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12 彼等この
[千七百二十七] 譬ハ己等を指て語れりと知イエスを執んとせしかども衆人を懼てイエスを去ゆけり
13 彼等イエスを其言に由て陥いれんとしてパリサイの人とヘロデの黨の中より數人を遣せり
14 遣されし者等イエスの所に來り曰けるハ師よ爾は眞なる者なり又誰にも偏らざる事を我儕ハ知そハ貌に依て人を取ず誠を以て神の道を教れバなり貢をカイザルに納るハ宜や否われら納べきか納ざる可か
15 イエスその實ならざるを知て彼等に曰けるハ何ぞ我を試るやデナリを携來りて我に觀よ
16 かれら携來りけれバイエス彼等に曰けるハ此像と號ハ誰か答てカイザルなりと曰
17 イエス曰けるハカイザルの物ハカイザルに歸し又神の物ハ神に歸すべし彼等これを奇とせり
18 復生なしと曰なせるサドカイの人きたりてイエスに問けるハ
19 師よ我儕にモーセが書遣るにハ人の兄弟もし子なくして妻を留し死バその兄弟この妻を娶て兄弟の裔を立べしと
20 爰に七人の兄弟ありしが長子妻をめとり子なくして死
21 第二の者これを娶また子なくして死
22 第三もまた然す七人みな之を娶たれど子なく終にハ此婦も死り
23 復生の時かれら甦らバ此婦ハ誰の妻を爲べきか蓋七人みな之を娶たれバ也
24 イエス答て彼等に曰けるハ爾曹ハ聖書も神の能をも知ざるに因て誤れるならず乎
25 それ死より甦る時ハ娶ず嫁がず天にある使者等の如し
26 死し者の甦る事に就てハモーセの書棘中の篇に神かれに語て我ハアブラハムの神イサクの神ヤコブの神なりと曰たまひしを爾曹讀ざる乎
27 神ハ死し者の神に非ず生る者の神なり爾曹大に誤れり
28 學者の一人かれらの議論を聞てイエスの善これに應しを知きたり彼に問けるハ諸誡のうち何れ首なる乎
29 イエス彼に答けるハ諸誡の首ハイスラエル
[千七百二十八] よ聽け主なる我儕の神ハ即ち一の主なり
30 なんぢ心を盡し精神を盡し意を盡し力を盡し主なる爾の神を愛すべし是誡の首なり
31 第二も亦これに同じ己の如く爾の隣を愛すべし斯より大なる誡なし
32 學者イエスに曰けるハ善かな師よ爾神ハ即ち一にして他に神なしと曰しハ誠なり
33 また心を盡し智慧を盡し精神を盡し力を盡して之を愛し又おのれの如く隣を愛するハ諸の燔祭と禮物よりも愈るなり
34 イエス彼が道理を知る答を見て之に曰けるハ爾神の國より遠からず此のち敢てイエスに問者なかりき
35 イエス殿に在て教誨を爲る時かれらに答て曰けるハ何ぞ學者ハキリストをダビデの裔といふ乎
36 夫ダビデ聖霊に感じて自いふ主わが主に曰けるハ我なんぢの敵を爾の足凳となすまで我右に坐せよ
37 如此ダビデ自ら彼を主と稱たり然バ如何で其裔ならんや多の人々喜びてイエスに聞ことを爲せり
38 イエス教をなせる時かれらに曰けるハ長き衣服を衣てあるき市上にて人の問安
39 會堂の高座筵席の上座を好
40 また嫠婦の家を呑いつハりて長き祈をする學者を謹防よ彼等のさばかるゝこと尤も重し
41 イエス賽銭の箱に對て坐し人々の銭を箱に入るを見たまひしに多の富者ハ多く投入たり
42 一人の貧き嫠婦きたりてレプタ二を投入る此ハ四厘ほどに直れり
43 イエスその弟子を召て彼等に曰けるハ誠に我なんぢらに告ん箱に投入し凡の人々よりも此貧き嫠婦ハ多く投入たり
44 そハ彼等ハ皆その餘れる所を以て入この婦ハその不足ところより其すべての所有すなハち全業を盡く入たれバ也
[1] イエス聖殿より出けれバ一人の弟子かれに曰けるハ師よ觀たまへ此石この殿宇いか
[千七百二十九] に盛んならず乎
2 イエス答て曰けるハ爾曹この大なる殿宇を見か一の石も石の上に圮れずしてハ遺じ
3 イエス橄欖山にて殿に對ひ坐し給しにペテロ、ヨハ子、アンデレ竊に問けるハ
4 何の時この事あるや又すべて此事の成ん時ハ如何なる兆あるや我儕に告たまへ
5 イエス答て彼等に曰けるハ人に欺かれざるやう愼めよ
6 蓋おほくの人わが名を冒來り我ハキリストなりと曰て多の人を欺くべし
7 爾曹戰と戰の風聲を聞とき懼るゝ勿れ是等の事ハみな有べきなり然ども末期ハ未だ至らず
8 民ハ起て民をせめ國ハ國を攻また随在に地震あり饑饉變亂あり是等ハ苦難の始なり
9 爾曹みづから愼めよ蓋なんぢら集議所に付され又會堂にて撻たれ且證を爲んため我事に因て侯および王の前に曳立らるべし
10 而して福音ハまづ萬民に宣傳ざるを得ず
11 人なんぢらを曳解さバ以前より何を言んと慮また思煩ふ勿れ惟なんぢら其とき賜ふ所の言を曰べし蓋ものいふ者ハ爾曹に非ず聖霊なり
12 兄弟ハ兄弟を死に付し父ハ子を付し亦子ハその父母に逆ひて之を死しめ
13 又なんぢらハ我名に縁て凡の人に憎るべし然ど終まで忍ぶ者ハ救るゝことを得ん
14 預言者ダニエルが言し所の殘暴にくむ可ものゝ立べからざる所に立を見バ(讀者よく思べし)其時ユダヤにをる者は山に避れよ
15 屋上にをる者ハ室に下る勿れ又物を取んとて其家に入なかれ
16 田にをる者ハ其衣服を取んとて歸る勿れ
17 其日にハ孕る者と乳を哺する婦ハ禍なる哉
18 なんぢら冬にぐることを免れん爲に祈れ
19 其日に患難あらん此の如き患難ハ神の物を創造たまひし開闢より今に至るまで有ざりき亦後にも有じ
20 もし主その日を減少し給ずバ一人だに救るゝ者なし然ど主の選たまへる所の選れし者の爲に其日を減少
[千七百三十] し給ふべし
21 其時もしキリスト此にあり彼に在と爾曹にいふ者あるとも信ずる勿れ
22 そハ僞キリスト僞預言者おこりて休徴と奇能を行ひ選れたる者をも欺くことを得バ欺くべけれバ也
23 なんぢら愼よ我預じめ爾曹に盡く之を告
24 厥時この患難ののち日ハ晦く月ハ光を失ひ
25 天の星ハおち天の勢ひ震ふべし
26 其とき人々ハ人の子の大なる権威と榮光を以て雲の中に現れ來るを見ん
27 また其とき人の子その使者等を遣して地の極より天の極まで四方より其選れし者を集むべし
28 夫なんぢら無花果樹に由て譬を學その枝すでに柔かにして葉めぐめバ夏の近を知
29 此の如く爾曹も凡て是等の事を見バ時ちかく門口に至ると知
30 われ誠に爾曹に告ん是等の事ことゞゝく成までハ此民ハ逝ざるべし
31 天地ハ廢ん然ど我言ハ廢じ
32 其日その時を知者ハ惟わが父のみなり天にある使者も子も誰も知者なし
33 此日いづれの時きたる乎を知ざれバ爾曹つゝしみて目を醒し祈禱せよ
34 それ人の子ハ遠行せんとして其權を僕等に委ね各に爲べき事を任け又閽者に怠らず守れと命じて家をさる人の如し
35 是故に爾曹も怠らずして守れ蓋家の主人あるひハ夕あるひハ夜半あるひハ鷄鳴時あるひハ早晨に歸るかを知ざれバ也
36 恐くハ不意の時きたりて爾曹が眠るを見ん
37 われ怠らずして守れと爾曹に告るハ即ち凡の人に告るなり
[1] さて逾越即ち除酵節の二日前に祭司の長と學者たち詭計を以てイエスを執へ殺さんとし
2 曰けるハ祭の日にハ爲べからず恐くハ民の中に亂おこらん
3 イエス、ベタニヤの癩病人シモンの家にて食し居たまへる時ある婦蠟石の盒に價貴きナルドの香膏を盛て携來り
[千七百三十一] 其盒を裂りイエスの頭に膏を沃たり
4 或人々互に怒を含いひけるハ此膏を糜すハ何故ぞや
5 之を賣バ三百有奇のデナリを得て貧者に施すことを得んと此婦を言咎む
6 イエス曰けるハ彼に係る勿れ何ぞ此婦を擾すや我に善事を行へる也
7 貧者ハ常に爾曹と偕に在バ爾曹意に随せて彼等を濟ることを得べし我ハ常に爾曹と偕に在ず
8 この婦ハ力を盡して作り蓋あらかじめ我を葬る爲わが身に膏を沃しなり
9 我まことに爾曹に告ん天の下いづくにても此福音を宣傳らるゝ處にハ此婦の行し事も亦その記念の爲に言傳らるべし
10 さて十二の一人なるイスカリオテのユダ、イエスを付さんとて祭司の長に往しに
11 彼等これを聞て悦び銀子を予んと約せしかバユダハイエスを付さんと機を窺へり
12 除酵節の首の日すなハち逾越の羔を殺すべき日弟子イエスに曰けるハ逾越の食を何處へ往て我儕備ふべき乎
13 イエス二人の弟子を遣さんとして之に曰けるハ京城に往さらバ水を盛たる瓶を挈る人に遇べし之に從へ
14 その入ところの家の主人に師いふ我弟子と偕に逾越を食すべき客房ハ安に在やと曰
15 然れバ彼陳設たる大なる樓房を爾曹に示べし我儕の爲に其處に備よ
16 弟子ゆきて京城に入しにイエスの曰たまへる如く遇しかバ逾越の備をなせり
17 日暮てイエス十二の弟子と偕に來れり
18 かれら席に就て食する時イエス曰けるハ誠に我なんぢらに告ん我と偕に食する爾曹のうち一人われを賣すべし
19 彼等憂て各イエスに言出けるハ我なる乎また他の一人も曰けるハ我なる乎
20 イエス答て曰けるハ十二の中の一人われと共に手を盂に着る者是なり
21 人の子ハ己に就て錄されたる如く逝ん然ど人の子を賣す者ハ禍なる哉その人ハ生ざりしならバ幸なりし爲ん
22 かれ
[千七百三十二] ら食する時イエスパンを取て祝し之を擘かれらに予て曰けるハ取て食へ此ハ我身なり
23 また杯を取て謝し彼等に予けれバ皆この杯より飮り
24 イエス曰けるハ此ハ新約の我血にして衆の人の爲に流す所のもの也
25 我まことに爾曹に告ん今よりのち新しきものを神の國にて飮ん日までハ葡萄にて製るものを飮じ
26 かれら歌を詠て橄欖山に往り
27 イエス彼等に曰けるハ今夜なんぢら皆われに就て礙かん蓋われ牧者を擊ん其とき綿羊散べしと錄されたれバ也
28 然ど我よみがへりて後なんぢらに先ちガリラヤに往べし
29 ペテロ、イエスに曰けるハ假令みな礙くとも我ハ然らず
30 イエス彼に曰けるハ我まことに爾に告ん今日この夜鷄二次鳴まへに爾三次われを知ずと曰ん
31 彼また力言いひけるハ我ハ爾と偕に死とも爾を知ずと曰じ弟子みな如此いへり
32 斯て彼等ゲツセマ子といふ所に至りイエスその弟子に曰けるハ祈る間こゝに坐せよ
33 遂にペテロ、ヤコブ、ヨハ子を伴ひゆき甚しく憂へ哀を催し
34 彼等に曰けるハ我心いたく憂て死るばかりなり爾曹こゝに待て目を醒し居
35 イエス少し進往て地にふし祈り曰けるハ若かなはゞ此時を去しめ給へ
36 また曰けるハアバ父よ爾に於てハ凡の事能ざるなし此杯を我より取たまへ然ど我が欲ふ所を成んとするに非ず爾が欲ふ所に任せ給へ
37 イエス來りて彼等の寢たるを見ペテロに曰けるハシモンなんぢ寢たるか一時も目を醒し居こと能ざる乎
38 誘惑に入ぬやう目を醒かつ祈その心神ハ願なれど肉體よわき也
39 復ゆきて同言を曰て祈れり
40 返りて復かれらの寢たるを見る此ハ彼等その目倦たるなりイエスに何と對ふ可やを知ざりき
41 三次きたりて彼等に曰けるハ今ハ寢て安め充分なり時いたれり人の子ハ罪人の手に賣さる
[千七百三十三] る也
42 起よ我儕ゆくべし我を賣す者近けり
43 斯いへる時たゞちに十二の一人なるユダ刃と棒とを携たる多の人々と共に祭司の長學者および長老の所より來る
44 イエスを賣者かれらに號をなして曰けるハ我が接吻する者ハ其なり之を執て愼と曳去よ
45 即ち來りてイエスに近よりラビラビと曰て接吻せり
46 人々手をイエスに措て執ふ
47 傍に立る者の一人刃を拔て祭司の長の僕を擊その耳を削り
48 イエス答て彼等に曰けるハ刃と棒とをもち盗賊を執る如くして我を執に來る乎
49 われ日々なんぢらと共に殿にて教しに爾曹われを執ざりき然ど此は聖書に應せんが爲なり
50 弟子みなイエスを離て奔去ぬ
51 一少者その身にたゞ麻の夜具を蔽てイエスに從ひたりしが逮捕の者等これを執けれバ
52 かれ麻の夜具をすて裸にて逃去り
53 衆人イエスを祭司の長に携往けるに祭司の長長老および學者等ことゞゝく彼の所に集れり
54 ペテロ遠く離れてイエスに從ひ祭司の長の庭の内まで入僕と共に坐して火に燠まり居り
55 祭司の長および議員みなイエスを殺さんとして證を求れども得ず
56 多の人々イエスに妄の證を言出せども其證あハず
57 或人々たちて妄の證を言出しけるハ
58 かれ手を以て作たる此聖殿を毀ち三日の間に手を以て作ざる別の殿を建んと言しを我儕ハ聞り
59 如此いひしが其證また符ず
60 祭司の長中に立てイエスに問いひけるハ爾答る言なき乎この人々の爾に立る證據ハ如何
61 イエス黙然として何も答ざりけれバ祭司の長また彼に問て曰けるハ爾は頌べき者の子キリストなる乎
62 イエス曰けるハ然り人の子大權の右に坐し天の雲の中に現れ來るを爾曹みるべし
63 是に於て祭司の長その衣を裂て曰けるハ我儕なんぞ復ほかに證據を求んや
64 その褻瀆たる言
[千七百三十四] ハ爾曹も聞る所なり爾曹如何に意ふや彼等擧てイエスを死に當るべき者と擬たり
65 或者ハ彼に唾し又その面を掩ひ拳にて擊いひけるハ預言せよ亦僕等も手の掌にて彼を批り
66 ペテロ下庭に在しに祭司の長のある婢きたりて
67 其火に燠まり居をつらゝゝ彼を視て曰けるハ爾もナザレのイエスと偕に在し
68 ペテロ肯ハずして曰けるハ我これを知ず亦なんぢが言ところの事を識得ざるなり斯て庭門に出けれバ鷄鳴ぬ
69 その婢かれを見て傍に立る者に又いひけるハ此人もかの黨の一人なり
70 ペテロまた肯ハず少頃して傍に立る者またペテロに曰けるハ爾誠に彼の黨の一人なり蓋爾ハガリラヤの人なり其方言これに合り
71 是に於てペテロ誓て我神の祟を受るとも爾曹が言その人を我ハ識ざる也と曰しが
72 此とき鷄二次鳴けれバペテロ、イエスの鷄二次なく前に三次我を識ずと曰んと言たまひし事を憶起し且これを思反して哭悲めり
[1] 平旦に及び直に祭司の長長老學者たち凡の議員と共に議てイエスを繋り曳携てピラトに解せり
2 ピラト彼に問けるハ爾ハユダヤ人の王なるやイエス答けるハ爾が言る如し
3 祭司の長多端をもて彼を訴ふ
4 ピラト復イエスに問て曰けるハ何も答ざるか彼等が爾について證を立しこと幾何かりぞ乎
5 ピラトの奇と爲までにイエス何をも答ざりき
6 偖この節筵にハ彼等が求に任せて一人の囚人を赦すの例なり
7 時にバラバと云る者あり己と共に謀叛せし黨と同く繋れ居たりしが彼等ハその謀叛のとき人を殺しゝ者等なり
8 人々聲を揚て呼り恒例の如せん事を求り
9 ピラト彼等に答て曰けるハユダヤ人の王を爾曹に我が釋さん事を欲む
[千七百三十五] や
10 是ピラト祭司の長等の嫉に因てイエスを解したりと知バなり
11 祭司の長民どもにバラバを釋さん事を求と唆む
12 ピラトまた答て彼等に曰けるハ然バユダヤ人の王と爾曹が稱る者にハ何を我が處ん事をなんぢら欲むや
13 彼等また叫びて之を十字架に釘よと曰
14 ピラト彼等に曰けるハ彼なんの悪事を行しや彼等ますゝゝ叫びて之を十字架に釘よと曰
15 ピラト民の懽びを取んとしてバラバを彼等に釋しイエスを鞭ちて之を十字架に釘ん爲に付せり
16 兵卒等これを公廳に携ゆき全營を呼集め
17 彼に紫の袍をきせ棘にて冕を編て冠しめたり
18 斯て曰けるハユダヤ人の王安かれ
19 また葦を以て其首を擊かつ唾し跪きて拜しぬ
20 嘲弄し畢て紫の衣をはぎ故の衣をきせて十字架に釘んとて曳往しが
21 アレキサンデルとルフの父なるクレ子のシモンと云るもの田間より來りて其處を經過りけれバ強て之にイエスの十字架を負せたり
22 イエスをゴルゴダ譯バ即ち髑髏と云る所に携來り
23 没薬を酒に和て飮せんと爲りしに之を受ざりき
24 イエスを十字架に釘しのち誰が何を取んと鬮を拈てその衣服を分てり
25 朝の第九時にイエスを十字架に釘
26 その罪標をユダヤ人の王と書つく
27 二人の盗賊かれと共に一人ハ其右一人ハ其左に十字架に釘らる
28 これ聖書に彼ハ罪人と共に算られたりと云しに應り
29 往來の者イエスを詬り首を搖て曰けるハ噫聖殿を毀て之を三日に建る者よ
30 自己を救て十字架を下よ
31 祭司の長學者等も同く嘲弄して互に曰けるハ人を救て自己を救ひ能ず
32 イスラエルの王キリストハ今十字架より下るべし然バ我儕見て之を信ぜん又ともに十字架に釘られたる者共も彼を詬れり
33 第十二時より三時に至るまで徧く地のうへ暗なりぬ
34 第三時にイエス大聲に
[千七百三十六] 呼りエリ、エリ、ラマ、サバクタニと曰これを譯バ吾神わが神なんぞ我を遺たまふ乎と云るなり
35 傍らに立たる者のうち或人これを聞て彼ハエリヤを呼なりと曰
36 一人はしり往て海綿をとり酢を潰せ之を葦に束て彼に飮しめ曰けるハ俟エリヤ來りて彼を救ふや否こゝろむべし
37 イエス大なる聲を發て氣絶
38 殿の幔上より下まで裂て二と爲り
39 イエスに對て立たる百夫の長かく呼り氣絶しを見て曰けるハ誠に此人ハ神の子也
40 また遥に望ゐたる婦ありし其中に在し者ハマグダラのマリアおよび年少ヤコブとヨセの母なるマリア又サロメなり
41 彼等ハイエスのガリラヤに居たまひし時これに從ひ事し者等なり亦この他にも彼と共にエルサレムに上りし多の婦ゐたりき
42 是日ハ備節日にて安息日の前の日なりし故
43 日暮るとき尊き議員なるアリマタヤのヨセフと云る者きたれり此人ハ神の國を慕る者なり彼はゞからずピラトに往てイエスの屍を求たり
44 ピラト、イエスの已に死るを奇み百人の長を呼て彼ハ死てより時を經たるや否やを問
45 百夫の長より聞て之をしり屍をヨセフに予ふ
46 ヨセフ枲布を買求め而してイエスを取下し之をその枲布にて裹み磐に鑿たる墓におき石を墓の門に轉し置り
47 マグダラのマリア及ヨセの母なるマリア其屍を葬し處を見たり
[1] 安息日過てマグダラのマリアとヤコブの母なるマリア及サロメ香科を買とゝのへイエスに抹んとて來れり
2 七日の首の日いと早く日の出る時かれら墓に来り
3 互に曰けるハ誰か我儕の爲に石を墓の門より轉し取もの有んか是その石はなはだ巨大なれバ也
4 斯て彼等目を擧れバ石の已に轉あるを見る
5 墓に入しに白衣をきたる少者の右の方に坐せるを見て駭
[千七百三十七] き異めり
6 少者かれらに曰けるハ駭き異む勿れ爾曹ハ十字架に釘られしナザレのイエスを尋ぬ彼ハ甦りて此に居ず彼を葬し處を觀よ
7 且ゆきて其弟子とペテロに告よ彼ハ爾曹に先ちてガリラヤに往り爾曹かしこにて彼を見べし即ち其なんぢらに言しが如し
8 彼等いでゝ墓より奔れり且戰慄かつ駭き亦一言をも人に語ざりき是懼しが故なり
9 イエス七日の首の日よあけごろ甦りて先マグダラのマリアに現る曩にイエス彼より七の惡鬼を逐出せり
10 イエスと共に在し者の哭哀める時に此婦きたりて是等の事を告
11 彼等イエスの活て此の婦に見え給ひしことを聞しが信ぜざりき
12 此後かれらの中二人の者鄕村へ往けるが路を行ときイエス變たる貌にて彼等に現る
13 この二人の者ゆきて他の弟子等に告けれども亦これをも信ぜざりき
14 又その後十一の弟子の食しをる時に現れて彼等が信なきと其心の頑とを責め給へり是かれらイエスの甦り給るのち其を見し者の言ところを信ぜらりき故なり
15 イエス彼等に曰けるハ徧く世界を廻て凡の人に福音を宣傳よ
16 信じてバプテスマを受る者ハ救れ信ぜざる者ハ罪に定らるゝ也
17 信ずる者にハ左の如き奇跡したがふべし我名に託て惡鬼を逐出し異邦の方言をいひ
18 また蛇を操へ毒を飮とも害なく又手を病の者に按なバ即ち愈ん
19 斯て主ハ彼等に語しのち天に擧られ神の右に坐しぬ
20 弟子たち徧く福音を宣傳ふ主も亦かれらに力を協せ其從ふ所の奇跡によりて道を堅うしたまへりアメン
新約全書馬可傳福音書 終