[二千三十三]
新約全書使徒パウロ、ヘブル人に贈れる書
神昔ハ多の區別をなし多の方をもて預言者により列祖に告給ひしが
二
この末日にハ其子に託て我儕に告たまへり神ハ彼を立て萬物の嗣とし且かれを以て諸の世界を造りたり
三
彼ハ神の榮の光輝その質の眞像にて己が權能の言をもて萬物を扶持われらの罪の淨をなして上天に在す威光の右に坐しぬ
四
彼が受し名の天の使者の名よりも愈れる如く彼等よりハ愈れり
五
そハ天の使者の中なる誰に曾て如此いへる乎なんぢハ我子なり我今日なんぢを生りと又われ彼の爲に父とならん彼ハ我ために子と作べしと
六
また冢子を世に入しむる時に言給へるハ神の諸の使者ハ皆これに跪くべし
七
また使者等に就てハ彼その使者等を風となし其役るゝ者を火焔となすと曰り
八
その子に曰るハ神よ爾の位ハ世々に及び爾の國の杖ハ正き杖なり
九
なんぢ義を愛し惡を惡む是故に神すなハち爾の神ハ喜樂の膏を以て爾の侶よりも愈りて爾に沃り
十
また曰く主よ爾元始に地の基を奠く天も爾が手の工なり
十一
此等ハ亡ん然ど爾は恒に存ん此等ハ凡て衣の如く舊びん
十二
爾これらを袍の如く捲む又かれらハ變らん然ど爾ハ變ることなし爾の壽ハ終ざる也
十三
使者等の中なる誰に爾の敵を爾の足凳となすまで我右に坐すべしと曾て言給へること有しや
十四
凡て天の使者ハ救を嗣んとする者に事んため遣さるゝ靈に非ずや
是故に我儕聞し所を流過ること莫らん爲にいよゝゝ篤く愼むべし
二
それ天使等に託て告給ひし言堅立して凡の違逆と不順とみな正き報を受たらんにハ
三
此の如き大なる救を我
[二千四十]
儕等閑にして何で逭るゝことを得んや是ハ始め主に託て示されたるを聞し者ども我儕に言證たり
四
神も亦その聖旨に循ひて休徴と奇跡および萬殊の異能と分予ふる所の聖靈を以て彼等と偕に證せり
五
そは神ハ我儕が言ところの來らんとする世を天の使等にハ服ハせざりき
六
或篇に人證して曰けるハ人を誰として爾これを心に記るや人の子を誰として爾これを眷顧るや
七
爾かれを天の使等より少しく遜しむ彼に榮と尊貴を冠らせ又なんぢの手にて造りし者の上に之を立たり
八
なんぢ萬物を其足下に服せしむ既に萬物を之に服せしむれバ必ず服せずして遺る物なし然ど今に至まで我儕萬物の未だ之に服せしを見ず
九
惟われら天の使等より少く遜されし者即ち死の苦を受しに因て榮と尊貴を冠せられたるイエスを見たり其死たるハ神の恩に因て衆の人に代りて死を嘗へんが爲なり
十
是おほくの子を榮に導かんとて其を救ふ君をして苦難を以て成しむるハ萬物の歸するところ萬物を造れる者に應ること也
十一
それ潔る者と潔らるゝ者と凡て一より出この故に兄弟と稱るを恥とし給ハずして
十二
曰らく我なんぢの名を我が兄弟に示さん爾を教會の中に讃ん
十三
また曰く我かれは依賴ん又いハく我と神の我に予へし諸子を視よ
十四
それ諸子ハ偕に肉と血とを具れバ彼も同く之を具ふ是死をして死の權威を有るもの即ち惡魔を滅ぼし
十五
かつ死を畏て生涯つながるゝ者を放たん爲なり
十六
實に天の使等を助ずアブラハムの子孫を助く
十七
是故に神に屬る事について衿恤と忠義なる祭司の長となりて民の罪を贖ハん爲に諸事に於て兄弟の如なるハ宜なり
十八
蓋かれ自ら誘ハれて艱難を受たれバ誘ハるゝ者を助得るなり
[二千四十一]
是故に同く天の召を蒙りし潔き兄弟よ
二
モーセが神の全家に忠義をせし如く己を立し者に忠義なる我儕が信ずる所の使徒たる祭司の長たるイエスを深く思ふべし
三
そハ家を建りし者の家より過て榮を受べき者とせられたり
四
凡そ家ハ之を建れる者あり萬物を造れる者ハ神なり
五
夫モーセハ將來に言傳へられんとする事の證をせんが爲めに僕人の如く神の全家に於て忠義をなし
六
キリストハ子たる者の如く神の家を宰れり我儕もし信仰と望の喜とを終まで堅く保バ我儕ハ其家なり
七
是故に聖靈の云る如くせよ爾曹もし今日其聲を聞バ野に在て主を試みたる日その怒を惹し時の如く
八
爾曹心を剛愎にする勿れ
九
其處に於て爾曹の列祖われを試み我をためし又四十年の間わが作爲を視たり
十
是故に我その代の人を怒て彼等ハ常に心惑りと曰り然ど我道を知ざりき
十一
故に我憤りて彼等ハ我が安息に入べからずと誓たり
十二
兄弟よ爾曹が中に不信仰なる惡き心を懷て活神の前より離れ墮ること莫らんやう愼むべし
十三
爾曹のうち誰一人罪の誘惑に由て剛愎にならざるやう今日と稱るうちに日々互に相勸めよ
十四
そハ我儕もし始の信仰を終まで堅く持バキリストに與る者とならん
十五
夫いへる言あり若し今日その聲を聞バ怒を惹し時のごとく爾曹の心を剛愎にする勿れ
十六
聞てなほ怒を惹し者ハ誰ぞやモーセに從ひてエジプトより出たる衆の者に非ずや
十七
神ハ四十年のあひだ誰に向て怒しや罪を犯して其屍を野に仆しゝ者どもに怒れるならず乎
十八
又その安息に入べからずと誰に誓るならず乎
十九
是に由て觀バ彼等が入ことを得ざりしハ不信に由てなり
[二千四十二]
是故に我儕畏るべし其安息にいる約束ハ今も尚のこれども恐くハ亦爾曹のうちに之に及ざる者あらん
二
蓋われらも彼等が如く福音を宣傳られたり惟かれらが聞し所の言ハその信仰劑ざりしが故に聞る者に益なかりき
三
信ずる所の我儕ハ安息に入ことを得なり即ち言給ひたるが如し我怒れるとき誓て彼ハ安息に入べからずと云り然ども地基を奠し時より其工ハみな成り
四
そハ或篇に七日について左の如く云り神ハ第七日に凡て其工を息めりと
五
又この篇に彼等ハ我が安息に入べからずと云り
六
然バ之に入べき者あり先に福音を傳られたる者ハ信ぜられるに由て入ざりし也
七
是故に多年を經て後またダビデの書に於て日を定て今日と云り前に言し如く今日もし其聲を聽バ爾曹心を剛愎にする勿れ
八
若ヨシュア彼等を息せなば其のち神ハ他の日を言ざるべし
九
然ば安息ハ神の民に遺れり
十
既に安息に入し者ハ神おのれの工を安息し如く彼も其工を息めり
十一
是故に彼等の如き不信仰に倣ひて陥ざるやう我儕この安息に入んことを黽勉べし
十二
それ神の言ハ活てかつ能あり兩刃の劍よりも利く氣と魂また筋節骨髄まで刺し部ち心の念と志意を鑿察ものなり
十三
また物として神の前に顯れざるハなし我儕が係れる者の眼の前に凡のもの裸にて露る
十四
然バ我儕に雲霄を通りて昇りし大なる祭司の長すなハち神の子イエスあり故に我儕信ずる所の教を固く持つべし
十五
蓋われらが荏弱を體恤こと能ざる祭司の長ハ我儕に非ず彼ハ凡の事に我儕の如く誘はれたれど罪を犯さざりき
十六
是故に我儕恤をうけ機に合ふ助となる恩惠を受ん爲に憚らずして恩寵の座に來るべし
人の中より選るゝ諸の祭司の長ハ人のために神のために神に屬ことを任ぜられて罪の供物と犠牲
[二千四十三]
を献ることをする者なり
二
己みづから荏弱に周るれバ亦愚昧なる迷へる者を憐むことを得なり
三
是に因て民の爲になる如く己が爲にも罪の禮物を献ざるを得ず
四
この尊貴ハアロンの如く神の召を受たる者に非れバ自ら之を取者なし
五
此の如くキリストも自ら尊びて祭司の長とハ爲ざりき爾ハ我子なり我今日爾を生りと言し者彼を尊びて然なせり
六
また別の篇に爾ハ窮なくメルキゼデクの班の如き祭司たりと言給へるが如し
七
かれ肉體に在しとき哀哭び涙を流して死より己を球得る者に祈また懇求をなし其敬畏によりて聽るゝことを得たり
八
かれ子たれども受る所の苦難に由て順ふことを效ひ
九
既に完全けれバ凡て彼に順ふ者の永救の原となれり
十
彼ハメルキゼデクの班の如き祭司の長なりと神に稱られき
十一
此に就て我儕多の語るべき言あれど爾曹が耳にぶきに因て講明がたし
十二
既に爾曹ハ時を經こと久しけれバ人の師となるべき者なるに今また神の示し給へる教の端を教られざるを得ず爾曹ハ堅き食物ならで乳を用べき者となれり
十四
夫かたき食物ハ心を勞かせ練て善惡を辨へうる成人の用るもの也
是故に我儕キリストの教の始を離れ死行を悔改め神に屬る信仰
二
萬殊の洗の禮また手を按こと死し人の復生かぎりなき審判これらの教の基ハ再び置ことをせずして完全に進むべし
三
もし神許し給ハゞ我儕これを行ん
四
そハ一び光照をえ天の賜をうけ聖靈を蒙り
五
神の善言と來世の權能とを甞ひて後
六
墮落する者は神の子を再び十字架に釘て顯辱とするが故に復
[二千四十四]
これを悔改めに立返らすこと能ハざる也
七
それ地しバゝゝ其上に降る雨を吸込て耕者の爲になるべき菜蔬を生ぜバ神より恩を受
八
然ど荊棘と蒺蔾を生ぜバ棄られ且詛に近く其終ハ焚るべし
九
愛する者よ我儕如此いへど爾曹が此に愈れること即ち救に近ことを深く信ぜり
十
神ハ爾曹が先に聖徒に事へ今も尚これに事るその功勞と聖名の爲に顯しゝ其愛を忘るゝ不義なる者に非ず
十一
爾曹おのゝゝ終に至るまで疑を懷かざる望を保んが爲に以前と同じ慇懃を表し怠らずして
十二
かの信仰と忍耐を以て約束を嗣る者に倣んことを我儕欲へり
十三
それ神ハアブラハムに約束し給しとき己より大なる者の指て誓ふべきなきが故に己を指て誓
十四
言給けるハ我なんぢらを大に惠まん又なんぢの子孫を大に益ん
十五
かれ忍て此の如く約束のものを得たり
十六
凡そ人ハ己より優たる者を指て誓ふまた事を定る誓ハ凡て彼等の爭辨を止るなり
十七
然バ神ハ約束を嗣者に其旨の易らざることを愈表さんとして約束の上にまた誓を立給へり
十八
神の謊ること能ざる此二件の易なきことハ前に立ところの望を執んとて怒を避たる我儕を慰めんが爲なり
十九
我儕が此望ハ霊魂の錨の如し堅固して動かず幔の内に入
二十
我儕の爲にイエス前驅して其處に入メルキゼデクの班の如く窮なく祭司の長となれり
此メルキゼデクハサレムの王にて至高き神の祭司なりしがアブラハム王等を殺して旋しとき彼アブラハムを迎て祝せり
二
アブラハム之に凡て所獲の十分の一を分たり先その名を釋バ義の王次にサレムの王と云これ即ち平康の王なり
三
彼ハ父なく母なく族譜なく生の始なく亦終もなし神の子に象られて恒に祭司たりき
四
先祖アブラハム所獲の最も善物の十分の一
[二千四十五]
を以て彼に予れバ其人の如何に尊かを思ふべし
五
レビの子孫のうち祭司の職を受る者ハ律法に循ひて民即ち其兄弟より十分の一を取ことを命ぜらる彼等ハアブラハムの腰より出たる者と雖もなほ然なせり
六
然ど此血脈に非ずして彼ハアブラハムより十分の一を取て其約束を有てる者を祝せり
七
劣れる者の優れる者に祝さるゝハ論なきこと也
八
此なる十分の一を受る者ハ死べき者彼なるハ活る者なりと證せられたり
九
また十分の一を受る所のレビもアブラハムによりて十分の一を輸たりと言べし
十
蓋メルキゼデクが彼に遇るときレビも其父の腰に在バなり
十一
民ハレビの裔なる祭司の職に本きて律法を受たり若この職に賴て完全ことあらバ何ぞ別にアロンの班の如き祭司の起ることを求めん乎
十二
既に祭司の統かハる時ハ律法も亦必ず易るべし
十三
此等の事ハ祭壇に役たる者なき支派に屬る者を指て言り
十四
我儕が主のユダより出し事は明かなりモーセこの支派に就て祭司の職のことハ何をも言ざりき
十五
既にメルキゼデクの如き他の祭司起たれバ律法の易ることも愈明らけし
十六
彼ハ肉體に係る律法の例に循ひて立ず朽ざる生命の能に循ひて立り
十七
蓋メルキゼデクの班の如く爾ハ窮なく祭司たりと證せられたれバ也
十八
それ律法ハ何事をも全うせし所なし
十九
是故に前の法度ハその荏弱と益なきを以て廢せられ更に愈れる善望を立られたり我儕この望に因て神に近くことを得なり
二十 二一 二二
かの人々ハ誓なくして祭司となれど彼ハ誓を以て祭司となれり是主かハりなき誓を立て爾ハメルキゼデクの班の如く窮なく祭司たりと語れる者による是の如くイエスハ誓に非ざれバ祭司とならざるほど尤も善契約の保証人となれり
二三
彼等ハ死あるに因て永く存
[二千四十六]
こと能ハず故に祭司となりたる者多りき
二四
然どイエスハ窮なく存が故に易ことなき祭司の職を有り
二五
是故に彼ハ己に賴て神に就る者の爲に懇求んとて恒に生れバ彼等を全く救ひ得なり
二六
是の如き祭司の長は我儕に當れる者なり彼ハ聖潔して不善ことなく纖垢なくして罪人に遠かれり且天よりも高し
二七
又かの祭司の長等の如く先おのれの罪のち民の罪の爲に日ごとに犠牲を獻べき由なし蓋すでに一次おのれを獻て之を成バなり
二八
それ律法ハ弱き人を立て祭司の長となせり然ど律法の後に誓の言ハ窮なく全き子を立たり
我いへる所の肝要ハ是の如き祭司の長の我儕に在ことなり彼ハ天に於て大なる威光ある者の位の右に坐して
二
聖所に役ふ即ち人の建る所に非ず主の建たまへる所の眞の幕屋なり
三
諸の祭司の長の立られたるハ禮物と犧牲を獻ぐる爲なるが故に彼も亦かならず獻る所の物あるべし
四
彼もし地に居バ祭司と爲べからず蓋すでに律法に循ひをて禮物を獻る祭司あれバ也
五
彼等が事る所ハ天にある者の狀と影なりモーセ幕屋を造らんとせし時に爾愼て凡の事をなすにハ山に於て我なんぢに示しゝ所の式に遵ふべしと示されたりし如し
六
然ど今かれハ愈れる約束に基きて立られたる契約の中保となる是の如く彼ハ勝れたる職を得たり
七
そハ初の契約もし虧ることなくバ後の契約も立ることを索めじ
八
その虧る所を彼等に示して曰く主いひ給ひけるハ我イスラエルの家とユダの家に新約を立て全備うするの日來らん
九
この約ハ我手を執て彼等の先祖をエジプトの地より導き出せる日に立し所の如きに非ず蓋かれら我が契約に居ず我また彼等を顧ざりしが故なりと主いひ給ひたり
十
また主いひ給ひけるハ其日の後わ
[二千四十七]
れイスラエルの家に立んとする契約は此なりわれハ我が律法をその念に置また其心に錄さん我かれらの神となり彼等我が民を爲べし
十一
各人その邦人と其兄弟に教て爾主を識と復いはじ蓋小より大に至るまで悉く我を識ん
十二
われ彼等の不義を恤み其罪と惡をまた意に記ざれバ也
十三
かれ既に新と謂しハ初の物を舊とする也それ舊て衰る物ハ殆んど消廢んとす
初の契約にハ祭の禮儀と世に屬る聖殿とあり
二
設たる前の幕屋を聖所と稱く内に燈臺と案と供のパンあり
三
また第二の幔の後の幕屋を至聖所と稱く
四
こゝに金の香爐と徧く金を蔽ひし契約の櫃あり此中にマナを藏めたる金の壺とアロンの芽しゝ杖と二の契約の碑あり
五
上にハ贖罪所を覆へる榮耀のケルビンあり今これらに就て詳かに言ず
六
此の如く此等のもの既に備はり祭司等ハ常に前の幕屋に入て祭を行り
七
奥なる幕屋ハ祭司の長のみ年に一次いれど血を携ずしてハ入ことなし是おのれと民の愆の爲に獻るなり
八
聖靈これを以て前の幕屋のなほ在りし時ハ至聖所に入べき路の顯れざりし事を示す
九
この幕屋ハ當時のために設られたる表式なり之に循ひて獻たる禮物と犧牲ハその奉事る者の良心を全うすること能はざりき
十
此等ハたゞ肉體に屬る儀文にして食もの飮もの及さまゞゝの洗滌と共に振興らん時まで負せられたる耳
十一
今キリスト既に至れり彼ハ來らんとする嘉事の祭司の長にして手にて造れる幕屋すなはち此世に屬る所の者ならぬ愈りたる大なる全き幕屋により
十二
羊犢の血を用ず己が血をもて一たび聖所に入て永遠贖をなすことを得たり
十三
もし汚穢に灑て牛および羊の血また焚る牝犢の灰など肉體を潔ることを得バ
十四
况て永遠靈により瑕なくして己を神に
[二千四十八]
獻しキリストの血ハ爾曹に活神を奉事せんがため死の行を去しめて其心を潔ることを爲ざらん乎
十五
是故に彼ハ新約の中保となれり是はじめの契約の時に犯せる罪を贖ふべき死あるに由て召れたる者の窮なき世嗣の約束を得んが爲なり
十六
凡そ遺書あるときハ必ず之を錄しゝ者の死たることを顯さゞるを得ず
十七
それ遺書ハ之を錄しゝ者の活る時ハ少の力あること無その人死てのち堅うなる也
十八
是故に初の契約も血なくしてハ立ざりき
十九
モーセ律法に遵ひて諸の誡を衆の民につげ犢と羊の血および水を取て絳の毛と牛膝草をもて書と衆の民に灑て云
二十
これ神の爾曹に命じ給へる契約の血なり
二一
また此の如く血をもて幕屋と凡の祭器に灑り
二二
凡そ律法に循に諸の物ハ血を以て潔らる血を流すこと有ざれバ赦さるゝ事なし
二三
是故に天に在ものに象りたる物ハ必ず此等をもて潔られしかど天に在ものハ此等よりも愈りたる犧牲を以て潔らるべき也
二四
キリストハ眞の物の模なる手にて造る聖所に入ず今より永く我儕の爲に神の前に顯れんとて眞實の天に入ぬ
二五
また彼ハ祭司の長の年ごとに他の物の血をもて聖所に入ごとく屢おのれを獻ることをせず
二六
もし然ずバ彼創世より以來しバゝゝ苦難を受べきなり然ど己を犧牲となして罪を除かんが爲に今世の季にひとたび顯明たり
二七
一たび死ることゝ死て審判を受ることゝハ人に定れる事也
二八
如此キリストも多の人の罪を負んが爲に一たび犧牲とせらる彼ハ復罪を負ことなく己を望む者に再び顯明て救を施すべし
律法ハ來らんとする美事の影にして實の形に非ざれバ年ごとに斷ず獻る所の祭物を以て神に來る者を恒に成全すること能はず
二
もし成全することを得バ獻祭者一たび潔られ復罪
[二千四十九]
を覚えざるが故に獻ることを止ざらん乎
三
然ど年ごとに此祭をなすに因て罪を憶ること現はるゝ也
四
これ牛と羊の血ハ罪を除くこと能ざるに因
五
是故に彼世に臨るとき曰けるハ爾犧牲と禮物を欲まず唯わが爲に肉體を備ふ
六
なんぢ燔祭と罪祭を悦ばず
七
厥時われ曰けるハ神よ我なんぢの旨を行はんとて來る即ち
我について書に錄されたり
八
先にハ犧牲と禮物と燔祭と罪祭すなはち律法に循ひて獻るものを欲まず又悦ばずと言
九
後にハ神よ我なんぢの旨を行はんとて來れりと言その後なる者を立ん爲に其先なる者を除けり
十
この旨に適て我儕は潔らる此ハイエス キリストの一次おのが肉體を獻しに因てなり
十一
諸の祭司ハ日ごとに立て奉事をなし少か罪を除こと能はざる同じ犧牲を屢獻ぐ
十二
然ど此人ハ一次罪の爲に一の犧牲を獻て窮なく神の右に坐し
十三
その敵を足凳となさん時を待り
十四
蓋かれ一の獻物を以て潔る者を永遠全成すれば也
十五
聖靈また我儕に之を證す蓋この日の後われ彼等と立んとする契約ハ此なりと云る後に
十六
主いひ給はく我が律法を其心に置その衷に錄し
十七
復その罪と惡とを我が意に記じと有がゆゑ也
十八
既に此等の赦あらんにハ復罪のために獻ること無るべし
十九
是故に兄弟よ我儕イエスの血に由て其我儕の爲に開たる新しき生路より幔なる其肉體を過り憚らずして至聖所に入事を得
二十
かつ神の家を理る
二一
大なる祭司あれバ
二二
我儕誠實の心と疑を懷かざる信仰を保ち心の惡念を灑れ清水をして身を洗れて近くべし
二三
又認ハす所の望を動さずして固く守るべし蓋約束せし者ハ誠信なれバ也
二四
われら互に顧みて愛心と善行を激勵し
二五
會集を輟る或人に效ふことなく共に相勸め其日いよゝゝ近るを見て益此の如くなすべし
二六
若われら眞理を曉得
[二千五十]
せられし後なほ放縦に罪を犯さバ罪を贖ふ犧牲また有ことなく
二七
惟おそれて審判を待ことゝ仇敵を焚滅さんとする烈火のみ遺るなり
二八
モーセの律法を廢る者もし二三人の證あらバ恤まるゝこと無して死べし
二九
况て神の子を蹂躙みづから潔られし契約の血を尋常のものとなし又恩を施す靈を侮る者の受べき其罰の重こと幾何と意ふや
三十
主いハく仇を報るハ我にあり我報べし又いハく主その民を鞫かん如此いへる者を我儕ハ知
三一
活神の手に陥るハ畏るべき事なり
三二
なんぢら昔し光照を受しのち大なる苦の戰爭を忍たりし日を憶起べし
三三
或ハ詬誶と艱辛をうけ人に觀玩の如くせられ或ハ斯る事にあふ者に與ることを爲り
三四
そハ爾曹わが縲絏に在を體恤また己がために天に於て愈美たる常に存つべき業あるを知り人の爾曹が業を奪んとするをも喜びて受たり
三五
是故に爾曹の大なる報を受べき信仰を投棄ること勿れ
三六
なんぢら必ず用べきものハ忍耐なり是神の旨を行ひて約束のものを受んが爲なり
三七
今片時ありて來る者きたらん必ず遅らじ
三八
義人ハ信仰に由て生べし若し退かバ我が靈魂これを喜とせじ
三九
然ど我儕退きて沈淪に及ぶべき者に非ず信じて靈魂の救を得べき者なり
それ信仰ハ望む所を疑ハず未だ見ざる所を慿據とするもの也
二
古の人これに由て美稱を得たり
三
われら信仰に由て諸の世界ハ神の言にて造れ如此みゆる所のものハ見るべき物に由て造れざることを知
四
信仰に由てアベルハカインより愈れる祭物を神に獻て義者と證せられたり蓋神その獻物について證し給へバ也かれ死れども信仰に由て今なほ言へり
五
信仰に由てエノクハ死ざるやうに移されたり神これを移しゝに因て人見出すこと得ざりき彼いま
[二千五十一]
だ移されざる先に神に悦バるゝ者と證せられし也
六
信仰なくバ神を悦バすこと能ハず蓋神に來る者ハ神あるを信じ且神ハ必ず己を求る者に報賞を賜ふ者なるを信ずべき也
七
信仰に由てノアハ未だ見ざる事の示しを蒙り敬みて其家族を救ん爲に舟を設けたり之に由て世の人の罪を定めまた信仰に由る義を受べき嗣子となれり
八
信仰に由てアブラハムハその承繼べき地に往との命を蒙り之に遵ひその往ところを知ずして出たり
九
彼また信仰に由て異邦に在が如く約束の地に寓り同じ約束を相嗣るイサク、ヤコブと共に幕屋に居り
十
そハ神の造營める所の基ある京城を望めバ也
十一
信仰に由てサラも孕を寓さるゝ力をうけ年邁しかども子を生り是約束せし者ハ誠信なりとしつれバ也
十二
是故に死たる者の如き一人より天の星の多と海邊の砂の數へ難きが如く生出たり
十三
此等ハ皆信仰を懷きて死り未だ約束の者を受ざりしが遙かに之を望て喜び地に在てハ自ら賓旅なり寄寓者なりと言り
十四
如此いふ者ハ家郷を尋る事を表す也
十五
彼等もしその出し地を念ハゞ歸るべきの機ありしなるべし
十六
然ど彼等ハ更に愈れる所すなハち天に在ところを慕へり是故に神ハ其神と稱ることを耻とせざりき蓋かれらの爲に京城を備へ給ふれバ也
十七
信仰に由てアブラハムハ試られし時イサクを獻たり彼ハ約束を受し者なるが其獨子を獻たり
十八
此子に就てハ爾の子孫イサクに由て稱らるべしと云れたりき
十九
彼おもへらく神ハ死より之を復活し得ると即ち死より彼を受しが如なりき
二十
信仰に由てイサクハ來らんとする事に就てヤコブとエサウを祝せり
二一
信仰に由てヤコブハ死んとする時にヨセフの二人の子を祝し又その杖の頭に扶て崇拝をなせり
二二
信仰に由てヨセフハ死んとする時にイス
[二千五十二]
ラエルの子孫のエジプトより出る事について語り又おのが骸骨の事に就て命じたり
二三
信仰に由て父母ハモーセの生れたる時その美都き子なるを見て三月の間これを匿し又王の命をも畏ざりき
二四
信仰に由てモーセハ成長し時パロの女の子と稱るゝを辭たり
二五
暫く罪の樂を享んよりハ寧ろ神の民と共に苦難を受んことを善とし
二六
キリストの爲に受る詬誶ハエジプトの貨財よりも賓貴と意へり蓋報賞を認て望バなり
二七
信仰に由て彼ハエジプトを離れ王の怒を畏ざりき是見ざる者を見が如く耐忍べバなり
二八
信仰に由て彼ハ逾越節と血を灑ぐ禮を守れり蓋長子を滅す者の彼等に抵ざらんが爲なり
二九
信仰に由て彼等ハ紅海を陸の如くに渉しがエジプトの人ハ之を渉らんとして溺れ死たり
三十
信仰に由て七日の間エリコの城を環巡たるに遂にその石垣くづれたり
三一
信仰に由て妓婦のラハブハ信ぜざる者と共に亡ざりき蓋偵者を接て之を平安ならしめたれバ也
三二
われ更に何を言んや若ギデオン、バラク並サムソン、イピタ、ダビデ並サムエル及び預言者等の事を言んには時足ざる也
三三
かれら信仰に由て諸國を服し義を行ひ約束の者をえ獅の口を箝み
三四
火勢を滅し劔の刃を逃れ荏弱よりして剛強せられ戰爭に於て勇しく異邦人の陣を退かせたり
三五
婦も亦死たる者の復活を受しことあり亦ある人ハ最も愈れる復生を得べき爲に酷刑られて免るゝことを欲まざりき
三六
また或人ハ嬉笑をうけ鞭扑れ縲絏と囹圄の苦を受
三七
石にて擊れ鋸にてひかれ火にて焚れ刃にて殺され綿羊と山羊の皮を衣て經あるき窮乏して艱苦めり
三八
世ハ彼等を居に堪ず彼等ハ曠野と山と地の洞の穴とに周流たり
三九
彼等ハ皆信仰に由て美名を得たれども約束の所を得ざりき
四十
そハ彼等も我儕と偕ならざれバ成全す
[二千五十三]
ること能ハざる爲に更に愈れる者を神預じめ我儕に備へ給へり
是故に我儕かく許多の見證人に雲の如く圍れたれバ諸の重負と縈る罪を除き耐忍びて我儕の前に置れたる馳塲を趨り
二
イエス即ち信仰の先導となりて之を成全する者を望むべし彼ハ其前に置ところの喜樂に因てその耻をも厭ハず十字架を忍びて神の賓座の右に坐しぬ
三
なんぢら倦疲れて心を喪ふこと莫らん爲に惡人の如此おのれに逆ひしをも忍たる者を思ふべし
四
なんぢら惡を爭ひ拒て未だ血を流に至らず
五
また子に告るが如く告給ひし言を爾曹忘れたり曰く我子よ爾主の懲治を輕ずる勿れ其譴責を受るとき心を喪ふ勿れ
六
そハ主その愛する者を懲め又すべて其納る所の子を鞭てり
七
なんぢら若この懲治を忍バゞ神ハ子の如く爾曹を待ひ給ふなり誰か父の懲めざる子あらん乎
八
衆の人の受る懲治もし爾曹に無バそハ私子にして實子に非ず
九
また我儕の肉體の父ハ我儕を懲めし者なるに尚これを敬へり况て霊魂の父に服ひて生を得ざるべけん乎
十
肉體の父ハその心に任せて暫く我儕を懲む然ど靈の父ハ我儕に益を得しめて其聖潔に與らせんがため懲むることを爲
十一
凡の懲治今ハ悦バしからず反て悲と意ハる然ど後これに由て鍛錬する者にハ義の平康なる果を結バせり
十二
是故に爾曹疲たる手蒻たる膝を健かにせよ
十三
足蹇たる者の迷ふことなく痊されんが爲なんぢらの足に平直なる徑を備ふべし
十四
なんぢら衆の人と和睦ことをなし自ら潔らんことを務めよ人もし潔らずバ主に見ゆることを得ざる也
十五
なんぢら愼めよ恐くハ神の恩に及バざる者あらん恐くハ苦根生いでて爾曹を擾さん且おほくの人これに因て汚るべし
十六
恐くハエサウの如く淫を行ひ妄なる事を
[二千五十四]
なす事あらん彼ハ一飯のために長子の業を鬻り
十七
其のち祝ふ所の福を嗣んことを求たれども終に棄られ涙を流して志を挽回さんとせしが得こと能ハざりしハ爾曹の知ところ也
十八
爾曹の近ける所ハ捫るべき山に非ず或ハ燄たる火あるひハ密雲あるひハ黑暗あるひハ暴風
十九
あるひハ箛の音あるひハ言語の聲に非ず此聲を聞し者ハ再び言をもて語給ハざることを求へり
二十
そハ獸さへ若し山に觸なバ石にて擊るべしと命ぜられしを彼等忍ぶこと能ハざりし故なり
二一
その見しところ極て畏しかりけれバモーセも我甚く恐懼戰慄りと曰り
二二
然ど爾曹の近ける所ハシオンの山また活神の城なる天のエルサレムまた千萬の衆すなハち天使の緊集
二三
天に錄されたる長子どもの教會また衆の人を鞫く神および成全せられたる義人の靈魂
二四
新約の中保なるイエス及び灑ぐ所の血なり此血の言ところハアベルの血のいふ所よりハ尤も愈れり
二五
愼みて告る所の者を拒む勿れ若し地にて示せる者を拒し彼等免かるゝ事なかりしならバ况て我儕天より示せる者を拒て免るゝことを得んや
二六
昔ハ其聲地を震へり今ハ彼つげて曰く我また一次地のみならず天をも震ハん
二七
この再一次と言るハ震るべき者の棄られんことを示す此等の造られたるハ震ハれざる者の存んため也
二八
是故に我儕震れざる國を得たれバ恩に感じて虔み敬ひ神の意旨に合ふ所をもて之に事ふべし
二九
夫われらの神ハ燬盡す火なり
なんぢら恒に兄弟の相愛する心を存べし
二
遠人を接待事を忘るゝ勿れ或人かく行たれバ知ずして天使を接待せり
三
己もともに囚るゝが如く囚者を念へ爾曹も亦身に在が故に苦む者を念ふべし
四
なんぢら婚姻の事を凡て貴め又牀をも汚すこと勿れ神ハ荀合また奸淫す
[二千五十五]
る者を審判き給ハん
五
なんぢら世を過るに貪ることをせず有ところを以て足りとせよ蓋われ爾を去ず更に爾を棄じと云給ひたれバ也
六
然バ我儕毅然して曰べし主われを助る者なれバ畏なし人われに何をか行んと
七
神の道を爾曹に教へ爾曹を導く者を念へ其行の果を觀てその信仰に效ふべし
八
イエス キリストハ昨日も今日も永遠變らざる也
九
萬殊なる教と異なる教に搖蕩さるゝ事勿れ恩に由て心を堅固せられ飮食に由ざるハ善し飮食に由て行て行ひたる者は益する所なかりき
十
我儕に祭壇あり此上の物を幕屋に事る人ハ食ふことを得ざる也
十一
祭司の長罪を贖ハんが爲に獸の血を携へて聖所に入その獸の體を營外にて焚り
十二
是故にイエスも己の血をもて民を潔んが爲に門の外に苦を受しなり
十三
然ば我儕も彼の詬誶を負て營外に出かれに往べし
十四
我儕こゝに在て恒に存つべき城邑なし惟きたらんとする城邑を求む
十五
是故に我儕かれに由て恒に讃美の祭を神に獻べし即ち其名を頌る唇の果なり
十六
然どまた善を行と施捨を行ことを忘るゝ勿れ此の如き祭ハ神これを悦べバ也
十七
爾曹を導く者に循ひて服すべし彼等ハ己が事を神の前に訴ふべき者なるが故に爾曹の霊魂のために守ることを爲バなり彼等を歎せず歡びて守ることを爲しむべし然ざれバ爾曹に益なし
十八
なんぢら我儕のために祈禱せよ我儕よき心ありて凡の事に善行をなさんと爲ことを信ずれバ也
十九
われ尚も速に爾曹に歸ることを得んが爲に爾曹の祈んことを更に求む
二十
願くハ窮なき契約の血に由て羊の大牧者なる我儕の主イエス キリストを死より甦らしゝ平安の神
二一
イエス キリストに由て其悦ぶ所を爾曹の心の中に
[二千五十六]
起し又爾曹をして其旨を行ハせんが爲に凡の善事に於て爾曹を全うせしむべし榮光かれに歸して世々曁なからんアメン
二二
兄弟よ今われ爾曹に略かき贈りたれバ我が勸の言を容んことを請
二三
我儕が兄弟テモテの釋されし事を爾曹知べし彼もし速に來らバ我かれと偕に爾曹を見ん
二四
請すべて爾曹を導く者および諸の聖徒に安を問イタリヤより來りし者も安を爾曹に問り
二五
願くハ恩寵なんぢら衆の人と偕に在んことをアメン