明治元訳新約聖書(大正4年)/路加傳福音書

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[千七百三十九]
新約全書しんやくぜんしょ路加傳福音書ルカでんふくいんしょ

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第一章

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[1] 我儕われらうちあつしんぜられたることはじめよりしたしみちつかへたるもの
2 我儕われらつたへごと記載かきつらねんとおほく人々ひとゞゝこれをとれゆゑたふとテヨピロ
3 われはじめよりすべてこと詳細つまびらか考究おしたづねたれバ次第しだいなしなんぢかきおくり
4 なんぢをしへられしところ確實まことさとらせんとおもへ


5 ユダヤわうヘロデときアビアくみなる祭司さいしザカリアいへものあり其妻そのつまアロンすえにてエリサベツいふ
6 ともかみまへにて義人ただしきひとなりすべしゅ誡命いましめ禮儀おきてかけなくおこなへり
7 エリサベツはらみなきがゆゑ彼等かれらなし又二人またふたりともとしおい
8 ザカリアその班次くみのまはりあたりかみまへ祭司さいしつとめおこなとき
9 祭司さいしならはししたがくじとりしゅ殿みやにいりかうたくことを
10 かうたきけるときあつまり人々ひとゞゝハみなそといのれり
11 しゅ使者香壇つかひかうだんみぎたちザカリアあらはれしかバ
12 ザカリアこれ驚懼あわておそ
13 天使つかひかれにいひけるハザカリアおそるゝなかなんぢ祈禱ねがひすでにきゝたまへりなんぢつまエリサベツ男子なんしうま其名そのなヨハ子なづくべし
14 なんぢよろこびたのしみあらんおほくひとまたそのうまるゝによりよろこあら
15 それ此子主このこしゅまへおほいならん又葡萄酒またぶどうしゅ濃酒こきさけとをのまはゝたいより生出うまれいで聖靈せいれいみたさる
16 またイスラエルたみおほくひとしゅなる其神そのかみかへらべければなり
17 かれエリヤこゝろ才能ちからしゅさきゆか是父これちゝこゝろおもハせもとれるもの義人ただしきひとさとりかへらしゅためあらたなるたみそなへんとなり
18 ザカリア天使つかひいひけるハわれガブリエルとてかみまへ立者たつものなりなんぢかたりてこのよろこびおとづれつげためつかはされたれバ
20 其時そのときいたりてかならなるべきことばしんぜざるによりなんぢおふしとなりて此事このこと成日なるひまでものいふこと
[千七百四十] あたハじ
21 たみザカリアまちゐて其殿そのみやうちひさしきあやし
22 ザカリアいでものいふことあたハざりしかバ彼等かれらその殿みやうちにて異象いしょうたることさとりたりザカリア衆人ひとゞゝかうべしめつひおふしとなれり
23 その職事つとめ日満ひみちけれバいへかへりぬ
24 此後こののちそのつまエリサベツはらみかくれをりしこと五ヶ月ご げつにして
25 いひけるハしゅわがはぢひとなかすゝがせんため眷顧かへりみたまふときかくごとわれなせ


26 この六ヶ月ろく げつあたりガリラヤナザレなづけたるむら
27 ダビデいへヨセフいへひと聘定いひなづけせしところ處女をとめかみよりガブリエルといふ天使つかひつかはされたり其處女そのをとめマリアいへ
28 天使つかひこの處女をとめきたりいひけるハめでたしめぐまるゝものしゅなんぢとともいまなんぢをんなうちにてさいはひなるものなり
29 處女をとめそのことばいぶかりこの問安あいさつ如何いかなることぞとおもへり
30 天使つかひいひけるハマリアおそるゝなかなんぢかみよりめぐみたり
31 爾孕なんぢはらみ男子なんしうま其名そのなイエスなづくべし
32 かれおほいなるものなり至高者いとたかきものとなへられん又主またしゅたるかみその先祖せんぞダビデわうくらゐかれあたふれバ
33 ヤコブいへかぎりなく支配しはいすべくかつその國終くにをはることあらざるべし
34 マリア天使つかひいひけるハわれいまだにひとゆかざるにいかにして此事このことあるべき
35 天使つかひこたへていひけるハ聖靈せいれいなんぢにきた至高者いとたかきもの大能いきほひなんぢをおほは是故このゆゑなんぢうむところのせいなるものかみとなへらるべし
36 それなんぢ親戚しんせきエリサベツかれ年老としおい男子なんしはらめ素姙もとはらみなきものいはれたりしがいますでに六ヶ月ろく げつになりぬ
37 蓋神そはかみおいてあたはざることなけれバなり
38 マリアいひけるハわれ是主これしゅ使女つかひめなりなんぢいへごとわれあれかし天使つかひつひにかれされ


39 當時そのときマリアたちすみやかに山地やまざとなるユダむらゆき
40 ザカリアいへいりエリサベツ問安あいさつしたりしに
41 エリサベツマリア問安あいさつきゝしかバ其胎孕腹そのはらみごはらうちにて跳動をどりたりエリサベツ聖靈せいれいみたされ
42 大聲おほごゑよびいひけるハをんな
[千七百四十一] のうちにてなんぢさいはひなるものなり亦孕またはらめところものさいはひなり
43 わがしゅはゝわれにきたるわれなによりてか此事このこと
44 夫爾それなんぢ問安あいさつこえわがみゝいりしとき胎孕はらみごよろこびて我腹わがはらうちをどれり
45 しゅことしんぜしものさいはひなり蓋主そはしゅかたりたまひしごとかならなるべけれバなり
46 マリアいひけるハ我心主わがこゝろしゅあが
47 我靈わがたましひハわが救主すくひぬしなるかみよろこ
48 これその使女つかひめ卑微いやしきをも眷顧かへりみたまふがゆゑなりいまよりのち萬世よろずよまでもわれさいはひなるものとなふべし
49 それ權能ちからもちたまへるものわれにおほいなることなせ其名そのなきよく
50 その衿恤あはれみ世々よゝかれをおそるゝものおよバん
51 そのひぢちからあらはしてこゝろおごれものちら
52 權柄いきほひあるものくらいよりおろ卑賤者いやしきものあげ
53 うゑたるもの美食よきものあかとめものむなしかへらせたま
54 アブラハム其子孫そのすゑかぎりなくあはれむことをわすれずして
55 其僕そのしもべイスラエル扶持たすけたまへりこれわれらの先祖せんぞいひたまひしがごとくなり
56 マリアエリサベツをりしこと三ヶ月さん げつばかりにておのいへかへりたりき


57 さてエリサベツ産期うみどきみちて男子なんしうめ
58 その隣里もよりものまた親戚しんせきのものしゅエリサベツおほいなる慈悲じひたれたまひしこときゝともよろこべり
59 第八日だいやうかおよびけれバ彼等子かれらこ割禮かつれいせんとてきた其父そのちゝよりザカリアなづけんとせしに
60 其母そのはゝこたへてしかべからずヨハ子なづくべしといひけれバ
61 彼等かれらエリサベツむかひいひけるハなんぢ親戚しんせきうちにハ此名このななづけものなし
62 かれらつひ其父そのちゝかうべにてしめしいかになづけんとおもふとひたるに
63 ザカリア寫字板かきいたもとめ其名そのなヨハ子かきしるしゝかバ皆奇みなあやしめり
64 ザカリアくちたゝだちにひらけしたとけものいひてかみほめたり
65 その隣里もよりすみたる人々ひとゞゝみなおそれまたすべて此事このことあまねユダヤ山地やまざと傳播いひふらされしかバ
66 きくものみなこれをこゝろとめ此子このこ如何いかなるものにかならんといへ偖主さてしゅかれとともあり
67 ちゝザカリヤ聖靈せいれいみたされ預言よげんしていひけるハ
68 しゅなるイスラエル
[千七百四十二] のかみ讃美ほむべきかなこれ其民そのたみ眷顧かへりみあがなひ
69 我儕われらため拯救すくひつの其僕そのしもべダビデいへたてたまへバなり
70 いにしへよりせいなる預言者よげんしゃくちいひたまひしがごと
71 すなは我儕われらてきまたすべ我儕われらにくものよりいだすくひなり
72 仁惠めぐみ我儕われら先祖せんぞほどこまたその聖約きよきちかひわすれじとなり
73 是我儕これわれら先祖せんぞアブラハムたてところちかひにして
74 我儕われらてきよりすく我儕われら生涯しょうがい
75 せいおいおそれなくしゅつかへしめんとなり
76 嬰兒をさなごなんぢ至高者いとたかきもの預言者よげんしゃとなへられんそはなんぢしゅさきだちてゆきそのみちそなへんとすれバなり
77 かみふか衿恤あはれみよりそのつみゆるされてすくはれんこと其民そのたみしめさんためなり
78 その衿恤あはれみよりあさひ光上ひかりうへより
79 幽暗くらき死陰しのかげすめものてら我儕われらあしみちびきて平康やすらかなるみちいたらせんとてのぞめり


80 かく嬰兒をさなご漸成長やゝせいちゃう精神せいしんますゝゝ強健すこやかにしてイスラエルあらはるゝのまでをれ


第二章

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[1] 當時天下そのころてんか戸籍こせきしらぶ詔命みことのりカイザルアウグストよりいでたり
2 この戸籍調査こせきしらべクレニオスリヤ管理をさめとき初次はじめおこなハれたりしなり
3 ひとみな戸籍こせきつかんとておのゝゝその故邑ふるさとかへりたり
4 ヨセフダビデ家族いへすぢまた血統ちすぢなれバ戸籍こせきつかんとて
5 すではらめ其聘定そのいひなづけつまマリアともガリラヤむらナザレよりいでユダヤのぼダビデむらベテレヘムといふところいたれり
6 こゝをり産期滿つきみちけれバ
7 冢子うひごうみそれをぬのつゝみむまぶねふさせたり客舎はたごや彼等かれら居處をるところなかりしがゆゑなり


8 近傍このあたりひつじかふものありけるがをり夜間よるそのむれまもりたりしに
9 しゅ天使つかひきたりてしゅ榮光えいくわうかれらを環照めぐりてらしけれバ牧者かふものおほいにおそれたり
10 天使つかひこれにいひけるハおそるることなかれわれ萬民ばんみんかかはりたるおほいなるよろこびおとづれ爾曹なんぢらつぐべし
11 それ今日こんにちダビデむらおい爾曹なんぢらため救主すくひぬしうまれ
[千七百四十三] たまへり是主これしゅたるキリストなり
12 爾曹布なんぢらぬのにてつゝみ嬰兒をさなごむまぶねふしたるをこれそのしるしなり
13 たちまおほく天軍てんぐんあらハれ天使つかひともかみ讃美ほめいひけるハ
14 天上いとたかきところにハ榮光神えいくわうかみにあれにハ平安人おだやかひとにハ恩澤めぐみあれ
15 天使等つかひたちかれらをさりてんゆきけれバひつじかふものたがひいひけるハいざベテレヘムにゆきしゅしめたまへる其有そのありことんとて
16 いそいたマリアヨセフまたむまぶねふしたる嬰兒をさなご尋遇たづねあへ
17 すで此子このこにつき天使つかひかたりこと傳播つげひろめけれバ
18 聞者きくものみなひつじ牧者かふものかたれことあやしみたり
19 マリアすべ是等これらことこゝろとめ思想おもひめぐらしぬ
20 ひつじ牧者かふものその見聞みきゝせるところみなおのれかたりところごとくなるによりかみあがめかつ讃美ほめかへれり


21 割禮かつれいおこなふべき八日やうかいたりけれバそのいまだたいやどらざるさきてん使者つかひとなへごとイエスとなへたり


22 モーセ律法おきてしたがひてきよめ日満ひみちけれバ嬰兒をさなごたづさへしゅさゝげんがためエルサレムのぼれり
23 是主これしゅおきてはじめうまるゝ男子なんししゅ聖者きよきものとなふべしとしるされたるがごと
24 またしゅ律法おきて斑鳩一隻やまばとひとつがひあるひハ雛鴿二わかきいへばとふたつそなふべしといへるにしたがひてまつりなさためなり


25 さてエルサレムシメオンいへひとあり斯人このひとたゞしくかつつゝしみありてイスラエルたみなぐさめられんことまてものなり聖靈せいれいそのうへをれ
26 またしゅキリストざるうちしなじと聖靈せいれいにてしめさる
27 かれ聖靈せいれいかんじて神殿みやいれ兩親ふたおやそのイエス律法おきてならはししたがひておこなハんと携來たづさへきたりしに
28 シメオン嬰兒をさなごいだかみ讃美ほめいひけるハ
29 しゅいまそのことばしたがひてしもべ安然あんぜんをバさらたま
30 我目わがめすでに萬民ばんみんまへまうけたまひしすくひたり
31 これ異邦人いはうじんてらさんひかりなり
32 またなんぢたみイスラエルほまれなり
33 その父母ちゝはゝ嬰子をさなごついかたれことあやしみをれり
34 またシメオン彼等かれらいはひ其母そのはゝマリアいひけるハ此嬰兒このをさなごイスラエルおほくひとほろび且興かつおこらん
[千七百四十四] こと誹駁いひさからひうけ其號そのしるしたてらる
35 これおほくこゝろおもひあらはれんがためなり又劔またつるぎなんぢがこゝろをも刺透さしとほすべし


36 アセル支派やからパヌエルむすめアンナいへ預言者よげんしゃありかれ甚老邁いととしよりなり其處女そのをとめなりしときおっとゆき七年ともにをりたり
37 この老女およなよはひおほよそ八十四歳はちじふしさいやもめなりしが殿みやはなれひる斷食だんじき祈禱きたうかみつか
38 此時このときこの老女およなかたはらたちしゅ讃美さんびまたエルサレムにてあがなひのぞめすべてひと此子このこことかたれり


39 しゅ律法おきてしたがひてことごとをはりけれバガリラヤおのむらナザレかへりたり
40 其子そのこやゝ成長せいちゃうして精神強健せいしんすこやか知慧ちゑにみちかみ恩寵めぐみそのうへをれ


41 さてその兩親毎年ふたおやとしごと逾越すぎこし節筵いはひエルサレムゆきしが
42 かれ十二歳じふにさいときまた節筵いはひれいしたがエルサレムのぼれ
43 節筵いはひ日卒ひをはり返往かへりゆきけるに其子そのこイエスエルサレムとどまりぬしかるにヨセフはゝこれをしら
44 同行人みちづれうちをるならんとおも一日程いちにちりゆき親戚知音しんせきしるべものたづねしが
45 あはざりけれバかれたづねエルサレムかへ
46 三日みっかののち殿みやにてあふかれ教師けうしなか且聽かつきゝかつとひゐたり
47 聞者きくものみな其知慧そのさとき其應對そのこたへとをあやしとせり
48 兩親ふたおやこれをおどろはゝかれにいひけるハなん我儕われら如此行かくなしたるやなんぢちゝわれうれへなんぢたづねたり
49 イエスこたへけるハ何故なにゆゑわれをたづぬるやわれ我父わがちゝことつとむべきをしらざる
50 され兩親ふたおや其語そのかたれことさとら
51 イエスこれとともくだりナザレかへり彼等かれらしたがをれ其母そのはゝこれらのすべてことこゝろとめ
52 イエス知慧ちゑよはひ彌増いやまさかみひと益 愛ますゝゝあいせられたり


第三章

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[1] テベリオカイザル在位ざいゐ十五年じゅうごねんポンテオピラトユダヤ方伯つかさとなりヘロデガリラヤ分封わけもちきみなれ其兄弟そのきゃうだいピリポイツリアおよびテラコニテ分封わけもちきみとなりルサニアアビネレ分封わけもちきみなれ
2 アンナスカヤパ祭司さいしをさなりたりしときザカリアヨハネをりかみ命令めいれいうけ
3 ヨルダンほとりなる四方すべてきたつみゆるしさせんがため悔改くいあらためのバプテスマを宣傳のべつたへたり
4 預言者よげんしゃイザヤことばしるしたるふみよべひとこえありいはしゅみちそなへそのみちすぢなほくせよ
5 すべてたにうめられすべて山岡やまおかたいらげられ屈曲まがりたるハなほ崎嶇けはしきやすくせられ
6 人々ひとゞゝみなかみすくひみることをんとあるごと
7 こゝにバプテスマをうけんとてきたれる衆人ひとゞゝヨハ子いひけるハ嗚呼蝮蛇あゝまむしすゑ爾曹なんぢらきたらんとするいかりさくべきことつげしや
8 さら悔改くいあらためかなへむすぶべし爾曹心なんぢらこゝろ我儕われら先祖せんぞアブラハムありおもふことなかれわれ爾曹なんぢらつげかみよくこのいしアブラハムならしむべし
9 いまおのおかゆゑすべ善果よきみむすばざるきられて投入なげいれらるゝなり
10 衆人ひとゞゝヨハ子とふいひけるハさら我儕何われらなになすべき
11 こたへいひけるハふたつ衣服うはぎもてものもたもの分與わけあたへ食物しょくもつもてもの亦然またしかすべし
12 税吏みつぎとりもバプテスマをうけんとてきたいひけるハ我儕何われらなになすべきか
13 こたへいひけるハ定例さだまり税銀みつぎほかおほとることなか
14 兵卒へいそつ亦問またとふいひけるハ我儕われらなになすべきやこたへいひけるハひと強暴おびやかあるひ誣訴しひうったふることをなすなかれうるところの給料きふれうたれりとべし


15 民懷望たみまちをりときなれバ衆人ひとゞゝみなこゝろヨハ子キリストなるやいな忖度かんがへたりしに
16 ヨハ子これこたへいひけるハわれみづてバプテスマを爾曹なんぢらおこなへりわれより能力ちからあるものきたらんわれ其履帶そのくつのひもとくにもたらかれ聖靈せいれいてバプテスマを爾曹なんぢらおこなはん
17 にはもち其禾塲そのうちばきよむぎあつめ其藏そのくらにいれからきえざるにてやくべし
18 ヨハ子また多端おほくのことすすめをなし福音ふくいんたみ宣傳のべつたへたり
19 さて分封わけもちきみなるヘロデその兄弟きゃうだいピリポつまヘロデヤことおよびおこなところすべて惡事あしきことヨハ子いさめられけれバ
20 なほ惡事あしきわざくはヨハ子ひとやいれたり
21 たみみなバ
[千七百四十六] プテスマをうけけるにイエスまたバプテスマをうけいのれるときてんひらけ
22 聖靈鴿せいれいはとごとかたちにて其上そのうへくだり又天またてんよりこえありいはくなんぢは我愛子わがあいしわがよろこところものなり


23 ときイエスとしおほよそ三十さんじふにして福音ふくいん宣始のべはじ人々ひとゞゝヨセフおもはたまへり
24 其父そのちゝマッタテ其父そのちゝレビ其父そのちゝメルキ其父そのちゝヤンナ其父そのちゝヨセフ
25 其父そのちゝマタテヤ其父そのちゝアモス其父そのちゝナオム其父そのちゝヱスリ其父そのちゝナムガイ
26 其父そのちゝマアツ其父そのちゝマタテヤ其父そのちゝセメイ其父そのちゝヨセフ其父そのちゝユダ
27 其父そのちゝヨハンナ其父そのちゝレサ其父そのちゝゼルバベル其父そのちゝシアテル其父そのちゝネリ
28 其父そのちゝメルキ其父そのちゝアツデ其父そのちゝコサム其父そのちゝエルモダム其父そのちゝエル
29 其父そのちゝヨセ其父そのちゝヱリヱゼル其父そのちゝヨオレム其父そのちゝマッタテ其父そのちゝレビ
30 其父そのちゝシメオン其父そのちゝユダ其父そのちゝヨセフ其父そのちゝヨナン其父そのちゝヱリアキム
31 其父そのちゝメレア其父そのちゝマイナン其父そのちゝマタッタ其父そのちゝナタン其父そのちゝダビデ
32 其父そのちゝエッサイ其父そのちちオベデ其父そのちちボアズ其父そのちゝサルモン其父そのちゝナアソン
33 其父そのちゝアミダナブ其父そのちゝアラム其父そのちゝエスロン其父そのちゝパレス其父そのちゝユダ
34 其父そのちゝヤコブ其父そのちゝイサク其父そのちゝアブラハム其父そのちゝテラ其父そのちゝナコル[ナホル]
35 其父そのちゝサルク[セレグ]其父そのちゝラガヲ[レウ]其父そのちゝパレク[ペレグ]其父そのちゝヘベル[ヱベル]其父そのちゝサラ[シェラハ]
36 其父そのちゝカイナン其父そのちゝアパサデ[アルパクシャド]其父そのちゝセム其父そのちゝノア其父そのちゝラメク[レメク]
37 其父そのちゝマトセラ[メトセラ]其父そのちゝエノク其父そのちゝヤレド其父そのちゝマレレエル[マハラルエル]其父そのちゝカイナン
[38] 其父そのちゝエノス[エノシュ]其父そのちゝセツ其父そのちゝアダムアダムすなはかみなり


第四章

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[1] さてイエス聖靈せいれいみたされてヨルダンよりかへみたまみちびかれゆき
2 四十日惡魔しじふにちあくまこころみらる此諸日このあひだなにをもくらは四十日畢しじふにちをはりてのちうゑたり
3 惡魔あくまかれにいひけるハなんぢもしかみならバ此石このいし
[千七百四十七] めいじてパンとならせよ
4 イエスこたへけるハひとハパンのみにていくものあら唯神ただかみことばよるしるされたり
5 惡魔あくままたかれ高山たかきやまつれゆき一瞬間まばたきのま天下てんか萬國ばんこくしめして
6 いひけるハこのすべての權威けんゐ榮華えいぐわなんぢあたへわれこれを委任まかされたれバこのものこれあたふべし
7 ゆゑもしわがまへ拜跪ひれふさことゞゝなんぢものとならん
8 イエスこたへけるハサタン我後わがうしろ退しりぞ獨主ただしゅたるなんぢかみ拜跪ひれふしこれにのみつかふべしとしるされたり
9 惡魔あくままたイエスエルサレムつれゆき聖殿みやいたゞきたていひけるハなんぢもしかみならバこゝよりおのなげ
10 そはかみその使者等つかひたちめいじてなんぢまもらせん
11 なんぢあしいしふれざるやう彼等手かれらてにてさゝふべしとしるさる
12 イエスこたへけるハしゅたるなんぢかみこゝろべからずといひおけり
13 惡魔あくまこのこゝろみみなをはりしばらかれはなれたり
14 イエス聖靈せいれいちからガリラヤかへりしに其聲名そのきこえあまねく四方まはりひろがりぬ
15 かく彼等かれら會堂くわいだうにてをしへなしすべての人々ひとゞゝほまれたり


16 その長育そだちところなるナザレきた常例いつもごと安息日あんそくにち會堂くわいだういり聖書せいしょよまんとてたちけれバ
17 預言者よげんしゃイザヤふみあたへしにイエス其書そのふみひらき斯錄かくしるされたるところ見出みいだせり
18 しゅみたまわれにいまゆゑ貧者まづしきもの福音ふくいん宣傳のべつたへことわれあぶらそゝぎにんこゝろいためものいや又囚人まためしうどゆるさこと瞽者めしひさせんことしめ又壓制またおさへらるゝものはな
19 しゅ禧年よろこばしきとし宣播のべひろめんがためわれつかはせり
20 イエスふみまきその役者かゝりのものあたへてしけれバ會堂くわいだう在者あるものみなとめなせり
21 イエス彼等かれらいひけるハ此錄このしるされたること今日こんにちなんぢらのまへなれ
22 みなかれを稱讃ほめそのくちよりいづところ恩惠めぐみことばあやしいひけるハヨセフあらず
23 イエス彼等かれらいひけるハ爾曹なんぢらかならずわれことわざひき醫者いしゃみづからをいや我儕われらきゝところカペナウンにてなしこと自己みづから家郷ふるさとなる此土このところにもなすべしといは
24 またいひける
[千七百四十八] ハわれまことに爾曹なんぢらつげ預言者よげんしゃその家郷ふるさとにてハ敬重たふとまるゝものあら
25 われまこと爾曹なんぢらつげエリヤ時三年ときさんねん六ヶ月天ろく げつてんとぢて徧地くにぢゅうおほいなる餓饉きゝんなりし其時そのときイスラエルうちおほくやもめありしかど
26 エリヤ其一人そのひとりだにつかはされずたゞシドンサレパタ一人ひとりやもめつかはされたり
27 また預言者よげんしゃエリシャときイスラエルうちおほく癩人らいびゃうにんありしかど其一人そのひとりだにきよめられずたゞスリアナーマンのみきよめられたり
28 會堂くわいだうありものこれをきゝおほいいきどほり
29 たつイエスまちそといだ投下なげおろさんとて其邑そのまちたちたるやまがけにまで曳往ひきゆけ
30 しかるイエス彼等かれらなか徑行とほりさり
31 ガリラヤカペナウンいへまちいたりて安息日あんそくにちごとに衆人ひとゞゝをしへしに
32 その言権威有ことばけんゐありけれバ衆人ひとゞゝそのをしへおどろけり


33 會堂くわいだうけがれたるおにれいつかれたるひとあり大聲おほごゑ喊叫さけびいひけるハ
34 あゝナザレイエス我儕われらなんぢとなにかゝはりあらんやなんぢきたりて我儕われらほろぼすかわれなんぢハたれなるしるすなハちかみせいなるものなり
35 イエスこれせめいひけるハこえいだすことなか其處そこいで惡鬼あくきつひに其人そのひとひとゞゝうちたふそこなはずしていづ
36 衆人ひとゞゝみなおどろたがひかたりいひけるハ權威けんゐ能力ちからもちけがれたるおにめいぜしかバ出去いでされこれいかなることばぞや
37 こゝおいイエス聲名きこえあまねく此四方このまはりひろがりぬ


38 イエス會堂くわいだういでシモンいへいりしにシモン妻母しうとめおもき熱病ねつびゃうわづらたりき
39 衆人ひとゞゝこれがためイエスねがひけれバ其傍そのかたはらたちねつせめしに熱退ねつしりぞけりをんなたゞちにおき彼等かれらつかへたり
40 いるとき各様さまゞゝやまひわづらひたるものをもてる人々ひとゞゝみなそれイエス携來つれきたりけれバ一々いちゝゝそのうへおきいやせり
41 惡鬼あくき亦多またおほく人々ひとゞゝいでさり喊叫さけびなんぢかみキリストなりといへしかるこれせめものいことゆるさざりき惡鬼あくきそのキリストなるをしればなり
42 明旦あくるあさイエスいでひとなきところゆきければ
[千七百四十九] 衆人尋來ひとゞゝたづねきたり其離去そのさりゆくことをとど
43 イエスいひけるハわれまたほか鄕村むらゝゝにもかみくに福音ふくいん宣傳のべつたへざるをそはわれこれためつかはさるれバなり
44 かくガリラヤ諸會堂しょくわいだうにてみち宣傳のべつたへたり

第五章

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[1] 衆人神ひとゞゝかみことばきかんとて擠擁おしあひけるときイエスゲネサレみづうみほとりたち
2 いそ二艘にそうふねあるをすなどりものふねはなれあみあらひをれり
3 其一艘そのいっそうシモンふねなりしがイエスこれにのりこふきしより少計わづかばかりはなれして舟中ふねのなかより衆人ひとゞゝおし
4 教竟おしへをはりシモンいひけるハおきへいであみおろしてすなど
5 シモンこたへけるハよわれら終夜よもすがらはたらきしかど所得えものなかりきされなんぢことばしたがひてあみおろさん
6 すでおろしてうをかこめることはなはおほあみさけかゝりければ
7 いま一艘いっそうなるふねともまねきてきたたすけしめしに彼等かれらきたりときその魚二艘うをにそうふねみちしづまんばかりなりし
8 シモンペテロこれイエス足下あしもとふししゅわれさりたまへわれ罪人つみびとなりといへ
9 これシモンおよびともありものみなすなどりところうをおびたゞしきにおどろけるなり
10 シモンともなるゼベタイヤコブヨハ子亦然またしかイエスシモンいひけるハおそるゝなかれなんぢいまよりひとべし
11 彼等舟かれらふねきしよせおき一切すべてのものすてイエスしたがへり


12 イエスあるむらをりしときことゞゝく癩病らいびゃうやめものありイエス俯伏ひれふしねがひいひけるハしゅもし聖旨こゝろにかなふときハわれきよくなしべし
13 イエスのべかれにつけ我心わがこゝろにかなへりきよくなれといひけれバたゞち癩病らいびゃういえたり
14 イエスかれいましめていひけるハひとつぐることなかれたゞゆきおのれ祭司さいしみせかつきよめられしためモーセめいぜしごと獻物さゝげものをなし證據しょうこ彼等かれら
15 されどもイエス聲名きこえますゝゝひろがりて許多おほく人々或ひとゞゝあるひおしへきかんとしあるひやまひいやされんとてあつまきたれり
16 イエスつねひとなきところ退しりぞきていのりたまひき
17 一日あるひイエスをしへせるときパリサイのひと
[千七百五十] と教法師けうほうしガリラヤ諸鄕むらゝゝユダヤエルサレムよりきたりこゝしぬ彼等かれらやまひいやすべきしゅ能顯ちからあらハれたり
18 或人癱瘋あるひとちゅうぶやみたるものとこのせ舁來かききたこれいへいれイエスまへおかんとおもへども
19 群衆ぐんじゆにて舁入かきいるべきかたなかりけれバ屋上やねのぼかはら取除とりのけ其人そのひととこのまゝ衆人ひとゞゝなか縋下つりおろイエスまへおけ
20 イエスそのしんあるを患者やまひのものひとなんぢ罪赦つみゆるさるといひけれバ
21 學者がくしゃとパリサイの人々心ひとゞゝこゝろ思出おもひいでけるハ此褻瀆このけがすことを言者いふものたれかみよりほかたれつみゆるすことを
22 イエスそのおもひしりこたへいひけるハなに爾曹心なんぢらこゝろうちろんずるや
23 なんぢ罪赦つみゆるさるといふとおきあゆめいふいづれやす
24 それひと子地こちにてつみをゆるすの權威けんゐあることを爾曹なんぢらしらせんとてつひ癱瘋ちゅうぶひとわれなんぢにつぐおきてとこをとりいへかへれといひけれバ
25 その人衆ひとひとゞゝまへにてたゞちおき臥居ふしゐたるとこをとりかみあがめおのいへかへり
26 衆人ひとゞゝみなおどろきてかみあがめかつおほい畏懼おそれいひけるハ我儕今日奇異われらこんにちふしぎなることたり


27 此後こののちイエスいでレビいへ税吏みつぎとり税關やくしょけるをわれしたがへといひけれバ
28 レビ一切いっさいすておきたちしたがへり
29 レビおのれいへにてイエスため豐盛おほいなるふるまひまうけしに税吏みつぎとりまたほか人々ひとゞゝともふるまひしたる者多ものおほかりけれバ
30 其所そのところ學者がくしゃとパリサイのひとイエス弟子でし怨言つぶやきいひけるハ爾曹税吏なんぢらみつぎとりまたほか人々ひとゞゝとも飮食のみくひするハ何故なにゆゑ
31 イエスこたへいひけるは康強すこやかなるもの醫者いしゃたすけもとめ惟病たゞやまひあるものこれをもと
32 わがきたるハ義人たゞしきひとまねためあらつみあるひとまねき悔改くいあらためさせんがためなり
33 彼等かれらイエスいひけるハヨハ子弟子でし屢 斷食しばゝゝだんじきまた祈禱きたうをなすパリサイの弟子でし亦然またしかしかるになんぢ弟子飮でしのむことくらふことをすハ何故なにゆゑ
34 イエスいひけるハ新郎はなむこ朋友ともだちその新郎はなむこ一處とも居間をるうちこれ斷食だんじきなさしむることんや
35 將來新郎のちはなむこわかるゝ
[千七百五十一] いたらん其日そのひにハ斷食だんじきすべきなり
36 たとへいひけるは新衣あたらしきころも裁取きりとり舊衣ふるきころもつくろものあらじ若然もししかせバ新衣あたらしきころもをもそこな且新かつあたらしきよりとりたるきれふるきものとあは
37 また新酒あたらしきさけ舊革袋ふるきかはぶくろいるものあらじもししかせバ新酒あたらしきさけ其袋そのふくろをはりさき漏出もれいづかつ革袋かはぶくろすたるべし
38 新酒あたらしきさけ新革袋あたらしきかはぶくろいるべきものかくてこそふたつながらたもつなれ
39 舊酒ふるきさけのみ立刻たゞち新酒あたらしきさけ欲者のぞむものあら是舊これふるきもっとよしいへバなり


第六章

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[1] 逾越節すぎこし二日ふつかののちはじめ安息日あんそくにちイエスむぎはたけ徑行とほりしに其弟子麥そのでしむぎつみこれをにてもみくらひしかバ
2 あるパリサイのひとかれらにいひけるハ爾曹安息日なんぢらあんそくにちまじきことする何故なにゆゑ
3 イエスこたへいひけるハダビデおよびともありものうゑしときなしたることいまよまざる
4 すなはかみ殿いへいりたゞ祭司さいしほかくらふまじき供物そなへもののパンをとりくらひかつともありものにもあたへたり
5 又曰またいひけるハひと安息日あんそくにちにもしゅたるなり


6 またほか安息日あんそくにちイエス會堂くわいだういりをしこゝみぎ手枯てなへたるひとありけれバ
7 學者がくしゃとパリサイのひとイエスこれを安息日あんそくにちいやすならんかとうかゞひぬそはかれをうったへんとおもへバなり
8 イエスそのこゝろしりなへたるひとおきなかたてよといひけれバ其人そのひとおきてたて
9 イエスいひけるハわれなんぢらにとは安息日あんそくにちよきなすあしきなす又生またいけるたすくるところすいづれをかなすべき
10 つひ衆人ひとゞゝ環視みまはし其人そのひとのべよといひけれバかれそのごとくせしにすなハちいえほかごとくなれり
11 彼等大かれらおほいいかり如何いかイエスなさんとたがひかたりあへり


12 當時そのころイエス祈禱いのりためやまゆき終夜神よもすがらかみいのれり
13 夜明よけあイエス弟子でしよびそのうちより十二人じふににんえらびこれ使徒しとなづ
14 すなはペテロなづけたまひしシモンその兄弟きゃうだいアンデレおよびヤコブヨハ子ピリポバルトロマイ
15 マタ
[千七百五十二] トマスアルパイなるヤコブゼロデいへシモン
16 ヤコブ兄弟きゃうだいユダイスカリオテユダなりこのユダイエスわたしたるものなり
17 イエス是等これらともくだりたいらかなるところたちしに許多おほく弟子でしおびたゞしき人々ひとゞゝユダヤ四方しはうまたエルサレムおよびツロシドン海邊うみべより來集きたりあつまりてあるひ其教そのをしへきかんとしあるひやまひいやされんことねがへり
18 また惡鬼あくきなやまされたるものありことゞゝいやされたり
19 ひとゞゝみなイエスさはらんとせり是能力これちから其身そのみよりいで彼等かれらことゞゝいやせバなり


20 イエス擧弟子あげでしいひけるハ爾曹貧者なんぢらまづしきものさいわひなりかみくにすなは爾曹なんぢら所有ものなれバなり
21 爾曹なんぢらいまうゑたるものさいはひなりあくことをべけれバなり爾曹なんぢらいま哭者なけるものさいはひなりわらふことをべけれバなり
22 ひとためひとなんぢらをにくみまたとほざのゝし爾曹なんぢらあししとしてすてなバ爾曹 福なんぢら さいはひなり
23 其日そのひにハよろこおど爾曹天なんぢらてんおい賞賜大むくひおほいなれバなりその先祖せんぞ預言者よげんしゃなしたりしもかくごと
24 爾曹富者なんぢらとめるものわざはひなるかなすでに安樂たのしみうくれバなり
25 爾曹飽者なんぢらあけるものわざはひなるかなうゑんとすれバなり爾曹なんぢらいま笑者わらうものわざはひなるかなかなしなかんとすれバなり
26 すべてひとなんぢらをほめなバ爾曹禍なんぢらわざはひなるかなその先祖せんぞいつはり預言者よげんしゃなしたりしもかくごと
27 われきくところの爾曹なんぢらつげ其仇そのあだあい爾曹なんぢら憎者にくむものよく
28 誣者のろふものしゅく虐遇者なやむるものため祈禱きたうせよ
29 ひとなんぢのほゝ右方かたへうた亦左方またかたへほゝむけなんぢ外衣うはぎとら裏衣したぎをもこばまざれ
30 すべなんぢもとめこれあたなんぢものとらそれをまたもとむなか
31 己人おのれひとせられんとすること亦人またひとにも其如そのごと
32 おのれあいするものあいするハなに賞賜むくいあらんや惡人あくにんにてもおのれあいするものあいするなり
33 おのれよき行者なすものよきなすなに賞賜むくいあらんや惡人あくにんもまたかくごとなすなり
34 爾曹償なんぢらかへさるゝことんとおもふひとかすなに賞賜むくいあらんや惡人あくにんそのごとくかへしんとて亦惡人またあくにん
[千七百五十三] かすなり
35 爾曹仇なんぢらあだあい又善またよきをなしなにをものぞまずして借與かしあたへさら其賞賜そのむくいおほいなり且至上者かつしじょうしゃなら夫上者それたかきものおんわするゝものおよび不善者あしきものにまで慈愛めぐみほどこせバなり
36 是故このゆゑ爾曹なんぢらちゝ憐憫あはれみごと亦憐憫またあはれみなすべし
37 ひとすることなかさら爾曹なんぢらせられず
38 ひとあたへさら爾曹なんぢらあたへらるべし彼等量かれらはかりよくしておしいれゆすりいれあふるゝまでにして爾曹なんぢらふところいれ爾曹量なんぢらはかところ其量そのはかりにて亦人またひとはからるべし


39 またたとへ彼等かれらいひけるはめしひめしひ相者てびきをなしるや相共あひとも溝壑みぞおちいらざらん
40 弟子でしハそのまさらずおほよ全備ぜんびなるもの其師そのしごとくなるべし
41 なんぢ兄弟きゃうだいにある物屑ちりおのれにある梁木うつばりしらざるハなにぞや
42 如何いかおのれにある梁木うつばりずして兄弟きゃうだいむか兄弟きゃうだいなんぢにある物屑ちりわれとらせよといふことをんや僞善者ぎぜんしゃまづおのれのより梁木うつばりをとれさら兄弟きゃうだいにある物屑ちりとることあきらかにみゆべし
43 それ惡果あしきみむすぶ善樹よききあら又善果またよきみむすぶ惡樹あしききあら
44 すべてハそのよりしら荊棘いばらより無花果いちじくとら亦蒺藜またあざみより葡萄ぶだうとら
45 善人よきひとこゝろ善庫よきくらよりよきいだ惡人あしきひとハその惡庫あしきくらよりあしきいだ蓋心そはこゝろみつるよりくちいはるゝなり
46 爾曹なんぢらわがいふことをおこなハずしてなんわれしゅしゅよととなふるや
47 すべわれきた我言わがことばきゝ行者おこなふものたとへ爾曹なんぢらしめさん
48 其人そのひといへたつるにつちふかほり基礎いしずゑ磐上いわのうへおけるがごと洪水おほみづのとき横流ながれそのいへうつともうごかすことあたは是基礎これいしずゑ磐上いわのうへおけバなり
49 きゝおこなハざるもの基礎いしずゑなくいへつちうへたてたるひとごと横流ながれこれをうつときハ其家そのいへたゞちにたふ其頽壞そのやぶれまたはなはだし


第七章

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[1] イエスこのすべてのことたみ教畢をしへをはりカペナウンいりしに
2 ある百夫ひゃくにんかしらそのあいするしもべ
[千七百五十四] やみてしぬバかりなれバ
3 イエスこときゝユダヤ長老等としよりどもつかはしてきたしもべたすたまはんことをねがへ
4 彼等かれらイエスきたしきりすゝめいひけるハ此事このこともとむひと善人よきひとなり
5 我民わがたみあい我儕われらため會堂くわいだうたてたり
6 イエス彼等かれらともゆきもは其家そのいへちかづけるとき百夫ひゃくにん長朋友かしらともだちつかはしていはせけるハしゅ自己みづから勞動わづらはすことなか家裏やねのした入奉いれまつるは憚多おそれおほ
7 ゆゑわれなんぢのまへいづる亦憚またおそれあり第一言たゞひとこといだしたまハゞ我僕わがしもべいえ
8 そはわれひと權威けんゐしたつけものなるに我下わがした亦兵卒またへいそつありてこれゆけいへゆきかれにきたれいへきた我僕わがしもべこれなせいへすなはなすゆゑなり
9 イエスきゝこれあやししたがへる人々ひとゞゝかへりみいひけるハわれなんぢらにつげんイスラエルうちにてもいまかゝ篤信あつきしんあはざりき
10 つかはされたる者家ものいへかへりやみたりししもべすで全快ぜんくわいをなせり


11 翌日よくじつイエスナインいへまちゆきけるに許多おほく弟子でしおよび許多おほく人々ひとゞゝともゆけ
12 まちもんちかづきしとき舁出かきいださるゝ死人しにんあり其母そのはゝやもめにてひとりなりまち人々多ひとゞゝおほくこれにともな
13 主嫠しゅやもめあはれなくなかれといひ
14 ちかより其櫬そのひつぎつけけれバかけものどもとどまれりイエスいひけるハ少者わかきものわれなんぢにいふおきよ
15 しにたる者起ものおき且言かつものいはじイエスこれ其母そのはゝわたせり
16 衆人ひとゞゝみなおそれかみあがめいひけるハおほいなる預言者よげんしゃわれらのうちおこかみそのたみ眷顧かへりみたまへり
17 イエス此聲名このきこえユダヤ全国くにぢゅうまたあまね四方しほうひろがりぬ


18 ヨハ子弟子でしすべて是等これらことかれつげけれバ
19 ヨハ子二人ふたり弟子でしよび言遣いひつかはしけるハきたるべきものなんぢなるかまたわれらほかまつべき
20 その二人ふたりイエスきたいひけるハバプテスマのヨハ子我儕われらなんぢつかはしていはしむきたるべきものなんぢなるかまたわれらほかまつべきか
21 此時このときイエスおほくやまひあるひハなやみおよび惡鬼あくきつかれたるものいやまたおほくのめしひみゆることをあたへたり
22 イエ
[千七百五十五] 彼等かれら答曰こたへいひけるハ爾曹なんぢらみるところきくところをヨハ子ゆきつげ夫瞽者それめしひ見跛者みあしなへあゆ癩者らいびゃうきよま聾者つんぼハきゝしにもの復活いきかへされ貧者まづしきもの福音ふくいんきかせらる
23 おおよ我爲わがためつまづかざるものさいはひなり
24 ヨハ子使者つかひさりしのちイエスヨハ子こと衆人ひとゞゝいひけるはなにんとていでしやかぜうごかさるゝあしなる
25 さら爾曹なんぢらなにをんとていでしや美服やはらかなるころもたるひとなるか文繡うるはしきものおごれものわういへあり
26 さらなにんとていでしや預言者よげんしゃなるかしかりわれ爾曹なんぢらつげ是預言者これよげんしゃよりも卓越すぐれたるものなり
27 それなんぢさきだちてみちそなふ我使者わがつかひなんぢまへおくらんとしるされたるハすなはこれなり
28 われなんぢらにつげをんなうめもののうちいまだバプテスマのヨハ子よりおほいなる預言者よげんしゃなしされどかみくに至微者ちひさきものかれよりハおほいなるなり
29 ヨハ子きけ庶民すべてのたみまた税吏みつぎとりそのバプテスマをうけかみたゞしとせり
30 パリサイのひとまた教法師けうほうしそのバプテスマをうけみづかそこなひてかみむねそむきたり
31 され此世このよ人々ひとゞゝなに人々ひとゞゝなになぞら又何またなにたとへんや
32 童子市わらべいちたがひよび我儕笛われらふえふけども爾曹踊なんぢらおどら悲歌かなしみをすれども爾曹哭なんぢらなかずといふたり
33 そはバプテスマのヨハ子きたりてパンをもくらはさけをものまざれバ惡鬼あくきつかれたるものなりと爾曹なんぢらいへり
34 ひときたりてくらことをしのむことをすれバまたしょくたしなさけこの人税吏罪ひとみつぎとりつみあるひとともなりと爾曹なんぢらいへり
35 され智慧ちゑ智慧ちゑたゞしらる


36 あるパリサイのひとイエスまねきしょくせんことねがひけれバイエス、パリサイのひといへいりしょくつけ
37 まちうち惡行あしきなせをんなありけるがイエスがパリサイのひといへせるをしり蠟石らふせきはこ香膏にほひあぶら携來もちきた
38 イエスうしろにたち足下あしもとなげなみだにて其足そのあしうるほかしらをもてこれぬぐひかつ其足そのあしくちつけまた香膏にほひあぶらこれぬれ
39 イエスまねきたるパリサイのひとこれをこゝろうちいひ
[千七百五十六] るハ此人このひともし預言者よげんしゃならバさはりものたれなるまた如何いかなるをんななるしら此婦このをんな惡行あしきなせものなり
40 イエスこれこたへいひけるはシモンわれなんぢに言事いふことありこたへけるハいひたまへ
41 イエスいひけるハ或債主あるかしぬし二人ふたり負債人かりびとありて一人ひとり金五百一人きんごひゃくひとり五十ごじふかりしに
42 償方つくなひかたなかりけれバ債主かしぬしこの二人ふたりゆるしたりされ二人ふたりものその債主かしぬしあいすることいづれおほわれきかせよ
43 シモンこたへけるハわれおもふにゆるさるゝことおほものならんイエスいひけるはなんぢおもふところたがはざるなり
44 つひをんなかへりみてシモンいひけるハ此婦このをんなみるわれなんぢのいへいるなんぢ我足わがあしみづあたへ此婦このをんななみだにて我足わがあしうるほかしらをもてぬぐへ
45 なんぢ我首わがかしらあぶらぬら此婦このをんなわがこゝにいりときより我足わがあしくちつけやま
46 なんぢ我首わがかしらあぶらぬら此婦このをんな我足わがあし香膏にほひあぶらぬれ
47 是故このゆゑわれなんぢにいは此婦このをんなおほくつみゆるされたりこれより其愛そのあい亦多またおほきなりゆるさるゝことすくなもの其愛そのあい亦少またすくな
48 こゝおい其婦そのをんないひけるハなんぢ罪赦つみゆるさる
49 ともせるものどもこゝろうちいひけるハ此人このひと是何人これたれなれバつみをもゆる
50 イエスをんないひけるハなんぢしんなんぢをすくへ安然あんぜんにしてゆけ


第八章

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[1] 此後こののちイエス郷邑むらざと周遊へめぐりかみくに福音ふくいん宣傳のべつた十二じふに弟子でしともしたがひぬ
2 またさき惡鬼あくきうれへたりし者病ものやまひいやされたる婦等をんなどもしたがひたりすなはなゝつ惡鬼あくき逐出おいいだされたるマグダラいふマリア
3 またヘロデ家令かれいクーザつまヨハンナまたスザンナこのほかおほくをんなありてみなその所有しんだいイエス供事つかへたりき
4 おほく人々諸邑ひとゞゝまちゝゝよりいでイエスもとあつまりけれバたとへをもていへ
5 たねまく者種ものたねまかんとていでまけるとき路旁みちのほとりおちたねあり踐踏ふみつけられ且天空かつそらとりこれをくらへり
6 また石上いはのうへおちたねあり萌出はえいでかれたり是潤これうるほひなきがゆゑなり
7 またいばらなかおちたねありいばらとも生長そだちこれ
[千七百五十七] をふさげ
8 また沃地よきちおちたねあり生出はえいでむすべること百倍ひゃくばいせりこれ言畢いひをはりよばゝりけるハみゝありてきこゆるものきくべし
9 其弟子そのでしとふていひけるハこれいかなるたとへ
10 こたへけるハかみくに奥義おくぎ爾曹なんぢらにハしることをたまへほかものにハたとへてすてもみえきゝてもさとらざるためなり
11 それこのたとへ釋種こゝろたねかみことばなり
12 みちほとりおちしハきゝ後惡魔のちあくまため其心そのこゝろよりことばとらるゝものなりかれひとしんじてすくはれんことをおそ
13 石上いはのうへおちしハきくときよろこびてことばうくれどもなけれバしんずることしばしのみ患難わざはひ遇時あふときみちそむものなり
14 いばらなかおちしハきゝゆきこの諸慮こゝろづかひ貨財たから宴樂たのしみとにおほはれてみのらざるものなり
15 沃壤よきちおちしハたゞしくかつ善心よきこゝろにてことばきゝこれをまもしのびむすものなり


16 ともしびともうつはにてこれおほあるひ床下とこのしたにおくものなし入來いりきたもの其光そのあかりためだいうへおくべし
17 かくれあらはれざるものなくつつみしられず露出あらはれいでざるものなし
18 是故これゆゑ爾曹聽なんぢらきくことをつゝしもてものハなほあたへられ無有者もたぬものもてりとおもところものをもとらるべし


19 此時このときイエスはゝ兄弟きゃうだいきたりけれど群衆ぐんじふよりちかづくことあたはざりしかバ
20 或人あるひとこれをイエスつげいひけるハなんぢはゝ兄弟きゃうだいなんぢにあはんとてそとたて
21 イエスこたへいひけるハかみことばきゝおこなものすなは我母わがはゝわが兄弟きゃうだいなり


22 一日あるひイエス弟子でしともふねのり彼等かれらみづうみ前岸むかふわたるべしといひけれバすなは漕出こぎいだせり
23 ふねはしときイエスいねたり颶風湖おほかぜみづうみ吹下ふきおろふね水満みづみちんとしてあやふかりしかバ
24 弟子でしきたりてイエスさまいひけるハ我儕亡われらほろびんとすイエスおきかぜなみとをいましめけれバやみ平隱おだやかになりぬ
25 イエスいひけるハ爾曹なんぢらしんいづこにある彼等駭かれらおどろ且奇かつあやしみてたがひいひけるハ何人たれなるぞかぜみづとにめいぜしかバ又順またしたがへり
26 かくガリラヤむかへガダラびとつき
27 きしあがりときある一人邑ひとりむらよりいで
[千七百五十八] エスあふこのものひさし惡鬼あくきつかきものをきずいへすま惟塚たゞはかばにのみたりき
28 イエス喊叫さけびそのまへ俯伏ひれふ大聲おほごゑよばはりけるハ至上神いとたかきかみイエスわれなんぢとなにかかはりあらんやなんぢもとむわれをくるしむることなか
29 この惡鬼あくきひとよりいでよとイエスめいじたるによりてなりかれつかれたることすでにひさくさりまた桎梏あしがせにて繋守しばりまもれどもそれ打碎うちくだ惡鬼あくきためおはれ
30 イエスこれとふいひけるハなんぢなにいふこたへけるハレギヨンこれおほくの惡鬼あくきいりたるがゆゑなり
31 惡鬼あくきイエスねがひけるハめいじてそこなきところゆかしむるなか
32 こゝおほくぶた群山むれやまくさくひゐたりしが彼等かれらそのぶたいらんことをゆるせとねがひけれバこれゆるせり
33 惡鬼あくきそのひとよりいでぶたいりしかバ其群そのむれはげしく馳下かけくだ山坡がけよりみづうみおちおぼ
34 牧者かふものども其有そのありことにげゆきこれまちまた諸村むらゝゝつげたり
35 衆人ひとゞゝそのありことんとていでイエスもときたれバ惡鬼あくきはなれ人衣ひときものつけたしかなるこゝろにてイエス足下あしもとせるをおそれあへり
36 惡鬼あくきつかれたりしひとすくはれしさまたるものこのこと彼等かれらつげけれバ
37 ガダラ四方しはうおほく衆庶ひとゞゝイエスこゝさらんことをねがへ是大これおほいおそれしがゆゑなりイエスふねのりかへり
38 惡鬼あくきはなれたるひとイエスともをらんことをねがひけるにイエスこれさらしめて
39 いへにかへりかみなんぢなしおほいなることひとつげよといひけれバつひさりイエスおのれなしたまひしおほいなること遍邑むらぢゅうつたへたり


40 イエスかへりたるとき衆人ひとゞゝみな佇望まちゐこれよろこむか
41-42 ヤイロいへひとあり會堂くわいだうつかさなりとしおほよそ十二歳じふにさいなる一人ひとりむすめありて瀕死しぬばかりなりけれバきたりイエス足下あしもとふし我家わがいへきたたまはんことをねがへイエスゆくとき衆人ひとゞゝこれにおしあへり
43 をんなあり十二年血漏じふにねんちろうわづら醫者いしゃため其業しんだいことゞゝつひやしけれどたれにもいやさざりしが
44 イエスうしろきたり其衣そのころもすそさはりけれバ
[千七百五十九] たゞちいづることとどまり
45 イエスいひけるハわれさはものたれぞや衆人ひとゞゝハみなことさはれるものなしといへペテロおよびとも在者あるものどもいひけるハ衆人ひとゞゝなんぢに擁擠おしあひせまるにわれさはものたれぞといひたまふ
46 イエスいひけるハわれさはものあり能力ちから我身わがみよりいづるをおぼゆれバなり
47 其婦そのをんなみづからかくせぬをしりをのゝききたりまへふしさハりしゆゑそのたゞちにいえたることを衆人ひとゞゝまへつぐ
48 イエスいひけるハむすめ心安こゝろやすかれなんぢしんなんぢをすくへり安然あんぜんにしてゆけ
49 かくいへとき會堂くわいだうつかさいへよりひときたりてつかさいひけるハなんぢむすめはやしにたりわづらハすなか
50 イエスこれをきゝこたへつかさいひけるハおそるゝなかれたゞしんぜよむすめいゆべし
51 イエスいへいるペテロヤコブヨハ子およびむすめ父母ちゝはゝほかたれにもともいることをゆるさざりき
52 衆人ひとゞゝみなむすめため哭哀なきかなしみしかバイエスいひけるハなくなかれしにたるにあらいねたるのみ
53 彼等かれらそのしにたるをしれこれわらへり
54 イエス人々ひとゞゝみないだしてむすめをとり女起むすめおきよと呼曰よびいひけれバ
55 其魂そのたましひかへりてたちまおきたりイエスめいじてたべものあたへしかバ
56 父母ふたおや駭異おどろきイエスこのなししことをひとつぐるをいましたまへり


第九章

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[1] イエス十二じふに弟子でし召集よびあつすべて惡鬼あくきいだやまひいや能力ちから權威けんゐさづけたり
2 またかみくに宣傳のべつた病者やまひのものいやさせんため
3 彼等かれらつかはさんとしていひけるハ路資たびのよういなにをもとらざれつゑまた旅嚢たびぶくろくひものかねふたつころもをももつことなかれ
4 いづれいへいるとも其處そことどまりて亦其處またそこよりされ
5 爾曹なんぢら不接者うけぬものあらバ其邑そのまちいづときかれらにあかしのためあしよりちりはら
6 弟子でしいでゝあまね諸郷むらゝゝにゆき福音ふくいん宣傳のべつたへかつやまひいやせり


7 分封わけもちきみヘロデイエスなし諸事すべてのこときゝまどへ或人あるひとこれヨハ子よみがへれるなりといひ
8 あるひとエリヤあらはれたるなりといひまたあるひといにしへ預言者よげんしゃ一人ひとりよみがへれるなりいへ
[千七百六十] バなり
9 ヘロデいひけるハわれヨハ子くびきれかゝこときこゆるものたれなるかヘロデこれんとおも


10 使徒しとたち歸來かへりきたりて其行そのなししことをイエスつぐイエス彼等かれらともなひてひそかベテサイダいへまちほとりなる退しりぞきしに
11 衆人ひとゞゝしりてしたがひけれバこれうけかみくにことかたりかつもとむものいやせり


12 日昃ひかたぶくとき十二じふに弟子でしきたりてイエスいひけるハこゝなれバ衆人ひとゞゝさら四圍ほとり郷村むらざとへゆきて宿やどをとりしょくもとむことさせたまへ
13 イエスいひけるハ爾曹なんぢらこれにしょくあたへよこたへけるハ我儕われらたゞいつゝのパンとふたつうをあるのみこの許多おほくひとためゆきかふあらざれバほか食物しょくもつハなし
14 こゝをりをとこおほよそ五千人ごせんにんなりきイエス弟子でしいひけるハ衆人ひとゞゝ五十人ごじふにんづゝならせしめよ
15 弟子でしそのごとなし彼等かれらをみなせしめたり
16 イエスいつゝのパンとふたつうををとりてんあふしゅくしてこれをわり弟子でしあたへひとゞゝまへおかしむ
17 みな食飽くらひあきのこりくづ十二じふにかごひろひたり


18 イエスひとゞゝをらざりしとき祈禱いのりしたりしが弟子でしともをれイエスこれとふいひけるハ衆人ひとゞゝわれいひたれする
19 こたへいひけるハバプテスマのヨハ子あるひいにしへ預言者よげんしゃ一人ひとりよみがへれるなり
20 イエスいひけるハ爾曹なんぢらわれいひたれするペテロこたへけるハかみキリストなり
21 イエス彼等かれらいましめて此事このこと何人たれにもつぐなかれとめいじたり
22 又曰またいひけるハひとかならずおほくくるしみうけ長老祭司としよりさいし長學者をさがくしゃどもにすてられ且殺かつころされ第三日みっかめよみがへるべし
23 またイエス衆人ひとゞゝいひけるハもしわれにしたがハんとおもものおのれかち日々ひゞその十字架じふじかおふわれしたが
24 その生命いのち保全まったうせんと欲者するものこれうしなわがために生命いのちうしなものこれ保全まったうすべし
25 ひともし全世界せかいぢゅうするとも自己みづからうしなみづかほろびなバなにえきあらん
26 われ我道わがことばはづものをバひとまたおのが榮光えいくわうをもてきたとき
[千七百六十一] これをはづべし
27 われまこと爾曹なんぢらつげこゝ立者たつものうちかみくにみるまでハしなざるものあり
28 此事このこといひけるのち八日やうかバかりすぎイエスペテロヨハ子ヤコブともな祈禱いのりせんとてやまのぼれり
29 いのれるとき其顔そのかほかたちつねとことな其衣服そのころもしろくかゞやきぬ
30 二人ふたりひとありてこれものいへりすなはモーセエリヤなり榮光えいくわううちあらはれて
31 イエスエルサレムにてもはさらんとすることかた
32 ペテロおよともあり者等ものどもいたくねむりたりしがすでさめイエス榮光えいくわうまたともたて二人ふたりたり
33 この二人ふたりイエスわかるゝときペテロイエスいひけるハこゝをるよしわれらにみっついほりつくらたまひとつモーセのためひとつエリヤためにせん其言そのいふところをしらざりしなり
34 かくいへるときくもきたりて彼等かれらおほへり其雲そのくもいりしとき弟子でしたちおそれ
35 聲雲こえくもよりいでいひけるハ我愛子わがあいしなりこれきくべし
36 聲寂こえやみたればたゞイエス一人ひとりたり弟子でしたちくちとぢたりしこと當時そのときたれにもつげざりき


37 翌日山よくじつやまよりくだりけれバ許多おほく人々ひとゞゝイエスむか
38 其中そのうち或一人あるひとりよバはりていひけるハねがはくは我子わがこ眷顧かへりみたまへ我獨子わがひとりごなるに
39 惡鬼あくきためつかれてハ忽然たちまちさけびあわをふき拘攣ひきつけられてなやはなるゝことまことかた
40 われこれを逐出おひいだことなんぢ弟子でしもとめしかどあたはざりき
41 イエスこたへいひけるハ噫信あゝしんなき悖逆世まがれるよなるかなわれ爾曹なんぢらうち爾曹なんぢらしのび幾何時いつまであらんやなんぢこゝ携來つれきた
42 きたれ惡鬼あくきかれを傾跌たふし拘攣ひきつけイエスけがれたるおにせめ其子そのこいやちゝあたへたり
43 衆人ひとゞゝみなかみおほいなるちからおどろイエスなしことあやしめるときイエス弟子でしいひけるハ
44 此言このことば爾曹耳なんぢらみゝをさめよ夫人それひとひとわたされん
45 彼等かれらこのことばさとらざりしさとらざるやうかくされたる也彼等なりかれらもまたおそれ此事このこととはざりき


46 弟子等でしたちのうちたがひたれおほいならんとの争論あらそひ
[千七百六十二] りけれバ
47 イエス其心そのこゝろおもひしり孩子をさなごをとりそばにたてゝ
48 彼等かれらいひけるハ我名わがなため此孩子このをさなごうくものすなはわれうくるなりわれうくものわれつかはしゝものうくるなりすべ爾曹なんぢらがうちもっと小者ちひさきもの是大これおほいならん
49 ヨハ子こたへいひけるハなんぢよりおに逐出おひいだせるものたりしが我儕われらともしたがハざるゆゑこれをとゞめたり
50 イエスいひけるハとゞむることなか我儕われら敵抗てきたはざるもの我儕われら屬者つくものなり


51 イエスてんのぼるのときいたりければエルサレムゆくことを確定かたくさだめたり
52 使者等つかひたちさきつかはしけれバ彼等かれらゆきてイエスそなへんがためサマリヤびとむらいりしに
53 郷人むらびとそのエルサレム向往むかひゆくさまなるがゆゑイエスうけざりき
54 弟子でしヤコブヨハ子此事このこといひけるハしゅ我儕われらエリヤなしごとてんより召下よびくだ彼等かれらほろぼさんとすよき
55 イエスかへりみこれいましいひけるハ爾曹なんぢら心如何こゝろいかなるみづかしらざるなり
56 ひとひといのちほろぼためきたらたゞこれをすくためなりつひほかむらゆけ


57 みちゆくとき或人あるひとイエスいひけるハしゅ何處いづこゆきたまふとも我從われしたがハん
58 イエスかれいひけるはきつねあなあり天空そらとりありされどもひとまくらするところなし
59 またある一人ひとりいひけるハわれしたがかれいひけるハしゅまづゆきてちゝはうむことわれゆる
60 イエスいひけるハしにたるもの其死そのしにものはうむらせなんぢゆきかみくにひろめ
61 またある一人ひとりいひけるハしゅなんぢしたがハんまづゆきて家人いへのものわかれつぐることをゆる
62 イエスいひけるハすきつけうしろかへりみものかみくにかなはざるものなり


第十章

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[1] 此後主このゝちしゅまた七十人しちじふにんたてこれ兩個ふたりづゝにわかみづかいたらんとする諸邑諸地まちゝゝしょゝゝさきつかはさんとて
2 彼等かれらいひけるハ収稼かりいれものおほ工人はたらくものすくなゆゑにその稼主もちぬし工人はたらくもの収稼所かりいればおくらんことをねがふべし
3 ゆけわれ爾曹なんぢらつかはすはこひつじおほかみのなかにいるるがごと
4 さいふまた旅袋履たびぶくろくつをももつことなかみち
[千七百六十三] てひと問候ゑしゃくをもするなか
5 ひといへいらまづそのいへ安全あんぜんならんことねが
6 もしこゝに安全あんぜんあらバ爾曹なんぢらいの安全あんぜん其家そのいへとゞまらんもししからずバ其祈そのいの安全あんぜんなんぢらにかへるべし
7 其家そのいへとゞまりてそなふところのものハこれ飮食のみくひせよ蓋工人そははたらくもの其工錢そのあたひうるうべなれバなりいへよりいへうつることをざれ
8 まちいらんにむかふものあらバそのなんぢらのまへそなふものしょくせよ
9 まちうちなるやまひものいや亦衆人またひとゞゝかみくに爾曹なんぢらちかづけりといへ
10 もしまちいらんにむかふものなくバちまたいでいへ
11 我儕われらつきたるなんぢまちちり爾曹なんぢらむかひはらはされどもかみくにちかづけるをしれ
12 われ爾曹なんぢらつげ其日そのひいたらバソドム刑罰けいばつ此邑このまちよりもかへっやすかるべし
13 あゝわざはひなるかなコラジン噫禍あゝわざはひなるかなベテサイダ爾曹なんぢらうちなし異能ことなるわざもしツロシドンなししならバ彼等かれらはやあさをきはひかむして悔改くいあらためしなるべし
14 審判さばきにハツロシドン刑罰けいばつ爾曹なんぢらよりもかへっやすからん
15 すでてんにまであげられたるカペナウン又陰府またよみおとさるべし
16 爾曹なんぢら聽者きくものわれきくなり爾曹なんぢらすつものわれすつるなりわれすつものわれつかはしゝものすつるなり


17 七十人喜しちじふにんよろこかへりていひけるハしゅ惡鬼あくきさへもなんぢより我儕われらふくせり
18 イエスいひけるハわれいなづまごとサタンてんよりおつるを
19 われなんぢらに蛇蠍へびさそりふみまたてきすべてちからおさふる權威けんいさづけたりかなら爾曹なんぢらそこなものなし
20 しかれども惡鬼あくき爾曹なんぢらふくしゝことよろこびとするなか爾曹なんじらてんしるされしをよろこびとすべし
21 此時このときイエスこゝろよろこびていひけるハ天地てんちしゅなるちゝ此事このこと智者かしこきもの達者さときものとにかくして赤子をさなごあらはたまふをしゃちゝしかりそれかくごときハ意旨みこゝろかなへるなり
22 ちゝ萬物ばんぶつわれあたちゝほかたれなると識者しるものなく亦子またこおよびあらはところものほかちゝたれなると識者しるものなし
23 イエス弟子でしかへりみひそかいひけるハ爾曹なんぢら
[千七百六十四] がみるところのことるそのさいはひなり
24 われなんぢらにつげおほく預言者よげんしゃおよびわう爾曹なんぢらみるところのことんとせしかども爾曹なんぢらきくところのこときかんとせしかどもきかざりき


25 こゝ一個ひとり教法師けうほうしありたちかれこゝろいひけるハわれなにをなさ永生かぎりなきいのちうくべき
26 イエスいひけるハ律法おきてしるされしハなになんぢいかによむ
27 こたへいひけるハ爾心なんぢこゝろつく精神せいしんつくちからつくこゝろばせつくしてしゅなるなんぢかみあいすべし亦己またおのれごととなりあいすべし
28 イエスいひけるハなんぢこたしかこれおこなはゞいくべし
29 かれみづからをつみなきものにせんとてイエスいひけるハ我隣わがとなりとハたれなる
30 イエスこたへいひけるハあるひとエルサレムよりエリコくだるとき強盗ぬすびとあへ強盗ぬすびとその衣服いふく剝取はぎとりこれ打擲うちたゝ瀕死しぬばかりになしてさり
31 かゝとき或祭司あるさいしこのみちよりくだりしがこれ見過みすごしにしてゆけ
32 またレビのひとこゝいたすゝおなじ過行すぎゆけ
33 あるサマリア人旅ひとたびしてこゝきたこれあはれ
34 ちかよりてあぶらさけ其傷そのきずさしこれをつゝみおの驢馬ろばにのせ旅邸はたごや携往つれゆき介抱かいほうせり
35 次日つぎのひいづるとき銀二枚ぎんにまいいだ館主あるじあたへ此人このひと介抱かいほうせよつひえもしまさらわれかへりのときなんぢにつくのふべしといへ
36 され此三人このさんにんのうちたれ強盗ぬすびとあひものとなりなると爾意なんぢおもふや
37 かれいひけるハ其人そのひと衿恤あはれみたるものなりイエスいひけるハなんぢゆきそのごとく


38 かれらみちゆけときイエス一郷あるむらいりけれバマルタいへをんなこれをむかへ自己みづからいへいり
39 その姉妹はらからマリアいへものありイエス足下あしもとすわりて其道そのことばきけ
40 マルタ供給もてなしのことおほくしてこゝろいりみだれイエスちかよりていひけるハしゅ姉妹しまいわれを一人遺ひとりのこし勞動はたらかしむるをなにともおもはざるかかれめいじてわれたすけしめよ
41 イエスこたへいひけるハマルタマルタ爾多端なんぢおほくのことにより思慮おもひわずらひて心勞こゝろづかひせり
42 されなくかなふまじきものひとつなりマリアすで善業よきかたえらびたりかれよりとるべからざるものなり


第十一章

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[1] イエス其所そのところにて祈禱いのりしけるにをはりしとき一人ひとり弟子でしいひけるハしゅヨハ子其弟子そのでしをしへごと我儕われらにもいのることををしへたまへ
2 イエスいひけるハいのときかくいふべしてんましま我儕われらちゝねがはくハ聖名みな尊崇あがめさせたま爾國みくにきたらせたま爾旨みこゝろてんなるごとくにもならたま
3 我儕われら日用にちようかて毎日ひごとあたへたまへ
4 我儕われらつみをかものすべゆるせバ我儕われらつみをもゆるたま我儕われら試探こゝろみあはせずあくより拯出すくひだたま
5-6 また彼等かれらいひけるハ爾曹なんぢらうちもし或人夜半あるひとよなか其友そのともゆきとも朋輩旅ともだちたびよりきたりしにそなふべきものなきゆゑみつのパンをかせよといはんに
7 うちをるものこたへわれわづらはすなかもはかどとぢわれととも兒曹こどもとこあれおきあたふることあたはずといふものあらん
8 われなんぢらにつげ其友そのともなるによりおきあたへざれどもひたすらこふゆゑ其需そのもとめしたがおきあたふべし
9 われなんぢらにつげもとめさらあたへられたづねさらばあひもんたゝけさらひらかるゝことを
10 そはすべてもとむものたづぬるものハあひもん叩者たゝくものひらかるゝことを
11 爾曹なんぢらのうちちゝたる者誰ものたれ其子そのこのパンをもとめんにいしあたへんやうをもとめんにそれかへへびあたへんや
12 たまごもとめんにさそりあたへんや
13 され爾曹惡者なんぢらあしきものながら善賜よきたまものをその兒曹こどもあたふるをしるましててんいま爾曹なんぢらちゝもとむもの聖靈せいれいあたへざらん


14 イエス瘖啞おふしなる惡鬼逐出おひいだしけるに惡鬼あくきいでゝ瘖啞おふしものいひしかバ人々駭ひとゞゝおどろけり
15 其中そのうちなるものいひけるハかれ惡鬼あくきかしらベルゼブルより惡鬼あくき逐出おひいだせるなり
16 またある人々ひとゞゝイエスこゝろみんとててんよりの休徴しるしもとめたり
17 イエスそのこゝろしりいひけるハたがひ分争わかれあらそくにほろたがひ分争わかれあらそいへたふるゝなり
18 もしサタン分争わかれあらそハゞ其國そのくにいかでたゝんやそれなんぢらわれいひベルゼブルより惡鬼あくき
[千七百六十六] 逐出おひいだすとせり
19 もしわれベルゼブルより惡鬼あくき逐出おひいださバ爾曹なんぢら子第こどもたれより惡鬼あくき逐出おひいだすやそれかれらハ爾曹なんぢら裁判人さいばんにんなるべし
20 もしわれかみゆびをもて惡鬼あくき逐出おひいだしたるならバかみくにもは爾曹なんぢらきたれり
21 勇者鎧つよきものよろひやしきまもるときハ其所有安全そのもちものあんぜんなり
22 もしこれより勇者つよきものきたりてそれかつときハ其恃そのたのみとせるよろひうば且贓物かつぶんどりものわかつべし
23 われともならざるものわれそむわれともあつめざるものちらすなり


24 惡鬼人あくきひとよりいでかわきたるところをめぐりやすきもとむれどもずしていひけるハ我出わがいでいへかへらん
25 すできたりしに掃浄はききよまかざれるを
26 つひゆきおのれよりもあしなゝつ惡鬼あくきたづさいりこゝすまへ其人そのひとのち患狀ありさままへよりさらあしかるべし
27 このこといへるとき群衆ぐんじふなかより一婦聲あるをんなこゑあげいひけるハなんぢはらみはらなんぢすひさいはひなり
28 イエスこたへけるハしかりされどかみことばきゝまもものさいはひにハしか


29 人々擁集ひとゞゝおしあつまれるときイエスいひけるハいまあし奇跡しるしもとむるとも預言者よげんしゃヨナ奇跡しるしほか奇跡しるしあたへられじ
30 そはヨナニ子ベひと奇跡しるしなりごとひといま奇跡しるしなるべし
31 南方みなみ女王審判じょわうさばきともたちいまひとつみさだめんかれはてよりソロモン智慧ちゑきかんとてきたれりそれソロモンよりおほいなるものこゝにあり
32 ニ子ベ人審判ひとさばきともたちいまひとつみさだめん彼等かれらヨナ勸言をしへより悔改くいあらためたりそれヨナよりおほいなるものこゝにあり
33 ともしびともしかくれたるところあるひハますしたにおくものなし入來いりきたもの其光そのひかりため燭臺しょくだいうへおくなり
34 あかりなりなんぢ目瞭めあきらかならバ全身ぜんしんあかるく其目眊そのめあしけれバなんぢくら
35 ゆゑなんぢにあるひかりくらからぬやうつゝしめよ
36 もしなんぢ全身光明ぜんしんあきらかにして暗所くらきところなくバともしびかゞやきてなんぢてらごとまった光明あきらかなるべし


37 イエスかたれるときあるパリサイの人共ひとともしょくせんことねがひけれバいり
[千七百六十七] しょくつけ
38 そのしょくするさきあらふことをざりしをてパリサイの人異ひとあやしめり
39 しゅこれにいひけるハ爾曹なんぢらパリサイの人椀ひとわんさらそときよくされ爾曹内なんぢらうち貪欲どんよくあくにてみて
40 無知おろかなるものそとつくりものハまたうちをもつくらざりし
41 なんぢら所有物もてるものほどこさら爾曹なんぢらためすべてものきよまれるなり
42 わざはひなるかななんぢらパリサイのひと薄荷、茴香はくかう、いきょうおよびすべて野菜十分やさいじふぶんいち取納とりおさめたゞしきかみあいすることをすつこれおこなふべきことなりかれ亦廢またすつべからざるものなり
43 わざはひなるかななんぢらパリサイのひと會堂くわいだう高座市上かうざまち問安あいさつこのめり
44 わざはひなるかなそれ爾曹なんぢら隱沒かくれたるはかごと其上そのうへある人々ひとゞゝこれをしらざるなり
45 ある教法師けうはふしこたへていひけるハ此言このことば我儕われらをもはずかしむ
46 イエスいひけるハ爾曹なんぢらわざはひなるかな教法師けうはふしたへがたきひとおはみづか指一ゆびひとつをもつけ
47 わざはひなるかななんぢらハ預言者よげんしゃはかたつなんぢらの先祖せんぞこれころせり
48 爾曹先祖なんぢらせんぞなせわざをこのむ證明あかしなせそれかれらハこれころ爾曹なんぢら其墓そのはかたつ
49 是故このゆゑかみ智慧ちゑいへることあり我預言者われよげんしゃおよび使徒しと彼等かれらつかはさんに其中そのうち或者あるものころ或者あるものをバくるしむべしと
50 創世よのはじめより以來このかたながしゝすべて預言者よげんしゃ此代このよおいたゞさんとするなり
51 すなはアベルより殿みや祭壇まつりだんあひだころされたるザカリヤにまでいたるわれまこと爾曹なんぢらつげこれ此世このよたゞすべし
52 なんぢらわざはひなるかな教法師けうはふし智識さとりかぎとりみづかいら且入かついらんとするものをもこばめ
53 此言このこといへるとき學者がくしゃとパリサイの人々深ひとゞゝふか憤恨いきどほりふくみ多端さまゞゝこととひかけ
54 そのくちよりいづことば何事なにごととらうったへんとしてうかゞひたり


第十二章

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[1] そのとき数萬すまん人々相踐ひとゞゝあひふみあふほどあつまれりイエス先弟子まづでしいひけるハ爾曹なんぢらパリサイのひと麪酵ぱんだねつゝしめよ是僞善これぎぜんなり
2 それおほはれてあらはれざるものハなくかくれしられざるものハなし
3 是故このゆゑなんぢ
[千七百六十八] 曹幽暗らくらきかたりしことハ光明あかるさきこゆべしひそかなるへやにてみゝ附言つきいひしことハ屋上やのうへひろがるべし
4 我友わがとも爾曹なんぢらつげ身體からだころしてのちなにをも爲能なしあたはざるものおそるゝなか
5 われおそるべきもの爾曹なんぢらしめさんころしたるのち地獄ぢごく投入なげいる權威けんいもてものおそれわれまことに爾曹なんぢらつげこれおそるべし
6 いつゝすゞめ二錢にせんにてうるあらずやしかるにかみおいてハ其一そのひとつをもわすたまハず
7 爾曹なんぢらかしらまたみなかぞへらるゆゑおそるゝなか爾曹なんぢらおほくすゞめよりもまされり
8 またわれ爾曹なんぢらつげわれひとまへしるいはものをばひと亦神またかみ使者つかひまへこれしるいは
9 われひとまへしらずといはものかみ使者つかひまへかれしらずといはるべし
10 おほよひとそしものゆるさるべけれど聖靈せいれいけがものゆるさるべからず
11 ひとなんぢらを會堂くわいだうまた執政つかさおよびけんあるものまへ曳携ひきつれなバ如何いかにこたへなにいはんとおもわづらなか
12 其時そのときいふべきこと聖靈せいれいなんぢらにしめすべし


13 衆人ひとゞゝうちより一人ひとりイエスいひけるハ兄弟きゃうだい遣業ゆゐもつわれわかてよといひたまへ
14 イエスいひけるハひとたがわれをたて爾曹なんぢら裁判人さいばんにんまたものわかものなせしぞ
15 イエス衆人ひとゞゝいひけるハ戒心こゝろして貪心たんしんつゝしめよ夫人それひと生命せいめい所蓄もつものゆたかなるにハよらざるなり
16 またたとへ彼等かれらかたりいひけるハ或富人あるとめるひとその田畑はたけよくみのりけれバ
17 みづかおもひいひけるハ作物つくりものをさむところなきを如何いかにせん
18 又曰またいひけるハわれかくなさ我倉わがくらこぼさらおほいなるをたてすべて作物さくもつたから其所そこをさむべし
19 かく靈魂たましひむか靈魂たましひ多年たねんすごすほどの許多おほく貨物たからもちたれバ安心あんしんして食飮楽くいのみたのしめよといはんとす
20 しかるにかみこれにいひけるハ無知おろかなるもの今夜こよひなんぢが靈魂たましひとらるることあるべしさらなんぢそなへものものになる
21 おほよおのれためたからたくはかみついとまざるものかくごときなり
22 イエスその弟子でしいひけるハゆゑわれなんぢらにつげ爾曹生命なんぢらいのちためなにくら身體からだ
[千七百六十九] のためなにんとておもわづらなか
23 生命いのちかてよりまさ身體からだころもよりもまされり
24 からす思見おもひみまかからくらをも納屋なやをももたされどもかみハなほ此等これらやしなまし爾曹なんぢらとりよりもたふときこと幾何いくばくぞや
25 爾曹なんぢらのうちたれかよくおもわづらひて其生命そのいのち寸陰すんいん延得のべえんや
26 され最小事いとちいさきことすらあたはざるになん其他そのほかおもわづらふや
27 百合花ゆり如何いかにして生長そだつかをおもつとめつむがざる也我爾曹なりわれなんぢらつげソロモン栄華えいぐわきはみときだにも其装そのよそほひこのはなひとつしかざりき
28 かみ今日野けふのあり明日爐あすろ投入なげいれらるゝくさをも如此かくよそはせたまへバまし爾曹なんぢらをや吁信仰あゝしんかううすきもの
29 爾曹何なんぢらなにくらなにのまんともとむなか
30 すべ是等これらもの世界せかい國人くにびともとむるものなりなんぢらのちゝ是等これらもの爾曹なんぢらなくかなはことしる
31 たゞかみくにもとめよさら是等これらもの爾曹なんぢらくわへらるべし
32 ちいさむれおそるゝなか爾曹なんぢらちゝよろこびてくに爾曹なんぢらあたたまハん
33 爾曹なんぢら所有もちものうりほどこおのためつねふるびざる財布すなハちつきざる財寶たからてんそなへ其處そこ盗賊ぬすびとちかよらずしみそこなハざるなり
34 爾曹なんぢら財寶たからあるところにハ爾曹なんぢらこゝろまたそこにあるべし
35 爾曹腰なんぢらこしおび火燈ともしびともしてをれ
36 主人婚筵しゅじんこんえんより歸來かへりきたもんたゝかすみやかにひらかためかれ待人まつひとごとくせよ
37 主人しゅじんきたりて其目そのめさまをるなバ此僕このしもべさいはひなりまことわれなんぢらにつげ主人しゅじんみづからこしおびしもべしょくつかすゝみこれ供事きふじすべし
38 あるひ二更にかうあるひハ三更さんかう主人しゅじんきたりてしかなせるをなバ此僕このしもべさいはひなり
39 爾曹なんぢらこれをしるべしいへ主人賊あるじぬすびといづれのとききたるかをしら其家そのいへまもりやぶらせまじ
40 され爾曹なんぢらあらかじめそなへせよ不意おもはざるときにひときたらんとすれバなり
41 ペテロいひけるハ此譬このたとへ我儕われらいふまたすべてひといふ
42 しゅいひけるハときおよび食物しょくもつ給與あてがはしめんため主人しゅじんがその僕等しもべどもうへたてたる忠義ちゅうぎにしてさといへ
[千七百七十] づかさたれなる
43 其主人そのしゅじんきたるときかくごとつとむるをらるゝしもべさいはひなり
44 われまことに爾曹なんぢらつげ其所有そのもちものみなかれにつかさどらすべし
45 もしその僕心しもべこゝろうち主人しゅじんき[た]るハおそからんとおもひその僕婢しもべしもめうちたゝき食飮くいのみして且酒かつさけゑひはじめバ
46 其僕そのしもべ主人しゅじんおもハざるのしらざるのとききたりてこれ斬殺きりころ其報そのむくい不信者ふしんじゃおなじうすべし
47 僕主人しもべあるじこゝろしりながら預備そなへせずまたそのこゝろしたがはざるものうたるゝことおほからん
48 しらずしてうたるべきことなしものうたるゝことすくなからんおほあたへらるゝものおほもとめらるべしおほあづくれバこれよりおほもとむべし


49 われ投入ながいれためきたれりわれなにをかのぞすで此火このひもえたらんことなり
50 われうくべきのバプテスマあり其成遂そのなしとげらるゝまで我痛わがいたみいかバかりぞ
51 われ安全あんぜんあたへんとてきたるとおもふやわれなんぢらにつげしからかへっ分爭わかたしむ
52 いまよりのち一家いっけ五人ごにんあらバ三人さんにん二人ににん敵對てきたい二人ににん三人さんにん敵對てきたいしてわかるべし
53 ちゝちゝはゝむすめむすめはゝしうとめ其婦そのよめよめ其姑そのしうとめ敵對てきたいしてわかるべし
54 イエスまた衆人ひとゞゝいひけるハくも西にしよりおこるをたゞちあめふらんと爾曹なんぢらいふはたししか
55 みなみよりかぜふけバあつからんと爾曹なんぢらいふはたししか
56 僞善者ぎぜんしゃ天地てんち色象いろわかつことをしり此時このときわかあたはざるはなんぞや
57 またなんみづか公義たゞしきさだめざる
58 なんぢうったふものとも有司つかさゆくとき途中とちゅうにてこゝろつくしてかれよりゆるされんことをもとめよおそらくハうったふものなんぢを裁判人さいばんにんにひき裁判人さいばんにんなんぢを下吏したやくわた下吏したやくなんぢをひとやいれ
59 われなんぢにつげ一錢いっせんのこらつくのふまでハなんぢそこをいづることをざるなり


第十三章

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[1] 當時そのころあつまりたるものうちピラトガリラヤびと其供物そのそなへものまぜことイエスつぐものあり
2 イエスこたへ彼等かれらいひけるハ爾曹なんぢらこのガリラヤびとかくごとなやまされしゆゑすべてガリ
[千七百七十一] ラヤびとよりもまさりてつみあるものおもふや
3 われなんぢらにつげしから爾曹悔改なんぢらくいあらためずバみなおなじくほろぼさるべし
4 シロアムやぐらたふれて壓死おしころされし十八人じふはちにんエルサレムすめすべて人々ひとゞゝよりもまさりてつみあるものおもふや
5 われ爾曹なんぢらつげしから爾曹悔改なんぢらくいあらためずバみなおなじくほろぼさるべし
6 またこのたとへいへ或人あるひとその葡萄園ぶだうばたけうゑおきたる無花果樹いちじくありしがきたりこれもとむれどもざりけれバ
7 其園丁そのはたけつくりいひけるハ我三年われさんねんきたりて此無花果樹このいちじくもとむれどもこれきりされなんいたづらにふさぐ
8 園丁はたけつくりこたへけるハしゅわれその周圍まはりほりこれこやしするまで今年ことしゆる
9 もしむすバゝよしもしむすばずばのちこれきるべし


10 イエス安息日あんそくにち或會堂あるかいだうにておしへしに
11 十八年鬼じふはちねんおにわづらはされたるをんなあり傴僂かゞまりすこしのぶることあたはざりき
12 イエスこれてよびをんななんぢ其病そのやまひよりはなさるるといひ
13 をんなおきけれバたゞちのびかみ讃美あがめたり
14 會堂くわいだうつかさイエス安息日あんそくにちいやしたることいかりこたへて衆人ひとゞゝいひけるハわざべきの日六日ひむいかあれバ其中そのうちきたりていやさるべし安息日あんそくにちざれ
15 しゅかれにこたへいひけるハ僞善者ぎぜんしゃ爾曹なんぢらおのゝゝ安息日あんそくにちにハ其牛そのうしろばをときこやより牽出ひきいだしてみづのまさゞる
16 まし此婦このをんなアブラハムすゑなり十八年じふはちねんサタンしばられたる其結そのむすび安息日あんそくにちとくべからざらん
17 イエス如此かくいひけれバ敵對てきたいしゝものみなはぢ又衆人またひとゞゝみな其行そのなし慈惠かたじけなきことをよろこべり
18 イエスまたいひけるハかみくになになぞらまたなにゝたとへんや
19 一粒ひとつぶ芥種からしだねごとひとこれをとり其園そのはたけまけ長生そだちおほいなるとなり天空そらとりそのえだすむなり
20 またいひけるハ我神われかみくになにたとへんや
21 麪酵ぱんだねごとをんなこれをとり三斗さんとなかかくせばことゞゝ發出ふくれいだすなり


22 イエスをしへつゝ各城各郷まちゝゝむらゝゝすぎエルサレムむかひ旅行たびだて
23 或人あるひといひけるハしゅすくはるゝものすくな
24 イエ
[千七百七十二] 彼等かれらいひけるハ窄門せまきもんいるためにちからつくわれなんぢらにつげいらこともとめあたはざるものおほし
25 いへ主人あるじおきてもんとぢのちにたちもんたゝきしゅしゅわれひらけいはんに主人あるじこたへてわれなんぢらハ何處いづこよりきたりしかしらずといは
26 しかとき我儕われらなんぢまへ食飮くひのみなんぢまた我儕われらちまたをしへたりしと言出いひいださんに
27 主人あるじこたへてわれなんぢらにつげ何處いづこよりきたりしかしら皆惡みなあくものわれされいは
28 爾曹なんぢらアブラハムイサクヤコブおよすべて預言者よげんしゃかみくにあり爾曹なんぢらそと投出なげいださるゝをとき哀哭切齒かなしみはがみすることあるべし
29 また人々西ひとゞゝにし東北ひがしきたみなみよりきたりてかみくにするならん
30 それあとものさきさきものあとなるべし


31 當日このひあるパリサイの人々來ひとゞゝきたりてイエスいひけるハヘロデなんぢころさんとするゆゑこゝ離往さりゆけ
32 こたへいひけるハ爾曹なんぢらゆきて其弧そのきつねつげ我今日明日惡鬼われけふあすあくき逐出おひいだやまひいや第三日みっかめ此事このことをはらん
33 されども今日明日けふあすまた次日つぎのひわれかならずゆくべし蓋預言者そはよげんしゃエルサレムそところさるゝことあらねバなり
34 あゝエルサレムエルサレム預言者よげんしゃころなんぢつかはされしものいしにてうてもの母鷄めんどりひなつばさしたあつむるごとわれなんぢの赤子こどもあつめんとしこと幾回いくたびぞや爾曹なんぢらこのま
35 爾曹なんぢらいへあれちなりのこさるべしまことわれなんぢらにつげしゅよりきたものさいはひなりと爾曹なんぢらいはんときいたるまでわれざるべし


第十四章

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[1] イエス安息日あんそくにち食事しょくじためあるつかさなるパリサイのひといへいりしに人々ひとゞゝかれをうかゞひたり
2 其前そのまへ腹脹すゐきわづらひたるひとありしかバ
3 イエスこたへ教法師けうほうしとパリサイの人々ひとゞゝいひけるハ安息日あんそくにちいやことよきいな
4 かれら黙然もくねんたりイエスかのひととらいやしてこれさらしめ
5 彼等かれらこたへいひけるハ爾曹なんぢらのうちたれろばあるひハうしなどのあなおちたらんに安息日あんそくにちにハすみやかに曳出ひきいださゞる
6 かれ
[千七百七十三] このことつきこたふることあたはざりき


7 かく其席そのせきまねかれたる人々ひとゞゝ首坐かみざえらぶイエスたとへ彼等かれらいひけるハ
8 なんぢ婚筵こんえんまねかれんとき首座かみざすることなかおそらくハなんぢより尊人たふときひとまねかれなバ
9 かれなんぢまねきものきたりて此人このひとゆづれといは爾羞なんぢはぢ末座ばつざゆくべし
10 是故このゆゑなんぢまねかれんときゆき末座ばつざせよまねき者來ものきたりてとも首座かみざすゝめなんぢいは同席どうせきものまへ爾尊なんぢたふとまるべし
11 おほよみづかたかぶるものくだされみづかへりくだるものたかくせらるべし
12 またかれをまねけものいひけるハ爾午餐なんぢひるげあるひハ晩餐ゆふげもうくるとき朋友ともだち兄弟きゃうだい親類しんるいまたとめとなりひとまねくなかれおそらくハ彼等かれらまたなんぢまねき其報答そのむくひなさ
13 爾筵なんぢふるまひなさ貧乏まづしきもの廢疾かたは跛者あしなへ瞽者めしひなどをまね
14 さら爾福なんぢさいはひなるべしそはかれらハなんぢむくゆることあたはたゞし人々ひとゞゝよみがへらん其時そのときなんぢに報答むくひあれバなり
15 ともしょくせるもの一人ひとりこれをきゝイエスいひけるハかみくにしょくするものさいはひなり
16 イエスかれいひけるは或人あるひとおほいなるふるまひまうけ多賓おほぜいまねけり
17 ふるまひのときしもべ其請そのまねきたるものつかはして百物すべてのものはやそなはりたれバきたるべしといはせけるに
18 彼等かれらみなおなじことはり其始そのはじめものかれにいひけるハ我田地われでんちかひたれバゆきざるをねがはくハわれゆるたま
19 又一人またひとりものいひけるハ我五耦われいつくびきうしかひたれバこれこゝろむるためゆかねがはくハわれゆるたま
20 又一人またひとりものいひけるハ我妻われつまめとりたり是故このゆゑゆくことをざるなり
21 其僕そのしもべかへりて此事このこと主人しゅじんつげけれバ主人怒しゅじんいかり其僕そのしもべいひけるハすみやかにまち衢巷ちまたゆき貧者まづしきもの廢疾かたは跛者あしなへ瞽者めしひなどをこゝ引來つれきた
22 しもべいひけるハしゅおほせごとなせされなほあまりのあり
23 主人僕しゅじんしもべいひけるハ道路みち藩籬まがきほとりにゆきしひ人々ひとゞゝ引來つれきた我家わがいへみたしめよ
24 われなんぢらにつげかのまねきたる人々ひとゞゝ一人ひとりだに我筵わがふるまひあぢはものなし


25 おほく人々ひとゞゝイエスともゆき
[千七百七十四] しがイエスかへりみて彼等かれらいひけるは
26 おほよわれきたりてその父母、妻子、兄弟、姉妹ふぼさいしきゃうだいしまいまたおのれ生命いのちをもにくものあらざれば我弟子わがでしなることを
27 またその十字架じふじかおはずしてわれしたがもの我弟子わがでしなることを
28 なんぢらたれしろきづかんに先坐まづざして其費そのつひえこのことなるまでにたるいなはからざらん
29 おそらくハどだいすゑこれ成能なしあたはずバ見者みるものみな嘲笑あざわらひ
30 此人このひと築始きづきかけ成遂なしとげざりしといは
31 またわういでてほかわうたゝかはん先坐まづざして此一萬人このいちまんにんをもてかれ二萬人にまんにんてきすべきやいなはからざらん
32 もししかずバてきなほへだゝれるとき使つかひつかはして和睦わぼくもとむべし
33 されかくごと爾曹なんぢらその所有もちものことゞゝすてざるもの我弟子わがでしなることを
34 しほ善物よきものなりされどもしほそのあぢうしなはゞなにをもてこれあぢつけんや
35 にもこえにもえきなくそとすてらるゝなりきこゆものきくべし


第十五章

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[1] さて税吏みつぎとりつみあるものどもイエスきかんとてちかよりけれバ
2 パリサイのひと學者がくしゃたち譏誚つぶやきいひけるハ此人このひとつみあるひとまじはりてともしょくせり
3 イエス此譬このたとえ彼等かれらかたりいひけるハ
4 爾曹なんぢらのうちたれ一百いっぴゃくひつじあらんにもしそのひとつうしなハゞ九十九くじふくにおきゆき其失そのうしなひひつじうるまでハたづねざらん
5 尋得たづねえよろこびこれおのれかたかけ
6 いへかへり其友そのとも其隣そのとなり人々ひとゞゝ召集よびあつめいはわれともよろこわがうしなへるひつじたれバなり
7 われ爾曹なんぢらつげかくごと一人ひとりつみある人悔改ひとくいあらためなバ悔改くいあらたむるにおよばざる九十九くじふく義人ぎじんよりハ尚天なほてんおいよろこびあらん
8 またをんなのうちたれ金錢十枚きんすじふまいをもち其一枚そのいちまいうしなはんに燈火ともしびともしいへ掃除そうじこれうるまでハねんごろたづねざらん
9 尋得たづねえ其友そのとも其鄰そのあたり人々ひとゞゝ召集よびあつめいはわれともよろこわがうしなへる金錢きんすたれバなり
10 われ爾曹なんぢらつげかくごと一人ひとりつみある人悔改ひとくいあらためなバかみ使つかひまへよろこびあるべし


11 またいひけるハ或人子二人あるひとこふたりあり
12 そ
[千七百七十五] の季子父おとうとちゝいひけるハちゝ我得わがうべきしんだいわれ分与わけあたへちゝそのしんだい彼等かれらわかちたれバ
13 幾日いくひざるに季子おとうとそのしんだいことゞゝあつめ遠国ゑんごく旅行たびだちせしが放蕩はうたうにして其分賣そのもちものみなそこにてつひやせり
14 ことゞゝつひやしゝときおほいなる餓饉きゝんそのありかれともしくなりはじめけれバ
15 ゆき其地そのち一民あるひとよせたり其人豕そのひとぶたかふためにかれつかはせり
16 かれぶたしょくするところ豆莢まめがらをもておのはらみたさんとおもふほどなれどなにをもかれあたふひとなし 17 みづか省悟かへりみいひけるハ我父わがちゝところにハ食物しょくもつあまれる傭人やとひびと許多いくばくあるわれうゑしなんとす
18 たち我父わがちゝゆきいはちゝ我天われてんなんぢまへつみおかしたれバ
19 なんぢとなふるにたらざるものなりなんぢ傭人やとひびと一人ひとりごとわれなしたまへと
20 すなはたち其父そのちゝゆけなほとほくありしに其父そのちゝかれをあはれ趨往其頸はしりゆきそのくびいだき接吻くちづけしぬ
21 子父こちゝいひけるハちゝ我天われてんなんぢまへつみおかしたれバなんぢとなふるにたらざるなり
22 ちゝその僕等しもべどもいひけるハいと美服よききもの携來もちきたりてこれ其指そのゆびをはめ其足そのあしくつ穿はかせよ
23 またこえたるこうし牽來ひききたりてほふ我儕食われらしょくしてたのしまん
24 これわが子死こしに復生またいきうしなひて復得またえたれバなりとて彼等かれらともたのしはじ
25 その兄田あにはたけありしがかへりいへちかづなりものをどりおときゝ
26 そのしもべ一人ひとりよび是何事これなにごとぞやととへるに
27 僕曰しもべいひけるハなんぢ弟歸おとうとかへりたりつゝがなくかれたりしによりなんぢ父肥ちゝこえたるこうしほふりたるなり
28 あにいかりていら是故このゆゑ其父そのちゝいでゝかれすすめしかバ
29 ちゝこたへいひけるハ我多年われたねんなんぢにつかへいまなんぢいましめそむかされども我友わがともたのしためこひつじをもあたへことなし
30 しかるあそびめためなんぢしんだいつひやしたるこのなんぢがかへれバこれためこえたるこうしほふれり
31 ちゝかれにいひけるハなんぢつねわれともありまた我所有わがもちものみななんぢのものなり
32 なんぢ弟死おとうとしに復生またいきうしなひて復得またえたるがゆゑ我儕喜われらよろこびたのしむハ當然たうぜんことなり


[千七百七十六]

第十六章

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[1] イエスまたその弟子でしいひけるハ或富あるとめひと操會者ばんとうありけるがしゅ所有もちものつひやしゝと主人しゅじんうったへらる
2 主人操會者しゅじんばんとうよびいひけるハなんぢついわがきゝたることなんぞや今後もはやなんぢを操會者ばんとうなしえざれバ其會計そのあつかひたる条件ことがらわれのべ
3 操會者ばんとうみづからおもへるハ主人しゅじんわが操會やくめとりあげなバなになさ我鋤われすきとるにハちからなくほどこしこふはづかしゝ
4 われ操會やくめとられんとき是等これらいへむかへらるべき所爲しかたしれりとて
5 つひ主人しゅじん負債人ふさいにんことごとよび其首そのはじめものいひけるハなんぢわがしゅ負債ふさいなにほどある
6 こたへていふ油百斗あぶらひゃくとなりかれいひけるハなんぢ券書かきつけ取急とりいそして五十ごじふかけ
7 又一人またひとりいひけるハなんぢ負債幾何ふさいなにほどあるやこたへていふ小麥百斛こむぎひゃくこくなりかれいひけるハなんぢ券書かきつけとり八十はちじふかけ
8 主人しゅじんその所爲しわざたくみなるにより此不義このふぎなる操會者ばんとうほめたりそれこの子輩こどもら此世このよおいてひかり子輩こどもらよりももっとたくみなり
9 われなんぢらにつげ不義ふぎたからおのともともしからんときかれら爾曹なんぢら永遠宅かぎりなきすまひむかへんがためなり
10 小事せうじたゞしもの大事だいじにもたゞし小事せうじたゞしからざるもの大事だいじにもたゞしからず
11 ゆゑもしなんぢら不義ふぎたからたゞしからずバたれまことたから爾曹なんぢらあづけんや
12 爾曹なんぢらもしひと所有もの不義ふぎならバたれ爾曹なんぢら所有もの爾曹なんぢらあたへんや
13 一人ひとりしもべ二人ふたり主人しゅじんつかふることあたはそはこれをにくみかれをあいあるひこれおもんじかれかろんずれバなりなんぢらかみたから兼事かねつかふることあたは
14 よくふかきパリサイの人々此事ひとゞゝこのこときゝイエス嘲哂あざけりたり
15 イエス彼等かれらいひけるハ爾曹なんぢら人々ひとゞゝまへ自己みづからとするものなりされどもかみ爾曹なんぢらこゝろしれ夫人それひとたふとところものかみまへにくまるゝものなり
16 律法おきて預言者よげんしゃヨハ子までなりそののちかみくに宣傳のべつたへらる皆用力みなつとめこれいらんとするなり
17 天地てんちすたるハ律法おきて一畫いっくわくすたるよりもやす
18 おほよ其妻そのつまいだしてほかものめとら姦淫かんいんおこななりまた
[千七百七十七] おっといだされたるをんなめともの姦淫かんいんおこなふなり
19 こゝとめひとあり紫袍むらさき細布ほそきぬの日々奢樂ひびおごりたのしめり
20 またラザロいへ貧者まづしきものありいた腫物しゅもつやみとめひともんおか
21 其案そのだいよりおつ餘屑くづにてやしなハれんとおもへり又犬またいぬきたりて其腫物そのしゅもつなむ
22 貧者死まづしきものしにたれバてん使者つかひたちによりアブラハムふところおくれたりとめひとしにはうむられしが
23陰府よみにて痛苦くるしみをうけ其目そのめをあけはるかアブラハム其懐そのふところあるラザロ
24 喊叫さけびいひけるハちゝアブラハムわれあわれラザロつかはして其指そのゆびさきみづひたしわがしたひやさしめたまわれこの火燄ほのほなかくるしめバなり
25 アブラハムいひけるハなんぢいきたりしときなんぢよきうけまたラザロ其苦そのくるしみうけしをおもいまかれハなぐさめられなんぢくるしめらるゝなり
26 斯耳これのみならずこゝより爾曹なんぢらわたらんとするともそこより我儕われらわたらんとするともまたえざるため我儕われら爾曹なんぢらとのあいださだめおかれたるおほいなるふちあり
27 こたへけるハさらちゝねがはくハ我父わがちゝいへラザロおくりたまへ
28 そはわれに五人ごにん兄弟きゃうだいありまたかれらが此苦このくるしみところきたらざるためラザロ證據しょうこなさしめよ
29 アブラハムいひけるハ彼等かれらにハモーセ預言者よげんしゃあれバこれきくべし
30 こたへけるハしからちゝアブラハムよもしより彼等かれら往者ゆくものあらバ悔改くいあらたむべし
31 アブラハムいひけるハもしモーセ預言者よげんしゃきかずバたとよりよみがへものありとも其勸そのすゝめうけざるべし


第十七章

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[1] イエス弟子でしいひけるハつまづかさるゝことかならずきたらんきたらすものわざはひなるかな
2 この小者ちいさきもの一人ひとりつまづかするよりハ磨石ひきうすくびかけられてうみ投入ながいれられんこと其人そのひとためよかるべし
3 自己みづから謹愼つつしめ若兄弟もしきゃうだいなんぢにつみおかさバこれいさめかれもしくいなバゆる
4 もし一日いちにち七次罪なゝたびつみなんぢおかして一日いちにち七次ななたびなんぢにむかひわれくゆいはゆるすべし


5 使徒主しとしゅいひけるハ我儕われらしんまさせよ
6
[千七百七十八] しゅいひけるハ爾曹なんぢらもし芥種一粒からしだねひとつぶほどのしんあらバ此桑樹このくはのきぬけうみうはれといふとも爾曹なんぢらしたがふべし
7 たれ爾曹なんぢらうちあるひたがやあるひけもの牧僕かふしもべあらんに彼田かれたよりかへりたる時亟ときすみやかにゆきしょくつけといふものあらん
8 かえっいはずや我食わがしょくそなへわが食飮くひのみをハるまでおびしめわれにつかへのちなんぢ食飮くひのみすべしと
9 僕主人しもべあるじめいぜしことしたがへバとて主人彼あるじかれしゃすべきかしからじとわれおもへ
10 かゝれバまたなんぢらめいぜられしことをみななしたるとき我儕われら無益むえきしもべなすべきことなしたるなりといへ


11 イエスエルサレムゆくときサマリアガリラヤうちとほり
12 あるむらいりしとき十人じふにん癩者らいびゃうにんありてかれにあひはるかたちこえあげいひけるハ
13 イエス我儕われら衿恤あはれみたまへ