第十章 極限及連續的算法
集積點,極限,其定義及例○集積點に關する基本の定理○無限列數,極限存在の條件○極限と四則,無理數及其算法の第二の定義○連續的算法の定義,連續的算法の擴張○單調の變動,單調なる算法の轉倒
(一)
一直線上の個々の點に個々の數を對照して,其大小の關係を具體的に表顯すべきことは旣に說きたり.凡て抽象的に數を考ふるに當り,斯の如き幾何學上の形象を連想して大に理解の圓滑を扶くべき場合甚だ多く,此の如き場合に於ては,寧ろ直に幾何學上の思想に因める言語を用ゐるを便利なりとす.但こは主として言語の簡約を目的とするに過ぎず,隨て思想の內容に於て,數に關せる考察と幾何學的の直覺との混同せられざるべきこと,最注意を要す.
先づ此種の用語例二三を說明せん,
より大にして
より小なる數を總括して,之を
より
に至る間隙又は
なる間隙にある數と云ふ.
なる數
なる間隙に位すとは,
は
より大にして
より小なりといふに同じ.
,
は此間隙の兩端にして,場合によりて,兩端の一方又は雙方を間隙の中に收め,或はしかせず.
を此間隙の幅といふ,又「
の邊り」「近く」とは
を含める間隙といふに同じく,通常其間隙の兩端は不定なり.これら象形的の語句枚擧に遑あらず,又其意義は說明を須ひずして明なるべし.
前章に於て無理數四則算法の結果をば無限に多くの有理數の上限又は下限として定めたり.今更に此思想を擴張せんとするに當り先づ集積點なる語を說明せざるべからず.
無限に多くの定まりたる數の一系統
が
を上限とせるとき,
若し
の最大の數にあらざるときは,
の諸數は限りなく
の附近に集積す.詳しく言はば
を如何程小なる數なりとするも
なる間隙の中には
に屬せる數限りなく多く含まれたり.例へば
(1)

の如く
を若干個幷べ書きて表はされたる凡ての有限小數を一括して之を
となすときは
は
の上限にして而も其最大にあらず.さて如何程小にてもよし,
なる數を與ふるに (1) の諸數の中
より大なる者限りなく存在すべし.
一般に限りなく多くの定まれる數の一系統
の諸數が或定まれる數
の附近に限りなく集積するときは,
を
の集積點といふ.卽ち
の如何程近くにも,尙詳しく言はゞ,其幅如何程小くともよし,凡そ
を含めるあらゆる間隙の中に,
の諸數が限りなく多く含まるゝなり.但
なる數自らが
に屬すると然らざるとは問ふ所にあらず.
例へば
,
,
,
等,一般に
,
の如き分數を總括して之を
と名づく.
を組成せる數は凡ての幹分數及び二つの相異なる幹分數の和なり.さて
は
の集積點なり,げにも
は
に屬せるが故に,
の如何程近くにも
の數限りなく存在す.
一般に
も亦
の集積點なり.然れども
は
の集積點にあらず,
の諸數の中此數に最近きは
にして,兩者の中間には
の諸數一も存在せず.
は
の最大の數なり.又
は
の集積點なり.
は
の下限にして,これ卽ち下限が集積點なる例なり.
,
を二つの無理數とし,其展開の係數を
の項まで採りて作りたる有限小數をそれぞれ
,
と名づく.今順次
を
となして作り得べき凡ての有理數
を總括して之を
と名づくるに,
は
の愈〻增大するに隨ひて,愈〻
に近迫して究まる所なしと雖,
は
の上限又は下限にあらず.(第九章(十一)を看よ)
は
の集積點なり.げにも

今
,
のいづれよりも(絕對値に於て)大なる數の一つを任意に採りて之を
と名づくるに,


にして
,
は共に
を超えず,隨て
は其絕對値に於て
より小なり.又絕對値に於て
のいづれよりも小なる正數を任意にとりて之を
と名づくれば
は
より大なり,是故に

は絕對値に於て
よりも小なり.こゝに
,
隨て
は
には關係なき定まれる數なるに注意すべし.是故に
を增大して已まずば上の差は絕對値に於て漸次減小して究極する所なきを知るべし.卽ち如何に小なる數
を與ふるとも,

卽ち

より
を定むるとき,(
を
となさば
の整數部分の桁數を
となすとき
を
以上の自然數となして,此條件常に充實せらるべし)
は盡く

なる間隙に歸入す.
は
の集積點なり.
が
の如き數にして
等が
なる場合に施すべき些少の更正は特に辨明するの價なかるべし.
此例に於ては
の諸數に
なる自然數の附標によりて與へらるゝ一定の順序ありて,
の順次增大するに隨ひ,
の數は其唯一の集積點に近迫せり.一般に

の如き列數の諸項
が
の增大すると共に,
の唯一の集積點
に近迫して究まる所なきときは,斯の如き狀態を簡短に書き表はさんが爲に

なる記法を用ゐる
は羅甸語 Limes の略語にして,極限の義なり.
とは
の漸次增大して究まる所なかるべきを示せる符牒なり.此式は例へば次の如く訓むべし.曰く,「
無限に增大するとき
の極限は
なり」又は「
の無限に增大するとき
は
なる極限に近迫す.」斯の如き用語は,複雜なる事實を簡潔に指示せん爲に用ゐる暗號に過ぎざるを看取すべし.
を如何なる自然數となすとも
は決して
に等しからず.例へば
は

等の數より成れりとするとき,極限は卽ち
なり.然れども桁數を如何に多くとるとも斯の如き有限小數の決して
に等しきことなし.
なる無限小數は
に等しといふは實は
の極限
なりといふに異ならず.
然れども例へば
,
の如き有限小數につきて前の如く
を作るときは
が
以上となるとき
は常に
に等しき如き特別の場合あり.此場合に於ては
は本來の意義に於ての
の極限に非ず.之をしも極限の中に算するは,强て極限の意義を擴張して以て或場合に於ける用語の上の便利を享けんとするなり.
(二)
集積點の觀念は旣に明なりとして,こゝに一の重要なる定理を證明せんとす.
無限に多くの數より成れる
なる一系統が
なる間隙に收められたるときは,
は少くとも一個の集積點を有す.
,
なる二個の定まりたる數の中間に限りなく多くの數を容れんと欲するときは,此等の諸數の少くとも或一個所に集積すること已むを得ざる所なりといふに過ぎず.是極めて明瞭なる事實ならずや.嚴密に此定理を證明せんと欲せば次の如くにして可なり.
の諸數は盡く
なる間隙に含まれたりといふが故に,
,
若し自然數ならずば之に代ふるに直ちに
より小なる又は直ちに
より大なる自然數を以てし,
の諸數をば盡く
,
なる二個の自然數によりて限られたる間隙に收むることを得.さて
なる間隙を分ちて

なる
個の間隙となすに,
は,盡く此等の諸間隙中に收められ,而も
は無限に多くの數より成れるが故に,此等の間隙の中少くとも一つは,
の數限りなく多くを包含せざるを得ず.例へば
なる間隙を其一となし,さて此間隙を分ちて

なる十個の間隙となすに,前と同樣にして,此等の間隙の中少くとも一つは,
の數を無限に包有せざるを得ず.今
を以て其一とし,此間隙を分ちて

なる十個の間隙となし,前と同樣の論法を適用す.次第に斯の如くにして




或は略して一般に
なる間隙を作るに,
なる間隙は漸次狹小となりて究まる所なし而も此等の間隙の
の諸數を無限に多く包有するを必すべし.
さて斯の如くにして定め得たる,
はある定まりたる數の展開を與ふ.此定まりたる數を
と名づくるに,
は
の集積點ならざるを得ず.
げにも
を如何程小なる數とするも
と
との中間には
に屬せる數必ず存在すべきなり.何とならば與へられたる數
より
なる如き指數
を定むるに
,
隨て

なるにより
なる間隙は,全く
なる間隙を包含せり.
さて
なる間隙旣に
の諸數を含むが故に
なる間隙も亦勿論然らざるを得ず.
是によりて
の集積點の存在を證明すると同時に,實際集積點に到達すべき方法を知得せり.
(三)
集積點に關して前節に證明せる基本定理を應用して無限列數に極限の存在すべき條件を定むることを得.

なる列數の諸項が附數
と共に限りなく增大する場合は姑らく措きて,
の諸項が盡く或一定の間隙
の中に位する場合のみを考へんに,先づ或一定の順位以上にある諸項例へば
等の中二つづゝの差(絕對値)は勿論
を超えず,隨て此等の差に一定の上限あり,之を
の
位以上の振幅と名づけ
を以て之を表はす.卽ち
等の諸數は盡く
なる間隙の中に位す.

は
と共に變動す,然れども
は
の增大すると共に,決して增大することなし,卽ち

これ
等の意義より直ちに論結せらるべき所なり.
是故に
に下限あり.之を
と名づく.附數
を適當に(大きく)選みて以て
位以上の諸項の振幅を如何程にても
に近迫せしむることを得るなり.特に
が
に等しき場合に於ては,附數
を適當に選みて
の第
位以上の諸項の差を如何程にても小なる豫め定められたる限界內に止まらしむることを得べきなり.例へば

なるときは
にして,
は卽ち
なり.
一般に
の列數が一定の極限
を有するときは,
は
に等し.げにも此場合に於ては
の限りなく增大するとき,
は限りなく
に近迫す,卽ち
なる正數を任意に豫定するとき,之に應じて
を相當に定めて以て
をして盡く
より小ならしむることを得,卽ち
をして盡く
なる間隙の中に歸入せしむることを得.隨て
は
より小なり.
を如何に小なる數となすとも,之に應じて
を相當に定めて以て
ならしむることを得るは,卽ち
の下限
が
なるを示すにあらずして何ぞや.
に一定の極限あるとき
は
なりといふ事實は之を轉倒することを得.卽ち
にして
ならば,
に一定の極限なかるべからず.隨て
が一定の極限を有する爲に必要にして且充分なる條件は
の
なることにあり.是吾輩の證明せんと欲する定理なり.
の諸數は盡く
なる間隙の中に存せるが故に,
に集積點あり.若し
に一個より多くの集積點あらば,其二つを
,
と名づくるに
,
の如何程の近くにも
の諸數限りなく存在すべきが故に,附數
を如何に大となすとも
等の中
,
に如何程にても近き數あり.卽ち
隨て
も亦決して
,
の差より小なることを得ず.是故に
が
なる場合に於ては
は唯一個の集積點を有す,之を
と名づくるに,
は卽ち
の極限なり.げにも先づ如何程小なる正數にてもよし,豫め任意に
を與ふべし.
は
なるが故に,
を相當に選みて
ならしむることを得,隨て
は盡く
なる間隙に入る.
の集積點
は此間隙の中に位せざるを得ざるが故に
なる間隙,況んや
なる間隙は全く
なる間隙を包括す,是卽ち
が盡く絕對値に於て
を超えざるを示せり.
は實に
の極限なり.
の
に等しといふ事實を言ひ更へて次の定理に到達す.

が一定の極限を有する爲に必要にして且充分なる條件は,豫め如何なる(如何程小にてもよし)正數
を與ふるとも,之に應じて適當に
を定め,以て
の
位以上の二項
,
の差をして恆に(卽ち自然數
,
の選擇に關係なく)
よりも小ならしむることを得ることにあり.
の極限は此場合に於て唯一個に限り存在し得べき
の集積點に外ならず.
(四)
無限列數の極限に關する次の諸定理は簡單と重要とを兼ねたり.


なる二つの列數の極限をそれぞれ
,
となすときは



等の無限列數の極限はそれぞれ
,
,
なり.唯其最後の場合に於ては
が
ならざるを必要とし,又
等の諸項中より
の
に等しきものを撤去せざるべからず.
先づ和の場合より始め,豫め
を與ふるとき,
を適當に選みて自然數
に關係なく

の絕對値をして
よりも小ならしむることを得べきを驗證せんとす.事最簡易なり.
は與へられたり,
を作る.
の極限は
なり.
に應じて相當に
を定め,以て

ならしむ.又
の極限は
なり,
に應じて相當に
を定め以て

ならしむ.
,
の中大なる方を
と名づけて

を作るに此差は
より小なり.卽ち

の極限は
なるを確め得たり.減法の場合亦類推すべし.
さて
の極限は如何.

の諸數に一定の上限あり,此上限と
とのいづれよりも小ならざる數の一つを任意に採りて之を
と名づく.今
を隨意に與へ,さて
を作り
,
共に絕對的に
を超えざるが如き附數の限界を定むるに,此限界以上の
につきては

は絕對値に於て
を超えず.積の場合完了す.
商の場合に於て計算節儉の爲,先づ
の
ならざるとき,
の中
なるものなしと定めて

の極限
なるべきを辯ぜん.先づ

は決して
に等しからず,又
は
にあらず,故に絕對値に於て
の下限は
にあらざる或正數
にして
も亦絕對値に於て
を下らず.故に
の絕對値は
より小ならず.さて
の與へられたるとき附數
の限界を適當に定めて
なる差の絕對値をして恆に
よりも小ならしむることを得.しかするときは

の極限にして旣に
なる上は,
の極限の
なるべきこと旣に證明せられたりと謂ふべし.
一般に
の極限は
なるとき,
を以て
等の數の間に引續き四則算法を或定まれる順序に施すべきことを示し
を以て此算法の總結果となすときは

なり.例へば
の極限は
に等しく,而して
は
に又
は
に等しきが故に
の極限は
なり.最一般なる場合に上の定理を證明せんと欲せば,數學的歸納法を用ゐて關係せる數
が
個なる場合を,
個より少數の數の關係せる場合に歸着せしむべきなり.但上述の定理に於て法が
なる除法の排斥すべきこと論を俟たず.
最後に尙注意すべき一條あり.
の極限
なるとき,
の諸項の一部分を除き去るとき,若し尙限りなく多くの項殘留する場合に於ては,此等を
と名づくるに
の極限も亦
なり.今


と置けば
にして
なるが故に
の極限は
隨て
の極限は
なり.又
の諸項に若干の(限りある)項數を添加するとき,其極限は依然として變ずることなし.
ワイヤストラス及びカントル,メレーは有理數を項とせる列數の極限として無理數を定めたり.カントルは
が
なる有理列數を基本列數と名づく.此見地を立脚點となすときは基本列數の極限が有理數ならざるときは,此列數は(其極限として)一の無理數を定むるものにして,此一節に於て證明せる諸定理は卽ち無理數の關係せる四則の定義に外ならず.是れ畢竟無限小數を以て數を表はすの思想を擴張せる者にして,思巧の跡最明透なり.唯同一の數を定むべき基本列數が限りなく多くの異なる形式を有し得べきの一點最も憾むべしとなす.
(五)
有理數の四則算法を旣定とし,之より極限の觀念によりて無理數の關係せる四則の意義を定め,竟に四則算法は,關係せる數の有理無理たるを問はず,凡ての場合に汎通せる法則に遵ふを確め得たり.今更に統一的の見地より此結果を觀察せんとす.
四則は連續的算法なり.
,
なる二數に或る算法を施すとき此算法を
と名づけ,
,
に
なる算法を施せる結果を書き表はすに
なる記號を以てす.今
,
に充分接近せる近似値
,
を採りて之に同一の算法を施し,以て
をして豫め隨意に定められたる程度まで
に接近せしむることを得るときは,
を連續的の算法と云ふ.詳しく言はゞ
,
が與へられ,隨て
が定まれる數なるとき,豫め隨意に
なる限界
,
を定むるとき,之に應じて

なる限界
,
及び
,
を適當に定め,以て

なる限界內より
,
を如何やうに採るとも,必ず
ならしむることを得.或は再び語を換へて言はゞ,先づ豫め隨意に
を與ふるとき之に應じて適當に
を定め,以て
,
の差及び
,
の差が絕對値に於て
を超えざる限り,
,
の差をして必ず絕對的に
より大ならざらしむることを得べきなり.
上述の意義に於て四則の連續的算法なること容易に驗證せらるべき所なり.
種々の連續的算法を一定の順序に引き續き行ふとき,其總結果を一の算法と見做さば,此算法も亦連續的算法たるを失はず.
言語の簡短を期せんが爲め,例へば
なる式によりて示されたる算法の場合につきて說かんに,若し
,
,
に充分接近せる近似値
,
,
を採り,此等の數に同樣の算法を施こして
を作り,以て
と
との差をして,如何程にても小なる,豫め與へられたる限界以下に止まらしむることを得べきなり.げにも今
,
と名づけんに乘法は連續的算法なるが故に
と
との差を與へられたる數
より小ならしめんと欲せば,
と
との差,及び
と
との差をして,
に應じて適當に定めらるべき數よりも小ならしめば,卽ち可なり.さて加法も亦連續的の算法なるが故に
と
との差をして
より小ならしめんと欲せば
と
及
と
との差をして,
に應じて適當に定めらるべき數
よりも小ならしめば則ち可なり.是故に今
を以て
,
のいづれよりも大ならざる數となさば,
と
,
と
及び
と
との差にして
より小なる間は
と
との差は
を超ゆることなかるべきなり.
最一般なる場合に於ても同趣の論法によりて,先づ關係せる數が
個なる場合をば,
個より小數の數の關係せる場合に歸着せしめ,以て上述の定理の證明を完くすべし.
有理數の範圍內に於て連續的なる算法は,之を擴張して凡ての數の範圍內に於て連續的なる算法となすことを得.
先づ
は有理數の範圍內に於て連續的なりとするとき
(1)

(2)

等の有理列數の極限を,それぞれ
となすときは
(3)

は一定の極限を有す.思想を明確ならしめんと欲せば,例へば
を以て
の十進命數法の小數第一,二,…位までを採りて作りたる有理數と做すべし.げにも

と置き,如何に小なる正數
を與ふるとも,之に應じて
を相當に定めて以て

の振幅を
よりも小ならしむるを得べきを驗證せんに,先づ
は連續的算法なるが故に
に應じて適當に
を定め
の變動の限界
を超えざる限り
の變動も亦
を超えざらしむることを得.さて
の極限
なるにより
に應じて
を適當に定め以て
及
の振幅をして
より小ならしむることを得.斯の如く
を定むるときは
の振幅は
を超えず,隨て (3) の列數に一定の極限あり,之を
と名づく.
さて
は
を極限とせる列數 (1),(2) …の選擇に關係なし,詳しく言はゞ


等が亦
を極限とするときは

の極限は卽ち
なり.之を證明せんと欲せば

と置きて
の極限の
なるべきを示さば則ち足る.假に
の極限
にあらずとせば此差の絕對値
は
にあらざる一定の下限を有す.而も
と
,
と
…の差は
と共に限りなく減少すべきが故に,是れ
が連續的算法なりとの前提に反せり.
以上の觀察によりて次の結果を得.
が有理數の範圍內に於て連續的算法なるときは有理數
を以て限りなく定まれる數
に近迫するとき,
は常に一定の極限
に近迫す.
今若し
等の一部又は全部が無理數なるとき

となして,以て無理數の關係せる場合に於ける
なる算法の意義を定むるときは,
は數の全範圍に於て連續的の算法となる.又
をして連續的ならしめんと欲せば
は
と異なる値を取ることを得ず.此主張の後半は明瞭なり,其前半を證すること次の如し.
先づ
なる定まれる數を採り
を考ふ.
に充分接近せる有理數
を採りて
と
との差をして,如何程にても小なる豫定の限界以內に止まらしむることを得べきことは前文旣に述べたり.
が連續的算法なることの證明は,之によりて完きを得たるか,曰く否.吾人は尙それぞれ
に充分近き
を如何にとるとも卽ち
等が無理數を含める場合に於ても亦
と
との差をして如何程にても小ならしむるを得べきを證明せざるべからず.今
を含める一定の間隙例へば

なる間隙を考へ,此間隙の中より有理數
を採りて
を作るに,こは
の選擇に從て變動すべき數なり.然れども
は連續的算法なるが故に,此變動は前述の間隙と共に定まるべき一定の上限を超えず,此上限を
と名づけ,さて此等の間隙より有理又は無理なる
を如何やうに選擇するとも

と

との差
の決して
より大なるを得ざることを證せんとす.若し假に
は
より大なりとなすときは次の如くにして矛盾の結論に陷る.
,
の差は
より大なりといふが故に例へば
を
より大なりとし
と置き

なる數
及
を作るに此二數の差は恰も
に等し.さて
に
充分近き有理數
又
に充分近き有理數
を採り,以て

及


及

の差をして
より小ならしむることを得,しかするときは

にして
と
との差は
より大なり.是卽ち矛盾の結論なり.
是故に前述の間隙に含まるゝ有理數の範圍內に於て
の變動の限界
を超えざるときは,同一の間隙內に於ける有理無理あらゆる數につきても亦
の變動は同一の限界を超えず.さて
を如何に小さく豫定するとも,之に應じて上の間隙の幅を相當に縮小し,以て此間隙內に於ける有理數につきての
の變動を
以下に限ることを得べきことは先に證明せる所なり.是に至て此證明は洽く同一間隙內に於ける凡ての數の上に及べり.卽ち擴張せられたる
の仍ほ連續的算法たるを失はざるを確め得たり.
上述の定理を特別の場合に應用して次の結果を得.
等の數の間に成立する等式には畢竟
なる形を與ふることを得べし.さて若し
にして連續的算法ならば此關係が
の有理數なる凡ての場合に證明せられたる上は,直に之を數の全範圍に及ぼすことを得.例へば乘法の交換の法則は
なる等式によりて表はさる,さて乘法及び減法隨て
は連續的算法なること,及び交換の法則の有理數の場合に成立することよりして直に此法則の凡ての數につきて成立すべきを推知し得べきなり.是畢竟上述の定理に於て
が常に
なる場合に外ならず.
之を要するに,有理數に關係せる連續的算法の意義及び其諸性質は,上述の定理によりて一々驗證せらるゝを要せず,一舉して盡く數の全範圍に擴張せらるゝを得るなり.
(六)
連續的算法の轉倒を,最簡短なる場合につきて說明せんが爲に,先づ
なる連續的算法に關係せる諸數の中の或一つに特に着眼して之を
と名づけ,其他の諸數を省略して,此算法の結果を單に
と書く.
が或る範圍內に於て變動するときは
も亦之に應じて或る範圍內に於て變動す.若し
の增大するとき
は之に伴ひて常に增大し又は常に減小するときは
は單調の變動をなす又は更に略して
は單調の算法なりといふ.例へば
の定まれる數なるとき
,
,
,
等は數の全範圍を通して單調なり.又
は
が正數なるときは單調に增大し,
か負數なるときは單調に減小す.
單調なる連續的算法の轉倒は唯一の結果を與へ,此結果は亦單調なる連續的算法なり.

を單調なる連續的算法となし,例へば
が
より漸次增大して
に至るとき
は
より順次增大して
に至るとなすときは,
を以て
なる間隙に屬せる或數となすとき

なる如き數
は
の間隙に於て必ず,而も唯一個に限り存在す.隨て
を與へて之に應ずる
を定むること常に可能なるが故に,此手續きは之を
に施こせる一の算法と考ふることを得,此算法の結果は卽ち
なるにより

と書くとき,
は又單調にして連續的なり,卽ち
が
より漸次增大して
に至るときは
も亦連續的に
より漸次增大して
に至る.是卽ちこゝに證明せらるべき定理の內容なり.
先つ轉倒の必可能なるべきを證せん.
の間隙中より任意に
なる數を採り,次の如くして
なる間隙の數を二群に分つ,
なる如き數
卽ち例へば
は第一の群に屬し,
なる如き數
卽ち例へば
は第二の群に屬す.第一の群に屬せる數は凡て第二の群に屬せる數よりも小なり.さて此等兩群のいづれにも屬せざる數ありとせばそは
ならしむべき數にして斯の如き數
の若し存在すとも,唯一個に限るべきことは始めより明白なり.是故に轉倒の可能なるを證せんと欲せば上述の兩群の未だ
なる間隙の凡ての數を網羅せざるを確むるを以て充分なりとすべし.假に此等の兩群にして
なる間隙の凡ての數を網羅せりとなさば,連續の法則によりて,第一群に最大の數あるか又は第二群に最小の數あるか,いづれか其一に居らざるを得ず.若し第一群に最大の數あらば,之を
と名づくるに,
は第一群に屬するが故に
又
より大なる數は盡く第二群に屬すべきが故に
を如何なる正數となすとも
卽ち
にして
と
との差は
を如何に小ならしむるも決して一定の數
を超えず.是
が連續的算法なりとの前提に反せり.第二群に最小の數あるを得ざること,亦同樣にして證明せらるべし.
なる如き,第一群にも又第二群にも屬せざる,唯一個の數
の存在すべきこと爭ふべからず.
さて
の增大するとき,
も亦之に伴ひて增大すべきこと,論なし.
が漸次增大して
に至るときは,
は漸次增大して
となる.
,
の差をして
より小ならしめんと欲せば,
に應じて
を適當に定め,
,
の差をして
よりも小ならしむれば則ち足る.又若し豫め
を與へ
,
の差をして
より小ならしめんと欲せは,
,
に該當する
,
の差をして
より小ならしむれば則ち可なり.逆の算法
も亦連續的なり.
が單調に減小するときは
も亦單調に減小す.又
の變動の範圍に上限又は下限なき場合に於て施すべき更正は特に縷說を須ひざるべし.
例へば加法,乘法は數の全範圍を通じて單調なる連續的算法なり,故に減法及び除法も亦然らざるを得ず.