明治元訳新約聖書（大正4年)/猶太書

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[二千九十一]
新約全書（しんやくぜんしょ）使徒（しと）ユダの書（ふみ）

本文

イエス キリストの僕（しもべ）ユダ即（すなは）ちヤコブの兄弟書（きゃうだいふみ）を召（めさ）れたる者（もの）すなはち父（ちゝ）なる神（かみ）に愛（あい）せられ且（かつ）イエス キリストの爲（ため）に守（まも）らるゝ衆人（ひとゞゝ）に贈（おく）る
^二 願（ねがは）くは爾曹（なんぢら）に慈悲（あはれみ）と仁愛（いつくしみ）の増（まさ）んことを

^三
愛（あい）する者（もの）よ我心（われこゝろ）を熱（あつく）して共（とも）に與（あづか）る所（ところ）の救（すくひ）の事（こと）を爾曹（なんぢら）に書（かき）おくらんと思（おもひ）ゐたりしが今（いま）なんぢらに書（ふみ）を贈（おく）りて聖徒（せいと）が一（ひと）たび傳（つたへ）られし信仰（しんかう）の道（みち）の爲（ため）に力（ちから）を盡（つく）して戰（たゝか）はん事（こと）を爾曹（なんぢら）に勸（すゝめ）ざるを得（え）ず
^四 そは神（かみ）を敬（うやま）はず我儕（われら）の神（かみ）の恩（めぐみ）を易（かへ）て色慾（しきよく）を放縦（ほしいまゝ）にするの緣（えん）となし惟一（たゞひとり）の主（しゅ）なる神（かみ）と我儕（われら）の主（しゅ）のイエス キリストを棄（すつ）るもの數人潜（すにんひそか）に教會（けうくわい）に入（いり）たればなり彼等（かれら）が此審判（このさばき）を受（うく）ることに定（さだめ）られたる事（こと）は昔（むかし）より預（あらか）じめ錄（しる）されたり
^五 なんぢら素（もと）より知（しれ）る事（こと）なれど我（われ）なほ爾曹（なんぢら）に憶起（おもひいだ）させんとする事（こと）は主（しゅ）その民（たみ）をエジプトの地（ち）より救出（すくひいだ）しゝのち信（しん）ぜざる者（もの）を滅（ほろ）ぼし給（たま）ひし事（こと）と
^六 己（おの）が本位（ほんゐ）を守（まも）らずして其住（そのすめ）る所（ところ）を離（はな）れたる天使（てんのつかひ）を限（かぎり）なく繫（つなぎ）て大（おほい）なる日（ひ）の審判（さばき）まで幽暗（くらやみ）の中（なか）に守（まも）り置（おき）たまひし事（こと）と
^七 ソドム、ゴモラ及（およ）び其比隣（そのとなり）の邑（まち）かれらと同（おなじ）く姦淫（かんいん）をなし且男色（かつなんしょく）を行（おこな）ふにより限（かぎり）なく火（ひ）の罰（ばつ）を受（うけ）て鑑戒（かがみ）に立（たて）られし事（こと）となり
^八 この夢（ゆめ）みる者（もの）も亦肉體（またにくたい）を汚（けが）し主（しゅ）たる者（もの）を藐忽（かろん）じ尊者（たふときもの）を謗（そし）れり
^九 それ天使（てんのつかひ）の長（をさ）ミカエル惡魔（あくま）とモーセの屍（しかばね）を爭（あらそ）ひ論（ろん）ぜしとき彼（かれ）なほ之（これ）を謗（そし）りて訴（うった）へざりき惟主（たゞしゅ）なんぢらを責（せむ）べしと曰（いへ）り
^十 然（しか）るに彼等（かれら）は知（しら）ざる所（ところ）の事（こと）を謗（そし）れり其本性（そのうまれつき）しる所（ところ）は無知獸（わきまへなきけもの）の知（しる）ところと同（おな）じ彼等（かれら）に之（これ）を以（も）て己（おのれ）を亡（ほろ）びたり
^十一 禍（わざはひ）なる哉彼等（かなかれら）はカインの途（みち）にゆき利（り）の爲（ため）にバラムの迷謬（あやまり）に馳（はせ）またコラの逆（さから）ひし如（ごとく）して亡（ほろ）びたり
^十二 彼等（かれら）は爾曹（なんぢら）の愛（あい）の筵席（ふるまひ）の磐（いわ）なり憚（はゞか）る所（ところ）なく同（とも）に其筵席（そのえんせき）に與（あづか）りて自己（みづから）を養（やしな）へり彼等（かれら）は風（かぜ）に逐（おは）るゝ雨（あめ）なき雲枯（くもかれ）て再（また）かれ
[二千九十二]
根（ね）を拔（ぬか）るゝ果（み）のなき秋（あき）の樹（き）
^十三 その穢（けがれ）を湧出（わきいだ）す海（うみ）の猛浪道（あらきなみみち）をななれたる星（ほし）なり之（これ）が爲（ため）に黑暗（くらやみ）を限（かぎり）なく留置（とめおか）れたり
^十四 アダムより七代（しちだい）に當（あた）れるエノク此輩（このともがら）の事（こと）を預言（よげん）して曰（いひ）けるは視（み）よ主（しゅ）その聖萬軍（きよきばんぐん）と偕（とも）に來（きた）りて
^十五 衆人（すべてのひと）を鞫（さば）き凡（すべ）て神（かみ）を敬（うやま）はざる者（もの）の神（かみ）を敬（うやま）はずして行（おこな）ひし惡行（あしきわざ）と神（かみ）を敬（うやま）はざる罪人（つみびと）の主（しゅ）に逆（さから）ひて語（かた）れる諸（すべて）の惡言（あしきことば）を責給（せめたま）ふべしと
^十六 此輩（このともがら）は怨言（つぶやく）もの足（たる）ことを知（しら）ざる者（もの）おのれの慾（よく）に從（したが）ひて行（ある）き其口（そのくち）は誇（ほこ）ることを語（かた）り利（り）の爲（ため）に人（ひと）に諂（へつら）ふ者（もの）なり
^十七 愛（あい）する者（もの）よ爾曹（なんぢら）わが主（しゅ）イエス キリストの使徒等（しとたち）の曩（さき）に語（かた）りし言（ことば）を憶起（おもひいだ）すべし
^十八 即（すなは）ち爾曹（なんぢら）に語（かたり）ていふ末期（すゑのとき）に戯譃者（あざけるもの）おこり己（おの）が横逆（よこしま）なる慾（よく）に從（したが）ひて行（あゆま）んと
^十九 彼等（かれら）は自（みづか）ら區別（わかち）をなす者（もの）また肉（にく）に屬（つけ）る者（もの）にして靈（みたま）のなき者（もの）なり
^二十 愛（あい）する者（もの）よ爾曹（なんぢら）その德（とく）を至潔（いときよ）き信仰（しんかう）の上（うへ）に建（た）て聖靈（せいれい）に感（かん）じて祈（いの）り
^二一
自己（みずから）を守（まも）りて神（かみ）の愛（あい）の中（うち）に居（をり）われらの主（しゅ）イエス キリストの永生（かぎりなきいのち）を賜（たま）ふ其衿恤（そのあはれみ）を待（まつ）べし
^二二 彼等（かれら）のうち或者（あるもの）をば論（ろん）じて口（くち）を噤（つぐま）しめ
^二三 或者（あるもの）をば火（ひ）より取出（とりいだ）して救（すく）ひ或者（あるもの）をば畏懼（おそれ）を以（も）て憐（あはれ）むべし其惡（そのあく）は肉（にく）の慾（よく）に染（そみ）たる衣（ころも）までも惡（にく）むことをせよ
^{二四 二五} 我儕（われら）の救主（すくひぬし）なる獨一（ひとり）の神（かみ）すなはち爾曹（なんぢら）を躓（つまづ）かせじと保（まも）り爾曹（なんぢら）をして汚（しみ）なく歡（よろこ）びて其榮光（そのえいくわう）の前（まへ）に立（たつ）ことを得（え）しむ者（もの）は世（よ）の始（はじめ）の前（まへ）より今（いま）また後（のち）も世々（よゝ）永遠（かぎりなく）われらの主（しゅ）イエス キリストに由（より）て榮（さかえ）と榮光（えいくわう）と大能（ちから）と權（けん）を有（たも）ち給（たま）ふなりアメン

新約全書猶太書　終