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以下[千六百四十七]
新約全書馬太傳福音書
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アブラハムの裔なるダビデの裔イエス、キリストの系圖
2
アブラハム、イサクを生イサク、ヤコブを生ヤコブ、ユダとその兄弟を生り
3
ユダ、タマルに由てパレスとザラを生パレス、エスロンを生エスロン、アラムを生
4
アラム、アミナダブを生アミナダブ、ナアソンを生ナアソン、サルモンを生
5
サルモン、ラハブに由てボアズを生ボアズ、ルツに由てオベデを生オベデ、エッサイを生
6
エッサイ、ダビデ王を生ダビデ王ウリヤの妻に由てソロモンを生
7
ソロモン、レハベアムを生レハベアムアビアを生アビア、アサを生
8
アサ、ヨサパテを生ヨサパテ、ヨラムを生ヨラム、ウツズヤを生
9
ウツズヤ、ヨタムを生ヨタム、アカズを生アカズ、ヘゼキヤを生
10
ヘゼキヤ、マナセを生マナセ、アモンを生アモン、ヨシアを生り
11
バビロンに徒さるゝ時ヨシア、エホヤキンと其兄弟を生
12
バビロンに徒されたる後エホヤキン、シアテルを生シアテル、ゼルバベルを生
13
ゼルバベル、アビウデを生アビウデ、エリアキンを生エリアキン、アゾルを生
14
アゾル、ザドクを生ザドク、アキムを生アキム、エリウデを生
15
エリウデ、エリアザルを生エリアザル、マツタンを生マツタン、ヤコブを生
16
ヤコブ、マリアの夫ヨセフを生り此マリアよりキリストと稱るイエス生れ給ひき
17
其世系を數ればアブラハムよりダビデに至るまで十四代ダビデよりバビロンに徒さるゝ時まで十四代バビロンに徒されしよりキリストまで十四代なり
18
それイエス キリストの生れ給ること左の如し其母マリアハヨセフと聘定を為るのみにて未だ偕にならざりしとき聖靈に感じて孕しが其孕たるを顯れけれバ
19
夫ヨセフ義人なる故に之を
[千六百四十八]辱しむることを願ず密に離縁せんと思へり
20
斯て此事を思念せる時に主の使者かれが夢に現て曰けるハダビデの裔ヨセフよ爾妻マリアを娶ことを懼るヽ勿その孕る所の者ハ聖靈に由なり
21
かれ子を生ん其名をイエスと名づくべし蓋その民を罪より救ハんとすれば也
22
凡て此事ハ預言者に託て主の曰たまひし言に
23
処女はらみて子を生ん其名をインマヌエルと稱べしと有に應せん爲なり其名を譯バ神われらと偕に在との義なり
24
ヨセフ寝より起て主の使者の命ぜし言に遵ひ其妻を娶たれど
25
冢子の生るゝまで牀を同にせざりき其生まれし子をイエスと名づけたり
夫イエスハヘロデ王の時ユダヤのベテレヘムに生れ給しが其とき博士たち東の方よりエルサレムに來り
2
曰けるハユダヤ人の王とて生れ給る者ハ何処に在す乎われら東の方にて其星を見たれバ彼を拜せん爲に來れり
3
ヘロデ王これを聞て痛む又エルサレムの民もみな然り
4
凡の祭司の長と民の学者とを集てヘロデ問けるハキリストの生るべき處は何処なる乎
5
答けるはユダヤのベテレヘムなり蓋預言者の錄されたる言に
6
ユダヤの地ベテレヘムよ爾ハユダヤの郡中にて至小きものに非ず我イスラエルの民を牧ふべき君その中より出んと
7
是に於てヘロデ密に博士等を召星の現れし時を詳に問て
8
彼等をベテレヘムに遣さんとして曰けるは往て嬰兒の事を細に尋これに遇バ我に告よ我も亦ゆきて拜すべし
9
かれら王の命を聞て往り前に東の方にて見たりし星かれらに先ちて嬰兒の居所にいたり其上に止りぬ
10
彼等この星を見て甚く喜び
11
既に室に入ければ嬰兒の其母マリアと偕に居を見ひれふして嬰
[千六百四十九]兒を拜し寶の盒を開て黄金、乳香、没薬など禮物を獻たり
12
博士夢にヘロデへ返る勿との黙示を蒙りて他の途より其國に歸れり
13
彼等が去るのち主の使者ヨセフの夢に現れて曰けるハヘロデ嬰兒を索て殺んとする故に起て嬰兒と其母とを挈へエジプトに逃て復わが爾に示さん時まで彼處に止れ
14
ヨセフ起て夜嬰兒と其母とを挈へエジプトに往
15
ヘロデの死るまで其所に止れり是主預言者に託て我わが子をエジプトより召出せりと云給ひしに應せん爲なり
16
是に於てヘロデ博士に欺かれたるをしり大にいかり人を遣して博士に詳く問たる時を度りベテレヘムと其境の内なる二歳以下の嬰兒を盡く殺せり
17
即ち預言者エレミヤの言に
18
歎き悲み甚く憂る聲ラマに聞ゆラケルその兒子を歎きその兒子の無によりて慰を得ずと云しに應へり
19
斯てヘロデ死しかバ主の使者ヨセフの夢にエジプトにて現れ曰けるハ
20
起て嬰児と其母とを挈へてイスラエルの地にゆけ嬰兒の生命を索る者は已に死り
21
彼おきて嬰兒と其母とを挈へてイスラエルの地に至しが
22
アケラヲ父ヘロデに代てユダヤの王たりと聞ければ彼處に往ことを懼る又夢に告を蒙りてガリラヤの内に避
23
ナザレと云る邑に至りて居り彼ハナザレ人と稱れんと預言者に託て云れたる言に應せん爲なり
當時バプテスマのヨハ子來りてユダヤの野に宣傳へて
2
曰けるは天國は近けり悔改めよ
3
是ハ主の道を備その路線を直せよと野に呼る人の聲ありと預言者イザヤが言し人なり
4
此ヨハ子ハ身に駱駝の毛衣をき腰に皮の帶をつかね蝗蟲と野蜜を食物とせり
5
斯時エルサレム及びユダヤを擧またヨルダンの四方より人々出てヨハ子に就
6
己が罪を悔あらはしヨルダ
[千六百五十]ンにて彼よりバプテスマを授られたり
7
バプテスマを受んとしてパリサイ及サドカイの人々の多く來れるを見て彼等に曰けるは蝮の裔よ誰なんぢらに來んとする怒を避べきことを告しや
8
然バ悔改に符ふ果を結べよ
9
爾曹われらが先祖にアブラハム有と云ことを意ふ勿れ我爾曹に告ん神ハ能この石をもアブラハムの子と爲しめ給ふなり
10
今や斧を樹の根に置る故に凡て善果を結ざる樹ハ斫れて火に投入らるべし
11
我ハ爾曹を悔改させんとて水を以て爾曹にバプテスマを授く我より後に來者は我に勝て能力あり我ハ其履を提にも足ず彼ハ聖靈と火をもて爾曹にバプテスマを授ん
12
手には箕を持て其禾場を浄め麥は斂て其倉にいれ糠は熄ざる火にて燬べし
13
斯時イエス、ヨハ子にバプテスマを受んとてガリラヤよりヨルダンに來り給ふ
14
ヨハ子辭て曰けるは我は爾よりバプテスマを受べき者なるに爾反て我に來る乎
15
イエス答けるハ暫く許せ如此すべての義き事ハ我等盡す可なり是に於てヨハ子彼に許せり
16
イエスバプテスマを受て水より上れるとき天忽ち之が爲にひらけ神の靈の鴿の如く降て其上に來るを見る
17
又天より聲ありて此は我心に適わが愛子なりと云り
偖イエス聖靈に導かれ惡魔に試みられん爲に野に往り
2
四十日四十夜食らふ事をせず後うゑたり
3
試むる者かれに來りて曰けるハ爾もし神の子ならバ命じて此石をパンと爲よ
4
イエス答けるハ人はパンのみにて生るものに非ず惟神の口より出る凡の言に由と録されたり
5
是に於て惡魔かれを聖京に携へゆき殿の頂上に立せて曰けるは
6
爾もし神の子ならバ己が身を下へ投よ蓋なんぢが爲に神その使者等に命ぜん彼等手にて支へ爾が足の石に觸ざるやうすべ
[千六百五十一]しと録されたり
7
イエス彼に曰けるハ主たる爾の神を試むべからずと亦録せり
8
惡魔また彼を最高き山に攜へゆき世界の諸国とその榮華とを見せて
9
爾もし俯伏て我を拝せば此等を悉なんぢに與ふべしと曰
10
イエス彼に曰けるハサタンよ退け主たる爾の神を拜し惟之にのみ事ふべしと録されたり
11
終に惡魔かれを離れ天使たち來り事ふ
12
イエス、ヨハ子の囚れし事を聞てガリラヤに往
13
ナザレを去ゼブルンとナフタリとの境なる海邊のカペナウンに至り此に居り
14
これ預言者イザヤの言に
15
ゼブルンの地とナフタリの地海に沿たる地ヨルダンの外の地異邦人のガリラヤ
16
此等の幽暗にをる民ハ大なる光をみ死地と死陰に坐する者の上に光いでたりと云しに應せん爲なり
17
斯時よりイエス始て道を宣傳へ天国は近けり悔改めよと曰たまへり
18
イエス、ガリラヤの海邊を歩てペテロと云ふシモンその兄弟アンデレと二人にて海に網うてるを見たり彼等ハ漁者なり
19
之に曰けるハ我に從へ我なんぢらを人を漁る者と爲ん
20
彼等やがて網を棄てイエスに從ふ
21
此より進けるに又ほかの兄弟二人即ちゼベダイの子ヤコブと其兄弟ヨハ子父ゼベダイと偕に舟にて網を補へるを見てこれを召しに
22
彼等も頓て舟と父とを置てイエスに從へり
23
イエス、ガリラヤを徧く巡り其會堂にて教をなし天国の福音を宣傳かつ民の中なる諸々の病もろゝゝの疾を醫しぬ
24
その聲名あまねくスリヤに播りしかバ人々すべての患へる者萬殊の病また痛悩る者あるいは鬼に憑たるもの癲癇、癱瘋の病に罹れる者を彼に携來ければ之を醫せり
25
ガリラヤとデカポリス、ヱルサレム、ユダヤ、ヨルダンの外より多くの人々きたり從ふ
以下[千六百五十二]
イエス許多の人を見て山に登り坐し給ければ弟子たちも其下に來れり
2
イエス口を啓きて彼等に教へ曰けるは
3
心の貧き者は福なり天國は即ち其人の有なれバ也
4
哀む者は福なりその人は安慰を得べければ也
5
柔和なる者は福なりその人は地を嗣ことを得べければ也
6
飢渇ごとく義を慕者は福なり其人は飽ことを得べければ也
7
衿恤ある者は福なり其人は衿恤を得べければ也
8
心の清き者は福なり其人は神を見ることを得べければ也
9
和平を求る者は福なり其人は神の子と唱らる可れば也
10
義ことの爲に責らるゝ者は福なり天國は即ち其人の有なれば也
11
我ために人なんぢらを詬誶また迫害いつはりて各様の惡言をいはん其時は爾曹福なり
12
喜び樂め天に於て爾曹の報賞おほければ也そは爾曹より前の預言者をも如此せめたりき
13
爾曹は地の鹽なり鹽もし其味を失はゞ何を以か故の味に復さん後は用なし外に棄られて人に踐るゝ而已
14
爾曹は世の光なり山の上に建られたる城は隠るゝことを得ず
15
燈を燃して斗の下におく者なし燭臺に置て家に在すべての物を照さん
16
此の如く人々の前に爾曹の光を輝かせ然れば人々なんぢらの善行を見て天に在す爾曹の父を榮べし
17
われ律法と預言者を廃る爲に来れりと意ふ勿われ来て之を廃るに非ず成就せん爲なり
18
われ誠に爾曹に告ん天地の盡ざる中に律法の一點一畫も遂つくさずして廃ることなし
19
是故に人もし誡の至微き一を壞り又その如く人にも教なば天国において至微き者と謂れん凡そ之を行ひ且人に教る者は天国に於て大なる者と謂るべし
20
我なんぢらに告ん学者とパリサイ人の義よりも爾曹の義こと勝ずば必ず天國に入こと能じ
21
古の人に告て殺こと勿れ殺す者は審判に干らんと言ること有は
[千六百五十三]爾曹が聞し所なり
22
然ど我なんぢらに告ん凡て故なくして其兄弟を怒る者は審判に干からん又その兄弟を愚者よという者は集議に干らん又狂妄よといふ者は地獄の火に干るべし
23
是の故に爾もし禮物を携へて壇に往たる時かしこにて兄弟に恨るゝことあるを憶起さば
24
その禮物を壇の前に留まづ往て爾の兄弟と和ぎ後きたりて爾の禮物を獻よ
25
爾を訴ふる者と偕に途間にある時はやく和げよ恐らくは訴ふる者なんぢを審官に付し審官また爾を下役に付し遂に爾は獄に入られん
26
我まことに爾に告ん分釐までも償はざれば必ず其処を出ること能ざるなり
27
古の人に告て姦淫すること勿と言ることあるは爾曹が聞し所なり
28
然ど我なんぢらに告ん凡そ婦を見て色情を起すものは中心すでに姦淫したる也
29
もし右の眼なんぢを罪に陥さば抜出して之を棄よ蓋五体の一を失ふは全身を地獄に投入らるゝよりは勝れり
30
もし右の手なんぢを罪に陥せば之を斷て棄よ蓋五体の一を失ふは全身を地獄に投入らるゝよりは勝れり
31
また曰ることあり凡そ人その妻を出さんとせば之に離縁状を與ふべしと
32
然ど我爾曹に告ん姦淫の故ならで其妻を出す者は之に姦淫なさしむるなり又出されたる婦を娶る者も姦淫を行ふなり
33
また古の人に告て僞の誓を立ること勿なんぢ誓ふ所は必ず主に遂べしと言ること有は爾曹が聞し所なり
34
然ど我なんぢらに告ん更に誓こと勿れ天を指て誓ふ勿れ是神の座位なれば也
35
地を指して誓ふこと勿これ神の足凳なれば也ヱルサレムを指て誓ふこと勿これ大王の京城なれば也
36
爾の頭を指て誓ふ勿そは一すぢの髪だに白し黑すること能ざればなり
37
爾曹ただ是[は]々 否[は]々といへ此より過るは惡より出るなり
38
目にて目を償ひ齒にて齒を償へと言るこ
[千六百五十四]と有は爾曹が聞し所なり
39
然ど我なんぢらに告ん惡に敵すること勿れ人なんぢの右の頰を批ば亦ほかの頰も轉して之に向よ
40
爾を訴て裏衣を取んとする者には外服をも亦とらせよ
41
人なんぢに一里の公役を強なば之と偕に二里ゆけ
42
爾に求る者に予へ借んとする者を卻る勿れ
43
爾の隣を愛みて其敵を憾べしと言ること有は爾曹が聞し所なり
44
然も我なんぢらに告ん爾曹の敵を愛み爾曹を詛ふ者を祝し爾曹を憎む者を善視し虐遇迫害ものゝ爲に祈禱せよ
45
如此するは天に在す爾曹の父の子とならん爲なり夫天の父は其日を善者にも惡者にも照し雨を義き者にも義からざる者にも降せ給へり
46
爾曹おのれを愛する者を愛するは何の報賞かあらん税吏も然せざらん乎
47
安否を兄弟にのみ問は人より何の過たる事かあらん税吏も然せざらん乎
48
是故に天に在す爾曹の父の完全がごとく爾曹も完全すべし
なんぢら人に見せん爲に其義を人の前に行ことを愼もし然ずば天に在す爾曹の父より報賞を得じ
2
是故に施濟を行とき人の榮を得ん爲に會堂や街衢にて偽善者の如く箛を己が前に吹しむる勿れ我まことに爾曹に告ん彼等は既にその報賞を得たり
3
なんぢ施濟をするとき右の手の爲ことを左の手に知する勿れ
4
如此するは其施濟の隱れんが爲なり然ば隱たるに鑒たまふ爾の父は明顯に報たまふべし
5
なんぢ祈る時に僞善者の如する勿れ彼等は人に見られんが爲に會堂や街衢の隅に立て祈ことを好われ誠に爾曹に告ん彼等は既にその報賞を得たり
6
なんぢ祈る時は嚴密なる室にいり戸を閉て隱微たるに在す爾の父に祈れ然ば隱微たるに鑒たまふ爾の父は明顯に報たまふべし
7
爾曹祈る時に異邦人の如く重複語を言なかれ彼
[千六百五十五]等は言おほきを以て聽れんと意へり
8
是故に彼等に効こと勿れ爾曹の父は願ざる先に其需用物を知たまへばなり
9
然ば爾曹かく祈るべし天に在ます我儕の父よ願くは爾名を尊崇させ給へ
10
爾國を臨らせ給へ爾旨の天に成ごとく地にも成せ給へ
11
我儕の日用の糧を今日も與たまへ
12
我儕に負債ある者を我儕がゆるす如く我儕の負債をも免たまえ
13
我儕を試探に遇せず惡より拯出し給へ國と權と榮は窮りなく爾の有なればなりアメン
14
爾曹もし人の罪を免さば天に在ます爾曹の父も亦なんぢらを免し給はん
15
然どもし人の罪を免さずは爾曹の父も爾曹の罪を免し給はざるべし
16
なんぢら斷食するとき僞善者の如き憂容をする勿れ彼等は斷食を人に見ん爲に顔色を損ふ我まことに爾曹に告ん彼等は既に其報賞を得たり
17
なんぢ斷食する時は首に膏をぬり面を洗へ
18
如此するは爾の斷食人に見ずして隱微たるに在す爾の父に現れんが爲なり然ば隱微たるに鑒たまふ爾の父ハ明顯に報たまふべし
19
蠹くひ銹くさり盗うがちて竊む所の地に財を蓄ふること勿れ
20
蠹くひ銹くさり盗穿て竊ざる所の天に財を蓄ふべし
21
蓋なんぢらの財の在ところに心も亦ある可れバ也
22
身の光ハ目なり若なんぢの目瞭かならバ全身も亦明なるべし
23
若なんぢの目眊らバ全身暗かるべし是故に爾の中の光もし暗からバ其暗こと如何に大ならず乎
24
人ハ二人の主に事ること能ず蓋これを悪かれを愛み此を親み彼を疎べけバ也なんぢら神と財に兼事ること能はず
25
是故に我なんぢらに告ん生命の爲に何を食ひ何を飲また身體の爲に何を衣んと憂慮こと勿れ生命は糧より優り身體は衣よりも優れる者ならず乎
26
天空の鳥を見よ稼ことなく穡ことを爲ず倉に蓄ふることなし然るに爾曹の天
[千六百五十六]の父ハ之を養ひ給へり爾曹之よりも大に勝るゝ者ならず乎
27
爾曹のうち誰が能おもひ煩ひて其生命を寸陰も延得んや
28
また何故に衣のことを思わづらうふや野の百合花ハ如何して長かを思へ勞ず紡がざる也
29
われ爾曹に告んソロモンの榮華の極の時だにもその其裝この花の一に及ざりき
30
神は今日野に在て明日爐に投入らるゝ草をも如此よそはせ給へバ況て爾曹をや嗚呼信仰うすき者よ
31
然バ何を食ひ何を飲なにを衣んとて思わづらふ勿れ
32
此みな異邦人の求むる者なり爾曹の天の父は凡て此等のものゝ必需ことを知たまへり
33
爾曹まづ神の國と其義とを求よ然バ此等のものハ皆なんぢらに加らるべし
34
是故に明日のことを憂慮なかれ明日は明日のことを思わづらへ一日の苦勞は一日にて足り
人を議すること勿れ恐くハ爾曹も亦議されん
2
爾曹が人を議する如く己も議せらるべし爾曹が人を量ごとく己も量らるべし
3
なんぢ兄弟の目にある物屑を視て己が目にある梁木を知ざるハ何ぞや
4
己の目にある梁木のあるに如何で兄弟に對て爾が目にある物屑を我に取せよと曰ことを得んや
5
僞善者よ先おのれの目より梁木をとれ然バ兄弟の目より物屑を取得るやう明かに見べし
6
犬に聖物を與ふる勿れまた豕の前に爾曹の眞珠を投與る勿れ恐くハ足にて之を踐ふりかへりて爾曹を噬やぶらん
7
求よ然バ與られ尋よ然バあひ門を叩よ然ば開かるゝことを得ん
8
蓋すべて求る者ハえ尋る者ハあひ門を叩く者ハ開かる可ればなり
9
爾曹のうち誰か其子パンを求んに石を予へんや
10
また魚を求んに蛇を予んや
11
然バ爾曹惡き者ながら善賜を其子に與ふるを知まして天に在す爾曹の父ハ求る者に善物を予ざらん乎
12
是故
[千六百五十七]に凡て人に爲られんと欲ことハ爾曹また人にも其ごとく爲よ是律法と預言者なる也
13
窄き門より入れよ沈淪に至る路ハ濶その門ハ大なり此より入るもの多し
14
命に至る路ハ窄その門ハ小し其路を得もの少なり
15
僞の預言者を謹よ彼等ハ綿羊の姿にて爾曹に來れども内ハ殘狼なり
16
是その果に由て知べし誰が荊棘より葡萄をとり蒺蔾より無花果を採ことをせん
17
凡て善樹ハ善果を結び悪樹ハ悪果を結べり
18
善樹ハ悪果を結バず悪樹ハ善果を結ぶこと能ざる也
19
凡そ善果を結ざる樹ハ斫れて火に投入らる
20
是故に其果に由て之を知べし
21
我を召て主よ主よと曰もの盡く天國に入に非ず唯これに入者ハ我天に在す父の旨に遵ふ者のみ也
22
其日われに語て主よ主よ主の名に託てをしへ主の名に託て鬼をおひ主の名に託て多く異能を行しに非ずやと云もの多からん
23
其時かれらに告われ甞て爾曹を知ず惡をなす者よ我を離去と曰ん
24
是故に凡てわがこの言を聽て行ふ者を磐の上に家を建たる智人に譬えん
25
雨ふり大水いで風ふきて其家を撞ども倒ることなし是磐を基礎と爲たれば也
26
凡て我この言を聽て行はざる者を沙の上に家を建たる愚なる人に譬へん
27
雨ふり大水いで風ふきて其家を撞バ終には倒てその傾覆大なり
28
イエスこれらの言を語竟たまへるとき集りたる人々その教を駭きあへり
29
そハ學者の如くならず權威を有る者の如く教たまへバ也
イエス山を下しとき多の人々これに從へり
2
癩病の者きたり拜して曰けるハ主もし旨に適ときハ
我を潔なし得べし
3
イエス手を伸かれに按て我旨に適へり潔なれと曰けれバ癩病たゞちに潔れり
4
イエス彼に曰けるは慎て人に告るなかれ唯ゆきて己を祭司に見せ且モーセが
[千六百五十八] 命ぜし禮物を獻て彼等に證據をせよ
5
イエス、カペナウンに入しとき百夫の長きたり願て曰けるは
6
主よ我僕癱瘋をやみ家に臥ゐて甚だ惱めり
7
イエス曰けるハ我ゆきて之を醫すべし
8
百夫の長こたへけるハ主よ我なんぢを我が屋下に入奉るハ恐れ多し唯一言を出し給ハゞ我僕は愈ん
9
蓋われ人の權威の下にある者なるに我下に亦兵卒ありて此に往と曰ばゆき彼に來れと曰ば來る我僕に此を行と曰ば則ち行が故なり
10
イエスこれを聞て奇み從へる人々に曰けるハ我まことに爾曹に告んイスラエルの中にだに未だ斯る篤信に遇ざる也
11
われ爾曹に告ん多の人々東より西より來てアブラハム、イサク、ヤコブと偕に天国に坐し
12
國の諸子は外の幽暗に逐出され其処にて哀哭切齒すること有らん
13
イエス百人の長に往なんぢが信仰の如く爾に成べしと曰たまへる其時に僕ハ愈たり
14
イエス、ペテロの家に入その岳母の熱を煩ひ伏ゐたるを見て
15
その手に捫ければ則ち熱されり婦おきて彼等に事ふ
16
日暮たるとき人々鬼に憑れたる者を多く携來ければイエス言にて鬼を逐出し病ある者を悉く醫せり
17
預言者イザヤに託て自ら我儕の恙を受われらの病を負と曰たまひしに應せんが爲なり
18
偖イエス多の人々の己を環るを見て弟子に命じ向の岸に往んとし給しに
19
ある學者きたりて曰けるが師よ何処へ往給ふとも我從はん
20
イエス之に曰けるは狐ハ穴あり天空の鳥ハ巣あり然ど人の子ハ枕する所なし
21
また弟子の一人いひけるハ主よ先ゆきて父を葬ることを我に容せ
22
イエス曰けるは我に從へ死たる者に其死し者を葬せよ
23
イエス舟に登ければ弟子等も之に從ふ
24
此とき大なる颶風おこりて舟を蔽ばかりなる浪たちしにイエスは寝たり
25
弟子等これに近きて醒し曰
[千六百五十九]けるハ主よ救たまへ我儕亡んとす
26
イエス彼に曰けるは信仰うすき者よなんぞ懼るや遂に起て風と海とを斥ければ大に平息になりぬ
27
人々奇て曰けるは此ハ如何なる人ぞ風も海も之に從ひたり
28
イエス向の岸なるガダラ人の地に至れるとき鬼に憑れたる二人のもの墓より出て彼を迎ふ猛こと甚しくして其途を人の過るを能ハざりしほど也
29
かれら呼叫て曰けるは神の子イエスよ我儕なんぢと何の與あらん乎いまだ時いたらざるに我儕を責んとて此處に來るか
30
遥はなれて豕の多のむれ食し居けれバ
31
鬼イエスに求て曰けるは若われらを逐出さんとならバ豕の群に入ことを容せ
32
彼等に往と曰ければ鬼いでゝ豕の群に入しに總のむれ山坡より逸て海にいり水に死にたり
33
牧者ども邑に逃去て此事と鬼に憑れたりし者のことを告けれバ
34
イエスに逢んとて邑の者擧て出きたり彼を見て此境を出んことを願へり
イエス舟に登わたりて故邑に至けれバ
2
癱瘋にて床に臥たる者を人々舁來れりイエス彼等が信ずるを見て癱瘋の者に曰けるハ子よ心安かれ爾の罪赦れたり
3
ある學者たち心の中に謂けるハ此人は褻瀆を言り
4
イエスその意を知て曰けるハ爾曹いかなれバ心に惡を懐や
5
爾の罪赦されたりと言と起て歩めと言と孰か易き
6
それ人の子の地にて罪を赦す權あることを爾曹に知せんとて遂に癱瘋の者に起て床をとり家に歸れと曰けれバ
7
起て其家に歸りぬ
8
人々これを見て奇み此の如き權を人に賜し神を崇たり
9
イエス此より進往マタイと名くる人の税關に座し居るけるを見て我に從へと言ければ起て從へり
10
イエス彼が家に食するとき税吏罪ある人おほく來てイエス及その弟子と偕に坐しけれバ
11
パリサイの人之を見て其弟
[千六百六十]子に言けるは爾曹の師は何故税吏や罪ある人と偕に食する乎
12
イエス聞て彼等に言けるは康強なる者ハ醫者の助を需ず唯病ある者これを需
13
われ衿恤を欲て祭祀を欲ずといふ此ハ如何なる意か往て学ぶべし夫わが來るは義人を招ために非ず罪ある人を招きて悔改させんが爲なり
14
其時ヨハ子の弟子イエスに来りて曰けるは我儕とパリサイの人はしばゝゞ断食するに師の弟子の斷食せざるは何故ぞ
15
イエス彼等に曰けるは新郎の友その新郎と偕に居うちは哀むことを得んや將來新郎をひきとらるゝ日きたらん其時には斷食すべき也
16
新き布を以て舊き衣を補ふ者ハあらじ蓋つくろふ所のもの反てこれを壞その綻び尤も甚だしからん
17
また新き酒を舊き革嚢に盛る者ハあらじ若しかせバ嚢はりさけ酒もれいでゝ其嚢も亦壞らん新き嚢に新き酒を盛なバ兩ながら存べし
18
イエス彼等に此事を言る時ある宰きたり拜して曰けるは我女いま既に死り來て彼に手を按たまはゞ生べし
19
イエス起て彼に從ひ其弟子と偕に往
20
十二年血漏を患へる婦うしろに來て其衣の裾に捫れり
21
蓋もし衣にだにも捫らバ愈んと意へバなり
22
イエスかへり婦を見て曰けるハ女よ心安かれ爾の信仰なんぢを愈せり即ち婦この時より愈
23
イエス宰の家に入しに笛ふく者および多の人の泣咷を見て
24
之に曰けるハ退け女ハ死るに非ずたゞ寝たるのみ人々イエスを晒笑ふ
25
彼等を出しゝ後いりて其手を執しに女起たり
26
この聲名あまねく其地に播りぬ
27
イエス此を去とき二人の瞽者したがひて呼いひけるハダビデの裔よ我儕を憐み給へ
28
イエス家に入しに瞽者きたりければ彼等に曰たまひけるハ我この事を行得ると信ずるや答けるハ主よ然り
29
イエス彼等の目に手を按て爾曹の信ずる如
[千六百六十一]く爾曹に成べしと曰けれバ
30
其目ひらけたりイエス嚴く戒て之に曰けるは慎て人に知する勿れ
31
然ども彼等いでて遍く其地にイエスの名を播めたり
32
瞽者の出るとき人々鬼に憑れたる喑啞をイエスに携來りしに
33
鬼おひいだされて喑啞ものいへり衆人あやしみ曰けるはイスラエルの中にも未だ斯る事ハ見ざりき
34
パリサイの人いひけるハ彼鬼の王に藉て鬼を逐出せる也
35
イエス遍く郷邑を廻その會堂にて教をなし天國の福音を宣傳へ民の中なる諸の病すべての疾を愈せり
36
牧者なき羊の如く衆人なやみ又流離になりし故に之を見て憫みたまふ
37
其とき弟子等に曰給けるは収稼は多く工人は少し
38
故に其稼主に工人を収稼場に送んことを願ふべし
偖イエスその十二弟子を召彼等に汚たる鬼を逐出し又すべての病すべての疾を愈す權を賜へり
2
その十二使徒の名は左の如し首にはペテロと名づけ給ひしシモンその兄弟アンデレ、ゼベダイの子ヤコブその兄弟ヨハ子
3
ピリポ、バルトロマイ、トマス、税吏マタイ、アルパイの子なるヤコブ、タッダイと名づくるレッパイ
4
カナンのシモン、イスカリオテのユダ是すなはちイエスを賣しゝ者なり
5
イエスこの十二を遣さんとして命じ曰けるは異邦の途に往なかれ又サマリア人の邑に入なかれ
6
惟イスラエルの家の迷へる羊に往
7
往て天国近に在と宣傳よ
8
病の者を醫し癩病を潔し死たる者を甦らせ鬼を逐出すことをせよ爾曹價なしに受たれば亦價なしに施すべし
9
爾曹金または銀または銭を貯へ帶る勿れ
10
行嚢二の裏衣履杖も亦然そは工人の其食物を得るは宜なり
11
凡そ郷邑に至らバ其中の好人を訪て出るまでハ其処に留れ
12
[千六百六十二] 人の家にいたらば其平安を問
13
その家もし平安を得べきものならば爾曹の願ふ平安は其家に至らん若し平安を受くべからざる者ならば爾曹の願ふ平安は爾曹に歸るべし
14
もし爾曹を接ず爾曹の言を聴ざる者あらバその家または其邑を去とき足の塵を拂へ
15
われ誠に爾曹に告ん審判の日到らばソドムとゴモラの地は此邑よりも却て易からん
16
われ爾曹を遣すは羊を狼の中に入るが如し故に蛇の如く智く鴿の如く馴良かれ
17
愼て人に戒心せよ蓋人なんぢらを集議所に解し又その會堂にて鞭つべければ也
18
又わが縁故に因て侯伯および王の前に曳るべし是かれらと異邦人に證をなさんが爲なり
19
人なんぢらを解さば如何なにかを言んと思ひ煩らふ勿れ其とき言べき事は爾曹に賜るべし
20
是なんぢら自ら言に非ず爾曹の父の靈その衷に在て言なり
21
兄弟は兄弟を死に付し父は子を付し子は両親を訴へ且これを殺さしむべし
22
又なんぢら我名の爲に凡の人に憾れん然ど終まで忍ぶ者は救はるべし
23
この邑にて人なんぢらを責なば他の邑に逃よ我まことに爾曹に告ん爾曹イスラエルの諸邑を廻盡さゞる間に人の子は來るべし
24
弟子は師より優らず僕は主に優らざる也
25
弟子は其師の如く僕は其主の如ならば足ぬべし若し人主を呼てベルゼブルと云ば況て其家の者をや
26
是故に彼等を懼ること勿そハ掩れて露れざる者なく隱て知れざる者なければ也
27
われ幽暗に於て爾曹に告しことを光明に述よ耳をつけて聽しことを屋上に宣播よ
28
身を殺しても魂を殺すこと能はざる者を懼るゝ勿れ惟なんぢら魂と身とを地獄に滅し得る者を懼れよ
29
二羽の雀は一銭にて售に非ずや然るに爾曹の父の許なくば其一羽も地に隕ること有じ
30
爾曹の頭の髪また皆かぞへらる
31
故に懼るゝ勿れ
[千六百六十三] 爾曹は多の雀よりも優れり
32
然ば凡そ人の前に我を識と言ん者を我も亦天に在す我父の前に之を識と言ん
33
人の前に我を識ずと言ん者を我も亦天に在す我父の前に之を識ずと言べし
34
地に泰平を出さん爲に我來れりと意なかれ泰平を出さんとに非ず刄を出さん爲に來れり
35
夫わが來るは人を其父に背かせ女を其母に背かせ媳を其姑に背かせんが爲なり
36
人の敵は其家の者なるべし
37
我よりも父母を愛む者は我に恊ざる者なり我よりも子 女を愛む者は我に恊ざる者なり
38
その十字架を任て我に從ハざる者も我に恊ざる者なり
39
その生命を得る者は之を失ひ我ために生命を失ふ者は之を得べし
40
爾曹を接る者ハ我を接る也また我を接る者は我を遣しゝ者を接るなり
41
預言者なるを以その預言者を接る者は預言者の報賞をうけ義 人なるを以その義 人を接る者は義 人の報賞を受
42
わが弟子なるをもて小き一人の者に冷なる水一杯にても飮する者ハ誠に爾曹に告ん必ず其報賞を失はじ
イエスその十二弟子に示畢しとき此處をさり道を教へ廣んが爲に彼等の諸邑に往り
2
偖ヨハ子獄にてキリストの行し業を聞その弟子二人を彼に遣して
3
曰せけるは來べき者は爾なるか又われら他に待べき乎
4
イエス彼等に答て曰けるは爾曹が聞ところ見ところの事をヨハ子に往て告よ
5
瞽者ハみ跛者はあゆみ癩病人ハ潔まり聾者ハきゝ死たる者は復活され貧 者ハ福音を聞せらる
6
凡そ我ために躓かざる者は福なり
7
彼等の歸れる後イエス、ヨハ子の事を人々に曰けるハ爾曹何を見んとて野に出しや風に動さるゝ葦なる乎
8
然バ爾曹何を見んとて出しや美 服を着たる者ハ王宮に在
9
然バ何を見んとて
[千六百六十四] 出しや預言者なるか然われ爾曹に告ん彼ハ預言者よりも卓越たる者なり
10
夫なんぢに先ちて道を備る我が使者を我なんぢの前に遣んと錄されたるハ即ち是なり
11誠に爾曹に告ん婦の生たる者の中いまだバプテスマのヨハ子より大なる者は起らざりき然ど天國の最小き者も彼よりハ大なる也
12
バプテスマのヨハ子の時より今に至るまで人々勵て天國を取んとす勵たる者ハ之を取り
13
それ凡の預言者と律法の預言したるハヨハ子の時までなれバ也
14
若なんぢら我言を承ることを好まバ來べきエリヤハ是なり
15
耳ありて聽ゆる者ハ聽べし
16
我この世を何に譬んや童子街に坐し其侶を呼て
17
われら笛ふけども爾曹をどらず哀をすれども爾曹胸うたずと云に似たり
18
蓋ヨハ子來て食ふこと飮ことを爲ざれば鬼に憑れたる者なりと人々言り
19
人の子きたりて食ふことをし飮ことを爲れバ又食を嗜み酒を好む人税吏罪ある者の友なりといふ然ども智慧は智慧の子に義と爲らるゝ也
20
厥時イエス多の異 能を行たまひたる諸邑の悔改めざるに由て責いひけるハ
21
あゝ禍なる哉コラジンよ噫禍なる哉ベテサイダよ爾曹の中に行し異能を若ツロとシドンに行しならバ彼等ハ早く麻をき灰を蒙りて悔改しなるべし
22
われ爾曹に告ん審判の日にはツロとシドンの刑罰は爾曹よりも却て易からん
23
既に天にまで擧られしカペナウンよ又陰府に落さるべし蓋なんぢに行し異 能を若ソドムに行しならバ今日までも尚保存しならん
24
我なんぢに告ん審判の日にソドムの地ハ爾よりも却て易かるべし
25
其ときイエス答て曰けるハ天地の主なる父よ此事を智者達者に隱して赤子に顯したまふを謝す
26
父よ然それ此の如は聖旨に適るなり
27
父よ我に萬物を予たまへり父の
[千六百六十五] 外に子を識もの無また子および子の顯す所の外に父を識者なし
28
凡て勞たる者また重を負る者は我なんぢらを息ません
29
我は心柔和にして謙遜者なれバ我軛を負て我に學なんぢら心に平安を獲べし
30
蓋わが軛は易わが荷は輕けれバ也
當時イエス安息日に麥の畑を過しが其弟子等飢て穗を摘食はじめたり
2
パリサイの人これを見てイエスに曰けるは爾の弟子は安息日に爲まじき事を行り
3
之に答けるはダビデおよび從に在し者の餓しとき行し事を未だ讀ざる乎
4
即ち神の殿に入て祭司の他は己および從におる者も食ふまじき供のパンを食へり
5
また安息日に祭司ハ殿の内にて安息日を犯せども罪なき事を律法に於て讀ざる乎
6
われ爾曹に告ん殿より大なるもの茲に在
7
われ衿恤を欲て祭祀を欲ずとは如何なることか之を知ば罪なき者を罪せざるべし
8
それ人の子は安息日の主たるなり
9
此を去て彼等の會堂に入しに
10
一手なへたる人ありければ彼等イエスを訴んとて之に問けるは安息日にハ醫すことを行べき乎
11
彼等に曰けるは爾曹の中に一の羊を有る者あらんに若その羊安息日に坑に陷らバ之を挈上ざる乎
12
人は羊より優ること幾何ぞや然ば安息日に善を行は宜
13
遂にその人に爾が手を伸よと曰けれバ伸せり即ち他の手の如く愈
14
パリサイの人いでゝイエスを殺さんと謀れり
15
イエス之を知て此を去しに多の人々これに從ふ凡て疾病ある者をみな愈し
16
我を人に露すこと勿れと戒たり
17
これ預言者イザヤの云し言に
18
視よ我が選し我僕すなはち我心に適たる我が愛む者われ之に我靈を賦へん彼異邦人に審判を示すべし
19
彼は競ことなく喧ことなし人街に於て其聲を聞ことなし
20
審判をして勝と
[千六百六十六] げしむるまでは傷る葦を折ことなく煙れる麻を熄ことなし
21
異邦人も亦その名に賴べしと有に應せん爲なり
22
爰に鬼に憑たる瞽の瘖を醫して言ひ見るやうに爲せり
23
衆人みな奇みて曰けるハ此ハダビデの裔にハ非ざる乎
24
パリサイの人きゝて曰けるハ此人ハ鬼の王ベルゼブルを役ふに非ざれバ鬼を逐出ことなし
25
イエスその意を知て彼等に曰けるハ凡て相爭ふ國ハ亡び凡て相爭ふ邑や家ハ立べからず
26
サタン若サタンを逐出さバ自ら相爭ふなり然バ其國いかで立んや
27
若われベルゼブルに由て惡鬼を逐出さバ爾曹の子弟ハ誰に由て之を逐出すや夫かれらハ爾曹の裁判人となるべし
28
若われ神の靈に由て鬼を逐出しゝならバ神の國ハもハや爾曹に至れり
29
また勇士をまづ縛らざれバ如何で其家に入その家具を奪ふことを得んや縛て後に其家を奪ふべし
30
我と偕ならざる者ハ我に背き我と偕に斂ざる者は散すなり
31
是故に爾曹に告ん人々の凡て犯す所の罪と神を瀆ことは赦れん然ど人々の聖靈を瀆ことハ赦るべからず
32
言を以て人の子に背く者ハ赦るべし然ど言をもて聖靈に背く者ハ今世に於ても亦 来 世に於ても赦るべからず
33
或ハ樹をも善とし其果をも善とせよ或ハ樹をも惡とし其果をも惡とせよ夫樹ハ其果に由て知るゝ也
34
あゝ蝮の裔よ爾曹惡にして何で善を言ことを得んや夫心に充るより口に言るゝ者なれバ也
35
善人ハ心の善庫より善ものを出し惡人ハその惡庫より惡ものを出せり
36
われ爾曹に告ん凡て人のいふ所の虚 言ハ審判の日に之を訴へざるを得じ
37
それ爾その曰ところの言に由て義とせられ又其いふ言に由て罪ありとせらるゝ也
38
此時ある學者とパリサイの人答て曰けるハ師よ休徴をな
[千六百六十七] して我儕に見せんことを爾に請ふ
39
答て彼等に曰けるハ奸惡なる世ハ休徴を求されど預言者ヨナの休徴の外ハ之に休徴を與られじ
40
夫ヨナが三日三夜魚の腹の中に在し如く人の子も三日三夜地の中に在べし
41
ニネベの人審判の日に共に起て今の世の罪を定めん彼等ハヨナの誨に由て悔改たり夫ヨナより大なる者こゝに在
42
南の女王さバきの日に共に起て今の世の罪を定めん彼ハ地の極よりソロモンの智慧を聽んとて來れり夫ソロモンより大なるもの此にあり
43
惡鬼人より出て旱たる地を巡り安息を求れども得ずして曰けるハ
44
我が出し家に歸らん既に來しに空虚にして掃 浄り飾れるを見
45
遂に往て己よりも惡き七の惡鬼を携へ偕に入て此に居バその人の後の患狀ハ前よりも更に惡かるべし此あしき世もまた此の如ならん
46
イエス人々に語をる時その母と兄弟かれに言ハんとて外に立けれバ
47
或人イエスに曰けるハ爾の母と兄弟かれに言ハんとて外に立り
48
イエス告し者に答て曰けるハ我母ハ誰ぞ我兄弟ハ誰ぞや
49
手を伸その弟子を指て曰けるハ是わが母わが兄弟なり
50
蓋すべて我が天に在す父の旨を行ふ者ハ是わが兄弟わが姊妹わが母なれバ也
當日イエス家を出て海邊に坐せしに
2
多の人々彼に集來けれバイエスハ舟に登て坐し凡の人々ハ岸に立り
3
イエス譬を以多端な言を人々に語ぬ種まく者播に出しが
4
播るとき路の旁に遺し種あり空中の鳥きたりて啄み盡せり
5
また土うすき磽地に遺し種あり直に萌出たれど
6
日の出しとき灼れしかバ根なきが故に槁たり
7
また棘の中に遺し種あり棘そだちて之を蔽げり
8
また沃壤に遺し種あり實を結べること或ハ百倍あるひハ六十倍あるいハ三
[千六百六十八] 十倍せり
9
耳ありて聽ゆる者ハ聽べし
10
弟子等きたりて彼に曰けるハ何故に譬をもて彼等に語給ふや
11
答て曰けるハ爾曹にハ天國の奥義を知ことを予たまへど彼等にハ予へ給ざれバ也
12
それ有る者ハ予られてなほ餘あり無有者ハその有る物をも奪るゝ也
13
彼等ハ視ても見ず聽ても聞ず悟ざるが故に我譬を以彼等に語れり
14
イザヤの預言に爾曹ハ聽ども悟らず視ども見ず
15
蓋この民目にて見耳にて聽心にて悟り改めて我に醫されんことを恐その心を鈍し耳を蔽ひ目を閉たりと云しに應へり
16
然ど爾曹の目ハ見爾曹の耳ハ聞が故に福なり
17
われ誠に爾曹に告ん多の預言者と義人ハ爾曹が見ところを見んとしたりしが見ことを得ず爾曹が聞ところを聞んとしたりしが聞ことを得ざりき
18
故に爾曹播種の譬を聽
19
天國の教を聞て悟らざれバ惡鬼きたりて其心に播れたる種を奪ふ是路の旁に播たる種なり
20
磽地に播れたる種ハ是教を聽て速かに喜び受れども
21
己に根なけれバ暫時のみ教の爲に患難あるひハ迫らるゝ事の起る時ハ忽ち道に礙く者なり
22
また棘の中に播れたる種ハ是教を聽ども此世の思慮と貨財の惑に教を蔽れて實らざる者なり
23
沃壤に播れたる種ハ是教を聽て悟り實を結こと或ハ百倍あるひハ六十倍あるいハ三十倍する者なり
24
また譬を彼等に示して曰けるハ天國ハ人畑に美種を播に似たり
25
人々の寢たる間に其敵きたり麥の中に稗子を播て去り
26
苗はえ出て實たるとき稗子も現れたり
27
主人の僕きたりて曰けるハ主よ畑にハ美種を播ざりしか如何して稗子ある乎
28
僕に曰けるハ敵人これを行り僕主人に曰けるハ然らば我儕ゆきて之を拔あつむるハ宜か
29
否おそらくハ爾曹稗子を拔あつめんとて麥をも共に拔べし
30
收穫まで二ながら長お
[千六百六十九] け我かりいれの時まづ稗子を拔集て焚ん爲に之を束ね麥をバ我が倉に收よと刈者に言ん
31
また譬を彼等に示し曰けるハ天國ハ芥種の如し人これを取て畑に播バ
32
萬の種より小けれども長てハ他の草より大にして天空の鳥きたり其枝に宿ほどの樹となる也
33
また譬を彼等に語けるハ天國ハ麪酵の如し婦これをとり三斗の粉の中に藏せバ悉く脹發すなり
34
イエス譬をもて凡て此等の事を衆人に語たまへり譬にあらざれば語り給ハず
35
これ預言者に託て我譬を設て口を啓き世の始より隱たる事を言出さんと云れたるに應せん爲なり
36
遂にイエス衆人を歸して家に入り其弟子きたりて曰けるハ畑の稗子の譬を我儕に解たまへ
37
之に答て曰けるハ美種を播者ハ人の子なり
38
畑ハこの世界なり美種ハ是天國の諸子なり稗子ハ悪魔の子類なり
39
之をまく敵ハ惡魔なり收獲ハ世の末なり刈者ハ天の使等なり
40
稗子の斂て火に焚る如く此世の末に於ても此の如くなるべし
41
人の子その使者たちを遣して其國の中より凡て躓礙となる者また惡をなす人を斂て
42
之を爐の火に投入べし其處にて哀哭切齒すること有ん
43
此とき義 人ハ其父の國に於て日の如く輝かん耳ありて聽ゆる者ハ聽べし
44
また天國ハ畑に藏たる寶の如し人みいださば之を秘し喜び歸り其所有を盡く賣てその畑を買なり
45
また天國は好眞珠を求んとする商人の如し
46
一の値たかき眞珠を見出さバその所有を盡く賣て之を買なり
47
また天國は海に投て各様の魚をとる網の如し
48
既に盈れバ岸に曳あげ坐てその嘉ものを器にいれ惡ものを棄るなり
49
世の末に於ても此の如ならん天の使 等いでゝ義 者の中より惡 者を取わけ
50
之を爐の火に投入べし其處にて哀哭切齒すること有らん
51
イエス彼等に
[千六百七十] 曰けるハ此事をみな悟しや彼に曰けるハ主よ然
52
イエス彼等に曰けるは然バ天國について教られたる學者ハ新しき物と舊き物とを其庫より出す家の主の如し
53
イエスこの譬を言畢て此を去ぬ
54
その故土にいたり會堂にて教しに人々奇み曰けるハ此人の智慧と異なる能ハ何處より來るや
55
これ木匠の子にあらずや其母はマリアその兄弟ハヤコブ、シモン、ユダに非ずや
56
その妹 等ハみな我儕と偕に在に非ずや然るに此人の凡て此等の事ハ何處より来しや
57
遂に厭て之を棄イエス彼等に曰けるハ預言者ハ其故土その家の外に於て尊まれざることなし
58
彼等が信ずることなきに由て多の異なる能を此に行給ハざりき
其ころ分封の君ヘロデ、イエスの聲名を聞て
2
その僕に曰けるハ是バプテスマのヨハ子なり彼死より甦りたり故に異なる能を行ふなり
3
前にヘロデその兄弟ピリポの妻ヘロデヤの事に由てヨハ子を捕へ縛て獄に入たり
4
此ハヨハ子、ヘロデに此婦を娶るハ宜しからずと云しに因
5
彼ヨハ子を殺さんと欲ど民これを預言者とするにより彼等を懼たりしが
6
ヘロデ誕生の日を祝へる時ヘロデヤの女その座上にて舞をなしヘロデを悦バせけれバ
7
何なる物にても求に任て予んとヘロデ之に誓たり
8
女その母の勸ありしに因バプテスマのヨハ子の首を盆に載て此に賜れと曰
9
王憂けれども既に誓たると席に列れる者の爲に予ることを命じ
10
卽ち人を遣し獄に於てヨハ子の首を斬せ
11
その首を盆に載て女に予ければ女ハ之をその母に捧たり
12
ヨハ子の弟子等きたりて屍を取これを葬り往てイエスに告
13
イエスこれを聞て人をさけ舟に登て其處を去さびしき處に往給ひしが衆人きゝて歩行にて彼に從へり
14
イエス出て多
[千六百七十一] の人を見て之を憫み其病る者を醫せり
15
日くるゝ時その弟子きたりて曰けるハ此は寂寞ところにして時もハや遅し諸邑に往て自ら食を求させん爲に人々を去しめよ
16
イエス彼等に曰けるハ人々往ずとも可なんぢら之に食を予よ
17
答けるハ我儕此にたゞ五のパンと二の魚あるのみ
18
イエス曰けるハ其を此に携來れ
19
遂に衆人に命じて草の上に坐しめ五のパンと二の魚をとり天を仰て謝しパンを擘て弟子之を衆人に予ぬ
20
みな食て飽その餘たる屑を拾しに十二の筐に盈たり
21
食し者ハ婦と幼童の外おほよそ五千人なりき
22
頓てイエス衆人を歸さんとして其弟子を強て船にのせ向の岸へ先に渡しむ
23
斯て衆人を歸しけれバ祈禱せんとて密に山に上り日くれて獨そこに在せり
24
舟は海中に在て逆風の爲に浪に漂ハさる
25
夜の四時ごろイエス海の上を歩て之に至しに
26
弟子その海の上を歩るを見て驚き此ハ變化の物ならんと曰て懼れ叫たり
27
イエス頓て彼等に曰けるハ心安かれ我なり懼るゝ勿れ
28
ペテロ答て曰けるハ主よ若し爾ならバ我に命じ水を履て爾の所に至しめよ
29
來と曰給ひけれバペテロ舟より下てイエスの所に至んとて浪の上を歩たれど
30
風の烈きを見て懼れ沈かゝりけれバ主よ我を救たまへと曰
31
イエス頓て手を伸これを執て曰けるハ信仰うすき者よ何ぞ疑ふや
32
偕に舟に登けれバ風しづまりぬ
33
舟に居し者ちかよりて彼を拜し曰けるハ誠に爾ハ神の子なり
34
遂に渡てゲ子サレの地に到しかバ
35
其處の人々イエスを識て遍く四方に人を遣し凡て病の者を携へ來らしむ
36
只その衣の裾に捫らんことをイエスに願へり捫し者ハ則ちみな愈されたり
時にエルサレムの學者とパリサイの人イエスに來て曰けるハ
2
爾の弟子古の人の
[千六百七十二] 遺傳を犯ハ何故ぞ蓋食する時に其手を洗ざれバ也
3
答て彼等に曰けるハ爾曹ハ亦なんぢらの遺傳によりて神の誡を犯ハ何故ぞ
4
それ神いましめて爾の父母を敬へ又父母を詈る者ハ殺さるべしと宣給へり
5
然るに爾曹ハ曰て人父母に對なんぢを養ふ可ものハ禮物なりと云バ
6
その父母を敬ハずとも可とす斯て爾曹遺傳により神の誡を廢くせり
7
僞善者よイザヤハ能なんぢらに就て預言し
8
此民ハ口にて我に近き唇にて我を敬へども其心ハ我に遠かり
9
人の誡を教となして徒らに我を拜すと云り
10
イエス人々を召て彼等に曰けるハ聽て悟れ
11
口に入るものハ人を汚さず口より出るものハ是人を汚すなり
12
弟子きたりてイエスに曰けるハパリサイの人この言を聞て厭棄るを爾知か
13
答て曰けるハ我が天の父の植ざる者ハみな拔るべし
14
彼等を棄おけ瞽者の相する瞽者なり若めしひのもの瞽者を相せバ二人とも溝に落べし
15
ペテロ、イエスに答て曰けるハ此譬を我儕に解たまへ
16
イエス曰けるハ爾曹も未だ悟ざる乎
17
凡て口に入ものハ腹を運て厠に落るを未だ知ざるか
18
口より出るものハ心より出これ人を汚ものなり然ども手を洗ずして食ふハ人を汚さず
19
蓋心より出る所の惡念、凶殺、姦淫、苟合
20
此等ハ人を汚ものなり然ども手を洗ずして食ふハ人を汚さず
21
イエス此を去てツロとシドンの地に往けるに
22
其地に住るカナンの婦いでゝ呼ハり曰けるハ主よダビデの裔よ我を憫み給へ我むすめ鬼に憑れて甚く苦めり
23
イエス一言も彼に答ざりしかバ其弟子きたり請て曰けるハ我儕の後より呼ハるが故に彼を去せ給へ
24
答て曰けるハイスラエルの家の迷へる羊の外に我ハ遣されず
25
婦きたり拜して曰けるハ主よ我を助たまへ
26
答けるハ兒女のパンを取て犬に投與ふるハ宜からず
27
[千六百七十三] 婦いひけるハ主よ然されども犬もその主人の膳より落る屑を食なり
28
遂にイエス答て曰けるハ婦よ爾の信仰ハ大なり願の如く爾に成べし此時より其女いえたり
29
イエス此を去ガリラヤの海邊にゆき山に登りて坐せり
30
多の人々跛者、瞽者、瘖者、殘缺者および各様の疾病ある者を伴ひきたりイエスの足下に置けれバ即ち之を醫しぬ
31
是に於て瘖者ハものいひ殘疾ハいえ跛者ハあゆみ瞽者ハ見たるを人々見て奇みイスラエルの神を榮たり
32
イエスその弟子を呼て曰けるハ我この衆人を憫む彼等われと偕に居こと三日にして食ふものなし飢させて去しむることを欲ず恐くハ途間にて惱ん
33
その弟子かれに曰けるハ野にて此おほくの人に飽するほどのパンを何處より得んや
34
イエス彼等に曰けるハパン幾何あるや答けるハ七と些少の魚あり
35
イエス人々を去しめ舟に登てマグダラの境に至れり
パリサイとサドカイの人きたりてイエスを試んとて天の休徴を我儕に見せよと曰けれバ
2
彼等に答けるハ爾曹暮にハ夕紅に由て晴ならんと言
3
晨にハ朝紅また曇に由て今日ハ雨ならんといふ僞善者よ空の景色を別ことを知て時の休徴を別ち能ハざる乎
4
姦惡なる世ハ休徴を求るとも預言者ヨナの休徴のほか休徴を予られじ遂に彼等を離れて去ぬ
5
その弟子むかふの岸に到しにパンを携ふることを忘たり
6
イエス彼等に曰けるハ戒心してパリサイとサドカイの人の麪酵を愼めよ
7
弟子たがひに論じて曰けるハ是パンを携へざりし故ならん
8
[千六百七十四] イエスこれを知て曰けるハ信仰うすき者よ何ぞ互にパンを携へざりしことを論ずる乎
9
未だ悟らざるか五千人に五のパンを予しとき幾籃ひろひし乎
10
また四千人に七のパンを予しとき幾籃ひろひしや爾曹これを記ざるか
11
パリサイとサドカイの人の麪酵を愼めとハパンにつきて言るに非ざるを何ぞ悟らざる
12
是に於て弟子その麪酵にハあらでパリサイとサドカイの人の教を愼めと言るなるを悟れり
13
イエス、カイザリヤ、ピリピの方に到しとき其弟子に問て曰けるハ人々ハ人の子を誰と言や
14
彼等曰けるハ或人ハバプテスマのヨハ子或人ハエリヤ或人ハエレミヤまた預言者の一人なりと言り
15
彼等に曰けるハ爾曹ハ我を言て誰とする乎
16
シモン、ペテロ答けるハ爾ハキリスト活神の子なり
17
イエス答て彼に曰けるハヨナの子シモン爾ハ福なり蓋血肉なんぢに示せるに非ず天に在す吾父なり
18
我また爾に告ん爾ハペテロなり我が教會をこの磐の上に建べし陰府の門ハ之に勝べからず
19
又われ天國の鍵を爾に予へん爾が地に於て繫ことハ天に於ても繫なんぢが地に於て釋ことハ天に於ても釋べし
20
遂に其弟子を戒めけるハ我をキリストと告ること勿れ
21
此時よりイエスその弟子に己のエルサレムに往て長老祭司の長學者等より多の苦みを受かつ殺され第三日に甦る等なすべき事を示し始む
22
ペテロ、イエスを援とめて主よ宜らず此事なんぢに來るまじと曰けれバ
23
イエス反 顧てペテロに曰たまひけるハサタンよ我 後に退け爾ハ我に礙く者なり夫なんぢらハ神の事を思はず人の事を思へり
24
此時イエス其弟子に曰けるハ若われに從がハんと欲ふ者ハ己を棄其十字架を負て我に從へ
25
蓋生命を保全せんとする者ハ之を失ひ我ために其生命を失ふ者ハ之を得べけ
[千六百七十五] れバ也
26
若人全世界を得とも其生命を失ハば何の益あらん乎また人何を以て其生命に易んや
27
それ人の子ハ父の榮光を以てその使等と偕に來らん其 時 各の行に由て報ゆべし
28
誠に爾曹に告ん人の子その國を以て來るを見までハ此に立ものの中に死ざる者あるべし
六日の後イエス、ペテロ、ヤコブその兄弟ヨハ子を伴ひ人を避て高山に登り給しが
2
彼等の前にて其容貌かハり其面日の如く輝き其衣ハ白く光れり
3
モーセとエリヤ現れてイエスと偕に語ぬ
4
ペテロ答てイエスに曰けるハ主よ我儕こゝに居ハ善もし尊旨に適ハゞ我儕に三の廬を建せたまへ一ハ主のため一ハモーセのため一ハエリヤの爲にせん
5
如此いへる時かゞやける雲かれらを蔽ふ聲雲より出て言けるハ此ハ我旨に適ふわが愛子なり爾曹これに聽べし
6
弟子これを聞て大におそれ倒れ伏たり
7
イエス來りて彼等に手を按おきよ懼るゝ勿れと曰けれバ
8
其目を擧しに惟イエスのほか一人をも見ざりき
9
山を下る時にイエス彼等に命じて人の子の死より甦るまでハ爾曹の見し事を人に告べからずと言り
10
その弟子とふて曰けるハ然バエリヤハ先に來べしと學者の云るハ何ぞや
11
イエス答て曰けるハ實にエリヤハ來て萬事を改むべし
12
然ど我なんぢらに告んエリヤハ既に來しに人これを知ずたゞ意の任に彼を待へり此の如く人の子もまた彼等より苦艱を受べし
13
是に於て弟子バプテスマのヨハ子を指て曰たまへるを悟れり
14
彼等おほくの人の居ところに來しに或人イエスの所にきたり跪き
15
曰けるハ主よ我子を憫みたまへ癲癇にて屢 火に倒れ水に倒れ甚だ苦めり
16
之を爾の弟子に携往たれど醫すことを得ざりき
17
イエス答て曰けるハ噫信なき曲れる世なる哉われ何時まで爾
[千七百七十六] 曹と偕に居んや我いつまで爾曹を忍んや彼を我もとに携來れ
18
遂にイエス鬼を斥め給へバ鬼いでゝ其子この時より愈たり
19
其とき弟子ひそかにイエスに來り曰けるハ我儕これを逐出すこと能ハざりしハ何故ぞ
20
イエス彼等に曰けるハ爾曹信なきが故なり我まことに爾曹に告んもし芥種の如き信あらバ此山に此處より彼處に移れと命とも必ず移らん又なんぢらに能ざること無るべし
21
然ど此類ハ祈禱と斷食に非ざれバ出ることなし
22
ガリラヤを周流ときイエス彼等に曰けるハ人の子人の手に解され
23
かつ殺されて第三日に甦るべし弟子これを聞て甚だ哀めり
24
彼等カペナウンに來れるとき納金を集る者どもペテロに來て曰けるハ爾曹の師ハ納金を出さゞるか
25
然ずと曰てペテロ家に入しときイエスまづ彼に曰けるハシモン爾ハ如何おもふや世界の王たちハ税および貢を誰より徴か己の子よりか他の者よりか
26
ペテロ彼に曰けるハ他の人より徴なりイエス彼に曰けるハ然バ子ハ與ることなし
27
然ど彼等を礙かせざる爲に爾海に往て釣を垂よ初につる魚を取てその口を啓かバ金一を得べし其を取て我と爾の爲に彼等に納よ
其とき弟子イエスに來て曰けるハ天國に於て大なる者は誰ぞや
2
イエス嬰兒を召かれらの中に立て
3
曰けるハ我まことに爾曹に告んもし改まりて嬰兒の如くならずバ天國に入ことを得じ
4
然バ凡そこの嬰兒の如く自ら謙る者ハこれ天國に於て大なる者なり
5
又わが名の爲に此の如き一人の嬰兒を接る者ハ我を接るなり
6
然ど我を信ずる此小子の一人を礙かする者ハ磨石をその頸に懸られて海の深に沈られん方なほ益なるべし
7
此世ハ禍なる哉そハ
[千六百七十七] 礙かする事をすれバなり礙く事ハ必ず來らん然ど礙を來らす者ハ禍なる哉
8
若し爾の手なんぢの足おのれを礙かさバ斷て之を棄よ兩手兩足ありて盡ざる火に投入られんよりハ跛またハ殘缺にて生に入ハ善なり
9
もし爾の眼おのれを礙かさバ拔出して之を棄よ兩眼ありて地獄の火に投入られんよりハ一眼にて生に入ハ善なり
10
爾曹この小 子の一人をも愼みて輕視なかれ我なんぢらに告ん彼等が天の使者ハ天にありて天に在す我父の面を常に覿バなり
11
それ人の子ハ亡たる者を救ハん爲に來れり
12
爾曹いかに意ふや人もし百匹の羊あらんに其一匹まよハゞ九十九を山に置ゆきて迷し一を尋ざる乎
13
若たづねて之に遇バ我まことに爾曹に告ん迷ざる九十九の者よりも尚その一を喜ばん
14
是の如くこの小 子の一人の亡るハ天に在す爾曹が父の尊旨に非ず
15
もし兄弟なんぢに罪を犯バその獨ある時に往て諫よもし爾の言を聽バその兄弟を獲べし
16
もし聽ずバ両三人の口に由て證をなし凡の言を定んが爲に一人二人を伴ひ往
17
もし彼等にも聽ずバ教會に告よもし教會に聽ずバ之を異邦人かつ税吏のごとき者とすべし
18
我まことに爾曹に告んもし爾曹が地に於て繫ことハ天に於もつなぎ爾曹が地に於て釋ことハ天に於も釋べし
19
我また爾曹に告んもし爾曹のうち二人のもの地に於て心を合せ何事にても求バ天に在す吾父ハ彼等の爲に之を成たまふべし
20
蓋わが名の爲に二三人の集れる處にハ我も其中に在バなり
21
厥時ペテロ、イエスに來りて曰けるハ主よ幾次まで我兄弟の我に罪を犯すを赦べきか七次まで乎
22
イエス彼に曰けるハ爾に七次とハ言じ七次を七十倍せよ
23
是故に天國ハ王その臣と會計を調んとするが如し
24
調べ始しとき千萬金の負債したる者を王に
[千六百七十八] 曳來りしに
25
償ひ方なかりけれバ之に命じて其身その妻孥とあらゆる所有をみな鬻て償へと曰り
26
その臣俯伏て拜し曰けるハ請われを寛し給ハゞ皆償ふべし
27
是に於てその臣の主憐みて之を釋その負債を免したり
28
其臣いでゝ己より銀一百の負債したる友に遇けれバ之を執へ喉をとり負債を返せと曰
29
その友足下に俯伏て求いひけるハ我を寛し給ハゞ皆償ふべし
30
然るに之を肯ハずして往その負債を償ふまで彼を獄に入ぬ
31
外の友その爲る事を見て甚だ哀み往て此事を皆その主に告しかば
32
主かれを召て曰けるハ惡き臣よ爾われに求しに因て我その負債を悉く免したり
33
我なんぢを憐みし如く爾も亦友を憐むべきに非ずや
34
その主いかりて負債をみな償ふまで彼を獄 吏に付せり
35
若おのゝゝ其心より兄弟を赦ずば我が天の父も亦なんぢらに此の如く行給ふべし
イエス此等の事を言畢りしときガリラヤを去てヨルダンの外ユダヤの境に至りけるに
2
多の人々從ひしかバ此處にて彼等を醫し給へり
3
パリサイの人きたりてイエスを試み曰けるハ人なにの故に係らず其妻を出すハ宜か
4
答て彼等に曰けるハ元始に人を造り給ひし者ハ之を男女に造れり
5
是故に人父母を離れて其妻に合二人のもの一體と爲なりと云るを未だ讀ざるか
6
然バはや二にハ非ず一體なり神の合せ給へる者ハ人これを離すべからず
7
イエスに曰けるハ然バ離緣狀を予て妻を出せとモーセが命ぜしハ何ぞや
8
彼等に曰けるハモーセハ爾曹の心の不情に因て妻を出すことを容したる也されど元始ハ如此あらざりき
9
我なんぢらに告んもし姦淫の故ならで其妻を出し他の婦を娶る者ハ姦淫を行ふなり又いだされたる婦を
[千六百七十九] 娶る者も姦淫を行ふなり
10
弟子等イエスに曰けるハ若し人妻に於て斯の如くバ娶ざるに若ず
11
彼等に曰けるハ此言ハ人みな受納ること能ハず唯賦られたる者のみ之を爲うべし
12
それ母の腹より生 來たる寺人あり又人にせられたる寺人あり又天國の爲に自らなれる寺人あり之を受納ることを得るものハ受納べし
13
其とき人々イエスの手を按て祈らんことを求ひ嬰兒を彼に携來りけれバ弟子是を阻たり
14
イエス曰けるハ嬰兒を容せ我に來ることを禁しむる勿れ天國にをる者ハ此の如き者なり
15
即ち彼等に手を按て此を去ぬ
16
或人きたりて彼に曰けるハ善師よ我かぎりなき生を得んが爲にハ何の善事を行べきか
17
彼に曰けるハ何故われを善と稱や一人の外に善者ハなし即ち神なり若し命に入んと欲ハゞ誡を守るべし
18
彼こたへけるハ何かイエス曰けるハ殺す勿れ姦淫する勿れ盗む勿れ妄りの證を立る勿れ
19
爾の父母を敬へ又己の如く爾の隣を愛すべし
20
少者かれに曰けるハ是みな我いとけなきより守れるものなり何の虧たるところ我にある乎
21
イエス彼に曰けるハ全からん事を欲ハゞ往て爾が所有を售て貧 者に施せ然れバ天に於て財あらん而して我に從へ
22
少者この言を聞て憂へ去ぬ彼の産業おほいなれバ也なり
23
イエスその弟子に曰けるハ誠に爾曹に告ん富 者ハ天國に入こと難し
24
また爾曹に告ん富 者の神の國に入よりハ駱駝の針の孔を穿るハ却て易し
25
弟子之を聞て甚く驚き曰けるハ然バ誰が救を受べき乎