新古今和歌集/巻第十六

巻十六:雑上


01436

[詞書]入道前関白太政大臣家に百首哥よませ侍けるに立春の心を

皇太后宮大夫俊成

としくれしなみたのつらゝとけにけりこけの袖にも春やたつらん

としくれし-なみたのつらら-とけにけり-こけのそてにも-はるやたつらむ


01437

[詞書]土御門内大臣家に山家残雪といふこゝろをよみ侍けるに

藤原有家朝臣

山かけやさらては庭にあともなし春そきにける雪のむらきえ

やまかけや-さらてはにはに-あともなし-はるそきにける-ゆきのむらきえ


01438

[詞書]円融院くらゐさり給てのちふなをかに子日したまひけるにまいりてあしたにたてまつりける

一条左大臣

あはれなりむかしの人をおもふにはきのふの野へにみゆきせましや

あはれなり-むかしのひとを-おもふには-きのふののへに-みゆきせましや


01439

[詞書]御返し

円融院御哥

ひきかへて野辺のけしきは見えしかとむかしをこふる松はなかりき

ひきかへて-のへのけしきは-みえしかと-むかしをこふる-まつはなかりき


01440

[詞書]月のあかく侍ける夜そてのぬれたりけるを

大僧正行尊

春くれは袖の氷もとけにけりもりくる月のやとるはかりに

はるくれは-そてのこほりも-とけにけり-もりくるつきの-やとるはかりに


01441

[詞書]うくひすを

菅贈太政大臣

たにふかみ春のひかりのをそけれは雪につゝめる鴬の声

たにふかみ-はるのひかりの-おそけれは-ゆきにつつめる-うくひすのこゑ


01442

[詞書]梅

ふるゆきにいろまとはせるむめの花うくひすのみやわきてしのはん

ふるゆきに-いろまとはせる-うめのはな-うくひすのみや-わきてしのはむ


01443

[詞書]枇杷左大臣の大臣になりて侍けるよろこひ申とてむめをおりて

貞信公

をそくとくつゐにさきぬるむめの花たかうへをきしたねにかあるらん

おそくとく-つひにさきぬる-うめのはな-たかうゑおきし-たねにかあるらむ


01444

[詞書]延長のころをひ五位蔵人に侍けるをはなれ侍て朱雀院承平八年又かへりなりてあくるとしむ月に御あそひ侍ける日むめの花をおりてよみ侍ける

源公忠朝臣

もゝしきにかはらぬものは梅の花おりてかさせるにほひなりけり

ももしきに-かはらぬものは-うめのはな-をりてかさせる-にほひなりけり


01445

[詞書]むめのはなを見たまひて

華山院御哥

いろかをはおもひもいれすむめの花つねならぬよによそへてそみる

いろかをは-おもひもいれす-うめのはな-つねならぬよに-よそへてそみる


01446

[詞書]上東門院よをそむきたまひにける春にはのこうはいを見侍りて

大弐三位

むめの花なにゝほふらんみる人のいろをもかをもわすれぬるよに

うめのはな-なににほふらむ-みるひとの-いろをもかをも-わすれぬるよに


01447

[詞書]東三条院女御におはしける時円融院つねにわたり給けるをきゝ侍りてゆけひの命婦かもとにつかはしける

東三条入道前摂政太政大臣

はるかすみたなひきわたるおりにこそかゝる山辺のかひもありけれ

はるかすみ-たなひきわたる-をりにこそ-かかるやまへは-かひもありけれ


01448

[詞書]御返し

円融院御哥

むらさきの雲にもあらて春かすみたなひく山のかひはなにそも

むらさきの-くもにもあらて-はるかすみ-たなひくやまの-かひはなにそも


01449

[詞書]柳を

菅贈太政大臣

みちのへのくち木の柳春くれはあはれむかしとしのはれそする

みちのへの-くちきのやなき-はるくれは-あはれむかしと-しのはれそする


01450

[詞書]題しらす

深養父

むかし見し春はむかしの春なからわか身ひとつのあらすもあるかな

むかしみし-はるはむかしの-はるなから-わかみひとつの-あらすもあるかな


01451

[詞書]堀河院におはしましけるころ閑院の左大将の家のさくらをおらせにつかはすとて

円融院御哥

かきこしに見るあた人のいへさくら花ちりはかりゆきておらはや

かきこしに-みるあたひとの-いへさくら-はなちるはかり-ゆきてをらはや


01452

[詞書]御返し

左大将朝光

おりにことおもひやすらん花さくらありしみゆきの春をこひつゝ

をりにこと-おもひやすらむ-はなさくら-ありしみゆきの-はるをこひつつ


01453

[詞書]高陽院にて花のちるを見てよみ侍ける

肥後

よろつよをふるにかひあるやとなれはみゆきと見えて花そちりける

よろつよを-ふるにかひある-やとなれや-みゆきとみえて-はなそちりくる


01454

[詞書]返し

二条関白内大臣

えたことのすゑまてにほふ花なれはちるもみゆきとみゆるなるらん

えたことの-すゑまてにほふ-はななれは-ちるもみゆきと-みゆるなるらむ


01455

[詞書]近衛つかさにてとしひさしくなりてのちうへのをのことも大内の花見にまかれりけるによめる

藤原定家朝臣

春をへてみゆきになるゝ花のかけふりゆく身をもあはれとや思

はるをへて-みゆきになるる-はなのかけ-ふりゆくみをも-あはれとやおもふ


01456

[詞書]最勝寺のさくらはまりのかゝりにてひさしくなりにしをその木としふりて風にたうれたるよしきゝ侍しかはをのこともにおほせてこと木をそのあとにうつしうへさせし時まつまかりて見侍けれはあまたのとしくれにしはるまてたちなれにけることなとおもひいてゝよみ侍ける

藤原雅経朝臣

なれて見しはなこりの春そともなとしらかはの花のしたかけ

なれなれて-みしはなこりの-はるそとも-なとしらかはの-はなのしたかけ


01457

[詞書]建久六年東大寺供養に行幸の時興福寺のやへさくらさかりなりけるを見てえたにむすひつけて侍ける

よみ人しらす

ふるさとゝおもひなはてそ花さくらかゝるみゆきにあふよありけり

ふるさとと-おもひなはてそ-はなさくら-かかるみゆきに-あふよありけり


01458

[詞書]こもりゐて侍けるころ後徳大寺左大臣白河の花見にさそひ侍けれはまかりてよみ侍ける

源師光

いさやまた月日のゆくもしらぬ身は花の春ともけふこそは見れ

いさやまた-つきひのゆくも-しらぬみは-はなのはるとも-けふこそはみれ


01459

[詞書]敦道のみこのともに前大納言公任白河の家にまかりて又の日みこのつかはしけるつかひにつけて申侍ける

和泉式部

おる人のそれなるからにあちきなく見しわかやとの花のかそする

をるひとの-それなるからに-あちきなく-みしわかやとの-はなのかそする


01460

[詞書]題しらす

藤原高光

見ても又またも見まくのほしかりし花のさかりはすきやしぬらん

みてもまた-またもみまくの-ほしかりし-はなのさかりは-すきやしぬらむ


01461

[詞書]京極前太政大臣家に白河院みゆきしたまふて又の日花哥たてまつられけるによみ侍ける

堀河左大臣

おいにけるしらかも花もゝろともにけふのみゆきにゆきとみえけり

おいにける-しらかもはなも-もろともに-けふのみゆきに-ゆきとみえけり


01462

[詞書]後冷泉院御時御前にて翫新成桜花といへるこゝろをゝのこともつかうまつりけるに

大納言忠家

さくら花おりてみしにもかはらぬにちらぬはかりそしるしなりける

さくらはな-をりてみしにも-かはらぬに-ちらぬはかりそ-しるしなりける


01463

大納言経信

さもあらはあれくれゆく春も雲のうへにちることしらぬ花しにほはゝ

さもあらはあれ-くれゆくはるも-くものうへに-ちることしらぬ-はなしにほはは


01464

[詞書]無風散花といふことをよめる

大納言忠教

桜花すきゆく春のともとてや風のをとせぬよにもちるらん

さくらはな-すきゆくはるの-ともとてや-かせのおとせぬ-よるもちるらむ


01465

[詞書]鳥羽殿にて花のちりかたなるを御覧して後三条内大臣にたまはせける

鳥羽院御哥

おしめともつねならぬよの花なれはいまはこの身をにしにもとめん

をしめとも-つねならぬよの-はななれは-いまはこのみを-にしにもとめむ


01466

[詞書]世をのかれてのち百首哥よみ侍けるに花哥とて

皇太后宮大夫俊成

いまはわれよしのゝ山の花をこそやとの物とも見るへかりけれ

いまはわれ-よしののやまの-はなをこそ-やとのものとも-みるへかりけれ


01467

[詞書]入道前関白太政大臣家哥合に

春くれはなをこのよこそしのはるれいつかはかゝる花をみるへき

はるくれは-なほこのよこそ-しのはるれ-いつかはかかる-はなをみるへき


01468

[詞書]おなし家の百首のうたに

てる月も雲のよそにそゆきめくる花そこのよのひかりなりける

てるつきも-くものよそにそ-ゆきめくる-はなそこのよの-ひかりなりける


01469

[詞書]春ころ大乗院より人につかはしける

前大僧正慈円

見せはやなしかのからさきふもとなるなからの山の春のけしきを

みせはやな-しかのからさき-ふもとなる-なからのやまの-はるのけしきを


01470

[詞書]題しらす

しはのとにゝほはん花はさもあらはあれなかめてけりなうらめしの身や

しはのとに-にほはむはなは-さもあらはあれ-なかめてけりな-うらめしのみや


01471

西行法師

世中をおもへはなへてちる花のわか身をさてもいつちかもせん

よのなかを-おもへはなへて-ちるはなの-わかみをさても-いつちかもせむ


01472

[詞書]東山に花見にまかり侍とてこれかれさそひけるをさしあふことありてとゝまりて申つかはしける

安法々師

身はとめつ心はをくる山さくら風のたよりにおもひをこせよ

みはとめつ-こころはおくる-やまさくら-かせのたよりに-おもひおこせよ


01473

[詞書]たいしらす

俊頼朝臣

さくらあさのおふのうらなみたちかへり見れともあかす山なしの花

さくらあさの-をふのうらなみ-たちかへり-みれともあかす-やまなしのはな


01474

[詞書]橘為仲朝臣みちのおくに侍ける時哥あまたつかはし

加賀左衛門

白浪のこゆらんすゑの松山は花とや見ゆる春のよの月

しらなみの-こゆらむすゑの-まつやまは-はなとやみゆる-はるのよのつき


01475

おほつかなかすみたつらんたけくまの松のくまもるはるのよの月

おほつかな-かすみたつらむ-たけくまの-まつのくまもる-はるのよのつき


01476

[詞書]題しらす

法印幸清

世をいとふよしのゝおくのよふこ鳥ふかき心のほとやしるらん

よをいとふ-よしののおくの-よふことり-ふかきこころの-ほとやしるらむ


01477

[詞書]百首哥たてまつりし時

前大納言忠良

おりにあへはこれもさすかにあはれなりおたのかはつのゆふくれの声

をりにあへは-これもさすかに-あはれなり-をたのかはつの-ゆふくれのこゑ


01478

[詞書]千五百番哥合に

有家朝臣

春の雨のあまねきみよをたのむかな霜にかれゆく草葉もらすな

はるのあめの-あまねきみよを-たのむかな-しもにかれゆく-くさはもらすな


01479

[詞書]崇徳院にて林下春雨といふことをつかうまつりける

八条前太政大臣

すへらきのこたかきかけにかくれてもなを春雨にぬれんとそおもふ

すめらきの-こたかきかけに-かくれても-なほはるさめに-ぬれむとそおもふ


01480

[詞書]円融院くらゐさり給てのち実方朝臣馬命婦とものかたりし侍ける所に山吹の花を屏風のうへよりなけこし給て侍けれは

実方朝臣

やへなからいろもかはらぬ山ふきのなとこゝのへにさかすなりにし

やへなから-いろもかはらぬ-やまふきの-なとここのへに-さかすなりにし


01481

[詞書]御返し

円融院御哥

こゝのへにあらてやへさく山ふきのいはぬいろをはしる人もなし

ここのへに-あらてやへさく-やまふきの-いはぬいろをは-しるひともなし


01482

[詞書]五十首哥たてまつりし時

前大僧正慈円

をのかなみにおなしすゑ葉そしほれぬるふちさくたこのうらめしの身や

おのかなみに-おなしすゑはそ-しをれぬる-ふちさくたこの-うらめしのみや


01483

[詞書]世をのかれてのち四月一日上東門院太皇太后宮と申ける時ころもかへの御装束たてまつるとて

法成寺入道前摂政太政大臣

から衣花のたもとにぬきかへよわれこそ春のいろはたちつれ

からころも-はなのたもとに-ぬきかへよ-われこそはるの-いろはたちつれ


01484

[詞書]御返し

上東門院

唐衣たちかはりぬる春のよにいかてか花のいろをみるへき

からころも-たちかはりぬる-はるのよに-いかてかはなの-いろをみるへき


01485

[詞書]四月祭の日まて花ちりのこりて侍けるとしその花を使少将のかさしにたまふ葉にかきつけ侍ける

紫式部

神世にはありもやしけんさくら花けふのかさしにおれるためしは

かみよには-ありもやしけむ-さくらはな-けふのかさしに-をれるためしは


01486

[詞書]いつきのむかしをおもひいてゝ

式子内親王

ほとゝきすそのかみ山のたひ枕ほのかたらひしそらそわすれぬ

ほとときす-そのかみやまの-たひまくら-ほのかたらひし-そらそわすれぬ


01487

[詞書]左衛門督家通中将に侍りける時祭の使にてかんたちにとまりて侍けるあか月斎院の女房の中よりつかはしける

読人しらす

たちいつるなこり有明の月かけにいとゝかたらふほとゝきすかな

たちいつる-なこりありあけの-つきかけに-いととかたらふ-ほとときすかな


01488

[詞書]返し

左衛門督家通

いくちよとかきらぬ君かみよなれとなをおしまるゝけさのあけほの

いくちよと-かきらぬきみか-みよなれは-なほをしまるる-けさのあけほの


01489

[詞書]三条院御時五月五日菖蒲のねを郭公のかたにつくりてむめのえたにすへて人のたてまつりて侍けるをこれを題にて哥つかうまつれとおほせられけれは

三条院女蔵人左近

むめかえにおりたかへたるほとゝきす声のあやめもたれかわくへき

うめかえに-をりたかへたる-ほとときす-こゑのあやめも-たれかわくへき


01490

[詞書]五月許ものへまかりけるみちにいとしろくゝちなしの花のさけりけるをかれはなにの花そと人にとひ侍けれと申さゝりけれは

小弁

うちわたすをちかた人にことゝへとこたへぬからにしるき花かな

うちわたす-をちかたひとに-こととへと-こたへぬからに-しるきはなかな


01491

[詞書]さみたれのそらはれて月あかく侍けるに

赤染衛門

五月雨のそらたにすめる月かけになみたの雨ははるゝまもなし

さみたれの-そらたにすめる-つきかけに-なみたのあめは-はるるまもなし


01492

[詞書]述懐百首の哥の中に五月雨

皇太后宮大夫俊成

さみたれはまやのゝきはのあまそゝきあまりなるまてぬるゝ袖かな

さみたれは-まやののきはの-あまそそき-あまりなるまて-ぬるるそてかな


01493

[詞書]題しらす

華山院御哥

ひとりぬるやとのとこなつあさななみたのつゆにぬれぬ日そなき

ひとりぬる-やとのとこなつ-あさなあさな-なみたのつゆに-ぬれぬひそなき


01494

[詞書]贈皇后宮にそひて春宮にさふらひける時少将義孝ひさしくまいらさりけるになてしこの花につけてつかはしける

恵子女王

よそへつゝ見れとつゆたになくさますいかにかすへきなてしこの花

よそへつつ-みれとつゆたに-なくさます-いかにかすへき-なてしこのはな


01495

[詞書]月あかく侍ける夜人のほたるをつゝみてつかはしたりけれはあめのふりけるに申つかはしける

和泉式部

おもひあらはこよひのそらはとひてまし見えしや月のひかりなりけん

おもひあらは-こよひのそらは-とひてまし-みえしやつきの-ひかりなりけむ


01496

[詞書]題しらす

七条院大納言

おもひあれはつゆはたもとにまかふとも秋のはしめをたれにとはまし

おもひあれは-つゆはたもとに-まかふかと-あきのはしめを-たれにとはまし


01497

[詞書]きさいの宮より内にあふきたてまつりたまひけるに

中務

袖のうらのなみふきかへす秋風に雲のうへまてすゝしからなん

そてのうらの-なみふきかへす-あきかせに-くものうへまて-すすしからなむ


01498

[詞書]業平朝臣の装束つかはして侍けるに

紀有常朝臣

秋やくるつゆやまかふとおもふまてあるはなみたのふるにそ有ける

あきやくる-つゆやまかふと-おもふまて-あるはなみたの-ふるにそありける


01499

[詞書]はやくよりわれはともたちに侍ける人のとしころへてゆきあひたるほのかにて七月十日のころ月にきおひてかへり侍けれは

紫式部

めくりあひて見しやそれともわかぬまに雲かくれにしよはの月かけ

めくりあひて-みしやそれとも-わかぬまに-くもかくれにし-よはのつきかけ


01500

[詞書]みこの宮と申ける時少納言藤原統理としころなれつかうまつりけるを世をそむきぬへきさまに思たちけるけしきを御覧して

三条院御哥

月かけの山の葉わけてかくれなはそむくうきよをわれやなかめん

つきかけの-やまのはわけて-かくれなは-そむくうきよを-われやなかめむ


01501

[詞書]題しらす

藤原為時

山のはをいてかてにする月まつとねぬよのいたくふけにける哉

やまのはを-いてかてにする-つきまつと-ねぬよのいたく-ふけにけるかな


01502

[詞書]参議正光おほろ月よにしのひて人のもとにまかれりけるを見あらはしてつかはしける

伊勢大輔

うき雲はたちかくせともひまもりてそらゆく月のみえもするかな

うきくもは-たちかくせとも-ひまもりて-そらゆくつきの-みえもするかな


01503

[詞書]返し

参議正光

うきくもにかくれてとこそおもひしかねたくも月のひまもりにける

うきくもに-かくれてとこそ-おもひしか-ねたくもつきの-ひまもりにける


01504

[詞書]三井寺にまかりてひころすきてかへらんとしけるに人なこりおしみてよみ侍ける

刑部卿範兼

月をなとまたれのみすとおもひけんけに山の葉はいてうかりけり

つきをなと-またれのみすと-おもひけむ-けにやまのはは-いてうかりけり


01505

[詞書]山さとにこもりゐて侍けるを人のとひて侍けれは

法印静賢

おもひいつる人もあらしの山の葉にひとりそいりし在曙の月

おもひいつる-ひともあらしの-やまのはに-ひとりそいりし-ありあけのつき


01506

[詞書]八月十五夜和哥所にてをのことも哥つかうまつり侍しに

民部卿範光

わかのうらにいゑの風こそなけれともなみふくいろは月にみえけり

わかのうらに-いへのかせこそ-なけれとも-なみふくいろは-つきにみえけり


01507

[詞書]和哥所哥合に湖上月明といふことを

宜秋門院丹後

よもすから浦こく舟はあともなし月そのこれるしかのからさき

よもすから-うらこくふねは-あともなし-つきそのこれる-しかのからさき


01508

[詞書]題しらす

藤原盛方朝臣

山のはにおもひもいらしよのなかはとてもかくてもありあけの月

やまのはに-おもひもいらし-よのなかは-とてもかくても-ありあけのつき


01509

[詞書]永治元年譲位ちかくなりてよもすから月を見てよみ侍ける

皇太后宮大夫俊成

わすれしよわするなとたにいひてまし雲井の月の心ありせは

わすれしよ-わするなとたに-いひてまし-くもゐのつきの-こころありせは


01510

[詞書]崇徳院に百首哥たてまつりけるに

いかにして袖にひかりのやとるらん雲井の月はへたてゝし身を

いかにして-そてにひかりの-やとるらむ-くもゐのつきは-へたてこしみを


01511

[詞書]文治のころをひ百首哥よみ侍けるに懐旧哥とてよめる

左近中将公衡

心にはわするゝ時もなかりけりみよのむかしの雲のうへの月

こころには-わするるときも-なかりけり-みよのむかしの-くものうへのつき


01512

[詞書]百首哥たてまつりし秋哥

二条院讃岐

むかし見しくも井をめくる秋の月いまいくとせか袖にやとさん

むかしみし-くもゐをめくる-あきのつき-いまいくとせか-そてにやとさむ


01513

[詞書]月前述懐といへる心をよめる

藤原経通朝臣

うき身よになからへはなをおもひいてよたもとにちきるありあけの月

うきみよに-なからへはなほ-おもひいてよ-たもとにちきる-ありあけのつき


01514

[詞書]石山にまうて侍りて月を見てよみ侍ける

藤原長能

宮こにも人やまつらんいし山のみねにのこれる秋のよの月

みやこにも-ひとやまつらむ-いしやまの-みねにのこれる-あきのよのつき


01515

[詞書]題しらす

躬恒

あはちにてあはとはるかに見し月のちかきこよひは所からかも

あはちにて-あはとはるかに-みしつきの-ちかきこよひは-こころからかも


01516

[詞書]月のあかゝりける夜あひかたらひける人のこのころの月は見るやといへりけれは

源道済

いたつらにねてはあかせともろともに君かこぬよの月は見さりき

いたつらに-ねてはあかせと-もろともに-きみかこぬよの-つきはみさりき


01517

[詞書]夜ふくるまてねられす侍けれは月のいつるをなかめて

増基法師

あまのはらはるかにひとりなかむれはたもとに月のいてにけるかな

あまのはら-はるかにひとり-なかむれは-たもとにつきの-いてにけるかな


01518

[詞書]能宣朝臣やまとのくにまつちの山ちかくすみける女のもとに夜ふけてまかりてあはさりけるをうらみ侍けれは

よみ人しらす

たのめこし人をまつちの山かせにさよふけしかは月も入にき

たのめこし-ひとをまつちの-やまかせに-さよふけしかは-つきもいりにき


01519

[詞書]百首哥たてまつりし時

摂政太政大臣

月見はといひしはかりの人はこてまきのとたゝく庭の松風

つきみはと-いひしはかりの-ひとはこて-まきのとたたく-にはのまつかせ


01520

[詞書]五十首哥たてまつりしに山家月のこゝろを

前大僧正慈円

山さとに月はみるやと人はこすそらゆく風そこの葉をもとふ

やまさとに-つきはみるやと-ひとはこす-そらゆくかせそ-このはをもとふ


01521

[詞書]摂政太政大臣大将に侍し時月哥五十首よませ侍けるに

在あけの月のゆくゑをなかめてそ野寺のかねはきくへかりける

ありあけの-つきのゆくへを-なかめてそ-のてらのかねは-きくへかりける


01522

[詞書]おなし家哥合に山月の心をよめる

藤原業清

山の葉をいてゝも松のこのまより心つくしのありあけの月

やまのはを-いててもまつの-このまより-こころつくしの-ありあけのつき


01523

[詞書]和哥所哥合に深山暁月といふ事を

鴨長明

よもすからひとりみ山のまきの葉にくもるもすめるありあけの月

よもすから-ひとりみやまの-まきのはに-くもるもすめる-ありあけのつき


01524

[詞書]熊野にまうて侍し時たてまつりし哥の中に

藤原秀能

おく山のこの葉のおつる秋風にたえみねの雲そのこれる

おくやまの-このはのおつる-あきかせに-たえたえみねの-くもそのこれる


01525

月すめはよものうき雲そらにきえてみ山かくれにゆくあらしかな

つきすめは-よものうきくも-そらにきえて-みやまかくれに-ゆくあらしかな


01526

[詞書]山家のこゝろをよみ侍ける

猷円法師

なかめわひぬしはのあみとのあけかたに山のはちかくのこる月かけ

なかめわひぬ-しはのあみとの-あけかたに-やまのはちかく-のこるつきかけ


01527

[詞書]題しらす

華山院御哥

あかつきの月みんとしもおもはねと見し人ゆへになかめられつゝ

あかつきの-つきみむとしも-おもはねと-みしひとゆゑに-なかめられつつ


01528

伊勢大輔

ありあけの月はかりこそかよひけれくる人なしのやとの庭にも

ありあけの-つきはかりこそ-かよひけれ-くるひとなしの-やとのにはにも


01529

和泉式部

すみなれし人かけもせぬわかやとに在曙の月のいくよともなく

すみなれし-ひとかけもせぬ-わかやとに-ありあけのつきの-いくよともなく


01530

[詞書]家にて月照水といへる心を人々よみ侍けるに

大納言経信

すむ人もあるかなきかのやとならしあしまの月のもるにまかせて

すむひとも-あるかなきかの-やとならし-あしまのつきの-もるにまかせて


01531

[詞書]秋のくれにやまひにしつみてよをのかれにける又のとしの秋九月十余日月くまなく侍けるによみ侍ける

皇太后宮大夫俊成

おもひきやわかれし秋にめくりあひて又もこのよの月をみんとは

おもひきや-わかれしあきに-めくりあひて-またもこのよの-つきをみむとは


01532

[詞書]題しらす

西行法師

月を見て心うかれしいにしへの秋にもさらにめくりあひぬる

つきをみて-こころうかれし-いにしへの-あきにもさらに-めくりあひぬる


01533

よもすから月こそそてにやとりけれむかしの秋をおもひいつれは

よもすから-つきこそそてに-やとりけれ-むかしのあきを-おもひいつれは


01534

月のいろに心をきよくそめましや宮こをいてぬわか身なりせは

つきのいろに-こころをきよく-そめましや-みやこをいてぬ-わかみなりせは


01535

すつとならはうきよをいとふしるしあらんわれみはくもれ秋のよの月

すつとならは-うきよをいとふ-しるしあらむ-われみはくもる-あきのよのつき


01536

ふけにけるわか身のかけをおもふまにはるかに月のかたふきにける

ふけにける-わかみのかけを-おもふまに-はるかにつきの-かたふきにける


01537

入道親王覚性

なかめしてすきにしかたをおもふまに峯よりみねに月はうつりぬ

なかめして-すきにしかたを-おもふまに-みねよりみねに-つきはうつりぬ


01538

藤原道経

あきのよの月に心をなくさめてうきよにとしのつもりぬるかな

あきのよの-つきにこころを-なくさめて-うきよにとしの-つもりぬるかな


01539

[詞書]五十首哥めしゝに

前大僧正慈円

秋をへて月をなかむる身となれりいそちのやみをなになけくらん

あきをへて-つきをなかめむ-みとなれり-いそちのやみを-なになけくらむ


01540

[詞書]百首哥たてまつりしに

藤原隆信朝臣

なかめてもむそちの秋はすきにけりおもへはかなし山の葉の月

なかめても-むそちのあきは-すきにけり-おもへはかなし-やまのはのつき


01541

[詞書]題しらす

源光行

心ある人のみあきの月をみはなにをうき身のおもひいてにせん

こころある-ひとのみあきの-つきをみは-なにをうきみの-おもひいてにせむ


01542

[詞書]千五百番哥合に

二条院讃岐

身のうさを月やあらぬとなかむれはむかしなからのかけそもりくる

みのうさを-つきやあらぬと-なかむれは-むかしなからの-かけそもりくる


01543

[詞書]世をそむきなんとおもひたちけるころ月を見てよめる

寂超法師

ありあけの月よりほかはたれをかは山ちのともと契をくへき

ありあけの-つきよりほかに-たれをかは-やまちのともと-ちきりおくへき


01544

[詞書]山さとにて月のよみやこをおもふといへる心をよみ侍ける

大江嘉言

宮こなるあれたるやとにむなしくや月にたつぬる人かへるらん

みやこなる-あれたるやとに-むなしくや-つきにたつぬる-ひとかへるらむ


01545

[詞書]なか月のありあけのころ山さとより式子内親王にをくれりける

惟明親王

おもひやれなにをしのふとなけれともみやこおほゆるありあけの月

おもひやれ-なにをしのふと-なけれとも-みやこおほゆる-ありあけのつき


01546

[詞書]返し

式子内親王

ありあけのおなしなかめはきみもとへみやこのほかも秋の山さと

ありあけの-おなしなかめは-きみもとへ-みやこのほかも-あきのやまさと


01547

[詞書]春日社哥合に暁月の心を

摂政太政大臣

あまのとをゝしあけかたの雲間より神よの月のかけそのこれる

あまのとを-おしあけかたの-くもまより-かみよのつきの-かけそのこれる


01548

右大将忠経

雲をのみつらきものとてあかすよの月よこすゑにをちかたの山

くもをのみ-つらきものとて-あかすよの-つきよこすゑに-をちかたのやま


01549

藤原保季朝臣

いりやらて夜をおしむ月のやすらひにほのあくる山のはそうき

いりやらて-よををしむつきの-やすらひに-ほのほのあくる-やまのはそうき


01550

[詞書]月あかきよ定家朝臣にあひて侍けるにうたの道に心さしふかきことはいつはかりの事にかとたつね侍けれはわかく侍し時西行にひさしくあひともなひてきゝならひ侍しよし申てそのかみ申し事なとかたり侍てかへりてあしたにつかはしける

法橋行遍

あやしくそかへさは月のくもりにしむかしかたりによやふけにけん

あやしくそ-かへさはつきの-くもりにし-むかしかたりに-よやふけにけむ


01551

[詞書]故郷月を

寂超法師

ふるさとのやともる月にことゝはんわれをはしるやむかしすみきと

ふるさとの-やともるつきに-こととはむ-われをはしるや-むかしすみきと


01552

[詞書]遍照寺月を見て

平忠盛朝臣

すたきけんむかしの人はかけたえてやともるものはありあけの月

すたきけむ-むかしのひとは-かけたえて-やともるものは-ありあけのつき


01553

[詞書]あひしりて侍ける人のもとにまかりたりけるにその人ほかにすみていたうあれたるやとに月のさしいりて侍けれは

前中納言匡房

やへむくらしけれるやとは人もなしまはらに月のかけそすみける

やへむくら-しけれるやとは-ひともなし-まはらにつきの-かけそすみける


01554

[詞書]題しらす

神祇伯顕仲

かもめゐるふちえのうらのおきつすによふねいさよふ月のさやけさ

かもめゐる-ふちえのうらの-おきつすに-よふねいさよふ-つきのさやけさ


01555

俊恵法師

なにはかたしほひにあさるあしたつも月かたふけは声のうらむる

なにはかた-しほひにあさる-あしたつも-つきかたふけは-こゑのうらむる


01556

[詞書]和哥所哥合に海辺月といふことを

前大僧正慈円

わかのうらに月のいてしほのさすまゝによるなくつるの声そかなしき

わかのうらに-つきのてしほの-さすままに-よるなくつるの-こゑそかなしき


01557

定家朝臣

もしほくむ袖の月かけをのつからよそにあかさぬすまのうら人

もしほくむ-そてのつきかけ-おのつから-よそにあかさぬ-すまのうらひと


01558

藤原秀能

あかしかた色なき人の袖を見よすゝろに月もやとる物かは

あかしかた-いろなきひとの-そてをみよ-すすろにつきも-やとるものかは


01559

[詞書]熊野にまうて侍しついてに切目宿にて海辺眺望といへるこゝろををのこともつかうまつりしに

具親

なかめよとおもはてしもやかへるらん月まつなみのあまのつり舟

なかめよと-おもはてしもや-かへるらむ-つきまつなみの-あまのつりふね


01560

[詞書]八十におほくあまりてのち百首哥めしゝによみてたてまつりし

皇太后宮大夫俊成

しめをきていまやとおもふ秋山のよもきかもとにまつむしのなく

しめおきて-いまやとおもふ-あきやまの-よもきかもとに-まつむしのなく


01561

[詞書]千五百番哥合に

あれわたる秋の庭こそあはれなれましてきえなん露のゆふくれ

あれわたる-あきのにはこそ-あはれなれ-ましてきえなむ-つゆのゆふくれ


01562

[詞書]題しらす

西行法師

雲かゝるとを山はたの秋されはおもひやるたにかなしき物を

くもかかる-とほやまはたの-あきされは-おもひやるたに-かなしきものを


01563

[詞書]五十首哥人々によませ侍けるに述懐の心をよみ侍ける

守覚法親王

風そよくしのゝをさゝのかりのよをおもふねさめにつゆそこほるゝ

かせそよく-しののをささの-かりのよを-おもふねさめに-つゆそこほるる


01564

[詞書]寄風懐旧といふことを

左衛門督通光

あさちふや袖にくちにし秋の霜わすれぬ夢をふく嵐かな

あさちふや-そてにくちにし-あきのしも-わすれぬゆめを-ふくあらしかな


01565

皇太后宮大夫俊成女

くすの葉にうらみにかへる夢のよをわすれかたみの野への秋風

くすのはの-うらみにかへる-ゆめのよを-わすれかたみの-のへのあきかせ


01566

[詞書]題しらす

祝部允仲

しら露はをきにけらしな宮木のゝもとあらのこはきすゑたわむまて

しらつゆは-おきにけらしな-みやきのの-もとあらのはきの-すゑたわむまて


01567

[詞書]法成寺入道前太政大臣女郎花をおりてうたをよむへきよし侍けれは

紫式部

をみなへしさかりの色をみるからにつゆのわきける身こそしらるれ

をみなへし-さかりのいろを-みるからに-つゆのわきける-みこそしらるれ


01568

[詞書]返し

法成寺入道前摂政太政大臣

白露はわきてもをかしをみなへし心からにや色のそむらん

しらつゆは-わきてもおかし-をみなへし-こころからにや-いろのそむらむ


01569

[詞書]題しらす

曽祢好忠

山さとにくすはひかゝる松かきのひまなく物は秋そかなしき

やまさとに-くすはひかかる-まつかきの-ひまなくものは-あきそかなしき


01570

[詞書]秋のくれに身のおいぬることをなけきてよみ侍ける

安法々師

もゝとせの秋のあらしはすくしきぬいつれのくれの露ときえなん

ももとせの-あきのあらしは-すくしきぬ-いつれのくれの-つゆときえなむ


01571

[詞書]頼綱朝臣つのくにのはつかといふ所に侍りける時つかはしける

前中納言匡房

秋はつるはつかの山のさひしきに在あけの月をたれとみるらん

あきはつる-はつかのやまの-さひしきに-ありあけのつきを-たれとみるらむ


01572

[詞書]九月許にすゝきを崇徳院にたてまつるとてよめる

大蔵卿行宗

花すゝき秋のすゑ葉になりぬれはことそともなくつゆそこほるゝ

はなすすき-あきのすゑはに-なりぬれは-ことそともなく-つゆそこほるる


01573

[詞書]山さとにすみ侍けるころあらしはけしきあした前中納言顕長かもとにつかはしける

後徳大寺左大臣

夜はにふくあらしにつけておもふかな宮こもかくや秋はさひしき

よはにふく-あらしにつけて-おもふかな-みやこもかくや-あきはさひしき


01574

[詞書]返し

前中納言顕長

世中にあきはてぬれは宮こにもいまはあらしのをとのみそする

よのなかに-あきはてぬれは-みやこにも-いまはあらしの-おとのみそする


01575

[詞書]清涼殿の庭にうへたまへりける菊をくらゐさりたまひてのちおほしいてゝ

冷泉院御哥

うつろふは心のほかのあきなれはいまはよそにそきくのうへのつゆ

うつろふは-こころのほかの-あきなれは-いまはよそにそ-きくのうへのつゆ


01576

[詞書]なか月のころ野の宮に前栽うへけるに

源順

たのもしなのゝ宮人のうふる花しくるゝ月にあへすなるとも

たのもしな-ののみやひとの-ううるはな-しくるるつきに-あへすなるとも


01577

[詞書]題しらす

よみ人しらす

山かはのいはゆく水もこほりしてひとりくたくる峯のまつ風

やまかはの-いはゆくみつも-こほりして-ひとりくたくる-みねのまつかせ


01578

[詞書]百首哥たてまつりし時

土御門内大臣

あさことにみきはのこほりふみわけて君につかふるみちそかしこき

あさことに-みきはのこほり-ふみわけて-きみにつかふる-みちそかしこき


01579

[詞書]最勝四天王院障子にあふくま河かきたる所

家隆朝臣

君かよにあふくまかはのむもれ木もこほりのしたに春をまちけり

きみかよに-あふくまかはの-うもれきも-こほりのしたに-はるをまちけり


01580

[詞書]元輔かむかしすみ侍ける家のかたはらに清少納言かすみけるころ雪のいみしくふりてへたてのかきもたふれて侍けれは申つかはしける

赤染衛門

あともなく雪ふるさとはあれにけりいつれむかしのかきねなるらん

あともなく-ゆきふるさとは-あれにけり-いつれむかしの-かきねなるらむ


01581

[詞書]御なやみをもくならせ給てゆきのあしたに

後白河院御哥

つゆのいのちきえなましかはかくはかりふる白雪をなかめましやは

つゆのいのち-きえなましかは-かくはかり-ふるしらゆきを-なかめましやは


01582

[詞書]ゆきによせて述懐の心をよめる

皇太后宮大夫俊成

そま山やこすゑにをもるゆきをれにたえぬなけきの身をくたくらん

そまやまの-こすゑにおもる-ゆきをれに-たえぬなけきの-みをくたくらむ


01583

[詞書]仏名のあしたにけつり花を御覧して

朱雀院御哥

時すきてしもにきえにし花なれとけふはむかしの心ちこそすれ

ときすきて-しもにきえにし-はななれと-けふはむかしの-ここちこそすれ


01584

[詞書]花山院おりゐたまひて又のとし仏名にけつり花につけて申侍ける

前大納言公任

ほともなくさめぬる夢の中なれとそのよにゝたる花の色かな

ほともなく-さめぬるゆめの-うちなれと-そのよににたる-はなのいろかな


01585

[詞書]返し

御形宣旨

見し夢をいつれのよそとおもふまにおりをわすれぬ花のかなしさ

みしゆめを-いつれのよそと-おもふまに-をりをわすれぬ-はなのかなしさ


01586

[詞書]題しらす

皇太后宮大夫俊成

おいぬとも又もあはんとゆくとしになみたのたまをたむけつるかな

おいぬとも-またもあはむと-ゆくとしに-なみたのたまを-たむけつるかな


01587

慈覚大師

おほかたにすくる月日となかめしはわか身にとしのつもるなりけり

おほかたに-すくるつきひを-なかめしは-わかみにとしの-つもるなりけり