又は報酬の算定の基礎となるポイントを減少させたことがあった。
(以上につき、甲3、4、7、9、10、14、15、27の1 - 27の9、乙100、112【23頁】)
ウ このほか、Aは、Y1社に対し、平成28年1月25日付けで、業務上知り得た情報について漏洩しないこと等を規定した「秘密保持及びインターネット・ソーシャルネットワーキングの利用に関する誓約書」(甲5)を提出した。また、X2は、同年7月29日、X2が、本件グループに関わることについて、保護者間で話をしないこと等が規定された覚書を締結した。(甲5、16)
本件グループのメンバーの活動は、イベントの参加及びレッスンの2つがあり、その活動予定は、エンジェルタッチと呼ばれるネットワークシステムを利用して管理されていた。
平成29年4月から平成30年3月までのAの本件グループにおける活動は、大要、別紙エンジェルタッチ記載一覧のとおりである。また、この活動時間には休憩時間等が一定程度含まれている。
(以上につき、甲31の1~34、乙26ないし32、112【19、20頁】、弁論の全趣旨)
(3) 本件グループの活動に関するAと関係者とのやり取り等
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ア Aは、平成29年8月26日、Y2に対し、本件グループのメンバーに不満があり、本件グループを辞めたいと相談した(甲35の1・2)。
イ Aは、平成29年8月30日午後7時42分、Y3に対し、LINEで「脱退する事をやめました。これからも愛の葉ガールズを続けます。いろいろと心配をおかけしてすみませんでした。これからもよろしくお願い致します。」とメッセージを送信した。これに対し、Y3は、同日午後7時50分、「次また寝ぼけた事言い出したらマジでブン殴る(*゜-゜)=o)゜o゜)パンチ!」と返信した。(甲20、乙35)
ウ Y3は、平成29年9月25日、Aに対し、LINEで、「今週中に事務所来られる日ない?」とメッセージを送信したところ、返信がなかったことから、同日午後6時13分頃、再度、「返事せえや」とメッセージを送信した。これに対し、Aは、同日午後6時23分頃、「お疲れ様です!すみません!見落としてました!」「今週の水曜日レコーディングの時に事務所に行きます!」と返信した。(甲23)
エ Aは、平成29年10月4日、Y3に対し、LINEで、過去に本件グループのイベントに参加するため松山東高校の遠足を休んだことがあり、今回は松山東高校に通学するため本件グループの活動を休む旨のメッセージを送信した。これに対し、Y3は、「お前の感想はいらん。学校の判断と親御さんの判断の結果をそれぞれ教えろ。」、「何故学校がダメと結論したのか、親御さんがダメと判断したのか、その理由だ。」、「その理由によって、今後事務所はお前の出演計画を考えにゃならん。そこまで考えて物を言え。」、「具体的にな。単位がどれだけ足りないからもう休めない、とか」などと返信した。(甲21)
オ X2は、平成29年11月29日、Y1社のDに対し、平成30年1月1日に8年ぶりにAの実父の実家へ帰省するため、同日、本件グループでのAの活動を休ませたいと相談した。これに対し、Dは、事情は理解できるが、全国区のタレントを目指していく上で、元旦のような世間的に特別な日こそ活動すべきであり、X2にも応援してもらいたいと返答した。(甲26の1・2)
カ Aは、平成30年1月15日、Y3に対し、LINEで、本件グループのメンバー同士でミーティングを行い、東京アイドルフェスタ(TIF)に出場しないことに決まったが、Aとしては納得がいかない旨のメッセージを送信した。これに対し、Y3は、「うん。俺もお前に対して色々納得いかん。なので、また話し合おう。」と返信した。続いて、Aは、「私に対してですか!?分かりました!いろいろ教えて下さいm(_ _)m」と返信した。さらに、Y3は、「うむ。貴方の物の考え方受け取り方、その他色々あちこちダメ出ししたい。というか今の貴方の考え方、やり方で本気で全国いけると思ってる?世の中ナメるにも程があるぜ。まあ詳しくはまた話しするわ。」と返信し、その後、本件グループが全国規模で有名になるために不足している点を見つけ、それを補う練習をしていくこと等を指摘した。(甲22、乙34、37)
キ Aは、X2に対し、平成30年2月11日には、「リーダーしんどい。」、同年3月7日には、「ほんとにげんかい!!」「本気で愛の葉やめたぃ。」などとLINEでメッセージを送信した(甲46、131の2)。
(4) Aが城南高校を受験した経緯等について
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ア Y2は、平成29年6月頃、Aに対し、通信制の松山東高校を退学し、全日制の城南高校へ進学することを提案し、Aも城南高校への進学を希望するようになった(Y2本人【19~21頁】)。
イ その頃、Aは、X2に対し、松山東高校を退学し、城南高校へ進学することを希望していることを伝えた。これに対し、X2は、Aが城南高校へ進学する学費について、X2やX1において協力する旨伝えることはなかった。
Y2は、Aから、X2及びX1から高校の学費の協力が得られないことを聞き、平成29年12月頃までに、Aに対し、Aが全日制の高等学校へ進学する場合には、Y1社が進学に必要な費用を貸し付けることを約束した。
(以上につき、乙100【37頁】、X2本人【39~44頁】、Y2本人【21、23、24頁】)
ウ Aは、X2及びX1に事前に報告することなく、平成29年12月26日付けで松山東高校を退学し、この頃、X2は、Aに依頼され、Aが城南高校に提出する入学願書を作成した(甲18【11頁】、乙100【34頁】)。
エ Aは、平成30年2月6日、全日制の城南高校の調理科を一般入試で受験し、同月13日に合格した。この頃、Aは、Bと交際しており、同人は推薦入試を経て城南高校へ進学することが決まっていた。Aは、Bと城南高校へ進学することを楽しみにしていた。(前提事実(3)イ、甲28、証人B【7、8、15頁】)
オ 城南高校は、一般入試による合格者の入学手続について、入学金3万円の支払期限を平成30年2月23日、施設充実費5万円の支払期限を同年3月22日とし、合格者説明会を同月21日と定めていた。城南高校は、上記各支払期限までに支払がない場合には、入学の意思がないものとして入学許可を取り消すこととし、合格者説明会に無断欠席した場合には、入学辞退とみなすとしていた。(乙12)
カ Aは、平成30年2月15日、Y2に対し、城南高校の学費のことについて改めて相談したい旨を伝えた。また、Aは、平成30年2月20日、X2に対し、城南高校の学費を支払うために消費者金融業者から借入れをすることはできないか、Y1社から借金したとしても、返済期限を決めることが困難であること、城南高校へ進学した後は内緒で働いて稼がないと毎月の学費の支払ができないこと、Aが銀行でお金を借りることはできないか等を記したメッセージを送信した。(甲45、105の1・2、144)
これに対し、X2は、同月21日、城南高校及び松山市教育委員会に電話し、奨学金の借入手続について確認した(甲81、82、103)。
その後、Aは、進学先の学科を普通科に変更した(前提事実(3)イ)。
キ Y1社は、平成30年2月21日、Aに対し、入学金として3万円を貸し付けた。この際、Y4から保証人の要否についての話はなく、何らの書面も作成されなかったが、その後、Y4からY2に対し、借用書を作成しておく必要がある旨が伝えられ、Y4が借用証書の案を作成した。
X2は、同月22日、Y4に対し、Aが、Y1社から、同月末までに制服及び鞄代金として6万6000円、同年3月20日までに12万円(学用品代5万円、施設充実費5万円及び寄付金2万円)をそれぞれ借り入れることを申し出た。これを受けて、Y4は、同年3月1日、X2をY1社の事務所に呼び出した上で、同席したAに対し、制服及び鞄代金として6万6000円を貸し付けた。また、Y4は、X2に対し、Aに貸し付けることになる合計21万6000円について、Y1社からの報酬や奨学金等により弁済する旨が記載され、保証人欄が設けられた「高校入学に係る費用の借用証書」と題された書面(甲25)を手渡し、Aが未成年者なので、保護者であるX2にAの保証人になってもらうこと、証拠として借用証書を作成することを伝え、同月20日に予定している残りの12万円の貸付けの際に上記借用証書に署名押印して差し入れるよう依頼した。
(以上につき、甲18、25、乙38、102、X2本人【5頁】、Y2本人【28、29頁】、Y4本人【12頁】)
なお、A及びX2は、同月20日付けで、上記借用証書の本人欄にA、保証人欄にX2がそれぞれ自署して押印したが、Y1社及びY4には差し入れなかった(甲25)。
ク その後、Aは、AとY1社との契約書を探し始め、同月19日頃、これを発見した(甲106、乙38)。
同月19日には、Aは、Y4に対し、LINEで、借入金について月の報酬からいくら返済に回されたか、借入金の弁済期限がいつになるかを確認するメッセージを送付した(甲38)。
ア X2は、平成30年3月20日頃までに、Y4に対し、Aの生活態度が良くないことや、Aが契約は更新せず、城南高校の学費に充てるY1社からの借入金は、アルバイトをして返せばよいと述べていること、X2からAに対し、お金を借りて契約更新しないのは人としてどうなのかという趣旨の話をしていること等を伝えた。これに対し、Y4は、Aに対し説教をしてよいかを尋ねたところ、X2はこれを了承した。(甲18、乙38、X2本人【8~9、29頁】、Y4本人【2~5頁】)
イ A及びX2は、平成30年3月20日午後4時頃、高校進学費用の残りの12万円を借りるために、Y1社の事務所を訪問した。
Y4は、同事務所の応接室において、X2の同席の下、Aに対し、門限の午後10時を守っておらず帰宅時間が遅いこと等の生活態度の問題点を指摘して注意した。Aは、Y1社との契約期間が終わったら、本件グループを辞めるが、それまでに研修生を自分のレベルまで上げること、借りたお金はアルバイトをして返すこと等を話したことから、Y4は、今辞めることを考えるべきではなく、他に考えることがあることを指摘し、中途半端な考えの人にはお金を貸せないと強い口調で述べて、Aに対して12万円を交付しなかった。Aは、落ち込んだ様子で、Y1社の事務所から退出した。
A及びX2は、X4が待つゲームセンターまで車で行き、その後、Aは、ゲームセンターから一人で帰宅した。
(以上につき、甲18、455、乙38、102、X2本人【9~12頁】、Y4本人【4~6頁】、Y2本人【13頁】)
ウ Aは、同日午後5時22分頃から午後6時15分頃までの間、自らのスマートフォンで、「簡単に死ぬ方法」などの自死の方法に関するウェブサイト及び「中卒で取得できる資格一覧」に関するウェブサイトを閲覧した(甲30)。
エ Y4は、同日午後6時頃、自宅にいたY2に電話を掛けて、Aに注意をして12万円をその場では交付しなかったことを報告した上で、後にAからY2に連絡があるはずであること、Y2の自宅に12万円を持参するから、本日中にAに渡すよう伝えた。その後、Y4は、Y2の自宅に12万円を持参した。(乙100、102、Y4本人【7頁】)
オ X2は、同日午後8時頃に帰宅したが、その際、Aは、玄関先でBと一緒にいた。その後、A、B及びX2は、Aの部屋に行き、Aの今後について約2時間にわたって話し合いをした。この話し合いの中で、X2は、Aに対し、高校への進学を諦めるよう勧め、Aは、城南高校への進学を諦めることとなり、本件グループも辞めるとの話題も出た。その後、Aは、Bの自宅に泊まりに行った。(甲18、28、証人B【3、4、10~11、13~14頁】、X2本人【31~33、38~39頁】)
カ Y4は、同日午後9時32分にY2に電話したところ、Aからの連絡はないとのことだったので、同日午後9時34分、X2に電話し、A自らY2に連絡するよう伝えるとともに、貸付け予定の現金12万円は準備しているが、Aには話さないように言った(甲18、乙102、110)。
キ Aは、同日午後9時45分から50分頃にかけて、友人に対して、愛の葉でいろいろなことがあり、城南高校への進学を辞退する旨のメッセージを送信した(甲112の1)。
ク Y4は、同日午後9時59分頃、X2に対し、「どういう話になったか、できれば10時半までに連絡ください」とメッセージを送信し、X2は、AからY2に連絡させると返信した。X2は、同日午後10時23分頃、Y4に電話をし、その際、Y4は、AからY2に電話をするよう再度伝えた。
同日午後10時30分頃、X2とY2は電話で話をした。その際、Y2は、Aに貸す予定だった12万円は自分が持っているので、AにY2へ電話するようX2に依頼した。その後、X2は、同日午後10時48分頃から同時58分頃までの間、Aに対し、Y2に急いで電話をするようメッセージを送信し、Aは「はい」と返信した。
(以上につき、甲18、105の3・4、乙38、100、110、X2本人【15、16頁】、Y4本人【7~9頁】)
ケ AとY2は、同日午後11時8分頃から、3回に分けて合計約20分間にわたり電話で会話をした(甲37)。また、AとX2は、同日午後11時25分頃、約2分間にわたり電話で会話をした(甲105の4)。その後、AとY4は、同日午後11時30分頃、約8分間にわたり電話で会話をした(甲38)。
コ Aは、平成30年3月21日午前7時31分、Cに対し、城南高校を辞退する旨をLINEで伝えた(甲110の1・2)。
サ Aは、同日午前8時2分頃、X2に対し、LINEで、「どうやっていく…?」とメッセージを送信し、これに対し、X2は、「どこに」、「定時か通信にしたんやろ?」と返信した。Aは、「そや」と返信し、さらに、当日、本件グループのイベントが行われる場所を送信したことから、X2は、自転車で行けばよい旨回答した。
さらに、X2は、同日午前8時48分頃、Aに対し、「制服キャンセルでいいんやろ?」とメッセージを送信し、これに対し、Aは、「うん」と返信した。その後、X2は、同日午前9時58分頃、Aに対し、「高校には必ず電話」、「まためんどうになるよ!やる事やらな」とメッセージを送信したが、Aがこれを見ることはなかった。
(以上につき、甲18、105の5・6)
シ AとBは、Cの運転する車でBの自宅から車でAの自宅へ向かい、Aは帰宅した。その後、Bは、城南高校の合格者説明会に参加した。Aが帰宅した後、Aは、リビングで、X2やX4と過ごしていたが、同日午前9時40分頃、X2、X1及びX4がゲームセンターに出掛けたため、その後、Aは、自宅で一人となった。(甲18、455、証人B【4~5、7頁】)
ス この間、Y3は、同日午前9時23分頃、Aに対し、LINEで、城南高校の合格者説明会が終わったら電話するようメッセージを送信した。これに対し、Aは、同日9時32分頃、「学校に行かないことになりました」と返信した。その後、Y3は、午前9時34分頃、Aに対し、電話を掛けて約1分間会話をした。(甲39)
セ Aは、同日午前9時40分頃、自身のスマートフォンで、自死の方法に関するウェブサイトを閲覧した(甲48)。
ソ Aは、午前9時48分頃、Bや他の友人に対し、「いつもありがとう」などとメッセージを送信した(甲40、41)。
タ Aは、その後、自宅で首をつって自死した(前提事実(4))。
2 争点1(本件一連の行為が違法行為又は安全配慮義務違反に当たるか)について
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(1) Xらは、本件一連の行為、すなわち、Yらが、①本件グループで過重な活動等をさせて、Aを正常な認識等が著しく阻害される精神状態にさせ、②Y4がAに対する高校進学費用12万円の貸付けを撤回し、③Y2が本件グループを辞めるなら違約金1億円を支払えという趣旨の発言をしたという一連の行為が違法又は安全配慮義務に違反し、これによりAが自死を選択せざるを得ないほど強い精神的負荷を受け、自死に至ったと主張する。
(2) そこで、まずはAの本件グループでの活動について検討する。
ア 前記1(2)の認定事実によれば、本件グループの平成29年4月から平成30年3月までの活動状況は、大要、別紙エンジェルタッチ記載一覧のとおりであるところ、時期によって繁忙度が異なるものの、概ね、1週間のうち、平日3日間の夕方から午後9時ないし10時頃までにレッスン等を行い、土曜日、日曜日及び祝日にイベント等を行っているが、土日祝日においてもイベントのない日もあり、また、これらの活動時間には休憩時間等が一定程度含まれていることが認められる。
Aは、平成30年当時は本件グループのリーダーであり(前提事実(2))、上記活動時間以外にも、Y1社の関係者やメンバーと連絡を取り合う等の付随的な活動を行っていたことは認められるが(甲148ないし439)、その連絡の内容をみても、Aが精神的な負担を感じていたことを窺わせるものではなく、本件グループにおける活動時間及びその内容がAにとって精神的負荷を受けるほどに過重であったとまでは認められない。
イ また、Aは、X2やY2に対し、本件グループを辞めたい旨述べることがあったことは認められるが(認定事実(3)ア及びキ)、このような意向が恒常的に示されていたわけではなく、苦楽を伴う本件グループの活動中に感じた消極的な感情をその都度表現していたという域を出ないというべきである。
ウ Xらが指摘するY3等のAに対するメッセージ(認定事実(3)イないしカ)については、確かに、「マジでブン殴る」、「お前の感想はいらん」といった強い文調で粗野な表現が含まれているものの、他方で、そのような表現の後に絵文字が含まれていたり、具体的な指導内容が述べられているものもあり、メッセージ全体を通してみると、本件グループの活動に関して、Aを叱咤して奮起を促す趣旨と解される。そして、これらのメッセージは、遅いものでもAが自死した平成30年3月21日から2か月以上前に送信されており、Y3等のメッセージにより、平成30年3月20日頃、Aが精神的に追い詰められていたとはいえない。
その他、Xらが指摘する守秘義務も、前記1(1)の認定事実によれば、Y1社や取引先に関する営業活動上の機密事項を対象としているものといえ、Aが家族等に対して本件グループにおける活動について相談することを制限するものとはいえず、ペナルティに関する規定もその適用が現実化したとはいえないことからすると、AとY1社との間で締結されたタレント契約等の契約条項によってAに具体的な不利益ないし精神的負担が生じたとも認められない。
エ そして、Aの自死の前日以降の事実経過(認定事実(5))において、Aが本件グループの活動に精神的負担を感じていたことを示すLINE等のやり取りが見当たらないことも併せ考えると、Aが本件グループでの活動により、正常な認識等が阻害される程度の強い精神的負荷がかかっていたとは認められない。
(3) 次に、高校進学費用12万円の貸付けに関するやり取りについて検討する。
ア 前記認定事実によれば、Aは、平成30年2月当時、既に松山東高校を退学し、交際相手のBと同じ城南高校に進学することを楽しみにしており、進学費用についてはX2やX1から協力を得られず、消費者金融からの借入れ等も模索する中で、最終的にY1社から貸付けを受ける予定であったところ(認定事実(4)イないしキ)、同月20日午後4時頃、Y4から同月21日が納入期限であった城南高校の進学費用の12万円を貸すことができないと伝えられて、落ち込んだ様子であり、その直後である同日午後5時22分頃からインターネットで自死の方法を調べていたことが認められる(認定事実(5)イ、ウ)。このような事実経過に照らすと、Aは、Y4の発言を相当程度重く受け止めたことは否定できない。
イ しかしながら、Y4は、X2からAの生活態度等について相談を受け、X2の了承を得た上で、Aに対し、X2から聞いていたAの生活態度や考え方の問題点を指摘して、そのような考え方では12万円を貸し付けることはできない旨を伝えたものであること(認定事実(5)ア、イ)からすると、考え方を改めれば、再度、貸し付けてもらえる余地があることは、Y4の発言からも十分に認識できたといえる。そして、Y4は、現に、A及びX2と話した直後に、準備していた12万円をY2に手渡しており、その後も、Y4からX2に対し、複数回にわたりAからY2に連絡するよう伝えていること(認定事実(5)エ、カ、ク)からも、Y4は、X2からの相談を踏まえ、Aに反省させた上でY2からAに貸付金を交付させる意図を有していたことは明らかである。
そうすると、本件におけるY4の対応は、X2の相談内容を踏まえて、X2の了承を得た上で、Aに対して生活態度や考え方を改めるよう指導する趣旨で行ったものということができ、その後のY4の言動も踏まえると、12万円の貸付けについても一時的に留保する趣旨で、これを交付しなかったものということができる。そして、Y4による12万円の貸付けの留保がされる以前に、Aが自死する可能性があったことを窺わせる具体的な兆候も何ら表れていないこと(弁論の全趣旨)からすると、Y4による上記貸付けの留保は、Aがこれを重く受け止めた面はあるものの、その客観的な態様に照らせば、X2の了解を踏まえた指導の範疇を超えるものであるとは認められない。
(4) 最後に、Y2による違約金に関する発言の有無について検討する。
ア Xらは、Y2が、平成30年3月20日午後11時頃、Aに対して本件グループを辞めるなら違約金1億円を支払えという趣旨の発言をした旨を主張する。
イ 確かに、前記認定事実によれば、Bも同席した同日のAとX2との話し合いの結果、Aが城南高校への進学を諦めるとともに、本件グループを辞めることが話題になっており(認定事実(5)オ)、また、CがAを自宅に送る車内で、AがY2から本件グループを辞めるなら違約金1億円を支払えと言われたと述べていた旨のB及びCの供述等(甲28、29、証人B)はある。
しかしながら、Y2は、Aが死亡した直後から一貫して、違約金として1億円を支払えとの発言をしたことについては、明確に否定する供述をしているところ(甲445の各枝番、Y2本人)、上記のB及びCの供述等の他にY2から上記発言がされたことを的確に示す証拠はない。また、B及びCの供述等によっても、Y2がいかなる経緯ないし文脈で上記の発言をしたかは具体的に明らかではない。
むしろ、前記1(5)の事実経過に照らすと、当時のAと関係者とのやり取りは、城南高校への進学の可否が中心になっており、Aが同日午後9時45分頃に友人に送ったメッセージにおいても、城南高校への進学を辞退することが伝えられているものの、Aが本件グループを辞めることは伝えられておらず、A自身も、平成30年3月21日朝のX2とのLINEでのやり取りの中で、何らの前置きもなく、同日開催される本件グループのイベントに出席することを前提とするやり取りをしていること(認定事実(5)カ、キ、ク、サ)からすると、同月20日のAとY2との電話において、本件グループからの脱退やそれに伴う違約金が1億円であるとのやり取りがされたというのは、不自然な面があることは否定できない。また、Aは、同月21日、Cの運転する自動車で帰宅した後、リビングでX2と一緒にいたのであり、X2が出かけるまでの間に、X2に、Y2から発言された内容について話す機会があったにもかかわらず、X2に対して、Y2から違約金1億を払うように言われた旨の話は何らしていない(認定事実(5)シ、弁論の全趣旨)。
そうすると、平成30年3月20日のBも同席したAとX2との話し合いにおいて、本件グループを辞めることが話題になっていたとしても、その後のY2との話において、Aが本件グループを辞める話が出ていたかについては、疑問の余地があるといわざるを得ない。Aとしては、上記20日のBも同席したX2との話し合いの席で、Aが本件グループを辞めるという話題が出ており、車内にはBもいたことから、前日の話し合いの内容と辻褄を合わせつつ、城南高校への思いを整理するために、Y2から本件グループを辞めるなら違約金として1億円支払えと言われたとの強い表現をした可能性も否定できず、上記B及びCの供述等をもって、Y2がAに対し、本件グループを辞めるなら違約金1億円を支払うよう発言したと認定することはできない。
ウ 以上によれば、Y2が、Aに対し、本件グループを辞めるなら違約金1億円を支払えという趣旨の発言をしたとは認められない。
以上によれば、本件一連の行為のうち、Y2がAに対し本件グループを辞めるなら違約金1億円を支払えという趣旨の発言をしたとの事実は認められない。また、Aが本件グループでの活動により、正常な認識等が著しく阻害される精神状態に追い込まれるほど強い精神的負荷がかかったとは認められず、さらに、Y4による高校進学費用12万円の留保についても、X2の相談内容を踏まえ、同人の了承の下で行ったものであり、指導の範疇を超えるものとまでいうことはできない。そして、本件一連の行為(Y2の違約金に関する発言を除く。)の全体を通してみても、本件グループでの活動が前記(2)の程度にとどまり、Aに強い精神的負荷がかかっていたとはいえないことからすると、その後のY4の発言をも一体のものとして考慮しても、これらの行為がAを自死に至らしめる違法行為又は安全配慮義務違反に該当するものとは認められない。
なお、前記認定事実によれば、Y4の貸付けの留保直後にAが行ったインターネット検索では、自死の方法のみならず、中学卒業のみで取得できる資格を調べており(認定事実(5)ウ)、その時点では、Aの心情が相当揺れ動いていたものと推認される。そして、AがX2との話し合いで城南高校への進学を諦めて自死に至るまでの間には、具体的な内容を証拠上確定することが困難ではあるが、X2との相当程度の時間に及ぶ話し合いの他、Y2ら複数の者との会話があり(認定事実(5)オ、ケ、ス)、翌朝には、X2からAに対して、再度、城南高校への進学辞退を確認するメッセージの送信(同サ)もされているところである。
前記認定事実((4)エ及び(5)イ、ウ、オ)によれば、Aは、当時付き合っていた男性が進学する予定であった城南高校への進学を楽しみにしていたものであり、Y4から進学資金の交付を受けられなかった直後から自死の方法をインターネット上で検索しており、その後、AとX2との話し合いの結果、城南高校への進学を諦め、その翌日自死していることからすると、通信制高校を退学し、その後、入学準備をしていた城南高校への進学ができないと考えたことが、Aの自死に少なからぬ影響を与えていたものということはできるが、上記のとおり、Aが城南高校進学を諦めたAとX2との会話の内容やその後のAとY2らとの会話の内容は証拠上明確に認定できない上、Aの自死に関して、遺書等の自死の理由が明確に表れたものは見当たらないこと(弁論の全趣旨)からすると、結局、Aが自死を決断した直接的な契機を明らかにすることは困難であるといわざるを得ず、本件一連の行為(Y2の違約金に関する発言を除く。)により、Aが自死に至ったということはできない。
以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、Xらの請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第17部
(裁判長裁判官 島崎邦彦 裁判官 片山健 裁判官白井宏和は、転補につき、署名押印することができない。裁判長裁判官 島崎邦彦)
別紙
当事者目録
松山市〈以下省略〉
原告 X1
松山市〈以下省略〉
原告 X2
松山市〈以下省略〉
原告 X3
松山市〈以下省略〉
原告 X4
同法定代理人親権者 X2
上記4名訴訟代理人弁護士 佐藤大和
同 向原栄大朗
同 安井飛鳥
同 河西邦剛
同 望月宣武
松山市〈以下省略〉
被告 Y1株式会社
同代表者代表取締役 Y2
松山市〈以下省略〉
被告 Y2
愛媛県伊予郡〈以下省略〉
被告 Y3
愛媛県伊予郡〈以下省略〉
被告 Y4
上記4名訴訟訟代理人弁護士 渥美陽子
同 松永成高
同 宮西啓介
上記4名訴訟復代理人弁護士 宮本祥平
以上
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