第12章 補助金

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第12.1条 原則

両締約国は、公共政策の目的を達成するために必要な場合には、締約国が補助金を交付することができることを認める。もっとも、ある種の補助金は、市場の適正な機能を歪め、並びに貿易及び投資の自由化による利益を損なう可能性を有する。締約国は、補助金が両締約国間の貿易又は投資に著しい悪影響を及ぼしており、又は及ぼすおそれがあると認める場合には、原則として当該補助金を交付すべきでない。

第12.2条 定義

この章の規定の適用上、

(a) 「経済活動」とは、市場における物品及びサービスの提供に関連する活動をいう。
(b) 「補助金」とは、補助金及び相殺措置に関する協定1.1に定める条件に必要な変更を加えたものを満たす措置をいう。この場合において、補助金を受ける者が物品又はサービスを取り扱っているかどうかについては、問わないものとする。
(c) 「特定性を有する補助金」とは、補助金及び相殺措置に関する協定第2条の規定に必要な変更を加えたものに基づいて特定性を有すると決定される補助金をいう。各締約国は、透明性がある方法で自国の競争法令を適用する。各締約国は、自国の競争政策の透明性を促進する。

第12.3条 適用範囲

1 この章の規定は、特定性を有する補助金が経済活動(注)に関連する限りにおいて、当該補助金について適用する。
注 各締約国の国内教育制度の下で提供される教育は、経済活動とみなさない。
2 この章の規定は、公共政策の目的のために一般公衆に対するサービスの提供を政府によって委託された企業に交付される補助金については、適用しない。補助金に関する規則のこのような例外は、透明性を有するものとし、当該補助金が対象とする公共政策の目的を超えるものであってはならない。
3 この章の規定は、自然災害その他の例外的な事態によって生ずる損害を補償するために交付される補助金については、適用しない。
4 第12.5条及び第12.6条の規定は、受益者ごとの補助金の額又は補助金のための予算額が、連続する3年の期間において累計45万特別引出権を下回る場合には、当該補助金については、適用しない。
5 第12.6条及び第12.7条の規定は、農業協定附属書1の対象となる物品の貿易に関連する補助金並びに魚及び魚製品の貿易に関連する補助金については、適用しない。
6 第12.7条の規定は、国家的又は世界的な経済上の緊急事態に対応するために一時的に交付される補助金(注)については、適用しない。当該補助金は、国家的又は世界的な経済上の緊急事態であって一時的かつ特定のものを救済するため、対象が特定されたものでなければならず、また、経済的、効果的及び効率的なものでなければならない。
注 緊急事態とは、締約国の経済全体に影響を及ぼす事態をいうものと了解する。欧州連合については、締約国の経済全体とは、欧州連合の経済全体又は少なくとも一の欧州連合構成国の経済全体をいう。
7 この章の規定は、音響・映像サービスについては、適用しない。
8 第12.7条の規定は、各締約国の地方政府が交付する補助金については、適用しない。各締約国は、この章の規定に基づく義務を履行するに当たり、自国の地方政府によるこの章の規定の遵守を確保するため、利用し得る妥当な措置をとる。

第12.4条 世界貿易機関設立協定との関係

この章のいかなる規定も、補助金及び相殺措置に関する協定、1994年のガット第16条の規定及びサービス貿易一般協定第15条の規定に基づく締約国の権利及び義務に影響を及ぼすものではない。

第12.5条 通報

1 一方の締約国は、自国が交付し、又は維持している特定性を有する補助金(注)に係る法的根拠、形態、額又は予算額及び可能な場合には当該補助金を受ける者の氏名又は名称について、他方の締約国に対し、この協定の効力発生の日から2年ごとに英語により通報する。ただし、最初の通報は、この協定の効力発生の日の後3年以内に行う。
注 この1の規定の適用上、既に通報した補助金については、最新の通報において提供する情報は、既に通報した内容の変更又は変更の不存在を示すものに限定することができる。
2 締約国が1に定める情報を公式ウェブサイトにおいて公に入手可能なものとする場合には、1の規定に基づく通報は、行われたものとみなす。締約国は、補助金及び相殺措置に関する協定25.2の規定に従って補助金について通報する場合には、当該補助金に関し、1に定める義務を履行したものとみなされる。
3 この条の規定は、サービスに関連する補助金に関し、次に掲げる分野についてのみ適用する。
建築サービス及びエンジニアリング・サービス
銀行サービス
電子計算機サービス
建設サービス
エネルギーに係るサービス
環境サービス
急送便サービス
保険サービス
電気通信サービス
運送サービス

第12.6条 協議

1 一方の締約国は、他方の締約国の補助金がこの章の規定に基づいて生ずる自国の貿易又は投資の利益に著しい悪影響を及ぼしており、又は及ぼすおそれがあると認める場合には、協議の要請を書面により提出することができる。両締約国は、当該補助金がどのように両締約国間の貿易又は投資に著しい悪影響を及ぼしており、又は及ぼすおそれがあるかに関する説明を当該要請が含む場合には、問題を解決するために協議を開始する。
2 協議の要請を受けた締約国は、当該協議において、協議の要請を行った締約国が求める場合には、1に規定する補助金に関する情報であって次の事項を含むものを提供することを検討する。
(a) 当該補助金の法的根拠及び政策目的
(b) 当該補助金の形態(贈与、貸付け、保証、払戻しを要する前払金、出資、税の軽減等)
(c) 当該補助金の交付の日付及び期間並びに当該補助金に係るその他の期間
(d) 当該補助金の交付を受ける資格要件
(e) 当該補助金の総額又は当該補助金のための年間の予算額及び当該補助金の制限の可能性
(f) 可能な場合には、当該補助金を受ける者
(g) 当該補助金が貿易又は投資に及ぼす影響を評価することを可能とするその他の情報(統計資料を含む。)
3 協議の要請を受けた締約国は、当該協議を促進するため、当該要請の受領の日の後90日以内に、問題となっている補助金に関する関連情報を書面により提供する。
4 協議の要請を受けた締約国は、2に規定する情報のいずれかを提供しない場合には、その情報がないことについて書面による回答において説明する。
5 協議の要請を行った締約国が、当該協議の後においてもなおこの章の規定に基づいて生ずる自国の貿易又は投資の利益に補助金が著しい悪影響を及ぼしており、又は及ぼすおそれがあると認める場合には、協議の要請を受けた締約国は、協議の要請を行った締約国の懸念に対して好意的な考慮を払う。解決策は、協議の要請を受けた締約国によって実行可能であり、かつ、受入れ可能であると認められるものでなければならない。

第12.7条 禁止される補助金

締約国の次の補助金であって、両締約国間の貿易又は投資に著しい悪影響を及ぼしており、又は及ぼすおそれがあるものについては、禁止する。

(a) 法的制度その他の制度であって、政府又は公的機関が保証の金額及び期間に関するいかなる制限も付することなく企業の債務を保証する責任を負うもの
(b) 経営不振又は支払不能に陥った企業であって信頼性のある再建計画を作成していないものを再建するための補助金。このような再建計画は、当該企業が一時的な流動性の確保のための支援を受けた後合理的な期間内に作成するものとする。(注)当該再建計画は、合理的な期間内に経営不振又は支払不能に陥った企業を長期的に存続可能な水準まで回復させることを確保するための現実的な想定に基づくものとする。当該企業又はその所有者は、相当な資金又は資産を再建に係る費用に充てる。
注 この条のいかなる規定も締約国が、一時的な流動性の確保のための支援として、債務保証又は貸付けの形態で、企業が、再建又は清算の計画を作成するために必要な期間経営を維持するために要する金額に限り補助金を交付することを妨げるものではない。

第12.8条 補助金の使用

各締約国は、企業が補助金をその交付された特定の目的のためにのみ使用することを確保する。

第12.9条 一般的例外

この章の規定の適用上、1994年のガット第20条及びサービス貿易一般協定第14条の規定は、必要な変更を加えた上で、この協定に組み込まれ、この協定の一部を成す。

第12.10条 紛争解決

第12.6条5の規定は、第21章の規定による紛争解決の対象とならない。

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