-
- 註: この文書ではルビが使用されています。ここでは「単語」の形で再現しています。一部の古いブラウザでは、ルビが正しく見えない場合があります。
以下[千八百七十九]
斯て彼等ハアムピポリス及アポロニヤを過てテサロニケに至る此にユダヤ人の會堂あり
二
パウロ常の如く彼等の中にいり三回安息日ごとに聖書に本きて彼等と論じ
三
キリストの必ず苦難をうけ死より甦るべき事を説また我なんぢらに傳る所の此イエスは即ちキリストなる事を説明せり
四
是に於て其中の人々信じてパウロとシラスに從り又神を敬ふギリシャ人の之に從るも多く貴 女も少からざりき
五
然るにユダヤ人これを妬み市井にをる匪 類をかたらひ群を成て邑を擾せパウロとシラスを執へ民の前に曳出さんとてヤソンの家に來しが
六
彼等を見出さざりければヤソン及び數人の兄弟を邑宰の前に曳來て大聲に曰けるは天下を亂す斯者ども此にまで來れり
七
ヤソンは之を迎納たり此人々は皆イエスといふ他の王ありと言てカイザルの命に背く者なり
八
人々と邑の宰等これを聞て心を傷しむ
九
上官はヤソン及その餘の人々より保狀を取て之を釋せり
十
兄弟たち夜間に急ぎパウロとシラスをベレアに去しむ彼等かしこに至てユダヤ人の會堂に往り
十一
此處の人々はテサロニケの者よりも性情よきが故に好て道をきゝ此の如こと果して有か無かを知んとて日々に聖書を究れり
十二
是故に其中の人おほく之を信ず又ギリシャの貴 女および男子の信じたる者も少からざりき
十三
テサロニケのユダヤ人は神の言のパウロに因てベレアにも傳りしを知また彼處に至て人々を擾しめたり
十四
是に於て兄弟たち直にパウロを海に適しむ然どもシラスとテモテは尚この處に留りぬ
十五
パウロを伴ひし者かれを携てアテンスに至る其人々パウロよりシラスとテモテを速に來しめよとの命を受て出立り
十六
パウロ、アテンスに在て彼等を待る時その邑こぞりて偶像に事るを見
[千八百八十] て甚く心を傷めたり
十七
是故に會堂に於てユダヤ人および神を敬ふ人々と論じ又日々市に於て其遇ところの者と論ず
十八
時にエピクリアン及ストイクの理學者數人これと相 語り或人いひけるは此嘐啁者なにを言んとする乎また或人いふ彼は異なる鬼神を傳る者の如しと蓋パウロ彼等にイエス及び復生の事を宣しが故なり
十九
斯て彼を引つれアレオ山に往て曰けるは爾が語る所の此 新しき教を我 儕 知せらるゝことを得るや
二十
爾の異 聞を我儕の耳に入しが故に我儕その何事なるを知んとすれば也
二一
凡て此アテンス人および其地に留れる人は惟新しき事をつげ或は聽事にのみ其日を送れり
二二
パウロ、アレオ山の中に立て曰けるはアテンスの人よ我なんぢらが毎事に鬼神を敬ふの甚しきを觀
二三
われ途を行とき爾曹が敬拝ところの者を見しに識ざる神にと刻書し一の祭壇を見出せり故に爾曹が識ずして敬ふ此者を我なんぢらに示さん
二四
それ宇宙と其中の萬 物を造り給る神は是天地の主なれば手にて造れる殿に住たまはず
二五
かつ衆人に生命と気息と萬 物を予たまへば物に乏きことなし人の手にて事らるゝものに非ず
二六
またこの神は凡の民を一の血より造り悉く地の全面に住せ預じめ其時と住ところの界とを定め給へり
二七
此は人をして神を求しめ彼等が或は揣摩うる事あらん爲なり然ども神は我儕各人を離るゝこと遠からざる也
二八
それ我儕は彼に賴て生また動また存ことを得なり爾曹の詩人たちも我儕は其裔なりと云しが如し
二九
如此われらは神の裔なれば其神を金銀または石など人の工と巧を以て造れる者と均く意ふ可らず
三十
往者に蒙昧し時は神これを不問に爲給しが今は何處の人にも皆悔改むることを命じ給ふなり
三一
蓋神すでに其立し所の人により義をもて世を鞫べき日を
[千八百八十一] 定め此事に就ては彼を死より甦らせて其證を衆の人に予たまへば也
三二
かれら死たる者の復生の言を聞て或人は戯笑ある人は我儕この言を再び爾に聽んと曰
三三
是に於てパウロ彼等の中より出去る
三四
然ど數人彼に從て信ぜり其中にはアレオ山の裁判人デオヌシオ及ダマリスと名くる女また其他の人も之と偕に在き
此後パウロはアテンスを離てコリントに至る
二
新近イタリヤより來れる者にてポントに生しアクラと名るユダヤ人および其妻プリスキラに遇て其所に至れり彼等がイタリヤより來しはクラウデヲ、ユダヤ人に盡くロマを離と命ぜしに因てなり
三
彼その業を同くするに由て之と偕に止りて工を作ぬ其業は幕屋を製る者なり
四
斯てパウロは安息日ごとに會堂に於て論じユダヤ人とギリシャ人を勸たり
五
シラスとテモテ、マケドニヤより下たる時パウロ、ユダヤ人に向てイエスのキリストなる事を證し道を傳ることに心を凝し居り
六
然るにユダヤ人は之に敵ひ且誚しに因パウロ衣を拂て彼等に曰けるは爾曹の血は爾曹の首に歸すべし我は咎なし今より異邦人に適ん
七
遂に此を離てユストと云る人の家にいる彼は神を敬ふ者にて其家ハ會堂に隣れり
八
會堂の宰クリスポ及その家族みな主を信ず又コリント人にて道をきゝ信じてバプテスマを受し者も多りき
九
主或夜まぼろしにパウロに語給ひけるは懼るゝ勿れ黙せずして語べし
十
蓋われ爾と偕にあれバ爾を害せんとて責る者なし且この邑に我おほくの民あり
十一
是に於てパウロ一年と六ヶ月の間かれらの中に居て神の道を教へたり
十二
ガリヨ、アカヤの代官たりし時ユダヤ人心を合せてパウロを攻かれを裁判所に曳來り
十三
曰けるは此 徒は律法に背て
[千八百八十二] 神を拜ことを人に勸る者なり
十四
パウロ口を啓んとせし時ガリヨ、ユダヤ人に曰けるはユダヤ人よ若し不義奸惡の事ならば我が爾曹より聽は理なり
十五
然ども若し言語あるひは名 字および爾曹の律法の論ならば爾曹みづから之を理べし我かゝる事の審 士たるを欲ず
十六
斯て彼等を裁判所より逐出せり
十七
是に於て凡のギリシャ人會堂の宰なるソステネを執へ裁判所の前にて杖扑りガリヨは更に此事を意とせざりき
十八
パウロ此處に尚久く留り後兄弟に暇を告てプリスキラ及アクラ偕に舟にてスリヤに渉る彼ケンクレアに在しとき請願に因て髪を剪り
十九
彼エペソに至て二人を其處に留おき自ら會堂に入てユダヤ人と論ぜり
二十
衆人かれが久く偕に居んことを請たれど肯はずして
二一
暇を告て曰けるは我この來んとする節を必ずエルサレムに於て守ざるを得ず然どももし神許し給はゞ復び爾曹に返べしと遂に舟出してエペソを去
二二
カイザリヤにつき然してエルサレムに上り教會の安否を問て後アンテオケに下り
二三
暫く此處に住て又 出 立ガラテヤ及びフルギヤの地を逐次に經て凡の弟子等を堅せり
二四
爰にアレキサンドリアに生しユダヤ人にて辯才あり且聖書に達したるアポロと名る人エペソに來れり
二五
この人夙より主の道の教を受かつ心を熱してイエスの事を詳細に誨ふ然ど惟ヨハ子のバプテスマを知るのみ
二六
かれ始て此會堂に於て憚らず語りければプリスキラとアクラ之を聞て彼を己が家に招き神の道を尚も詳細に説明せり
二七
アポロ、アカヤに往んとせしかば兄弟たち書を送て弟子等に彼を接容んことを勸かれ至て既に恩により信ぜし者を大に助たり
二八
蓋かれ聖書を引てイエスのキリストなる事を示し人々の前にてユダヤ人を甚く辯折たれば也
以下[千八百八十三]
アポロのコリントに居る時パウロ東の方の地を經てエペソに來り或弟子等に遇て
二
之に曰けるは爾曹信者と爲しとき聖靈を受しや答けるは我儕ハ聖靈の有ことだに聞ざりき
三
パウロ曰けるハ然ば爾曹バプテスマを受て何に入られしや答けるハヨハ子のバプテスマに入られたり
四
パウロ曰けるハヨハ子ハ誠に悔改のバプテスマをなし民に向て我の後に來る者すなハちイエス キリストを信ぜよと曰り
五
彼等これを聞バプテスマを受て主イエスの名に入られたり
六
パウロ手を其上に按ければ聖靈彼等に臨みな異なる諸国の方言にて語かつ預言せり
七
其人おほよそ十二人なりき
八
パウロ會堂にいり憚らずして神の國の事を論じ且勸て三ヶ月を歷たり
九
然に剛愎にして之を信ぜざる人々あり衆の人の前に其道を詆誹ければパウロ彼等を離れ弟子等をも別させて日々テラノスと云る人の講堂に於て論ぜり
十
二年のあひだ如此ありしかばユダヤ人もギリシャ人も凡てアジアに住る者ことゞゝく主の道を聞ぬ
十一
神ハパウロの手によりて希有ふしぎの事を行ひ給へり
十二
即ちパウロの身に着たる汗布あるひは襜布を取て病者に加ければ病ハさり惡鬼ハ出たり
十三
茲に諸所を遊行て呪をなせるユダヤ人あり惡鬼に憑れたる者に向ひ試に主パウロが宣る所のイエスに藉て爾に出んことを誓しむ
十四
如此なせる者ハユダヤ人なるスケワと云る祭司の長の七人の子なり
十五
惡鬼こたへて曰けるハ我イエスを知またパウロを識り然ど爾曹ハ誰ぞや
十六
惡鬼に慿れたる人彼等の上に躍上り之に勝て壓伏ければ彼等傷つけられ裸にて其家を逃去り
十七
此事エペソに住る凡のユダヤ人ギリシャ人に聞えしかバ彼等みな懼を懷ぬ又主イエスの名崇られたり
十八
ま
[千八百八十四] た信ぜし者のうち多來りて自ら言あらハし其行し事を訴へたり
十九
また曩に魔術を行へる多の者等も其書籍を集人々の前にて焚り其價を計て銀五萬なる事を知り
二十
主の道廣まりて勝を得こと此の如し
二一
此事の竟し後パウロハマケドニヤ及アカヤを過エルサレムに往んと意を定め曰けるは我かしこに往て後かならずロマをも見るべし
二二
即ち己に事る者の中テモテとエラストの二人をマケドニアに遣し己ハ暫くアジアに留りぬ
二三
この時その道について容易ならぬ騒擾おこれり
二四
蓋一人の銀 工あり名をデメテリヲと云かれアルテミスの銀龕を作り工人等に利を得せしめること僅少からざりき
二五
その工 人および己が類の業の者を集て曰けるハ人々よ我儕の富るハ此 業に藉ること爾曹の知ところ也
二六
此パウロ手にて作れる者ハ神に非ずと曰て衆の人を誘 惑し第にエペソ耳ならず幾どアジア中に及せり是また爾曹が見ところ聞ところ也
二七
此ハ唯われらの業の輕めらるゝ危ある耳ならずアジア及び天下擧て奉る所の大なる女 神アルテミスの宮も藐せられ其威光も亦滅べし
二八
彼等これを聞て甚しく怒さけび曰けるハ大なるかなエペソ人のアルテミスよ
二九
是に於て擧 邑 大に擾れパウロの同行なるマケドニヤ人のガイヲスとアリスタルコを執へ彼等心を合せて戯園に擁入り
三十
パウロその人々の中に入んとせしに弟子たち之を許さざりき
三一
またアジアの祭を司どる者の中に彼に遣し其自ら戯園に入ざらん事を求たり
三二
其時ある人ハ彼事をいひ或人ハ此事を言さけべり蓋會衆みだれて大半ハ何の爲に集れるかを知ざれバ也
三三
是に於てユダヤ人アレキサンデルに出ん事を勸けれバ或人群衆の中より之を推出しぬアレキサンデル手を搖し民に向て事實を告
[千八百八十五] んとせしが
三四
彼等そのユダヤ人たるを知が故に皆おなじく聲を揚て大なる哉エペソ人のアルテミスよと二時ばかりの間さけびあへり
三五
書記官人々を撫て曰けるはエペソの人々よ此エペソは天より落し大なるアルテミスの殿に事る邑なるを知ざる者あらん乎
三六
此事は駁すこと能ざれば爾曹靖息にして猥に事を作べからず
三七
夫この人々は殿の盗賊にも非ず爾曹の女 神を讟す者にも非ず然るに爾曹これを曳來れり
三八
デメテリヲ及び偕にある所の工人もし人を訴る事あらば聽訟の日あり且方伯あれバ互に之を訟ふべし
三九
もし他の事由について求る事あらば律法に合ふ會に於て定むべし
四十
われら今日の騒擾に就ては訴られんことを恐る蓋この會について辭解べき言なければ也
四一
如此かたりて會を散せり
騒擾の定し後パウロは弟子等をよび別を告マケドニヤに往んとて出立ぬ
二
その地を經おほくの言を以て人々を勸めギリシャに至り
三
此に三ヶ月留りて後スリヤに航らんとせし時ユダヤ人かれを害せんと謀けれバマケドニヤを過て返んと意を定たり
四
彼と偕にアジアまで至し者はプロスの子ベレアのソパテル及テサロニケ人のアリスタルコとセクンド、デルベのガヨスとテモテ並アジアのテキコとトロピモなり
五
此 徒は先ち往てトロアスに於て我儕を俟り
六
除 酵 節の後われらピリピより舟出して第五日にトロアスに至り彼等に遇て其處に七日留れり
七
一週の首の日われらパンを擘爲に集りしがパウロ次の日出立ん事を意ひ彼等に道をかたり講つゞけて夜半に至れり
八
彼等が集れる樓に多の燈あり
九
ユテコと名る一人の少年窓に倚て坐し熟睡り居しがパウロの道を語れること久かりければ彼睡に因て三階より
[千八百八十六] 墮これを扶起しゝに既に死り
十
パウロ下て其上に伏これを抱て曰けるは爾 曹 憂 咷ぐ勿れ此人の生命は中にあり
十一
斯てパウロ復上りパンを擘て食ひ久しく彼等と語り天明に及て出立り
十二
人々この少 年を携へ其活るを見て甚だ慰めり
十三
偖われら舟にのり先ちてアソスに濟その處にてパウロを登んとせり蓋かれ陸より往んと自ら如此ハ定しなり
十四
彼アソスに於て我儕に遇ければ彼を登てミテレ子に至り
十五
彼處より舟出して次日キヨスの對に至り又次日サモスに着トログリヲムに泊り次日ミレトスに至れり
十六
蓋パウロ、アジアに時を費さゞる爲に舟にてエペソを過んと意を定しがゆゑ也かく定しハ彼なるべくハペンテコステの日エルサレムに在ことを得んと急たるに因
十七
斯て彼ハミレトスよりエペソに使を遣して教會の長老たちを召り
十八
彼等が來し時パウロ之に曰けるは我アジアに來りし初の日より常に爾曹の中に在て行ひし事は爾曹が知ところ也
十九
即ち我すべての事に謙遜また涙を流しユダヤ人の詭謀により艱難に遇て主に事へ
二十
益ある事は殘す所なく之を宣て或は人々の前或ハ家々に於て爾曹に教へ
二一
神に對ては悔改め主イエス キリストに對ては信仰すべき事をユダヤ人またギリシャ人に示せり
二二
今は我 心 切りてエルサレムに往かしこにて遇ところ如何を知ず
二三
たゞ聖 靈 邑 毎に我に示していふ縲絏と患難われを俟りと
二四
然どもわれハ我往べき路程と主イエスより受し職すなはち神の恩の福音を證する事を遂ん爲には我生命をも重ぜざる也
二五
今われ知なんぢらの中を遊行て神の國を傳へし我面を此後なんぢら復び見ざるべし
二六
是故に我今日なんぢらに證す凡の人の血に於て我は潔くして與ることなし
二七
蓋われ神の旨を殘す所なく悉く爾曹に宣たれば也
二八
故に
[千八百八十七] 爾曹みづから愼み且なんぢらが聖靈に立られて監督となれる其全群を愼み主の己が血をもて買給ひし所の教會を牧ふべし
二九
蓋わが去ん後この群を惜ざる暴き狼なんぢらの中に入んことを知ばなり
三十
亦なんぢらの中よりも弟子等を己に從はせんとて悖理なる言を言出す者おこらん
三一
此故に爾曹儆醒せよ我三年のあひだ夜も晝も斷ず涙を流して各人を勸しことを憶ふべし
三二
兄弟よ爾曹の德を建かつ凡の聖られし者の中に於て業を爾曹に予る能ある神および其恩惠の道に今われ爾曹を委ぬ
三三
われ人の金銀衣服を貪りしことなし
三四
我この手ハ我および我と偕に在し者の需用に供し事ハ爾曹が知ところ也
三五
われ爾曹も如此勤勞て柔弱者を扶け且主イエスの曰給へる受るよりも與るハ福也との言を心に記べきを凡の事に於て示せる也
三六
パウロかく語て跪づき衆 人と共に祈れり
三七
彼等みな大に哭きパウロの頸を抱て之と接吻し其再び我面を見まじといひし言に因て別ても憂をなし彼を舟まで伴へり
われら強て彼等に離れ舟にて眞直にコスに至り次日ロドスにゆき彼處よりパタラに至り
二
ピニケに濟る舟に遇これに登て出
三
クプロを望んで其を左に過スリヤに濟りツロに着り蓋この處にて舟の積荷を卸さんと爲バなり
四
斯て我儕弟子たちを訪そこに七日とゞまれり彼等靈に感じてパウロにエルサレムに往なかれと言
五
然ど既に七日を過しければ我儕出立て途につく彼等その妻孥と共に我儕を送て邑の外にまで至しが共に岸に跪きて祈り
六
互に別を告畢りて後われらは舟に登かれらハ其家に歸れり
七
我儕ツロよりトレマイに濟り既に舟路をハりぬ斯て兄弟等の安否を問かれらと偕に一 日 留り
八
次日いでたちてカイザリヤに至り傳
[千八百八十八] 道者ピリポの家に入て共に留る此ピリポハ七人の一人なり
九
彼に預言する四人の女あり皆處女なり
十
われら數日こゝに留れるときアガボスと名る一人の預言者ユダヤより下り
十一
我儕が所に來りてパウロの帶をとり己の手足を縛て曰けるハ此の如くエルサレムにあるユダヤ人ハ此帶の主を縛て異邦人の手に付さんと聖靈いひ給へり
十二
此事を聞て我儕と此地の者とともども彼にエルサレムに上る勿れと勸しに
十三
パウロ答けるハ爾曹なんぞ哭て我心を摧くや我主イエスの名の爲にハ第に縛るゝ耳ならずエルサレムに死るも亦甘ずる所なり
十四
かれ勸を納ざりけれバ我儕主の旨の如く成と曰て止
十五
既に數日を經て我儕行 裝をなしエルサレムに上れり
十六
カイザリヤの弟子等も數人われらと偕に行て我儕をクプロのナソンと云る老弟子の所に宿らせんとて其家に携ひ入ぬ
十七
我儕エルサレムに至けれバ兄弟たち欣て我儕を迎ふ
十八
次日パウロ我儕と偕にヤコブの家に入しに長老等みな集居れり
十九
パウロ彼等の安否を問且神の己を用て異邦人の中に行ひ給ひし事を一々告ければ
二十
かれら之をきゝ主を崇かつ彼に曰けるは兄弟よ爾ユダヤ人の信ぜしもの幾萬なるを知かれらは皆律法に熱心なる者なり
二一
なんぢ異邦人の中にあるユダヤ人に教てモーセを棄しめ且兒子に割禮を行ふ勿れ例に從ふ勿れと言りと告る者あり彼等これを聞たり
二二
今いかに爲べきぞ多の人々爾の來れるを聞て必ず集らん
二三
是故に爾われらが言ところに從へ我儕に誓願のもの四人あり
二四
爾此人々を携へ之と偕に潔 事をなし代て其費を贖ひ彼等に髪を薙ことを得しめよ然ば人々なんぢに就て聞し所みな虛にして爾が律法を守て行へる事を知べし
二五
信じたる異邦人には我儕すでに書をかき遣て斯る類の事は守
[千八百八十九] るに及ずたゞ偶像に猷し物と血と勒 殺しゝ者および姦淫とを愼む可と定たり
二六
斯てパウロは次日この人々を携て之と偕に潔 事をなし且かれら各人の爲に供物を献べき事と其期までに潔事の日を盡さん事を殿に入て告
二七
七日をはらんと爲ときアジアより來しユダヤ人パウロの殿に居を見て凡の民を聳動しめ彼を執へ
二八
喊叫けるはイスラエルの人々我儕を助よ此人は遍く教を傳この民と律法と此處に逆ふ者なり又ギリシャ人をも引て殿に入この聖 所を汚たり
二九
蓋かれら曩にエペソ人トロピモと云る者のパウロと共に城下に在しを見てパウロ之を殿に引入しと意へる也
三十
是に於て擧邑さわぎたち人々趨集りてパウロを執へ之を殿より曳出しけれバ直に其門を閉たり
三一
彼等すでにパウロを殺さんとせし時あまねくエルサレム紛亂たりとの風聲千夫の隊の長に聞えければ
三二
彼たゞちに兵卒と百夫の長等を率ゐ彼等の所に趨下れり彼等千人の長と兵卒を見てパウロを打ことを止
三三
其とき千夫の長近りてパウロを執へ命じて二の鏈にて之を繫せその誰たる又何事を行しかを問たり
三四
衆の人々のうち或は彼事をいひ或は此事を言さけび亂に因て千夫の長その實情を知こと能はず是故に命じて彼を陣營に曳往しめたり
三五 三六
衆の人々後に從ひて彼を殺せと擁迫るに因て階に及るとき兵卒パウロを負り
三七
パウロ曳れて陣營に入んとせし時千夫の長に曰けるは我なんぢに語て可や否かれ答けるは爾ギリシャの方言を識や
三八
爾は曩に亂を起し四千人の凶徒を率て野に出しエジプト人ならず乎
三九
パウロ曰けるは我はキリキヤのタルソに生しユダヤ人にて鄙邑の民に非ず願くは民に語ることを我に許せ
四十
千夫の長これを許けれバパウロ階の上にたち民に向て手を搖し其
[千八百九十] 大に靜れるときヘブルの方言をもて彼等に語れり
人々兄弟および父等よ請いま我が陳んとする事實を爾曹きけ
二
彼等そのヘブルの方言にて語るを聞ていよゝゝ靜れり
三
パウロ曰けるは我はユダヤ人にてキリキヤのタルソに生れ而して此邑のガマリエルの足下にて長られ先祖の嚴なる律法に由て教られ神に熱心なりし事は今日の爾曹すべての者の如なりき
四
われ曩に斯道の人を男 女とも縛かつ獄に解し死に至るまでに之を窘たり
五
即ち祭司の長と長老會の人の我に就てみな證をなすが如し我彼等より兄弟等に遣る書を受ダマスコにをる者を縛てエルサレムに曳來り刑を受しめんとて彼處に赴けり
六
然ど我ゆきてダマスコに近けるに時おほよそ日中たちまち天より大なる光ありて我を環照せり
七
われ地に仆る其時サウロ サウロ何故われを窘るやといふ聲を聞
八
われ答けるは主よ爾は誰ぞや我に曰けるは我は爾が窘る所のナザレのイエスなり
九
我と偕に在しもの光を見て懼たり然ど我に語し者の聲を聞ざりき
十
我いひけるは主よ我なにを爲べきか主われに曰給ひけるは起てダマスコに往すでに定りし爾が爲べき事は彼處に於て爾に告べし
十一
その光の輝に緣て我みることを得ず成ければ我と偕に在し者の手に援られてダマスコに至れり
十二
この邑に住る凡のユダヤ人の中に譽あるアナニアといふ律法に循へる神を敬ふ人
十三
我もとに來り側に立て曰けるは兄弟サウロ復び見ことを得よ我たゞちに目を擧て彼を見たり
十四
彼また曰われらの列 祖の神ハ爾に神の旨を知しめ彼の義 者を見させ其口より出る聲を聞しめん事を定め給へり
十五
蓋なんぢ彼が爲に其見聞せし事を以て凡の人に向ひ證人と爲べけれバ也
十六
今な
[千八百九十一] んぢ如何で緩ふ可んや起て主の名を龥バプテスマを受て其罪を滌去べしと
十七
我エルサレムに返り聖殿に於て祈れる時まぼろしにて
十八
見けるハ主われに向て急げ彼等ハ爾が我について立る證を納ざるが故に速にエルサレムを出よと曰たまへり
十九
我いひけるハ主よ我もと爾を信ずる者を執へ或ハ諸會堂にて之を鞭ちしたことを彼等ハ知
二十
また爾の證 人ステパノの其血を流さるゝ時われ傍に立て其殺さるゝを好とし彼を殺す者の衣を守れり
二一
主われに曰けるハ往われ爾を遠く異邦人に遣すべし
二二
彼等きゝて此 言に至みな聲を揚て曰けるハ此の如き者を地より去かれハ先に生命の有べき者ならざりき
二三
かれら喧呼で其 衣をぬぎ塵を空中に揚けれバ
二四
千夫の長命じてパウロを陣營に引入しめ何故かく彼等がパウロに向て喧呼かを知んがため鞭ちて彼に訊べしと言り
二五
かれら革鞭を撻んとてパウロを引張しとき彼その側に立る百夫の長に曰けるハ罪を定ずしてロマ人たる者を鞭つハ律法に當ふや
二六
百夫の長これを聞ゆきて千夫の長に告て曰けるハ爾なすことを愼めよ此人ハロマ人なり
二七
千夫の長ゆきてパウロに曰けるハ爾ハロマ人なるや我に告よパウロ曰けるハ然り
二八
千夫の長こたへけるハ我ハ多の金を以て此民藉を得たりパウロ曰けるハ我ハ生 來なり
二九
是に於てパウロを拷問せんとせし者等たゞちに退けり千夫の長そのロマ人なるを知かれを縛しことを懼る
三十
斯て明日ユダヤ人の彼を訟たる故を確に知んと欲ひパウロの縛をとき祭司の長等および全議會に命じて集らしめパウロを携 往て其前に立せたり
パウロ議會に目を注かれらを見て曰けるハ人々兄弟よ我今日に至るまで凡のこと
[千八百九十二] と良心に由て神に事たり
二
祭司の長アナニア側に立る者に命じて彼の口を擊しむ
三
是に於てパウロ彼に曰けるハ粉堊たる壁よ神は爾を擊ん爾が坐せるは律法に循ひて我を審ん爲なるに律法に違ひ命じて我を擊しむる乎
四
側に立る者ども曰けるは爾神の長を詬るや
五
パウロ曰けるは兄弟よ我その祭司の長なるを識ざりき識ば然は言ざりし也そは爾の民の有司を誹る勿れと錄されたり
六
パウロ彼等の其半はサドカイの人半はパリサイの人なるを知て議會の中に呼り曰けるは人々兄弟よ我はパリサイの人またパリサイ人の子なり死たる者の甦ることを望に因て我いま審判かる
七
パウロ如此いひしかばパリサイの人とサドカイの人の間に爭論おこりて集りたる多の人々相分れたり
八
蓋サドカイ人は復生また天使および靈を無と言パリサイ人は之をみな有と言バ也
九
遂に大なる喧嘩となりぬパリサイ人の學者たち立て爭ひ曰けるは我儕この人の惡ことを見ずもし靈あるひは天 使の彼に語し事あらんには我儕神に敵す可らざる也
十
斯て大なる爭ひ起ければ千夫の長パウロが彼等に引裂れん事を恐て兵隊に命じ彼等の中に下らせ之を奪とり陣營に引入しめたり
十一
主その夜パウロの側に立て曰給ひけるはパウロよ勇そは爾われに就てエルサレムに證せし如く必ずロマにも證すべければ也
十二
明日に及てユダヤ人黨を結び共に誓て曰けるはパウロを殺すまでは食飮をも爲まじ
十三
この誓を爲る者は四十人餘なり
十四
かれら祭司の長および長老たちの所に來て曰けるは我儕パウロを殺すまでは何をも食じと誓を立たり
十五
是故に請なんぢら議會と偕にパウロの事をなほ詳く訊る狀を作て千夫の長に告かれを爾曹に曳下らしめよ彼が近かざる前に之を殺さんと我儕すでに備を
[千八百九十三] 爲り
十六
然るにパウロの姉妹の子この謀をきゝ即ち往て陣營に入パウロに告
十七
パウロ請て百夫の長一人をまねき曰けるは此 少 者を千夫の長に携往この者かれに告べき事あれバ也
十八
是に於て百夫の長かれを千夫の長に携往て曰けるは囚人パウロ我を請て此 少 者なんぢに言べき事あれバ之を爾に携往ん事を求へり
十九
千夫の長その手をひき僻靜なる處に退きて問けるは爾我に告んとする事は何ぞや
二十
彼いひけるはユダヤ人パウロの事をなほ詳く問る狀を作て爾にこひ明 日かれを議會に曳下さんことを約せり
二一
然ど爾かれらが言に從ふ勿れ蓋そのうち四十人餘の者パウロを殺すまでは食ず又飮じと共に誓て埋伏し今すでに其預備をなして爾の許を俟り
二二
千夫の長 少 者に爾我に此事を告しと人に語る勿れと囑 付て之を去しめ
二三
又百夫の長の二人を召て兵卒二百人騎兵七十人矛を持もの二百人を備へ今夜第九時にカイザリヤに往
二四
かつ畜を備てパウロを乗しめ之を護て方伯ペリクスの所に送るべしと曰
二五
また左の如き書をかき添たり
二六
云クラウデヲ、ルシアス最も尊き方伯ペリクスの安を問
二七
この人ユダヤ人に執はれ將に殺されんとせしを我そのロマ人なるを聞しにより兵隊を率ゐ往て之を拯け
二八
彼等が訟る故を知んと欲ひ之を其議會に引下しが
二九
彼が訟られしは惟かれらの律法の論に由るのみにて其死に當るべく又繫るべきの故を見ざる也
三十
然るにユダヤ人これを害せんと計よし其事われに現れしにより直に之を爾の所に遣れり又かれを訟し者等に命じて其訟る所を爾に告しめんとす
三一
是に於て兵卒は命に遵ひてパウロを携へ夜の中にアンテパトリスに至り
三二
明日騎兵をしてパウロと共に往しめ其餘の者は陣營に歸れり
三三
騎兵はカイザリヤに至り書を方伯に呈
[千八百九十四] しパウロを其前に立しむ
三四
方伯書を讀畢りて彼に其國を問キリキヤの者なるを知て
三五
曰けるは爾を訟る者の此に來らん時われ爾に聽べし遂に命じて之をヘロデの公廨に於て守らしめたり
五日を經てのち祭司の長アナニアは長老等および一人の辯士テルトルスと共に下てパウロを方伯に訟ふ
二
パウロ召出されし時テルトルス訟の端を發て曰けるは
三
最も尊きペリクスよ我儕なんぢに由て太平を得かつ此國は爾の先見に藉て良に改まりたれバ時に隨ひ地に隨ひて感謝せざるなし
四
今われ敢て爾を礙ぐる事をせじ請しバらく忍て我が片 言を聽たまへ
五
蓋われら此人を見に疫病の如し天下のユダヤ人を擾せり且かれハナザレ宗の首にて
六
また殿をも犯んとせり我儕これを執わが律法に循ひて審を爲んと欲ひしに
七
千夫の長ルシアス來て我儕の手より強て之を奪とり
八
彼を訟る者をして命じて爾の所に來しめたり爾かれを訊バ我儕が訟る所を悉く知べし
九
ユダヤ人も共に訟へ曰けるハ此等のこと誠に然り
十
方伯首をもて示しパウロに言しめけれバ彼こたへけるハ爾が多の年この民の審官たるを我しるが故に自らの事情を訟ることを喜べり
十一
爾しらん我崇拝の爲にエルサレムに上しより僅に十二日のみ
十二
彼等ハ我が殿に於て人と爭論をなし又會堂あるひハ城下に於て人々を擾しゝ事を未だ見ざるべし
十三
且かれらが今われを訟る所の事ハ慿據を立て之を確すること能ハじ
十四
然ど我この事を爾に認さん夫われハ彼等が異端と稱る道に循ひ我が列祖の神に事へ悉く律法と預言者の書に錄されし事を信じ
十五
かつ義も不 義も死し者の甦らんことを神に賴て我ハ望
[千八百九十五] り即ち彼等が望む所と異なるなし
十六
此に因て我つねに自ら勵み神に對ひ人に對ひ良 心の責なからんことを務るなり
十七
われ數年を歷たりしのち施濟を我民になし又獻物をせんが爲に歸たり
十八
我すでに潔淨て此等の事を行る時アジアより來しユダヤ人等ハ殿に於て我が人を集ることをせず亂をも爲ざるを見たり
十九
もし我を訴べき事あらバ彼等なんぢの前に訟ふべし
二十 二一
或ハ又わが議會の前に立るとき呼りて死たる者の復生の事に就われ今日爾曹に審判るといへる此一言の外に此人々もし我が不義ありしを見バ言べし
二二
是に於てペリクス詳細に其道を知けれバ彼等を遲しめんとして曰けるハ千人の長ルシアスの下らん其時われ悉く爾曹の事を究べんと
二三
百夫の長に命じてパウロを守しめ且これを寛容にして其友の彼を供給こと有を禁ぜざらしむ
二四
數日の後ペリクス其妻ユダヤ人なるデルシラと共に來りパウロを召て其キリストを信ずる道を語るを聽
二五
パウロ公義と撙節と來んとする審判とを論ぜしかバペリクス懼て答けるハ爾 姑く退け我便時を得バ再なんぢを召ん
二六
ペリクス、パウロより金を得んことを望が故に屢次かれを召て偕に語れり
二七
斯て二年を經て後ボルキス、ペストスと云る者ペリクスの職に代たりペリクス悦をユダヤ人に取んと欲ひてパウロを獄に繫おけり
偖ペストスハ任國に至て三日の後カイザリヤよりエルサレムに上れり
二 三
時に祭司の長等とユダヤの尊重たる者等パウロを彼に訴へ且これを途にて謀殺さんと欲ひ彼に勸その恩を我儕に賜てパウロをエルサレムに召給ハんことを請
四
ペストス答て曰けるハパウロハ守られてカイザリヤにあり我も遠からず彼處に赴くべし
五
是故に爾曹のうち權威ある者ども我
[千八百九十六] と共に下り彼について訟べきこと有バ訟へよ
六
ペストス彼等の中に十日餘とゞまりてカイザリヤに下り明日審判の座に坐り命じてパウロを曳出しむ
七
パウロの來れる時エルサレムより下しユダヤ人等かれを立圍み證據を立ること能ハざる多端の重罪をもて訟をなせり
八
パウロ辯訴けるハ我いまだユダヤ人の律法および殿またカイザルにも皆犯せる所なし
九
ペストス悦をユダヤ人に取んとしてパウロに答て曰けるハ爾エルサレムに上り彼處に於て此事につき審判を我前に受んことを望むや否
十
パウロ曰けるハ我今カイザルの審判の塲に立この處に於て審を受るハ當然なり我ハ爾が明かに知る如くユダヤ人に不義を爲しことなし
十一
もし不義を行ひて死に當るべき罪を犯さバ我ハ死を免るゝことを欲ハじ若われを訟る所のこと虛きときハ其望に任せて我を彼等にわたし得る者なし我ハカイザルに上告せん
十二
是に於てペストス議事官と相議こたへて曰けるハ爾カイザルに上告せんと欲へりカイザルに往べし
十三
數日を經て後アグリッパ王およびベルニケ、ペストスの安否を問ん爲にカイザリヤに來り
十四
彼處に留れること久かりしかバペストス、パウロの事を王に告て曰けるハ此に一人の囚人あり即ちペリクスの遺置し所なり
十五
我エルサレムに居しとき祭司の長とユダヤ人の長老たち之を訟へて罪に擬んことを求へり
十六
われ彼等に答けるハ訟られしもの己を訟し者に對て其訟る所を分理べき機を未だ得ざる先に之を死に付るハロマ人に例に非ず
十七
是に於て彼等この處に來 集れり我も日を延ことをせず次日審判の座に坐り命じて其人を曳出さしめたるに
十八
訟 者ども立て之を訟しが其事わが逆 料りし所に違へり
十九
惟かれらハ鬼神を敬ふ己が道とパウロが生
[千八百九十七] りといふ既に死し一人のイエスとに就て爭論をなし彼を訟しのみ
二十
我これらの質訊に惑けれバパウロに對ひ爾エルサレムに往此事につきて彼處に於て審判を受ることを欲ふや否と問しに
二一
彼アウグストの質訊を受んとして護れんことを求しに因われ命じて之をカイザルに送るまで守らせ置り
二二
アグリッパ ペストスに曰けるハ我も亦その人に聽んことを望なり彼いひけるハ明日なんぢ之に聽べし
二三
是に於て明日アグリッパとベルニケ大に威儀を備きたりて千夫の長等および邑の尊き人々と偕に公堂に入ぬパウロはペストスの命に由て曳出さる
二四
ペストス曰けるハアグリッパ王および凡て我儕と偕にある人々よ爾曹この人を觀なるべしユダヤの多の人々エルサレムに於ても亦この所に於ても彼について我に訟彼ハ此のち生べき者に非ずと呼叫べり
二五
然ど我これを査看て其死べき事を爲ざりしを知り且かれ自らアウグストに上告せんと爲により我これを解らん事を定たり
二六
我これに就て我が主上に奏すべき實情を得ず故に我これを質訊て奏すべき事を得んがため爾曹の前また殊更にアグリッパ王なんぢの前に曳出せり
二七
そは囚者を解るに其罪案を書そへざるハ理に合ハずと意へバ也
アグリッパ、パウロに曰けるハ爾が自己の爲に陳る事を許たり是に於てパウロ手を伸かれらが訟を禦んとして曰けるハ
二
アグリッパ王よ我ユダヤ人に訟られし事につき今日なんぢの前にて悉く辯訴ことを得が故に我を幸なる者とす
三
殊に幸なるは爾ユダヤ人の例と彼等が論ずる所の端緒を悉く知たまふ事なり是故に願くハ耐心て我に聽たまへ
四
夫わが始よりエルサレムに在て我民の中にをり幼遲ときより如何に世を過しかをユダヤ人はみな知なるべ
[千八百九十八] し
五
もし證を爲んとせば彼等は素より我が曩に我儕の教の中にて最も嚴き所に遵ひたるパリサイ人なりし事を知り
六
今われ立て我儕の先祖等に神の約束し給ひし其望につきて鞫かるゝ也
七
この望は即ち我儕の十二の支派の夜も晝も專ら神に事て得んとする者なりアグリッパ王よ此望の爲に我はユダヤ人に訟られたり
八
神すでに死し者を甦らせ給りと云とも爾曹なんぞ信じ難しとする乎
九
我も亦曩にはナザレのイエスの名に逆はんがため多の事を行は宜ことゝ自ら意ひ
十
エルサレムにて此事を行り卽ち祭司の長等より權威を受て多の聖徒を獄に入また彼等の殺さるゝ時は其を宜とし
十一
諸會堂に於て屢次これを罰し強て之に褻瀆を言しめ且狂ること甚しく之に由て外國の邑にまで攻及べり
十二
此とき祭司の長等より權威と命令を受てダマスコへ往しに
十三
王よ其途にて正 午われ天より光あるを見たり日よりも輝きて我および同に行る者を環照せり
十四
我儕みな地に仆る其時ヘブルの方言にてサウロ、サウロ何ぞ我を窘る乎なんぢ莿ある鞭を蹴こと難しと我に語れる聲を我きけり
十五
我いひけるは主よ爾は誰ぞや彼こたへけるは我は爾が窘る所のイエスなり
十六
爾 起て立よ我なんぢに現るゝは爾を立て役 者とし又なんぢが既に見し事と我が爾に現れて示さん其事の證 人と爲んがため也
十七
我なんぢを守て此民および異邦人の手より拯ふべし今なんぢを彼等に遣すは
十八
彼等の目を啓き暗を離れて光に就サタンの權を離れて神に歸せしめ又彼等をして我を信ずるに因て罪の赦と聖られし者の中に於て業を受ることを得させんが爲なり
十九
是故にアグリッパ王よ我この天の現示に背ずして
二十
先ダマスコ、エルサレムの人々次にユダヤの全地および異邦人にまで恒に悔 改に符ふ行を
[千八百九十九] なして罪を悔べき事と神に歸すべき事とを宣傳へたり
二一
此等の事に由てユダヤ人われを殿にて執かつ我を殺さんとせり
二二
然して我は神の佑をえ今日に至るまで斃るゝことなく小き者にも大なる者にも證をなせり我言ところは預言者およびモーセが將來かならず成んと言しことに非ざるはなし
二三
即ちキリストの苦難を受死し者の復生の始となり光を此民と異邦人に傳ふること也
二四
パウロが如此うったへける時ペストス大聲に曰けるはパウロよ爾は狂氣せり博学爾をして狂氣せしめたり
二五
パウロ曰けるは最も尊きペストスよ我は狂氣せるに非ず我言ところは眞實にして慥なる心より出るなり
二六
それ此等の事情は王よく知たまへバ我はゞからずして王の前に語れり蓋これらの事ハ方隅に行はれたるに非ざれバ王に隱るゝ所なしと信ずれバ也
二七
アグリッパ王よ爾預言者の書を信ずる乎われ爾の信ずるを知
二八
アグリッパ、パウロに曰けるは爾われを勸て容易キリステアンと爲んとす
二九
パウロ曰けるは容易にもせよ容易からざるにもせよ我は惟なんぢ耳ならず今日われに聽ところの者みな此縲絏なくして我ごとき者とならんことを神に願ふなり
三十
如此かたり畢しとき王と方伯及びベルニケ又ともに坐せし人々起て退き
三一
相 語て曰けるは此人は死べき事と縲絏にかゝる可ことを爲ざる也
三二
アグリッパ、ペストスに對ひ曰けるは此人もしカイザルに上告せんと言ざりしならバ既釋すべき者なり
われら已にイタリヤへ航ることに定りけれバ彼等パウロ及び他の囚者等をアウグスト隊の百夫の長なるユウリアスと名る者に付せり
二
是に於て我儕アジアに沿て馳んとするアドラミテオムの船に登て出マケドニヤのテサロニケ人アリスタルコ我儕と偕に在き
三
次日
[千九百] シドンに着りユウリアス愨懃にパウロを待ひ彼に朋友の所へ往て其供應を受ることを許せり
四
我儕また彼處より舟出せしが風の逆ふに因てクプロの風下の方に走り
五
キリキヤとパムフリアの海を過てルキヤのムラと云る港に至れり
六
此處にて百夫の長イタリヤへ濟るアレキサンデリアの船に遇て我儕を之に登たり
七
多日のあひだ船の行こと遲く僅にしてクニドスに對へる處に至り風の順ならざるに因てサルモ子を過クレテの風下の方を走り
八
僅にして其岸に沿ラサイアの邑に近き美港と名る處に至れり
九
時を歷こと既に久しく斷食の期も過ぬれバ船路の危険によりパウロ諫て
十
曰けるハ人々よ我思ふに此船路ハ損害多かるべし第に積荷と船のみならず我儕の生命にも及バん
十一
然ども百夫の長ハパウロの言ところよりも船長と船主の言を信じたり
十二
且この港ハ冬を過すに便宜らず是故に若ピニクスに至り彼處にて冬を過すことを得んかとて此處を出んと定たる者おほしピニクスはクレテの港にて西南の風と西北の風と其岸に沿て吹ところ也
十三
時に南風徐に吹けれバ彼等志を得たりと意ひ錨を起クレテに沿て走しに
十四
末幾ユーロクルドンと稱る狂風島より卸來り
十五
船を掣去けれバ之に敵ふことを得ず我儕その風に任て
十六
遂にクラウダと云る小島の風下の方へ駛ゆき僅にして小艇を収む
十七
既に援上しのちかれら備おける物をもて大船の胴を縛かつ洲に乘掛んことを恐れ帆を下して流れたり
十八
風疾きによりて次の日水夫ら貨物を擲つ
十九
第三日に至てハ我儕てづから船具を擲つ
二十
斯て多日のあひだ日も星も見ずして疾 風ふきあてけれバ我儕つひに救るべき望たえ果たり
二一
人々久く食せずパウロ彼等の中に立て曰けるハ人々よ爾曹曩に我 諫を聽クレテより離
[千九百一] るゝことを爲ずして此損害を受ずある可あるはずなりし
二二
今われ爾曹に勸む勇め爾曹の中一人だに生命を失ふ者なし惟船を失ふこと有んのみ
二三
蓋わが屬する所わが事る所の神の使者この夜わが側に立て
二四
パウロよ懼るゝ勿れ爾必ずカイザルの前に立べし且神ハ爾と偕に船にある者を悉く爾に賜と曰り
二五
是故に人々勇めや如此われに語り給へる如く必ず成んと我神を信ずれバ也
二六
われら必ず一島に推上られん
二七
斯て第十四日の夜に至り我儕アデリアの海に瓢ふ夜半ごろ水夫ら岸に近けりと意ひて
二八
水を測しに二十尋を得たり少し進て又測しに十五尋を得たり
二九
石に乘掛んことを恐れ艫より四の錨を投て天明を待わびぬ
三十
水夫ら船より逃んとして舳より錨を投す狀をなし小艇を海に下けれバ
三一
パウロ百夫の長と兵卒に曰けるハ此人々もし船に留らずバ爾曹救るゝことを得じ
三二
是に於て兵卒ら小艇の索を斷きり其流るゝに任たり
三三
夜の明んとする時パウロ凡の人々に食せんことを勸て曰けるハ爾曹待わびて食せざりしこと今日にて已に十四日なり
三四
故に我なんぢらに食せんことを勸そは救を得べき助となる可ればなり爾曹の頭髪一縷だに爾曹の首より隕ざるべし
三五
如此かたりてパンを取凡ての人の前にて神に謝し之を擘て先食しければ
三六
彼等も亦勇んで食せり
三七
船に登る所の我儕合て二百七十六人なりき
三八
既に食して飽ければ穀物を海に棄て船を輕せり
三九
夜あけて其地は識ざれど一の海灣を見たり此に洲崎あり或は至ることを得ば彼處に船を進んと謀り
四十
綱を斷て錨を海にすて舵纜を鬆め舳の帆をあげ風に順ひ洲崎を望て走しに
四一
潮の流交ふ處に至りて船を洲に乘あげ舳に膠定て動ず艫は浪の勁が爲に破られたり
四二
是に於て兵卒ら囚人の泅逃れん事を恐れ之を殺
[千九百二] さんと勸む
四三
然ども百夫の長パウロを救んと欲ひ其勸を阻かつ泅得る者は先水に跳いり
四四
その他は或は板あるひは舟の碎木に乘て岸に至んことを命じたり此の如く皆すくハるゝ事を得て岸に登れり
我儕すでに救を得て後その島の名をメリタと稱ることを知れり
二
夷人ら尋常ならぬ情分をかく降雨と寒とにより火を爇て我儕衆人を待遇せり
三
パウロ多の柴を集て火に放しに火熱により蝮いで來て其手に繞り
四
夷人ら蝮の其手に懸たるを見て互に曰けるは此人は正く人を殺しゝ者ならん彼海より逃たりと雖も天理その生ることを容さゞる也
五
パウロ蝮を火の中に拂落して害を受ることなし
六
彼等パウロを候ひて其腫るか或は忽ち仆て死ることあらんと意しに久く候へども彼に害の及ざるを見て其意を轉こは神なりと謂り
七
島の長をププリヲと名く此邊に己が有る田地あり彼われらを接て慇懃に三日宿らせたり
八
時にププリヲの父熱と痢病を患ひて臥居しがパウロその所に至り祈て手を其上に按これを醫せり
九
此事ありしかば島にある所の他の病者等も來て醫さるゝことを得たり
十
かれら禮を厚して我儕を敬ひ又船出の時に臨て我儕が無てかなはぬ物を贈れり
十一
我儕三ヶ月を經てのち此島にて冬を過しゝデヲスクリの號あるアレキサンデリアの船に登いでゝ
十二
スラクサに着三日とゞまれり
十三
彼處より囘てレギヲに至り一日を經て南風起ければ次日プテヲリに至り
十四
兄弟等に遇かれらが請に任て七日とゞまり而してロマに往
十五
ロマの兄弟たち我儕の事を聞アッピーポロムおよび三 舘と云る處に來て我儕を迎ふパウロ之を見て神に謝し其心に力を得たり
十六
既に我儕ロ
[千九百三] マに至しに百夫の長 衆 囚を王を守る兵隊の長に交せり然どパウロは一人の守兵と共に別に自ら居ことを許されたり
十七
三日を經て後パウロ、ユダヤ人の尊重たる者等を召集む彼等の集れる時これに曰けるは人々兄弟よ我いまだ我民また先祖の例に違て何事をも爲しことなし然にエルサレムより囚人となりてロマ人の手に付されたり
十八
ロマ人すでに我を審たれど死べき罪なきが故に我を釋さんと欲り
十九
ユダヤ人これを拒しにより我已ことを得ずしてカイザルに上告す然ども我が國の民を訟ん爲には非ず
二十
斯に因て我なんぢらに會ともに語んことを請るなり蓋われイスラエルの望の爲に此鏈に繫るれば也
二一
彼等いひけるは我儕ユダヤより爾について書信を受ず又兄弟たちの來し者も爾に就て何の惡事あるを我儕に報また語し者なし
二二
然ど我儕なんぢの意ふ所を聞んとす蓋われら何處にても此宗旨の誹らるゝを知バなり
二三
既に定たる日に及て多の人パウロの舘に來れりパウロ朝早より暮に至までモーセの律法と預言者の書をひき神の國の事を説かつ之を證しイエスの事を語て彼等を勸たり
二四
其言に感じて之を然とする者あり亦信ぜざる者もありて
二五
互に相合ざるにより遂に退けり其退かんとせし時パウロ一言を語けるは誠なるかな聖靈預言者イザヤに託て我儕の先祖等に語し言その言に云
二六
なんぢ此民に往て告よ爾曹は聽ども聰らず視ども見ず
二七
蓋この民目にて見耳にて聽心にて悟り悔改て我に醫されん事を恐れ其心を頑し耳を蔽ひ目を閉たりと
二八
是故に爾曹知べし神の救は異邦人に遣られ彼等は之を聽ん
二九
パウロが此言を言畢し時ユダヤ人退きて互に大なる爭論をなせり
三十
斯てパウロその借受し家に居しこと全く二年すべて來り見んとする者を接て
三一
憚らず神の國をのべ主イエス キリストの事を教て禁げらるゝこと無りき
新約全書使徒行傳 終