附錄

「フート,ノート」といふもの邦文の書に入り難し.本文の各處に添ふべき重なる引用及參照書目を取りまとめて,卷末に附するに當り,印刷の進行中に心つきたる本文の修正追補二三を倂せ收む.太き字體,例へば六(九)とは第六章第九節を指す.

一,二 自然數を論ぜる著書の最勢力ある者二三を擧ぐ.クロネツカー,「數の觀念につきて」(Kronecker, Ueber den Zahlbegriff)此論文はエドワルド,ツエルラー記念論文集 — Philosophische Aufsätze, E. Zeller, zu seinem 50-jährigen Jübiläum gewidmet, 1887 — に載せたり.同書又ヘルムホルツ、「數ふること及計ること」Helmholtz, Zählen und Messen を載す.クロネツカーの論文はクレルレ卷百一及全集卷三ノ一に轉載せり.クロネツカーは冒頭「予は數の觀念を說明するに最妥當なる發足點は順序數にありと信ず」の語を置けり.デヾキンド「數とは何ぞや」Dedekind, Was sind und was sollen die Zahlen? 1887-93 の所論は更に根本的にして,「物の集まり」及其對照を基礎とせり.開卷先づ「凡そ證明し得べきことは必ず證明せられざるべからず」の語に接す.全篇の論調推して知るべし.其他シユーべルト,フレーゲ,シユレーダー(Schubert, Frege, Schröder)等の書名あり.デヾキンドの所論の一斑はウエーバーの初等數學全書(Weber, Encyklopedie der Elementar-Mathematik, 1. 1903)により窺ふを得べし.

二(四) ヂリクレーの證明は其整數論講義(Dirichlet, Vorlesungen über die Zahlentheorie)第一章に出づ.

二(七) 或數を命數法にて表すは此數を「冪級數」に展開するなり.函數論の思想を數の學アリスメチツクに應用して成效せる者近時ヘンゼル氏あり.

二(九) の證明中最有力なる論據は關係せる數が盡く自然數なる結果として より直に を得るにあり.此點最注意を要す.

三(一) 第六四頁の三條を原則と名づけたり.現代の數學にては之を公理(Axiom)と稱すべし.而して此三條は又此處に所謂數(正負整數及零)の觀念の定義に外ならず.公理の語誤解を起すの虞ありと信ずべき理由ありて,故らに之を用ゐざりき.

精密に考ふれば次の如き疑問を生ず.曰く,此等の三原則は果して獨立なりや,相互無關係なりや.又曰く此等の三原則は自家撞着を含まずや.例へば第二原則は第一原則の論理上必至の結果ならずや又第三原則は果してよく第一,第二の兩原則と相容るや否や.此重要なる問題は此書全體の調子に諧ふには,餘り高きに過ぎたり.

第六七頁「アルキメデスの法則」の語は便利上假用せるに過ぎす.所謂アルキメデスの法則は第八章に說ける者なり.兩者全く類似の形象を具へざるに非ず.

四(四) 最小公倍數を先にするの便利なること,蓋しポアンソー(Poinsot)の創意なり.

最大公約數を求むる普通の方法,ユークリツドの法式につきては第八章を看よ.

ヂオフアント(Diophant)はアレキサンドリヤの人,紀元三百五十年頃ジユリヤン帝の治下に生存せり.享年八十四歲著書十三卷.一次方程式の解法はヂオフアントに始まる.整數を係數とし,未知數若干を含める方程式を整數を以て解かんとする問題卽ち所謂不定方程式の解法亦ヂオフアントに始まる.

故に此種の方程式を一般にヂオフアント方程式と名づけ,之を論ずる整數論の一部をヂオフアンチーク(Diophantik)と云ふ.

四(六) エラトステネス(Eratosthenes)紀元前二七六 - 一九四年.

ユークリツド(Euclid)紀元前三百年.プラトーの門人.著書の最有名なるはエレメンツ(Elements)にして其中十三卷は後世に傳はれり.其幾何學に關せる部分は汎く世に知らる.第七,八,九の三卷は整數論を含む.

偶數にして素數なるは に限る.奇數の素數の中 なる形の二種を區別するに,兩者共に無限に存在す. の如き素數( 等)の限りなく存在するを證するには

なる數につきてユークリツドの證明を模傚すべし. の如き形の數は因子として少くとも一個の なる形の素數を含まざるを得ざるに注意すべし.

の形の素數( 等)の限りなく存在することは,しかく簡單には說明し難し.第六章(十)の結果を用ゐて次の如く此事實を證明することを得.

なる式に於て を任意の偶數となして得べき數の素數因子は盡く の形を有す.げにも今 を或偶數とし, の素數因子(必ず奇數)の一つを と名づくれば にして第六章(十)の (1) 式に於ける 隨て 例へば となすに, さて の形の素數の限りなく存在すべきを證せんに,假に斯の如き素數の數に限ありて に盡きたりとせば,次の如くにして矛盾の結果に陷る. となして を作るに此數の素數因子は の形をなし,而も 以外の數なり.

を奇數となすときは を以て整除し得べく の素數因子は盡く の形をなせり,例へば

以外の素數は盡く 又は の形をなせり, は前者に屬し, は後者に屬せり. の形の數の素數因子の中には同じ形の者少くとも一個存在せざるべからざるに着眼し

なる數につきてユークリツドの證明を適用し の形の素數無限に存在するを證明すべし. の形の素數の限りなく存在すべきを證せんと欲せば先づ に於て の倍數となすとき,此數の素數因子盡く の形をなせるを認むべし. を用ゐて前の證明を模倣すべし.

一般に が相素なるときは の形の形の素數無限に存在す.卽初項と公差とに公約數なき算術級數の諸項中には限りなく多くの素數あり.此定理は整數論に於て頗る有名にして,ヂリクレーの始めて證明せる所なり, の場合の外,此定理の證明は甚困難なり.

 分數の普通の定義はよく知らるゝ事にて又後章に於ても說かるべきにより,此處には故らに新奇の立脚點をとれり.

「分數班」の語は便利の爲め假に用ゐたるに過ぎず,一般に通用すべからず.

五(五) 乘法の定義を次の如く言ひ表すは不正確なり. を乘ずるは より に達すべき手續きを に施こすなり.例へば ,又 上述の定義を完全ならしめんと欲せば次の如く之を修正すべし. より倍加及等分によりて に達すると同樣にして より倍加及等分によりて に達す.こは勿論正し,然れども亦平凡なり. が無理數なる場合には斯の如き定義は用に堪へず.要するに,これ數の觀念の明瞭ならざりし時代の遺物なり.

六(十) フエルマー(Fermat, 1601-1665)は法律家にして數學は其閑餘の樂事なるに過ぎず.整數論に於ては空前の碩學なり.

オイラー(Euler, 1707-1783)の名は數學の各分科に光輝を放てり.

 第七章に說ける如き硏究は遠くハミルトンの四元法(Quaternion)に胚胎せり.グラスマンの Ausdehnungslehre)は 元法とも謂ふべし.斯の如き「異算術」にありては,乘法は交換の法則に遵はず.是に於て數と算法とを區別して算法の定義より生ずる結論と,數の性質に因する結論とを鑑別するの必要を生ず.此見地より飜て有理數及其四則算法を審査す.所謂算法の形式上不易の原則は斯くして生れ出でたり.此原則の命名はハンケル(Hankel, Theorie der complexen Zahlensysteme, 1878)に始まる.

グラスマンは合離の算法を表すに なる記號を用ゐたり,ストルツは に代ふるに を以てしハンケルは函數記法を採りて を用ゐたり.吾輩は歷史上の由來に關係なく,印刷の便宜上,合離の記號を本文の如く定めて假用せり.

(二五五頁)「代數的の數」(algebraische Zahl)とは現代の數學に於て重要なる觀念なれども其意義を說明するは此書の企及せざる所なり.但此語につきて注意すべき一條あり.古風の數學書又は通俗數學書(特に或種の初等敎科書)等に於て此語を負數又は所謂不盡冪根などの義に用ゐたる者なきを保せず.然れども斯の如きは當今の數學社會一般に用ゐらるゝ用語例を違犯せる者なり.「代數的の數」とは正又負の整數を係數とせる代數方程式( は整數)の根たり得べき數を言ふなり.凡ての有理數,凡ての有理數の冪根,或はこれらに四則を施して得らるべき數は勿論盡く「代數的の數」の特例なり.然れども代數的の數は未だ斯の如き數に盡きたりと言ふべからず.

算法の形式上不易の原則のみを根據としては,旣に「不盡冪根」を說明するにも困難を感ず.試に を說明せよ.但この困難は絕對的に排除し得ざるに非ず.然れども「代數的ならざる數の觀念には此原則のみを根據として到底到着することを得ず.

此種の問題實は最新數學の進步によりて激發せられたる所にして,讀者に豫備の智識を期待せざる此書の範圍以外に屬せりと知るべし.唯あまり時代違ひなる誤解を防がんが爲に數言を費せるに過ぎず.

七(二) (二六六頁)準數單位の語亦此書假に用ゐる所,modulus,Einheit 等を連想す.

不關數(indifferente Zahl — Stolz),無效數(nombre d'effect nul — J. Tannery)等亦可,群の論(Theory of groups)に於ては Einheit 又は identical element 等の語例あり.

七(五) (二八〇頁)(一)の原則より發足して負數の意義を定めたる後再び飜て(一)の原則を驗證す.此驗證の絕對的に必要なるに注意すべし.(一)の諸原則は幸に負數につきても成立せり.大小に關する性質は正數の場合と負數のと全く同一にあらざるに非ずや.正數の原則を無差別に負數に適用すべからず.ダランベル(D'Alembert, 1717-83)の誤解は良好なる訓戒を含めり.

八(二) 吾人が量の原則として擧げたる者は,量の性質の中簡單なるものを無意義に羅列したるにあらず.此等は重複及遺漏なく量の特徵を盡くせる者なり.重複なしといふは此等の原則の中の一が他の者の論理上必然の結果ならざるを言ひ遺漏なしといふは,此等の諸性質を具へたる者は卽ち量なり,量といふ者以外に此等の諸性質を具へたる者なきの義なり.附錄三(一)の部を參照せよ.

量とは增減し得べき者なりといふ通俗の解釋は,量を數學的觀念となすには餘に粗笨なり.(一)に於て凡そ人の感覺に其度を異にする印象を與へ得べき者を量なりといへる亦然り.美醜,苦痛,快樂,問題の難易,說明の巧拙等は數學に所謂量となすこと難し.要するに數學に於て量と稱するものは(二)に述べたる諸性質を具へたる者に限れり.

又こゝに量と稱するは連續的の量に限れり.此故に物の數などは之を量の圈外に排斥せり.

又量の大小加合等は本來一定の意義を有するにあらず.(二)の諸原則に牴觸せざる範圍內に於て如何やうにも之を定めて可なり.(二)にいへる如くにして加合といふことの成され得べきことは必要なり.然れどもそは幾通りにもなされ得べきか知るべからず.例へば二つの長さの和をば之をつぎ足せる長さとなすは通常の意義なり.然れども又甲の長さの一端に乙の長さを直角に立てゝ作れる直角三角形の弦を以て甲乙の和なりといふとも,よく(二)の諸原則に適ふべし.此意義にて なる數値を有する長さは,通常の意義にて なる數値を有する長さなり.量の數値は單位と共に定まるとは計り方の定まれる上のことなり.實は量の數値は計り方と單位とにて定まるなり.

八(二) アルキメデス(Archimedes)紀元前三世紀シラキユースの人,古代にて最有名なる理學者.

八(三) 「有理區域」の語は亦假設なり.著者は他の處にて此語を他の意義に,卽 Rationalitätsbereich の和譯として用ゐたり.こゝに所謂「有理區域」は其意義之と異なり.該當の語外國にもなきが如し.Commensurabilitätsbereich,domain of commensurability ともいふべき語を造らば便利なるべし.「公度ある區域」又不可なし.

八(七) ユークリツドの比例論は量の論(Grössenlehre)の基礎なりといふべし.其內容は必しも幾何學に專屬せず.長さを以て抽象的の量の一種の表顯と考ふることを得ればなり.

八(八) 三一七頁,分布の稠密なることは未だ連續にあらず.例へば或る定まりたる自然數 及其冪を分母とせる凡ての分數を總括して考ふるに其分布は稠密なり.凡ての有限小數()の分布稠密なり.

八(八) 三一七頁,ナイフにて切るとは なる點を除去せよといふことに過ぎず.直線の連續は此處にて破壞せらる.然れども の右及左に如何なる點をとるとも,其中間には必點( より外の)あり. の直に右,直に左の點なる者なし.連續の定義はデヾキンドの名著,「連續及無理數」(Dedekind, Stetigkeit und Irrationale Zahlen, 1872)に載す.これ必讀の書なり.

八(九) 無理數の觀念の最嚴正に說明せられたるは輓近の事に屬す.原著としてはワイヤストラス,カントル,ハイネ,メレー,デヾキンドを擧ぐべし.祖述にはタンネリー(J. Tannery, Théorie des fonctions d'une variable reelle, 1886),ヂニ(U. Dini, Fondamenti per la teorica delle funzioni di variabili reali, 1878),ストルツ(O. Stolz, Allgemeine Arithmetik, 1885),ジヨルダン(C. Jordan, Cours d'Analyse, t. 1, 1893)其他なほあるべし.

ワイヤストラス(K. Weierstrass, 1815-97)の說は前世紀の六十年代よりベルリン大學に於ける講義として世に傳はれるに過ぎず,現時に於ても尙シユワルツ氏によりて同大學の講筵に反復せられつゝあり.ビエルマン函數論(O. Biermann, Theorie der analytischen Funktionen, 1887)其梗槪を載す.バツタルリーニ,ヂヨルナーレ卷十八に於てピンケルレ(S. Pincherle, Battaglini Giornale XVIII.)の詳說あり.ワイヤストラスの無理數の定義は最も直接に無限小數を擴張す. が正の有理數にして が盡く一定の( に關係なき)正數 を超えざるとき,列數 が有理數を極限とせざるときは は一の無理敷 を定むるものとなす.

が竟に超過し得べき自然數は其數限あり,其中最大なるを と名づけ, 個だけ含めりといふ.又 なる幹分數をとり を以て が竟に超過し得べき分母 の分數の中最大の者となし, 個含めりといふ.

との相等しとは 及び凡ての幹分數を同數だけ含めるを言ふ.大小の意義亦同樣にして定むべし. の和は にして の積は なり.以下類推すべし.

カントル(G. Cantor, Mathematische Annalen, 5.)は第十章(四)に略述せる所謂基本列數を以て數の定義とせり.ハイネ(E. Heine, Crelle, 84),メレー(Ch. Méray, Nouveau précis d'analyse infinitésimale, 1872)亦大同小異なり.

デヾキンド(上出)は有理數切斷を以て無理數の定義となせり.第九章を看よ.

此等の諸說に於てはいづれも有理數を旣知の觀念となし,之を基礎として無理數の觀念を定む,其方法開發的(genetisch, heuristisch)なり.

ヒルベルト(D. Hilbert, Göttinger Nachrichten, 1900)は之に反し,「アキシオマチツク」(axiomatisch)(幾何學的)に數の觀念を組み立てたり。卽先づ數の觀念の內容を旣定とし,若干の相互獨立せる公理を立し之を分析して數の觀念を闡明せんとするなり.ヒルベルトによれば數とは,比較の法則,算法(四則)の法則及連續の法則に從へる者なり.但連續の法則はデヾキンドの法則と異にして「アルキメデス」の法則及完備の法則(Axiom der Vollständigkeit)より成る.

此書に於てはデヾキンドの連續の法則を採りて,アキシオマチツクの方法に準じ以て數の觀念を說明せり.但本邦の一般讀書界の程度を顧慮して,形式的に論理の最嚴密なるを期せざりき.上記の諸書に於ける叙述の調子槪して全く量の觀念を離れ,最抽象的に卒然として無理數の定義を立し數と量との關係は讀者の推考發明に一任せり.而し讀者の多數は其自ら補充すべき所の者を自ら補充することをせずして,之を說明の不明に歸せしめんとするの傾向を有するが如し.此種の叙述は論理上間然する所なしと雖,一般讀者の讀書力を信用すること多きに過ぎたりと謂ふべし.予の舊著「新撰算術」に於ても紙幅節儉の爲此種の叙述法を採りたり.

今此書に於ては先づ量の性質を說き,凡ての量の數値を供給すべしとの要求を以て,數の定義の基礎となし以て數の觀念の「心理的」(?)側面を說明せんとせり.斯の如くにして無理數の定義の唐突の感を起すを避くるを庶幾せんとす,著者が微意の存する所なり.

旣に量の性質より數の觀念を誘出す,說明の方法は勢「アキシオマチツク」ならざるを得ず,第八章の終に於て數の原則として列擧せる所の者に具體的の根據あり.何故に(如何なる目的の爲に)斯の如き原則を立てゝ之を數の定義となせるか.他なし,量の數値を供給すべしとの要求に應ぜんが爲なり.無理數の定義は天上より落下せるに非ざること明なり.

數の原則は定まれり.さて所謂「アキシオマチツク」の方法によりて數の觀念を確定するには,次の經行を要す.第一,此等の原則を論法の根據として,此等の原則によりて定めらるゝ觀念の內容を分析すること.第二,斯の如くにして定まれる數なる者が果してよく基本の原則に適合せりや否やを審査すること是なり.第七章の論脈を對照すべし.

此等原則より數の觀念を定むること,之を縷說すれば,實質的に第一章乃至第七章の所說を反復せざるべからず.今其端緖を略叙せば次の如し.

原則によりて は最小の數なり. より大なる任意の一數をとり之を と名づく.原則によりて なる數あり,原則によりて此數は よりも又 よりも大なり.此數を と名づく. 類推すべし.さて連續の法則は等分の可能を保證す.(第九章(三)を看よ) なる如き數 唯一個あり,之を と名づく,云々.斯の如くにして自然數及分數を定む.無理數の觀念は第九章に詳述せり.さて斯の如くにして定まりたる有理無理凡ての數の系統がよく基本の諸原則に適合せるを驗證すること容易なり.驗證は容易なり.困難は斯の如き驗證は何故必要なるかを悟るの點にあらん.

〇無理數は irrational number の譯語なり.原語の意義は(著者が獨逸の某碩學より聞ける所によれば)比(ratio)ならざる,詳しく言はゞ二つの自然數の比ならざる數といふにあり.普通の字書にて語原を尋ぬるも亦同樣の說明に歸するが如し.さもあるべきことなり.「無理」の語或は妥ならじ.今は姑らく慣用に從ふ.但無理數は「ムリ數」なり「理無き數」にては勿論なし.「有理」亦同じ.

九(一) (三二八頁) の上限にして,而も に屬せざるとき卽 の最大にはあらざるときは,上限の定義の第二條は の數の中 より大なる者限りなく存在すべきを示す.げにも定義によりて の數の中 より大なる者少くとも一個あり.今假に の數にて より大なる者,卽今考ふる所の場合に於ては との中間に存せる者,其數限ありとせば,此等の數の中一個最大の者なかるべからず,之を と名づくるに より小なり.是故に との間にも亦 の數あり.是容すべからざることなり.一五三頁を參照せよ.

上限下限(obere und untere Grenze)の觀念はワイヤストラスに始まる.パツシユ(上出)は Grenze に代ふるに Schranke の語を以てす.未だ適切なる譯語を得ず.要するにワイヤストラスの所謂上下限は三二八頁の二箇條の定義によりて定めらる.單に其第一條件のみを充實せる數又往々上下限と稱せらるゝと區別すること肝要なり.上限下限と最大最小との區別は次の例によりて特に明瞭に了解せらるべし.先づ一の定まれる圓を考へよ,此圓に內接する凡ての三角形の面積の最大は卽ち此圓に內接する正三角形の面積なり.又此圓に內接する凡ての多角形の面積に最大なし.の面積は其上限なり.

が無限に多くの數より成れる場合に於ても,若し を組成せる數が盡く正の整數なるときは, には必ず最小の數あり.げにも今 を以て に屬せる整數の一となすときは 若し の最小の數ならずば, の數にて より小なる者には其數限りあり.よりて上述の主張の成立するを知る.一般に分布稠密ならざる數の範圍內にありては,最大又は最小の必ず存在すべきことあるべし.是故に一三〇頁第四行に於て「其數に限りあり,是故に」の句は不用なり.

九(三) (三三六頁) なる數 の存在すべきことは,分布の稠密のみを根據として論證することを得たり.故に此事實は有理數の範圍內にても成立す.

九(四) (三三八頁) が相異なるとき,此等二數の中間に無限に多くの無理數あること勿論なり.試に之を證明せんこと恰好の練習問題なるべし.

(三三九頁) ならざることの證明冗長に失せり. なりとせば の中間に橫はれる有理數の一つ を考へよ.さて は甲に屬するか.曰く否, は甲の下限にして より小なるが故に, は甲に屬するを得ず.然らば は乙に屬するか.曰く否, は乙の上限にして より大なるが故に, は乙に屬せず.卽ち は甲にも乙にも屬せざる有理數なるべし.甲,乙は全體に於て凡ての有理數を網羅せるが故に,斯の如き有理數 は存在するを得ず なるが如き有理數 の存在せざるは より大なるを得ざるなり.

(三四〇頁) を採ること此證明に絕對的必須なるには非ず. を任意に二つの正數の和となし と置き,唯 をして より小ならしむ.さて なる如き有理數 は甲に屬し,又 なる如き有理數 は乙に屬し,而して なり. に代ふるに を以てするは言語短縮の爲なるに過ぎず.此種の論法に慣れざる讀者の爲に,特に之を言ふ.

九(六) 三四八頁. が或數を表せりといふに當り,「…」を以て略せる諸係數は定まれる數なるべきを要すること勿論なり.

九(十)(十一) 比例式よりして數の四則算法を定むる徑行につきては例へばウエーバー氏代數學一の卷序論(H. Weber, Lehrbuch der Algebra 1. 再版 1898)を參照せよ.

十(一) 三八二頁. より成れる の集積點の例はヂニ(上出)より採れり. は集積點にあらざることを證せよ.又 及び の外に集積點なきを證せよ. の諸數を圓に表はせ,集積點の意義明白に理會せらるべし.

十(二) 間隙を順次十分する代に二分するも亦可なり.しかするときは を基數とせる展開によりて與へらる.此論法によりて或數の存在を證明すること,蓋しワイヤストラスに始まる.

十(四) カントル,メレーの無理數論,上文を參照せよ.無理數の定義を最卑近なる方法によりて與へんと欲せば,之を無限小數によりて定めらるゝものとなすべし.無限小數は實にカントルの基本列數の特例なり.かくして無理數の意義を定むるときは其大小の意義は九(七)に於けるが如くにして定むべし,然れども四則の算法の說明は複雜となる.九(六)(九)を參照せよ.

十(五) 連續的算法,實は連續的函數なり.されども此書に於て函數の語を用ゐるの必要なきにより故らに之を避けたり.但こゝに算法といへる語は之を最廣義に解釋すべし.

(四〇三頁) が必しも有理數の範圍內に於て連續的なるを要せず.一般に分布稠密なる數の範圍內(例へば有限小數の範圍內)に於て連續的なるときは, を擴張して數の全範圍に於て連續的なる算法となすことを得.

「有理數の範圍內に於て連績的なり」といふ語の意義は說明を須ひずして明白ならん.

十(五) の定理は有名なり.例へば Schönflies, Bericht über die Mengenlehre, 1900)を看よ.

十(一) 冪の定義の擴張,其連續的なること等を說くに十(五)(六)を用ゐるときは,大に計算を節約することを得.例へば此章に於て「二項定理」を用ゐず.十(五)(六)に說きたる定理は稍〻複雜なれども,事實は頗る明透にして,證明も亦甚だ困難ならず.冪及對數につきて十(五)(六)の定理の證明を反復すること良好なる練習なるべし.

十一(一) 四一五頁.此處には正數の平方根の中負なるものを採らず. 次の幕根の數 個なることはこゝに說く所と傾向全く異なる事實なり.

十一(二) 冪の一般の定義はアーベル(Abel)コーシー(Cauchy)のなせる如く の連續的なること を基礎として定め得べし

十一(四) ネピール(John Napier, 1550-1617)スコツトランドの人.「ロガリズム」の語を創む.其書千六百十四年を以て世に出でたり.ネピールに先つこと數年瑞西の人ヨ―スト,ビユルギ(Joost Bürgi, 1552-1632)旣に對數を發見せるも,祕して世に示さず.創見の桂冠を失ふ.

ブリグス(Henry Briggs)ネピールの友,其對數表は千六百十七年及同二十四年印行せらる.

〇一つの有理數と一つの無理數との和,差,積,商は無理數なり. が無理數にして が有理數なるときは, は盡く無理數なり. 共に無理數なるときは 必しも無理數ならず.

が有理數にして,而も或有理數の 次の冪に等しからずば は無理數なり, は卽ち所謂不盡冪根なり.若干の有理數の間に四則及び開法を施こして作り得べき數,例へば の如き數を現今の數學にて「根數」(Radicalzahl, Wurzelgrösse)と言ふ.

往昔は斯の如き數を代數的の數といへり.現時にありては代數的の數といふ語は一層廣き意義を有し,根數は其特例となれり.(上文參照)

不盡冪根を含める根數は無理數なり.然れども無理數必しも凡て根數ならず.例へば との中間に なる如き數唯一個あり.此數は無理數なり.然れども根數にあらず.

は無理數なれども根數にはあらず.「代數的の數」にてもなし.此種の事實は高等數學の圈內に屬せり.唯無理數と根數との混同すべからざるを忘るべからず.


學用語對譯

相素なり relatively prime.

因數(因子) factor.

エラトステネスの篩 sieve of Eratosthenes, crible d'Eratosthène.


數 number, Zahl.  有理 —  rational  —  有限小 —  finite decimal fraction, endlicher Decimalbruch.  カルヂナル —  cardinal  — , Cardinalzahl, Grundz.  幹分 —  Stammbruch, fraction primitive.  旣約分 —  irreducible fr., fr. in the lowest terms.  奇 —  odd n., n. impair, ungerade Z.  偶 —  even n., n. pair, gerade Z.  合成 —  composite n., zusammengesetzte Z.  自然 —  natural n.  順序 —  ordinal n.  小 —  decimal fraction, Decimalbruch.  循環小 —  recurring d. f., f. d. periodique, periodischer D.  正 —  positive n.  整 —  integer, whole n., entier, ganze Z.  素 —  prime n., Primzahl.  分 —  fraction, Bruch.  負 —  negative n.  無限小 —  infinite d. f.

下限 untere Grenze ( — Schranke).

加法 addition.

間隙 interval.

基數(冪の,對數の,) base.

基本列數 Fundamentalreihe.

記數法 notation (of a n.), numération écrite.

近似値 approximative value, Näherungswert.

極限 limit, Grenze.

組合はせの法則 associative law, a. Gesetz.

係數 coefficient.

減法 subtraction.

桁 order, Stelle.

公倍數(最小 — ) common multiple, least  —  — ; gemeinsames Vielfaches, kleinstes  —  —

公約數(最大 — ) common divisor, greatest  — , gem. Teiler, grösster  —  —

公約數なき量 teilerfremde Zahlen.

公約なき量 incommensurable quantities.

交換の法則 commutative law, com. Gesetz.

算法 operation  順の —  direct  —  逆の —  inverse  — , indirect  —  合の —  Thesis  離の Lysis.

算法の形式上不易 Permanenz der formalen Gesetze.

最大, — 小 maximum, minimum.

四則 vier Species.

指數 exponent, index.

振幅 Schwankung.

週期 period.

集積點 Häufungsstelle, Verdichtungspunkt, point limit.

數字 figure, digit, Ziffer.

乘法, — 數,被 — 數, multipli-cation, -er, -cand.

除法, — 數(法),被 — 數(實) divi-sion, -sor, -dend.

十進法 decimal system.

上限 obere Grenze ( — Schranke).

循進的,(循環的) recursive.

絕對値 absolute magnitude, valeur abs. abs. Betrag.

切斷 Schnitt.

相合式 congruence.


單位 unit, unité, Einheit.

單調 monoton.

對數 logarithm  自然 —  natural  —  常用 —  common  — log. vulgaire, gemeiner Log.

抽象の量 abstract quantity.

轉倒 inversion, Umkehrung.

展開 development, expansion, Entwickelung.

程度まで( の — ) a près.


倍數 multiple, Vielfaches.

倍加 Vervielfältigung, multiplication.

比 ratio, rapport, Verhältnis.  比例 projection.

標準形式 normal form.

分配の法則 distributive law, dis. Gesetz.

部分的分數 partial fractions, Partialbrüche.

分母 denominator, Nenner   — 子 numerator, Zähler.

符號(正負) sign, Vorzeichen.   — の法則 rule of the signs.

不定方程式 indeterminate equation, unbestimmte Gleichung.

冪 power, puissance, Potenz.

 — 根 (radical) root, racine, Potenzwurzel.

法,(相合式の) modulus.


命數法 numeration, Benennung.


約數 divisor, submultiple, Teiler. 眞の —  proper d., eigentlicher T. 假の —  improper d., uneig. T.  塡補 —  complementary d.

ユークリツドの法式 Euklidisches Algorithmus.


量 quantity, Grösse.  具體的の —  concrete  —  抽象的の —  abstract  —

連續 continuity, Stetigkeit   — 的 continuous, stetig.

列數 series, Reihe. (Zahlenreihe)  無限 —  infinite s., unendliche Reihe.


附錄