[千七百三十九]
新約全書路加傳福音書
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[1] 我儕の中に篤く信ぜられたる事を始より親く見て道に役たる者の
2 我儕に傳し如く記載んと多の人々これを手に執る故に貴きテヨピロよ
3 我も原より諸の事を詳細に考究たれバ次第を爲て爾に書おくり
4 爾が教られし所の確實を曉せんと欲り
5 ユダヤの王ヘロデの時にアビアの班なる祭司ザカリアと云る者あり其妻ハアロンの裔にて名をエリサベツと云
6 共に神の前にて義人なり凡て主の誡命と禮儀を虧なく行へり
7 エリサベツ姙なきが故に彼等に子なし又二人とも年も老ぬ
8 ザカリアその班次に値て神の前に祭司の職を行ふ時
9 祭司の例に從ひ籤を抽て主の殿にいり香を燒ことを得
10 香を燒ける時に衆の人々ハみな外に居て祈れり
11 主の使者香壇の右に立てザカリアに現れしかバ
12 ザカリア之を見て驚懼る
13 天使かれに曰けるハザカリアよ懼るゝ勿れ爾の祈禱すでに聞たまへり爾の妻エリサベツ男子を生ん其名をヨハ子と名くべし
14 爾に喜と樂あらん多の人も亦その生るゝに因て悦び有ん
15 それ此子主の前に大ならん又葡萄酒と濃酒とを飮じ母の胎より生出て聖靈に充さる
16 又イスラエルの民の多の人を主なる其神に歸す可れば也
17 彼エリヤの心と才能を以て主の先に行ん是父の心に子を慈ハせ逆れる者を義人の智に歸せ主の爲に新なる民を備んとなり
18 ザカリア天使に曰けるハ我ハガブリエルとて神の前に立者なり爾に語てこの喜の音を告ん爲に遣されたれバ
20 其時いたりて必ず成べき我が言を信ぜざるに因なんぢ瘖となりて此事の成日まで言ふこと
[千七百四十] 能ハじ
21 民ザカリアを俟ゐて其殿の内に久を異む
22 ザカリア出て言ふこと能ハざりしかバ彼等その殿の内にて異象を見たる事を曉たりザカリア衆人に首を以て示し竟に瘖となれり
23 その職事の日満けれバ家に歸りぬ
24 此後その妻エリサベツ孕て隱をりしこと五ヶ月にして
25 曰けるハ主わが恥を人の中に灑せん爲に眷顧たまふ時ハ此の若く我に爲り
26 この六ヶ月に當ガリラヤのナザレと名たる邑の
27 ダビデの家のヨセフと云る人の聘定せし所の處女に神よりガブリエルといふ天使を遣されたり其處女の名ハマリアと云り
28 天使この處女に來いひけるハ慶たし惠るゝ者よ主なんぢと偕に在す爾ハ女の中にて福なる者なり
29 處女その言を訝この問安ハ如何なる事ぞと思へり
30 天使いひけるハマリアよ懼るゝ勿れ爾ハ神より惠を得たり
31 爾孕て男子を生ん其名をイエスと名べし
32 かれ大なる者と爲て至高者の子と稱られん又主たる神その先祖ダビデ王の位を彼に予れバ
33 ヤコブの家を窮なく支配すべく且その國終ること有ざるべし
34 マリア天使に曰けるハ我いまだに夫に適ざるに何にして此事ある可や
35 天使こたへて曰けるハ聖靈なんぢに臨る至高者の大能なんぢを庇ん是故に爾が生ところの聖なる者ハ神の子と稱らるべし
36 それ爾の親戚エリサベツ彼も年老て男子を孕り素姙なき者と稱れたりしが今すでに六ヶ月になりぬ
37 蓋神に於ハ能ざる事なけれバ也
38 マリア曰けるハ我ハ是主の使女なり爾の言る如く我に應かし天使つひに彼を去り
39 當時マリア起て亟かに山地なるユダの邑に往
40 ザカリアの家に入てエリサベツに問安したりしに
41 エリサベツ、マリアの問安を聞しかバ其胎孕腹の内にて跳動たりエリサベツ聖靈に感され
42 大聲に呼いひけるハ女
[千七百四十一] の中にて爾ハ福なる者なり亦孕る所の者も福なり
43 わが主の母われに來われ何に由てか此事を得し
44 夫爾の問安の聲わが耳に入しとき胎孕よろこびて我腹の中に跳れり
45 主の言を信ぜし者ハ福なり蓋主の語たまひし如く必ず成べけれバ也
46 マリア曰けるハ我心主を崇め
47 我靈ハわが救主なる神を喜ぶ
48 是その使女の卑微をも眷顧たまふが故なり今よりのち萬世までも我を福なる者と稱べし
49 それ權能を有たまへる者われに大なる事を成り其名ハ聖
50 その衿恤ハ世々かれを畏るゝ者に及バん
51 その臂の力を發して心の驕る者を散し
52 權柄ある者を位より下し卑賤者を擧
53 飢たる者を美食に飽せ富る者を徒く返らせ給ふ
54 アブラハムと其子孫を窮なく憐むことを忘ずして
55 其僕イスラエルを扶持たまへり是われらの先祖に言たまひしが如なり
56 マリア、エリサベツと居しこと三ヶ月ばかりにて己が家に歸たりき
57 偖エリサベツ産期みちて男子を生り
58 その隣里の者また親戚のもの主がエリサベツに大なる慈悲を垂たまひし事を聞て偕に喜べり
59 第八日に及けれバ彼等子に割禮せんとて來り其父の名に因ザカリアと名んとせしに
60 其母こたへて然す可らずヨハ子と名べしと曰けれバ
61 彼等エリサベツに對て曰けるハ爾が親戚の中にハ此名を名し者なし
62 かれら遂に其父に頭にて示いかに名んと欲か問たるに
63 ザカリア寫字板を請て其名ハヨハ子と書しるしゝかバ皆奇めり
64 ザカリアの口たゝだちに啓て舌とけ言ひて神を頌たり
65 その隣里に住たる人々みな懼ぬ又すべて此事を徧くユダヤの山地に傳播されしかバ
66 聞もの皆これを心に藏て此子ハ如何なる者にか成んと曰り偖主の手かれと共に在き
67 父ザカリヤ聖靈に感され預言して曰けるハ
68 主なるイスラエル
[千七百四十二] の神ハ讃美べき哉これ其民を眷顧て贖を爲し
69 我儕の爲に拯救の角を其僕ダビデの家に挺たまへバ也
70 古より聖なる預言者の口を以て言たまひしが如し
71 即ち我儕を敵また凡て我儕を惡む者の手より脱す救なり
72 此ハ仁惠を我儕の先祖に施し又その聖約を忘じと也
73 是我儕の先祖アブラハムに立し所の誓にして
74 我儕を敵の手より救ひ我儕の生涯を
75 聖と義に於て懼なく主に事しめんと也
76 嬰兒よ爾ハ至高者の預言者と稱られん蓋なんぢ主に先ちて行その路を備んと爲バなり
77 神の深き衿恤に賴その罪を赦されて救れん事を其民に示さんため也
78 その衿恤に賴て旭の光上より
79 幽暗と死陰に住る者を照し我儕の足を導きて平康なる路に至せんとて臨めり
80 斯て嬰兒ハ漸成長し精神ますゝゝ強健にしてイスラエルに顯るゝの日まで野に居り
[1] 當時天下の戸籍を査る詔命カイザル、アウグストより出たり
2 この戸籍調査ハクレニオ、スリヤを管理し時の初次に行ハれたりし也
3 人みな戸籍に登んとて各その故邑に歸たり
4 ヨセフもダビデの家族また血統なれバ戸籍に登んとて
5 已に孕る其聘定の妻マリアと共にガリラヤの邑ナザレより出てユダヤに上りダビデの邑ベテレヘムといふ所に至れり
6 此に居て産期滿けれバ
7 冢子を生それを布に裹て槽に臥せたり此ハ客舎に彼等の居處なかりしが故なり
8 近傍に羊を牧もの有けるが野に居て夜間その群を守たりしに
9 主の天使きたりて主の榮光かれらを環照けれバ牧者おほいに懼たり
10 天使これに曰けるハ懼ること勿れわれ萬民に關りたる大なる喜の音を爾曹に告べし
11 それ今日ダビデの邑に於て爾曹の爲に救主うまれ
[千七百四十三] 給へり是主たるキリストなり
12 爾曹布にて裹し嬰兒の槽に臥たるを見ん是その徴なり
13 倐ち衆の天軍あらハれ天使と共に神を讃美て曰けるハ
14 天上ところにハ榮光神にあれ地にハ平安人にハ恩澤あれ
15 天使等かれらを離て天に行けれバ羊を牧もの互に曰けるハ率ベテレヘムにゆき主の示し給へる其有し事を見んとて
16 急ぎ至りマリアとヨセフまた槽に臥たる嬰兒に尋遇り
17 既に見て此子につき天使の語し事を傳播けれバ
18 聞者みな羊を牧者の語る事を奇みたり
19 マリアハ凡て是等の言を心に記て思想しぬ
20 羊を牧者その見聞せる所みな己に語し所の如なるにより神を崇かつ讃美て返れり
21 子に割禮を行ふべき八日の日いたりけれバ其いまだ胎に寓ざる先に天の使者の稱し如く名をイエスと稱たり
22 モーセの律法に循ひて潔の日満けれバ嬰兒を携て主に獻んが爲エルサレムに上れり
23 是主の例に初に生るゝ男子ハ主の聖者と稱べしと錄されたるが如し
24 また主の律法に斑鳩一隻あるひハ雛鴿二を獻ふべしと言るに循ひて祭を行ん爲なり
25 偖エルサレムにシメオンと云る人あり斯人ハ義かつ敬ありてイスラエルの民の慰められん事を俟る者なり聖靈その上に臨り
26 また主のキリストを見ざる間ハ死じと聖靈にて示さる
27 かれ聖靈に感じて神殿に入り兩親その子イエスを律法の例に循ひて行ハんと携來りしに
28 シメオン嬰兒を抱き神を讃美いひけるハ
29 主よ今その言に從ひて僕を安然に世をバ逝せ給ふ
30 我目すでに萬民の前に設たまひし救を見たり
31 これ異邦人を照さん光なり
32 また爾の民イスラエルの榮なり
33 その父母ハ嬰子に就て語る事を奇をれり
34 又シメオン彼等を祝て其母マリアに曰けるハ此嬰兒ハイスラエルの多の人の頽て且興らん
[千七百四十四] 事と誹駁を受ん其號に立らる
35 これ衆の心の念の露れんが爲なり又劔なんぢが心をも刺透べし
36 アセルの支派パヌエルの女にアンナと云る預言者あり彼ハ甚老邁なり其處女なりしとき夫に適て七年ともに居たり
37 この老女ハ齡おほよそ八十四歳の嫠なりしが殿を離ず夜も晝も斷食と祈禱を爲て神に事ふ
38 此時この老女も側に立て主を讃美し亦エルサレムにて贖を望る凡の人に此子の事を語れり
39 主の律法に循ひて悉く竟けれバガリラヤの己が邑ナザレに歸たり
40 其子やゝ成長して精神強健に知慧にみち神の恩寵その上に臨り
41 偖その兩親毎年に逾越の節筵にエルサレムに往しが
42 彼の十二歳の時また節筵の例に循ひエルサレムに上り
43 節筵の日卒て返往けるに其子イエス、エルサレムに留りぬ然るにヨセフと母これを知ず
44 同行人の中に在ならんと意ひ一日程を行て親戚知音の者に尋しが
45 遇ざりけれバ彼を尋てエルサレムに返り
46 三日ののち殿にて遇かれ教師の中に坐し且聽かつ問ゐたり
47 聞者みな其知慧と其應對とを奇とせり
48 兩親これを見て駭き母かれに曰けるハ子よ何ぞ我儕に如此行たるや爾の父と我と憂て爾を尋たり
49 イエス答けるハ何故われを尋るや我ハ我父の事を務べきを知ざる乎
50 然ど兩親ハ其語る事を曉ず
51 イエスこれと共に下ナザレに歸て彼等に順ひ居り其母これらの凡の事を心に藏ぬ
52 イエス知慧も齡も彌増り神と人に益 愛せられたり
[1] テベリオ、カイザル在位の十五年ポンテオ、ピラトハユダヤの方伯となりヘロデハガリラヤの分封の君と爲り其兄弟ピリポハイツリア及テラコニテの地の分封の君となりルサニアハアビネレの分封の君と爲り
2 アンナスとカヤパ祭司の長と爲たりし時ザカリアの子ヨハネ野に居て神の命令を受
3 ヨルダンの邊なる四方の地に來り罪の赦を得させんが爲に悔改のバプテスマを宣傳たり
4 預言者イザヤの言を載たる書に野に呼る人の聲あり曰く主の道を備その徑を直せよ
5 諸の谷ハ埋られ諸の山岡ハ夷られ屈曲たるハ直く崎嶇ハ易せられ
6 人々みな神の救を見ことを得んと有が如し
7 茲にバプテスマを受んとて來れる衆人にヨハ子曰けるハ嗚呼蝮蛇の裔よ誰が爾曹に來らんとする怒を避べき事を告しや
8 然バ悔改に符る果を結べし爾曹心に我儕が先祖にアブラハム有と意こと勿われ爾曹に告ん神ハ能この石をアブラハムの子と爲しむべし
9 今や斧を樹の根に置る故に凡て善果を結ざる樹ハ伐れて火に投入らるゝ也
10 衆人ヨハ子に問て曰けるハ然バ我儕何を爲べき乎
11 答て曰けるハ二の衣服を有る者は有ぬ者に分與よ食物を有る者も亦然すべし
12 税吏もバプテスマを受んとて來り曰けるハ師よ我儕何を爲べきか
13 答て曰けるハ定例の税銀の外に多く取こと勿れ
14 兵卒も亦問て曰けるハ我儕ハ何を爲べきや答て曰けるハ人を強暴し或ハ誣訴ることを爲なかれ得ところの給料を以て足りと爲べし
15 民懷望し時なれバ衆人みな心にヨハ子をキリストなるや否と忖度たりしに
16 ヨハ子之に答いひけるハ我ハ水を以てバプテスマを爾曹に施へり我より能力ある者きたらん我は其履帶を解にも足ず彼ハ聖靈と火を以てバプテスマを爾曹に施はん
17 手には箕を持て其禾塲を潔め麥ハ斂て其藏にいれ殻ハ滅ざる火にて燒べし
18 ヨハ子また多端を以て勸をなし福音を民に宣傳たり
19 さて分封の君なるヘロデその兄弟ピリポの妻ヘロデヤの事および行ふ所の凡の惡事をヨハ子に責られけれバ
20 猶も惡事を加へヨハ子を獄に囚たり
21 民みなバ
[千七百四十六] プテスマを受けるにイエスも亦バプテスマを受て祈るとき天ひらけ
22 聖靈鴿の如き狀にて其上に降ぬ又天より聲あり云なんぢは我愛子わが喜ぶ所の者なり
23 時にイエス年おほよそ三十にして福音を宣始む人々にヨセフの子と意れ給へり
24 其父ハマッタテ其父ハレビ其父ハメルキ其父ハヤンナ其父ハヨセフ
25 其父ハマタテヤ其父ハアモス其父ハナオム其父ハヱスリ其父ハナムガイ
26 其父ハマアツ其父ハマタテヤ其父ハセメイ其父ハヨセフ其父ハユダ
27 其父ハヨハンナ其父ハレサ其父ハゼルバベル其父ハシアテル其父ハネリ
28 其父ハメルキ其父ハアツデ其父ハコサム其父ハエルモダム其父ハエル
29 其父ハヨセ其父ハヱリヱゼル其父ハヨオレム其父ハマッタテ其父ハレビ
30 其父ハシメオン其父ハユダ其父ハヨセフ其父ハヨナン其父ハヱリアキム
31 其父ハメレア其父ハマイナン其父ハマタッタ其父ハナタン其父ハダビデ
32 其父ハエッサイ其父ハオベデ其父ハボアズ其父ハサルモン其父ハナアソン
33 其父ハアミダナブ其父ハアラム其父ハエスロン其父ハパレス其父ハユダ
34 其父ハヤコブ其父ハイサク其父ハアブラハム其父ハテラ其父ハナコル[ナホル]
35 其父ハサルク[セレグ]其父ハラガヲ[レウ]其父ハパレク[ペレグ]其父ハヘベル[ヱベル]其父ハサラ[シェラハ]
36 其父ハカイナン其父ハアパサデ[アルパクシャド]其父ハセム其父ハノア其父ハラメク[レメク]
37 其父ハマトセラ[メトセラ]其父ハエノク其父ハヤレド其父ハマレレエル[マハラルエル]其父ハカイナン
[38] 其父ハエノス[エノシュ]其父ハセツ其父ハアダム、アダムハ即ち神の子なり
[1] 偖イエス聖靈に感されてヨルダンより歸り靈に導かれ野に適て
2 四十日惡魔に試らる此諸日なにをも食ず四十日畢てのち餓たり
3 惡魔かれに曰けるハ爾もし神の子ならバ此石に
[千七百四十七] 命じてパンと爲せよ
4 イエス答けるハ人ハパンのみにて生る者に非ず唯神の言に由と錄されたり
5 惡魔また彼を高山に携ゆき一瞬間に天下の萬國を示して
6 曰けるハ此すべての權威と榮華を爾に予ん我これを委任たれバ我が欲む者に之を予ふべし
7 故に若わが前に拜跪バ悉く爾の屬とならん
8 イエス答けるハサタンよ我後に退け獨主たる爾の神に拜跪これにのみ事べしと錄されたり
9 惡魔またイエスをエルサレムに携ゆき聖殿の頂に立て曰けるハ爾もし神の子ならバ此より己が身を投よ
10 そは神その使者等に命じて爾を護せん
11 爾か足の石に觸ざるやう彼等手にて扶べしと錄さる
12 イエス答けるハ主たる爾の神を試む可らずと云おけり
13 惡魔この試みな畢て暫く彼を離たり
14 イエス聖靈の能を以てガリラヤに歸しに其聲名あまねく四方の地に廣がりぬ
15 斯て彼等が會堂にて教を爲すべての人々に榮を得たり
16 その長育し所なるナザレに來り常例の如く安息日に會堂に入て聖書を讀んとて立けれバ
17 預言者イザヤの書を予しにイエス其書を展て斯錄れたる所を見出せり
18 主の靈われに在す故に貧者に福音を宣傳ん事を我に膏を沃て任じ心の傷る者を醫し又囚人に釋ん事と瞽者に見させん事を示し又壓制らるゝ者を縱ち
19 主の禧年を宣播んが爲に我を遣せり
20 イエス書を捲その役者に予へて坐しけれバ會堂に在者みな目を注て視なせり
21 イエス彼等に曰けるハ此錄れたる事ハ今日なんぢらの前に應り
22 衆かれを稱讃その口より出る所の恩惠の言を奇み曰けるハ此ハヨセフの子に非や
23 イエス彼等に曰けるハ爾曹かならず我に諺を引て醫者みづからを醫せ我儕が聞し所のカペナウンにて行し事を自己の家郷なる此土にも行べしと云ん
24 また曰ける
[千七百四十八] ハ我まことに爾曹に告ん預言者その家郷にてハ敬重るゝ者に非ず
25 われ誠を以て爾曹に告んエリヤの時三年と六ヶ月天とぢて徧地おほいなる餓饉なりし其時イスラエルの中に多の嫠ありしかど
26 エリヤは其一人だに遣されず只シドンのサレパタの一人の嫠に遣されたり
27 また預言者エリシャの時にイスラエルの中に多の癩人ありしかど其一人だに潔られず惟スリアのナーマンのみ潔られたり
28 會堂に在し者これを聞て大に憤ほり
29 起てイエスを邑の外に出し投下さんとて其邑の建たる山の崖にまで曳往り
30 然にイエス彼等の中を徑行て去ぬ
31 ガリラヤのカペナウンと云る邑に至りて安息日ごとに衆人を教しに
32 その言権威有けれバ衆人その教に駭けり
33 會堂に汚たる鬼の靈に憑れたる人あり大聲に喊叫いひけるハ
34 噫ナザレのイエスよ我儕なんぢと何の與あらんや爾きたりて我儕を喪すか我なんぢハ誰なる乎を知すなハち神の聖なる者なり
35 イエス之を責て曰けるハ聲を出こと勿れ其處を出よ惡鬼つひに其人を衆の中に仆し傷ずして出
36 衆人みな駭き互に語いひけるハ權威と能力を有て汚たる鬼に命ぜしかバ出去り是いかなる道ぞや
37 是に於てイエスの聲名あまねく此四方の地に揚りぬ
38 イエス會堂を出てシモンの家に入しにシモンの妻母おもき熱病を患ひ居たりき
39 衆人これが爲にイエスに求けれバ其傍に立て熱を斥しに熱退けり婦たゞちに起て彼等に事たり
40 日の入とき各様の病を患たる者をもてる人々みな其をイエスに携來けれバ一々その上に手を按て醫せり
41 惡鬼も亦多の人々を出さり喊叫て爾ハ神の子キリストなりと云り然に之を斥て言ふ事を容ざりき惡鬼そのキリストなるを識ばなり
42 明旦イエス出て人なき處に往ければ
[千七百四十九] 衆人尋來て其離去ことを止む
43 イエス曰けるハ我また他の鄕村にも神の國の福音を宣傳ざるを得ず蓋われ之が爲に遣さるれバ也
44 斯てガリラヤの諸會堂にて道を宣傳たり
[1] 衆人神の道を聽んとて擠擁ける時イエス、ゲネサレの湖の濱に立て
2 磯に二艘の舟あるを見る漁の者ハ舟を離て網を洗をれり
3 其一艘ハシモンの舟なりしがイエス之にのり請て岸より少計はなれ坐して舟中より衆人を教ふ
4 教竟てシモンに曰けるハ澳へいで網を下して漁れ
5 シモン答けるハ師よわれら終夜はたらきしかど所得なかりき然ど爾の言に從ひて網を下さん
6 既に下して魚を圍ること甚だ多く網さけかゝりければ
7 いま一艘なる舟の侶を招きて來り助しめしに彼等が來し時その魚二艘の舟に牣て沈んばかりなりし
8 シモン、ペテロ之を見てイエスの足下に俯て主よ我を離たまへ我ハ罪人なりと曰り
9 是シモンおよび偕に在し者みな漁し所の魚の夥しきに驚ける也
10 シモンの侶なるゼベタイの子ヤコブとヨハ子も亦然りイエス、シモンに曰けるハ懼るゝ勿れなんぢ今より人を獲べし
11 彼等舟を岸に寄おき一切を捨てイエスに從へり
12 イエスある邑に居しとき身ことゞゝく癩病を患る者ありイエスを見て俯伏ねがひ曰けるハ主もし聖旨にかなふときハ我を潔なし得べし
13 イエス手を伸かれに按て我心にかなへり潔なれと曰けれバ直に癩病いえたり
14 イエス彼を戒めて曰けるハ人に告ること勿れたゞ往て己を祭司に示かつ潔られし爲にモーセが命ぜし如く獻物をなし證據を彼等に爲よ
15 然どもイエスの聲名ますゝゝ揚りて許多の人々或ハ教を聽んとし或ハ病を醫れんとて集り來れり
16 イエス常に人なき處に退きて祈給ひき
17 一日イエス教を爲せる時パリサイの人
[千七百五十] と教法師ガリラヤの諸鄕ユダヤ、エルサレムより來て此に坐しぬ彼等の病を醫すべき主の能顯ハれたり
18 或人癱瘋を患たる者を狀に載て舁來り之を家に入イエスの前に置んと欲ども
19 群衆にて舁入べき方なかりけれバ屋上に升り瓦を取除て其人を狀のまゝ衆人の中へ縋下しイエスの前に置り
20 イエスその信あるを見て患者に人よ爾の罪赦さると曰けれバ
21 學者とパリサイの人々心に思出けるハ此褻瀆ことを言者ハ誰ぞ神より外に誰か罪を赦すことを得ん
22 イエスその意を知て答いひけるハ何を爾曹心の中に論ずるや
23 爾の罪赦さるといふと起て行と言と執か易き
24 それ人の子地にて罪をゆるすの權威あることを爾曹に知せんとて遂に癱瘋の人に我なんぢに告おきて牀をとり家に歸れと曰けれバ
25 その人衆の前にて直に起て臥居たる牀をとり神を崇て己が家に歸ぬ
26 衆人みな駭きて神を崇かつ大に畏懼て曰けるハ我儕今日奇異なる事を見たり
27 此後イエス出てレビと云る税吏の税關に坐し居けるを見て我に從へと曰けれバ
28 レビ一切を捨おき起て從へり
29 レビ己の家にてイエスの爲に豐盛なる筵を設しに税吏また他の人々も共に筵に坐したる者多かりけれバ
30 其所の學者とパリサイの人イエスの弟子に怨言いひけるハ爾曹税吏また他の人々と共に飮食するハ何故ぞ
31 イエス答て曰けるは康強なる者ハ醫者の助を需ず惟病ある者これを需む
32 わが來るハ義人を召く爲に非ず罪ある人を召て悔改させんが爲なり
33 彼等イエスに曰けるハヨハ子の弟子は屢 斷食また祈禱をなすパリサイの弟子も亦然り然るに爾の弟子飮こと食ことを爲すハ何故ぞ
34 イエス曰けるハ新郎の朋友その新郎と一處に居間ハ之に斷食なさしむる事を得んや
35 將來新郎と別るゝ
[千七百五十一] 日いたらん其日にハ斷食すべきなり
36 譬を以て曰けるは新衣を裁取て舊衣を補ふ者あらじ若然せバ新衣をも壞ひ且新より取たる布ハ舊ものと合ず
37 また新酒を舊革袋に盛る者あらじ若しかせバ新酒ハ其袋をはりさき漏出かつ革袋も壞るべし
38 新酒ハ新革袋に盛べき者ぞ斯てこそ兩ながら存なれ
39 舊酒を飮て立刻に新酒を欲者ハ存じ是舊ハ尤も好と云バなり
[1] 逾越節の二日ののち首の安息日イエス麥の畑を徑行しに其弟子麥の穗を摘これを手にて摶くらひしかバ
2 或パリサイの人かれらに曰けるハ爾曹安息日に行まじき事を行ハ何故ぞ
3 イエス答て曰けるハダビデおよび從に在し者の餓しとき行たる事を未だ讀ざる乎
4 卽ち神の殿に入たゞ祭司の外ハ食まじき供物のパンを取て食かつ從に在し者にも予たり
5 又曰けるハ人の子ハ安息日にも主たる也
6 また一の安息日にイエス會堂に入て教ふ此に右の手枯たる人ありけれバ
7 學者とパリサイの人イエスこれを安息日に醫ならんかと窺ひぬ蓋かれを訴んと欲バなり
8 イエスその意を知て手なへたる人に起て中に立よと曰けれバ其人おきて立り
9 イエス曰けるハ我なんぢらに問ん安息日に善を行と惡を行と又生を救ると殺と執をか行べき
10 遂に衆人を環視て其人に手を伸よと曰けれバ彼その如せしに手すなハち愈て他の手の如くなれり
11 彼等大に怒て如何にイエスを處んと互に議あへり
12 當時イエス祈禱の爲に山に往て終夜神に祈れり
13 夜明てイエス弟子を呼その中より十二人を選て之を使徒と稱く
14 即ちペテロと名たまひしシモンその兄弟アンデレ及ヤコブとヨハ子、ピリポとバルトロマイ
15 マタ
[千七百五十二] イとトマス、アルパイの子なるヤコブとゼロデと云るシモン
16 ヤコブの兄弟ユダとイスカリオテのユダなり此ユダハイエスを賣たる者なり
17 イエス是等と共に下て平かなる地に立しに許多の弟子と夥しき人々ユダヤの四方またエルサレム及ツロ、シドンの海邊より來集りて或ハ其教を聽んとし或ハ病を醫されん事を冀へり
18 また惡鬼に難されたる者あり咸く醫されたり
19 衆みなイエスに捫らんとせり是能力の其身より出て彼等を咸く醫せバ也
20 イエス目を擧弟子を見て曰けるハ爾曹貧者ハ福なり神の國ハ即ち爾曹の所有なれバ也
21 爾曹いま餓たる者ハ福なり飽ことを得べけれバなり爾曹いま哭者は福なり笑ことを得べけれバ也
22 人の子の爲に人なんぢらを憎また絶け詈り爾曹の名を惡しとして棄なバ爾曹 福なり
23 其日にハ欣び踊れ爾曹天に於て賞賜大なれバ也その先祖が預言者に行たりしも是の如し
24 爾曹富者ハ禍なる哉すでに安樂を受バなり
25 爾曹飽者ハ禍なるかな餓んとすれバなり爾曹いま笑者ハ禍なるかな哀み哭んと爲バなり
26 凡の人なんぢらを譽なバ爾曹禍なる哉その先祖が僞の預言者に行たりしも是の如し
27 我に聽ところの爾曹に告ん其仇を愛し爾曹を憎者を善し
28 誣者を祝し虐遇者の爲に祈禱せよ
29 人なんぢの頰の右方を擊バ亦左方の頰を向よ爾の外衣を奪バ裏衣をも禁ざれ
30 凡て爾に求ば之に與へ爾の物を奪ば其をまた索る勿れ
31 己人に施れんとする事ハ亦人にも其如く施よ
32 己を愛する者を愛するハ何の賞賜あらんや惡人にても己を愛する者ハ愛する也
33 己に善を行者に善を行ハ何の賞賜あらんや惡人もまた是の如く行なり
34 爾曹償るゝ事を得んとおもふ人に借ハ何の賞賜あらんや惡人も其ごとく償を得んとて亦惡人に
[千七百五十三] 借なり
35 爾曹仇を愛し又善をなし何をも望ずして借與よ然ば其賞賜ハ大なり且至上者の子と爲ん夫上者ハ恩を忘るゝ者および不善者にまで慈愛を施せバ也
36 是故に爾曹の父の憐憫の如く亦憐憫を爲べし
37 人を議すること勿れ然バ爾曹も議せられず
38 人に與よ然ば爾曹も予らるべし彼等量を嘉して搖いれ撼いれ溢るゝ迄にして爾曹の懷に納ん爾曹量る所の其量にて亦人に量るべし
39 また譬を彼等に曰けるは瞽は瞽の相者をなし得るや相共に溝壑に陷らざらん乎
40 弟子ハその師に踰らず凡そ全備なる者ハ其師の如なるべし
41 なんぢ兄弟の目にある物屑を見て己の目にある梁木を知ざるハ何ぞや
42 如何で己の目にある梁木を見ずして兄弟に對ひ兄弟よ爾の目にある物屑を我に取せよと云ことを得んや僞善者よ先おのれの目より梁木をとれ然バ兄弟の目にある物屑を取こと明かに見べし
43 それ惡果を結ハ善樹に非ず又善果を結ハ惡樹に非ず
44 凡の樹ハその果に因て識る荊棘より無花果を取ず亦蒺藜より葡萄を採じ
45 善人ハ心の善庫より善を出し惡人ハその惡庫より惡を出す蓋心に充るより口に言るゝ也
46 爾曹わが言ことを行ハずして何ぞ我を主よ主よと稱るや
47 凡て我に就り我言を聞て行者を譬て爾曹に示さん
48 其人ハ家を建るに土を深く堀て基礎を磐上に置るが如し洪水のとき横流その家を衝とも動すこと能ず是基礎を磐上に置バなり
49 聽て行ハざる者ハ基礎なく家を土の上に建たる人の如し横流これを衝ときハ其家たゞちに倒れ其頽壞また甚だし
[1] イエス此すべての言を民に教畢てカペナウンに入しに
2 ある百夫の長その愛する僕
[千七百五十四] やみて死バかりなれバ
3 イエスの事を聞ユダヤの長老等を遣して來り僕を助け給んことを求り
4 彼等イエスに就り切に勸いひけるハ此事を求る人は善人なり
5 我民を愛し我儕の爲に會堂を建たり
6 イエス彼等と共に往て既や其家に近けるとき百夫の長朋友を遣して曰せけるハ主よ自己を勞動こと勿れ我が家裏に入奉るは憚多し
7 故に我なんぢの前に出も亦憚あり第一言を發たまハゞ我僕ハ愈ん
8 蓋われ人の權威の下に屬る者なるに我下に亦兵卒ありて此に往と命バ往かれに來と命バ来る我僕に之を行と命バ即ち行が故なり
9 イエス聞て之を奇み從へる人々を顧て曰けるハ我なんぢらに告イスラエルの中にても未だ斯る篤信に遇ざりき
10 遣されたる者家に歸て病たりし僕を見バ已に全快をなせり
11 翌日イエス、ナインと云る邑に往けるに許多の弟子および許多の人々も共に往り
12 邑の門に近づきしとき舁出さるゝ死人あり其母ハ嫠にて此は獨の子なり邑の人々多これに伴ふ
13 主嫠を見て憫み哭なかれと曰て
14 近より其櫬に手を按けれバ舁る者ども止れりイエス曰けるハ少者よ我なんぢに命おきよ
15 死たる者起て且言ひ始むイエス之を其母に予せり
16 衆人みな懼て神を崇いひけるハ大なる預言者われらの中に興る神その民を眷顧たまへり
17 イエスの此聲名ユダヤの全国また徧く四方に揚りぬ
18 ヨハ子の弟子すべて是等の事を彼に告けれバ
19 ヨハ子二人の弟子を召て言遣しけるハ來るべき者ハ爾なるか亦われら他に俟べき乎
20 その二人イエスに來り曰けるハバプテスマのヨハ子我儕を爾に遣して言しむ來るべき者ハ爾なるか亦われら他に俟べきか
21 此時イエス多の疾あるひハ病および惡鬼に憑たる者を醫し且おほくの瞽に見ることを賜たり
22 イエ
[千七百五十五] ス彼等に答曰けるハ爾曹が見ところ聞ところをヨハ子に往て告よ夫瞽者ハ見跛者ハ行み癩者ハ潔り聾者ハきゝ死し者ハ復活され貧者ハ福音を聞せらる
23 凡そ我爲に躓かざる者ハ福なり
24 ヨハ子の使者さりし後イエス、ヨハ子の事を衆人に曰けるは何を見んとて野に出しや風に動さるゝ葦なる乎
25 然バ爾曹なにを見んとて出しや美服を衣たる人なるか文繡を衣て奢る者ハ王の宮に在
26 然バ何を見んとて出しや預言者なるか然われ爾曹に告ん是預言者よりも卓越たる者なり
27 それ爾に先ちて道を備る我使者を爾の前に遣んと錄されたるハ卽ち此なり
28 我なんぢらに告ん婦の生る者のうち未だバプテスマのヨハ子より大なる預言者ハ無されど神の國の至微者も彼よりハ大なる也
29 ヨハ子に聞る庶民また税吏ハ其バプテスマを受て神を義とせり
30 パリサイの人また教法師ハ其バプテスマを受ず自ら暴ひて神の旨に背たり
31 然バ此世の人々を何に人々を何に比へ又何に譬んや
32 童子市に坐し互に呼て我儕笛ふけども爾曹踊ず悲歌をすれども爾曹哭ずと云に似たり
33 蓋バプテスマのヨハ子來りてパンをも食ず酒をも飮ざれバ惡鬼に憑たる者なりと爾曹いへり
34 人の子きたりて食ふ事をし飮ことを爲バまた食を嗜み酒を好む人税吏罪ある人の友なりと爾曹いへり
35 然ど智慧ハ智慧の子に義と爲らる
36 或パリサイの人イエスを請て食せん事を願けれバイエス、パリサイの人の家に入て食に就り
37 邑の中に惡行を爲る婦ありけるがイエスがパリサイの人の家に坐せるを知て蠟石の盒に香膏を携來り
38 イエスの後にたち足下に哭き涙にて其足を濡し首の髪をもて之を拭かつ其足に口を按また香膏を之に抹り
39 イエスを請たるパリサイの人これを見て心の中に謂け
[千七百五十六] るハ此人もし預言者ならバ捫し者ハ誰なる乎また如何なる婦なる乎を知ん此婦ハ惡行を爲る者なり
40 イエス之に答て曰けるはシモン我なんぢに言事あり答けるハ師よ言たまへ
41 イエス曰けるハ或債主に二人の負債人ありて一人ハ金五百一人ハ五十を負しに
42 償方なかりけれバ債主この二人を免たり然バ二人の者その債主を愛すること孰か多き我に聞せよ
43 シモン答けるハ我おもふに免るゝ事の多き者ならんイエス曰けるは爾が意ところ違ざる也
44 遂に婦を顧みてシモンに曰けるハ此婦を見か我なんぢの家に入に爾ハ我足に水を給ず此婦ハ涙にて我足を濡し首の髪をもて拭り
45 爾ハ我首に膏を抹ず此婦ハ我こゝに入し時より我足に口を按て已ず
46 爾ハ我首に膏を抹ず此婦ハ我足に香膏を抹り
47 是故に我なんぢに言ん此婦の多の罪ハ赦れたり之に因て其愛も亦多なり赦るゝこと少き者ハ其愛も亦少し
48 是に於て其婦に曰けるハ爾の罪赦さる
49 同に坐せる者ども心の中に謂けるハ此人ハ是何人なれバ罪をも赦す乎
50 イエス婦に曰けるハ爾の信なんぢを救り安然にして往
[1] 此後イエス郷邑を周遊て神の國の福音を宣傳ふ十二の弟子も偕に從ひぬ
2 また前に惡鬼を患たりし者病を痊れたる婦等も從ひたり即ち七の惡鬼を逐出れたるマグダラと稱マリア
3 又ヘロデの家令クーザの妻ヨハンナ又スザンナ此ほか多の婦ありて皆その所有を以てイエスに供事たりき
4 衆の人々諸邑より出てイエスの所に集りけれバ譬をもて曰り
5 種まく者種を播んとて出ぬ播るとき路旁に遺し種あり踐踏られ且天空の鳥これを食へり
6 また石上に遺し種あり萌出て槁たり是潤なきが故なり
7 また棘の中に遺し種あり棘も同に生長て之
[千七百五十七] を蔽り
8 また沃地に遺し種あり生出て實を結べること百倍せり是を言畢て呼りけるハ耳ありて聽ゆる者ハ聽べし
9 其弟子とふて曰けるハ是いかなる譬ぞ
10 答けるハ神の國の奥義を爾曹にハ知ことを賜ど他の者にハ譬を以てす此ハ見ても見ず聽ても悟ざる爲なり
11 夫この譬の釋種ハ神の道なり
12 路の旁に遺しハ聽し後惡魔の爲に其心より道を奪るゝ者なり彼ハ人の信じて救れんことを恐る
13 石上に遺しハ聽とき喜びて道を受れども根なけれバ信ずること暫のみ患難に遇時ハ道に背く者なり
14 棘の中に遺しハ聽て往この世の諸慮と貨財と宴樂とに蔽れて實ざる者なり
15 沃壤に遺しハ正かつ善心にて道を聽これを守り忍て實を結ぶ者なり
16 燈を燃し器にて之を覆ひ或ハ床下におく者なし入來る者の其光を見ん爲に臺の上に置べし
17 隱て現れざる者なく藏て知れず露出ざる者なし
18 是故に爾曹聽ことを愼め有る者ハなほ予られ無有者ハ有りと意ふ所の物をも奪るべし
19 此時イエスの母と兄弟きたりけれど群衆に因て近くこと能ざりしかバ
20 或人これをイエスに告て曰けるハ爾が母と兄弟なんぢに遇んとて外に立り
21 イエス答て曰けるハ神の道を聽て行ふ者ハ乃ち我母わが兄弟なり
22 一日イエス弟子と共に舟に登て彼等に湖の前岸へ渡べしと曰けれバ即ち漕出せり
23 舟の走る時イエス寢たり颶風湖に吹下し舟に水満んとして危かりしかバ
24 弟子きたりてイエスを醒し曰けるハ師よ師よ我儕亡んとすイエス起て風と浪とを斥めけれバ止て平隱になりぬ
25 イエス曰けるハ爾曹の信いづこに在や彼等駭き且奇みて互に曰けるハ此ハ何人なるぞ風と水とに命ぜしかバ又順へり
26 斯てガリラヤに對るガダラ人の地に着て
27 岸に登し時ある一人邑より出てイ
[千七百五十八] エスに遇この者ハ久く惡鬼に憑れ衣をきず家に住ず惟塚にのみ居たりき
28 イエスを見て喊叫その前に俯伏し大聲に呼りけるハ至上神の子イエスよ我なんぢと何の與あらんや爾に求われを苦むること勿れ
29 この惡鬼に人より出よとイエスが命じたるに因てなり彼の憑れたる事すでに久し鏈また桎梏にて繋守ども其を打碎き惡鬼の爲に野に逐ぬ
30 イエス之に問て曰けるハ爾が名ハ何と稱や答けるハレギヨン是おほくの惡鬼の入たるが故なり
31 惡鬼イエスに求けるハ命じて底なき所に往しむる勿れ
32 此に多の豕の群山に草を食ゐたりしが彼等その豕に入んことを許せと求けれバ之を許せり
33 惡鬼その人より出て豕に入しかバ其群はげしく馳下り山坡より湖に落て溺る
34 牧者ども其有し事を見て逃ゆき之を邑また諸村に告たり
35 衆人その有し事を見んとて出てイエスの所に來れバ惡鬼の離し人衣を着たしかなる心にてイエスの足下に坐せるを見て懼あへり
36 惡鬼に憑れたりし人の救れし狀を見たる者この事を彼等に告けれバ
37 ガダラ四方の多の衆庶イエスに此を去んことを求り是大に懼しが故なりイエス舟に登て返ぬ
38 惡鬼の離たる人イエスと共に居んことを求けるにイエス之を去しめて
39 家にかへり神の爾に行し大なる事を人に告よと曰けれバ遂に去てイエスの己に行たまひし大なる事を遍邑に傳たり
40 イエス返たるとき衆人みな佇望て之を喜び按ふ
41-42 ヤイロと云る人あり此ハ會堂の宰なり年おほよそ十二歳なる一人の女ありて瀕死なりけれバ來イエスの足下に伏て我家に來り給んことを求りイエスの往とき衆人これに擁あへり
43 婦あり十二年血漏を患ひ醫者の爲に其業を盡く耗しけれど誰にも痊れ得ざりしが
44 イエスの後に來て其衣の裾に捫けれバ
[千七百五十九] 直に血の漏こと止ぬ
45 イエス曰けるハ我に捫る者ハ誰ぞや衆人ハみな特に捫れる者なしと曰りペテロおよび偕に在者ども曰けるハ師よ衆人なんぢに擁擠せまるに我に捫る者ハ誰ぞと曰たまふ乎
46 イエス曰けるハ我に捫る者あり能力の我身より出るを覺れバ也
47 其婦みづから隱せぬを知をのゝき來て前に伏さハりし故と其たゞちに愈たることを衆人の前に告
48 イエス曰けるハ女よ心安かれ爾の信なんぢを救へり安然にして往
49 かく言る時に會堂の宰の家より人きたりて宰に曰けるハ爾が女はや死たり師を勞ハす勿れ
50 イエス之をきゝ答て宰に曰けるハ懼るゝ勿れたゞ信ぜよ女ハ愈べし
51 イエス家に入にペテロ、ヤコブ、ヨハ子および女の父母の外たれにも偕に入ことを許さざりき
52 衆人みな女の爲に哭哀しかバイエス曰けるハ哭なかれ死たるに非ず寢たる耳
53 彼等その死たるを知バ之を笑へり
54 イエス人々を皆いだして女の手をとり女起よと呼曰けれバ
55 其魂かへりて忽ち起たりイエス命じて食を予しかバ
56 父母ハ駭異ぬイエスこの行しことを人に告るを戒め給へり
[1] イエス十二の弟子を召集め凡の惡鬼を出し病を醫す能力と權威を賜たり
2 また神の國を宣傳へ病者を醫せん爲に
3 彼等を遣さんとして曰けるハ路資に何をも携ざれ杖また旅嚢、糧、金、二の衣をも帶こと勿
4 何の家に入とも其處に居りて亦其處より去
5 爾曹を不接者あらバ其邑を出る時かれらに證のため足より塵を拂へ
6 弟子いでゝ徧く諸郷にゆき福音を宣傳かつ病を醫せり
7 分封の君ヘロデ、イエスの行し諸事を聞て惑り或人ハ之をヨハ子の甦れるなりと言
8 ある人ハエリヤの現れたる也といひ又ある人ハ古の預言者の一人甦れる也と言
[千七百六十] バなり
9 ヘロデ曰けるハ我ヨハ子の首を斬り斯る事の聞ゆる者ハ誰なるかヘロデ之を見んと欲ふ
10 使徒たち歸來りて其行しことをイエスに告イエス彼等を携ひて潜にベテサイダと云る邑の邊なる野に退きしに
11 衆人しりて随けれバ之を接て神の國の事を語かつ醫を求る者を醫せり
12 日昃くとき十二の弟子きたりてイエスに曰けるハ此ハ野なれバ衆人を去せ四圍の郷村へゆきて宿をとり食を覓る事を爲たまへ
13 イエス曰けるハ爾曹これに食を予へよ答けるハ我儕たゞ五のパンと二の魚ある耳この許多の人の爲に往て買に非ざれバ別に食物ハなし
14 此に居し男おほよそ五千人なりきイエス弟子に曰けるハ衆人を五十人づゝ列べ坐せしめよ
15 弟子その如く行て彼等をみな坐せしめたり
16 イエス五のパンと二の魚をとり天を仰ぎ祝して之をわり弟子に予て衆の前に陳しむ
17 みな食飽て餘の屑を十二の筐に拾たり
18 イエス衆の在ざりしとき祈禱したりしが弟子も偕に居りイエス之に問て曰けるハ衆人ハ我を言て誰と爲か
19 答て曰けるハバプテスマのヨハ子或ハ古の預言者の一人の甦れる也と
20 イエス曰けるハ爾曹ハ我を言て誰と爲かペテロ答けるハ神のキリストなり
21 イエス彼等を戒めて此事を何人にも告る勿れと命じたり
22 又曰けるハ人の子かならず多の苦を受て長老祭司の長學者どもに棄られ且殺され第三日に甦るべし
23 又イエス衆人に曰けるハ若われに從ハんと欲ふ者ハ己に克て日々その十字架を負て我に從へ
24 その生命を保全せんと欲者ハ之を喪ひ我ために生命を喪ふ者ハ之を保全すべし
25 人もし全世界を利するとも自己を喪ひ自ら亡なバ何の益あらん乎
26 我と我道を耻る者をバ人の子も亦おのが榮光をもて來る時
[千七百六十一] これを耻べし
27 われ誠に爾曹に告ん此に立者の中に神の國を見までハ死ざる者あり
28 此事を言けるのち八日バかり過てイエス、ペテロ、ヨハ子、ヤコブを携ひ祈禱せんとて山に登れり
29 祈れる時に其顔の貌つねと異り其衣服しろく輝きぬ
30 二人の人ありて之と言へり卽ちモーセとエリヤなり榮光の内に現れて
31 イエスのエルサレムにて既や世を逝んとする事を語る
32 ペテロ及び偕に在し者等いたく寢たりしが已に醒てイエスの榮光また偕に立る二人を見たり
33 この二人のイエスと別るゝ時ペテロ、イエスに曰けるハ師よ此に居ハ善われらに三の廬を建せ給へ一はモーセのため一ハエリヤの爲にせん此ハ其言ところを知ざりし也
34 かく言るとき雲きたりて彼等を蓋へり其雲に入しとき弟子たち懼ぬ
35 聲雲より出て曰けるハ此ハ我愛子なり之に聽べし
36 聲寂たれば惟イエス一人を見たり弟子たち口を緘て見たりし事を當時ハ誰にも告ざりき
37 翌日山より下りけれバ許多の人々イエスを迎ふ
38 其中の或一人よバはりて曰けるハ師よ願くは我子を眷顧たまへ此ハ我獨子なるに
39 惡鬼の爲に憑れてハ忽然さけび泡をふき拘攣られて傷み離るゝこと實に難し
40 我これを逐出す事を爾の弟子に求しかど能ざりき
41 イエス答て曰けるハ噫信なき悖逆世なる哉われ爾曹の中に爾曹を忍て幾何時あらんや爾が子を此に携來れ
42 來バ惡鬼かれを傾跌て拘攣ぬイエス汚たる鬼を斥て其子を醫し父に予へたり
43 衆人みな神の大なる能を駭きイエスの行し事を異める時にイエス弟子に曰けるハ
44 此言を爾曹耳に藏めよ夫人の子ハ人の手に付されん
45 彼等この言を悟ざりし悟ざるやう隱されたる也彼等もまた懼て此事を問ざりき
46 弟子等のうち互に誰が大ならんとの争論あ
[千七百六十二] りけれバ
47 イエス其心の念を知て孩子をとり側にたてゝ
48 彼等に曰けるハ我名の爲に此孩子を接る者ハ即ち我を接るなり我を接る者ハ我を遣しゝ者を接るなり凡て爾曹がうち最も小者ぞ是大ならん
49 ヨハ子答て曰けるハ師よ爾の名に託て鬼を逐出せる者を見たりしが我儕と共に從ハざる故これを禁たり
50 イエス曰けるハ禁ること勿れ我儕に敵抗ざる者ハ我儕に屬者なり
51 イエス天に升るの時いたりければエルサレムに往ことを確定めたり
52 使者等を先に遣しけれバ彼等ゆきてイエスに備んが爲サマリヤ人の郷に入しに
53 郷人そのエルサレムに向往さまなるが故にイエスを納ざりき
54 弟子のヤコブ、ヨハ子此事を見て曰けるハ主よ我儕エリヤの行し如く天より火を召下し彼等を滅さんとす可か
55 イエス顧て之を責め曰けるハ爾曹の心如何なる乎を自ら知ざるなり
56 人の子ハ人の命を滅す爲に來ず惟これを救ふ爲なり遂に他の郷に往り
57 路を行とき或人イエスに曰けるハ主よ何處に往たまふとも我從ハん
58 イエス彼に曰けるは狐ハ穴あり天空の鳥ハ巣あり然ども人の子ハ枕する所なし
59 又ある一人に曰けるハ我に從へ彼いひけるハ主よ先ゆきて父を葬る事を我に容せ
60 イエス曰けるハ死たる者に其死に者を葬らせ爾ハ往て神の國を宣よ
61 又ある一人いひけるハ主よ爾に從ハん先ゆきて家人に別を告ることを容せ
62 イエス曰けるハ手を犁に着て後を顧る者ハ神の國に當ざる者なり
[1] 此後主また七十人を立て之を兩個づゝに分ち自ら至んとする諸邑諸地へ前に遣さんとて
2 彼等に曰けるハ収稼ハ多く工人ハ少し故にその稼主に工人を収稼所に遣んことを求べし
3 往われ爾曹を遣すは羔を狼のなかに入るが如し
4 囊また旅袋履をも携こと勿れ途に
[千七百六十三] て人に問候をもする勿れ
5 人の家に入バ先その家の安全ならん事を求へ
6 若こゝに安全の子あらバ爾曹が祈る安全ハ其家に留らん若しからずバ其祈る安全なんぢらに歸べし
7 其家に居りて供る所のものハ之を飮食せよ蓋工人の其工錢を獲ハ宜なれバなり家より家に移ることを爲ざれ
8 邑に入んに接る者あらバ其なんぢらの前に供る者を食せよ
9 邑の中なる病の者を醫せ亦衆人に神の國ハ爾曹に近けりと曰
10 もし邑に入んに接る者なくバ衢に出て曰
11 我儕に沾たる爾が邑の塵ハ爾曹に對て拂ん然ども神の國の近けるを知
12 われ爾曹に告ん其日いたらバソドムの刑罰ハ此邑よりも却て易かるべし
13 あゝ禍なる哉コラジンよ噫禍なる哉ベテサイダよ爾曹の中に行し異能を若ツロとシドンに行しならバ彼等ハ早く麻をき灰を蒙り坐して悔改しなるべし
14 審判にハツロとシドンの刑罰ハ爾曹よりも却て易からん
15 已に天にまで擧られたるカペナウンよ又陰府に落さるべし
16 爾曹に聽者ハ我に聽なり爾曹を棄る者ハ我を棄るなり我を棄る者ハ我を遣しゝ者を棄るなり
17 七十人喜び返りて曰けるハ主よ惡鬼さへも爾の名に因て我儕に服せり
18 イエス曰けるハわれ電の如くサタンの天より隕るを見し
19 我なんぢらに蛇蠍を踐また敵の諸の權を制ふる權威を賜たり必ず爾曹を害ふ者なし
20 然ども惡鬼の爾曹に服しゝ事ハ喜とする勿れ爾曹が名の天に錄されしを喜とすべし
21 此時イエス心に喜びて曰けるハ天地の主なる父よ此事を智者と達者とに隱して赤子に顯し給ふを謝す父よ然それ是の如きハ意旨に適るなり
22 父ハ萬物を我に賜ふ父の外に子ハ誰なると識者なく亦子および子の顯す所の者の外に父は誰なると識者なし
23 イエス弟子を顧て竊に曰けるハ爾曹
[千七百六十四] が見ところの事を見るその目ハ福なり
24 我なんぢらに告ん多の預言者および王も爾曹が見ところの事を見んとせしかども見ず爾曹が聞ところの事を聞んとせしかども聞ざりき
25 爰に一個の教法師あり起て彼を試み曰けるハ師よ我なにを爲バ永生を受べき乎
26 イエス曰けるハ律法に錄されしハ何ぞ爾いかに讀か
27 答て曰けるハ爾心を盡し精神を盡し力を盡し意を盡して主なる爾の神を愛すべし亦己の如く隣を愛すべし
28 イエス曰けるハ爾の答へ然り之を行はゞ生べし
29 彼みづからを罪なき者にせんとてイエスに曰けるハ我隣とハ誰なる乎
30 イエス答て曰けるハある人エルサレムよりエリコに下るとき強盗に遇り強盗その衣服を剝取て之を打擲き瀕死になして去ぬ
31 斯る時に或祭司この路より下しが之を見過にして行り
32 又レビの人も此に至り進み見て同く過行り
33 或サマリアの人旅して此に來り之を見て憫み
34 近よりて油と酒を其傷に沃これを裹て己が驢馬にのせ旅邸に携往て介抱せり
35 次日いづるとき銀二枚を出し館主に予て此人を介抱せよ費もし増バ我かへりの時なんぢに償ふべしと曰り
36 然バ此三人のうち誰か強盗に遇し者の隣なると爾意ふや
37 彼いひけるハ其人を衿恤たる者なりイエス曰けるハ爾も往て其ごとく爲よ
38 かれら路を行る時イエス一郷に入けれバマルタと云る婦これを迎て自己の家に入ぬ
39 その姉妹にマリアと云る者ありイエスの足下に坐りて其道を聽り
40 マルタ供給のこと多して心いりみだれイエスに近よりて曰けるハ主よ我が姉妹われを一人遺て勞動しむるを何とも意ざるか彼に命じて我を助しめよ
41 イエス答て曰けるハマルタよマルタよ爾多端により思慮ひて心勞せり
42 然ど無て叶ふまじき者ハ一なりマリアハ既に善業を撰たり此ハ彼より奪べからざる者なり
[1] イエス其所にて祈禱しけるに畢しとき一人の弟子いひけるハ主よヨハ子其弟子に教し如く我儕にも祈ることを教たまへ
2 イエス曰けるハ祈る時ハ斯いふべし天に在す我儕の父よ願くハ聖名を尊崇させ給へ爾國を臨らせ給へ爾旨の天に成ごとく地にも成せ給へ
3 我儕の日用の糧を毎日に與たまへ
4 我儕に罪を犯す者を凡て免せバ我儕の罪をも免し給へ我儕を試探に遇せず惡より拯出し給へ
5-6 また彼等に曰けるハ爾曹の中もし或人夜半に其友へ往て友よ我が朋輩旅より來しに供べき物なきゆゑ三のパンを借よと曰んに
7 内に居もの答て我を煩はす勿れ既や門ハ閉われと共に兒曹も牀に在バ起て予ること能ずといふ者あらん乎
8 我なんぢらに告ん其友なるにより起て予ざれ雖ひたすら請が故に其需に從ひ起て予べし
9 我なんぢらに告ん求よ然バ予られ尋よ然ばあひ門を叩よ然ば啓るゝことを得ん
10 蓋すべて求る者ハ得たづぬる者ハあひ門を叩者ハ啓るゝことを得ん
11 爾曹のうち父たる者誰か其子のパンを求んに石を予んや魚を求んに其に代て蛇を予んや
12 卵を求んに蠍を予んや
13 然バ爾曹惡者ながら善賜をその兒曹に予るを知まして天に在す爾曹の父ハ求る者に聖靈を予ざらん乎
14 イエス瘖啞なる惡鬼を逐出しけるに惡鬼いでゝ瘖啞ものいひしかバ人々駭けり
15 其中なる者の曰けるハ彼ハ惡鬼の王ベルゼブルに藉て惡鬼を逐出せる也
16 又ある人々イエスを試んとて天よりの休徴を求たり
17 イエスその意を知て曰けるハ互に分争ふ國ハ亡び互に分争ふ家ハ傾るゝ也
18 若サタンも分争ハゞ其國いかで立んや其なんぢら我を言てベルゼブルに藉て惡鬼を
[千七百六十六] 逐出すとせり
19 若われベルゼブルに藉て惡鬼を逐出さバ爾曹の子第ハ誰に藉て惡鬼を逐出すや夫かれらハ爾曹の裁判人に爲べし
20 若われ神の指をもて惡鬼を逐出たるならバ神の國ハ既や爾曹に來れり
21 勇者鎧を擐て邸を守るときハ其所有安全なり
22 もし之より勇者きたりて其に勝ときハ其恃とせる鎧を奪ひ且贓物を分べし
23 我と偕ならざる者ハ我に叛き我と偕に斂ざる者ハ散すなり
24 惡鬼人より出て旱たる所をめぐり安を求れども得ずして曰けるハ我出し家に歸らん
25 已に來しに掃浄り飾れるを見
26 遂に往て己よりも惡き七の惡鬼を携へ入て此に居バ其人の後の患狀ハ前より更に惡かるべし
27 この語を言るとき群衆の中より一婦聲を揚て曰けるハ爾を孕し腹と爾の吮し乳ハ福なり
28 イエス答けるハ然されど神の道を聽て守る者の福にハ若ず
29 人々擁集れる時イエス曰けるハ今の世ハ惡し奇跡を求るとも預言者ヨナの奇跡の外に奇跡ハ予られじ
30 蓋ヨナがニ子ベの人に奇跡と爲し如く人の子ハ今の世に奇跡と爲べし
31 南方の女王審判の日に共に起て今の世の人の罪を斷めん彼は地の極よりソロモンの智慧を聽んとて來れり夫ソロモンより大なる者こゝに在
32 ニ子ベの人審判の日に共に起て今の世の人の罪を斷めん彼等ハヨナの勸言に因て悔改めたり夫ヨナより大なる者こゝに在
33 燈を燃て隱たる處あるひハ升の下におく者なし入來る者の其光を見ん爲に燭臺の上に置なり
34 身の燈ハ目なり爾の目瞭かならバ全身あかるく其目眊けれバ爾の身も暗し
35 故に爾にある光の暗らぬやう愼めよ
36 もし爾の全身光明にして暗所なくバ燈の輝きて爾を照す如く全く光明なるべし
37 イエス語れるとき或パリサイの人共に食せん事を請けれバ入て
[千七百六十七] 食に就り
38 その食する前に洗ことを爲ざりしを見てパリサイの人異めり
39 主これに曰けるハ爾曹パリサイの人椀と盤の外を潔す然ど爾曹内ハ貪欲と惡にて充り
40 無知なる者よ外を造し者ハまた内をも造ざりし乎
41 なんぢら所有物を以て施せ然バ爾曹の爲に凡の物ハ潔れる也
42 禍なる哉なんぢらパリサイの人よ薄荷、茴香および凡の野菜十分の一を取納て義と神を愛することを廢これ行ふべき事なり彼も亦廢べからざる者なり
43 禍なる哉なんぢらパリサイの人よ會堂の高座市上の問安を好めり
44 禍なる哉それ爾曹は隱沒たる墓の如し其上を行く人々これを知ざる也
45 ある教法師こたへて曰けるハ師よ此言ハ我儕をも辱しむ
46 イエス曰けるハ爾曹も禍なるかな教法師よ任がたき荷を人に負せ自ら指一をも按ず
47 禍なる哉なんぢらハ預言者の墓を建なんぢらの先祖ハ之を殺せり
48 實に爾曹先祖の爲る事をこのむ證明を爲り夫かれらハ之を殺し爾曹ハ其墓を建
49 是故に神の智慧いへる言あり我預言者および使徒を彼等に遣さんに其中の或者を殺し或者をバ窘むべしと
50 創世より以來ながしゝ凡の預言者の血ハ此代に於て討さんと爲なり
51 即ちアベルの血より殿と祭壇の間に殺されたるザカリヤの血にまで至われ誠に爾曹に告ん之を此世に討すべし
52 なんぢら禍なるかな教法師よ智識の鑰を奪て自ら入ず且入んとする者をも阻り
53 此言を語るとき學者とパリサイの人々深く憤恨を含て多端の事を詰かけ
54 その口より出る言を何事か取へ訴んとして伺ひたり
[1] そのとき数萬の人々相踐あふ程に集れりイエス先弟子に曰けるハ爾曹パリサイの人の麪酵を愼めよ是僞善なり
2 それ掩れて露れざる者ハなく隱て知れざる者ハなし
3 是故に爾
[千七百六十八] 曹幽暗に語しことハ光明に聞ゆべし密なる室にて耳に附言しことハ屋上に播るべし
4 我友よ爾曹に告ん身體を殺して後に何をも爲能ざる者を懼るゝ勿れ
5 われ懼べき者を爾曹に示さん殺したる後に地獄に投入る權威を有る者を懼よ我まことに爾曹に告ん之を懼べし
6 五の雀ハ二錢にて售に非ずや然るに神に於てハ其一をも忘れ給ハず
7 爾曹の首の髪また皆かぞへらる故に懼るゝ勿れ爾曹ハ多の雀よりも貴れり
8 又われ爾曹に告ん我を人の前に識と言ん者をば人の子も亦神の使者の前に之を識と言ん
9 我を人の前に識ずと言ん者ハ神の使者の前に彼も識ずと言るべし
10 凡そ人の子を謗る者ハ赦さる可れど聖靈を褻す者ハ赦さる可らず
11 人なんぢらを會堂また執政および權ある者の前に曳携なバ如何こたへ何を言んと思ひ煩ふ勿れ
12 其時に説べき言ハ聖靈なんぢらに示すべし
13 衆人の中より一人イエスに曰けるハ師よ我が兄弟に遣業を我に分よと命たまへ
14 イエス曰けるハ人よ誰われを立て爾曹の裁判人また物を分つ者と爲しぞ
15 イエス衆人に曰けるハ戒心して貪心を愼めよ夫人の生命ハ所蓄の饒なるにハ因ざる也
16 また譬を彼等に語て曰けるハ或富人その田畑よく豐けれバ
17 自ら忖いひけるハ我が作物を藏る所なきを如何せん
18 又曰けるハ我かく爲ん我倉を毀ち更に大なるを建すべて我が作物と貨を其所に藏べし
19 斯て靈魂に對ひ靈魂よ多年を過ほどの許多の貨物を有たれバ安心して食飮楽めよと言んとす
20 然るに神これに曰けるハ無知なる者よ今夜なんぢが靈魂とらるること有べし然バ爾の備し物ハ誰が有になる乎
21 凡そ己の爲に財を積へ神に就て富ざる者ハ此の如なり
22 イエスその弟子に曰けるハ故に我なんぢらに告ん爾曹生命の爲に何を食ひ身體
[千七百六十九] の爲に何を着んとて思ひ煩ふ勿れ
23 生命ハ糧より優り身體ハ衣よりも優れり
24 鴉を思見よ稼ず穡ず倉をも納屋をも有ず然ども神ハなほ此等を養ふ況て爾曹ハ鳥よりも貴きこと幾何ぞや
25 爾曹のうち誰かよく思ひ煩ひて其生命を寸陰も延得んや
26 然バ最小事すら能ざるに何ぞ其他を思ひ煩ふや
27 百合花ハ如何して生長かを思へ勞ず紡がざる也我爾曹に告んソロモンの栄華の極の時だにも其装この花の一に及ざりき
28 神ハ今日野に在て明日爐に投入らるゝ草をも如此よそはせ給へバ況て爾曹をや吁信仰うすき者よ
29 爾曹何を食ひ何を飮んと求る勿れ
30 凡て是等の物ハ世界の國人の求るもの也なんぢらの父ハ是等の物の爾曹に無て叶ぬ事を知
31 たゞ神の國を求めよ然バ是等の物ハ爾曹に加らるべし
32 小き羣よ懼るゝ勿れ爾曹の父ハ喜びて國を爾曹に予へ給ハん
33 爾曹の所有を售て施し己が爲に常に舊ざる財布すなハち盡ざる財寶を天に備よ其處ハ盗賊も近よらず蠹も壞ハざる也
34 爾曹の財寶の在ところにハ爾曹の心も亦そこに在べし
35 爾曹腰に帶し火燈を燃して居
36 主人婚筵より歸來り門を叩バ速かに啓ん爲に彼を待人の如せよ
37 主人きたりて其目を醒し居を見なバ此僕ハ福なり誠に我なんぢらに告ん主人みづから腰に帶し僕を食に就せ前て之に供事すべし
38 或ハ二更あるひハ三更に主人きたりて然なせるを見なバ此僕ハ福なり
39 爾曹これを知べし若し家の主人賊いづれの時に來かを知バ其家を守て破まじ
40 然ば爾曹も預じめ備せよ不意ときに人の子きたらんと爲バなり
41 ペテロ曰けるハ此譬ハ我儕に言か又ハ凡の人に言か
42 主いひけるハ時に及て食物を給與しめん爲に主人がその僕等の上に立たる忠義にして智き家
[千七百七十] 宰ハ誰なる乎
43 其主人きたる時に是の如く勤るを見らるゝ僕ハ福なり
44 我まことに爾曹に告ん其所有を皆かれに督らすべし
45 若その僕心の中に我が主人の來るハ遅らんと思その僕婢を扑たゝき食飮して且酒に酔はじめバ
46 其僕の主人おもハざるの日しらざるの時に來りて之を斬殺し其報を不信者と同うすべし
47 僕主人の心を知ながら預備せず亦その心に從ざる者ハ扑るゝこと多からん
48 知ずして扑べき事を作し者ハ扑るゝ事も少からん多く予らるゝ者ハ多く求らるべし多く托れバ之より多く求べし
49 われ火を地に投入ん爲に來れり我なにをか欲む已に此火の燃たらん事なり
50 われ受べきのバプテスマあり其成遂らるゝ迄ハ我痛いかバかりぞ乎
51 我ハ安全を地に施んとて來ると意ふや我なんぢらに告ん然ず反て分爭しむ
52 今よりのち一家に五人あらバ三人ハ二人に敵對し二人ハ三人に敵對して分るべし
53 父ハ子に子ハ父に母ハ女に女ハ母に姑ハ其婦に婦ハ其姑に敵對して分るべし
54 イエスまた衆人に曰けるハ雲の西より起るを見バ直に雨ふらんと爾曹いふ果て然り
55 南より風ふけバ暑からんと爾曹いふ果て然り
56 僞善者よ天地の色象を別ことを知て此時を別ち能ざるは何ぞや
57 また何ぞ自ら公義を審ざる乎
58 なんぢ訴る者と共に有司に往とき途中にて心を盡して彼より釋されんことを求めよ恐くハ訴る者なんぢを裁判人にひき裁判人なんぢを下吏に付し下吏なんぢを獄に入ん
59 我なんぢに告ん一錢も殘ず償ふまでハ爾そこを出ことを得ざる也
[1] 當時あつまりたる者の中にピラトがガリラヤ人の血を其供物に雜し事をイエスに告る者あり
2 イエス答て彼等に曰けるハ爾曹このガリラヤ人ハ是の如く害されし故に凡のガリ
[千七百七十一] ラヤ人よりも益りて罪ある者と意ふや
3 我なんぢらに告ん然ず爾曹悔改めずバ皆おなじく亡さるべし
4 シロアムの塔たふれて壓死されし十八人ハエルサレムに住る凡の人々よりも益りて罪ある者と意ふや
5 われ爾曹に告ん然ず爾曹悔改めずバ皆おなじく亡さるべし
6 又この譬を云り或人その葡萄園に植おきたる無花果樹ありしが來て之に果を求れども得ざりけれバ
7 其園丁に曰けるハ我三年きたりて此無花果樹に果を求れども得ず之を斫され何ぞ徒らに地を塞や
8 園丁こたへけるハ主よ我その周圍を掘て之に糞するまで今年も容せ
9 もし果を結バゝ善もし結ずば後に之を斫べし
10 イエス安息日に或會堂にて教しに
11 十八年鬼に患されたる婦あり傴僂て少も伸ること能ざりき
12 イエス之を見てよび婦よ爾ハ其病より釋さるると曰て
13 手を婦に按けれバ直に伸て神を讃美たり
14 會堂の宰イエスの安息日に醫したる事を怒こたへて衆人に曰けるハ事を爲べきの日六日あれバ其中に來りて醫さるべし安息日に爲ざれ
15 主かれに答て曰けるハ僞善者よ爾曹おのゝゝ安息日にハ其牛や驢をとき厩より牽出して水を飮さゞる乎
16 況て此婦ハアブラハムの裔なり十八年サタンに縛られたる其結を安息日に解べからざらん乎
17 イエス如此いひけれバ敵對しゝ者みな慚ぬ又衆人みな其行し慈惠ことを喜べり
18 イエスまた曰けるハ神の國ハ何に比へ又なにゝ譬んや
19 一粒の芥種の如し人これを取て其園に播バ長生て大なる樹となり天空の鳥その枝に棲なり
20 又いひけるハ我神の國を何に譬んや
21 麪酵の如し婦これを取て三斗の粉の中に納せば盡く發出すなり
22 イエス教つゝ各城各郷を過エルサレムに向て旅行り
23 或人いひけるハ主よ救るゝ者ハ少き乎
24 イエ
[千七百七十二] ス彼等に曰けるハ窄門に入ために力を盡せ我なんぢらに告ん入ん事を求て能ざる者おほし
25 家の主人おきて門を閉し後にたち門を叩て主よ主よ我に啓と曰んに主人こたへて我なんぢらハ何處より來しか知ずと曰ん
26 然る時に我儕ハ爾の前に食飮し爾また我儕の衢に教たりしと言出さんに
27 主人こたへて我なんぢらに告ん何處より來りしか知ず皆惡を爲す者よ我を去と曰ん
28 爾曹アブラハム、イサク、ヤコブ及び凡の預言者ハ神の國に在て爾曹ハ外に投出さるゝを見ん時に哀哭切齒すること有べし
29 また人々西や東北や南より來りて神の國に坐するならん
30 それ後の者ハ先に先の者ハ後に爲べし
31 當日あるパリサイの人々來りてイエスに曰けるハヘロデ爾を殺さんとする故に此を離往
32 答て曰けるハ爾曹ゆきて其弧に告よ我今日明日惡鬼を逐出し病を醫し第三日に此事をはらん
33 然ども今日明日また次日ハ我かならず行べし蓋預言者ハエルサレムの外に殺るゝこと有ねバ也
34 噫エルサレムよエルサレムよ預言者を殺し爾に遣されし者を石にて擊る者よ母鷄の雛を翼の下に集むる如く我なんぢの赤子を集んと爲しこと幾回ぞや爾曹ハ欲ず
35 視よ爾曹の家ハ墟と爲て遺さるべし誠に我なんぢらに告ん主の名に託て來る者ハ福なりと爾曹いはん時いたる迄ハ我を見ざるべし
[1] イエス安息日に食事の爲ある宰なるパリサイの人の家に入しに人々かれを窺たり
2 其前に腹脹を患ひたる人ありしかバ
3 イエス應て教法師とパリサイの人々に曰けるハ安息日に醫す事ハ宜や否
4 かれら黙然たりイエスかの人を執へ醫して之を去しめ
5 彼等に答て曰けるハ爾曹のうち誰か驢あるひハ牛などの阱に陷たらんに安息日にハ遽かに曳出さゞる乎
6 彼
[千七百七十三] 等この言に就て對ること能ざりき
7 斯て其席に請れたる人々の首坐を擇を見てイエス譬を以て彼等に曰けるハ
8 なんぢ婚筵に請れんとき首座に坐すること勿れ恐くハ爾より尊人まねかれなバ
9 彼と爾を請し者きたりて此人に座を讓れと曰ん爾羞て末座に往べし
10 是故に爾まねかれん時ハ往て末座に坐せよ請し者來りて友よ首座に進と爾に言バ同席の者の前に爾尊まるべし
11 凡そ自ら高ぶる者ハ卑され自ら卑だる者ハ高くせらるべし
12 又かれを請る者に曰けるハ爾午餐あるひハ晩餐を設るとき朋友、兄弟、親類また富る隣の人を請なかれ恐くハ彼等また爾を請て其報答を爲ん
13 爾筵を爲バ貧乏、廢疾、跛者、瞽者などを請け
14 然バ爾福なるべし蓋かれらハ爾に報ること能ず義き人々の甦らん其時なんぢに報答あれバ也
15 同に食せる者の一人これを聞てイエスに曰けるハ神の國に食する者ハ福なり
16 イエス彼に曰けるは或人おほいなる筵を設て多賓を請けり
17 筵のとき僕を其請たる者に遣して百物はや備たれバ來るべしと言せけるに
18 彼等みな同く辭ぬ其始の者かれに曰けるハ我田地を買たれバ往て視ざるを得ず願くハ我を允し給へ
19 又一人の者いひけるハ我五耦の牛を買たれバ之を試むる爲に往ん願くハ我を允し給へ
20 又一人の者いひけるハ我妻を娶たり是故に往ことを得ざる也
21 其僕かへりて此事を主人に告けれバ主人怒て其僕に曰けるハ速かに邑の衢巷に往て貧者、廢疾、跛者、瞽者などを此に引來れ
22 僕いひけるハ主よ命の如く行り然ど尚あまりの座あり
23 主人僕に曰けるハ道路や藩籬の邊にゆき強て人々を引來り我家に盈しめよ
24 我なんぢらに告ん彼まねきたる人々は一人だに我筵を甞ふ者なし
25 多の人々イエスと偕に行
[千七百七十四] しがイエス顧みて彼等に曰けるは
26 凡そ我に來てその父母、妻子、兄弟、姉妹また己の生命をも憎む者に非ざれば我弟子と爲ことを得ず
27 又その十字架を任ずして我に從ふ者ハ我弟子と爲ことを得ず
28 なんぢら誰か城を築かんに先坐して其費この事の竣までに足や否を計ざらん乎
29 恐くハ基を置て之を成能ずバ見者みな嘲笑て
30 此人ハ築始て成遂ざりしと曰ん
31 また王いでて他の王と戦はん先坐して此一萬人をもて彼が二萬人に敵すべきや否を籌ざらん乎
32 もし及ずバ敵なほ遠れる時に使を遣して和睦を求べし
33 然バ此の如く爾曹その所有を盡く捨ざる者は我弟子と爲ことを得ず
34 鹽は善物なり然ども鹽その味を失はゞ何をもて之に味を和んや
35 田にも糞にも益なく外に棄るゝなり聽る者は聽べし
[1] さて税吏と罪ある者どもイエスに聽んとて近よりけれバ
2 パリサイの人と學者たち譏誚て曰けるハ此人ハ罪ある人に接りて共に食せり
3 イエス此譬を彼等に語て曰けるハ
4 爾曹のうち誰か一百の羊あらんに若その一を失ハゞ九十九を野におき往て其失し羊を獲までハ尋ざらん乎
5 尋得バ喜て之を己の肩に負
6 家に歸て其友と其隣の人々を召集て曰ん我と共に喜べ我うしなへる羊を得たれバ也
7 われ爾曹に告ん此の如く一人の罪ある人悔改なバ悔改むるに及ざる九十九の義人よりハ尚天に於て喜あらん
8 また婦のうち誰か金錢十枚をもち其一枚を失はんに燈火を燃て家を掃除し之を獲までハ切に尋ざらん乎
9 尋得バ其友と其鄰の人々を召集て曰ん我と共に喜べ我うしなへる金錢を獲たれバ也
10 われ爾曹に告ん此の如く一人の罪ある人悔改めなバ神の使の前に喜あるべし
11 また曰けるハ或人子二人あり
12 そ
[千七百七十五] の季子父に曰けるハ父よ我得べき業を我に分与よ父その産を彼等に分たれバ
13 幾日も過ざるに季子その産を盡く集て遠国へ旅行せしが放蕩にして其分賣を皆そこにて耗せり
14 盡く耗しゝとき大なる餓饉その地に有て彼ともしく爲はじめけれバ
15 往て其地の一民に身を投たり其人豕を牧ために彼を野に遣せり
16 かれ豕の食する所の豆莢をもて己が腹を果さんと欲ふほどなれど何をも彼に予る人なし
17 自ら省悟て曰けるハ我父の所にハ食物あまれる傭人の許多か有に我ハ飢て死んとす
18 起て我父に往て曰ん父よ我天と爾の前に罪を犯たれバ
19 爾の子と稱るに足ざる者なり爾の傭人の一人の如く我を爲たまへと
20 卽ち起て其父に往り尚とほく有しに其父かれを見て憐み趨往其頸を抱て接吻しぬ
21 子父に曰けるハ父よ我天と爾の前に罪を犯たれバ爾の子と稱るに足ざる也
22 父その僕等に曰けるハ至も美服を携來りて之に衣せ其指に環をはめ其足に履を穿せよ
23 また肥たる犢を牽來りて宰れ我儕食して楽まん
24 是わが子死て復生うしなひて復得たれバ也とて彼等と共に楽み始む
25 その兄田に在しが歸て家に近き樂と舞の音を聞
26 その僕の一人を召て是何事ぞやと問るに
27 僕曰けるハ爾の弟歸りたり恙なく彼を得たりしに因て爾が父肥たる犢を宰たるなり
28 兄いかりて入ず是故に其父いでゝ彼に勸しかバ
29 父に答て曰けるハ我多年なんぢに事て未だ爾の命に背ず然ども我友と樂む爲に羔をも予し事なし
30 然に妓の爲に爾の業を耗したる此なんぢが子かへれバ之が爲に肥たる犢を宰れり
31 父かれに曰けるハ子よ爾は常に我と共に在また我所有ハ皆なんぢの屬なり
32 爾の弟死て復生うしなひて復得たるが故に我儕喜て樂むハ當然の事なり
[千七百七十六]
[1] イエス又その弟子に曰けるハ或富る人に操會者ありけるが主の所有を耗しゝと主人へ訴へらる
2 主人操會者を呼て曰けるハ爾に就て我きゝたる事ハ何ぞや今後なんぢを操會者と爲えざれバ其會計たる条件を我に辨よ
3 操會者みづから意るハ主人わが操會を奪なバ何を爲ん我鋤を執にハ力なく施を乞ハ恥かしゝ
4 われ操會を奪れん時ハ是等の家に迎らるべき所爲を知りとて
5 遂に主人の負債人を悉く召て其首の者に曰けるハ爾わが主に負債なにほどある乎
6 答ていふ油百斗なり彼に曰けるハ爾の券書を取急ぎ坐して五十と書よ
7 又一人に曰けるハ爾の負債幾何あるや答ていふ小麥百斛なり彼に曰けるハ爾の券書を取て八十と書よ
8 主人その所爲の巧なるに因て此不義なる操會者を譽たり夫この世の子輩ハ此世に於ハ光の子輩よりも尤も巧なり
9 我なんぢらに告ん不義の財を以て己が友を得よ此ハ乏からん時かれら爾曹を永遠宅に接んが爲なり
10 小事に忠き者ハ大事にも忠く小事に忠からざる者ハ大事にも忠からず
11 故に若なんぢら不義の財に忠からずバ誰か眞の財を爾曹に託んや
12 爾曹もし人の所有に不義ならバ誰か爾曹の所有を爾曹に與んや
13 一人の僕ハ二人の主人に事ること能ず蓋これを惡かれを愛し或ハ此を重んじ彼を輕んずれバ也なんぢら神と財に兼事ること能ず
14 慾ふかきパリサイの人々此事を聞てイエスを嘲哂たり
15 イエス彼等に曰けるハ爾曹ハ人々の前に自己を義とする者なり然ども神ハ爾曹の心を知り夫人の崇ぶ所の者ハ神の前に惡るゝ者なり
16 律法と預言者ハヨハ子までなり其のち神の國ハ宣傳らる皆用力て之に入んと爲なり
17 天地の廢るハ律法の一畫の廢るよりも易し
18 凡そ其妻を出して他の者を娶バ姦淫を行ふ也また
[千七百七十七] 夫に出されたる婦を娶る者も姦淫を行ふなり
19 爰に富る人あり紫袍と細布を衣て日々奢樂めり
20 亦ラザロと云る貧者あり甚く腫物を患て富る人の門に置れ
21 其案より落る餘屑にて養ハれんと欲へり又犬きたりて其腫物を舐
22 貧者死たれバ天の使者たちに依てアブラハムの懐に送れたり富る人も死て葬られしが
23陰府にて痛苦をうけ其目をあけ遥にアブラハムと其懐に在ラザロを見て
24 喊叫いひけるハ父アブラハムよ我を憐みラザロを遣して其指の尖を水に蘸わが舌を涼しめ給へ我この火燄の中に苦めバなり
25 アブラハム曰けるハ子よ爾ハ生たりし時に爾の福を受またラザロハ其苦を受しを憶へ今かれハ慰られ爾は苦めらるゝなり
26 斯耳ならず此より爾曹に渉んとするとも得ず彼より我儕に渉んとするとも亦えざる爲に我儕と爾曹との間に限おかれたる巨なる淵あり
27 答けるハ然バ父よ願くハ我父の家へラザロを遣たまへ
28 蓋われに五人の兄弟あり亦かれらが此苦の所に來ざる爲にラザロに證據を爲しめよ
29 アブラハム曰けるハ彼等にハモーセと預言者あれバ之に聽べし
30 答けるハ然ず父アブラハムよもし死より彼等に往者あらバ悔改べし
31 アブラハム曰けるハ若モーセと預言者に聽ずバ縦ひ死より甦る者ありとも其勸を受ざるべし
[1] イエス弟子に曰けるハ躓さるゝ事かならず來らん其を來らす者ハ禍なる哉
2 この小者の一人を躓するよりハ磨石を頸に懸られて海に投入られんこと其人の爲に宜るべし
3 自己を謹愼よ若兄弟なんぢに罪を犯さバ之を諫よ彼もし悔なバ免せ
4 もし一日に七次罪を爾に犯して一日に七次なんぢに對われ悔と曰バ免すべし
5 使徒主に曰けるハ我儕に信を益せよ
6
[千七百七十八] 主いひけるハ爾曹もし芥種一粒ほどの信あらバ此桑樹に抜て海に植れと曰とも爾曹に從ふべし
7 誰か爾曹の中に或ハ耕し或ハ畜を牧僕あらんに彼田より歸たる時亟かに往て食に就といふ者あらん乎
8 反て曰ずや我食を備わが食飮をハるまで帶を束われに事て後なんぢ食飮すべしと
9 僕主人の命ぜし事に從へバとて主人彼に謝すべきか然じと我ハ意り
10 斯れバ亦なんぢら命ぜられし事をみな行たる時も我儕ハ無益の僕なすべき事を行たるなりと謂
11 イエス、エルサレムに往ときサマリアとガリラヤの中を經
12 ある村に入しとき十人の癩者ありて彼にあひ遥に立て聲を揚いひけるハ
13 師イエスよ我儕を衿恤たまへ