明治元訳新約聖書(大正4年)/腓立比人書

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[千九百九十三]
新約全書使徒しんやくぜんしょしとパウロピリピびとおくれるふみ

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第一章 編集

キリスト イエスしもべパウロテモテ ピリピをるところのキリスト イエスあるすべての聖徒せいとおよびすべて監督かんとく執事しつじふみおく
ねがはくは爾曹なんぢらわれらのちゝなるかみおよびしゅイエス キリストより恩寵めぐみ平康やすきうけ


なんぢらはじめよりいまいたるまでとも福音ふくいんあづかるにより
われ爾曹なんぢらおもふごとに我神わがかみしゃ
またつね爾曹なんぢらため祈求ねがふごとによろこびてねが
爾曹なんぢらこゝろうち善工よきわざはじめものこれをしゅイエス キリストまでにまったふすべしとわれふかくしん
かくごとおもふはうべなり爾曹なんぢらつねに我心わがこゝろあるよるそは縲絏なはめあるときおよ福音ふくいん辨明べんめいこれ堅固かたうするとき爾曹なんぢらみなわれとともうくめぐみあづかれバなり
わがキリスト イエスこゝろ爾曹衆なんぢらすべて戀慕こひしたふことについてハ其證そのあかしをなすものかみなり
また爾曹なんぢら愛智識あいちしきもろゝゝ智慧さとりうち益大ますゝゝおほいなりもっとすぐれたるところわきま
十 十一 イエス キリストよれ滿みたせてかみ榮光えいくわう讃美ほまれあらハしキリストためきよくしてあやまちなからんことをいの


十二 兄弟きゃうだいねがはくは爾曹なんぢらわがありところのことかえっ福音ふくいん進行すゝみゆたすけとなりしを
十三 かく縲絏なはめかゝりしハキリストためなることすでわうまもところ陣營ぢんえいおよびほか人々ひとゞゝにもすべあきらかしられたり
十四 わが縲絏なはめより兄弟等きゃうだいたちおほくはしゅしんずるのこゝろあつくし益勇ますゝゝいさみおそるゝことなくみちつた
十五 また猜忌そねみ分爭あらそひよりキリストのぶものありまた善意よきこゝろざしによりこれをなすものあり
十六 かれ縲絏なはめくるしみ増加ましくはへんことをおもまことこゝろなくたうむすこゝろよりキリストのべ
十七 これ福音ふくいん辨明べんめいするためたてられしことを愛心あいしんよりキリストのぶ
十八 しからば如何孰いかんいづれにもあれあるひいつはりあるひはまことともにのぶところキリストなれバわれこれを
[千九百九十四]
よろこかつつねによろこバん
十九 そはこのこと爾曹なんぢら祈禱いのりイエス キリストみたまたすけとによりつひすくひとなるべきしればなり
二十 これわがせつねがふところのぞむところすなはすべてことはづることなくいまつねごとおくせずいけるにもしねるにもキリストをしてよりあがめられしめんとおもふにかなへり
二一 わがいけるはキリストためまたしぬるもえきなり
二二 され肉體にくたいありいけることもしわがはたらきむす根本もととなるべくばいづれえらぶべきかわれこれをしら
二三 われこのふたつあひだはさまれたりねがひさりキリストともありんことなりこれもっと美事よきことなり
二四 され肉躰にくたいとゞまるハ爾曹なんぢら爲更ためさら必要ひつえうなり
二五 われふか此事このことしんずるがゆゑながらへて爾曹衆なんぢらすべてひととも住爾曹すみなんぢらをして信仰しんかうまさしめ信仰しんかうよりいづよろこびをしむるにいたらんことをしる
二六 われふたゝ爾曹なんぢらよろこびわれによりイエス キリストうち益大ますゝゝおほいならん
二七 われたゞ爾曹なんぢらキリスト福音ふくいんかなおこなひをせんことをすゝこれわがゆき爾曹なんぢらみるときもはなれ爾曹なんぢらこときくときも爾曹なんぢられいひとつにしてかた立福音たちふくいんみちためこゝろおなじうしてちからあは
二八 すべてことにつきてきおどろかされざらんことをしらためなりすべてきおどろかざるハてきにハほろびしるしなんぢらにハすくひしるしなり是神これかみよりきたるなり
二九 そハ爾曹なんぢらたまところめぐみキリストためたゞこれをしんずること而已のみならずまたこれがためくるしみうくることをもたまひたればなり
三十 いまなんぢらに患難なやみありすなはさき爾曹なんぢらきくところのわれにある患難かんなんおな

第二章 編集

もしキリストにあるすゝめあいによるなぐさめみたま交際まじはり慈悲じひ衿恤あはれみとあらバ
なんぢらおもひおなじうし愛心あいしんおなじうしこゝろあはせておもふことをひとつにしよろこび滿みたしめよ
何事なにごとおもふにもたうむすあるひ虛榮むなしきほまれもとむこゝろいだくべからず各謙おのゝゝへりくだりたるこゝろたがひひとおのれまされりと
また
[千九百九十五]
おのゝゝおのことのみをかへりみずひとことをもかへりみよ
爾曹なんぢらキリスト イエスこゝろこゝろとすべし
かれかみかたちにてをりしかどもみづか其神そのかみひとしあるところのこと棄難すてがたきことゝおもハず
かへっおのれむなしうししもべかたちをとりてひとごとくなれり
すでひとごと形狀ありさまにてあらはおのれひくゝいたるまでしたが十字架じふじかをさへうくるにいたれり
是故このゆゑかみはなはだしくかれあがめもろゝゝまさこれあたたまへり
てんあるものあるものしたにあるものをしてことゞゝイエスよりひざかゞめしめ
十一 かつもろゝゝのしたをしてことゞゝイエス キリストしゅなりと稱揚いひあらはしてちゝなるかみほまれせしめんためなり
十二 されあいするところもの爾曹常なんぢらつねしたがへるごと畏懼おそれ戰慄をのゝきおのれすくひまったうせよわがともにりしときのみならずわがをらざるいまことしかすべきなり
十三 そはかみその善旨よきむねおこなハんとて爾曹なんぢらうちにはたらき爾曹なんぢらをしてこゝろざしをたてことおこなハしむればなり
十四 すべてのこと怨言つぶやくことなく又爭辨またあらそふことなくしておこなふべし
十五 これ爾曹なんぢらかけなくまじりなくかみとなりまがれるよこしまなる時代じだいありせむべきところなからんためなり爾曹なんぢら此時代このじだいありひかりごとあらハれ
十六 生命いのちことばたもてりかくキリストためわれをしておこなひしところ勞苦ほねおりところのことの徒然むなしくならざるをよろこばしめよ
十七 爾曹なんぢら信仰しんかう供物そなへものとしてさゝげんにはたとながしてそゝぐともわれこれをよろこばん爾曹衆なんぢらすべてひとともよろこばん
十八 爾曹なんぢらこれためよろこわれともよろこ
十九 われなんぢらが事情ありさまをしりこゝろなぐさめんがためすみやかにテモテ爾曹なんぢらつかはさんことをしゅイエスよりのぞ
二十 そはかれのほかわれおなこゝろ爾曹なんぢらこと眞實しんじつおもんぱかものなければなり
二一 おほくひとみなおのがことのみをもとめてイエス キリストこともとめず
二二 されテモテ鍛錬たんれんなることは爾曹なんぢらしるところなりかれちゝおけごとわれとも福音ふくいん
[千九百九十六]
ためつとめたり
二三 是故このゆゑわれおのがことつひ如何いかゞなるかをしらたゞちかれつかはさんとのぞ
二四 またわれもみづかすみやかにゆかんことをしゅよりかたしん
二五 しかれどもわれかならずまづなんぢらの使つかひにてともしきおぎなわれともはたらわれともたゝかひをなせる兄弟きゃうだいエパフロデト爾曹なんぢらつかはさゞるべからずとおもへり
二六 そはかれおのさきやみたること爾曹なんぢらきこえしをふか爾曹衆なんぢらすべてひと戀慕こひしたひかつ憂悶きふさぎをればなり
二七 じつかれやまひあひほとんどちかづけりされかみこれをあはれたまへりたゞかれをあはれむのみならずわれをもあはれわれをしてうれへうれへかさねざらしむ
二八 是故このゆゑわれいよゝゝすみやかにかれつかはさん是爾曹これなんぢらをしてふたゝかれよろこばしめかつわがうれへへらさんがためなり
二九 され爾曹主なんぢらしゅによりよろこびてかれむかへかつかくごとひとたふとぶべし
三十 そはかれはおのいのちかへりみしなんとするばかりキリストためはたら爾曹なんぢらわれたすくところかけおぎなひたればなり


第三章 編集

をはりわれこれをいは兄弟きゃうだい爾曹主なんぢらしゅありよろこわれこのこと爾曹なんぢらかきおくるハわれ煩勞わづらはしきなく爾曹なんぢらえきあり
爾曹犬なんぢらいぬつゝしかつおこなものつゝし
そハかみみたまより役事つとめをなしキリスト イエスよりほこ肉躰にくたいたのまざる我儕われらまこと割禮かつれいうけたるものなれバなり
されわれまた肉躰にくたいたのむことをうるなり人肉躰ひとにくたいたのむことをうるおもハゞわれさらたのむことをうるなり

われ第八日やうかめ割禮かつれいうけたるものにしてイスラエルやからベニヤミン支派わかれヘブルびとよりうまれたるヘブルびとなり律法おきてよれバパリサイのひと
熱心ねっしんよれ教會けうくわい窘迫せむるもの律法おきてあるところのよれかけなきものなり
されわれさきにえきとなりしところことキリストよりそんありとおもへり
しかのみならずわれわがしゅキリスト イエスしるもっとまされることとするがゆゑすべてのものをそんとな
[千九百九十七]
われかれのためすで此等これらすべてのものをそんせしかどこれ糞土ふんどごとおもへり
これキリストかつ信仰しんかうもとづきてかみよりいづすなハち律法おきてよれおのあらキリストしんずるによれところもちキリストうちをり
またかれ其復生そのよみがへり能力ちからしりそのありさましたがひてかれくるしみあづか
十一
にもかくにもしにたるものよみがへることをんがためなり
十二 われこれらののぞみすでたりといふあらまたすでにまったうせられたりといふあらあるひとることあらんとてわれたゞこれ追求おいもとキリストこれさせんとわれとらたまへるなり
十三 兄弟きゃうだいわれみづからこれとれりとおもハずたゞこの一事いちじつとすなはうしろあるものをわすまへあるものをのぞ
十四 かみキリスト イエスよりうへめしたまところ褒美ほうびんと標準めあてむかひてすゝむなり
十五 是故このゆゑ我儕われらうちすべて全者まったきものかくごとおもひいだくべし爾曹なんぢらもし何事なにごとよらことなるおもひいだかバこれをもかみなんぢらにしめたまハん
十六 され我儕われらすでにいたれるところにありて同法おなじのりしたがひておこなふべし
十七 兄弟きゃうだい爾曹なんぢらみなわれならものとなれかつなんぢらの模楷かたとなる我儕われらしたがひておこなひをなすもの
十八 そはわれしばゝゝなんぢらにいままたなみだながして爾曹なんぢらつぐごとキリスト十字架じふじかてきしておこな者多ものおほけれバなり
十九 彼等かれらをはり滅亡ほろびなりおのはら其神そのかみとなしおの羞辱はぢ其榮そのほまれとなす彼等かれら惟世たゞよことをのみおもへり
二十 我儕われらくにてんありわれらハ救主即すくひぬしすなはイエス キリスト其處そのところよりきたるをまつ
二一 かれ萬物ばんぶつおのれしたがハせうるちからより我儕われらいやしからだかたどらしむべし

第四章 編集

是故このゆゑあいするところしたところ兄弟きゃうだいわれのよろこびわれのかんむりたるあいするものいまわがすゝむところしたがひて爾曹堅なんぢらかたしゅたつべし
われユウオデヤすゝスントケすゝ彼等かれらしゅにありてこゝろ
[千九百九十八]
おなじうせんことを
わがまことともこふなんぢ此二人このふたり婦等をんなたちたすけよ彼等かれらクレメンスおよほか勞苦はたらきともなる人々ひとゝゝちからあは我儕われらともつとめ福音ふくいん傳播ひろめたり彼等かれら生命いのちふみしるされあるなり
なんぢらつねしゅありよろこわれまたいふなんぢらよろこぶべし
なんぢらすべてひとをして其寛容そのくわんようなることをしらしめよしゅちか
何事なにごとをもおもわづらなか唯毎事たゞことゞゝ祈禱いのりをし懇求ねがひをし且感謝かつかんしゃしておのもとむところかみつげ
かみよりいでひとすべおもところすぐ平安へいあん爾曹なんぢらこゝろおもひキリスト イエスよりまもらん


兄弟きゃうだいをはりわれこれをいはおほようやまふべきことおほよそ公義たゞしきことおほよ清潔いさぎよきことおほよあいすべきことおよそ善稱よききこえあることすべていかなるとくいかなるほまれにても爾曹なんぢらこれをおもふべし
なんぢらわれよりまなびしところうけしところきゝしところところみなおこなへさら平安へいあん神爾曹かみなんぢらともならん


われ爾曹なんぢらわれおもこゝろいままたやうやきざしゝをしゅよりはなはよろこべり爾曹なんぢらもとよりわれおもひゐたれどもをりざりしなり
十一 われともしきよりこれいふあらそはわれいかなるさまをるもそれをたれりとすることまなべバなり
十二 われ貧賤いやしきをるみちしりまた富厚とみをるみちをしりあくこともうゝることもともこともともしきこともすべてことおいわれこれを熟練じゅくれんせり
十三 われわれちからあたふキリストよりすべてこと爲得なしうるなり
十四 されども艱難かんなんをりたすけなししハまことよし
十五 ピリピびと爾曹なんぢらもまたしるわが福音ふくいんつたふはじマケドニヤはなるとき授受とりやりをなしてわれたすけしもの唯爾曹たゞなんぢらのみにしてほか教會けうくわい此事このことなかりき
十六 爾曹なんぢらわがテサロニケありしとき一度いちどならず二度にどまでもひとつかハしともしきたすけたり
十七 われ餽贈おくりものもとむるにあらたゞなんぢらがえきになるしげからんことをもとむるなり
十八 われには諸物すべてのものそなハりてあまりありわれすでにエパフロデトよりかうばしき
[千九百九十九]
にほいにしてかみ享給うけたまふところ悦給よろこびたまところ祭物そなへものなる爾曹なんぢら餽贈おくりものうけたれ
十九 それわがかみおのれとみしたがひてキリスト イエスにより榮光さかえ爾曹なんぢらともしきところをおぎなたまはん
二十 ねがはくハ我儕われらちゝなるかみ世々榮よゝさかえあらんことをアメン


二一 爾曹なんぢらキリストにある聖徒せいとおのゝゝにやすきとへわれとともにある兄弟等きゃうだいたちなんぢらにやすきとへ
二二 すべて聖徒等せいとたちなんぢらにやすきとふカイザル眷屬けんぞくのものわけ爾曹なんぢらやすきとへ
二三 ねがはくは我儕われらしゅイエス キリストめぐみなんぢら衆人すべてのものともあらんことをアメン


新約全書腓立比書 終