明治元訳新約聖書(大正4年)/雅各書

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[二千五十七]
新約全書しんやくぜんしょ使徒しとヤコブふみ

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第一章

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かみおよびしゅイエス キリストしもべヤコブ各處ところゞゝゝちりをる十二じふに支派わかれやすきとふ
わが兄弟きゃうだいもしなんぢら各樣さまゞゝ試誘こゝろみあはこれよろこぶべきこととすべし
そはなんぢらのうく信仰しんかうこゝろみハ爾曹なんぢらをして忍耐にんたいしゃうぜしむるとしれバなり
なんぢらまった且備かつそなはりてかくところなからんため忍耐しのびをしてまったはたらかしめよ
爾曹なんぢらうちもし智慧足ちゑたらざるものあらバとがむることなくおしむことなくして衆人すべてのものあたふかみもとめよさらあたへられん
されうたがふことなくしんじてこれもとむべしうたがものかぜうごかされてひるがへる海浪うみのなみごと
かくごとひとしゅより何物なにものをもうくるとおもなか
かくごとひと貳心ふたごゝろにして其行そのおこなところことすべて定準さだまりなし
ひく兄弟きゃうだい其高そのたかくせらるゝこと喜樂よろこびとせよ
とめもの其卑そのひくゝせらるゝこと喜樂よろこびとせよ蓋草そはくさはなごとすぐべけれバなり
十一 それ日出ひいでねっくさからせバ其花そのはなおち其美そのうるはしき姿すがたきゆとめものまたかくのごと其爲そのなすところなかばにしておのれまづほろび
十二 しのび試誘こゝろみうくものさいはひなりそはこゝろみをよしとせらるゝとき生命いのちかんむりうくべけれバなりこのかんむり主己しゅおのれあいするもの約束やくそくたまひしところのものなり
十三 さそはるゝものかみわれをあくさそふといふなかれかみあくさそはれず亦人またひとをもあくさそたまハず
十四 人惡ひとあくさそはるゝハおのれよくひかれていざなハるゝなり
十五 よくすでにはらみつみをうみつみすでになりうむ
十六 わがあいする兄弟きゃうだいみづかあざむなか
十七 すべて善賜よきたまものまったたまものハみなうへよりもろゝゝ光明ひかりちゝよりくだるなりちゝかはることなくまた轉動まはりあらはるゝかげもなきものなり
十八 かれおのれむねしたが眞道まことのことば我儕われらうめ是我儕これわれらをして其造そのつくところものなかにてはじめむすべるごとものとならしめんためなり


十九 是故このゆゑあいする兄弟きゃうだいひとおのゝゝきくことをすみやかにしかたることをおそくいかることをおそく
[二千五十八]
べし
二十 そハひといかりかみおこなことをせざれバなり
二一 されもろゝゝ汚穢けがれおほく邪惡じゃあくをすて柔和にうわ爾曹なんぢらそのこゝろうゑたるところ霊魂れいこん救得すくひうことばうくべし
二二 なんぢらことばおこなものとなるべしたゞこれをきくのみにして自己みづからあざむものとなるなか
二三 それことばきくのみにしてこれおこなハざるものかがみむかひ本来うまれつきかほをみるひとたり
二四 かれおのれうつさりのちたゞち其如何そのいかなる相貌すがたなりしかをわす
二五
され自由じゆうなるまった律法おきて切々ねんごろはなれざるもの是功これわざおこなものにしてきゝわするゝものあら斯人このひとそのおこなふところさいはひあらん
二六 爾曹なんぢらのうちたれもしみづからかみつかふものおもひて其舌そのしたくつわをつけずみづか其心そのこゝろあざむかバ其事そのつかふることハ徒然いたづらなり
二七 かみなるちゝまへきよくしてけがれなくつかふることハ孤子みなしご寡婦やもめ其患難そのなやみなか眷顧みまひまたみづかまもりけがされざるこれなり

第二章

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わが兄弟きゃうだい爾曹榮なんぢらさかえしゅなる我儕われらしゅイエス キリスト信仰しんかうみちまもらんにハひと偏視かたよりみることなか
もし人金環ひときんのゆびわをはめうるはしき衣服ころも爾曹なんぢら會堂くわいだうきた亦貧またまづし人汚ひとけがれたる衣服ころもきたらんに
なんぢらうるはしき衣服ころもたるひとかへりみてなんぢこの榮位よきところすわれといひまた貧者まづしきもの爾彼處なんぢかしこたてといひあるひ足下あしのもとすわれといは
爾曹なんぢら各人おのゝゝのうち區別へだてたてまた惡念あしきおもひひとわかつものにあらずや
あいする兄弟きゃうだいかみ斯世このよ貧者まづしきものえらび信仰しんかうとまおのれあいするもの約束やくそくたまひしところくにつぐべきものとならしめたまふにあらずや
しかるに爾曹なんぢら貧者まづしきもの藐視いやしめたり爾曹なんぢら凌虐しひたげまた裁判所さいばんしょひくものハ富者とめるものあらずや
彼等かれら爾曹なんぢらとなへらるゝところ美名よきなけがものあらずや
爾曹なんぢらもし聖書せいしょのすところおのれごとなんぢとなりあいすべしといへたふとおきてまもらバ其行そのおこなふところよし
されひと偏視かたよりみることをせバ是罪これつみおこなふなり律法おきて爾曹なんぢらさだめて罪人つみびととせん
ひと
[二千五十九]
律法おきてことゞゝまもるとももしそのひとつつまづかバ此全これすべてをかすなり
十一 それ姦淫かんいんするなかれといへものまたころすことなかれといへ爾曹なんぢら姦淫かんいんせずともころすことをせバ律法おきてをかものとなるなり
十二 なんぢらかたることおこなふこと自由じゆう律法おきてよりさばきうけんとするものごとくすべし
十三 あはれむことをせざるものさばかるゝときまたあはれまるゝことなからん衿恤あはれみさばきかつなり


十四 わが兄弟きゃうだい人自ひとみづか信仰しんかうありといひおこなひなくバなにえきあらんその信仰しんかういかでかれすくんや
十五 もし兄弟きゃうだいあるひハ姊妹しまい裸躰はだかにて日用にちようかてともしからんに
十六 爾曹なんぢらのうち或人あるひとこれにいひ安然あんぜんにしてねがはくハ爾曹なんぢらあたゝかにしてあくことをよとしかして其身體そのからだなくてならぬものこれあたへずバなんえきあらん
十七 かくごと信仰しんかうもしおこなひをかねざるときハすなはしぬるなり
十八 或人あるひといハん爾信仰なんぢしんかうあり我行われおこなひありこふなんぢがおこなひかねざる信仰しんかうわれしめわれおこなひより信仰しんかうなんぢしめさんと
十九 なんぢかみ惟一たゞひとつなりとしん如此信かくしんずるハ惡鬼あくき亦信またしんじて戰慄おのゝけ
二十 あゝおろかなるひとおこなひかねざる信仰しんかうしぬることを爾知なんぢしらんとおもふや
二一 我儕われら先祖せんぞアブラハムそのイサクだんうへさゝげとせられたるハおこなひよるあらずや
二二
その信仰しんかうおこなひともはたらかつおこなひより信仰しんかう全備まったきたるを爾見なんぢみるべし
二三 これ聖書せいしょしるしてアブラハムかみしん其信仰そのしんかうとせられたりとあるかなへりかれまたかみともよばれたり
二四 なんぢらひととせらるゝハ信仰しんかうにのみよるあらおこなひよることをしるなるべし
二五 また妓婦ぎふラハブ使者つかひうけこれをほかみちよりさらしめてとせられたるハおこなひよるあらずや
二六 もし霊魂たましひはなるればしぬるごとく信仰しんかうおこなはなるればしぬるなり


第三章

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わが兄弟きゃうだい爾曹多なんぢらおほとなるべからずそはわれらたるもの審判さばきうけることもっとおもきしればな
[二千六十]

われらはみなしバゝゝあやまちなせものなりひともしことばあやまちなくばこれ全人まったきひとにして全體ぜんたいくつわ置得おきうるなり
それわれらむまおのれしたがはせんとして其口そのくちくつわおくときハ其全體そのぜんたいまはすべし
ふねまたそのかたちおほきかつ狂風はげしきかぜおはるゝとも小舵ちひさきかじ舵子かじとりこゝろまゝこれまはすなり
かくごとした亦小またちいさきものにしてほこることおほいなり微火わづかのひいかにおほいなるはやしもやすを
したすなはすなハちあく世界せかいなりした百體ひゃくたいうちそなはりありて全體ぜんたいけが又全世界またぜんせかいもやすなりした地獄ぢごくより燃出もえいづ
それ各派さまゞゝけものとり昆蟲はふものうみあるもの皆制みなせいうくまたすでひとせいせられたり
されひとたれもしたせいあたハずすなはおさへがたきあくにして死毒しのどくみてるものなり
我儕われらこれをしゅなるちゝいはひまたこれをもてかみかたちかたどりてつくられたるひとのろ
いはひのろいひとつくちよりいづわが兄弟きゃうだいかくごときことハあるべきにあら
十一 いずみみなもと一穴ひとつのあなより甘水あまきみづ苦水にがきみづともいださん
十二 わが兄弟きゃうだい無花果いちじく樹橄欖きかんらんむすあるひ葡萄ぶどう樹無花果きいちじくむすぶことをんやかくごといづみみなもと鹹水しおみづ淡水まみづともいだすことあたはず
十三 爾曹なんぢらのうちかしこくして聰明さときものはたれなるや柔和にうわなる智慧ちゑ善行よきおこないあらはすべし
十四 されもしなんぢらこゝろうち苦嫉にがきねたみ忿爭あらそひいだかば是眞理これまことそむきほこなか又謊またいつはなか
十五 かゝ智慧ちゑうへよりくだるにあらつけるもの情慾じゃうよくつけるもの惡魔あくまつけるものなり
十六 そは娟嫉ねたみ忿爭あらそひあるところにはみだれ諸般さまゞゝ惡事あしきこととあればなり
十七 されうへからの智慧ちゑ第一だいいちきよつぎ平和へいわ寛容くわんよう柔順にゅうじゅんかつ衿恤あはれみ善果よきみみちひと偏視かたよりみずまたいつはりなきものなり
十八 平和へいわおこなもの平和へいわまくよりむすぶなり

第四章

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爾曹なんぢらうち戰鬪いくさ爭競あらそひいづこよりきたりしや爾曹なんぢら百體ひゃくたいよくよりきたりしにあらずや
[二千六十一]
爾曹貪なんぢらむさぼれどもころすことをしねたむことをすれどもうることあたはず爾曹なんぢら爭競あらそひ戰鬪いくさせり爾曹なんぢらもとめざるによりざるなり
なんぢらもとめてなほざるは爾曹慾なんぢらよくのためにつひやさんとしてみだりもとむるがゆゑなり
姦淫かんいんおこな男女だんじょ爾曹世なんぢらよともとするはかみあだするなるをしらざらんやともとならんことをおもものかみあだなり
聖書せいしょかみ我儕われらうちすましめたま靈熱心みたまねっしん我儕われらいつくしむといへるを爾曹虛なんぢらむなしきことゝおもふや
神更かみさらおほいなる恩惠めぐみあたこれよりていふかみ驕傲者たかぶるものふせ謙卑者へりくだるものめぐみあたふと
是故このゆゑ爾曹神なんぢらかみしたが惡魔あくまふせさらかれなんぢらを逃去にげさら
なんぢらかみちかづさらかみなんぢらにちかづたまはん罪人つみびと爾曹なんぢらきよくせよ二心ふたごゝろもの爾曹なんぢらこゝろいさぎよくせよ
なんぢらくるしかなしなけなんぢらのわらひ哀哭かなしみかへ爾曹なんぢら歡樂よろこびうれへかへ
自己みづからしゅまへひくゝせよされしゅなんぢらをたかくせん
十一 兄弟きゃうだいたがひそしなか兄弟きゃうだいそしりあるひは兄弟きゃうだいするもの律法おきてそし律法おきてするなりなんぢもし律法おきてせば律法おきておこなものあら律法おきてするものなり
十二 律法おきてをたてひとするもの惟一たゞひとりなりかれすくふことほろぼすことを爲得なしうなりなんぢたれなればとなりする
十三 我儕われら今日けふ明日あすそれがしまちにゆき彼處かしこ一年ひとゝせとゞまり賣買うりかひしてんといふもの
十四 なんぢら明日あすことしら爾曹なんぢら生命いのちなにしばらあらはれてつひきゆきりなり
十五 爾曹なんぢらいふことにかへ如此かくいへしゅもしゆるたまはゞ我儕活われらいきあるひ此事このことあるひは彼事かのことなさんと
十六 されいまなんぢらたかぶりてほこることを爲凡なすすべかくごとほこりあくなり
十七 人善ひとぜんおこなことしりこれおこなはざるはつみなり


第五章

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富者とめるもの爾曹既なんぢらすできたらんとする禍害わざはひおもひ哭叫なきさけぶべし
爾曹なんぢらたからくちなんぢらの衣服ころもしみく
爾曹なんぢら金銀きんぎん錆腐さびくされり此錆證このさびあかしなし爾曹なんぢらせめかつごと爾曹なんぢらにくくは爾曹なんぢらこのすえ
[二千六十二]
ありてなほたからたくはふることをせり
爾曹なんぢら其田そのたからせし雇人やとひびとあたへざるあたひさけ其刈そのかりもの呼聲よびごゑすで萬軍ばんぐんしゅみみいれ
なんぢらあり奢樂おごりたのしほふらるゝありなほそのこゝろよろこばせり
なんぢら義者たゞしきものつみさだかつこれをころせりかれなんぢらをふせがざりき


兄弟きゃうだいしのびしゅきたるをまつべし農夫地のうふちたうとさんうるのぞみてまへあととのあめうるまでひさししのびてこれまて
爾曹なんぢらしの爾曹なんぢらこゝろかたうせよ蓋主そはしゅきたたまふことちかづけばなり
兄弟きゃうだい爾曹互なんぢらたがひうらむることなかおそらくはつみさだめられんさばきするものもんまへたて
兄弟きゃうだい爾曹主なんぢらしゅよりかたりし預言者よげんしゃくるしみしのびとののりとすべし
十一 われらしのものさいはひなりとおもなりなんぢらかつヨブしのびきけしゅいかにかれ行給なしたまひしその結局はてすなはしゅ慈悲深じひふか且衿恤かつあはれみあるものなり
十二 兄弟きゃうだい一切誓いせつちかなかあるひてんあるひはあるひは他者ほかのものさしちかなか爾曹是なんぢらしかるしかりとしいないなとすべしおそらくは爾曹罪なんぢらつみさだめられん
十三 爾曹なんぢらのうちたれくるしものあるあらばいのりせよたれよろこものあるかあらばその人讃美ひとさんびせよ
十四 爾曹なんぢらのうちたれやめものあるあらば教會けうくわい長老等ちゃうらうたちまねくべし彼等主かれらしゅより其人そのひとあぶらそゝこれためいのら
十五 それ信仰しんかうよりいづ祈禱いのり病者やめるものすくふべししゅこれをおこさんつみをかしゝことあらゆるされん
十六 なんぢらたがひあやまちをいひあらはし且病かつやまひいやさるゝことをためたがひいのるべし義者たゞしきひとあつ祈禱いのりちからあるものなり
十七 エリヤ我儕われら同情おなじじゃうひとなり彼雨降かれあめふらざることをせついのりければ三年さんねん六ヶ月ろく げつ間地あいだち雨降あめふらざりき
十八 またいのりければてんよりあめふりてそのさん萌出はえいだせり
十九 わが兄弟きゃうだい爾曹なんぢらのうちあるひまことみちよりまよへものあらんにたれこれ引反ひきかへさば
二十 此人知このひとしるべし罪人つみびと其迷そのまよへみちより引反ひきかへすはすなは其靈魂そのたましひよりすくひかつおほくつみおほふことを
[二千六十三]



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