明治二十四年富山縣告諭第三號
○告諭第三號
凡そ漂流の物品は假令木呂一個と雖も之を拾ひ得たるときは速に所有主に還付し又は其向に屆出づべく然して拾ひ得たる者は其物品代價の十分の一に過ぎざる拾揚料を受くべきは規則の定むる處に有之若し拾ひ得たるを隱匿し所有主に還付せず又は官署に屆出でざる者は刑法第三百八十五條に依り十一日以上三月以下の重禁錮に處し又は二圓以上二十圓以下の罰金に處せらるべき義に候處彼の川木拾と唱へ川々出水の際木呂其の他の流材を拾ひ揚げ候者の中には私に之を使用するものあり甚しきは犯則の物品なるを知て之を賣買するものも有之哉に相聞へ誠に相濟まざる次第に候加旃川木拾の業たる其所爲極めて危險にして巨岩大石をも轉下すべき急湍激浪中に身を投し或は一葉の小舟を浮べて奔馬の如く流れ來る木材を遮ぎり止むるものなれは一呼吸の差終に生死の別をなす現に這般出水の際川木拾の溺死したる者實に十餘人の多きあり豈恐れざるべけんや又川木拾なる者は唯目前の私利を專らとして公共の危害を顧みざるものゝ如く當該吏員罹災者救護の爲めに其舟を借らんとするも之に應ぜず堤塘橋梁の防禦に從事せしめんとするも之を避け遂に一般人民の困難を加へ堤防橋梁を破却し去る者に至りては公共の利益を害する少なからず彌々以て不相濟次第も有之條以後川木拾を爲すは必ず危險の虞なき場所に於てし水防の爲め若くは罹災者救護の爲めには速に當該吏員の催促に應じて力を公利公益に致すべきは勿論漂流の物品を私に使用し又は賣買する者等これあらは毫も假借せず嚴重其手續をなすべきに付き之を拾ひ得たるときは速かに其所有主に還付するか又は其向に屆出べく決して心得違無之樣致すべし
明治二十四年七月三十一日
富山縣知事 森山 茂