昭和十一年富山縣告諭第二號


◎富山縣告諭第二號

本日ヨリ三日間第九師團管内富山、石川、福井、滋賀、岐阜ノ五縣ニ亙ル廣汎ナル區域ニ於テ防空演習ヲ施行セラルルニ當リ縣民諸氏ニ告グ
輓近科學ノ發達ハ戰術ニ一大革新ヲ齎ラシ殊ニ飛行機ニ依ル爆擊ハ其ノ最モ脅威ヲ感ズル處ニシテ此レガ爲各國ハ空軍ノ充實ヲ圖ルト共ニ防空ニ關スル施設ニ全力ヲ盡スモ故ナキニ非ズ飜ツテ現下我國ノ情勢ヲ稽フルニ曩ニ國際聯盟ヨリノ脱退、海軍軍縮會議ノ決裂等アリテ國際關係ハ一日モ愉安ヲ許サザルモノアリ若シ一朝平和破レテ干戈相交ユルニ至ラムカ固ヨリ皇軍ハ海陸共ニ精鋭ナル空軍ノ備アリテ積極的防空ニ決死ノ奮鬪ヲナスト雖モ同時ニ又一般國民ニ依ル消極的防空ト相俟ツニ非ザレバ其ノ完璧ヲ期シ難シ
而シテ我富山縣ハ北日本海ニ臨ミ一葦帶水大陸ニ面シ帝都背面防空ノ第一線ニ位置シ且縣内ニハ多クノ大發電所及重要工場ノ存スルアリ有事ノ際敵軍空襲ノ目標トナリ一朝之ガ來襲ニ遭遇スル場合其ノ被害測リ知ルベカラザルモノアリ尚主要市街地ハ勿論縣内各地ニ於テハ敵機襲來ノ場合忽チ大混亂ヲ惹起シ軍隊如何ニ活動シ警察官治安ニ必死ノ努力ヲナスト雖モ慘憺タル大損害ヲ與ヘ延イテ收拾スベカラザル狀態ヲ招來スルコト想像ニ難カラズ隨ツテ富山縣民ハ治ニ在ツテ亂ヲ忘レズ恆ニ國防觀念ヲ旺盛シ平時ノ訓練ヲ懈ラズ被害ヲ最小限度ニ阻止スルノ方法ヲ講ゼザルベカラズ
今次第九師團管内五縣ヲ地域トシ擧行セラルル防空演習ニ本縣モ亦參加セル所以實ニ此ニ存ス縣ニ於テハ本年一月以來之ガ準備ニ着手シ爾來實施ニ關スル規定ヲ定メ軍部ノ協力ヲ得テ關係者ノ指導及縣民諸氏ニ對スル趣旨ノ普及ニ努メ來リタルモ當演習ハ頗ル複雜多岐ニ亙リ且本縣ニ於テハ最初ノ試ミナルヲ以テ縣下各官公衙學校會社工場商店等ニ從事スル者ハ固ヨリ縣民總動員ヲ以テ一致團結シ軍部トノ提携ヲ緊密ニシテ空襲防護ニ關シ防空監視、警報通信、燈火管制等ノ訓練ニ遺憾ナキヲ期スルト共ニ一面ニハ火災消防、治安維持、交通整理等ノ警備訓練ヲ行ヒ以テ本演習ヲシテ防空强化上劃期的ノ實績ヲ擧グルニ鋭意努力スル所ナカルベカラズ
今ヤ茲ニ本縣トシテハ空前ノ防空演習愈本日ヨリ實施セラレムトス縣民諸氏希クハ關係當路ト緊密ナル聯繫ヲ盡シテ熱誠事ニ當リ忠實其ノ責ニ任ジ以テ本演習ノ實施ニ際シ萬遺漏ナキヲ期スルト共ニ平素ノ訓練ニ資スル所アラムコトヲ望ム

昭和十一年六月十二日
富山縣知事   土岐銀次郎

この著作物は、日本国の旧著作権法第11条により著作権の目的とならないため、パブリックドメインの状態にあります。同条は、次のいずれかに該当する著作物は著作権の目的とならない旨定めています。

  1. 法律命令及官公󠄁文󠄁書
  2. 新聞紙及定期刊行物ニ記載シタル雜報及政事上ノ論說若ハ時事ノ記事
  3. 公󠄁開セル裁判󠄁所󠄁、議會竝政談集會ニ於󠄁テ爲シタル演述󠄁

この著作物はアメリカ合衆国外で最初に発行され(かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず)、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつ、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日)に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。