今回宮内省に於て明治天皇御集の編纂成り、思召を以て夫々へ下賜せられたり。此の御集は、明治天皇の御盛徳を仰ぎ、御仁慈の大御心を偲び奉るに最も適當なるのみならず、又實に國民にとりて修養の鑑たるべく、教育上にも極めて有益なるを以て、宮内大臣と協議の上、刊行して廣く之を頒布することとせり。 此の御集が普く國民に捧讀せられんことは予の切に希望する所なり。

大正十一年九月

  

文部大臣 鎌田榮吉


御集の原本は木版にして、漢字は行草體なり。又假名は多く變體を用ひ、濁點を附せず。本書に於ては、總べて普通の活字に改め、濁點を附する等、一般に捧讀し易からんことを期せり。又便利のため末尾に索引を附せり。

明治天皇御集 卷上

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明治十一年以前

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新年望山

新しき年を迎へてふじのねの高きすがたを仰ぎみるかな

鶯入新年語

あたらしき年のほぎごといふ人におくれぬけさの鶯のこゑ

風光日々新

日にそひてけしきやはらぐ春の風よもの草木にいよゝふかせむ

寒香亭にて梅を見て

まさかりの梅の林にさす月のかげさへかをる春のゆふぐれ

梅のもとに篝をたかせて

白妙のうめもかゞりにてらされて薄紅ににほふよはかな

をりにふれて

おみどもと駒はせゆけば大庭のうめの匂をちらすはる風

浦夏月

波のうへに見るより涼し須磨のうらの松のこのまの夏のよの月

駒をはせてゆきけるに蓮池に月のうつりて見えければ

はちすばの露にやどれる夕月の光すゞしき池のおもかな

秋夜長

秋の夜のながくなるこそたのしけれ見る卷々の數をつくして

霧中鴈

秋山のふもとも見えぬ夕霧にこゑのみわたる鴈のひとつら

庭菊

この秋もところにきくの花うゑてたのしむ九重のには

ある夜侍補の輩をめしあつめて

あきのよの長きにあかずともし火をかゝげて文字をかきすさびつゝ

寒月

ふけゆけばいよ寒し淺茅生の霜にきらめく冬のよの月

人もわれも道を守りてかはらずばこの敷島の國はうごかじ

日本武尊

まつろはぬ熊襲たけるのたけきをもうち平げしいさを雄々しも

述懷

いにしへのふみ見るたびに思ふかなおのがをさむる國はいかにと

近きころ作りし宇都の山の洞道をすぎて

をぐるまのをす卷きあげてみわたせば朝日に匂ふ富士の白雪

京都にありて

住みなれし花のみやこの初雪をことしは見むと思ふたのしさ

嵐山の木の葉をあつめて香となしたるをたきて

ふるさとの木々の落葉のたき物を袖にとむるも嬉しかりけり

京都よりかへりける船の中にて

あづまにといそぐ船路の波の上にうれしく見ゆるふじの芝山

明治十二年

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新年祝言

あらたまの年もかはりぬ今日よりは民のこゝろやいとゞひらけむ

山月

山の端をはなれもあへず久方の空にみちぬる月のかげかな

海上曉月

湊船あさびらきする波の上にうつるもうすき在明の月

馬場よりのかへるさ月を見て

のる駒の手綱かいくりかへるさにかへりみすれば月ぞいでたる

またの時紅葉のひともと色づきたるが見すぐしがたくおぼえければ

常磐なる松の木のまの初紅葉いろめづらしと折りてけるかな

明治十三年

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雪間月

むら雲のたえまに夕月夜さすかとみればかつかくれつゝ

月不擇處

萩の戸の露にやどれる月影はしづが垣根もへだてざるらむ

うつろふな霜はおくともわが見つゝ樂む庭のしら菊の花

紅葉淺

一枝はもみぢしにけりむら時雨いそぎてそめよあとのこずゑも

庭上鶴馴

なれてへだて心もなかりけりわが九重のにはにすむ鶴

明治十四年

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月夜蟲

霧はれて風しづかなる秋のよの月にすみゆく蟲の聲かな

爐邊述懷

埋火をかきおこしつゝつくと世のありさまを思ふよはかな

竹有佳色

うゑおきし庭のくれ竹よゝをへてかはらぬ色のたのもしきかな

明治十五年

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水邊夏草

夏草の茂れるかげも川水にうつるを見ればすゞしかりけり

夕立

たかまやま空にとゞろくいかづちの聲にきほひて夕立ぞふる

嶺夕立

村雲のおほふと見しは夕立のみねより嶺にかゝるなりけり

海邊夕立

かきくもり降るゆふだちに荒磯の波もしばしは音なかりけり

初秋日

いつのまに秋は來にけむあまの原夕日のかげもすずしかりけり

故郷萩

ふるさとゝなりし都は萩の戸の花のさかりもさびしかるらむ

波間月

久方の空ゆく月も海原の波間にかげはうきしづみつゝ

海上月

沖つ波なるとの海のはやしほにやどり定めぬ月の影かな

海上待月

山もなき青海原の波の上に待てどもおそし秋のよの月

月前松風

窓のうちにさし入る月のかげふけて軒端しづかに松風ぞ吹く

河水久澄

昔よりながれたえせぬ五十鈴川なほ萬代もすまむとぞ思ふ

明治十六年

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このごろはかきねの柳のきの梅みな鶯のやどゝなりぬる

折梅

さかりなる庭のうめがえたをらせて人と共にもかざす今日かな

四月二十三日小金井に遠乘しける時花のもとにて

春風のふきのまに雪とちる櫻の花のおもしろきかな

首夏水

夏あさき山下水をきてみればきのふの春の花ぞながるゝ

山新樹

薄くこくみどりかさなる夏山の若葉のいろのなつかしきかな

垣卯花

てすさびにさしゝ垣根の卯花もこの夏よりぞ咲きそめにける

夏草深

夏草のしげりて岡のべの小松もわかずなりにけるかな

夕立晴

雲は晴れ風はのこりてゆふだちの過ぎしあとこそ涼しかりけれ

をりにふれて

庭のおもは若葉しげりてすゞかけの花咲く頃となりにけるかな

ときのまに千里かけらむ駒もがな糺の森にすゞみてをこむ

萩藏水

水の上に咲きなびきたり萩が花うつれる影も見えぬばかりに

月前露

くれわたる庭の芝生におく露のひかり見えゆく夕月のかげ

ふかゝらぬ庭の草にも蟲のねのきこゆる秋となりにけるかな

朝蟲

朝づく日つゆにかがやく草村にのこりてもなく蟲のこゑかな

車中聞蟲

をぐるまのうちよりきけば蟲の聲をわけゆくこゝちこそすれ

雨後月

むらさめの雫もいまだおちやまぬ松のひまより月ぞさしくる

濱月

白波のよせてはかへる長濱のまさごぢとほく照らす月かな

雲間雁

なきわたる鴈のつばさにかゝりけり月まつ山のゆふぐれのくも

霧埋山

ふじのねも見えずなりけりいづくまでたちのぼるらむ秋の夕ぎり

原霧

子日せし小松が原も夕霧のたなびく秋はさびしかりけり

菊契多秋

もろ人と共にかざゝむいく秋もまがきに匂へしら菊の花

庭前紅葉

松が枝にまじるもみぢの色ふかみ山べおぼゆる庭のおもかな

をりにふれて

いさみたつ駒にくらおけ飛鳥山そめはじめたる紅葉みてこむ

山路落葉

嵐ふくやまぢをゆけば松の葉も紅葉と共にみだれてぞちる

庭雪

みな人のちからあはせて庭のおもにきづきあげたる雪のしら山

馬上雪

いさみたつ駒にうちのり吹上のにはの雪見にいでしけさかな

鴨場

みなびとの手ごとにもたる網のめをのがれかぬらむあはれ水鳥

明治十七年

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庭鶯

我庭のうめの林のひろければよそにうつらぬ鶯のこゑ

山ふかく狩しけるをりにうぐひすのなくをきゝて

はるふかき山の林にきこゆなり今日をまちけむ鶯の聲

夏草深

いつのまに生ひしげるらむとのもりが刈らぬ日もなき庭の夏草

晴夜夏月

雲はれしこよひの月は玉だれのうちよりみるも涼しかりけり

夏のゆふべ月をまちて

あまつかぜこの村雲をふきはらへ涼しき月のかげもみるべく

夏の夜新殿の月を見て

たかどのゝ軒にさしいる月みれば風をなきよはも涼しかりけり

夏夜待風

はしゐして風をまてどもくれたけの枝もうごかぬ夏のよはかな

夏旅

旅衣あさたつ袖をふきかへす松風すゞし浮島が原

月前露

雲もなく霧もかゝらぬ月かげを芝生の露にやどしてぞみる

庭前蟲

ゆふされば庭の草葉も露おきてはなたぬむしの聲ぞきこゆる

野秋風

むさし野の千ぐさの花はちりすぎてすゝきにのこる秋の風かな

白川の關うちこえて見しかげもおもひぞいづるあきの夜の月

月前風

あまつ風ふきのまに雲はれて照りこそまされ秋の夜のつき

瀧邊月

いはまよりおちくる瀧の音すみて山かぜ寒しあきのよのつき

海上月

ひさかたの空にありながらわたつみの底まで照らす秋の夜の月

月前遠望

秋の夜の月の光にしら雲のあはも上總もみえわたるかな

馬場にて月を見て

駒ならす庭さやかなる月影にまがきの菊の花もみえつゝ

遠山霧

朝日かげのぼるきしきはみえながらなほ霧ふかしをちの山のは

河上霧

信濃なる河中島のあさ霧に昔の秋のおもかげぞたつ

毎秋見菊

秋ごとに匂ふしら菊もろ人と共にみるこそたのしかりけれ

池邊紅葉

みる人のかげと共にも池水の底にうつれる岸のもみぢ葉

月前殘菊

おく霜にうつろひそめし白菊をもとの色にもかへす月かな

庭落葉

風ふけばおつるこのはに朝なはらふ庭ともみえぬころかな

島冬月

すみなれて誰かみるらむ伊豆の海のおきの小島の冬のよの月

月照山雪

空はれて照りたる月に遠山の雪のひかりも見ゆるよはかな

晴天鶴

富士のねもはるかに見えてあしたづのたちまふ空ぞのどけかりける

明治十八年

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窓前鶯

まどあけて見るとしらずや呉竹のしげみがなかに鶯のなく

花盛

春風もよきてふくかと思ふまでさかりのどけき花のかげかな

月前花

おぼろよの月も梢にさしいでゝにほひくはゝる花櫻かな

遠山花

春霞たなびく山はとほけれど雲ともみえぬ花の色かな

夕山吹

墨染のゆふべをぐらき池水になほ影みゆる山吹のはな

をりにふれて

ゆふだちのはれゆく空にたつ虹をたちいでゝ見ぬ人なかりけり

朝顏

しばがきにまとひあまりて萩の葉の末にもさけり朝顏の花

あるをりに船中見紅葉といふことを

紅葉よりあかく見ゆるはふねのうちにつらなる臣のこゝろなりけり

風後落葉

ひとしきりさそひし風はしづまりておのがまにちる紅葉かな

庭落葉

あらしふく庭のもみじ葉あさ霜のうへにちりたる色のさやけさ

月照氷

厚氷とじたる池の底までもてりとほるかとみゆる月かな

禁園雪深

ゆきかひの道をぞ思ふわが園の草木もうづむけさのみゆきに

雪中早悔

ふりつもる梢の雪をはらはせて今朝こそ見つれ梅のはつ花

冬泉

冬ふかき池のなかにもほとばしる水ひとすぢはこほらざりけり

明治十九年

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新年望山

年のたつあしたに見ればふじのねの雪の光もあたらしきかな

毎年見梅

わがそのゝ梅の花見むこの春もこぞにかはらぬ人をつどへて

絲櫻

けさよりもまた咲きそひて春の日のながさしらるゝ絲櫻かな

夜花

ともしびの光をかりて窓の外の花もてあそぶよはの樂しさ

夜思花

さよふけて吹く松風のおとたかしこのまの櫻いまかちるらむ

池邊花

しづかなる池のこゝろも動くらむみぎはの花に風わたるなり

樓上見花

高殿にのぼりて見ればをちこちの花も今日こそ盛なりけれ

雨後殘花

春雨のはれまになりぬいでゝ散りのこりたる庭の花みち

をりにふれて

はるかぜにいなゝく駒の聲すなり花の下道たれかゆくらむ

竹間夏月

若竹のしげみもりくる月かげはくまなきよりも涼しかりけり

故郷薄

故郷のかきねのすゝきまねきてもかへらぬものは昔なりけり

蟲聲近枕

いづくにて鳴くともしらぬ蟲のねの枕はなれぬ秋のよはかな

月出山

粟田山くもふきはらふ松風のうへにいでたるあきの夜の月つき

待菊盛

みな人もまちわたるらむ我園にうゑたる菊の花のさかりを

庭霜

冬がれのにはのしばふは朝霜のおくも消ゆるもわかれざりけり

松上霜

千代ふべきみぎりの松はおくしもを寒きものとも思はざるらむ

冬夜寒

したさゆる冬のよどこにねざめして衾かさねぬ人をこそおもへ

緑竹年久

九重のうてなの竹のふかみどりかはらぬかげぞ久しかりける

庭上鶴

こゝのへのみぎりに馴れてすむたづの千代よぶ聲をきかぬ日ぞなき

明治二十年

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窓前鶯

あさななく鶯のこゑすなり窓のたかむら霜はおけども

月前梅

春のよのおぼろ月夜の影ふけて窓の内までかをる梅かな

夕蛙

つばくらめ飛ぶかげたえし小山田のゆふべさびしくなく蛙かな

野夏草

夏草も茂らざりけりものゝふの道おこたらずならし野の原

海上月

あしひきの山のはいづる月かげに大海原の波を見るかな

秋水鳥

秋風のさそふこの葉にさきだちて浮びそめたる池の水鳥

池水浪靜

池水のうへにもしるしよもの海なみしづかなる年のはじめは

明治二十一年

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雪埋松

海原はみどりにはれて濱松のこずゑさやかにふれる白雪

明治二十二年

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水石契久

さざれ石の巖とならむ末までも五十鈴の川の水はにごらじ

明治二十三年

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京都の花を見て

ふるさとの花のさかりをきて見ればなく鶯のこゑもなつかし

京都をいでたゝむとするころ聽雪にて

わたどのゝ下ゆく水の音きくもこよひ一夜となりにけるかな

呉軍港にゆくとて四月十八日小豆島にふねをとゞめけるにあくるあした霧のいと深くたちこめたればとて船をいださざりければ

思ひきや小豆のしまの朝霧にゆくさきみえずなりはてむとは

をりにふれて

ふりつゞく雨の音きけばあづき島霧こめし日もおもほゆるかな

寄國祝

新玉のとしを迎へて萬民ひとつごゝろに國いはふらし

明治二十四年

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述懷

千早ぶる神ぞ知るらむ民のため世をやすかれと祈る心は

社頭祈世

とこしへに民やすかれといのるなるわがよをまもれ伊勢のおほかみ

明治二十五年

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梅薫風

時すぎて散るも殘るも風ふけばひとしくかをる梅の花ぞの

折梅

咲きそめしかきねの梅の一枝をおみのためにと手折りつるかな

朝花

いづる日の光もそひて山ざくらまばゆく見ゆる花のいろかな

折りたる花の枝を

わがために枝をえらびて手折りけむ花の匂のふかくもあるかな

吹上の庭にて

のる駒の鞍のまへわにちりかゝる匂櫻の香こそたかけれ

小金井の櫻をおもひやりて

子がねゐの里ちかけれどこの春も人傳にきく花ざかりかな

月前風

むら雲を嶺のあらしにはらはせてさしのぼる月の影のさやけさ

月前神樂

すめがみの廣前てらす月かげに神樂のこゑもすみまさりつゝ

日出山

山のはにかゝれる雲もはれそめてのぼる朝日のかげのさやけさ

明治二十六年

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秋風寒

宮のうちもふくかぜさむくなりにけり山べはいまや時雨ふるらむ

落葉浮水

魚はみな底にしづみてもみじ葉のうかぶも寒し庭の池みず

山冬月

やま松の霜ふきおとす木枯にさえこそまされ冬の夜の月

寒夜述懷

さゆる夜の嵐のおとに夢さめてしづがふせやを思ひやるかな

巖上龜

うごきなきあきつ島根のいはの上によろづよしめて龜はすむらむ

明治二十七年

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關路鶯

逢坂のせきのふるみち春ゆけば杉生かすみて鶯ぞなく

故郷梅

すみしよの春なつかしきふるさとの梅のさかりを誰かみるらむ

月前螢

浮雲もはれたる空の月かげにかくるゝものは螢なりけり

蓮滿池

いけみづは蓮の浮葉にうづもれて露のみひかるあさぼらけかな

水鳥

櫻田のほりちかければ水鳥のさわぐ羽音をきかぬ夜ぞなき

梅花先春

春風もふくこゝちしてあらたまの年の初日に匂ふうめかな

松上鶴

やまゝつのしげみがなかにきこゆなりいまだ巣だゝぬひな鶴のこゑ

明治二十八年

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旅順の戰のさまをきゝて

世にたかくひゞきけるかな松樹山せめおとしつるかちどきの聲

明治二十九年

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山霞

あま雲もいゆきははゞかる富士のねをおほふは春の霞なりけり

雨中鶯

つれと雨のふる日はうぐひすも竹のはやしにこもりてぞ鳴く

曙鶯

花の色もまだみえそめぬ曙にいづくなるらむ鶯の啼く

朝鶯

あさ清めをはりにけらし窓ちかくなく鶯のこゑのきこゆる

梅花盛

むつまじく枝をかはしてさく梅もさかりあらそふ色はみえけり

故郷柳

故郷のかきねに今もなびくらむわがさしおきし青柳のいと

庭若草

こゝろして朝ぎよめせよ若草のはつかにもえし九重のには

山春月

夕霞たなびく空にほのと山のはみえていづる月かな

簾外春月

をすのとにいでゝ花みる人かげもおぼろにうつる春のよの月

霞中花

春がすみたちなかくしそ九重の内外へだてぬ花のさかりを

庭前花

吹く風ものどかなる世の春まちてわが庭櫻さきそめにけり

靜見花

よものうみ波をさまりてこの春は心のどかに花を見るかな

對花言志

散りやすきうらみはいはじいく春もかはらでにほへ山ざくら花

落花風

たますだれかゝぐる窓の朝風にわたどのかけてちる櫻かな

田家蛙

しづのをも門田のくろをゆづる世になにかしましく蛙なくらむ

春野

蟲のねをきゝし野末にきてみれば春さく花もちぐさなりけり

をりにふれて

人みなの花をかざしてゆくみればわが世の春ものどけかりけり

梅雨欲晴

山の端の入日にかゝる雲もなしあすは晴れなむ梅雨のそら

月前螢

いけのおもは月にゆづりて蘆の葉のしげみがくれをゆく螢かな

沙上夏月

月清き庭のまさごぢふむ人のかげも涼しくうつるよはかな

行路夏草

夏草のしげきをみればあらたよにいまだひらけぬ道もありけり

鵜川

かゞり火の光にみれば長良川うの羽の色もさやけかりけり

蚊遣火

蚊遣たくしづがわらやのいぶせさも空にしられてたつけぶりかな

をりにふれて

手もたゆくならす扇にまねかれてまことの風もふくゆふべかな

田家朝顏

なかに色こそよけれつくろはぬしづが垣根の朝顏のはな

月前蟲

さやかなる月夜の庭のきりすいづこのくまにかくれてか鳴く

終夜聞蟲

よもすがら鳴きもたゆまぬ蟲のねにわれもねぶらであかしつるかな

としに光そひてもみゆるかなやまとしまねの秋のよの月

中秋月

心にもかゝる雲なきこの秋のもなかの月のかげのさやけさ

月前風

はらふべき雲ものこらぬ大空の月にふくなりよはの秋風

深夜月

高殿のうへまで松の影みえて月はひきくもなれるよはかな

都月

このまよりさしのぼりけり山遠きみやこの空の秋のよのつき

社頭月

ちはやぶる神路の山にてる月のひかりぞ國のかゞみなりける

寄菊祝

わたつみのほかまでにほへ國の風ふきそふ秋のしらぎくの花

紅葉映日

夕日影てらすをみればをぐら山まつよりおくも紅葉なりけり

曉冬月

霜のうへにうつる枯木の影きえていまはとしらむ在明の月

山雪

夏だにも風さむかりし二荒山いくへか雪のふりつもるらむ

海上船

戰にかちてかへりしいくさ船けふもかゝれりしながはの沖

寄山祝

天の下にぎはふ世こそたのしけれ山のおくまで道のひらけて

寄海祝

西の海なみをさまりてもゝち船ゆきかふ世こそたのしかりけれ

明治三十年

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海邊霞

松がねをあらひし波の音たえていそべのどかにたつ霞かな

山家餘寒

雪きえぬ山里人は冬よりも春の寒さやしのぎかぬらむ

梅薫風

しもがれの草木もかをるこゝちして梅さく庭に春風ぞふく

雨中春草

春雨のみどりはそひて見えながらいまだみじかし野べの若草

絲櫻

のきばふく風にみだれておばしまのうへまでかゝる絲櫻かな

松間花

こがくれて咲くとはすれど松風のふくたびにちる山ざくらかな

花似雲

たかゝらぬ松のこのまにさきながら雲かとみゆる山櫻かな

春海

釣舟も同じ處につらなりてのどかにみゆる春のうみかな

庭前蟲

とのもりの露をはらひし朝庭に猶夜をのこす蟲の聲かな

山鹿

月もいまのぼらむとする山のはにたかくきこゆるさを鹿の聲

をりにふれて

蟲の聲しづまりにけりとのもりの朝ぎよめする時やきぬらむ

落葉風

あまたたびしぐれて染めしもみぢ葉をたゞひと風のちらしけるかな

雨中落葉

山かぜの音すさまじきゆふぐれに雨もまじりてちる木の葉かな

連山雪

高殿のをすまきあげて見わたせばいづくの山も雪ぞつもれる

埋火

まどたたく夜嵐さむし埋火のうへにも霜のちるこゝちして

冬鳥

南天の實あさるとやひえ鳥の寒きかきねをたちもはなれぬ

朝望山

ひむかしの海よりいでゝふじのねの雪にてりそふ朝日かげかな

明治三十一年

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曙鶯

ほのとあけゆく庭にさく花のかげみえそめて鶯のなく

雨中若草

花の色もおよばぬものは春雨にぬれたる草の緑なりけり

雲雀

里の子も翅あらばと思ふらむあがる雲雀の影を仰ぎて

雨中落花

春雨のふる日しづけき庭の面にひとりみだれてちる櫻かな

雨後落花

はるさめのなごりの風にやへ櫻はなぶさながら散るもありけり

池杜若

かきつばたにほえる池はかけわたす橋こそ花のたえまなりけれ

橋邊藤

濱殿の入江の橋はさく藤の波をくゞりて渡るなりけり

藤懸松

棚ゆひてほかにうつさむ藤の花かゝれる松はいたく老いたり

をりにふれて

わが國の櫻のかげに咲きいでゝ色こそはえねからもゝの花

梅雨

さみだれの音のみきゝてくらす日は宮の内だにいぶせかりけり

梅雨雲

軒ちかく雲たちこめて山里にすむこゝちする梅雨のころ

河梅雨

つくばねは雲にかくれて利根川の瀬の音たかしさみだれの頃

夏月

里とほき山田の早苗うゑはてゝかへる月夜やすゞしかるらむ

夏曉月

あさがほの花の色なる大空にのこるもすゞしありあけの月

瞿麥

月に日にさきそふみえて樂しきはわがしきしまのやまとなでしこ

をりにふれて

はしゐして水雞きかむと思ふ夜にかしましきまでなく蛙かな

風前草花

露をのみはらふとおもひし夕風にちりそめにけり秋萩の花

蟲聲非一

をちこちの野山のむしもはなたれて鳴くねくらぶる園の内かな

旅中鹿

故郷の春日の野邊にたびねして夜たゞをしかの聲をきくかな

待月

人みなの月まつ夜なり大空の雲ふきはらへ秋のやま風

河上月

宇治川の河上とほく霧はれていはまのみちも見ゆる月かな

澤月

鴫のたつおとはきこえて山澤のみぎはしづけきありあけの月

苔上月

霧はれし山のこのまをもる月にぬれたる苔の色もみえつゝ

樓上見月

たかどのゝすだれまかせて海ごしの山よりのぼる月を見るかな

月前言志

あきらけき月にむかへば久方の空もしたしくおもほゆるかな

雁聲近

霧はらふ翅のおともきくばかりまぢかき空をわたるかりがね

月前菊

大空の星はかくるゝ月影に菊のはなのみ見ゆるよはかな

庭前菊

しら菊の花さきみちてあしたづの羽風もかをる園のうちかな

をりにふれて

山里の秋もかくやとおもふまでのきばしづかにすめる月かな

池龜

池水のうきものしたにすむ龜もいでゝせをほす春ののどけさ

名所湖

岩根ふみのぼりてみれば二荒山ふねをうかぶるうみもありけり

櫻井里

子わかれの松のしづくに袖ぬれて昔をしのぶさくらゐの里

をりにふれて

松風のおとのみきゝて年も經ぬいつかゆきみむ天のはしだて

明治三十二年

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霞中鶯

わが園のうちとはきけどおぼつかな霞がくれのうぐひすの聲

杜鶯

椿ちるもりのしたみち春雨にぬれつゝゆけば鶯のなく

庭若草

蓬とも菊ともわかず春の日のいまだみじかき庭の若草

月前落花

そでのうへに散りくる花もみえぬまでかすみはてたる春のよの月

落花風

ちりやすき一重櫻の花のうへに風さへそひてそゝぐ雨かな

水中落花

池のおもにのぞめる花のうれしきはちりても水に浮ぶなりけり

池落花

池水にちりうく花のかたよりてひれふる鯉のかげも見えつゝ

春山

山はみな緑になりてふじのねのほかには雪もみえぬ春かな

花落枝緑

おそくとくさきし櫻もちりはてゝひとつ青葉となれる庭かな

庭瞿麥

からやまと色をまじへて咲きにけりひろきそのふの撫子の花

夜納涼

ともしびを軒端にかけて涼む夜は月おそしとも思はざりけり

夏蝶

咲きしよりはなれぬみれば常夏の花のあるじは胡蝶なるらむ

をりにふれて

夏さむき越の山路をさみだれにぬれてこえしも昔なりけり

沙上月

月白きまさごにうつる濱松のかげはさながら墨繪なりけり

風前鴈

野分だつゆふべの空にきこゆなりみだれてわたる初雁の聲

菊薫風

九重のまがきのうちにさく菊も風のまに世にかをるらむ

をりにふれて

はまどのゝ入江のあしま汐みちておばしまちかく月ぞうかべる

月前落葉

木枯のふきたつ庭にきす月のくまとなりても散るこのはかな

氷始結

もみぢ葉もいまだしづまぬ池水にむすびそめたる薄氷かな

水鳥馴

殿もりのゆきゝに馴れてわが庭の池の水鳥たゝむともせぬ

いたゞきは雲にかくれてふじのねの裾野ましろにつもる雪かな

山家雪

ふきおろす嶺のあらしに山里はきのふの雪ぞけふもちりくる

夜埋火

月のさす窓をもとぢて冬の夜は埋火にのみうちむかひつゝ

田家烟

小山田のさとのけぶりもとしにたちそふ世こそ樂しかりけれ

池邊鷺

位ある身をわすれてや池のおもの鷺はあしまの魚ねらふらむ

明治三十三年

編集

春雨

しづのをがかへす山田もうるほひてゆふべしづかに春雨ぞふる

軒橘

軒ちかき花たちばなにふる里の南の殿をおもひこそやれ

瞿麥露

をしへある庭にさきたる撫子の花は露にもみだれざりけり

夏朝

撫子の花のうへしろく露みえてあけゆく庭ぞすゞしかりける

山月

しらぬまに山のは高くなりにけり雲のうちなる秋のよの月

庭月

秋の田のいなばのうへを思ふかな庭の芝生をてらす月夜に

秋眺望

秋風にはこねあしがら雲はれてはつ雪しろしふじの遠やま

寒夜衾

しろたへの衾も雪のこゝちしてうちかさぬれど寒きよはかな

月前千鳥

礒山をはなるゝ月に聲をのみきゝし千鳥のかげも見えつゝ

月照雪

冬のよのはれたるそらの月かげにきのふつもりし雪を見るかな

梢よりこずゑをつたふこのは猿つばさあるかと思はるゝかな

松上鶴

風の音はしづまりはてゝ千代よばふたづがねたかしみねのまつ原

寄鶴祝

ひさかたの雲居のにはにすむ鶴のにひ巣つくらむ時ぞまたるゝ

明治三十四年

編集

花盛

はなざかり賑ふころは玉桙の道もる人やいとなかるらむ

遲櫻

春寒き山したみちの櫻花おくれたりともしらで咲くらむ

をりにふれて

ちり殘る花まだおほし今ひと日いでゝ遊ばばむ春のそのふに

芍藥

うつくしく匂ふ籬のえびす草なつかしき名をおほせてしがな

池梅雨

すむ魚もいぶせかるらむ池水の浮葉しげりてさみだれのふる

池蓮

茂れどもいぶせからぬはいけ水にうかべる蓮のひろ葉なりけり

夏旅

夏しらぬやまべをさしてゆく旅も道の暑さの堪へがたきかな

をりにふれて

民のため年ある秋をいのる身はたへぬあつさも厭はざりけり

あきのよの月はこのまにかたぶきてくらき垣根に蟲のねぞする

旅宿蟲

わがためにあつめしならむ草枕たびのやどりの松むしのこゑ

水邊月

秋風に柳のかれ葉ちりうきて水の上寒くすめる月かな

月前遠情

はれわたる空にむかひて思ふかな新高山の月はいかにと

雪中竹

このうへにいくへふりそふ雪ならむたかむら高くなりまさりつゝ

車中見雪

嶺たかくつらなる山に雪見えて車のうちもさゆる今日かな

埋火

埋火にうちむかひても霜をふむ人の寒さを思ふよはかな

冬眺望

笹原も小松がはらも霜ふりて枯野まばゆく朝日さすなり

故郷池

ふる里のにはの池水昔わが放ちし龜はいまもすむらむ

旅行

旅やかたところかはれどわれをまつ民の心はひとつなりけり

漁舟

はまどのゝ庭のものともみゆるかな芝のうらわにうかぶつり舟

海邊眺望

高殿に身はありながらあま小舟うかぶ波間にゆく心かな

神祇

ちはやぶる神のこゝろを心にてわが國民を治めてしがな

明治三十五年

編集

車中見梅

人をして後に折らせむ小車のすぐる野道に梅のさきたる

土筆

庭のおもの芝生がなかにつくし植ゑたるごとくおひいでにけり

故郷花

ふるさとの軒端のさくらこの春もわれを待ちてやひとりさくらむ

思遠花

あらしやま花のさかりを人づてにきゝてことしの春もすぎにき

花のころに

旅衣こゝろかろくもたちいでゝ花にあそぶは樂しかるらむ

池落花

池みづにちりてうかべる花をまたたゞよはしても春風ぞふく

故郷橘

ふるさとの花橘を夏ごとに千代田の宮におもひやるかな

夏遠情

夏の夜の月のかつらのなり所すゞしき風のいかにふくらむ

をりにふれて

たかどのゝ内もあつさにたへぬ日にしづがふせやを思ひこそやれ

月を見て

世をおもふ心の雲もうちはれてこよひさやけき月をみるかな

月夜聞鶴

あしたづのなく聲すみてふけにけり千代田の宮の秋のよの月

野分

九重のにはも野分にあれにけりしづがふせやはいかにかあるらむ

秋祝

ことしげきこの秋にしも千町田のみのりよろしと聞くが嬉しさ

をりにふれて

小山田のをしねかるべくなりぬらむ庭の薄もほにいでにけり

故郷の高雄の紅葉ちかゝらば折りとらせてもみてましものを

冬神祇

ゆたかなる年の初穗をさゝげつゝしづもあがたの神祭るらむ

をりにふれて

冬がれの芝生の菫さきにけり小春の日影さしわたりつゝ

埋火にむかへど寒しふる雪のしたにうもれし人を思へば

かきくらしみゆきふるなりつはものゝ野べの屯やいかにさゆらむ

薄暮山

あかねさす夕日のかげは入りはてゝ空にのこれる富士のとほ山

くにたみのつらなる道をかつみつゝ旅にいづるがたのしかりけり

國民のおくりむかへて行くところさびしさしらぬ鄙の長みち

旅中山

心ゆく旅路なりけり大空にはれたるふじの山もみえつゝ

羇中橋

遠くとも渡りてゆかむわが爲にかけたりときく野路の川橋

風前鳥

大空に風のふきあげし木の葉かと思ふばかりにとぶ小鳥かな

山かぜにふき亂されてたつ鳥のうは毛ちりくる森のしたみち

やどるべき木立多かる森にてもねぐら爭ふむら烏かな

のる人の心をはやくしる駒はものいふよりもあはれなりけり

騎兵

勇みたつ駒をひかへて進めてふ聲やまつらむつはものゝとも

さまの書のつどひてけふもまた机のうへのせばくなりぬる

海上眺望

わたのはら汐ぞみつらし波の上に浮ぶ小島のひきくなりぬる

述懷

曉のねざめしづかに思ふかなわがまつりごといかゞあらむと

湊川懷古

あた波をふせぎし人はみなと川神となりてぞ世を守るらむ

社頭松風

神垣のみしめゆらぎて加茂山の松の梢にあさかぜぞ吹く

神祇

やすからむ世をこそいのれ天つ神くにつ社に幣をたむけて

ちはやぶる神のまもりによりてこそわが葦原のくにはやすけれ

千萬の神もひとつにまもるらむ青人草のしげりゆく世を

寄道祝

千早ぶる神のひらきし敷島の道はさかえむ萬代までに

長雨ふりけるころ

はれまなき雨につけても思ふかな今年の秋のみのりいかにと

演習地にて

ものゝふのせめたゝかひし田原坂まつも老木となりにけるかな

をりにふれて

つはものと共に野山をわけてみむ手馴の駒にくらをおかせて

梓弓やしまのほかも波風のしづかなる世をわがいのるかな

明治三十六年

編集

春駒

はなちたる牧の若こまいづれをかわが厩にはひかむとすらむ

花始開

春毎にうれしきものは咲く花にはじめてむかふあしたなりけり

旅中花

野も山も花のさかりになる時をうれしく旅にいでにけるかな

月前蛙

夕月夜にほひそめたる池水にかしましからずなく蛙かな

春島

船ならでゆきかひすべく見ゆるかな霞に浮ぶあはぢ島山

春祝

のどかなる春にあひたる國民はおなじ心に花や見るらむ

をりにふれて

旅衣たちいでぬまに九重のにはのさくらよさかりみせなむ

のどかにも旗手なびきていくさ船つらなる沖のかすみはれたり

故郷夏月

ひがしやまのぼる月みしふるさとのすゞみ殿こそこひしかりけれ

夏日

吹上の瀧にてる日のかゞやきて水さへあつく見ゆるけふかな

夏風

文机のふみはちれどもふく風のすゞしき窓はさゝれざりけり

田家夏

ゆあみせむ時も忘れてしづのをはくれゆく畑に瓜やとるらむ

夏氷

かたはらにおける氷のきゆるにも道ゆく人のあつさをぞおもふ

をりにふれて

たへがたきこの日ざかりにおもふかな高砂島のあつさいかにと

初秋蟲

夏よりも暑き日なりと思ひしをくるれば庭に蟲ぞなくなる

雨中萩

すゑまではまださきみたぬ秋はぎの花うちみだり村雨ぞふる

禁庭萩

昔わが折りてあそびしはぎの戸の花もこのごろさかりなるらむ

川秋風

大堰川さくらの紅葉ちりうきてゐせきの波に秋風ぞ吹く

秋雨

あやにくに秋のながめのはれぬかなをしねかりほす頃ぞと思ふに

待月

のぼるべき山には雲もかゝらぬをまつほどひさし秋の夜の月

見月

あかずして月みる窓をとざしけり寒くなりぬと人にいはれて

秋日明

ともしびをかゝげぬ方に來てみればいよあかし秋の夜の月

兵營月

いくさ歌うたひかはしてつはものもたむろのにはに月やみるらむ

月前松

秋ごとにかはらぬ月ぞやどりける千代田の宮の松のこずゑに

月似古

いにしへの人のことばもうたひけりそのよに似たる月にむかひて

秋色

茸狩のかへさに見れば山がつが垣根の柚の實いろづきにけり

雪中待人

ふりつもる雪わけがたくなりぬらむまゐらむといひし人のおそきは

雪のふりける日

呉竹の夜ひとよふらばいかならむ見るまに高くつもるしら雪

折に觸れて

豐年の新嘗祭ことなくてつかふる今日ぞうかしかりける

久方のむなしき空に吹く風も物にふれてぞ聲はたてける

夕月夜さやかになりてふみならす庭木のかげはくれはてにけり

ふく風のおともきこえぬ遠山はたゞうつしゑのこゝちこそすれ

原行人

人あまたゐてだに旅はさびしきを荒野の原をひとりゆくらむ

にひばりの田づら多くも見ゆるかないそしむ民のちからしられて

千早ぶる神のひらきし道をまたひらくは人のちからなりけり

あらがねの土の下樋をかよひきて都にすめる多摩川のみづ

器にはしたがひながらいはがねもとほすは水のちからなりけり

晴後遠水

あま雲はあらしにはれて山川の水上たかく見ゆるけさかな

故郷

年をへてかへりてみれば故郷のみやもる人もおいにけるかな

故郷井

わがために汲みつときゝし祐の井の水はいまなほなつかしきかな

故郷松

ふる里をとひてし人に問ひて見むわがうゑおきし松はいかにと

故郷情

老人のかたりしことをさらにまた思ひぞいづるふる里にきて

旅中情

草まくら旅にいでゝは思ふかな民のなりはひさまたげむかと

旅宿雞

とのゐ人いま參るらむ草まくら旅のやどりに雞のなく

旅宿夢

まぢかくもたづねし民のなりはひをこよひ旅ねの夢にみしかな

羇中馬

小車のあとさき守るますらをの駒もつかれむ鄙の長みち

山家門

杉垣をめぐりてみれば山里はおもはぬかたに門ぞありける

埋木

うもれ木をみるにつけても思ふかなしづめるまゝの人もありやと

ことのはの道のおくまてふみわけむ政きくいとま

盃をけふもさづけつ位山はじめてのぼる人をいはひて

とし高き人にさづくる盃は手にとるごとにうれしかりけり

年たかき人の手づから織りいでしぬのは錦におとらざりけり

寫眞

旅にしてみし海山のけしきをもこのうつしゑに思ひいでつゝ

軍艦

すゝめてふ旗につれつゝいくさ船かろくも動く浪のうへかな

いくさぶねつらなる沖をみわたせば波のひゞきもいさましきかな

軍港

軍ぶね造る所もみてゆかむ呉の港にしばしとまりて

綱引

あびきしてわれに見せむとあま小舟海もせにこそこぎつらねけれ

ともし火の影まばらにもみゆるかな人すむべくもあらぬ山邊に

山眺望

波の音はきこえぬ山の高嶺より青海原をひとめにぞみる

述懷

千早ぶる神のかためしわが國を民と共にも守らざらめや

ひとり身をかへりみるかなまつりごとたすくる人はあまたあれども

寄風述懷

ひさかたの空吹く風よひとみなの心のちりを拂ひすてなむ

うまごにやたすけられつゝいでつらむわれを迎へてたてる老人

老の坂こえぬる子をもをさなしと思ふやおやのこゝろなるらむ

すなほにもおほしたてなむいづれもかたぶきやすき庭のわか竹

もてあそび手にとらすれば幼子がうちゑむ顏のうつくしきかな

もろともにたすけかはしてむつびあふ友ぞ世にたつ力なるべき

卒業式

わらはべがまなびの道のゆるし文さづくる人もうれしかるらむ

披書知昔

文みれば昔にあへるこゝちして涙もよほす時もありけり

思往事

をりにおもひぞいづる國のため心くだきし人のむかしを

社頭

はるかにもあふがぬ日なしわが國のしづめとたてる伊勢のかみ垣

神祇

わがこゝろおよばぬ國のはてまでもよるひる神は守りますらむ

をりにふれて

つはものゝ駒の足音ぞきこゆなる旅だちまうけとゝのひぬらし

勇みたつこまをひかへてますらをはわが小車のいづるまちけむ

ことしげき世にふる人もわがこのむ道にわけいるひまはありけり

民のため心のやすむ時ぞなき身は九重の内にありても

天てらす神のみいつを仰ぐかなひらけゆく世にあふにつけても

月の輪のみさゝぎまうでする袖に松の古葉もちりかゝりつゝ

明治天皇御集 卷中

編集

明治三十七年

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新年

神風の伊勢の宮居の事をまづ今年も物の始にぞきく

新年祝

あしはらの國のさかえを祈るかな神代ながらのとしをむかへて

早春夕

ながしとはいまだ思はぬ春の日もくれがた遲くなりにけるかな

待鶯

思ふこと多きことしも鶯の聲はさすがにまたれぬるかな

雨中鶯

春雨にぬれたる花を見る人もなしとやひとり鶯のなく

梅花

おりたちて見るいとまなき春としもしらでや梅のさき匂ふらむ

梅風

吹上の園生の梅や咲きぬらむついぢふきこす風かをるなり

春草

さゞれ石敷きたる庭も若草のみどりになりぬ春たけぬらし

春雨

春雨のふるにつけても民草のうるほはむ世をまづ思ふかな

春駒

たゝかひのにはまだしらぬ若駒も勇みまさりてみゆる春かな

雉思子

子を思ふきゞすの聲をあはれとは狩をたのしむ人もきくらむ

雨夜思花

春雨のふりいでざらば花の上に月もさすべききよはならましを

樹間花

こずゑのみ人に知られて櫻花こがくれながら散りやはつらむ

見花

戰のにはに立つ身をいかにぞと思へばはなもみるこゝちせず

對花思昔

春毎にうたげのにはにつらなりし人をぞおもふ花陰にして

花慰老

老人もゑみさかえつゝ咲きにほふ花の木陰に遊ぶ春かな

雨後落花

雨晴れし庭の木陰にたゝずめばぬれたる花の袖にちりくる

河上落花

大堰川いかだの過ぎし跡見えてちりうく花のたちわかれたる

暮春

吹上のそのふの花をいかにぞと問ふ日もなくて春のくれゆく

春日

こと繁き世のまつりごと聽くほどに春の日影も傾きにけり

春夜

ともしびもさしかへぬまに春の夜はよひすぎたりと人のいふなり

をりにふれて

月影はかつみえながら春雨のしづくぞおつる花のしたみち

世の爲にもの思ふ時は庭にさく花も心にとまらざりけり

花鳥のいろねは常にかはらねどこゝろにとむる人なかりけり

はなとりの上も思はでよろづ民くにゝ心をつくす春かな

山ざくら見つゝぞおもふものゝふの心の花もさかりなる世を

思ふ事たえぬ今年は春の夜もねざめがちにてあかしけるかな

新樹露

この朝けひとむらさめや降りつらむ樅のわかばに露のたまれる

時鳥

時鳥おほかる里にあらねどもきかで過しゝ夏なかりけり

夜時鳥

こがひするしづや聞くらむ短夜のふけゆく空になく時鳥

山時鳥

時鳥きく人もなき山にしもかへりて聲を惜まざりけり

故宮橘

たらちねのみおやの御代をしのぶかな花橘の陰をふみつゝ

紫陽花

うるはしき色に匂へどなにとなくさびしく見ゆるあぢさゐのはな

海邊夏月

濱殿の庭に眞砂路ふみならし波間すゞしき月をみるかな

高樓夏月

おばしまは夜露にぬれて高殿の軒にさし入る月のすゞしさ

瞿麥

色々に咲きかはりけりおなじ種まきて育てし撫子の花

夏菊

おく霜の寒さを知らぬ夏菊の花もうつろふ時はのがれず

夏草

事繁き世にも似たるか夏草は拂ふあとよりおひ茂りつゝ

庭泉

庭の面に清水の音はきこゆれどむすぶいとまもなき今年かな

夏星

おほぞらの星をかぞへて夏の夜は月なき宵もはしゐをぞする

夏山水

年々におもひやれども山水を汲みて遊ばむ夏なかりけり

夏住居

たちつゞく市の家居は暑からむ風の吹入る窓せばくして

吹く風もたえず通ひて夏はたゞ高き所ぞすみよかりける

夏駒

ゆふ日影かげろふ待ちて鞍おかむ駒もあつさに弱りもぞする

夏花

百日さく花まばゆくもみゆるかな今や暑さのさかりなるらむ

夏氷

夏しらぬこほり水をばいくさ人つどへるにはにわかちてしがな

夏神祇

わせおくて殘るかたなくうゑはてゝしづは田中の神まつるらし

をりにふれて

早苗とるしづが菅笠いにしへの手ぶりおぼえてなつかしきかな

暑しともいはれざりけえりにえかへる水田にたてるしづを思へば

たへがたき暑さにつけていたでおふ人のうへこそ思ひやらるれ

千萬のあたをおそれぬますらをもこの暑さには堪へずやあるらむ

ときのまに硯の水のかわくにもけふのあつさのしられけるかな

ものゝふの野邊のたむろやあつからむ宮の内にも風をまつ日は

いくさ人いかなるのべにあかすらむ蚊の聲しげくなれる夜ごろを

つはものはいかに暑さを凌ぐらむ水にともしといふところにて

朝顏

夕月の影にかぞへし莟より多く咲きけり朝がほの花

霧中朝顏

薄霧のなびくかきねに朝顏の花見えそめて夜はあけにけり

行路萩

ゆく人を妨げざらばたちとまり見てましものを野邊の秋萩

草花

秋の野のちぐさの花にくらぶれば染めなす色は限ありけり

故郷草花

園守やひとりみるらむ昔わが集めし庭の秋草の花

蟲聲非一

あきの野のちぐさの花の色々を聲にうつして蟲ぞなくなる

秋風寒

ふじの嶺に初雪みえてうちひさす都も寒き秋風ぞ吹く

秋夕雨

深からぬあきだに物のさびしきは雨に暮行くゆふべなりけり

故郷秋夕

守る人の住むばかりなる故郷のあきのゆふべやさびしかるらむ

秋夜閑談

いにしへの人の功をかたりいでぬもの靜かなる秋の長夜に

秋田

八束穗のたりほのはつほ新嘗にさゝげまつると刈りはじむらむ

秋夜對月

たゝかひのにはに心をやりながらむかひふかしつ秋のよの月

月照流水

秋はぎのさきかくしたる遣水の末こそみゆれ月の光に

湖月

殿守やひとり見るらむ玉くしげ箱根の海の秋の夜のつき

海上月

あたの船うちしりぞけていくさびと大海原の月やみるらむ

田家月

綿の實も露にしめりて山畑のあぜ道寒し秋のよの月

月前遠情

もろこしの荒野の末のありさまを思ひやりても月をみるかな

旅宿月

都にておもひしよりもおもしろしあがたの里の秋の夜の月

たびねする宿の軒端のあさければ枕の上に月のさし來る

行路霧

霧たちてさだかに見えず道のべにわれを迎ふるひとのおもわも

折菊

九重の庭の白梅たをらせて宴にもれし人におくらむ

紅葉淺深

こき薄き色をまじへてもみぢ葉はそめはてぬ間ぞ盛なりける

河紅葉

大堰川ゐせきの波にうつろひてちらぬ紅葉の影ぞたゞよふ

秋河

西山は緑に晴れて桂川すみたる水に秋風ぞ吹く

秋別業

てる月の桂の里のなり所秋こそゆきて見まくほしけれ

秋遠情

園のうちにうゑたる稻も色づきぬ里人いまか山田刈るらむ

寄露述懷

あがたもる人に問ひみむ民くさにかゝる惠の露はいかにと

秋神祇

神垣に使をたてゝ豐年の秋の初穗を捧げつるかな

秋祝

すめ神にはつほさゝげて國民と共に年ある秋を祝はむ

をりにふれて

はりまがた舞子の濱に旅寐して見し夜こひしき月の影かな

ものゝふの野邊のかりふしいかにぞと思ひやらるゝよはの霜かな

水鳥

朝日さす堤にいでゝ水鳥は霜にぬれたる翅ほすらし

雨中水鳥

ふる雨は霙になりて暮渡る入江に寒き水鳥の聲

雪朝

ふりつもる雪のあしたも司人まゐ來る時はたがへざりけり

年欲暮

まつり事いよしげくなりにけり年の終のちかづきしより

煤拂

ちはやぶる神のおましをはじめにて今年の塵を拂はせてけり

をりにふれて

いたでおふ人のみとりに心せよにはかに風のさむくなりぬる

時雨ふる頃ともなりぬいくさ人暑さいかにと思ひやるまに

しぐれして寒き朝かな軍人すゝむ山路は雪やふるらむ

寐覺してまづこそ思へつはもののたむろの寒さいかゞあらむと

あさみどり澄みわたりたる大空の廣きをおのが心ともがな

久方のあまつ空にも浮雲のまよはぬ日こそすくなかりけれ

ゆふやけの雲うすらぎてたゞひとつあらはれそめし星の影かな

民戸煙

事有るにつけていよ思ふかな民のかまどの煙いかにと

つもりなば拂ふ方なくなりぬべし塵ばかりなる事とおもへど

ねざめせしこの曉のこゝろもてしづかにものを思ひ定めむ

起き出でゝ思ふ事なきあしたこそをさな心にひとしかりけれ

産みなさぬものなしといふあらがねのつちはこの世の母にぞありけれ

おほぞらにそびえて見ゆろたかねにも登ればのぼる道はありける

花紅葉なほうゑそへよ里人の遊び處と野はなりにけり

遠くとも人のゆくべき道ゆかば危き事はあらじとぞ思ふ

ひらくれば開くるまゝに思ふかなあらぬ道にや人のいらむと

山路

いはがねのこゞしき山をてる日にもたゆまずこゆるわが軍人

今もなほふみわけがたき深山路を開きし人の昔をぞ思ふ

天地のなしのまゝなるいはがねの姿はことににおもしろきかな

岩がねにせかれざりせば瀧つ瀬の水のひゞきも世にはきこえじ

さゞれさへゆくこゝちして山川のあさせの水の早くもあるかな

仇波のしづまりはてゝ四方のうみのどかにならむ世をいのるかな

つかさどる人の力によりてこそかさご島もひらけゆきけれ

磯波

岩が根によせて碎くる荒波のしぶきにくもるいそのまつ原

ちはやぶる神の御代よりうけつげる國をおろそかに守るべしやは

山城のみやこいかにと春秋の花に紅葉におもひやりつゝ

思古宮

さくらさく春なほ寒しみよし野の吉野の宮の昔おもへば

故郷松

故郷の庭の老松たらちねのみおやの御代の昔かたらへ

思故郷

たらちねのみおやのましゝ故郷の都はことにこひしかりけり

をさなくて住みし昔のありさまを折にふれては思いでつゝ

農家

しづがすむわらやのさまを見てぞ思ふ雨風あらき時はいかにと

なかにみやびすくなしあまりにも作りすぎたる庭のけしきは

植物苑

我園にしげりあひけり外國の草木の苗もおほしたつれば

古井

くむ人もたえし野中のふるゐにはかへりて清き水やわくらむ

旅夕

あとさきに人をともなふ旅ながらくれゆく道はさびしかりけり

旅行友

故郷を遠くはなれてゆく人はともなふひとや力なるらむ

野外旅宿

しづのをが聲をまぢかくきゝてけり畑つゞきなる野べにやどりて

旅宿人來

あがた人かはるもつどひ來て旅のやかたは賑ひにけり

旅宿興

里人も花火うちあげて旅寐するわがつれを慰めにけり

山家鳥

あしひきの山下庵はしづかにてかはぬ小鳥も庭になれつゝ

田家竹

おのづからおひたる竹をへだてにて垣根もゆはぬ小山田のさと

田家翁

こらは皆軍のにはにいではてゝ翁やひとり山田もるらむ

いぶせしと思ふなかにもえらびなばくすりとならむ草もあるべし

むらぎもの心むなしき呉竹はしらずや千年へぬらむ

老松

やしなひてなほも齡をたもたせむ庭にちよふる松のひともと

巖上松

苔むせるいはねの松の萬代もうごきなき世は神ぞもるらむ

松年久

ふる里の老木の松はをさなくてみし世ながらの緑なりけり

籠中鳥

籠のうちにさへづる鳥の聲きけば放たまほしく思ひなりぬる

ひなづるは親とひとしくなりにけり巣だちし年は遠からねども

足なみのかはるをみればのる人のこゝろを早くこまはしるらむ

あしひきの山田のすゑのなはて道ひきつゞきても牛のゆくみゆ

身にあまる重荷車をひきながらいそがぬ牛はつまづかずして

つはもののかてもまぐさも運ぶらむ牛も軍の道につかへて

わたなかに潛めるたつも大空の雲をおこさむ時はあるものを

國のためながゝれと思ふ老人にしなぬ藥をさづけてしがな

いかならむ藥あたへて國のためいたでおひたる人をすくはむ

心ある人のいさめのことのはは病なき身の藥なりけり

筆とりてをしへし人の昔まで思ひうかぶる水莖のあと

讀書

文字をのみよみならひつゝ讀む書の心をえたる人ぞすくなき

いまの世におもひくらべて石上ふりにしふみを讀むぞたのしき

わがためにいひしことさへ思ひいでぬ昔の人のふみをよみつゝ

天地もうごかすばかり言の葉のまことの道をきはめてしがな

思ふことありのまにつらぬるがいとまなき世のなぐさめにして

ときにつけ折にふれつゝ思ふことのぶればやがて歌とこそなれ

世の中にことあるときはみな人もまことの歌をよみいでにけり

軍歌

武士のいさむ心はいくさうたうたふ聲にもきゝしられけり

軍旗

ますらをに旗をさづけていのるかな日の本の名をかゞやかすべく

ひとひらの地圖ひらきみてつはものゝすゝむ山路を思ひやるかな

しきしまの大和心をみがゝずば劍おぶともかひなからまし

あらはさむときはきにけりますらをがとぎし劍の清き光を

打ちさしてまもりながらにほどふるはいかなる手をか思ひめぐらす

石上ふるきてぶりぞなつかしきしらぶる琴のこゑをきくにも

あしはらの國とまさむとおもふにも青人草ぞたからなりける

つたへきて國のたからとなりにけり聖のみよのみことのりぶみ

國といふくにのかゞみとなるばかりみがけますらを大和だましひ

くもりなく世をたもてとて千早ぶる神のさづけし鏡なるらむ

榊葉にかくる鏡をかゞみにて人もこゝろをみがけとぞ思ふ

しづかにも世のをさまりてよろこびの盃あげむ時ぞまたるゝ

寫眞

末とほくかゝげさせてむ國のため命をすてし人のすがたは

電信

はりがねのたよりののみこそまたれけれ軍のにはを思ひやるにも

軍艦

荒波をけたてゝはしるいくさぶねいかなる仇かくだかざるべき

なみ遠くてらすともし火かゝげつゝ仇まもるらむわがいくさぶね

渡舟

里人のかへる野川のわたし船こまをものせて漕ぎいでにけり

釣舟

浦ちかくこぎかへりきぬ鳥よりもちひさくみえし沖のつりふね

眺望

品川の沖にむかひていくさぶね進む波路を思ひやるかな

薄暮眺望

家なしと思ふかたにもともし火の影みえそめて日はくれにけり

正述心緒

よもの海みなはらからと思ふ世になど波風のたちさわぐらむ

述懷

かみつよの聖のみよのあとゝめてわが葦原の國はをさめむ

まつりごとたゞしき國といはれなむもゝのつかさよちから盡して

山のおく島のはてまで尋ねみむ世にしられざる人もありやと

照るにつけくもるにつけて思ふかなわが民草のうへはいかにと

民草のうへやすかれといのる世に思はぬことのおこりけるかな

よの中はたかきいやしきほどに身を盡すこそつとめなりけれ

たゝかひの道にはたゝぬ國民もちゞに心をくだくころかな

國をおもふみちにふたつはなかりけり軍の場にたつもたゝぬも

おほづゝの響きはたえて四方のうみよろこびの聲いつかきこえむ

雨夜述懷

民草のうへに心をそゝぐかな雨しづかなるよはの寢覺に

寄道述懷

白雲のよそに求むな世の人のまことの道ぞしきしまの道

なにごとに思ひ入るとも人はたゞまことの道をふむべかりけり

寄草述懷

かりそめの言の葉草もともすればものの根ざしとなる世なりけり

寄玉述懷

きずなきはすくなかりけり世の中にもてはやさるゝ玉といへども

かくばかりことしげき世にたへぬべき人をえたるがうれしかりけり

世の中の事ある時にあひてこそひとの力はあらはれにけれ

老人

ほどにたつべき道もあるものを老いにけりとて身をなかこちそ

世の中のつとめをさくる老人も國のためにはもの思ふらむ

くりかへす昔がたりにおのづからいさめことばのまじる老人

ひとりたつ身になりぬともおほしたてし親の惠をわすれざらなむ

國の爲たふれし人を惜むにも思ふはおやのこゝろなりけり

兄弟

家の風ふきそはむ世もみゆるかなつらなる枝の茂りあひつゝ

戰のいとまある日はますらをも都の友のうへやいふらむ

ほどにこゝろをつくす國民のちからぞやがてわが力なる

農夫

山田もるしづが心はやすからじ種おろすより刈りあぐるまで

むらぎもの心のたねのをしへ草おひしげらせよ大和しまねに

學問

事しげき世にたゝぬまに人は皆まなびの道に勵めとぞ思ふ

卒業生

ものまなぶ窓をはなれていまよりは國のつとめにたゝむとすらむ

今はとて學のみちにおこたるなゆるしの文をえたるわらはべ

乘馬

いさみたつ心のこまもひかへけりあとよりつゞく老人のため

運動

ことしあらば軍のみちにたゝむ身は野をも山をもふみならさなむ

ちかひたるおのが心をしをりにて誠の道をわけつくしてむ

しきしまの大和心のをゝしさはことある時ぞあらはれにける

山をぬく人のちからも敷島の大和心ぞもとゐなるべき

かざらむと思はざりせばなかにうるはしからむ人のこゝろは

わがこゝろ千里の道をいつこえて軍の場をゆめにみつらむ

軍人すゝむ山路をまのあたり見しは假寐のゆめにぞありける

おもふこと多かる頃のならひとて常にはみざる夢をみしかな

今も世にあらばと思ふ人をしもこの曉の夢に見しかな

披書思昔

のこしおく書をしみればいにしへの人の聲をもきくこゝちして

思往事

たらちねのみおやの御代の昔をもことある毎に語りいでつゝ

あらたまる世をいかにぞと思ひしはをさなかりつる昔なりけり

いにしへの人のいひてしかねごとをおもひぞいづるをりにふれては

たらちねのみおやの御代につかへにし人も大かたなくなりにけり

光陰如矢

思うふことつらぬかむ世はいつならむ射る矢のごとくすぐる月日に

神祇

神垣に朝まゐりしていのるかな國と民とのやすからむ世を

國民はひとつ心に望まもりけり遠つみおやの神のをしへを

寄神祝

かみかぜの伊勢の内外のみやばしら動かぬ國のしづめにぞたつ

寄道祝

ちはやぶる神の御代よりひとすぢの道をふむこそうれしかりけれ

寄國祝

かしの實のひとつ心に萬民まもるがうれし蘆原のくに

橿原の宮のおきてにもとづきてわが日本の國をたもたむ

國のためあたなす仇はくだくともいつくしむべき事な忘れそ

ことのはにあまる誠はおのづから人のおもわにあらはれにけり

世の中の人の司となる人の身のおこなひよたゞしからなむ

折にふれて

思ふこと貫かむ世をまつほどの月日は長きものにぞありける

すゝむべき時をはかりて進まずば危き道にいりもこそすれ

うつせみの世のためすゝむ軍には神も力をそへざらめやは

いかならむ事にあひてもたわまぬはわがしきしまの大和だましひ

戰のにはにもたゝであた波に沈みし人の惜くもあるかな

くにの爲身をかへりみぬますらをゝあまたえにけりこの時にしも

夢さめてまづこそ思へ軍人むかひしかたのたよりいかにと

軍人つくす力のあらはれてけふもすゝみしたよりをぞきく

おのが身にいたでおへるもしらずしてすゝみも行くかわが軍びと

たゝかひの場はいかにと思ふかないなゝく駒の聲をきくにも

仇まもる船をいかにとおもふかな青海原を見るにつけても

戰のにはのおとづれいかにぞとねやにも入らずまちにこそまて

つばらにもしらするふみにつはものゝ勇む姿も見るこゝちして

とる筆はかぎりありけり使してとはせてを見むたゝかひの場

つかひせし人のかへるをまちつけて軍のにはのことをこそ問へ

軍人ちからつくしゝかひありて仇もなかばゝまつろひにけり

石だゝみかたきとりでも軍人みをすてゝこそうち碎きけれ

ひさしくもいくさのにはにたつひとは家なる親をさぞ思ふらむ

國の爲いくさのにはにたつ人に仇なすやまひふせぎてしがな

年へなば國のちからとなりぬべき人をおほくも失ひにけり

たゝかひに身をすつる人多きかなおいたる親を家にのこして

はからずも夜をふかしけりくにのため命をすてし人をかぞへて

港江に萬代よばふ聲すなりいさをゝつみし船やいりくる

かぎりなき世にのこさむと國の爲たふれし人の名をぞとゞむる

戰のにはにたふれしますらをの魂はいくさをなほ守るらむ

よとゝもに語りつたへよ國のため命をすてしいさをを

くにのため心も身をもくだきつる人のいさををたづねもらすな

思ふことつらぬきはてゝ國民の心やすめむときぞまたるゝ

いかにぞとおもひしことはさもあらで思はぬことをきく世なりけり

野も山もさびしかるらむ花紅葉みつゝ遊ばむ年にしあらねば

ちはやぶる神の心にかなふらむわが國民のつくすまことは

なりはひはよしかはるとも國民の同じこゝろに世を守らなむ

國民のひとつごゝろにつかふるもみおやの神のみめぐみにして

身をまもる道はひとすぢ位山たかきいやしきしなはあれども

ぬけいでしふしを見せなむいやましに竹のそのふのしげりあひつゝ

あらたまる事の始めにあひましゝみおやのみよを思ひやるかな

いちはやく進まむよりも怠るなまなびの道にたてるわらはべ

家富みてあかぬことなき身なりとも人のつとめにおこたるなゆめ

いそのかみ古きためしをたづねつゝ新しき世のこともさだめむ

いにしへの御代の教にもとづきてひらけゆく世にたゝむとぞ思ふ

さわがしき風につけても外國にいでゝ世渡る民をこそおもへ

あがたみにやりてし人のものがたり今日こそきかめ暇えたれば

をちこちの縣守る人つどひけり民のなりはひとはせてを見む

さまのうきふしをへて呉竹のよにすぐれたる人とこそなれ

ことしげき世にはあれども國民を教ふる道に心たゆむな

使してとはせてをみむ山里にすめる老人さびしからむを

わけばやと思ひ入りぬる道にしも高きしをりのみえそめにけり

しほどきになりにけらしも濱どのゝかきね近くも波のおとする

明治三十八年

編集

新年山

富士のねに匂ふ朝日も霞むまで年たつ空ののどかなるかな

新年祝道

たちかへる年のほぎごと敷島の道によりてぞ民もいひける

をりにふれて

あたらしき年のたよりに仇の城ひらきにけりときくぞ嬉しき

あらたまのとしたつ山をみる人のこゝろを歌にしるかな

初春風

梅にふれ柳にふれてきのふけふ風のこゝろも春になるらし

谷鶯

都にはいづる心やなかるらむ谷かげにのみ鶯の鳴く

老梅

さむしとてこもるべしやは枝くちし老木のうめも花さきにけり

山家梅

風さえて雪のみふりし山里も梅さきにけり時の來ぬれば

旅宿梅

旅衣ぬぎかへずして見つるかなあるじがいけし梅のひと枝

折梅贈人

うめの花をりてを見せむ老人は春さむしとてとはじと思へば

梅花散

まつりごといとまなきまに過ぎにけり久しと思ひし梅のさかりも

野春風

うらとかすむ春野も菜の花のかをるばかりの風はありけり

朝春雨

花どきの朝ぐもりかとおもひしを音せぬあめのふりいでにけり

夕春雨

燕とぶしだり柳に夕日かげかつさしながらはるさめぞ降る

待花

木のもとにいづればまづぞ待たれける花みて遊ぶ春ならねども

さかばかつ散りなむ花をまちどほに思ふぞ人のこゝろなりける

雨後花

春雨のなごりの露をにほひにてたわめる花のうるはしきかな

別業花

うつせみの代々木の里のなりどころ花の梢も苔むしにけり

窓前花

窓のとの花はさかりに匂ふとも書よむわらは心ちらすな

庭前花

宴せむいとまなしともしらずしてわが庭櫻さきそめぬらむ

老人見花

このもとにいでゝぞ遊ぶ老人も花のときには家にこもらで

花下宴

はまどのゝ花のうたげを年毎に外國人も待つといふなり

花下言志

ちかゝらばわが庭ざくら北支那のたむろに折りてやらましものを

たゝかひのにはのみ思ふこの春は花の木かげもしづごゝろなし

あらたまの年にひとたびさく花を心しづかにみむ春もがな

花時風雨多

雨風のおほき年かな櫻花まちつるほどはのどかなりしを

落花

なかにたづねおくれて散る花のさかりにあひぬ嵯峨の山ぶみ

雨中落花

ふく風をふりしづめたる春雨になほとゞまらでちる櫻かな

遲日

まつりごといとまなき身も春雨のふる日は長くおもほゆるかな

遠乘にいでにし人はかへれども春の日かげはなほたかくして

春田

いくか經てかへしはつべき小山田にたてるをのこの數のすくなき

春夕

くれぬべく見えての後もくれぬかな柳のいとのながきはる日は

春夢

曉をしらずといへる春ながらことしは夢もやすくむすばず

春遠情

ひむかしの都の空も春寒しさえかへるらむ北支那の山

故郷を遠くはなれていくさ人花のさかりもしらずやあるらむ

をりにふれて

春のたつ空にむかひて世の中ののどかにならむ時をこそまて

あつ氷とくるを待ちて北の海にすゝみゆくらむわが軍ぶね

さくら花霞みてにほふ山みれば世にはことある春としもなし

水邊卯花

鮎はしる山川のせにかげ見えてひとむらうつぎ花さきにけり

尋時鳥

時鳥いでにしあとに來にけらしたづぬる山も聲のすくなき

橘遠薫

九重の庭のたちばな吹く風にわたどのこえてかをりきにけり

なかに遠ざかりてぞまさりける花橘のたかきかをりは

茶摘

このめつむ宇治のをとめごいまめかぬその手ぶりこそゆかしかりけれ

梅雨

梅雨にたゝみのうへもしめれるをたむろのうちぞ思ひやらるゝ

梅雨寒

さみだれの雨のさむさにおもふかな夏は暑きがこゝちよしとは

風前螢

おふ人もあらぬ中洲の蘆原を風にふかれてゆくほたるかな

海邊夏月

あしはらの螢のかげは消えはてゝみちたる汐に月ぞ浮べる

沙月涼

白波のよせてあらひしあとみえてまさごぢ清し夏のよの月

夜納涼

ともしびも吹きけつばかり風たちてはしゐ涼しき夏のよはかな

夏雲

雲ばかり空にまよひて夕立のふりいでぬまの暑くもあるかな

夏山水

たらぬことなしとや夏は思ふらむ水にとみたる鹽原のさと

故郷夏

山水を池にひきたるふるさとの庭こそ夏はこひしかりけれ

夏木

一木にて庭をおほへるくすのきの陰こそ夏はすみよかりけれ

夏花

生垣のかなめのうへにさきながらねざしはみえぬ晝顏のはな

煽風器

かざぐるまいざかけさせよ日ざかりの暑さいとはず人のまゐくる

夏述懷

まつりごといでゝきくまはかくばかりあつき日としも思はざりしを

寄夏草述懷

國のため民の爲には夏草のことしげくともつとめざらめや

をりにふれて

つはものゝ毛織の衣ぬらすらむ樺太じまのなつぐさのつゆ

いつかわが心にかゝる雲はれてすゞしき月のかげにむかはむ

暑しともいはれざりけり戰の場にあけくれたつ人おもへば

朝顏

水瓶にうかべおきつる朝顏もしぼまむ時のくればしぼみぬ

野亭萩

やちくさの花野を庭と見る庵もなほ秋萩をうゑてけるかな

薄隨風

秋風や吹きかはりけむしの薄そむきし方にうち靡くなり

待月

海原もひと目にみゆるたかどのに登りてまたむ秋の夜の月

對月

さまにもの思ふ夜もさやかなる月にむかへばなぐさまれけり

港月

いくさ船みなとにいりて波風のしづまれるよの月やみるらむ

月似古

たらちねのみおやの宮にをさなくて見しよこひしき月のかげかな

月夜遠情

外國の野邊のたむろにこの秋も月やみるらむわがいくさびと

月前霧

大空はさやかに見えてさぎりたつ水のうへくらし秋のよの月

秋水聲

なく蟲のこゑもまじりてふくる夜の枕に寒き水の音かな

をりにふれて

千町田のことしのみのりいかにぞとあがたの人にとはせてをみむ

霜夜聞鐘

霜ふみて撞くらむ人の寒ささへ思ひやらるゝ鐘のおとかな

木枯

九重のうちにありても木枯のふきあるゝ夜はねられざりけり

寒月入窓

窓のとやさしわすれけむわたどのに冴えたる月のかげの見ゆるは

たゞしばしあけてみるまに板じきのうへまでつもるけさの雪かな

ふる雪もまたれざりけりつはものゝたむろの寒さおもふ今年は

雪滿群山

大空はみどりにはれて山といふ山みなしろく雪ふりにけり

海邊雪

うちよする波はなみともみゆるかな渚の松にゆきはつもれど

禁庭雪

吹上のまつのあらしもうづもれて雪しづかなりこゝのへのには

雪中人來

埋火のもとにいざなへふる雪のはれまもまたできたる老人

待春

戰のにはの寒さをおもふにもまづ待たるゝは春にぞありける

歳暮

人みなのおどろきがほに惜むかなにはかにくるゝ年ならなくに

冬夢

窓をうつ霰のおとにさめにけりいくさの場にたつと見し夢

折にふれて

たかきびの畑にこほれる霜ふみて仇さぐるらむつはものゝとも

すめるもの昇りてなりし大空にむかふ心も清くぞありける

嶺上雲

とほければ風のひゞきはきこえねどたかねの雲の動きそめたる

長雨

はれまなく降る長雨に川水のあふれむことをまづおもふかな

行路雨

道のべにわれを迎へて立つ人のぬれもやすらむ雨のふりくる

曉のねざめのとこにおもふこと國と民とのうへのみにして

山よりもさびしきものは限なき荒野の原をゆく日なりけり

しるべする人をたよりにわけいらばいかをなる道かふみ迷ふべき

踏み分くるひとなかりせば末つひにわかずやならむちよのふる道

あるゝかと見ればなぎゆく海原のなみこそ人の世に似たりけれ

秋つしま四方にめぐれるうなばらの波こそ國のかきねなりけれ

四海清

よものうみ波しづまりてちはやぶる神のみいつぞかゞやきにける

しまといふしまのはてまで司人めぐみの波をかけなもらしそ

故郷池

舟うけてをさなあそびをせし時を思ひうかぶる庭のいけ水

ことそぎし昔の手ぶりわするなよ身のほどに家づくりして

餞別

盃をあげてぞ祝ふとつくにゝ旅ゆく人のつゝがなかれと

旅思

ゆく所わが國ながら旅にあれば都おもはぬときなかりけり

旅中述懷

なりはひの暇なき世を思ふかなしづが手ぶりをまのあたりみて

旅宿人來

うれしくも旅のやどりをとひきけり都にありとおもひつる人

羇中眺望

たびねする山邊のけしきおもしろし繪にうつさせて家づとにせむ

田家

をさな子をはぐゝみながら田に畑にいそしむしづの暇なげなる

田家煙

縣守こゝろにかけよしづがやのかまどの烟たつやたゝずや

うとましと思ふ葎はひろごりて植ゑてし草の根はたえにけり

ますらをの心に似たりいさゝかもまがるふしなき窓のくれ竹

山深くこもりしたかもいでぬらし軍のかちを世につげむとて

園守におはれやすらむかしましく鴉なくなり庭のはやしに

うちのりて雪の中道はしらせし手馴のこまも老いにけるかな

軍馬

たゝかひの場にすゝみて乘る人と共にたふれし駒はいくらぞ

冬の夜の寒さをしのぐ酒だにもえがたかるらむつはものゝとも

うるはしくかきもかゝずも文字はたゞ讀みやすくこそあらまほしけれ

よろづよの國ののりともなる書をのこしてしがなこの時にして

生ひたちし縣によりてかはりけり同じやまとの人のことばも

戰のいとまある日はものゝふも言葉の花をつむとこそきけ

ひとりつむ言の葉草のなかりせばなにゝ心をなぐさめてまし

新しきふしはなくとも呉竹のすなほならなむ大和ことの葉

むらぎもの心のうちに思ふこといひおほせたる時ぞうれしき

手習

手ならひをものうきことに思ひつるをさな心をいまくゆるかな

ときにうつりゆく世のありさまを畫にかゝせてものこしおきてむ

山水畫

きよき瀬に人の心をみちびくはこの山水のうつし畫にして

ひとひらのかたをしるべに軍人しらぬ野山にせめかいるらむ

ものかゝむ暇なければすらせたる現の墨もそのまゝにして

くもりなき朝日のはたにあまてらす神のみいつをあふげ國民

しづはけふ家にこもりてくらすらむ菅のをがさの軒にかゝれる

さまの玉をあつめてきずなきはえがたきものとさらにしりぬる

いさをある人をつどへて盃をあたへむ時をまたぬ日もなし

花瓶

うるはしき花をゑがける小瓶には松の枝をや折りてさしてむ

新聞紙

みな人の見るにひぶみに世の中のあとなしごとは書かずもあらなむ

時計

進むありおくるゝもあり時はかるうつはの針もまちにして

數あまたあるが中にも國にしてつきりし船をみるぞうれしき

いそしみてます船はつくらなむ海をめぐらす國のかために

港船

あた波をしづめつくして年もいまくれの湊にかへる船かな

蘆間舟

とる棹のこゝろ長くもこぎよせむ蘆間の小舟さはりありとも

遠帆連波

遠けれどまがはぬものは波のうへにつらなる船の帆かげなりけり

晩鐘

人しげき都の市にきゝてだにさびしきものを入相のかね

花火

かちいくさ祝ふなるらむ市人が花火うちあぐる音きこゆなり

述懷

思ふことおほかる中にをりはなぐさむこともあるよなりけり

たゝかひのうへに心をつくしつゝ年のふたとせすごしけるかな

末つひにならざらめやは國のため民のためにとわがおもふこと

寢覺述懷

ゆくすゑはいかになるかと曉のねざめに世をおもふかな

弓矢とる國にうまれしますらをの名をあらはさむ時はこの時

なよたけはすなほをならなむうつせみの世にぬけいでむ力ありとも

老人

いさみても弓矢のことをかたりてしますらをいたく老いにけるかな

年高き老木の松はいにしへのあとゝふ道のしをりなりけり

世の中のことまだしらぬうなゐ子も時に合ひたる遊びをぞする

わたつみの波のよそにもへだてなく親しむ友はある世なりけり

國の爲いよはげめちよろづの民もこゝろをひとつにはして

海人

いさりする親をたすけてあまの子はいとけなきより小舟こぐなり

樵夫

柴かりにいとけなきよりいづる子はまなびの道に入るひまやなき

ちはやぶる神のをしへをうけつぎて人のこゝろぞただゝしかりける

學生

世の中の風にこゝろをさわがすなまなびの窓にこもるわらはべ

おこたらず學びおほせていにしへの人にはぢざる人とならなむ

すなほなるをさな心をいつとなく忘れはつるが惜しくもあるかな

しのびてもあるべき時にともすればあやまつものは心なりけり

まどろめば夢にぞみゆるむらぎもの心にかけて思ふひとこと

思往事

さまのことにあたりて思ふかな國ひらかしゝ御代のみいつを

社頭

神路山みねのまさかきこの秋は手づからをりて捧げまつらむ

社頭杉

しげりあふ杉の林をかこひにてちりにけがれぬ神のひろまへ

神祇

世の中にことあるときぞしられける神のまもりのおろかならぬは

寄國祝

うけつぎて守るもうれし千早ぶる神のさだめしうらやすの國

寄民祝

民草のしげりそふこそ葦原の國のさかゆくもとゐなりけれ

しづがうへに心をとめて縣もりたづきなき身をいつくしまなむ

とき遲きたがひはあれどつらぬかぬことなきものは誠なりけり

ちよろづの仇にむかひてたわまぬぞ大和をのこのこの心なりける

國民のうへやすかれとおもふのみわが世にたえぬ思なりけり

凱旋の時

外國にかばねさらしゝますらをの魂も都にけふかへるらむ

凱旋觀兵式にのぞみて

戰にかちてかへりしはものゝ勇ましくこそたちならびけれ

凱旋觀艦式に臨みて

いさましくかちどきあげて沖つ浪かへりし船を見るぞうれしき

をりにふれて

おのづから仇のこゝろも靡くまで誠の道をふめや國民

老人を家にのこしていくさびと國のためにといづるをゝしさ

ともしびをさしかふるまで軍人おこせしふみをよみ見つるかな

いつの日か歸り來ぬべきいくさ人ねぎらはむとてやりし使は

をゝしくも連りきつるあた船をうち碎きけりわがいくさびと

思ふことつらぬかずしてやまぬこそ大和をのこのこゝろなりけれ

國の爲いのちをすてしものゝふの魂や鏡にいまうつるらむ

むかしよりためしまれなる戰におほくの人をうしなひしかな

身をすてし人をぞ思ふまのあたり軍のにはのことをきくにも

萬代もふみのうへにぞのこさせむ國につくしゝ臣の子の名は

とつくにの人もよりきてかちいくさことほぐ世こそうれしかりけれ

天地の神にぞいのる民のため雨風ときにしたがひぬべく

久方のあめにのぼれるこゝちしていすゞの宮にまゐるけふかな

さくすゞの五十鈴の宮の廣前にけふおほ幣をさゝげつるかな

くもりなきあしたの空に神路山かうしくも見えわたるかな

えぞのおく南の島のはてまでもおひしげらせよわがをしへ草

つくと思ふにつけて尊きはとほつみおやの御稜威なりけり

いさみたつ人の心の若駒よあやふき道にすゝまざらなむ

手綱にもまかぜぬものは勇みたつ人の心のあらごまにして

世に廣くしらるゝまゝに人みなのつゝしむべきにおのが身にして

こゝろざす方こそかはれ國を思ふ民の誠はひとつなるらむ

世の中の事ある時にあひぬともおのがつとめむわざな忘れそ

物學ぶ道にたつ子よおこたりにまされる仇はなしとしらなむ

ひらけゆく世のさま見ればなかに昔にかへることもありけり

さまにもの思ひこしふたとせはあまたの年を經しこゝちする

けなげにも生立ちぬべきさまみえて乳子のまなじりたけくもあるかな

つみためし言の葉ぐさに道の師の露のひかりやそひてかへらむ

明治三十九年

編集

新年宴會

新しき年のうたげにうれしくもかはらぬ人のつどひけるかな

初春祝

軍人みなひきあげてひとごゝろのどかなる世の春立ちにけり

樓上聞鶯

のぼりきて窓をあくれば鶯もたかきにうつる聲きこゆなり

見梅

まつりごと暇ある日にたちいでゝはじめて梅の花を見るかな

梅花散

梅の花ちる頃よりぞおほかたの春の匂は深くなりぬる

海邊若草

白波のよせてはかへるまさごぢにいつ若草の生ひいでにけむ

老人のなぐさめ草におくりてむ庭の蕨はすくなけれども

春月寒

さかりなる花の梢に匂へどもふくれば寒し春のよの月

里春雨

いはほきる音もしめりて春雨のふる日しづけき白川の里

春駒

友をおひともにおはれて若駒のおもしろげにも遊ぶのべかな

花漸開

濱殿の宴のまうけはやくせよあしたゆふべに花のさきそふ

風靜花盛

櫻花かをるばかりの春風はふかぬ日よりものどけかりけり

月前花

ながゝらぬ花のさかりのうれしくも月の夜ごろにあひにけるかな

花滿山

いまよりは櫻山とや名づけてむ向ひの高嶺花さかりなり

山家花

垣根にはうゑぬ宿かなうちわたすたかねの花を庭木にはして

觀櫻會

のどかなる春をぞいはふ濱殿の花のうたげに人をつどへて

翫花

さかりのみなにかはいはむ櫻花ふゝむも散るもにるものぞなき

夕落花

あすもまた人に見せむと思ひしをこの夕風にちる櫻かな

池落花

はまどのゝ庭のいけ水あさしほのみちたるうへにちる櫻かな

咲きつゞく花より花にあくがれて蝶も夢みるひまやなからむ

藤花盛

春の日の長きさかりをさかりにて藤の花さく紫のには

春旅

とほからぬ旅にいでゝも見てしがな鶯なきてさくらちるころ

をりにふれて

親も子もうちつどひてやいくさ人ことしは家の花を見るらむ

殘鶯

たけのこの竹になりたる庭にまだ春をのこして鶯のなく

新樹風

みづえさす樫の下みち露ちりて夏なほ寒き朝かぜぞふく

都時鳥

きゝしらぬ人もありけりほとゝぎす都になくはたまさかにして

早苗

早苗とるこゑぞ賑ふたゝかひにいでにし民も里にかへりて

去年の實の殘るかたへに橘のことしの花もさき匂ひけり

梅雨久

さみだれの雨の久しさいつはあれど今年に似たる年なかりけり

蘆間螢

川岸のあしはらなびき吹く風にとばぬ螢のかげうごくなり

瞿麥

しきしまのやまと撫子もゝ草の花にまさりていつくしきかな

百合

傾きてさけるを見ればてらす日のかげやまばゆき姫百合の花

萍花

風わたる山下水にたゞよひてすゞしくみゆる浮草の花

夕立

はたゝがみ光きらめく夕立に蔀おりせといひさわぐなり

野夕立

かゞやきし入日のかげもきえはてゝふじの裾野に夕立のふる

樹陰納涼

わが庭の大木のかげは風すゞし山にひとしと人のいふまで

夏杉

さしかはる杉のわか葉に山里の垣あたらしく見ゆるころかな

殘暑

かざぐるまかけぬ日もなし秋くれど西日のあつさ堪へがたくして

行路薄

いづくをかわけてきつらむかへりみる野みちはすべて薄なりけり

淺茅

いなごとぶかげのみ見えて露しげき淺茅が原はゆく人もなし

秋風

あしひきの山さやかにもうちはれてすみたる空に秋風ぞふく

秋霜

ながつきの在明の月の影さえて紅葉のうへにみゆるはつ霜

霧中月

雲ならばひまもる影もまたましを霧にこもれる秋の夜の月

旅中月

あかざりし花野の月よ旅やかたいでゝふたゝび見まほしきかな

霧未晴

水のうへに薄き日かげはさしながらまだはれやらぬうぢの川霧

菊花盛久

ふたゝびの宴をやせむ菊の花ひかずふれどもなほさかりなり

初紅葉

たゞ一木色づきたるは初時雨そめこゝろみし梢なるらむ

雨後紅葉

山のはにぬれて見ゆるは村時雨いまそめあげし紅葉なるらむ

秋田家

山田もるしづを思へばかばかりの秋の夜寒をなにかいとはむ

をりにふれて

秋のよの月毛の駒にむちうちて花野のかぎりわけみてしがな

えびかづら色づきそめぬ山梨の里の秋かぜ寒くなるらし

あとたえしこともさまきゝてけり秋の長夜のむかしがたりに

いさましく語りかはしていくさ人かへる船路に月やみるらむ

國のためうせにし人を思ふかなくれゆく秋のそらをながめて

夕落葉

夕づくひかげろひはてゝ風寒くふきたつ庭にちるこのはかな

落葉有聲

なかに風のたえたるよはにこそおつるこのはの音はきこゆれ

湊千鳥

湊江に夜ふけていりし船人のこゑしづまりて千鳥なくなり

山皆雪

北支那にとゞまる人を思ふかなよもの山邊の雪を見るにも

野亭雪

ふりつもる雪のひろ野にたゞひとつ見ゆるいほりの寒げなるかな

田家雪

しづがすむ藁屋あやふくみゆるまでふりつもりたるけさの雪かな

雪中情

いさみたつ駒に鞍おきてふりつもる雪のなかみちわけみてしがな

夜神樂

ふけゆけばさえこそまされ榊葉のこゑにも霜のおくこゝちして

歳暮祝

いくさ人かへるむかへてつねよりも賑ひまさる年のくれかな

冬日

みじかしと思ふ心に冬の日はなかものゝはかどりにけり

冬海

波風のふきあれぬ日ぞなかりけるあたゝかなりと聞きし海べも

冬花

雪はみなしづれし枝にまばらにもさけるが寒しひゝらぎの花

ひさかたの空はへだてもなかりけりつちなる國はさかひあれども

朝ゆふにむかひなれたる久方の空ははるけきものとしもなし

にひばりの小田もひと町みゆるかな小松たかがや茂るひろのに

園のうちを畑になしてもみつるかなしづが營むさまをしらむと

ひろくなり狹くなりつゝ神代よりたえせぬものは敷島の道

近きよりゆかむとしてはなかに遠くぞまよふ世の中のみち

こゝろざす方を定めて皆人の世にたつ道にまどはざらなむ

細徑

小山田の畔のほそ道細けれどゆづりあひてぞしづは通へる

わたつみの波のそこなるかくれ岩あらはるゝまで汐のおちたる

さきにゆく人ちひさくもみゆるかなこの川橋の長さしられて

つはものゝ渡しゝ橋やもこるらむありなれ川のひろきながれに

ちはやぶる神の心にかなふべくさめてしがな葦原のくに

とほつおやの定めましつる山城のたひらの都とはにあらすな

うつせみの代々木の里はしづかにて都のほかのこゝちこそすれ

故郷木

すみし世にかはらぬものは昔より老いたりと見し松ばかりにて

故郷柱

故郷のふるき柱によりそひてすみし昔をおもひいでつゝ

農家

ひとりしていくらの小田をまもるらむしづが假庵のかずぞすくなき

さしなみのとなりにかよふ道ならむ籬の竹のひまのみゆるは

さしなみのとなりのひとをたのみにてひとりや老が庵にすむらむ

旅中山

はるかなるものと思ひしふじのねをのきばにあふぐ靜岡のさと

旅中情

國民のむかふる見れば遠くこし旅のつかれも忘られにけり

いとまなきなりはひやめて國民のわが馬車いで迎ふらむ

旅宿

草まくら旅のやどりのせばければ車のおとを枕にぞ聞く

忘草

たねなくて茂りもゆくか世の中の人のこゝろのものわすれぐさ

庭松

萬代をしめたる庭の松かげにいくたび家はつくりかへけむ

林鳥

かくばかりひろき林をいかなればひとつ木にのみ鳥のとまれる

小鳥馴

餌をまきていざあさらせむわが庭にけふも小鳥のなれて遊べる

かぎりなき天つみそらはあしたづの翅をのぶるところなりけり

晴天鶴

いたゞきに朝日をうけて久方のくもゐはるかに鶴なき渡る

鶴宿松

あしたづのやどりとなれる老松はいくらのひなかおほしたてけむ

癖なきはえがたかりけり牧場よりすゝめし駒のかずはあれども

いく藥もとめむよりも常に身のやしなひ草をつめよとぞおもふ

讀書

外國の昔がたりもきゝてけりときあきらめし書をよませて

古典

石上ふるごとぶみをひもときて聖の御代のあとを見るかな

をさなくも選びけるかなとる筆の力はわれにあるべきものを

思ふことつらねかねてはつくとふでのさきのみうちまもるかな

梓弓ひきしぼりても放つ矢の的を貫く音のをゝしさ

弓矢

ゆみやもて神のをさめしわが國にうまれしをのこ心ゆるぶな

いさゝかのきずなき玉もともすればちりに光を失ひにけり

靖國のやしろにいつくかゞみこそやまと心のひかりなりけれ

いさをたてし人をつどへて盃をさづけむ時になりにけるかな

寫眞

國のため命をすてしますらをの姿をつねにかゝげてぞみる

戰ひしときをぞ思ふしらなみのかへりし船をみるにつけても

漁火

沖遠くみえし小島はくれはてゝいさり火あかき波のうへかな

鐘聲何方

ふきまよふ風にまぎれて東とも西ともわかぬかねのおとかな

燈籠

松かげの石のともし火ともさせてよるしづかなる庭を見るかな

述懷

わが身よにたつかひありてちよろづの民の心をやすめてしがな

よもの海をみしづかなる時にだになほ思ふことある世なりけり

寄船述懷

川舟のくだるはやすき世なりとて棹に心をゆるさゞらなむ

老人

老の坂こえたる人はなかにつかふる道にたゆまざりけり

同じこと問ひかへしつゝをさな子があそぶうちにやもの學ぶらむ

ものをだにまだいはぬ子も萬代とよばへばやがて手をあげにけり

教育

年々にひらけゆく世のをしへ草身のほどに摘ませてしがな

いかならむときにあふとも人はみな誠の道をふめとをしへよ

幼稚園

うちつれて園生にあそぶうなゐ子は學ぶとなしにもの學ぶらむ

教師

朝夕にまもり育つるをしへ子はうみの子のごとかなしかるらむ

つくろはむことまだしらぬうなゐ子のもとの心のうせずもあらなむ

世の人にまさる力はあらずとも心にはづることなからなむ

心靜延壽

しづかなる心のおくにこえぬべき千年の山はありとこそきけ

よろこびのうたげするこそ嬉しけれもゝの司をうちつどへつゝ

しばらくの眠のうちにいかにして遠きむかしを夢にみつらむ

披書思昔

諌めてし人のことばもおもひいでぬかきのこしたる書をひらきて

社頭曉

曉の露にぬれたる玉串をいまさゝぐらむ神のみまへに

社頭祝

さくすゞの五十鈴のみやの神風のふきそはる世ぞうれしかりける

神祇

日の本の國の光のそひゆくも神の御稜威によりてなりけり

國民のうへやすかれと思ふにもいのるは神のまもりなりけり

かみかぜの伊勢の宮居を拜みての後こそきかめ朝まつり〔ごと〕

祝言

をぐるまのめぐるまに響くなりわが國民のよろこびのこゑ

いくさ人身をかへりみず進みけむあとこそ見ゆれぬきし砦に

目に見えぬ人の心のよろこびも聲によりてぞ聞きしられける

をりにふれて

國の爲いのちをすてしますらをのたま祭るべき時ちかづきぬ

いさみたつ駒をつらねて軍人かへりこむ日もちかづきにけり

軍人ちかくつどへて海山のものがたりきくときは來にけり

かちどきをあげてかへれる軍人まぢかく見るがうれしかりけり

たひらかに世はなりぬとて敷島の大和心よ撓まざらなむ

いかにぞと思ひやるかな戰のをはりしのちのたみのなりはひ

國のためたゝれずなりし民草に惠の露をかけなもらしそ

ますらをも涙をのみて國のためたふれし人のうへをかたりつ

波風はしづまりはてゝよもの海にてりこそわたれ天つ日のかげ

むらぎもの心たゆまず進みなばさがしき山も越えざらめやは

うたはせてきくぞたのしき國民の言の葉ひろくめしあつめつゝ

いつくしとめづるあまりに撫子の庭のをしへをおろそかにすな

年をへてすたれしこともおこさばや聖の御代のあとをたづねて

歳月は射る矢のごとしものはみなすみやかにこそなすべかりけれ

みちのべにわれを迎ふるくにたみのたゞしきすがた見るぞうれしき

明治天皇御集 卷下

編集

明治四十年

編集

新年松

あたらしき年のほぎごときくにはに萬代よばふ軒のまつかぜ

早春月

すさまじとおもふ光はうせながらまだ風寒し春のよの月

曉鶯

月もまださしのこりたる曉の庭のさゝふにうぐひすのなく

松上鶯

うぐひすの鳴くこゑすなり櫻田の堤の松の霞がくれに

春雪

ひとたびは花もさくべくあたゝかになりにしものを泡雪のふる

旅宿梅

さかりなる梅の林はうれしくもこよひのやどの庭にざりける

をさな子につませまほしと思ふかな菫花さく庭をめぐりて

母が手にひかれてあゆむうなゐこのたちとまりては菫つむなり

春曉月

さく花のいろまだ見えぬ曉の山しづかなり春のよの月

春夕月

青柳のかげふむ道にいつよりかにほひそめけむ夕月のかげ

行路春月

おぼろ夜の月のよみちのくらければ車の影もうつらざりけり

故郷春月

花のかげふむ人もなきふる里のおぼろ月夜やさびしかるらむ

春雨靜

蝶もまだ枝に眠りて花園のあめしづかなる朝ぼらけかな

春雨夜靜

をちかたに鳴くやかはづの聲はして春の雨夜のしづかなるかな

老人がむかしがたりもきゝてけりものしづかなる春の雨夜に

春駒

はてもなき野に放てども春駒のひとりは遠くあそばざりけり

親のあとしたひて遊ぶ若ごまのをさな心は人にかはらず

はるの野にむれてあそべるわか駒を庭に放ちてみまほしきかな

風前花

山かぜにたわむ櫻の枝みれば人のこゝろもやすからぬかな

雨中花

さくら花さかりになりぬ雨かすむあしたの庭もくらからぬまで

社頭花

都人そでをつらねてかみぞのゝ花のさかりに遊ぶ春かな

見花

つかさ人さゝぐるふみは多かれど花みるほどのひまはありけり

對花思昔

をさなくて見し世の春をしのぶかなふるき都の花のさかりに

落花

ときのまに散りゆくものか櫻花こゝらの日數人にまたせて

人みなの惜む心はしりながらかぎりある世と花のちるらむ

寄花祝

治まれる世の春風をうけてこそ花ものどかに咲き匂ひけれ

暮春雨

さくらばな散るまで春はたけたれど雨なほ寒き朝ぼらけかな

をりにふれて

花見つゝ遊ぶ春日におもふかなたがへす民のいとまなき世を

おのがじゝつとめを終へし後にこそ花の陰にはたつべかりけれ

平かに世はをさまりて國民と共に樂しむ春ぞ嬉しき

始聞時烏

めづらしきこの初聲を時鳥おほくの人にきかせてしがな

時鳥一聲

あしひきの山時鳥ふた聲となのらぬ心たかくもあるかな

夏月

まさごぢにうかれ烏のかげみえてすゞみのにはの月ふけにけり

日にやけしいさごのうへも露みえて月夜すゞしくなれる庭かな

夏草

かたはらに眠るうなゐは夏草をかるしづのめがうまごなるらむ

夕立

俄にも照る日のひかりかきくらしいらかをたゝく夕立のあめ

夕立過

夕立の雨は高嶺をこえにけり竝木の松に風をのこして

納涼

ゆふべすゞみのにはにたつことも事なき時に逢へばなりけり

夜納涼

端居せぬよはこそなけれ大空に天の河原のみえそめしより

夏朝

ありあけの月のしづくを蓮葉の上に殘して夜は明けにけり

夏池

藻刈舟こゝろしてさせ池水にはすのわか葉の浮びそめたる

夏田家

つばめとぶ影のみ見えて田うゑ時家に人なき小山田の里

夏竹

しら露の風にこぼるゝ數見えて朝日すゞしき竹の下庵

夏燈

文机のもとにかゝぐるともし火の影さへ暑くおもふよはかな

夏人事

窓のうちに扇とれどもあつき日にてるひをうけてしづの草かる

月前薄

はると風のゆくへの見ゆるかなすゝきが原の秋の夜の月

蟲聲滋

月のかげふまむとおもふ淺茅生にみちてきこゆるむしの聲かな

窓前蟲

くさひばり鳴きもぞやむと秋の夜の月なき窓もさゝれざりけり

秋風滿野

遠山の雲も動きて秋の野のちはらかやはら風わたるなり

田秋風

秋風はふきなあらびそ足曳の山田のをしねかりあぐるまで

秋夕

ゆふづく日かげろふ森のこがくれにひぐらしなきて秋風ぞふく

秋夜長

老人が昔がたりもつきぬべしあまりに秋の夜のながくして

あきのよの月は昔ににかはらねど世になき人の多くなりぬる

松陰の石のともしびけちてみよひるよりあかし秋の夜の月

對月

むかしいま思ひあつめてつくとふけゆく月をながめつるかな

雲間月

野分だつ雲のひまよりあらはるゝ月の光のすごくもあるかな

月前遠情

たむろしてよな見てし廣島の月はそのよにかはらざるらむ

雁行映水

鳴きわたる雲居はおきて水底にうつろふ鴈のかげをみるかな

夕霧

堤ゆく人かげ絶えてすみぞめの夕霧くらし寺島の里

待菊盛

みせつべき人をかぞへて青山のそのふの菊のさかりをぞまつ

折菊

いたづらにをりなやつしそ見ぬ人もまだ多からむ庭の白菊

宴にはつらなりがたき老人にをりてをやらむ庭のしらぎく

旅宿菊

一枝はをりてかへらむ旅やかたわがためうゑし白菊のはな

折紅葉

夕日影さすやかきねの初紅葉うすしとしらでをらせつるかな

暮秋眺望

うちわたす野末の山に雪みえてかれふのすゝき秋風ぞふく

秋雲

あかねさす夕日の色に匂へども秋のみそらの雲ぞさびしき

山路秋行

たのしみは果なきものを夕日影かたぶきにけり秋の山ぶみ

秋水

庭にひくながれも秋はにごらぬを山水いかにすみまさるらむ

秋海

しまもさやかに見えてかゞみなす青海原に秋の風ふく

をりにふれて

風寒き秋のゆふべにおもふかな水のあふれし里はいかにと

都にて今年もきゝつ春日野のとぶひの野べのまつ蟲の聲

よむ書もいまはとたゝむ文机のうへにさしくる月のかげかな

さまの野菊の花をしどけなくうゑたる庭のおもしろきかな

山落葉

ふきおろす嶺のあらしにさまの紅葉ちりしく山のした道

朝霜

霜ふりてさむき朝かな園もりが帚とる手もさぞこゞゆらむ

篠上霜

朝霜のふかさしられて山かげの庭のくま笹青き色なし

林木枯

むら鳥もやどらむかたやなかるらむ林ゆすりてこがらしのふく

寒松

こがらしの風にすまひてひとつ松いくらの冬をしのぎきぬらむ

寒松風

我山の松の林にかへりけり空にきこえし木枯のかぜ

くみあげし水のけぶりも消えぬまにつるべの雫はやこほりけり

窓寒月

わたどのゝ窓に枯木の影見えて宮のうちまでさゆる月かな

水鳥

大宮のめぐりの堀を冬ごとにかはらぬやどゝ鴨のつくらむ

つねに住むをしのつがいをあるじにて今年も池にかものつくらむ

朝水鳥

朝づく日にほふ堤にねぶりけり夜たゞさわぎしいけの水鳥

初雪

めづらしと思ひもあへずとけにけり霜よりうすきけさの初雪

夜雪

庭白くみゆるは月の光にて雪は早くも降りやみにけり

峯雪

こがらしのふきはらしたる空遠く甲斐のたかねの雪ぞ見えける

車上雪

しづのをが一人ひきゆくをぐるまの重荷の上につもる雪かな

舟中雪

乘る人はありともみえず苫の上に雪をつみてもくだる川舟

雪中遠情

築山のゆきを見つゝもおもふかな樺太島の寒さいかにと

爐邊閑談

埋火のもとのまとゐに老人が語ることみな昔なりけり

歳暮近

あらたまの年のをはりもちかづきぬ暑し寒しといひくらすまに

をりにふれて

高殿のまどおしひらけ櫻田のつゝみの松につもる雪みむ

あさみどり晴れたる空になびけども煙の末はさびしかりけり

大空もくもるばかりに靡きけりいとなみひろき里のけぶりは

ひむかしのみそらしらむと思ふまに山の姿ぞあらはれにける

しづかにも眠さめたるあしたかな心にかゝる夢も見ずして

司人まかでし後のゆふまぐれこゝろしづかに書をみるかな

鑛山

ひらかずばいかで光のあらはれむこがね花さく山はありとも

いかならむ神かまつれる山かげの窟のうへにしめはへてけり

うるはしくうねづくりせる山畑になにの種をかしづはまくらむ

いとまあらばふみわけて見よ千早ぶる神代ながらの敷島の道

絶えたりとおもふ道にもいつしかとしをりする人あらはれにけり

おのが身を修むる道は學ばなむしづがなりはひ暇なくとも

なかばにてやすらふことのなくもがな學の道のわけがたしとて

ゆるされてまなびの窓をいづる子よ思はぬ道にふみな迷ひそ

山川の早瀬の波のたちまちに橋うちわたすいくさ人かな

山川のながれは末になりぬれどにごらぬ水は濁らざりけり

水聲

九重のうちもみやまのこゝちして枕にひゞく水の音かな

海上朝

彼の方や東なるらむあさづく日にほひそめたり沖の波間に

磯岩

いそざきはかくれ岩こそ多からめよせくる波のくだけてはちる

にぎはへるさととはなりぬいにし年あらのの末とみてしところも

故郷

春秋の花に紅葉にこひしきは昔すみにし都なりけり

へだてなく親しむ世こそ嬉しけれとなりの國も事あらずして

旅宿

事そぎてあればある世と思ひけり旅のやかたに日數かさねて

山家

かきねゆく水にひゞきて松風の音もながるゝやまのした庵

田家燈

ともしびの細き光をたのみにて山田のしづは繩やなふらむ

行路松

うまやぢの竝木の松のかげみれば昔の旅のしのばるゝかな

濱松

はりまがた舞子のはまの濱松のかげに遊びし春をしぞ思ふ

磯松

波風をしのぎて荒磯の松はちとせの根をかためけむ

庭松

むさしのといひし世よりや榮ゆらむ千代田の宮のにはの老松

松經年

おほぞらの雲より外に千代へたる松の上にはたつものぞなき

大空につばさをのべてとぶ鳥もねぐらに迷ふときはありけり

朝鳥

朝まだきねぐら離れてたつみれば鳥もつとめはある世なりけり

にはつとり鳴く聲すなり竹村のあなたやしづがすみかなるらむ

ひさしくもわが飼ふ馬の老いゆくがをしき人にかはらざりけり

人ならばほまれのしるし授けまし軍のにはにたちし荒駒

かみつ代のことをつばらにしるしたる書をしるべに世を治めてむ

いにしへの文の林をわけてこそあらたなるよの道もしらるれ

おもふことうちつけにいふ幼兒の言葉はやがて歌にぞありける

天地もうごかすといふことのはのまことの道は誰かしるらむ

ことのはのまことのみちを月花のもてあそびとは思はざらなむ

手習

おのが名もかくべくなりぬうなゐ子が手習ふ道に入るとみしまに

よりそはむひまはなくとも文机のうへには塵をすゑずもあらなむ

太刀

國の仇はらはむためときたひてし太刀の光は世にかゞやきぬ

神代よりうけし寶をまもりにて治め來にけり日のもとつ國

蓄音器

末までもきかまほしきをたくはへし聲のたゆるが惜しくもあるかな

棹とりて過ぎ行く人はありながら小舟は見えず蘆にかくれて

わが國にありとあらゆる山の名をふねてふ船におほせてしがな

よろづよの聲をのせてもいくさぶねふなおろしする横須賀のうみ

大八洲まもらむ船のとしにかずそふ世こそうれしかりけれ

海上舟

いづこより漕ぎいでぬらむたゞひとつ沖にうかべる海士のつり舟

渡舟

こぎわたりこぎかへりつゝわたし舟さををやすむるひまやなからむ

ひとりして早瀬をくだす筏にはかへりて波もかゝらざりけり

漁火

こぎ歸る小舟もあまたみえしかど沖にみちたり漁火のかげ

海眺望

なぎさゆく船のありともしらざりきおきべ遙かにうちまもるまは

述懷

事しあらば火にも水にいりなむと思ふがやがてやまとだましひ

うつせみの世はやすらかにおさまりぬ我をたすくる臣のちからに

世の中をおもふたびにも思ふかなわがあやまちのありやいかにと

寄道述懷

よこさまにおもひないりそ世の中にすゝまむ道ははかどらずとも

老人

世の爲にいさをゝたてし老人は千年の山もこえよとぞ思ふ

老人をつどへてけふもかもきゝてけり弓矢とりにし昔がたりを

ゆるしたる杖をちからに老人がけしき聞かむと今日もきにけり

たらちねの親の心をなぐさめよ國につとむる暇ある日は

たらちねのみおやの教あらたまの年ふるまゝに身にぞしみける

思ふ事おもふがまゝに言ひいづるをさな心やまことなるらむ

みなし子にかたりきかせよ國のため命すてにし親のいさをを

すゝみゆく世に生れたるうなゐにも昔のことは教へおかなむ

幼子のおひたつみれば老人はおもひのほかにかはらざりけり

たらちねのおやの教をまもる子はまなびの道もまどはざるらむ

すゝむ世を見るにつけても思ふかなわが國民のうへはいかにと

隱士

山深くかくるゝ人をむかへても世を治むべき道をとはばや

にひばりの田にも畑にも見ゆるかな廣くなりゆくしづがなりはひ

漁翁

すなどりは子等にゆづりて蘆の屋に網すく翁あはれおいたり

教育

いさをある人を教のおやにしておほしたてなむやまとなでしこ

庭訓

たららねのにはの教はせばけれどひろき世にたつもとゐとぞなる

わけのぼる道のしをりとなる松は位なくてもうやまはれけり

國のため身のほどに盡さなむ心のすゝむ道を學びて

かけてだに思はぬことも見つるかなあやしき物は夢にぞありける

慕はしとおもふ心やかよひけむ昔の人ぞゆめに見えける

思往事

たむろせし時をぞおもふ廣島の里のうつしゑ見るにつけても

神祇

目に見えぬ神にむかひてはぢざるは人の心のまことなりけり

めにみえぬかみの心に通ふこそひとの心のまことなりけれ

寄道祝

しるべする人を嬉しく見いでけりわがことのはの道のゆくてに

國民のわくるちからのあらはれて道てふみちのひらけゆくかな

寄世祝

しづかにも世は治まりて月花にあそぶ今年ぞうれしかりける

たらちねの親につかへてまめなるが人のまことの始なりけり

やすくしてなし得がたきは世の中の人のひとたるおこなひにして

をりにふれて

世の中にしられていよゝみがゝなむわか敷島のやまとだましひ

おもふこと思ふがまゝになれりとも身を愼まむことな忘れそ

萬代にうごかぬものはいにしへの聖のみよのおきてなりけり

言の葉のかずよみしても見つるかなわがまつりごと暇ある日に

世の中の人におくれをとりぬべしすゝまむときに進まざりせば

よの人を導くまではあらずとも進まむときにおくれざらなむ

石上ふるき手ぶりもとひてみむ物しる人に尋ねいでつゝ

いさをある人のあとをもたずねけり縣の里の旅にいでつゝ

暇あればまづこそ思へ戰にたゝれずなりし人はいかにと

かみつよの御代のおきてをたがへじと思ふぞおのがねがひなりける

拔き難き山をもぬきしますらをが手ぶりをみするならしのの原

身にうけしいたでもいえてつはものの世わたる道にいまはたつらむ

開けゆくときにいよ仰がれぬ聖の御代のたかきをしへは

明治四十一年

編集

まつりごといとまある日にうれしくも窓のと近く鶯のなく

朝鶯

あしたのみ來てはなくなり鶯もとはむ所の多くやあるらむ

春さむみ雪はしばかゝれども咲くべき時と梅はさきけり

朝春雨

閨の戸をあけてもくらき春雨に夢のなごりのさめがたきかな

栽花

濱殿の園にさくらをうゑそへつ内外あまたの人にみすべく

待花

をさなくもまたぬ春なし櫻花さかでやむべきものならなくに

田家花

咲く花をやどにのこしてしづのをは長き日ぐらし小田にたつらむ

車中見花

をぐるまのすぐるまに花をみて今日行く道は遠しと思はず

落花

春風の吹かぬあしたに散る花もこかげにのみはとまらざりけり

春旅

櫻さく野みち山みちゆく旅はあそびにいでしこゝちこそすれ

をりにふれて

ひとたびは見むよしもがな名ぐはしき吉野の山の花のさかりを

新竹

千年までおいせざるべき呉竹も生ひたつほどは時のまにして

時鳥

ほとゝぎすおもひもかけぬ一聲に月なきよはの空を見しかな

水雞

とのゐびとかたらふ聲もたえはてゝふけゆくよはに水鷄なくなり

竹間夏月

若竹の葉末にすがる露のまにすゞしき月の影ふけにけり

水邊夏草

たかゞやの風にかたよるひまにひとすぢみゆる水のすゞしさ

いちご

身のたけにおよぶ夏草かきわけていちごとるなり里のうなゐこ

夏日對泉

清水わくこかげにいでゝすゞむこそわがよの夏のいとまなりけれ

夏朝

朝のまにもの學ばせよをさな子もひるは暑さにうみはてぬべし

夏夕

あかねさす夕日のかげはきえはてぬすゞみの殿にいざうつりなむ

夏海邊

江の島にやどりさだめてわらはべも相模の海のしほやあむらむ

夏車

重荷ひく車のおとぞきこゆなるてる日の暑さたへがたき日に

野徑露

乘る駒のあぶみまでこそぬれにけれあさ露ふかき野路のかや原

聞蟲

さよふかく心しづめてきく時ぞむしの鳴くねはあはれなりける

海邊蟲

浪のおと遠ざかり行くひきしほにむしのねたかし濱の松原

秋田

かりあげむ日をかぞへつゝ千町田の八束たり穗をしづはもるらむ

待月

はやくより出でゝこそ待て宵々におそくなりゆく月を忘れて

月前風

をちこちに尾花なみよる影みえて月すむ野邊に秋風ぞふく

故郷月

舟うけて昔あそびしふるさとの池にや月のひとりすむらむ

馬上紅葉

むちうたば紅葉の枝にふれぬべし駒をひかへむ岡ごえの道

雪中行人

老人があゆみゆくこそ哀なれいまだ拂はぬ雪のなかみち

歳暮祝

つかさ人あまたつどへて賑しく暮れゆく年のうたげをぞする

見るまゝに數そふものは大空につらなる星の影にぞありける

ともすればうきたちやすき世の人の心の塵をいかでしづめむ

世を守る神のみたまをあふぐかな朝ぎよめせし殿にいでつゝ

今日もまたゆふべになりぬ司人すゝめし書もよみはてぬまに

ぬばたまのよるこそ書はよむべけれあだし事には心うつさで

富士山

萬代の國のしづめと大空にあふぐは富士のたかねなりけり

名所橋

かなぢゆく車のうちに見つるかな昔わたりし瀬田の長橋

野外旅宿

ものゝふの野邊のたむろを思ふかな草のかりほに一夜やどりて

羇中情

まうでむとおもふ社をよそに見てすぐる旅路のをしくもあるかな

山家鄰

谷川のおなじ流の水くみて鄰へだてぬみやまべのさと

山家燈

ともしびのたかき處にみゆるかなかの山邊にも人はすむらむ

松葉

松の葉はいつのひまにかかはるらむ今ちるといふ時はあらぬを

山路杉

家すこしあるかと見れば山道はまた杉村になりにけるかな

我園にやしなふ鶴のひとつがひ年はふれどもおいせざりけり

鶴思子

まへになりうしろになりて雛まもるたづの心のあはれなるかな

蝸牛

世のさまはいかゞあらむとかたつぶりをり家をいでゝ見るらむ

家々にひめしふぐらも開くらむまなびの道をひろくせむとて

千萬の民のことばを年毎にすゝめさせても見るぞたのしき

まごゝろをうたひあげたる言の葉はひとたびきけば忘れざりけり

唱歌

幼兒にうたはれてこそ言の葉のしらべいよたかくきこゆれ

太刀

身にはよしはかずなるとも劍太刀とぎな忘れそ大和心を

われもまたさらにみがゝむ曇なき人の心をかゞみにはして

述懷

千萬の民の力をあつめなばいかなる業も成らむとぞ思ふ

國のため高きほまれを得し人の身をあやまたむことなくもがな

たゝかひの爲に力をつくしつるたみの心をやすめてしがな

老人

さまのことにあひにし老人の昔がたりぞ身にはしみける

いはけなく遊ぶ子どものさま見ればわれもをさなくなるこゝちして

國交

したしみのかさなるまゝに外國の人もこゝろをへだてざりけり

教育

國のため力つくさむわらはべを教ふる道ににこゝろたゆむな

學校

まなびやに入りにし日よりうなゐ子がものいひさへもかはりけるかな

學びえて道のはかせとなる人もをしへのおやの惠わするな

すなほなる人のこゝろにくれたけのまがれる癖はいつかつくらむ

村雲にあらぬものから世の中の風にうきたつひと心かな

思往事

のこしおきしふみとりいでゝいさをある人の昔をしのぶ今日かな

なほざりに思ひしことも年をへておもひかへせばこひしかりけり

思ひいづることぞ多かるさまにかはりゆく世をへにし身なれば

寄道祝

葦原のみづほの國の萬代もみだれぬ道は神ぞひらきし

大演習のをりに

つはものゝ戰ふさまを見るほどは風の寒さもおぼえざりけり

觀艦式のをりに

はると見わたす沖の波路までつらなりけりなわがいくさ船

をりにふれて

ものごとにうつればかはる世の中を心せばくはおもはざらなむ

わが心われとをりかへりみよしらずも迷ふことあり

事しあらばわが力ともたのむべき人のをしくも老いにけるかな

くろがねの的いし人もあるものをつらぬきとほせ大和だましひ

國の爲つくさむ力ありながらたゝれずなりし人をしぞおもふ

明治四十二年

編集

新年雪

新しき年のほぎごときゝながら花とちりくる雪をみるかな

立春日

ちはやぶる神路の山をいづる日の光のどけく春たちにけり

雨中鶯

鶯のこづたふこゑもしづかにて花のはやしにはるさめぞふる

春夜雨

ともし火の花さへ霞むこゝちして夜深きまどに春雨ぞふる

朝花

おきいでゝまづ見る花の下枝よりこてふも夢をさましてぞとぶ

池邊花

さく花の影うごくなり濱殿のにはの池水しほやさすらむ

閑居花

老人はおのが垣根の花を見て世には心もちらさゞるらむ

落花

世の人にめでらるゝまを時としてかぜをもまたず花のちるらむ

夜落花

あかずして庭にたかする篝火のうへともいはずちる櫻かな

寄花祝

わが園の花のうたげにつどふ人としおほくなるぞうれしき

をりにふれて

春もやゝなかばになるを青森のあがたのふゞきはげしとぞきく

首夏雨

松の花ちりたる庭につゆみえてこさめ涼しくふるあしたかな

新樹

生垣のかなめの若葉あさつゆにぬれたる色は花におとらず

薔薇

村雨の露をふくみて花うばら匂ふかきねに朝風ぞふく

遠時鳥

ほとゝぎす雲のよそなる一聲はをちかた人や聞き定むらむ

深夜時鳥

しづかにも聞きさだめよとほとゝぎす夜深き空に鳴きわたるらむ

梅雨晴

めづらしといでゝ仰がぬ人もなし梅雨はれてのぼる朝日を

夕顏

しづがやのさまをうつして宮人がうゑて見せけり夕顏のはな

晩涼

おばしまの下ゆく水の音すみてすゞしき風のふくゆふべかな

ちりひぢのかゝる草葉にやどれども露の光はくもらざりけり

ひとりして靜かにきけば聞くまゝにしげくなりゆくむしの聲かな

籠中蟲

ところせきふせごの内に鳴くむしはえらばれたるや恨なるらむ

秋夜

秋の夜の長きを何にかこつらむなすべき事の多くある世に

對月

あきごとにむかふ心ぞかはりける月はむかしのひかりなれども

江上月

おほくらの入江のはちすかれはてゝ小波ひろくてる月夜かな

海上月

漁火のうすくなりぬとおもふまに波間はなるゝ月のかげかな

月前言志

わが心いたらぬくまのなくもがなこのよをてらす月のごとくに

神宮造營ありけるころ社頭月といふことを

この秋は内外の宮にてる月のかげいかばかりさやけかるらむ

千代ふべききくの籬におりたちて宴する日は物思ひもなし

社頭紅葉

もみぢばの赤き心を靖國の神のみたまもめでゝみるらむ

をりにふれて

月みればまづこそ思へ旅寐して近くむかひし山のけしきを

菊のはな机のうへにさしてみむそのふに遊ぶいとまなければ

この秋はいかなる野べに旅寐していくさならしのわざをみるべき

綿の實もやゝゑみそめて畑中のくぬぎの林色づきにけり

田家時雨

おほねほすしづが垣根の夕日影にはかにきえて時雨ふるなり

落葉

さしわたる日影にとくる朝霜のしづくと共にちる紅葉かな

落葉隨風

ふきさそふ風のゆくへをゆくへにて思はぬ方にちるもみぢかな

寒樹交松

山松のこのまに見ゆるかれ枝やうつくしかりし紅葉なるらむ

雪後雨

晴れて後見むと思ひし白雪ををしくも雨のふりけたむとす

雪中松

としに雪をかさねて老松のみさを高くもなりまさりけり

雪中人來

盃をはやくとらせよふりつもる雪ふみわけて人のまゐきぬ

雪中遊興

わらはべがつくりあげたる雪の山高き功を誰と定めむ

爐火

桐火桶かきなでながら思ふかなすきま多かるしづがふせやを

神樂

神ならぬ人の心もすむものは神樂のこゑをきく夜なりけり

冬天象

暑しともかついふばかりのどけきは小春のころの日和なりけり

冬晴

ひとしめりあらばといはぬ人ぞなき冬のひよりに物のかわきて

冬田

あぜみちは霜くづれして小山田にたつ人かげも見えぬ頃かな

冬鶴

霜をふむたづがねすなり九重の松ばら白く月さゆる夜に

さしのぼる朝日のごとくさわやかにもたまほしきは心なりけり

あつまると見れば離るゝ大ぞらの雲にも似たるひと心かな

旅にいでゝまづうれしきは都にて見なれぬ山にむかふなりけり

しづかなるあしたに見ればわたの原渚にのみぞ波はよせける

國民もつねに心をあらはなむみもすそ川の清き流れに

よきをとりあしきをすてゝ外國におとらぬ國となすよしもがな

ふりにきと人はいへどもはやくよりすめる家こそすみよかりけれ

別業

花紅葉うゑわたしたるなり所常にすまぬが惜しくもあるかな

橿原のとほつみおやの宮柱たてそめしより國はうごかず

旅行

海くぬが軍のてぶりみるがうちに旅の日數はかさなりにけり

旅宿

せばしとも思はざりけり縣人こゝろづくしの旅のやどりは

羇中海

船にして昨日わたりし海原を山の上よりかヘりみるかな

山家

おのづからたてるいはほを垣根にて庭おもしろき山のした庵

田家

田に畑に處ゆづりてしづがすむいほりちひさく見えわたるかな

和布

このわたり海士がとまやゝ近からむ眞砂の上にわかめほしたり

巖上松

あらし吹く世にも動くな人ごゝろいはほに根ざす松のごとくに

松經年

ちよへたる峯のたか松人ならばつめるいさをも多からましを

大空を心のまゝにとぶ鳥もやどるねぐらは忘れざるらむ

庭上鶴

うちうれて遊ぶあしたづ庭にしてすだちし雛やいづれなるらむ

呉竹のよゝのすがたをかきのこす書こそ國の寶なりけれ

手習

幼子がものかく跡をみてもしれ習へばならふしるしある世を

をさな子が手にもあまれる筆とりてものかくさまのいつくしきかな

太刀

おのが身のまもり刀は天にますみおやの神のみたまなりけり

世の中にひとりたつまでをさめえし業こそ人のたからなりけれ

あまの子が漕ぐや小舟の輕ければかヘりて波もしづめざるらむ

沈むかとみれば浮びぬ波あらき磯こぎめぐる海士の釣舟

述懷

やき太刀のとつくに人にはぢぬまで大和心をみがきそへなむ

ひろき世にたつべき人は數ならぬことに心をくだかざらなむ

かたしとて思ひたゆまばなにごともなることあらじ人のよの中

戰のかちにほこりてむらぎもの心ゆるぶなわがいくさびと

寄道述懷

ふむことのなどかたからむ早くより神のひらきし敷島の道

寄草述懷

野末まで種をまかなむ教草いまだしげらぬ方もこそあれ

寄書述懷

すゝみゆく世におくれなばかひあらじ文の林はわけつくすとも

述懷多

ひらくれば開くるまゝにいにしへにかはるおもひもある世なりけり

老人

ものわすれするを常なる老人も昔がたりはたがへざりけり

いつはりの世をまだしらぬ幼子が心や清きかぎりなるらむ

教育

たゞしくも生ひしげらせよ教草をとこをみなの道を別ちて

呉竹のなほき心をためずしてふしある人におほしたてなむ

ことなしとゆるぶ心はなかに仇あるよりもあやふかりけり

ともすれば思はぬ方にうつるかなこゝろすべきは心なりけり

遠情

樺太にうつりし民も年を經て今はすみうく思はざるらむ

遊戲

世わたりの道のつとめに怠るな心にかなふあそびありとも

たまだれの内外の臣をつどへつゝうたげする日ぞ樂しかりける

祝言

なりはひをたのしむ民のよろこびはやがてもおのがよろこびにして

まじはりをむすぶ國々よろこびをいひかはす世ぞ嬉しかりける

寄道祝

かみつよのあとにならひて敷島の道をぞ祝ふ年のはじめに

社頭松

かみぢ山松の梢にかゝりけり天つみそらの雲のしらゆふ

神祇

神風のいせの宮居のみや柱たてあらためむ年はきにけり

いつくしみあまねかりせばもろこしの野にふす虎もなつかざらめや

身にあまるおも荷なりとも國の爲人のためにはいとはざらなむ

おのが身はかへりみずして人のため盡すぞひとの務なりける

鬼神もなかするものは世の中の人のこゝろのまことなりけり

をりにふれて

新高の山のふもとの民草も茂りまさるときくぞ嬉しき

天をうらみ人をとがむることもあらじわがあやまちを思ひかへさば

いたづらに時を移してことしあればあわたゞしくもたちさわぐかな

おいぬれど國の力とならむ人すくよかにこそあらまほしけれ

明治四十三年

編集

新年雪

田に畑に雪ぞつもれる民の爲ゆたかにと思ふ年の始に

新年宴會

新しき年のうたげのにはもせにつどへる人を見るがうれしさ

萬物感陽和

草も木も萌ゆるをみれば春風に動かぬものはなき世なりけり

摘若菜

しづのめをしるべにはして宮人も田中のあぜの若菜をぞつむ

雨中梅

しめやかにのきばの梅のかをりきて雨さむからずなれる春かな

海邊春草

若草も浦のなぎきにおひにけり波のうちあげしのりにまじりて

朝春雨

あさがらす鳴きたつこゑも靜かにて春雨くらし松のした庵

月前花

春の夜の月はまどかになりぬるを惜しくも花のさかりすぎたる

折花

一枝を折りてかへりぬ山櫻ともなはざりしひとに見せむと

月前卯花

卯花にくらべて見れば夕月の光はくらし木がくれのには

たちばなの花をし見ればまきもくの珠城の宮ぞしのばれにける

桐花

さるかたにおもしろきかな山里の桐のはやしの花のさかりも

夏庭

鳴く蝉の聲ばかりしてひざかりは庭木のうへをとぶ鳥もなし

夏蟲

いづかたにこゝろざしてか日盛のやけたる道を蟻のゆくらむ

夏夢

山かげの清水むすぶとみし夢はさめての後も涼しかりけり

秋夜思郷

山城のみやこの空にてる月をおもひぞいづる秋のよな

月前雲

てる月にかゝらむばかり近づきぬはるかにみえし雲のひとむら

湖上月

ひがひとる船もみえけりさゝ波の志賀のうらわの秋のよの月

高樓觀月

海山をにはとみなせる高殿の窓にさし入る秋のよのつき

月前遠情

あた波をうちしりぞけしいくさ人南の島の月やみるらむ

待紅葉

菊の花人に見すべくなりぬるをまだ色うすし庭のもみぢ葉

秋晴

水こえし里のしめりけかわくべく秋のみそらよ晴れつゞかなむ

秋旅

をしねほすしづが垣根をみつゝゆく秋の旅路のこゝちよきかな

をりにふれて

つくと月にむかひて思ふかな水にひたりし里のよさむを

社頭冬月

御神樂の庭火のかゞり影ふけて廣前しろく月のてりたる

遠千鳥

波のうへにむれたつかげはみえながら沖の千鳥の聲はきこえず

暮山雪

ゆふづゝのかげこそみゆれ雪の色はまだくれはてぬ山のかひより

海邊雪

波のうへに富士のね見えて呉竹のはやまの浦の雪はれにけり

雪中松

おりたちてとくうちはらへ枝よわき小松のうへに雪のつもれる

狩場風

かり人がいまひとよりときほふ野に木立ゆすりて嵐ふくなり

冬夜

文机にかざれる玉の光まで寒くぞ見ゆる霜さゆる夜は

なにとなく人の心もさわぐかな空ふく風のしづまらぬまは

山かぜにふきたてられて谷底にしづみし雲もまたおこりけり

世の中のことまだ聞かぬあしたこそ人のこゝろはしづけかりけれ

暮れぬべくなりていよ惜むかなことなくて過ぎし一日を

にひばりの畑も田のもゝおほけれどひなは荒野のなほひろくして

あまた度通ひなるれば遙かなる道も遠しと思はざりけり

いとまなき身も朝夕にいそしみぬ思ひいりたる道の爲には

國民がこゝろに進みゆく道にはさはるものなくもがな

ならび行く人にはよしやおくるともたゞしき道をふみなたがへそ

みがゝれて光そひゆく石をしも昔の人は見しらざりけむ

みなもとは清くすめるを濁江におちいる水のをしくもあるかな

水聲

近からぬ水のひゞきもきこえけりふけしづまれるよはの寢覺に

ちかづけば家もありけり波の上に浮ぶとみえし沖の小島も

おごそかにたもたざらめや神代よりうけつぎ來たるうらやすの國

餞別

したしみをよもに結びて旅衣かヘりこむ日をいまよりぞ待つ

旅宿雨

草枕たびのやどりに着きて後うれしく雨はふりいでにけり

旅宿朝

このゑ人こまひきいづる音すなり朝だちすべき時やきぬらむ

旅宿夢

あすもとく軍ならしのさまみむと思へば夢のさめがちにして

羇中思都

旅寢するうまやにつきて待つものは都の今日のたよりなりけり

半夜旅泊

あけわたる湊の山も見るべきを夜深くとくか船のともづな

山家人稀

山みちはゆきあふひともなかりけりところに家はみゆれど

深山木

しら雲のはれま稀なるおく山は老木ならぬも苔むしにけり

思ふことしげからざりしそのかみによみつる書は忘れざりけり

いそのかみふるごとぶみは萬代もさかゆく國のたからなりけり

呉竹の世々につたへて仰ぐかな遠つ御祖のみことのりぶみ

みじかくてことの心のとほりたる人のふみこそ讀みよかりけれ

きゝしるはいつの世ならむ敷島のやまと詞の高きしらべを

千年まで殘らむ筆の跡なるを走りがきのみせられけるかな

あまてらす神のさづけしたからこそ動かぬ國のしづめなりけれ

人みなのえらびしうへにえらびたる玉にもきずのある世なりけり

寶ともいふべき玉はなくならむこまかに瑕をもとめいでなば

しら玉を光なしともおもふかな磨きたらざることを忘れて

世の中の人のかゞみとなる人のおほくいでなむわが日の本に

くつがへることもこそあれ小車の進むにのみはまかせざらなむ

ふなづくりたくみになりて波の底かよふ道をもひらきつるかな

軒ごとにかけつらねたるともしびはにぎはふ市の光なるらむ

述懷

をさめしる國のはてまでしらせばや民安かれと思ふこゝろを

むらぎもの心にたえずおもふことなしとげし日ぞうれしかりける

おのが身はかへりみずしてともすれば人のうへのみいふ世なりけり

曉述懷

あかつきのねざめに思ふかな國に盡しゝ人のいさをを

をちこちにわかれすみても國を思ふ人の心ぞひとつなりける

老人

をさな子にひとしくなれる老人をいたはることをゆるかせにすな

おとろへしさまは見えねどおいびとのなみだもろくもなりまさりぬる

からくして歩みはじめし人の子のひとりたつ身のいつかなりなむ

兄弟

ならびたつたけはひとしく見えながらこのかみは猶このかみにして

外國におとらぬものを造るまでたくみの業にはげめもろ人

海人

あびきする親に力をそふるかな海士が子どもは幼けれども

外客

海こえてはる來つる客人にわが山水のけしき見せばや

教育

わがしれる野にも山にもしげらせよ神ながらなる道をしへぐさ

ひろき世にまじはりながらともすれば狹くなりゆく人ごゝろかな

たらちねの親のみまへにありとみし夢のをしくも覺めにけるかな

夢興故人談

面影のなほこそのこれいにしへの人とかたりし夢はさめても

披書思昔

かきいれし昔の人の筆のあとのこれる書のなつかしきかな

思往事

いにしへは夢とすぐれどまことある臣のことばゝ耳にのこれり

わが爲に心つくして老人がをしへしことは今もわすれず

神祇

わが國は神のすゑなり神祭る昔の手ぶり忘るなよゆめ

とこしへに國まもります天地の神の祭をおろそかにすな

寄神祝

あまてらす神の御光ありてこそわが日のもとはくもらざりけれ

寄國祝

萬民こゝろあはせて守るなる國にたつ身ぞ嬉しかりける

ちよろづの民の心ををさむるもいつくしみこそ基なりけれ

まめやかにつかふる臣のあればこそわがまつりごとみだれざりけれ

千萬の民と共にもたのしむにます樂はあらじとぞおもふ

をりにふれて

さだめたる國のおきてはいにしへの聖の君のみこゑなりけり

さまの世のたのしみも言のはの道のうへにはたつものぞなき

ものごとに進まずとのみ思ふかな身のおこたりはかへりみずして

空蝉の世のことわざはしげくとも物學ぶまのなかるべしやは

きくたびにゆかしきものはまつりごと正しき國の姿なりけり

新高の山よりおくにいつの日かうつしうゝべきわがをしへぐさ

敷島のやまとしまねのをしへぐさ神代のたねの殘るなりけり

思ふことなるにつけてもしのぶかなもとゐ定めし人のいさをを

みちにつとめいそしむ國民の身をすくよかにあらせてしがな

ひと筋をふみて思へばちはやぶる神代の道もとほからぬかな

おもふこと思ひ定めて後にこそ人にはかくといふべかりけれ

明治四十四年

編集

月前霞

つねよりも大空とほきこゝちして霞のおくに見ゆる月かな

旅宿鶯

鶯のおどろかすこそ嬉しけれ旅につかれし春のねぶりを

雲雀

つぎにあがるをみれば雲の上に入りしひばりや友をよぶらむ

待花

たゞひと日あたゝかなれば櫻花さきもやするとまもらるゝかな

花便

うたげせむ日を定めよと濱殿の花のたよりのたえぬ頃かな

月前花

朧夜の月はさすともみえなくに窓にうつれる花のかげかな

田家花

みる人はなきものにしてしづがやの籬の花は咲きならひけむ

見花

もゝちゞの人をつどへて濱殿の花みてあそぶ春ぞ樂しき

月前落花

なつかしき朧月夜爐のかげふみてたゝずむ袖にちる櫻かな

舟中落花

ちる花をのせてかへりぬ渡舟むかひの岸に人はおろして

春日

すがのねのながき春日はなかにものに怠る人ぞおほかる

春故郷

あをによし奈良の都の跡とへば若草山にかすみたなびく

待時鳥

都にはまつ人おほしほとゝぎすひとたび山をいでゝなかなむ

月前時鳥

梅雨の雲間の月をめづらしと仰ぐみそらになく時鳥

をりにふれて

たづねても尋ねえざりし早蕨の廣葉しげくもみゆるのべかな

早涼

小山田はまだみのらずときくものをあまり涼しくなれる秋かな

蟲聲非一

さまの蟲のこゑにもしられけりいきとしいける物のおもひは

蟲聲欲枯

かれになりぬる庭の蟲のねはなかぬ夜よりもさびしかりけり

月夜燈

よひやみをてらしゝ庭のともしびの影もうすれぬ月の光に

遠見鴈

このわたり聲をのみてやすぎつらむはるかにみゆる鴈のひとつら

紅葉

うつろひて散らむとすなるもみぢ葉をうつくしとのみ思ひけるかな

山紅葉

山みちをゆくみれば都よりまされるものは紅葉なりけり

夜木枯

大空の星のはやしも動くかと思ふばかりにこがらしの吹く

社頭冬月

さしわたる霜夜の月に冬がれぬ榊もしろし神のひろまへ

千鳥

川ぞひのもりの夜嵐なぎぬらし遠き千鳥のこゑのきこゆる

行路雪

重荷おひてゆく人いかになやむらむふゞきになりぬのべの通ひ路

雪中早梅

ふりつもる雪をしのぎて咲く梅の花はいかなるちからあるらむ

寒月照梅花

てる月の光はいまだ寒けれど春にかはらぬ梅が香ぞする

岩がねをきりとほしても川水は思ふところに流れゆくらむ

海邊興

わたつみの神祭るらし海士の子がふなばた敲きうたふ聲する

天つ神定めたまひし國なればわがくにながらたふとかりけり

世はいかに開けゆくともいにしへの國のおきてはたがへざらなむ

故郷木

思ひいづることのみ多し故郷のこだちももとの木立ならねど

羇中情

ゆくところ野にも山にも國民のむかふる見ればうれしかりけり

田家雨

軒あさきしづがふせやは降る雨もたゝみのうへにうちしぶくらむ

庭上松

榮えたる一木のまつにもとづきてつくれる庭のおもしろきかな

うちつれて渡るをみればとぶ鳥もおもひの友ぞあるらし

水をさへみずからかひてものゝふは手馴の駒をいつくしむらむ

ともすれば走りがきしてわがとりし筆の跡さへ見わけかねつゝ

太刀

眞心をこめて錬ひしたちこそは亂れぬくにのまもりなりけれ

漁火

漁火のかげぞつらなる暮れぬまはまばらに舟の見えし波間に

電燈

あきらけき火影ひきたる庭見れば雨はふりながら月夜なりけり

雨後眺望

雨雲の風にきえゆく山のはにあらはれそめぬ松のむらだち

千萬のたみのちからを集めてぞ國はゆたかになすべかりける

筆寫人心

鏡にはうつらぬひとのまごゝろもさやかに見ゆる水莖のあと

披書知昔

よむふみのうへに涙をおとしけり昔の御代のあとをしのびて

神祇

いつはらぬ神のこゝろをうつせみの世の人なにうつしてしがな

千早ぶるかみの力によりてこそわれをたすくる人もいでけれ

をりにふれて

むらぎもの心つくして縣守あをひと草をおほしたてなむ

きくにまづ身にぞしみける誠よりいふことのはゝ長からねども

思ふこといふべき時にいひてこそ人のこゝろもつらぬきにけれ

たらちねの親のをしへは誰もみな世にあるかぎり忘れざらなむ

まごゝろをこめてならひし業のみは年を經れどもわすれざりけり

教草しげりゆく世にたれしかもあらぬ心の種をまきけむ

いそのかみ古きてぶりをのこさなむ改めぬべきこと多くとも

むらぎもの心のかぎりつくしてむわが思ふことなりもならずも

明治四十五年

編集

始聞鶯

ひとりしてうちゑまるゝは鶯のはつねきゝつるあしたなりけり

山鶯

しづかなる所えたりとうぐひすもみやまがくれの花になくらむ

折梅

わがめづるうめを折らせつたれこめてありといふなる人に見せむと

春曉月

あけがたの霞のうちにいつとなく消えゆく月の影のしづけさ

故郷春雨

燕だにとはずなりぬる故郷のかやがのきばに春雨ぞふる

ありとある人をつどへて春ごとに花のうたげをひらきてしがな

遠尋花

荒駒をならしがてらに野邊とほく櫻狩するますらをのとも

雨後花

しづかにもそゝぎし雨はうちはれてたわめる花に夕日さすなり

夜思花

ふく風の音をきくにもおもふかなあすうたげせむ花はいかにと

庭花

九重の庭木のさくらさきにけり野山の春もさかりなるらむ

花似雲

枝ながら風にゆらるゝ櫻花たゞよふ雲にかはらざりけり

見花

司人さゝぐるふみも讀みはてゝゆふべしづかに花を見るかな

まつりごときゝをはりたるゆふべこそおのが花みる時にはありけれ

高殿の窓てふまどをあけさせてよもの櫻のさかりをぞみる

折花

人ごとにをりて來つれば櫻花さしたる瓶ぞおほくなりぬる

依花待人

あがたよりいでこむ人をまちてのち花の宴の日をばさだめむ

花未飽

うつろへばうつろふまゝになつかしと思ふは花のいろ香なりけり

行路落花

乘る駒に小草はませてやすらへば鞍のうへ白く花ちるかゝる

菜花

花瓶にさしてぞ人のすゝめける鈴菜もいまだめづらしければ

水邊首夏

燕とぶ山澤水にふぢなみの花ちりうきて夏はきにけり

新竹

みるたびに高くなりぬる若竹はいまぞ生ひたつさかりなるらむ

時鳥一聲

二聲となかぬぞをしき時鳥きかせまほしき人のおほきを

時鳥稀

いかならむ山にかくれて時鳥たまさかにのみ世にはいづらむ

杜時鳥

小麥かる人やきくらむほとゝぎす野中の森をいづるひとこゑ

樹陰夏月

風ふけば露もおちくる松かげに月をみる夜ぞ涼しかりける

夏風

をりに庭の草木はうごけども涼しき風の窓に入りこぬ

夏山

山近くすみし都をなつかしとさらにぞ思ふ夏の來ぬれば

夏瀧

いはまより瀧のおちくるこの庭は山ならねども涼しかりけり

一村と思ひし雲のいつのまにあまつみそらをおほひはてけむ

田も畑もうるほふほどをかぎりにて晴れにし雨はうれしかりけり

すゝむにはよし早くともあやふしと思ふ道には入らずもあらなむ

ともすればさまたげられて一筋にゆかれぬものは道にぞありける

人の世のたゞしき道をひらかなむ虎のすむてふのべのはてまで

きゝしより遠しと思ふはゆくさきに心のいそぐ道にぞありける

あさしとて心ゆるすな雨ふればとみにあふるゝ山川のみづ

さまの舟のかよひて隅田川みづのうへさへ賑しきかな

なぎぬればかくもなぎけり島山もこゆべくみえし沖つしらなみ

まつりごとよこしまならぬ國にこそさかしき人も多くいでけれ

かりそめの事に心をうごかすな家の柱とたてらるゝ身は

百年を經たる人をも見つるかな車とゞむるところ

かなし子をたびにぞいだすあまざかるひなの手振をしらしめむとて

山家雲

白雲の軒端にまよふ山里は雨ふらぬ日もうちしめるらむ

濱松

あしたづの舞子のはまの松原は千代をやしなふ處なりけり

林鳥

村鳥のねぐらあらそふ夕暮は林のかげもさわがしきかな

ひなをさへおほしたてけり早くよりかひならしたる庭のあしたづ

親のゆくあとをしたひてひな鶴も庭のをしへやふみはじむらむ

松上鶴

朝づく日とよさかのぼる山松の梢をしめてたづぞ鳴くなる

人はみな野にいではてししづが屋にひとりのこりてには鳥のなく

鞭うつもいたましきまで早くよりならしゝ駒の老いにけるかな

ひもとかむ暇なき日のおほきかな讀むべさ書はあまたあれども

管絃

絲竹のしらべたへなる聲にこそ人の心もやはらぎにけれ

とつくにの人に見すべきしきしまの大和錦をおりいださなむ

河舟

はたつものつみいだすらむ里川につなぐ小舟のおほく見ゆるは

樵夫

老の坂こえにけりとも見えぬかな眞柴になひてくだるきこりは

教育

よきたねをえらびて教草うゑひろめなむのにもやまにも

いかならむことある時もうつせみの人の心よゆたかならなむ

讀故人書

わがためにかきのこしたるひと卷の書こそ人のかたみなりけれ

思往事

雪ふれば駒にくらおき野に山に遊びし昔おもひいでつゝ

神社

いにしへの姿のまゝにあらためぬ神のやしろぞたふとかりける

いとまなき世にはたつともたらちねの親につかふる道な忘れそ

心からそこなふことのなくもがな親のかたみと思ふべき身を

をりにふれて

敷島のやまと心をみがけ人いま世の中に事はなくとも

おのづからわが心さへやすからず鄰のくにのさわがしき世は

思はざることのおこりて世の中は心のやすむ時なかりけり

身をすてゝいさをゝたてし人の名は國のほまれと共にのこさむ

國民の業にいそしむ世の中を見るにまされる樂はなし

あやまたむこともこそあれ世の中はあまりにものを思ひすぐさば

開くべき道はひらきてかみつ代の國のすがたを忘れざらなむ

くにを思ふ臣のまことは言のはのうへにあふれてきこえけるかな

しる人の世にあるほどに定めてむふるきにならふ宮のおきてを

敷島のやまと心をうるはしくうたひあぐべきことのはもがな

おもふこと思ふがまゝにいひてみむ歌のしらべになりもならずも

なすことのなくて終らば世に長きよはひをたもつかひやなからむ

附載

編集

世を治め人をめぐまば天地のともに久しくあるべかりける

右明治二年八月三日右大臣三條實美を以て英國皇子に贈りたまへる

冬眺望

見わたせば波の花よる隅田川ふゆのけしきもこゝろありけり

右明治六年十二月十九日隅田川筋行幸のをりに正二位松平慶永の邸に立寄らせたまひてあくる年二月十三日に下し賜へる

冬眺望

いつみてもあかぬけしきは隅田川なみぢの花は冬もさきつゝ

右おなじ折に從二位伊達宗城の邸に立寄らせたまひてあくる年二月十三日に下し賜へる

花ぐはしさくらもあれどこのやどの代々のこゝろをわれはとひけり

右明治八年四月四日從四位徳川昭武の邸に行幸ありて五月五日に下し賜へる

見花

みわたせばつらなる櫻さきみちて朝日に匂ふ春のたのしさ

右おなじ日に從一位徳川慶勝の邸に行幸ありて五月七日に下し賜へる

水邊藤

池水にかげをうつせる藤波の花の盛のおもしろきかな

ゆきかふ舟を見て

うちかすむ梢がくれをかよふなりこの船いかにのどけかるらむ

右二首明治八年五月四日熾仁親王の芝離宮にいましけるころ行幸ありて當座によませたまへる

夏草露

言の葉もともにしげりし夏草の露と消えても名はのこりけり

右八田知紀三年祭歌會兼題をきこしめして明治八年八月九日侍從番長高崎正風に下し賜へる

壇浦懷古

豐浦がた千船もゝふねいりみだれ波にしづみし昔をぞ思ふ

右長門國赤間宮の歌會のことをきこしめして明治九年九月廿一日從三位毛利元徳に下し賜へる

園深菊香

けふこゝにわが來て見れば園のうちの菊のかをりも心あるかな

右明治九年十月十三日從一位中山忠能の邸に行幸ありて當座によませたまへる

くりかへしふみ見ざりせば天の下をさむる道もいかでしらまし

右墺地利國公使のこひによりて明治十年一月廿日宮内卿徳大寺實則をもて下し賜へる

梅雨欲晴

をやみなく降りつづきたる梅雨のながめもけふは晴れむとすらむ

右明治十年京都に行幸ありけるほど六月十八日修學院離宮鄰雲亭にて當座によませたまへるを同地在住の華族に下し賜へる

太政大臣三條實美のたてまつりしたきものをめでゝ

九重の雲ゐに匂ふたきものゝかをりにきみが心をぞしる

右明治十一年一月十日下し賜へる

庭の木々にともしびをかけたるを見て

かぎりなくかけつらねたる燈火のうつるもすゞし庭のいけみづ

右明治十二年八月十八日右大臣岩倉具視の邸に行幸ありてよませたまへる

犬追物を見て

いにしへの由井のはまての跡おひて弓矢とる身の勇ましきかな

右明治十二年十一月廿七日吹上御苑にて犬追物みそなはしてよませたまへるを從三位島津忠義に下したまへる

寄竹祝

こゝのへのうてなの竹の千代かけてさかえむ世こそたのしかりけれ

右明治十八年二月二十四日晃親王七十の賀に下し賜へる侯爵鍋島直大の邸に行きけるをり二階より海のけしきをみて

高殿にのぼればすゞし品川のおきもまぢかく月に見えつゝ

右明治二十五年七月九日よませたまへる

京都の内庭の稚松をいにし年山縣有朋につかはしけるにかく生ひしげりたりとてその寫眞を見せければ

おくりにし若木のまつのしげりあひて老の千歳の友とならなむ

右明治三十四年十一月元帥侯爵山縣有朋にくだし賜へる


大正五年十月二十三日奉  旨

大正八年十二月二十日編成奏上

臨時編纂部

長  從三位勳三等子爵    入江爲守

幹事 從四位勳四等      近藤久敬

顧問 正二位大勳位功一級公爵 山縣有朋

委員 從四位勳四等醫學博士  井上通泰

委員 從二位勳五等      長谷信成

委員 從三位勳四等子爵    東坊城徳長

委員 從五位勳五等      坂正臣

委員 從六位勳六等      池邊義象

委員 正七位勳六等      大口鯛二

委員 正七位         千葉胤明

委員 文學博士        佐佐木信綱

書記 從七位勳六等      加藤義清

書記 從七位勳八等      遠山英一

囑託 從四位         金子有道

囑託             根本新之劫

囑託             外山且正

囑託             小野田貢

故顧問 從一位大勳位公爵 徳大寺實則

故顧問 正二位勳一等子爵 黒田清綱

故委員 從七位      須川信行

故囑託 從四位勳六等子爵 倉橋泰昌

 

この作品は1929年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメインの状態にあります。