明治三十六年富山縣告諭第七號

• 註：原文は全て縦書きである。
• 底本：『富山県報』号外（845頁）、1903年（明治36年）9月14日、富山県

○富山縣告諭第七號

倩々（つらつら）前年ノ凶作（ふさく）ヲ回顧（かへりみ）スレハ其慘狀（むごきさま）誠ニ人ヲシテ慄然（ぞつとさする）タラシムルモノアリ本年ノ初メニ於テ凶作地（ふさくち）ノ狀況（ありさま）ヲ實地ニ就キ（そのばしよにゆき）視察（み）シタルニ平素勤儉貯蓄（ふだんはたらきつつまやかたくわい）ニ意（き）ヲ用（つける）ユルモノハ凶歉（ふさく）ニ遭遇（あふて）シテ甚（ひどく）シク困難（こまる）スルノ事實（こと）ナカリシモ偸安姑息他日（そのときだてにしてあと）ヲ顧慮（おもはざる）セサルモノニ至リテハ飢餓（うゑに）ニ迫（せまり）リ死ニ瀕スル（しにかゝる）ノ窮狀（こまるさま）ヲ呈（あらは）シタリ

勤儉貯蓄ノ必要（たいせつ）ナル斯クノ如ク明カナリ年ニ豐凶（ほうねんとふさく）アルハ是レ免カレ難キ（のがれがたきこと）ノ數ナルカ故ニ豐年ニ於テ凶作ヲ忘ルヘカラス本年ハ插秧以來（うゑつけこのかた）幸（しあはせ）ニ天候順（てんきよく）ニシテ發育宜（みのりよく）シク今ヤ秋實（あきのみのり）ノ期ニ際シ收穫（とれだか）ノ平年作以上（へいねんさくよりおほき）ナリトハ一般ニ唱フル所ナリ隨テ自己（おのれ）ノ分際（ぶんけん）ヲ忘レ奢侈（おごりに）ニ移（なり）リ易（やす）キハ人情ナリト雖モ名ヲ祝賀（いはひ）ニ藉（ことよせて）リテ妄リ（みだり）に失費（かねをつかふ）スルカ如キハ最モ愼ムヘキコトナリトス卽チ此場合ニ於テハ前年ノ凶歉（ふさく）ヲ回顧（かへりみ）スヘキハ勿論本縣ノ如キ災害（わざはひ）多キ地方ニ在リテハ努（つと）メテ目前（めのまへ）ノ逸樂（たのしみ）ヲ忍（こらへ）ヒ幸福（しあはせ）ヲ永遠（あと）に享受（うくる）スヘキ目的（みこみ）ヲ以テ專ラ業務（しごと）に勉勵（つとめ）シ冗費（むだなひよう）ヲ省キ節約（つゝまやか）ヲ旨トシ貯蓄（たくわい）ニ注意（きをつけ）シ一朝不幸（もしふしあはせ）ニシテ凶歉（ふさく）其他ノ（そのほかの）災害（わざはひ）ニ遭遇（あふ）スルコトアルモ忽チニシテ生活ノ途ヲ失フ（なりはひのみちをなくする）カ如キ窮狀ヲ呈セサル（こまるさまをあらはさぬ）樣平素（ふだん）ニ於テ篤ク留意（よくきをとむるやうに）スヘシ

明治三十六年九月十四日

富山縣知事　李家　隆介