詩集『をぢさんの詩』より(17行)

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三里塚の春は大きいよ。
見果てのつかない御料牧場はうつすり
もうあさ緑の絨毯を敷きつめてしまひ、
雨ならけむるし露ならひかるし、
明方かけて一面に立てこもる杉の匂に、
しつとり掃除の出來た天地てんちふたつの風景の中へ
春が置くのは生きてゐる本物ほんもの春駒はるこまだ。
すつかり裸の野のけものの清浄さは、野生さは
 愛くるしさは、
ああ、たてがみに毛臭けくさい生き物のを靡かせて、
ただ一心に草を喰ふ。
かすむ地にきらきらするのは
尾を振りみだして駆ける
あの栗毛の三才だらう。
のびやかな素直な初々ういういしい、
高らかにも荒っぽい
三里塚の春は大きいよ。

底本

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  • 詩集『をぢさんの詩』
高村光太郎、「春駒」 『をぢさんの詩』 武蔵書房、1933年、122-124頁。doi:10.11501/1129196国立国会図書館デジタルコレクション:info:ndljp/pid/1129196/1/70 
 

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