第二章 四則算法
加法,加法の應用上の意義,交換の法則,組み合はせの法則,減法の可能,減法の應用○乘法の意義,加法に對する分配の法則,組み合はせの法則,交換の法則,倍數,除法可能の條件○零の定義及其性質○多くの數の加法及乘法,ヂリクレーの證明○減法及除法に關する定理○冪及其算法○除法の擴張,數の展開,十進法○十進法に於ける四則の演算
(一)
玆に
等の文字にて表はされたる物一組あり,之を甲と名づく.又
等の文字にて表はされたる物一組あり,之を乙と名づく.(
等は數を表はせるに非ず,此等の文字は一つ一つの物を表はせるなり,甲,乙は一つ一つの物を表はさず,物を一括して得たる全體の名なり)此甲なる一組の物に乙なる一組の物を合同して之を第三の一組となし,之を丙と名づく.丙は
等卽ち始め甲又は乙に屬せる物を盡く含み,且此等の物の外の物を一も含まず,是故に甲に乙を合同するも又乙に甲を合同するも其結果は同一なり.
又甲,乙,丙なる三組の物あるとき,先前に言へる如くにして甲と乙とを合同し,斯くして得たる一組に更に丙を合同して一組となすときは,此最後の一組は始め甲又は乙又は丙に屬せる物をば盡く含み且此外の物は一も含まず,是故に三組の物を合同する結果は其順序に關係せず.
甲なる一組の物
其數
,乙の物
其數
なり,甲乙を合同して作りたる丙なる一組の物の數如何.丙の物の數を數ふるに當りて之を數ふる順序は數へて得べき結果に影響を及ばすことなし.よりて前に甲に屬せし物に
の順序數を配合する手數を反復するまでもなく,前に乙に屬せる物の中
に配せられたる者(
)には
の次の順序數(
)を以てし,前に乙に屬して
に配せられたる物には又其次の順序數(
)を配し,斯の如くにして竟に前に乙に屬して
に配せられたる物に配すべき順序數を
と名づくれば,
は卽ち甲と乙とを合同して作れる丙なる一組の物の數なり.次の圖は此手續きを說明す.

是故に
,
なる二つの數より
に達すべき手續きは次の如し,
の直ぐ次なる順序數には
を取り合わせ,其次の順序數には
を取り合わせ,次第に斯の如くにして竟に
に取り合はさるゝ順序數は卽ち
なり.
斯の如くにして
,
より作り得べき數
を
に
を加へて得たる和といひ之を表はすに次の記法を用ゆ.

例へば甲の物の數六乙の物の數三なるとき甲,乙を合同して之を數ふるに拇指を屈して七と呼び示指を屈して八,中指を屈して九といふは卽ち七,八,九に一,二,三なる順序數を配し行けるに外ならず,拇指,示指,中指は
,
,
を代表せるなり.
若し前に乙に屬せる物に
より
までの順序數を配せる手續きを基礎となし,
の次の數に
を配し,又其次の數に
を配し次第に斯くの如くなし行きて竟に
の配せらるゝ數に到着するときは此數は卽ち
なり.さて
も
も共に丙なる一組の物の數に外ならざるが故に

卽ち二つの數の和は加へられたる數の順序に關係せず.之を加法の交換の法則といふ.三組の物を順次合同する場合に同樣の論法を適用して

を得,
,
,
なる三個の數を加ふるに當り先づ
に
を加へ,更に其和に
を加ふるも,或は又
に
,
の和を加ふるも,結果は同一なりとなり,之を加法の組み合はせの法則といふ.
二組の物を合同して得たる一組の物の數を數ふる手續きにつきて前に說きたる所により,直ちに次の事實を知り得べし.
に或る數
を加へて得たる和は
よりも大なり,
.
此定理は又之を轉倒することを得,
若し
より大ならば
は必ず
と或る數
との和に等し,卽ち

なる如き數は必ず存在す,
今
なる順序數を一組の物と考ふれば,
は
より小なるが故に
は必ず此一組の中にあり.今此一組を分ちて,
のみを甲の一組とし,其他のものを乙の一組となす.斯くの如くして作り得たる甲,乙の二組を合同するときは前の一組に復歸すべきこと勿論なり.さて甲なる一組の中にある順序數の數は
なり,乙なる一組の中なる殘りの順序數の數を數へて此數を
と名づくれば
にして此
は卽ち吾輩が其存在を主張せる所の數に外ならず.
,
なる二つの數の中
は
より大なるときは

なる條件に適すべき數の必ず存在すべきことは旣に明了なり.今斯の如き數は唯一個に限り存在し得べきことを證明せんとす.今
の外に尙上の條件に適合すべき數
存在するものとせば,卽ち

なりとせば
,
の中一方は他の一方より大ならざるを得ず.例へば
は
より大なりとせば

なる如き數
は必ず存在せざるを得ず,隨て

此等式の右邊に立てる和は組み合はせの法則によりて

卽ち

に等し,而して此和は
よりも大ならざるを得ず.卽ち
若し
より大ならば
は
よりも大なり.是故に
は
に等しからざるを得ず.
が
より大なるとき斯の如くにして
なる數に到達すべき手順を
より
を減ずといひ
を
と
との差といひ,之を表はすに次の記法を用ゐる.

,
より
に到達するには次の手續によることを得,
なる順序數を考へ,其最後の者
には
を配し,
の前の數には
を配し,次第に斯の如くなし行きて竟に
に配せられたる數に達する時,此數の直ぐ前なる數は卽ち
なり.例へば
より
を減せんとせば次の圖に示すが如くすべし.


丙なる一組の物あり其數
なるとき,之を分ちて甲,乙の二組となすときは,甲に屬する物の數は
より小なり,此數を
と名づくれば,乙に屬する物の數は卽ち
なり.
(二)
加法は組み合はせの法則に從ふものなるが故に,同一の數
を幾囘も加へ合はせて得らるべき和は此數と加へ合すべき囘數
とによりて全く定まるべし.斯の如き和を求むるは
及び
なる二つの數を與へて之より或る定まれる第三の數を得べき手續きなるが故に,之を
,
なる二數に施こせる一の算法と見做すことを得.此算法は卽ち乘法にして
は被乘數,
は乘數,求め得たる和は
の
倍或は
,
を乘したる積(
又は
)なり.
,
は何れも此積の因數にして
といふ積の第一の因數は被乘數,第二のは乘數なり.加へ合はすといふ語は少なくとも二個の數を豫想するが故に,
に
を乘ずとは沒意義の事なり.吾輩は玆に改めて,
とは
の事なるべしと定む.之をしも前に述べたる乘法の定義の中に包括せられたりとせんは牽强なり.乘數が
なる場合と然らざる場合とに於ける乘法の意義は次の式により明に書き表はさる,
(1)

(2)


次に揭ぐるは乘法に關する最も重要なる定理なり.
一,加法に對する分配の法則,
(3)

(3')

證,
に
を乘ずるは
といふ數
個の和を作ることにして,
といふ數
個は卽ち
といふ數
個と又
といふ數
個とを合同せるものなるが故に,此二組の
を別々に加へ合はせて
,
を得たる後,更に此二つを加へ合はせ,求むる所の積の
に等しきを知る.又
に
を乘ずるは
を
個加へ合はせたる和を求むることにして,加法の順序を變更し,先づ
のみ
個を加へ合はせて和
を得,又
のみ
個を加へ合はせて和
を得,此等の二つの和を加へ合はせて求むる所の積の
に等しきを知る.
和を構成する數二個より多くとも分配の法則は尙成立すべし,卽ち
なる
個の數あるときは
(4)

(4')

なり.
若し
が盡く同一の數
なりとせば (4) より


を得,卽ち
(5)


,

,

なる三個の數に順次乘法を施こすとき因數の順序は積に影響することなきこと加法の場合に於けると同趣なり,之を
組み合はせの法則といふ.此法則は

が

なる場合にも成立すべきこと明なり.
交換の法則も亦乘法に適用すべし,
,
なる二數の積は因數の順序に關係せず,卽ち
(6)

先づ
が
なる場合には此法則は明に成立せり,
とは (1) によりて
のことにして
は
を
囘加へ合はせて得べき數にして此數は
なり,故に

さて一般に (6) を證明せんが爲に (4') に於ける
を盡く
に等しとせば


卽ち

にしてこは卽ち (6) に外ならず.
一個の定まりたる數
に相異なる數
,
を乘じて得らるべき積

は亦相異なる數にして,其大小は
,
の大小に伴ふ.是故に又
,
の大小,相等は必ずそれぞれ
,
の大小相等に伴ふ.
其故如何にといふに,今假に
なりとせば
なるが如き數
は必ず存在し,從て

よりて

なり.よりて又
が
より小なるときは
と
との位地を轉倒して此論法を適用し,此場合には
の
より小ならざるべからざるを知るべし.
故に又
ならば
ならざるを得ず,如何といふに,
若し
より
大ならずとせば
は
より大なることを得ざればなり.よりて又
ならば
ならざるを得ず.隨て
なるときは,必ず
なることを知るべし,何とならば
若し
より大又は小ならば
も又
よりも大又は小にして,此二つの積相等しきを得ざればなり.
今
を定まれる數となし,之に順次
を乘じて

を作るときは,此等の數はこゝに書き列べたるまゝにて其大さの順序を成せり,其最初の者は卽ち
に等しく,第二以上は皆
より大なり.此等の數を
の倍數といふ.
の倍數は
自らの外は盡く
より大なれども,
より大なる數は必ず
の倍數なりといふことを得ず.現に
が
より大なるときは
は
より大なり,然れども此數は
卽ち
よりも小,隨て其他の
の倍數よりも小なるべく,
は
の倍數なることを得ざるにあらずや.
なる數が
の倍數なるときに限り

なる如き數
は存在す,而かも斯の如き數
は唯一個に限り存在することを得.
が
の倍數なる場合に於て此
なる數を定むべき算法を除法といふ.
は此除法の被除數(又は實)
は除數(又は法)にして
は商なり.

は此事實を書き表はすべき記法なり.
除法の乘法の逆なるは猶減法の加法の逆なるが如し,唯減法可能の條件は被減數が減數よりも大なるべきの一事に止まれども,除法の場合に於ける被除數と除數との關係はしかく簡單ならざるの點少しく趣を異にせり.
(三)
物を數へたる結果を數となすてふ,數の觀念の起因に固着して一步も之を離るゝことを肯ぜずば,零の觀念は數のそれの背後を限れる一障壁たるに過ぎず,是故に吾人の常識は數として零を認許することなし.然れども零といふ數なき數學は極めて不便なる數學なりと謂はざるべからず.
數學の所謂數は零を包括す.數としての零の性質及其四則算法の意義は次の如し.
一,
を
にあらざる數となすときは
は
より大なりとす.こは畢竟
を直ちに
に先てる數,隨て
を最初の數,
を
に次げる數となすなり.
二,
を如何なる數となすとも

隨て特に
とす.減法は加法の逆なりとの規定を固執するときは之よりして

を得.
加法の組み合はせの法則及交換の法則は,關係せる數の中に
を加ふるも,仍成立すべし.
なる減法は
が
より小ならざるときは常に唯一の結果を與ふ.
三,

によりて
の關係せる乘法の意義を定む.
なる數
個の和を
なりとせば,其
に等しきことは旣に二に含まれたり.除法を乘法の逆とすれば,

なり.
乘法の組み合はせの法則,交換の法則及加法に對する分配の法則は
の關係せる場合にも仍成立す.
なる除法の可能なるとき其結果唯一なりといふ事實は
,
共に
となる場合に其意義を失ふ.
は其實如何なる數にて
もあり得べし,斯の如き奇異なる場合は之を除法の圈外に排斥するを宜とす.
は一定の意義なき記號なり.
が
にあらざるとき
の不可能なることは勿論なり.
(四)
加法及乘法は組み合はせの法則及交換の法則に遵ふが故に,多くの數を加へ又は乘ずるに當りて,其順序を如何樣に變更するとも結果は常に同一なり.此事實は旣に前文に於て屢々默認せられたり.
吾人は今ヂリクレーに從ひて此事實の嚴正なる證明を與へんとするに際して此問題を最廣の意義に解釋し,以て後章,同趣の論法を反復するの煩を避けんとす.
加法,乘法等に於けるが如く,凡て二つの定まりたる數を與ふるとき之より一定の法則に從て第三の數を定むる手續きを一般に算法といふ.今
,
なる二數に或る定まりたる算法を施こして得る結果を表はすに

なる記法を以てす.一般に言へば算法の結果は與へられたる二數の順序に關係すべきこと勿論なり,例へば減法,除法の如き是なり.加法,乘法の如く與へられたる二數の順序が結果に影響を及ぼすことなく,卽ち常に

なる關係成立するときは,此算法は交換の法則に從へるなり.
又三個の數
,
,
の與へられたる時は先づ
,
に此算法を施こして得たる結果
と
とに同一の算法を施こすことを得,其最終の結果は卽ち

なり,若し先づ
と
とに此算法を施こして
を得,次に
と
とに同一の算法を施こさば

を得.斯の如くにして得られたる兩樣の結果必しも相等しからざるは減法又は除法の場合に於て吾人の經驗する所なり,例へば
,
,
なる三個の數につきて


なるが如し.
加法及乘法に於ける如く,一般に

なる關係成立するときは,此算法を組み合はせの法則に從ふものとなす.
さて吾人の證明せんとする事實は次の如し.
組み合はせの法則及交換の法則に從ふ算法を多くの數に順次施行するときは其順序は最後の結果に影響する所なし.
此事實を分析して之を最も明白なる言辭に表はすときは次の如し.
等
個の數の與へられる時,之を一括して
と名づく.
の諸數の中より任意に二つ,例へば
,
を採り出し,之に代るに
なる一個の數を以てするときは,玆に
等
個の數を得,之を一括して
と名づく.さて
より同樣の手續きによりて
個の數より成れる
なる一組を作り,順次斯くなし行くときは,竟には唯一個の數に到着す.玆に每次採り出すべき二個の數は全く隨意なるべきにより,此手續きは種々の順序に成され得べしと雖,若し所定の算法にして組み合はせの法則及交換の法則に從ふものなるときは,最後に到達せらるべき唯一の數は算法を行へる順序の異同には關係あることなし.
例へば三個の數
,
,
の與へられたるとき,上文の手續きは次の十二樣の順序によりて成され得べし,

(I)
(II)
(III)
此中 (I),(II),(III) に纏められたる各四樣の順序が同一の結果を與ふることは交換の法則によりて明白なり.又 (1) の結果と (10) の結果と同一なることは卽ち組み合はせの法則なり.さて (8) と (9) とも組み合はせの法則によりて同一の結果を與ふるにより畢竟,此等十二樣の順序によりて到着せらるべき最後の結果は盡く同一なり.吾人の證明せんとする定理は
の
なる時には旣に成立せり.一般の場合に於て當面の定理を證明するには數學的歸納法を用ゐるを便なりとす,卽ち先づ此定理は關係せる數が
よりも少數なるときには旣に成立せるものと做し,然る上は
個の數の關係せる場合に於ても此定理必ず成立すべきことを辨明するなり.此辨明にして承認せられなば
が
の場合に成立せる當面の定理は四個の數につきても,從て又五個の數につきても成立すべく,斯くて一般に成立すべきなり.
今

なる
個の數の與へらるゝとき此中二個例へば
,
を採り出し
を以て之に代ふるときは
個の數よりなれる一組
を得,

さて
の旣に定まりたる上は
より
に移り,
より
に移りて最後の結果に到達するに際しては,每次の算法の順序を如何ようになすとも常に一定の結果を得べきことは假に容認せる所なり.是故に今は唯最初に採り出すべき二數の選擇が最終の結果に影響なかるべきことを確むれば則ち足る.
最初の二數の選擇は樣々あり得べしと雖も其
,
と異なるは畢竟次の二樣の範疇を逸することなし.其一は
,
と全く別に
,
なる二個を採るなり,又其一は
,
の中一個,例へば
と更に第三の一數
とを採るなり.
若し
,
を採らば
は

なる
個の數より成る.
より發足すると
よりすると最終の結果異なるべきか.
の中
,
に代ふるに
を以てし,又
の中
,
に代ふるに
を以てするときはいづれも,

なる
個の數を生ず.
より發して到着すべき最後の結果は
を經て到着し得べく,
より發するも亦然るが故に,此二樣の順序は同一の終局に歸着すべし.
若し又
の中
,
を採りて

を作るとき,之を
と比較せんが爲に


を作るに
より發して到着せらるべき最後の結果は必ず
を經て到着せらるべく,又
より發して到着せらるべきは必ず
を經て到着せらるべし,さて

なることは旣に證明せられたるが故に
も
も同一の
數より成れり,是故に
と
とは同一の終局を與ふるを知るべし.
是に至て吾人の定理は全く成立せり.
(五)
減法,除法は加法,乘法の逆なるが故に,前者に關する諸定理は畢竟後者に關する或る事實を裏面より看取せるに過ぎず.加法と乘法との相似たる點は又減法と除法との上にも反射せられたり.次に揭ぐるは減法及除法に關せる重なる定理にして,其證明は皆容易なり.
減法は加法の逆なりといふ事實を次の如く言ひ表はすことを得,
一,
二,
三,
|
除法は乘法の逆なりといふ事實を次の如く言ひ表はすことを得,
一,
二,
三,
|
四,
減數及被減數の雙方に同一の數を加減するとも差は變ずることなし.
五,
三つの數に加法,減法を施こすとき次の關係あり,
六,
七,
八,
九,
此等の事實を擴張して次の定理を得,加法,減法を引續き行ふべき場合に於て,不能の減法の起り來らざる限り,算法の順序を變換し,或は加ふべき二個以上の數に代へて其和を加へ,二個以上の減數に代へて其和を減じ,或は加ふべき數一つ,減ずべき數一つに代へて其差を加へ又は減ずるとき,終局の結果は變ずることなし.
|
四,
除數及被除數の雙方に同一の數を乘除するとも商は變ずることなし.
五,
三つの數に乘法,除法を施こすとき次の關係あり,
六,
七,
八,
九,
此等の事實を擴張して次の定理を得,乘法,除法を引續き行ふべき場合に於て,不能の除法の起り來らざる限り,算法の順序を變換し,或は乘ずべき數二個以上に代へて其積を乘じ,二個以上の除數に代ふるに其積を以てし,或は乘數一つ除數一つに代へて其商を乘じ又は除すとも,終局の結果は變ずることなし.
|
上に揭げたる諸式の左邊に現はれたる減法,除法は其可能なるべきを豫め定めたるものにして,右邊に現はれたるは其可能なるべきことを證明すべき者なり.此等の諸定理の證明は次の例に倣ふべし.
五の證.
なることは知られたる事實なり,今
と置く,卽ち
なり,
さて
よりて
隨て

是故に
なる減法は可能にして其結果は
なり,五の後の一半を證明するには七を用ゐるべし.
八の證.
なる式は兩度の除法を包む,此等の除法はいづれも可能なり,よりて
となす,卽ち

よりて

は可能にして其結果は
なり.
(六)
同一の數若干の加法より乘法を生じたるが如く,同一の因子若干の積は冪の觀念を起す.
なる因子
個の積を
の
次の冪といひ,
自らを
の一次の冪と稱す.羃の記法は次の如し,
(1)

(2)


を此冪の基數
を其指數といふ.指數の大小は冪の階級の高低を定む.第二次,第三次の羃を特に平方,立方といふ.
冪に關する諸定理は乘法の諸定理と同樣にして容易に證明し得べし,
一,基數を同じくする羃の乘法及除法は指數の加法及減法に歸す,
(3)

(4)

げにも等式 (3) の兩邊はいづれも
なる因子
個の積に等し,(4) は (3) を轉倒せるに過ぎず.
此定理を冪の數二個よりも多き場合に擴張して
(5)

を得.
二,羃の羃を作るには指數を乘ずべし,卽ち
(6)

(5) に於て
を盡く
に等しとなさば (6) を得べし,
三,指數を同じくせる羃の乘法は基數の乘法に歸す.
(7)


若し (7) の第二の等式に於て
を盡く
に等しとし其數
なりとせば再び二を得べし.
若し
の倍數ならば
(8)

の凡ての階級の冪は
に等し,基數
より大ならば冪の大小は指數の大小に伴ふ,指數の同一なる羃の大小は基數の大小に伴ふ,卽ち

ならば


ならば

(七)
を
より大なる數となし,
の倍數を

と大さの順序に書き竝べたりとするとき,
なる數が若し
の倍數ならずば,そは必ず相隣れる
の二つの倍數の間にあり,卽ち
(1)

なるが如き數
は必ず存在す.
こゝに書き竝べたる
の倍數を
より始めて順次一つ一つ採りて之を
と比較し行くに,先づ
は
よりも小なり,
若し
より大ならば
は
と
との間にありて
は卽ち
なり,
若し
より小ならば
を
と比較
すべし,
若し
より大ならば
は
と
との間にありて
は卽ち
なり,
若し
より小ならば
を
と比較すべし.此手續きを順次反復するときは竟に
なる數に到達せざるを得ず,若し然らずば
の倍數は皆
よりも小なりといふ許すべからざる結論に陷るべし.現に
は
の倍數にして
よりも小ならず.
(1) の條件に適すべき數
の存在すべきことは旣に知れり,今

とすれば

卽ち
(2)

若し
の倍數ならば
として此式仍成立すべきが故に,畢竟
は
とは異なる數なりとするときは,
が如何なる數なりとも必ず (2) に示せる條件に適すべき
,
なる二數存在すと云ふことを得.
又
,
を與へたる上は (2) に適すべき
,
の二數は共に一定のものなり,語を換へて之を言はゞ

なる條件が (2) と同時に成立するときは
ならざるを得ず.
其故如何にといふに,此等の二條件同時に成立するとき若し
にして
より大ならば
は少なくとも
に等しく,隨て
は少なくとも
に等しくして
卽ち
よりも大となるべし.是故に
は
より大なることを得ず.又同樣にして,
の
より小なることを得ざるべきを證明し得べし.よりて
は相等しからざるを得ず,
旣に相等しからば
も亦等し.
なる二數より (2) によりて
を定むる手續きを仍ほ除法といひ,
を此除法の商
を其剩餘といふ.剩餘は必ず法より小なり.剩餘
なるは卽ち整除の場合にして,剩餘
ならざるときは特に商を不完全なる商と云ふことあり.
の倍數にして其大さ
を超えざるものゝ中最大なるは卽ち
にして,
は
を
の倍數となすべき最小の數なり.
上文說ける所の重要なる定理は更に之を擴張することを得.
より大なる一數
を採りて之を法となし,任意に與へられたる數
を除し商
及剩餘
を得たりとするとき,再び
を以て
を除し商
及剩餘
を
得,更に
を以て
を除し商
及剩餘
を得,逐次斯の如く囘一囘得來る所の商を更に
を以て除し行くときは,
は
よりも小,
は
よりも小,後に得る所の商は常に前に現はれたる者よりも小にして,
よりも小なる數は其數限りあるが故に,遞次得る所の商は次第に減少し行きて究局
よりも小とならざるを得ず.今
は
よりも小なりとせば
は
にして
は
に等し,卽ち

等の式を得,之を一括して
(3)

を得,こゝに
はいづれも
より小なる數にして,最後の
の外は
なることあり得べし.
是故に凡ての數は
より大なる數
の種々の階級の羃に,
より小なる係數を乘じて得らるべき積の和として之を表はすこと,卽ち
の冪級數に展開することを得.
(3) に表はされたる
の展開の記法を省略し,單に係數のみを幷べ記して,

と書くことを得,こゝに
等を幷べて書けるは乘法を示せるには非ざることを明にせんが爲に特に括弧を用ゐたり.數を斯の如く展開することを
を基數とせる命數法と云ふ.十といふ數を基數とせるときは卽ち常用の十進法を得.或數を命數法に從ひて書き表はしたるとき其係數の數を此數の桁又は位の數と云ふ
は順次第一位,第二位…の係數なり.
十進法を採りて,
より
に至る數には個々特別の命名をなし,
の次の數を
とし,
をそれ〳〵十,百,千,萬と名づけ,

の如き數を

萬

千

百

十

と呼ぶは我邦の命數法なり.此方法に從ふときは,僅に十三個の語を組み合はせて一より
に至るすべての數に命名することを得,此法は全く古希臘の命數法と符合せり.
然れども我邦の命數法は此十三個の詞を用ゐて
より小なるすべての數に命名す,例へば

と展開せられたる數は之を

と書きて

千

百

十

萬

千

百

十

と名づく,若し更に
を億と名づくれば,同一の方法によりて
より小なる卽ち十二桁以下のすべての數に命名することを得べし.要するに此命數法は四位を以て一節とし
及
を第一段,第二段の基數となし,先づ
を法として或る數を例へば,

の如く展開し,こゝに現はれ來れる,いづれも
より小なるべき係數をば更に
を法として

の如く展開して,四桁以下の數の命名法を重用するを主眼とするなり.
十進の命數法は數を言語に表はして日用の需要に應ずるの點に於て遺憾あることなし,然れども數を簡明に書き表はす方法を與へて數學の進步を助成せるはアラビヤ數字を用ゆる記數法なり.古希臘に於て數を取扱ふ數學の發達が幾何學の進步に伴はざりし所以は明透なる記數法の缺如せること其最大なる原因の一ならずとせんや.
を基數とせる記數法に於て一般に桁數
なる數
は次の不等式に適合すべし,

例へば十進法に於て桁數
なる數は
卽ち
を
個幷べて書き表はさるゝ數よりも大ならず,又
卽ち
の右に
を
個幷べて書き表さるゝ數よりも小ならず.
げにも

となすときは
はいづれも
より小,卽ち多くとも
に等しきが故に





隨て

是れ當面の不等式の前一半なり,其後一半は
の最高位の係數
の決して
たること能はず,隨て少なくとも
に等しからざるを得ざることに注意せば自ら明了なるべし.
基數を同じくせる記數法によりて書き表はされたる二つの數の大小は第一其桁數の大小に從ふ,桁の數同じき二つの數にありては最高位の係數の大小,或は同位にして係數異なる最高位の其係數の大小に從ふ.
實にも第一
は桁數
,
は桁數
にして
ならば上に證明せる所により,

第二,
は桁數共に
にして最高位の係數
にありては
,
にありては
にして
なりとせば,

さて,
卽
より

を得.又
の最高位一桁を消去したる後殘留する所の記號の表はせる數は桁數
なるが故に
よりも小なり,而して此數に
を加ふれば
を得べきにより,

卽ち

なり,若し又
に於て最高位若干の係數は相一致し
の位に至りて始めて相異なる係數を有し,其係數
にありては
,
にありては
にして
なりとせば
は次の如き形を成すべし,


こゝに
と書けるはそれぞれ
の展開の左端より相一致せる部分を消去せる後殘留する所のいづれも桁數
なる數にして,
の最高位の係數は
なり.是故に
は
よりも大きく,隨て之に同一の數
を加へて得らるべき和につきても
は
よりも大なるを知るべし.
斯の如く展開の係數を比較して數の大小を識別し得べきにより,飜て又凡て數は基數の定まるとき唯一の展開を有することを知るべし.
(八)
數ありて後命數法あり,命數法は數を表はす方法のあまたあり得べきが中の一なるに過ぎざることを再び繰り返さんはくだくだし,十進法に於ける四則卽ち加減乘除の演算に於ても亦思想の本末先後につきて同樣の注意を要するの點あり.
通常四則の演算と稱するは十進法にて表はされたる二個以上の數の間に加法,減法,乘法又は除法を施こして得らるべき結果を再び十進法に表はさんとするを目的とし,其爲に設けたる,成るべく簡短にして秩序ある手續きたるに過ぎず,卽ち是れ算法を實行するの手段種々あり得べきが中の一なり.さればかかる演算の方法定まりて後始て加減乘除算法の意義定まれるにあらざること論を俟たず.
四則演算の手段は,數ふるといふ手續きに盡きたり,如何なる演算も數ふることによりて成し得ざるはなし.唯推理の力に藉りて成るべく器械的の手續きを節約せんとする處に工夫の餘地を存ず.事實の上につきて言はゞ,かく器械的に數ふべきは十以下の數に關する算法の場合のみに限ることを得べく,此狹小なる範圍內に於ける算法の結果は之を記憶すること難からざるが故に器械的に數ふることは全く之を避け得べし.
四則演算は社會的生存に於て日用必須にして,其知識は常識ある人々の共有り,然れども其大綱につきて此處に數言を費やすの必要あり.
加法の演算は十以下の數の加法の反復に歸す,今



等の和

を求めんとするに,先づ和の第一位の數字(係數)より始むべし.加ふべき數の第一位の係數
をとり之を加へて
を得たりとす,
は十を表はし
は
よりも小なる數なり.しかするときは
は卽ち
の第一位の係數に外ならず,其故は



と書くときは

にして
は
よりも小なればなり,さて

と書くときは
の第二位の係數
は卽ち
の第一位の係數に外ならず,之を求むるには
に代ふるに其右端の一桁を消去して得らるべき
等の數を以てし,尙
なる數をも倂せ採りて再び上に述べたる手續きによるべし,斯の如くして順次に
のすべての位の係數を求むることを得.
減法の演算も亦循進的なり,

なる二つの數の差を

となし,先づ其第一位の係數
を求めんとするに二個の場合を區別せざるべからず.
第一,
なるときは
なり,實にも


と置くとぎは
は決して
より小ならず,而して

にして
は
よりも小なること明なり,さて
,
にして
の第二位の係數は
の第一位の係數に同じ.
第二,
ならば
なり,此場合には
は決して
より小ならず,

にして
の第二位の係數は
の第一位の係數なり.
斯の如き手續きにより順次
を求め得べし.
乘法の演算は分配の法則によりて先づ一般の場合を分解して乘數十を超えざる場合に歸着せしめ,更に乘數十より小なる乘法を分解して因子兩ながら十より小なる場合に歸着せしめ,斯くの如くにして求め得たる部分的の積を盡く加へ合はすを其主眼とす.十以下の數二個の積の表は卽ち九々の表なり.
二つの數の積の第一位の係數は此等の數の第一位の係數の積の第一位の係數なり,實にも
なる二數の第一位の係數をそれぞれ
となすときは,

にして又
の積の第一位の係數を
と名づくれば,

而して

にして
は
よりも小なるが故に
の第一位の係數は
に外ならず.
二つの數の積の位數は因子の位數の和に等しきか,或は之より少なきこと一個なるべし.
其故如何にと云ふに
は
位
は
位の數なりとすれば,

隨て

是によりて積の位數は少なくとも
を下らず,多くとも
を出でざるを知るべし.
以上二個の事實は記數法の基數に拘はらず常に成立す.
(九)
比較的最複雜なるを除法の演算とす,

なる二個の數よりして

なる條件に適すべき
及
を求めんとす.
商の位數は
又は
なるべきことは明白なり,今此二つの場合を區別すること次の如し.
の最高位
個を其儘採りて作りたる數
を
と比較するに,
第一,此數若し
より小ならずば,之を
と名づく,然するときは,

よりて

卽ち商の位數は少なくとも
を下らず,然れども又
より大なることを得ざるにより,是れ實に商の位數なり.
第二,
若し
より小なるときは,


にして
の位數は
より大なることを得ず,然れども又
より小なることあるべからざるが故に商の位數は
なり.此場合に於ては
の最高位
個の係數より作りたる數
を
と名づく.
第一,第二の場合を通じて商の最高位を
の位とす,
は第一の場合にありては
に同じく第二の場合にありては
に同じ,
に於ける左の端より
番目又は
番目の位は卽ち
の位なり.
商の位數旣に定まりたる後,

の各々の位の係數は最高位より始めて循進的に求め得らるべし.
例一,



商は四桁の數なり.
例二,



商は三桁の數なり.
第一,第二の場合に於て別々に定めたる
なる數は明に
よりも小なり,今

によりて
を定むればこは卽ち
の最高位の係數なり.實にも

又
なるにより
隨て

卽ち

さて
は
の倍數にして
を超えざる者の中最大なるものなるにより,

の果して
の最高位の係數なるを知り得たり.
さて

と置くときは

にして
の起首より第二位の係數
は卽ち
の最高位の係數にして,こは
,
に代ふるに
,
を以てしたる後同樣の手續きによりて求めらるべきものなり,但
なる場合には
にして
は
となる,此場合には直に
,
と置き
及
より
を決定せざるべからず.斯の如くにして順次
の係數
を求め最後に剩餘
に到着することを得.
商の最高位の係數
は

なる不等式によりて決定すべきものなり.さて實際上之を決定する方法は如何.
は少なくとも
を下らず,多くとも
を超えざる數なるが故に
乃至
の數を點檢して之を定むることを得,卽ち先づ
を求めて之を
と比較すべし,
若し
より大ならずば
は卽ち
なり,
若し
より大ならば
を求めて之を
と比較すべし,斯の如くにして始めて
より大ならざる積を得たるとき,
に乘じたる數は卽ち
なり.然れども實際の計算に於ては次に述ぶる方法によりて此點檢の範圍を減縮することを得べき場合甚だ多し.
第一の場合に於ては
,第二の場合に於ては
を採りて之を
と名づく,さて
を
にて除して商
を得,又
を
にて除し商
を得たりとせば,求むる所の
なる數は
,
の間を出でず,卽ち

なり,先づ


なることは明なり,さて

故に

隨て

よりて
は
よりは小卽ち
より大ならざることを知る,又


よりて
は
より小なることを得ざるを知る.
是故に
を搜索するには
乃至
の諸數を點檢すれば則ち足る,
の首めより第二位の係數
が
に近ければ
は
に近く,又
が
に近からば
は
に近し.
例へば例二に於て
之を
及
にて除し
,
を得,
は
,
,
の中いづれか一つなることを知る,實は
なり,
を
より引きて,

を得,
,
につきて同一の手續きを反復して商の第二位の係數を求めん爲に先づ

をとり
の
なることを知る,以下類推すべし.此演算は實際に於ては次の如く排列せらるゝことは,人のよく知る所なり.
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