[千八百四十五]
新約全書使徒行傳
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テヨピロよ我すでに前書を作て凡そイエスの始て行へるところ教し所を錄し
二
其選たる使徒等に聖靈に託て命ぜしのち擧られし時にまで至れり
三
夫イエスハ苦難を受し後おほくの確據なる證を以て己の活たる事を現し四十日の間かれらに見え神の國の事に就て語り
四
また彼等と偕に集り居て命じけるハ爾曹エルサレムを離ずして我に聞る所の父の約束し給ひし事を待べし
五
蓋ヨハ子ハ水を以てバプテスマを施たれども爾曹ハ久からずして聖靈によりバプテスマを受べければ也
六
集れる者かれに問けるハ主よ爾いま國をイスラエルに還さんと爲か
七
彼等に曰けるハ父の其權にて定たまへる時また期ハ爾曹が知べき所に非ず
八
然ども聖靈なんぢらに臨に因て後爾曹能力を受エルサレム、ユダヤ全國サマリヤおよび地の極にまで我が證人と爲べし
九
此事を言畢しのち彼等の見が間に擧らる雲これを接て見ざらしめたり
十
イエスの昇れる時かれら天を仰ぎ視たりしに白衣を着たる二人の人ありて旁に立
十一
曰けるハガリラヤ人よ何故に天を仰て立るや爾曹を離て天に擧られし此イエスハ爾曹が彼の天に昇るを見たる其如く亦きたらん
十二
其時かれら橄欖と名る山よりエルサレムに近く約そ安息日に行うる程なり
十三
已に入て樓に登れり此に留れる者ハペテロ、ヤコブ、ヨハ子、アンデレ、ピリポ、トマス、バルトロマイ、マタイ、アルパイの子ヤコブ、ゼロテと云るシモン、ヤコブの兄弟なるユダなり
十四
凡この人々ハ婦等およびイエスの母マリヤ並イエスの兄弟と偕に心を合せて恒に祈禱を務たり
十五
當時ペテロ弟子等(その集れる者おほよそ百二十人なり)の中に立
[千八百四十六] て曰けるハ
十六
人々兄弟よ聖靈ダビデの口によりてイエスを捕る者を導けるユダに就て預じめ語たる此聖書ハ必ず應ずべかりし也
十七
蓋かれも我儕と共に列りて此職を任たれば也
十八
斯人ハ不義の價をもて地所を買また倒に堕て眞中より裂れ其膓ことゞゝく流出たり
十九
此事エルサレムに住る凡の人に知しかバ其地所を方言にてアケルダマと呼これを譯バ血の地所なり
二十
詩の篇に錄して彼の家ハ墟くなれ其中に人を住居する勿れ彼の職ハ他人に得させよと云り
二一
是故に主イエスの我儕が中に往來し給ひたる間
二二
即ちヨハ子のバプテスマより始われらを離て擧られし日に至るまで常に我儕と偕に在し者の中一人われらと共に其 甦りし事の證 人と爲べき也
二三
是に於てバルサバと稱るヨセフ又の名ハユストと云る者とマッテアとの二人を擧て
二四
祈いひけるハ衆 人の心を識たまふ主よ願くハ奉事ことゝ使徒の職を得させんが爲に此二人のうち孰を選たまひしか示し給へ
二五
既にユダハ此職を離て其往べき所に往たり
二六
斯て䦰を取しにマッテアに當けれバ彼十一人の使徒等と共に列れり
ペンテコステの日に至て弟子等みな心を合せて一處に在しに
二
俄に天より迅 風の如き響ありて彼等が坐する所の室に充り
三
燄の如もの現れ岐て彼等各人の上に止る
四
是に於て彼等ハみな聖靈に滿され其聖靈の言しむるに從ひて異なる諸國の方言を言ハじめたり
五
時に敬虔あるユダヤ人天下の諸國より來てエルサレムに留れる者ありき
六
此音おこりしに因おほくの人々集りけるが各人おのが方 言を彼等の語れるを聞て躁あへり
七
みな駭き異みつゝ互に曰けるハ視よ此語る者ハ凡てガリラヤ人ならず乎
八
如何して我儕おのゝゝ生れし所の方 言を
[千八百四十七] 彼等より聞か
九
我儕ハパルテア人メデア人エラム人およびメソポタミア、ユダヤ、カパドキア ポント アジア
十
フルギア、パムフリア、エジプト又クレ子に近きリブエの地などに住る者またロマより來て居もの或ハユダヤ人および其教に入し人
十一
又クレテ人アラビヤ人なるに彼等が我儕の方 言をもて神の大なる用を語るを聞かと
十二
皆おどろき訝て互に曰けるハ此ハ何なる故ぞや
十三
或ハ嘲りて此人々ハ甘き葡萄酒に滿されたる者なりといふ人あり
十四
是に於てペテロ十一人と偕にたち聲を揚て彼等に對いひけるハユダヤ人および凡てエルサレムに住る者よ爾曹よく我言を聞て之を知
十五
今ハ晝の九時なれバ爾曹の逆料ごとく此人々ハ酔る者に非ず
十六
これ即ち預言者ヨエルに因て語れる所なり
十七
神いひ給く末の世に至て我わが靈をもて凡の人に注ん爾曹の子 女も預言すべし又なんぢらの幼者ハ異象をみ老 者ハ夢を見べし
十八
其とき我わが靈を我僕なる男 女に注ん彼等も亦預言すべし
十九
われ上なる天に奇跡を現し下なる地に休徴を示さん即ち血あり火あり煙あるべし
二十
主の大なる顯 赫 日の來ん前に日ハ晦く月ハ血に變ん
二一
凡て主の名を呼賴む者ハ救るべし
二二
イスラエルの人々よ此等の言を聽それナザレのイエスハ爾曹の知ごとく神かれに託て爾曹の知ごとく神かれに託て爾曹の中に行し妙なる能力と奇跡と休徴とを以て爾曹に證し給る所の人なり
二三
此人ハ即ち神の定し旨と預め知たまふ所に應て解さる爾曹ハ無法の手をもて之を捕へ十字架に釘て殺せり
二四
神ハ其死の苦を釋て之を甦らせ給へり彼ハ死に繋れ居べき者ならざれバ也
二五
蓋ダビデ彼に就て曰けるハ我わが前に主の常に在を見その我右に在ハ我動されざる爲なり
二六
是故に我心ハ樂み我舌ハ喜べり且わが肉體ハ望に居ん
二七
これ爾ハ我 魂を
[千八百四十八] 陰府に遺おかず又なんぢの聖者を朽果しめざるが故なり
二八
爾すでに我に生命の路を示す我を爾の前に置て喜に盈しめんと
二九
人々兄弟よ我始祖ダビデに就て憚る所なく爾曹に語る是當然ことなり彼ハ既に死て葬られ其墓ハ今日に至るまで我儕の中にあり
三十
彼は預言者にして神これに誓を立て其血統の中より一人を擧て位に即しめんと矢たまへるを知
三一
預め此事を曉るが故にキリストの甦る事につき語て彼ハ陰府に遺おかれず亦その肉體も朽果ずと曰るなり
三二
既に神ハイエスを甦らせ給へり我儕ハ皆その證人なり
三三
是故に彼ハ既に神の右に擧られ約束の聖靈を父より受て今なんぢらが見ところ聞ところの者を注り
三四-三五
夫ダビデハ天に昇しことなし然るに彼みづから言主わが主に曰けるハ我なんぢの敵を爾の足凳と爲まで我右に坐すべしと
三六
然バ凡てイスラエルの全家よ爾曹が十字架に釘し此イエスを立て神これを主となしキリストとなし給しことを確に知
三七
彼等これを聞て其 心 刺るゝが如し是に於てペテロと他の使徒等に問けるハ人々兄弟よ我儕ハ何を爲べき乎
三八
ペテロ彼等に曰けるハ爾曹おのゝゝ悔改めて罪の赦を得んが爲にイエス、キリストの名に託てバプテスマを受よ然バ爾曹も聖靈の賜を受べし
三九
この約束ハ爾曹および爾曹および爾曹の子孫また凡の遠人すなハち主たる我儕の神に召るゝ人々に屬なり
四十
また多 言をもて證して勸けるハ爾曹この邪なる世より救出されよ
四一
其時この言を聞納し者ハバプテスマを受たり此日弟子に加れる者おほよそ三千人
四二
彼等ハ常に使徒等の教訓をうけ交接をなしパンを擘ことゝ祈禱とを務む
四三
是に於て敬畏人々の心に生ず又使徒等に託て許多の奇 跡と休徴おこなはれたり
四四
信者ハみな一 處に會て諸 物を共にし
四五
産業
[千八百四十九] と其所有を鬻て各人の用に從ひ之を分與へぬ
四六
日々心を合せて殿に在また家に於てパンをさき歡喜と誠心をもて食を共にし
四七
神を讃美すべての民に悦バる主すくハるゝ者を日々教會に加たまへり
第三時祈禱の時に當てペテロとヨハ子共に殿に上しに
二
一人の生來なる跛あり殿にいる人に施濟を求ん爲に日ごと負れて殿の美と名る門に置る
三
彼ペテロとヨハ子の殿に入んとするを見て施濟を求り
四
ペテロ、ヨハ子と共に熟々之を視て曰けるハ我儕を觀よ
五
かれ得こと有んと意ひて彼等を見つめたり
六
ペテロ曰けるハ金銀ハ我になし惟われに有ものを爾に予ふナザレのイエス、キリストの名により起て行め
七
遂に其右の手を執これを起けれバ其足と踝ただちに健勁なりて
八
躍 立かつ行めり踊あゆみ神を讃美つゝ彼等と偕に殿に入ぬ
九
衆 民かれの行み神を讃るを見て
十
素その殿の美 門に坐し施濟を求たりし者なるを識この人に所遇ことを大に駭き奇めり
十一
その跛者ペテロとヨハ子にすがり居し間に民みな駭こと甚しくソロモンの廊と名る所に趨集れり
十二
ペテロ之を見て民に答けるハイスラエルの人々よ何故に此事を奇とするや我儕が自己の能と德をもて此人を行しゝが如く何ぞ我儕に目を注るや
十三
夫アブラハム、イサク、ヤコブの神わが先祖たちの神ハ其僕イエス即ち爾曹が解しゝ者ピラトが釋すことを擬たる時その前に爾曹が拒し所の者を榮たまへり
十四
爾曹ハ聖 者義 者を拒み人を殺しし者を己に予られん事を求
十五
かつ生命の主を殺せり神ハ之を死より甦らせ我儕ハ其證人なる也
十六
イエスの名ハ其名を信ずるに由て爾曹が見ところ識ところの此人を健勁せり如此イエス
[千八百五十] に由る信仰ハ爾曹すべての人の前に於て此人を全く愈たり
十七
兄弟よ我ハ知なんぢらが行し事ハ知ざるに由てなり爾曹の有司等も亦然り
十八
然ども神ハ凡の預言者の口に託てキリストの苦を受ることを預め示し其言を如此かなハせ給へり
十九
是故に爾曹罪をくい心を改て其罪を抹るることを爲よ蓋主の前より安舒日の來り
二十
且あらかじめ擬たまひしイエス、キリストを遣れんが爲なり
二一
神の古より聖預言者の口に託て言たまひし萬物の復興ん時まで天ハ必ず彼を受おくべし
二二
モーセ我儕の先祖たちに告て曰けるハ主なる爾曹の神ハ爾曹の兄弟の中より我に似たる一人の預言者を起さん其爾曹に告る凡の言を聽べし
二三
凡て此預言者に聽從ハざる者
二四
又サムエルより以来かたりし所の預言者も皆あらかじめ此日を指て言り
二五
夫なんぢらハ預言者の子孫なり且神の我儕が先祖たちに立たまひし契約を承継ものなり即アブラハムに告て地の諸族ハ爾の裔に由て福を獲んと曰たまへり
二六
神すでに其僕イエスを立なんぢら各人を其惡より引返し福を獲させんが爲に先なんぢらに彼を遣せり
彼等が民を教へ且イエスの事をひき死より復 生の事を宣るにより
二
祭司殿 司およびサドカイの人たち心を悩し其民に語れるとき突然きたりて
三
親手これを執ふ時すでに暮ければ明日までに獄に囚おけり
四
然ど其 道を聽し者ハ多これを信ず其數おほよそ五千人なり
五
明日有司たちと長老學者
六
及び祭司の長アンナ並カヤパ、ヨハ子、アルキサンデルと祭司の長の凡の族エルサレムに集り
七
使徒等を其中に立せて問けるハ爾曹何の權また何の名に由て之を行ひしや
八
其時ペテロ聖靈に滿され彼等に曰けるハ民の有司およびイスラエルの長老よ
九
我儕もし
[千八百五十一] 病たる人に行ひし善事につき之を如何して愈しゝと今日訊れなば
十
爾曹とイスラエルの民もみな知べし其なんぢらが十字架に釘しところ神の甦らせ給し所のナザレのイエス、キリストの名に由て此人健勁なることを得なんぢらの前に立たりと
十一
これ即ち爾曹工匠の棄し所の石屋の隅の首石となれる者なり
十二
此ほか別に救ある事なし蓋天下の人の中に我儕の依賴て救るべき他の名を賜ざれバ也
十三彼等ペテロとヨハ子の忌憚る所なきを見て其無学の小民なるを識バ之を奇みたり又そのイエスと偕に在しを知
十四
かつ愈されたる人の彼等と偕に立るを見により駁すべき言なかりき
十五
斯て彼等に命じて集議所を去しめ後に相 議て曰けるハ
十六
この二人に何を處べきや彼等が既に著き休徴を行へる事ハ凡てエルサレムに居者の明かに知ところ也われら之を言滅こと能ず
十七
然ども此事の猶ひろく民に傳らざる爲に彼等を恐喝し此後その名に就て人に語ること勿しめん
十八
遂に彼等を召て更にイエスの名に就て語ること教ることを爲なかれと戒む
十九
ペテロ、ヨハ子彼等に答て曰けるハ神に聽よりも愈て爾曹に聽バ神の前に在て義たらんか爾曹みづから之を判よ
二十
われら見しところ聞し所のものハ言ざるを得ざる也
二一
人々その所 爲に因て神を榮たれバ彼等民を畏れ此二人を罪するに由なく更に之を恐喝して釋せり
二二
その奇なる跡に由て癒されたる人ハ四十歳餘なりき
二三
かれら釋されて其友の所にゆき祭司の長と長老の言しことを悉く告
二四
その友これを聞て心を合せ神に對ひ聲を揚て曰けるハ主よ爾は天と地と海と其中の萬 物を造たまひし神なり
二五
なんぢ曾て其僕ダビデの口に託て何故に異邦人は喧嘩もろゝゝの民は徒事を謀る乎
二六
地の王等は起て群伯と共に集り主および
[千八百五十二] 其キリストに逆ふと云り
二七
それ誠にヘロデとポンテヲ、ピラト異邦人およびイスラエルの民相共に此城に集り爾が膏を沃たる聖 僕イエスに逆へり
二八
これ爾の手なんぢの旨にて預じめ定め給ひし事を彼等ハ成るなり
二九 三十
主よ今かれらの恐喝を見たまへ願くハ爾の手を伸て醫を施し爾の聖 僕イエスの名に託て休徴と奇 跡を行ハしめ爾の僕等に臆することなく爾の道を宣ることを得させよ
三一
かれら祈禱を畢し時その集れるところ震動みな聖靈に滿されて臆する所なく神の道を宣
三二
信者ハみな心を一にし意を一にして誰一人その所有を己が物と云ことなく凡て之を共に有り
三三
使徒たち大なる能をもて主イエスの甦りし事を證し彼等みな大なる恩を蒙れり
三四
其中に一人も窮乏者なかりき蓋地所あるひハ家を有る者は其を售て其售し所の價を挈來り
三五
使徒等の足下に置これを各々の用に從ひて分予しが故なり
三六
レビの族にてクプロに生しヨセフは使徒等に呼れてバルナバと稱る之を譯バ勸慰の子
三七
この人田疇ありけるが其を售てその金を挈來り使徒等の足下に置り
然るにアナニアといふ人その妻サッピラと同に産業を鬻
二
その價の幾分を藏し餘の幾分を挈來りて使徒等の足下に置ぬ其妻も之を知り
三
ペテロ曰けるはアナニアよ何故に爾の心サタンに滿され聖靈に向僞て地所の價の幾分を藏す事をせし乎
四
地所いまだ售ざる時は爾の有ものならずや已に售たりとも亦なんぢの權に屬るならずや何故に爾の心この事を發念しや爾人に對て僞るに非ず神に對て僞れる也
五
アナニア此事をきゝ仆て氣絶之を聞者みな大に懼る
六
少者ども起て彼を殮み舁出して葬れり
七
約そ三時ばかり過その妻いまだ此 所 遇を知ずして入來れり
八
ペテロ彼に曰けるは爾曹この價に地所を售しや我に告よ答て曰けるは然り其價なり
九
ペテロ彼に曰けるは爾曹心を合せて主の靈を試るは何ぞや視よ爾の夫を葬りし者の足門外に在また爾をも舁出さん
十
婦直に其足下に仆て氣たゆ少者ども入來て其死たるを見これをも舁出して其夫の側に葬れり
十一
全會の者とこれを聞る者ども皆大に懼る
十二
多の休徴と奇なる跡ハ使徒等の手に由て民の間に行ハれたり又かれら皆心を合せてソロモンの廊に居
十三
餘の者ハ敢て之に近づかざりき然れども民ハ彼等を尊み
十四
男女とも信ずる者ますゝゝ多く主に屬ぬ
十五
斯て人々病る者を携て衢にいで寢牀また榻の上に置り蓋ペテロの來らん時その影に蔽はるる者あらんかと意バなり
十六
また許多の人々四方の諸邑より病る者および惡鬼に難されたる者を携てエルサレムに來り悉く愈されたり
十七
然るに祭司の長および彼と同にある者即ちサドカイ宗の徒みな起て大に憤り
十八
使徒等を執て獄に置り
十九
然ども主の使者夜獄の門を啓き彼等を携へ出して曰けるハ
二十
往て殿に立この生命の言を悉く民に語れ
二一
かれら之をきゝ昧爽より殿に入て教ふ祭司の長および同 人ども來て議員およびイスラエルの子孫の長老等を悉く召集て彼等を曳來せんが爲に下吏を獄に遣せり
二二
その人等きたりしに獄の内に彼等を見ず反て告いひけるハ
二三
獄ハ固とぢ守者も門の外に立るを我儕ハ見しに啓けバ内に一人をも見ざりき
二四
祭司殿守および祭司の長たち此言を聞て此ハ如何に成行べきかと彼等に就て心惑へり
二五
或人來り彼等に告けるハ視よ爾曹が獄に置し者ハ今殿に立て民を教ふ
二六
是に於て殿守ハ下吏等と共に往かれらを曳來れり然ど強暴ことを爲ざりき蓋石にて民に擊れん事を懼しが故なり
二七
既に
[千八百五十四] 曳來りて彼等を議員の前に立せ祭司の長これに問て曰けるハ
二八
我儕この名に由て教る勿れと爾曹に嚴く禁ぜしに非や然るに爾曹ハ其教をエルサレムに滿せ又この人の血を我儕に負めんとす
二九
ペテロと使徒たち答て曰けるハ人に從ふより神に從ふハ爲べきの事なり
三十
我儕の先祖の神は爾曹が木に懸て殺しゝ所のイエスを甦らせ給へり
三一
神ハ之を君とし救主として其右の方に擧これイスラエルに悔改と罪の赦を予んが爲なり
三二
我儕は此事の證を爲者なり神おのれに從ふ者に賜ふ所の聖靈も亦證す
三三
かの人々これを聞て甚しく怒を含み彼等を殺さんと謀る
三四
パリサイの人にて衆民の中に尊バるゝ教法師ガマリエルと云る者議員の中にたち命じて使徒等を暫く外に出さしめ
三五
曰けるハイスラエルの人々よ爾曹この人等につきて爲んとする事を自ら愼むべし
三六
そハ曩にチウダ起て自ら誇れり之に從へる者おほよそ四百人ありしが彼ハ殺され從ひし者ハ皆ちらされて跡なきに至る
三七
此人の後また戸籍調査の時ガリラヤのユダ起て民を誘ひ從ハしゝが彼も亡び其に從ひし者も悉く散されたれバ也
三八
今われ爾曹に語らん此人々を容て係る勿れ若その謀ところ行ふところ人より出バ必ず亡べし
三九
もし神より出バ爾曹かれらを亡すこと能ず恐くハ爾曹神に逆らふ者とならん
四十
彼等これに從ひ使徒等を召て鞭ちイエスの名に由て語ることを爲なかれと命じて之を釋せり
四一
使徒等ハイエスの名の爲に辱を受るに足者とせられし事を喜びて議員の前を去
四二
日々に殿および人の家に於て教をなしイエス キリストの福音を傳て止ざりき
當時弟子たちの數おほく加りギリシャ方言のユダヤ人その嫠等が日々の施濟に遺漏さ
[千八百五十五] れしを以てヘブル方言のユダヤ人にむかひ怨言し事ありけれバ
二
十二人の者弟子等を召集て曰けるハ我儕神の道を棄て飲食の事に仕るハ意に適ず
三
是故に兄弟よ爾曹の中より聖靈と智慧の滿たる善證ある者七人を撰べし我儕それを立て此事を司らせん
四
而して我儕ハ常に祈ことゝ道を傳ることを務べし
五
此言すべての人の心に合けれバ信仰と聖靈の滿たるステパノ及ピリポ、プロコロ、ニカノル、テモン、パルメナ又ユダヤ教に入しアンテオケのニコラを撰び
六
この人々を使徒等の前に立しむ使徒たち祈て其上に手を按り
七
神の道いよゝゝ傳播て弟子等の數エルサレムに甚しく増り祭司も多く信仰の道に從へり
八
ステパノ恩と能力に滿て奇なる跡と大なる休徴を民の中に行へり
九
時にリベルテンと稱る會堂およびクレ子人アレキサンデリア人キリキヤ人アジア人の諸會堂より人々起てステパノと言爭ふ
十
彼等ステパノの智慧と之に由て言ところの靈に敵すること能ず
十一
遂に人をして誣告しめけるハ我儕かれが言を聞しにモーセと神を謗讟たり
十二
かれら民と長老學者たちの心を動させ突然きたりて彼を執へ集議所に曳來り
十三
妄の證人を立て曰せけるハ此人ハ聖 所と律法を謗讟ことを語て止ず
十四
蓋かれ語て此ナザレのイエスハ此所を毀ち且モーセの我儕に授し所の例を易可と曰るを我儕聞たれば也
十五
是に於て集議所に坐せる者皆目を注て彼を見しに其 面 天 使の面の如なりき
さて祭司の長いひけるハ此事かくの如なる乎
二
ステパノ曰けるハ衆兄弟および父等よ聽われらの先祖アブラハム未だカランに住ざる前メソポタミヤに在しとき榮光の神あらハれて
三
彼に曰たまひけるハ爾の國を出なんぢの親族を離て我なんぢに示さん所の地に至れ
四
[千八百五十六] 斯てアブラハム、カルデヤ人の地を出てカランに住り其父の死しのち神は彼を彼處より今なんぢが住ところの此地に移し給へり
五
此地に於ハ足を踏立るほどの地をも賜ず且かれハ未だ子あらざりしに此地を産業として彼と其子孫に賜んと約束し給へり
六
神如此いひ給へり彼の裔ハ他の國に旅らん他の國の人々これを奴隷と爲て四百年の間なやまさん
七
神また云かれらを奴隷とする國民を我鞫べし厥後かれら其國を出この處に於て我に事んと
八
また彼に割禮の契約を予へ給へり斯てアブラハム、イサクをうみ八日目に割禮を之に行ふイサク、ヤコブを生ヤコブ十二の始祖を生
九
始祖たちヨセフを妬これをエジプトに賣り然ど神ハ彼と偕ともに在て
十
諸の患難の中より之を救出しエジプト王パロの前に於て恩寵と智慧とを賜てエジプト及パロの全家を宰らせ給ふ
十一
茲にエジプト、カナンの遍の地に餓饉と大なる艱あり我儕の先祖たちも食物を獲ことを得ざりき
十二
然るにヤコブ、エジプトに穀物ある事を聞て先われらの先祖たちを遣す
十三
再び遣しゝ時ヨセフその兄弟に識れ且ヨセフの親族パロに明になれり
十四
ヨセフ人を遣して其父および凡の家族七十五人を召來しむ
十五
是に於てヤコブ、エジプトに下れり彼も我儕の先祖たちの死たる後
十六
スケムに送れアブラハムが金をもてスケムの父なるエンモルの子孫より買おきし墓に葬られたり
十七
神のアブラハムに示し給へる約束の期ちかづくに從ひて民 蕃 衍りてエジプトに多なれり
十八
ヨセフの事を知ざる他の王起るに至りて
十九
彼あしき謀計をもて我儕の親族を待ひ我儕の先祖たちを困苦し其嬰孩の活残ざるやう之を棄させんとせり
二十
其時モーセ生て甚美しく三ヶ月のあひだ父の家に育られ
二一
棄られし後パロの女これを拾あげ己の子と
[千八百五十七] して育たり
二二
モーセ盡くエジプト人の學術を教られ言と行とに才能あり
二三
四十歳に及て其兄弟なるイスラエルの子孫を顧るの心起れり
二四
一人の寃抑らるゝ者を見て之を保護エジプト人を擊て其仇を報たり
二五
モーセは我手をもて神の彼等を救んとし給ふ事を其兄弟悟ならんと意しかど彼等は悟ざりき
二六
次日かれら相鬪ふこと有ければ之に現れて和げ曰けるは人々よ爾曹兄弟なるに何故相害ふや
二七
其友を害ふ者ものかれを拒却て曰けるは誰が爾を立て我儕の有司また刑官と爲しや
二八
なんぢ昨日エジプト人を殺しゝ如また我をも殺さんと爲か
二九
モーセ此言により逃てミデアンの地に旅人となり彼處に於て二人の子を生り
三十
既に四十年を過し時シナイ山の野に於て主の使者棘の中の火焔の間にてモーセに現る
三一
モーセ之を見て奇み諦視んとして近れるとき主の聲あり云く
三二
我は爾の列祖の神すなはちアブラハムの神イサクの神ヤコブの神なりモーセ畏怖き敢て諦視ざりき
三三
主また彼に曰給ひけるは爾の足の履を解なんぢが立る處は聖 地なり
三四
我すでにエジプトに在わが民の苦難を見かつ其嘆息を聞これを救んが爲に降れり來れ我なんぢをエジプトへ遣さんと
三五
夫かれらが拒て誰か爾を立て有司また刑官と爲し乎と云し此モーセを神は棘中に現れし使者の手に託て有司また救人として遣し給へり
三六
この人エジプトおよび紅海また四十年の間野に於て奇 跡と休徴を行ひて彼等を導き出せり
三七
イスラエルの子孫に語て神は爾曹の兄弟の中より我ごとき一人の預言者を爾曹の爲に起し給ふ可と言しは即ち此モーセなり
三八
彼ハ野の會に在シナイ山にて己に語れる所の天使また我儕の先祖等と偕に在て我儕に授んが爲め生る道を受し者なり
三九
此人に我儕の先祖たちハ順ふ
[千八百五十八] ことを欲ず反て之を郤け其心すでにエジプトに返り
四十
アロンに曰けるハ我儕に先つべき神を我儕の爲に造れ蓋われらをエジプトの地より導き出しゝ彼モーセハ如何なりしか知ざれバ也
四一
厥時かれら犢を造その像に犧牲を獻げ己の手の所作を喜べり
四二
是に於て神ハ彼等を顧みずして其天の軍勢を祭るに任せ給へり即ち預言者の書にイスラエルの族よ爾曹ハ四十年のあひだ野に於て犧牲と祭物を我に獻しや
四三
また爾曹ハモロクの幕屋およびレパンといふ神に象れる星すなハち爾曹が拜する爲に造れる所の像を携へたり我なんぢらをバビロンの外へ徒んと錄されたる如し
四四
我儕の先祖たちハ野にて證の幕屋を有り此ハモーセに語れる者かれに對て已に見し所の式に遵ひて造れと命ぜし如く造れる者なり
四五
我儕の先祖たち此幕屋を承てヨシュアと偕に異邦人の地を攻取し時これを携入り此異邦人ハダビデの時までに我儕の先祖たちの前より神の逐驅ひ給し所の者なり
四六
ダビデ神の前に恩を蒙てヤコブの神の爲に居所を設んと欲たれど
四七
ソロモン神の爲に殿を建たり
四八
然ども至上き神ハ手にて造れる所に居たまハず蓋預言者の云る如し
四九
卽ち主いひ給く天ハ我座位なり地ハ我足凳なり爾曹我ために如何なる屋を建んと爲か又わが息む所ハ何處なる乎
五十
我が手ハ此凡の物を造らざりし乎
五一
強項にして心と耳に割禮を受ざる者よ爾曹常に聖靈に逆ひ其先祖たちの如く爾曹も行なり
五二
爾曹の先祖等ハ孰の預言者をか窘迫ざりし彼等ハ義 者の來んことを預め語し者を殺し爾曹ハ今その義 者を解し且これを殺す者となれり
五三
爾曹ハ天の使者に由て律法を受なほ之を守ざる也
五四
衆人これらの言を聞て大に憤り切齒しつゝステパノに向へり
五五
然るにステパノハ聖靈に滿され天
[千八百五十九] を仰て神の榮光と其右にイエスの立るを見て曰けるハ
五六
視よ我天ひらけて神の右に人の子の立るを見
五七
是に於て彼等大に呼り耳を掩ひ心を合てステパノの所に驅より
五八
彼を邑より逐出し石をもて之をうつ證人等おのゝゝ其衣服をサウロと云る少年の足下に置り
五九
彼等が石を以てステパノを擊る時かれ祈り曰けるハ主イエスよ我靈魂を納たまへ
六十
また跪き大聲に呼いひけるハ主よ此罪を彼等に負しむる勿れ此言をいひ畢て寢に就サウロ彼の殺されしを好とせり
此日エルサレムに在ところの教會を大に窘迫こと起り使徒等の外ハ皆ユダヤとサマリアの地に散されたり
二
敬虔ある人々ステパノを葬り之が爲に大なる哭泣をなせり
三
サウロハ教會を殘害して此處彼處の家にいり男女を曳出して之を獄に付せり
四
是に於て散されたる者ども徧く往て福音を宣傳たり
五
ピリポハサマリアの邑に下てキリストの事を彼等に示す
六
多の人々ピリポが行へる奇なる跡を見聞して心を同うし謹て其語れる言を聽り
七
そハ汚たる鬼大に喊叫て其憑る所の多の人より出また癱瘋および跛者の人も多く愈されたれバ也
八
之に因て此邑に大なる喜ありき
九
爰にシモンと云る素魔術を行ひ自ら大なる者としてサマリアの民を駭かしゝ者あり
十
小より大に至るまで皆謹て彼に聽この人は神の大なる能なりと曰り
十一
彼等の謹て之に聽るハ其魔術に駭かされたるが故なり
十二
然ども彼等神の國およびイエス、キリストの名につきて福音を宣るピリポを信ぜしかバ男 女ともバプテスマを受
十三
シモンも亦信じてバプテスマをうけ常にピリポと偕に在て彼が行ふ所の奇なる跡を休徴を見て駭けり
十四
エルサレムにをる使徒等サマリア已に神の道を受たりと聞てペテロとヨハ子を彼處に遣す
十五
この二人の者く
[千八百六十] だりて彼等が聖靈を受ん爲ために祈れり
十六
蓋かれら唯主イエスの名に入られバプテスマを受し耳にて未だ其一人にも聖靈下ざりしに因
十七
この時二人の者手を彼等の上に按けれバ彼等聖靈を受たり
十八
使徒たちの手を按るに因て聖靈を予られしを見てシモン金を携來り彼等に曰けるハ
十九
我手を按ところの者も凡て聖靈を受ん爲に此權を我にも予よ
二十
ペテロ彼に曰けるハ爾の金ハ爾と偕に亡よ爾ハ神の賜を金にて得んと意り
二一
爾この事に於て分なく又與なし蓋なんぢの心神の前に正からず
二二
故に爾この惡を悔改めて神に祈れ爾の心の念或ハ赦れん
二三
我爾が膽の苦にをり不義の繋に在を見れば也
二四
シモン答て曰けるハ爾曹が語れるところ一も我に及ざるやう我爲に主に祈れ
二五
かれら主の道を證し且これを語し後エルサレムへ返往ときサマリア人の諸邑に福音を傳たり
二六
主の使者ピリポに語りて曰けるハ起て南の方に向ひエルサレムよりガザに下る所の路に往その路ハ野なり
二七
かれ起て往りエテオピア人すなハちエテオピア人の女王カンダケの大臣なる寺人にて凡て其女王の財寶を司る者禮拜の爲エルサレムに來し
二八
その返なるが車の中に坐し預言者イザヤの書を讀をれり
二九
靈ピリポに曰けるハ往て此車に就
三十
ピリポ趨よりて彼が預言者イザヤの書を讀を聞これに曰けるハ爾その讀ところの事を曉るや
三一
彼いひけるハ若われを啓く者なくば如何で曉ることを得んや遂に請てピリポを己と同に坐せしむ
三二
其讀をりし聖書の文ハ左の如し彼は羊の賭塲に牽るゝ如く牽れ又羔の其毛を剪者の前にて聲を出さぬが如く其口を開ず
三三
かれ卑賤に居しとき義 判を奪れたり誰か能その世の狀を述得んや蓋かれの生命地より滅れたれば也
三四
寺人ピリポに對いひけるハ請われ
[千八百六十一] に示せ預言者は誰を指て之を語しや自己を指しか他人を指しか
三五
ピリポ口をひらき此錄されたる所に基きてイエスの福音を彼に宣傳ふ
三六
斯て二人の者路をゆき水ある所に至りければ寺人いひけるハ水を見よ我バプテスマを受んとす何の礙か有や
三七
ピリポ曰けるは爾もし全 心をもて信ぜば可らん彼こたへて曰けるは我イエス、キリストハ神の子なりと信ず
三八
遂に命じて車を止しめピリポと寺人の二人水に下りピリポバプテスマを彼に施せり
三九
かれら水より上れるとき主の靈ピリポを引去る寺人また彼を見ことを得ざりき寺人喜びて其路を往り
四十
偖アシドドにてピリポに遇る者あり彼すべての邑郷を經て福音を宣傳へカイザリヤに至れり
サウロは猶も兇言と殺気を吐て主の弟子等をせめ祭司の長に往て
二
ダマスコの諸會堂に寄る書を求む彼は此道に從へる者を見ば男女にかゝはらず捕て之をエルサレムに曳んと意り
三
彼ゆきてダマスコに近けるとき忽ち天より光ありて彼を環照せり
四
かれ地に仆る其時サウロ、サウロ何ゆゑ我を窘迫やといふ聲を聞り
五
サウロ曰けるは主よ爾は誰ぞ主いひ給けるは我ハなんぢが窘迫ところのイエスなり爾荊ある鞭を蹴は難し
六
彼戰き礙きて曰けるは主よ我に何を行しめんと爲給ふや主かれに曰けるは起て邑に入さらば爾行べき事を示さるべし
七
彼と偕に往る人々言ふこと能ずして立止り其聲を聞ども誰をも見ざりき
八
サウロ地より起て眼を啓たるに何も見ざりければ伴へる人等その手を援てダマスコに入ぬ
九
かれ三日の間みえず又飮食をも爲ざりき
十
斯てダマスコにアナニアと云る一人の弟子あり主 幻の如 彼に曰給ひけるはアナニアよ答けるは主われ此に在
十一
主いひ給ひけるは起て直と云る街に往ユダの家に
[千八百六十二] 至てタルソの人サウロといふ者を尋よ彼は祈て居
十二
且アナニアといふ人きたりて見ことを得させんがため手を其上に按しと幻に見たれば也
十三
アナニア答けるは主よ我この人につきて多の人の語るを聞しに彼がエルサレムにて爾の聖徒を苦しこと如何ばかりぞ乎
十四
且この處にても彼は凡て爾の名を龥者を捕んとて祭司の長より受たる權威を有り
十五
主いひ給ひけるは往よ彼は異邦人および王とイスラエルの子孫の前に我名を擔しめん爲に我選し器なり
十六
彼は我名の爲に如何ばかりの苦難を受るか我これを彼に示さん
十七
是に於てアナニア往て其家にいり手を彼の上に按て曰けるは兄弟サウロよ爾の來れる路にて現れし所の主イエス爾が再び見ことを得かつ聖靈に滿されん爲に我を遣せり
十八
忽ち彼の眼より鱗の如もの脱て再び見ことを得すなはち起てバプテスマを受
十九
彼すでに食して強 健たり斯てサウロは數日の間ダマスコにある弟子等と交り
二十
直に會堂に於てイエスの事を宣て卽ち此ハ神の子なりと言
二一
聞者みな駭異て曰けるハ此人ハエルサレムに於て此名を龥者を殘害し且こゝに來しも之を捕て祭司の長に曳んとするに非ずや
二二
然どもサウロは益堅固して此イエスハキリストなりと證をなしダマスコにをる所のユダヤ人を辯折たり
二三
既に多の日を歷て後ユダヤ人サウロを殺さんと謀しが
二四
その計謀つひにサウロに知る彼等ハ夜も晝も邑の門を守て之を殺さんとせしに
二五
夜弟子たち筐をもてサウロを石牆より縋下せり
二六
サウロハエルサレムに至て弟子たちに列らんと爲たりしに皆かれが弟子たることを信ぜずして之を懼る
二七
バルナバ彼援て使徒たちの所に至り其途中にて主を見しこと又主の彼に語り給ひしこと及ダマスコに在て憚らずイエスの名に由て語
[千六百六十三] しことを告たり
二八
彼エルサレムに在て弟子たちと偕に往来し
二九
主イエスの名に由て憚らず語かつギリシャ方言のユダヤ人と辯論へり彼等サウロを殺さんと圖る
三十
然ど兄弟たち之を曉り彼をカイザリヤまで送てタルソに往しめたり
三一
是に於てユダヤ、ガリラヤ及サマリヤ中の教會ハ平安に且成立て主を畏れ事を行ひ聖靈の勸に因て其數いや増れり
三二
偖ペテロ遍く諸方の地を經てルッダに住る聖徒の所に至り
三三
その處にて一人の癱瘋を患ひ八年のあひだ床に臥るアイ子アと名る者に遇
三四
ペテロ彼に曰けるハアイ子アよイエス キリスト爾を愈す起て爾みづから床を治よ彼たゞちに起
三五
ルッダ及サロンに住る凡の人これを見て主に歸せり
三六
ヨッパにタビタと名譯バドルカス彼は多の善事と施濟を行へる者なりしが
三七
そのころ病て死たるにより其 屍を洗て樓に置り
三八
ヨッパハルツダに近き故に弟子たちペテロの彼處に在ことをきゝ二人の者を遣して我儕に來ことを遲する勿れと請しむ
三九
ペテロ起て彼等と偕にゆき既に至けれバ人々かれを引て樓に登る凡の寡婦たちペテロの側に立て哭泣つゝドルカスが偕に在しとき常に作れる所の上衣下衣を彼に示す
四十
ペテロ彼等を悉く外に出し跪きて祈り又 屍に向てタビタ起よと曰けれバかの婦眼を啓きペテロを見おきて坐しぬ
四一
ペテロ手を伸て之を起し聖徒および寡婦等を召て此活たるタビタを其前に立しめたり
四二
此事ヨッパ中にしれ多の人々主を信ず
四三
斯てペテロ久くヨッパに留りて皮工シモンの家に居り
カイザリヤにイタリヤ隊と稱る組の百夫の長にてコル子リヲと云る人あり
二
彼ハ信心の深き者にて其擧の家族と偕に神を敬ひ民に多の施濟をなし恒に神に祈禱せり
三
晝の三時ご
[千六百六十四] ろ幻の如く神の使者の來りてコル子リヲよと曰るを明かに見
四
かれ目を注これを見て懼 曰けるハ主よ何事なるや天使かれに曰けるハ爾の祈禱なんぢの施濟すでに上て神の前に記置れたり
五
いま人をヨッパへ遣しペテロと云シモンを召
六
彼ハ皮工シモンの所に寓れり其家ハ海濱に在
七
コル子リヲに語れる天使さりし後かれ其僕二人と恒に己に事る信心の深き兵卒を召
八
此事を詳く告てヨッパへ遣ハす
九
彼等ゆきて次日その邑に近ける時ペテロ祈禱のため屋上に升れり時ハ約そ十二時なりし
十
甚く餓て食せんと欲しが人の食物を具る間に彼氣を喪へる心地して
十一
天ひらけ器 物の降れるを見る大なる布の如く四角を繫て地に縋下されたり
十二
其中に凡て地の四足の獸 昆 蟲および空の鳥あり
十三
かつ聲ありて彼に曰けるハペテロよ起て之を殺し食せよ
十四
ペテロ答けるハ主よ可らじ我いまだ穢たる物と潔からざる物を食せしことなし
十五
聲ふたゝび有て彼に曰けるハ神の潔たる物を爾潔からずと爲なかれ
十六
此の如こと三次たゝちに其 器 物 天に上られたり
十七
斯てペテロ其見し所の異象ハ如何なる意ならんと疑ひ在し時コル子リヲより遣されたる人等すでにシモンの家を訪て門の前に立
十八
呼てペテロと稱シモンは此に寓れるや否と問
十九
ペテロ猶その異象の事を思をりしに靈かれに曰けるハ視よ三人の者なんぢを尋ぬ
二十
起て下り疑ハずして彼等と偕にゆけ我これを遣しゝ也
二一
ペテロ下り其人たちに曰けるハ我ハ爾曹が尋る所の者なり爾曹如何なる故ありて來るや
二二
彼等いひけるハ百夫の長なるコル子リヲと云る義かつ神を敬ひ凡のユダヤ人の中に尊まるゝ者なんぢを其家に召て爾の言を聽と聖 使に示されたり
二三
是に於てペテロ彼等を召入て舘しめ次日ペテロ彼等と偕に
[千八百六十五] 出立けるがヨッパの兄弟たちも亦かれに伴へり
二四
次日かれらカイザリヤに入るコル子リヲは既に其親族および親き友等を召集て之を待居たり
二五
ペテロの入來れる時コル子リヲ彼を迎へ其 足 元に伏て拜り
二六
ペテロ之を扶起し曰けるハ起よ我も人なり
二七
斯て偕に語つゝ内に入て多の人の集れるを見
二八
彼等に曰けるハユダヤ人の異邦人と交り又近く事の律に合ざるハ爾曹の知ところ也されど神は何の人をも穢たる者といふ勿と我に示し給へり
二九
是故に我請らるゝや直に猶豫ずして來る我なんぢらに問われを請しは何の爲なる乎
三十
コル子リヲ曰けるハ四日前に我 斷 食して此 時 刻に至れり三時ごろ家に在て祈禱をりしに輝ける衣を着たる者わが前に立
三一
曰けるはコル子リヲよ爾の祈禱は聞れ爾の施濟は神の前に記置れたり
三二
然ば人をヨッパへ遣しペテロと稱シモンを召かれは海邊にある皮 工シモンの家に寓れり彼きたりて爾に語るべしと
三三
是故に我たゞちに人を爾に遣せり爾の來れるは善われら神の爾に命じ給へる一切の言を聽んとて今 神の前に在なり
三四
ペテロ口を啓て曰けるは我まことに神は偏らざる者にして
三五
何の國民にても神を敬ひ義を行ふ者は其聖旨に適と云ことを悟る
三六
その道は即ち神のイエス、キリストに由て平和を宣イスラエルの子孫に予たまひし所なり此イエスは萬 物の主たる也
三七
夫ヨハ子の宣しバプテスマの後ガリラヤより始りユダヤ中に有し事は爾曹が知ところ
三八
即ち此ナザレより出たるイエスは神り聖靈と才能を以て膏を沃がれ周 遊て善事を行ひ凡て惡魔に憑たる者を愈せり蓋神かれと偕なりしに因
三九
我儕は彼がユダヤ人の地およびエルサレムに於て行ひし凡の事を證する者なりユダヤ人は此人を木に懸て殺
[千八百六十六] せり
四十
神は第三日に之を甦らせ衆の民には顯さで
四一
惟その預め選たまへる證人すなはち彼が甦りし後これと同に飮食せし我儕にのみ顯し給へり
四二
かつ彼は其生者と死者の審判人に神より定られし事を我儕に證して民に宣よと命じたり
四三
凡の預言者も凡そ彼を信ずる者は其名に由て罪の赦を受べしと彼につきて證せり
四四
ペテロこの言を語れる間に道を聽ところの凡の者に聖靈降れり
四五
ペテロと偕に來りし割禮ある信者等は聖靈の賜の異邦人にまで注げる事を駭きぬ
四六
そは異なる邦々の方言にて彼等が語れると神を讃るとを聞たれば也
四七
此時ペテロ答けるは我儕の如く既に聖靈を受たる此人々に孰か水を禁じてバプテスマを受ざらしむる者あらん乎
四八
遂に主の名に由てバプテスマを受べき事を彼等に命ず是に於て彼等ペテロに數日留らんことを請へり
使徒等およびユダヤ中に在ところの兄弟すでに異邦人も神の道を受たりと聞
二
ペテロ、エルサレムに上のぼりしとき割禮ある者ども彼と爭ひ
三
曰けるは爾は割禮なき人の家に入て彼等と同に食せり
四
ペテロその有し始より次第に語て彼等に顯し曰けるは
五
我ヨッパの邑に在て祈れるとき氣を喪へる心地して天より四角を繫たる大なる布の如き器の下るを見たるに其器わが前に著り
六
われ目を注て熟々之を視ば中に地の四足のものと野 獸 昆 蟲および空の鳥ありき
七
且われにペテロよ起て之を殺し食すべしと曰る聲を聞り
八
我いひけるは主よ可らじ穢たる物と潔からざる物は未だ我口に入しことなし
九
聲また天より我に答て神の潔たる物を爾潔からずと爲なかれと曰
十
此の如きこと三次つひに各 物ふたゝび天に引上られたり
十一
其時に
[千八百六十七] 當てカイザリヤより我に遣せる三人の者わが居ところの家の前に立り
十二
また靈われに疑はずして彼等と偕に往べしと曰り且この六人の兄弟も我と伴ひ往て其人の家に入ぬ
十三
かれ我儕につぐ天の使者の我家に立われに向て人をヨッパへ遣しペテロと稱シモンを迎よ
十四
其人なんぢ及び爾の家族の救はるべき言を告んと曰るを見たりと
十五
斯て我かたり始しとき聖靈はじめに我儕に降し如く彼等にも降れり
十六
其時われ主の曰たまへるヨハ子は水を以てバプテスマを施たれども爾曹は聖靈に由てバプテスマを受んとの言を憶起せり
十七
既に神は主イエス キリストを信ずる所の我儕に賜し如おなじ賜物を彼等に予たまへば我いかで神に逆ふことを得んや
十八
彼等この事を聞て答ふる所なく惟神を崇いひけるハ實に然らん異邦人の生を得ん爲に彼等にも悔改を予給へる事
十九
偖ステパノに就て起し苦難に因て散されたる人々旅してピニケ、クプロ及アンテオケに至しが惟ユダヤ人にのみ道を語る
二十
彼等の中にクプロ、クレ子の人々ありてアンテオケに來り主イエスの福音を宣てギリシャ人にも語れり
二一
主の手これと偕にあり多の人信じて主に歸せり
二二
彼等に就て其聞えエルサレムに在ところの教會の耳に入しかば遂にバルナバを遣してアンテオケに至しむ
二三
彼すでに至り神の恩を見て喜び彼等に心を堅し主に屬んことを勸たり
二四
蓋かれハ善人にて聖靈と信仰の滿る者なればなり是に於て數多の人主に加りぬ
二五
偖バルナバはサウロを尋んためにタルソに赴き
二六
彼に遇て之をアンテオケに携來れり斯て彼等一年の間ともに教會に集りて衆の民を教ふ弟子たちのキリステアンと稱られしハアンテオケより始れり
二七
このころ數人の預言者エルサレムよりアンテオケに來る
二八
その中の一
[千八百六十八] 人アガボと名るもの起て靈により示しけるは偏く世界に大なる饑饉あらんと其こと果してクラウデヲ、カイザルの時に起たり
二九
是に於て弟子たち各その力量に從ひてユダヤに住る所の兄弟を濟ん爲に彼等に物を餽んことを定め
三十
遂に斯事を行ふ即ちバルナバとサウロの手に托して之を長老に送れり
當時ヘロデ王教會の中の數人を困苦さんとて彼等を執ふ
二
かつ刄をもてヨハ子の兄弟ヤコブを殺せり
三
是時のユダヤ人の意に適るを見て彼またペテロをも執ふ此時は除 酵 節なりき
四
既に彼を執て獄にいれ逾 越 節ののち民の前に曳 出さんと欲ひ十六人の兵卒に之を守しめたり
五
ペテロは如此獄に守られ教會ハ之が爲に懇切神に祈る
六
ヘロデ彼を曳出さんとする前夜ペテロは二の鏈に繫れて二人の兵卒の間に睡り守 者は門の前に在て其 獄を守り
七
時に主の使者來りければ光 獄の中に照 輝その使者ペテロの脇を拊て之を醒し速かに起よと曰しに鏈その手より脱たり
八
使者かれに曰けるは爾帶をしめ履を納よペテロその如せり天使また曰けるは爾の袍を身に纏て我に從へ
九
ペテロ出て之に從ひしが其使者の爲ことの眞實なるを知ず異象ならんと意ふ
十
斯て第一第二の謷固を過て城邑に入ところの鐵門に至しに其門おのづから彼等の爲に啓く即ち出て一の衢を徑行とき其 使 者 忽ち彼より離たり
十一
ペテロ悟て曰けるは我いま誠に知る主その使者を遣してヘロデの手および凡てユダヤ人の願望より我を拯出し給し事を
十二
かれ悟て後ヨハ子名をマコといふ人の母なるマリアの家に至しに多の人こゝに集りて祈ゐたり
十三
ペテロが門の戸を叩けるときローダと名る下婢來りて之を窺ひしが
[千六百六十九] 十四
ペテロの聲なるを知ければ喜に堪ず門をも啓ずして趨入ペテロの門の前に立ことを告
十五
彼等ローダに曰けるは爾 狂り然ども女 力 言て我言は違ずと曰かれら又いひけるは蓋ペテロの天の使者なり
十六
ペテロなほ門を叩て止ざりしかば彼等門を啓きペテロを見て駭けり
十七
ペテロ手を搖して彼等の聲を鎭しめ主の己を獄より引出し給し事の狀を告また此事をヤコブ及び兄弟たちに示せといひ遂に出て他の處へ往り
十八
天明に及し時ペテロは如何なりし乎と兵卒どもの中にて其騒擾容易ならざりき
十九
ヘロデ、ペテロを索れども見出さず遂に守卒を審問て彼等に死罪を命ず斯てヘロデはユダヤよりカイザリヤに下て止れり
二十
ヘロデ、ツロとシドンの者に對て甚しく怒を懷ければ彼等心を合せて其所に來り内侍の臣ブラストに親睦をなし之に託て平和を求む蓋かれらの王の國に賴て糧食を獲ばなり
二一
ヘロデその定たる日に於て王 服を著その位に坐し彼等に對て語れり
二二
民聲を揚いひけるは此は神の聲なり人の聲に非ず
二三
ヘロデ榮を神に歸せざるにより主の使者たゞちに彼を擊しかば彼は蟲の爲に噬れて氣絶ゆ
二四
さて神の道ハ益 廣り
二五
バルナバ及びサウロハ其 職を成畢りてマコと名るヨハ子を携ひてエルサレムより返れり
アンテオケの教會に數人の預言者と教師あり即ちナルナバ及びニゲルと稱るゝシメオン又クレ子のルキヲ及び分封の王ヘロデの乳兄弟マナエン及サウロなり
二
かれら主に事て斷食をせらるとき聖靈いひけるハ我ためにバルナバとサウロを甄 別ちて我かれらに命ぜし所の事を行ハしめよ
三
是に於て斷食し祈禱をし手を二人の上に按て之を往しむ
四
如此この二人ハ
[千八百七十] 聖靈に遣されてセルキアに下り彼處より舟出してクプロに赴けり
五
彼等サラミスにつきユダヤ人の諸會堂において神の道を宣またヨハ子を用ゐて其幇助となせり
六
斯て彼等島の中を經てパポスに至しとき僞の預言者バリエスと名るユダヤ人に遇
七
この人ハ國の方伯セルギヲ、パウロといふ智 人と偕にあり時に方伯バルナバとサウロを召て神の道を聽んことを求む
八
然るに彼の卜 者エルマス(此名を譯バ卜 者)二人の者に敵ひ方伯をして信ずること勿しめんとせり
九
サウロ一名ハパウロ聖靈に滿され目を注て彼を視
十
曰けるハ噫すべての詭譎と好惡にて盈るもの惡魔の子すべての義ことの敵よ爾主の直なる道を枉て止ざる乎
十一
視よ主の手いま爾の上に在なんぢ瞽となり暫く日を見ざるべし即ち彼の目曚暗みて己を相せん者を求さまよへり
十二
是に於て方伯この所爲を見て主の教を駭き之を信ぜり
十三
パウロ及その從人パポスより舟出してパムフリアのペルゲに至り此處にてヨハ子ハ彼等に別てエルサレムに歸り
十四
彼等ハ此より旅してピシデアのアンテオケに至り安息日に會堂に入て坐しぬ
十五
律法と預言者の書を讀畢りしのち會堂の宰たち人を以て彼等に曰せけるハ人々兄弟よ若民に勸ること有バ言
十六
パウロ起て手を揺し曰けるハイスラエルの人々および神を敬ふ者よ爾曹聽べし
十七
此イスラエルの民の神ハ我儕の先祖たちを選び其民のエジプトの地に旅をりし時これを育かつ勁手を以て彼等を彼處より導き出し
十八
約そ四十年のあいだ野にて之を撫 養ひ
十九
又カナンの地の七族の民を滅し其地を彼等に嗣しめ
二十
後およそ四百五十年のあひだ即ち預言者サムエルの時まで之に審士を與たまへり
二一
厥後かれら王を求ければ四十年の間ベニヤミンの支派キ
[千八百七十一] スの子サウロを賜ふ
二二
後また彼を徙しダビデを立て彼等の王となし且これが爲に證して曰たまひけるは我エッサイの子ダビデと云る我心に合ふ人を得たり彼は凡て我旨を行遂べし
二三
神は其約束に從ひて斯人の裔より救主イエスをイスラエルに興し給り
二四
その來る前にヨハ子先イスラエルの凡の民に悔改のバプテスマを宣傳たり
二五
ヨハ子その職を行ひし時いひけるは爾曹われを誰と意ふや我は其人に非ず我より後に來者あり我は其足の履を解にも足ざる者なり
二六
人々兄弟アブラハムの子孫および爾曹のうち神を敬ふ者よ此救の道を爾曹に遣たまへり
二七
夫エルサレムに住る者および其有司たちはキリストを知ず彼を罪に定て安息日ごとに讀ところの預言者の言を成しめたり
二八
かつ殺すべき故を得ざれどもピラトに之を殺さんことを求め
二九
已に彼に就て錄されたる凡の言を成しめなければ之を木より下して墓に置り
三十
然ども神は之を死より甦らせ給り
三一
多 日の間かれはガリラヤより己と偕にエルサレムに上し者に現れたり今かれの爲に證を民にする者は其人々なり
三二
我儕も喜の音を爾曹につぐ神はイエスを甦らせて先祖等に立たまひし約束を其子孫たる我儕に成たまへり
三三
即ち詩の第二篇に爾は我子なり我今日なんぢを生りと錄されたるが如し
三四
また朽壞に歸せざる様に彼を死より甦らする事に就ては左の如く言り云われダビデに約束せし所の賴むべき惠を爾曹に予ふ可と
三五
是故に又ほかの篇に爾は其聖者を朽果しめずと云り
三六
夫ダビデは神の旨に遵ひ其世の爲に勞苦しのち寢て先祖たちと偕に置れ遂に朽果たり
三七
然ども神の甦らせ給し者は朽果ざりき
三八
然ば人々兄弟よ此人に由て罪の赦の爾曹に傳れるを知
三九
爾曹モーセの律法に依て義と爲るゝこ
[千八百七十二] と能ざる凡の罪も信ずる者は皆かれに由て赦され義とせらるゝ也
四十
然ば爾曹愼よ恐くは預言者の書に言れたる事なんぢらに臨ん
四一
曰く藐忽者よ視て駭き且亡よ蓋われ爾曹の日に一の事を行ハん人これを爾曹に告るとも爾曹信ぜざる可れば也
四二
かれら會堂を出んとさせしとき次の安息日に復この事を宣よと請れたり
四三
會すでに散じて多のユダヤ人および其教に入し神を敬ふ人々パウロとバルナバに從へりパウロ、バルナバ彼等に語て恒に神の恩に居ん事を勸む
四四
次の安息日に至り邑の人々神の道を聽んとて幾ど皆集れり
四五
その多く集れるを見を見てユダヤ人嫉妬を心に滿せて爭辯かつ詬りパウロが言ところを拒めり
四六
パウロとバルナバ毅然して曰けるハ夫神の道ハ必ず先爾曹に告べきなり然れども爾曹ハ之を棄かつ己ハ永 生を受べき者に非ずと自ら定たれば我儕轉て異邦人に向ふべし
四七
蓋主かく我儕に命じ給へり曰く爾救となりて地の極にまで及ばん爲に我なんぢを立て異邦人の光となせり
四八
異邦人ハ之をきゝ喜びて主の道を讃美すべて永 生に定られたる者ハ信ぜり
四九
是に於て主の道あまねく此地に廣りぬ
五十
然るにユダヤ人神を敬ふ貴 婦 等および邑の尊長たる人々の心を動させてパウロとバルナバを窘迫その境より逐出せり
五一
二人ハ彼等に對ひ足の塵を打拂ひてイコニオムに至れり
五二
斯て弟子等ハ大に喜樂を懐かつ聖靈に盈されたり
二人の者イスラエルに於て共にユダヤ人の會堂に入て道を傳へユダヤ人およびギリシャ人を多く信ぜしめたり
二
然に信ぜざるユダヤ人異邦人を唆て其心に兄弟を憾しむ
三
彼等ハ久しく彼處に留り主に賴て憚らず道を傳ふ主また彼等の手に休徴と奇なる跡を行ハしめて
[千八百七十三] 其恩の道を證せり
四
邑の人々二に分れ或ハユダヤ人に與し或は使徒等に與せり
五
斯て異邦人ユダヤ人および其有司たち共に擁上彼等を辱しめ石にて擊んとす
六
二人の者之を知てルカオニヤの邑なるルステラ、デルベ及 其 四 周の地に逃れ
七
彼處に於て福音を傳ふ
八
ルステラに一人の足弱もの坐しゐたり彼は生來の跛者にて未だ歩行しことなし
九
此人パウロの語るを聽をりしがパウロ目を注て其愈さるべき信仰あるを視
十
大聲に曰けるは爾の足にて正く立よ彼 躍 上て行めり
十一
人々パウロの爲し事を見て聲を揚ルカオニヤの方言にて曰けるは諸 神 人の形になりて我儕に降れり
十二
彼等バルナバをゼウスと稱パウロは專ら諸語事をする人なるが故にヘルメスと之を稱
十三
時に其邑の前にある所のゼウスの祭司犢と花箍を門に携來りて衆の人と共に犧牲を献げ彼等を祭んとせり
十四
使徒バルナバ、パウロ之を聞て己が衣を裂はしり出て大衆の中に入
十五
喊叫云けるは人々よ何故に此事を行や我儕も亦なんぢらと同 情をもつ所の人なり爾曹に福音を傳るは爾曹をして此 虚 妄をすて天と地と海および其中の萬 物を造り給へる活 神に歸しめんが爲なり
十六
往にし世には神すべての異邦人に其己が道を行むことを容し給しかど
十七
また爾曹を惠て天より雨を降せ豐穰なる時候をあたへ糧食と喜樂をもて爾曹の心を滿しめ己みづから證せざりし事なし
十八
此言を以て苦辛じて衆の人の己等に犧牲を獻んとするを止たり
十九
時にユダヤ人等アンテオケ、イコニオムより來りて多の人を唆め石をもてパウロを擊しめ既に死たりと意ひ邑の外に曳出せり
二十
弟子等その周圍に立るとき彼おきて邑にいり次の日バルナバと偕にデルベに往り
二一
斯て其邑に福音を傳へ多の人を弟子となし又ルステラ、
[千八百七十四] イコニオム、アンテオケに返り
二二
弟子等の心を堅し其常に信仰に居んことを勸め又おほくの艱難を歷て我儕が神の國に至る可ことを教ふ
二三
斯て二人のもの教會ごとに長老をえらび斷食と祈禱をなし前より信じをる所の主に之を託たり
二四
かれら遍くピシデアを經てパムフリアに至り
二五
又ペルゲに道を傳てアッタリアに下り
二六
彼處より舟にてアンテオケに航る此は彼等さきに神の恩に託られ今とげし職を行はんとて出し所なり
二七
既に至りて教會の人を集め己を助けて神の行たまへる凡の事と異邦人のために信仰の門を開き給ひし事を告
二八
斯て久く弟子等と偕に彼處に止れり
ユダヤより下し人々兄弟たちに教けるハ若なんぢらモーセの例に從ひて割禮を受ずバ救るゝことを得じ
二
之に由てパウロとバルナバ大に彼等と爭ひ且論ぜしかバ兄弟等この事に就てパウロ、バルナバ及その中の數人をエルサレムに上せ使徒と長老等に遇しめん事を定む
三
是に於て彼等教會の人々に送られ出ピニケおよびサマリアを經て異邦人の神に歸せし事を具に述すべての兄弟を大に喜バしめたり
四
彼等エルサレムに至り教會と使徒および長老たちに接られ己を助けて神の行たまひし凡の事を告しに
五
パリサイ宗の中なる信者數人たちて曰けるハ彼等に必ず割禮を施し且命じてモーセの例を守しむべし
六
使徒等および長老たち此事を議ん爲に集れり
七
茲に多の論ありしがペテロ起て彼等に曰けるハ人々兄弟よ久き先に神われを爾曹の中より選び福音の道を我口より異邦人に聞せ彼等をして之を信ぜしめ給し事ハ爾曹の知ところ也
八
かつ人の心を知たまふ神ハ我儕に聖靈を賜し如く彼等にも賜て其證をなし
[千八百七十五] 九
又信仰をもて其心を潔め我儕と彼等の間に分を爲ざりき
十
然に今何故われらの先祖たちも我儕も負あたハざる軛を弟子等の頸に置て神を試むる乎
十一
彼等の救るゝ如く我儕も主イエス、キリストの恩に由て救るゝことを信ずる也
十二
是に於て人々みな黙してバルナバとパウロが神の己をもて異邦人の中に行ひ給へる休徴と奇 跡とを述るを聞り
十三
彼等が言畢りし後ヤコブ答て曰けるハ人々兄弟よ我に聞
十四
神初て異邦人を眷顧その中より己が名を崇る民を取給ひし事ハシモン既に之を述
十五
預言者の言これと符り其書に
十六
此後われ反て已に傾圯たるダビデの幕屋を復び起し其破壞の跡を再び造て之を建べし
十七
是その餘の民および凡て我名をもて稱らるゝ異邦人に主を尋させん爲なり此すべての事を行ふ神これを言と錄されたるが如し
十八
神ハ世の始より其すべての所作を知たまへり
十九
是故に我おもふ異邦人の中より神に歸する者を擾すハ宜からずと
二十
然ども書を彼等に遣て偶像に汚れたる物と姦淫と勒 殺たる物と血とを戒むべし
二一
そハ古より安息日ごとに會堂にてモーセの書を讀が故に其を宣るもの各邑にあれバ也
二二
是に於て使徒および長老たち全會と偕に其中より人を選び之をパウロ、バルナバと共にアンテオケに遣さん事を定その選れたる人ハ兄弟の中の尊 者すなハちバルサバと稱るゝユダ及シラスなり
二三
彼等の手に托て遣し書に云く使徒長老および兄弟アンテオケ、スリヤ、キリキヤにをる異邦人の兄弟に安を問
二四
我儕が命ぜざるもの我儕の中よりいで言をもて爾曹を擾し爾曹の心を亂たりと聞
二五~二六
之に由て我儕心を同し人を選て我儕の愛するバルナバ、パウロと偕に遣さんと定この二人ハ我儕の主イエス キリストの名の爲に其命をも愛ざりし者なり
二七
我儕
[千八百七十六] ユダとシラスを遣し彼等の口より此事を述しめんとす
二八
そは聖靈と我儕の左の肝要なるものの外は何をも爾曹に任せじと定たり
二九
即ち偶像に獻し物と血と勒 殺たる物と姦淫とを戒むべし若これらの事を爾曹みづから愼まバ善ねがハくハ爾曹健剛なれ
三十
彼等遣されてアンテオケに至り衆人を集て此書を付す
三一
衆人これを讀その勸を受て喜べり
三二
ユダとシラスも亦預言者なれば多の言を以て兄弟を勸め彼等を堅せり
三三
斯て二人の者暫く彼處に止り後兄弟たちに安然を祝され其己を遣しゝ者の所に送れたり
三四
パウロとバルナバはアンテオケに止り其餘の多の人と共に教をなし主の道を宣傳ふ
三五
數日の後パウロ、バルナバに曰けるハ我儕さきに主の道を宣し所の諸邑に復ゆきて兄弟の光景を率とふべし
三六
偖バルナバハマコと名るヨハ子を伴ハんと欲へり
三七
然どもパウロハ曩にパムフリアにて己より離れ役事のため共に往ざりし此マコを伴ふハ宜らじと意しに因
三八
遂に二人の中に激 論おこり相 別てバルナバハマコを伴ひクプロに航れり
三九
パウロハシラスを選び兄弟より己を主の恩に托られて出立
四十
スリヤ及びキリキヤを經て諸教會を堅せり
斯てパウロハデルベ及ルステラに至れり此にテモテと云る弟子あり其母ハユダヤの婦にて信者なり其父はギリシャ人也
二
彼ハルステラ、イコニオムの兄弟より稱を得たり
三
パウロ之を携て偕に往んことを欲其處にをるユダヤ人の爲に彼に割禮を行へり蓋人々皆かれが父のギリシャ人なるを知ばなり
四
斯て諸邑をすぎエルサレムにある使徒および長老等の定たる條規を守せんとて之を其人々に授く
五
之に由て諸教會の信仰堅なり其数も日々に増ぬ
[千八百七十七] 六
彼等フルギアとガラテヤの地を過し時アジアに道を傳ることを聖靈に禁られ
七
遂にムシアに近きビチニアに往んとせしがイエスの靈これを許さゞりければ
八
彼等ムシアを經てトロアスに下れり
九
斯てパウロ夜に於て一人のマケドニア人たちて己に請マケドニアに渉て我儕を助よと曰を幻に見たり
十
彼が幻に之を見し後われら誠に主の我儕をしてマケドニア人に福音を宣しめんと我儕を召給ふことを推量て直にマケドニアに往んとす
十一
是に於てトロアスより航海をし眞直にはせてサモトラケに至り其次日子アポリスに往
十二
彼處よりピリピに至るピリピはマケドニアの一の分の中なる名なる邑にして即ち植民地なり我儕數日この邑に止れり
十三
安息日に我儕邑をいで河の濱なる常に祈禱をする處にゆき坐して集れる婦女等に語しに
十四
紫布を售ふテアテラの邑の商人にて神を敬ふルデヤと名くる婦きゝゐたり主その心を啓てパウロの語ることに心を用しめ給ふ
十五
かの婦その家族と偕にバプテスマをうけ求て曰けるハ爾曹もし主を信ずる者と我を爲ば我家に來り留れと強て我儕を入しめたり
十六
われら祈禱所に往るとき卜筮をする靈に憑れたる一人の婦の奴隷われらに遇かれは卜占に因て其 主たちに多の利を得させし者なり
十七
パウロと我儕に從ひて喊叫いひけるハ此人々ハ至 高き神の僕にて救 道を我儕に宣る者なり
十八
この婦かく爲こと久かりければパウロ之を憂かへりみて靈に曰けるハ我イエス キリストの名に由て爾に命ず此婦より出よ靈 立 刻に出
十九
是に於て其主たち利の望すでに去るを見てパウロとシラスを執へ市場に曳て有司等に至れり
二十
既に上官の所に曳來りて曰けるハ此人々ハユダヤ人にして我儕の邑を擾し
二一
ロマ人たる我儕の受べからず行ふ可ら
[千八百七十八] ざる所の習俗を傳る者なり
二二
大勢のもの齊く起て彼等をせめ上官ハその衣をはぎ命じて之を杖しむ
二三
多く杖てのち獄に入これを固守れと獄吏に命ず
二四
獄吏かくの如き命を受しにより彼等を奥の獄に入て桎をかけたり
二五
斯て夜半ごろパウロとシラス祈禱をなし且神を讃美す囚者ら耳を傾けて之を聞ゐたりしが
二六
俄に大なる地震ありて獄の基礎ふるひ動き門ことゞゝく直に啓け衆の囚者の械繫とけたり
二七
獄吏目を醒し獄門の啓けたるを見て囚者すでに逃しと意ひ刀を拔て自殺せんとしけれバ
二八
パウロ大聲に呼り曰けるハ自ら戕ふ勿れ我儕みな此に在
二九
此時かれ火を索て躍いり戰慄てパウロとシラスの前に俯伏
三十
彼等を外に携出して曰けるハ君よ我すくハれん爲に何を爲べき乎
三一
彼等いひけるハ主イエス キリストを信ぜよ然らバ爾および爾の家族も救るべし
三二
遂に彼および其家の凡の者に主の道を語れり
三三
この夜の卽時かれ二人を誘ひ其 杖 傷を濯て直に其家族と偕に皆バプテスマを受
三四
且かれらを己が家に引來り食物を其前に備すべての家族と偕に神を信じて喜べり
三五
天明に至て上官たち下吏を遣し曰せけるハ其人々を釋べし
三六
獄吏この言をパウロに告て曰けるハ上官なんぢらを釋せと言遣せり然バ今いでゝ安然に去
三七
パウロ彼等に曰けるハ我儕ロマ人なるに罪に定ずして公然に我儕を杖ち且獄に入たり而して今ひそかに出さんと爲か宜からず彼等みづから來て我儕を引出すべし
三八
下吏この言を上官たちに告ければ彼等そのロマ人なるを聞て懼れ
三九
來て彼等に此より出んことを求つひに引出して又その邑を去んことを請たり
四十
二人のもの獄を出ルデアの家にいり兄弟等に遇これに勸をなして出去ぬ