新古今和歌集/巻第十八

巻十八:雑下


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[詞書]山

菅贈太政大臣

あしひきのこなたかなたにみちはあれと宮こへいさといふ人そなき

あしひきの-こなたかなたに-みちはあれと-みやこへいさと-いふひとそなき


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[詞書]日

あまのはらあかねさしいつるひかりにはいつれのぬまかさえのこるへき

あまのはら-あかねさしいつる-ひかりには-いつれのぬまか-さえのこるへき


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[詞書]月

つきことになかるとおもひしますかゝみにしのうみにもとまらさりけり

つきことに-なかるとおもひし-ますかかみ-にしのそらにも-とまらさりけり


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[詞書]雲

山わかれとひゆく雲のかへりくるかけみる時は猶たのまれぬ

やまわかれ-とひゆくくもの-かへりくる-かけみるときは-なほたのまれぬ


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[詞書]霧

きりたちてゝる日の本はみえすとも身はまとはれしよるへありやと

きりたちて-てるひのもとは-みえすとも-みはまとはれし-よるへありやと


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[詞書]雪

花とちり玉と見えつゝあさむけは雪ふるさとそ夢に見えける

はなとちり-たまとみえつつ-あさむけは-ゆきふるさとそ-ゆめにみえける


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[詞書]松

おいぬとて松はみとりそまさりけるわかくろかみの雪のさむさに

おいぬとて-まつはみとりそ-まさりける-わかくろかみの-ゆきのさむさに


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[詞書]野

つくしにも紫おふる野辺はあれとなき名かなしふ人そきこえぬ

つくしにも-むらさきおふる-のへはあれと-なきなかなしむ-ひとそきこえぬ


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[詞書]道

かるかやの関もりにのみ見えつるは人もゆるさぬ道へなりけり

かるかやの-せきもりにのみ-みえつるは-ひともゆるさぬ-みちへなりけり


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[詞書]海

うみならすたゝへる水の底まてにきよき心は月そてらさん

うみならす-たたへるみつの-そこまてに-きよきこころは-つきそてらさむ


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[詞書]かさゝき

ひこほしのゆきあひをまつかさゝきのとわたるはしを我にかさなん

ひこほしの-ゆきあひをまつ-かささきの-わたせるはしを-われにかさなむ


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[詞書]波

なかれ木とたつ白浪とやくしほといつれかゝらきわたつみのそこ

なかれきと-たつしらなみと-やくしほと-いつれかからき-わたつみのそこ


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[詞書]題しらす

よみ人しらす

さゝなみのひら山風のうみふけはつりするあまの袖かへるみゆ

ささなみの-ひらやまかせの-うみふけは-つりするあまの-そてかへるみゆ


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白浪のよするなきさによをつくすあまのこなれはやともさためす

しらなみの-よするなきさに-よをつくす-あまのこなれは-やともさためす


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[詞書]千五百番哥合に

摂政太政大臣

舟のうち浪のうへにそ老にけるあまのしわさもいとまなのよや

ふねのうち-なみのしたにそ-おいにける-あまのしわさも-いとまなのよや


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[詞書]題しらす

前中納言匡房

さすらふる身はさためたるかたもなしうきたる舟のなみにまかせて

さすらふる-みはさためたる-かたもなし-うきたるふねの-なみにまかせて


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増賀上人

いかにせん身をうきふねのにをゝもみつゐのとまりやいつこなるらん

いかにせむ-みをうきふねの-にをおもみ-つひのとまりや-いつくなるらむ


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人麿

あしかものさはくいり江の水のえのよにすみかたきわか身なりけり

あしかもの-さわくいりえの-みつのえの-よにすみかたき-わかみなりけり


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能宣朝臣

あしかものは風になひくうき草のさためなきよをたれかたのまん

あしかもの-はかせになひく-うきくさの-さためなきよを-たれかたのまむ


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[詞書]なきさのまつといふことをよみ侍ける

おいにけるなきさの松のふかみとりしつめるかけをよそにやはみる

おいにける-なきさのまつの-ふかみとり-しつめるかけを-よそにやはみる


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[詞書]山水をむすひてよみ侍ける

能因法師

葦引の山した水にかけみれはまゆしろたへにわれ老にけり

あしひきの-やましたみつに-かけみれは-まゆしろたへに-われおいにけり


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[詞書]あまになりぬときゝける人にさうそくつかはすとて

法成寺入道前摂政太政大臣

なれ見てし花のたもとをうちかへしのりの衣をたちそかへつる

なれみてし-はなのたもとを-うちかへし-のりのころもを-たちそかへつる


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[詞書]きさきにたちたまひける時冷泉院のきさいの宮の御ひたひをたてまつりたまへりけるを出家の時返したてまつりたまふとて

東三条院

そのかみの玉のかつらをうちかへしいまは衣のうらをたのまん

そのかみの-たまのかさしを-うちかへし-いまはころもの-うらをたのまむ


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[詞書]返し

冷泉院太皇太后宮

つきもせぬひかりのまにもまきれなておいてかへれるかみのつれなさ

つきもせぬ-ひかりのまにも-まきれなて-おいてかへれる-かみのつれなさ


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[詞書]上東門院出家のゝちこかねの装束したる沈のすゝしろかねのはこにいれてむめのえたにつけてたてまつられける

枇杷皇太后宮

かはるらん衣のいろをおもひやるなみたやうらの玉にまかはん

かはるらむ-ころものいろを-おもひやる-なみたやうらの-たまにまかはむ


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[詞書]返し

上東門院

まかふらんころものたまにみたれつゝなをまたさめぬ心ちこそすれ

まかふらむ-ころものたまに-みたれつつ-なほまたさめぬ-ここちこそすれ


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[詞書]題しらす

和泉式部

しほのまによものうらたつぬれといまはわか身のいふかひもなし

しほのまに-よものうらうら-たつぬれと-いまはわかみの-いふかひもなし


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[詞書]屏風のゑにしほかまのうらかきて侍けるを

一条院皇后宮

いにしへのあまやけふりとなりぬらん人めも見えぬしほかまのうら

いにしへの-あまやけふりと-なりぬらむ-ひとめもみえぬ-しほかまのうら


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[詞書]少将高光横河にのほりてかしらおろし侍にけるをきかせ給てつかはしける

天暦御哥

宮こより雲のやへたつおく山のよかはの水はすみよかるらん

みやこより-くものやへたつ-おくやまの-よかはのみつは-すみよかるらむ


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[詞書]御返し

如覚

もゝしきのうちのみつねにこひしくて雲のやへたつ山はすみうし

ももしきの-うちのみつねに-こひしくて-くものやへたつ-やまはすみうし


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[詞書]世をそむきてをのといふところにすみ侍けるころ業平朝臣のゆきのいとたかうふりつみたるをかきわけてまうてきてゆめかとそ思おもひきやとよみ侍けるに

惟喬親王

夢かともなにかおもはんうきよをはそむかさりけんほとそくやしき

ゆめかとも-なにかおもはむ-うきよをは-そむかさりけむ-ほとそくやしき


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[詞書]みやこのほかにすみ侍けるころひさしうをとつれさりける人につかはしける

女御徽子女王

雲井とふ雁のねちかきすまゐにもなをたまつさはかけすやありけん

くもゐとふ-かりのねちかき-すまひにも-なほたまつさは-かけすやありけむ


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[詞書]亭子院おりゐたまはんとしける秋よみける

伊勢

白露はをきてかはれともゝしきのうつろふ秋は物そかなしき

しらつゆは-おきてかはれと-ももしきの-うつろふあきは-ものそかなしき


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[詞書]殿上はなれ侍りてよみ侍ける

藤原清正

あまつ風ふけゐのうらにゐるたつのなとか雲井にかへらさるへき

あまつかせ-ふけひのうらに-ゐるたつの-なとかくもゐに-かへらさるへき


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[詞書]二条院菩提樹院におはしましてのちの春むかしをおもひいてゝ大納言経信まいりて侍ける又の日女房の申つかはしける

読人しらす

いにしへのなれし雲井をしのふとやかすみをわけて君たつねけん

いにしへの-なれしくもゐを-しのふとや-かすみをわけて-きみたつねけむ


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[詞書]最勝四天王院の障子におほよとかきたる所

定家朝臣

おほよとのうらにかりほすみるめたにかすみにたへてかへるかりかね

おほよとの-うらにかりほす-みるめたに-かすみにたえて-かへるかりかね


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[詞書]最慶法師千載集かきてたてまつりけるつゝみかみにすみをすりふてをそめつゝとしふれとかきあらはせることのはそなきとかきつけて侍ける御御(御$)返し

後白河院御哥

はまちとりふみをくあとのつもりなはかひあるうらにあはさらめやは

はまちとり-ふみおくあとの-つもりなは-かひあるうらに-あはさらめやは


<span id="01727">01727

[詞書]上東門院高陽院におはしましけるに行幸侍りてせきいれたる瀧を御覧して

後朱雀院御哥

瀧つせに人の心を見ることはむかしにいまもかはらさりけり

たきつせに-ひとのこころを-みることは-むかしにいまも-かはらさりけり


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[詞書]権中納言通俊後拾遺撰ひ侍けるころまつかたはしもゆかしくなと申て侍けれは申あはせてこそとてまたきよかきもせぬ本をつかはして侍けるを見て返しつかはすとて

周防内侍

あさからぬ心そみゆるをとはかはせきいれし水のなかれならねと

あさからぬ-こころそみゆる-おとはかは-せきいれしみつの-なかれならねと


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[詞書]哥たてまつれとおほせられけれは忠峯かなとかきあつめてたてまつりけるおくにかきつけゝる

壬生忠見

ことの葉の中をなくたつぬれはむかしの人にあひみつる哉

ことのはの-なかをなくなく-たつぬれは-むかしのひとに-あひみつるかな


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[詞書]遊女の心をよみ侍ける

藤原為忠朝臣

ひとりねのこよひもあけぬたれとしもたのまはこそはこぬもうらみめ

ひとりねの-こよひもあけぬ-たれとしも-たのまはこそは-こぬもうらみめ


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[詞書]大江挙周はしめて殿上ゆるされてくさふかきにはにおりて拝しけるを見侍て

赤染衛門

くさわけてたちゐるそてのうれしさにたへすなみたのつゆそこほるゝ

くさわけて-たちゐるそての-うれしさに-たえすなみたの-つゆそこほるる


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[詞書]秋ころわつらひけるをこたりてたひとふらひにける人につかはしける

伊勢大輔

うれしさはわすれやはするしのふくさしのふる物を秋の夕くれ

うれしさは-わすれやはする-しのふくさ-しのふるものを-あきのゆふくれ


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[詞書]返し

大納言経信

秋風のをとせさりせは白露のゝきのしのふにかゝらましやは

あきかせの-おとせさりせは-しらつゆの-のきのしのふに-かからましやは


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[詞書]あるところにかよひ侍けるを朝光大将見かはしてよひとよものかたりしてかへりて又の日

右大将済時

しのふくさいかなるつゆかをきつらんけさはねもみなあらはれにけり

しのふくさ-いかなるつゆか-おきつらむ-けさはねもみな-あらはれにけり


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[詞書]返し

左大将朝光

あさちふをたつねさりせはしのふくさおもひをきけんつゆを見ましや

あさちふを-たつねさりせは-しのふくさ-おもひおきけむ-つゆをみましや


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[詞書]わつらひける人のかく申侍ける

読人しらす

なからへんとしもおもはぬつゆの身のさすかにきえんことをこそおもへ

なからへむ-としもおもはぬ-つゆのみの-さすかにきえむ-ことをこそおもへ


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[詞書]返し

小馬命婦

つゆの身のきえはわれこそさきたゝめをくれん物かもりの下草

つゆのみの-きえはわれこそ-さきたため-おくれむものか-もりのしたくさ


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[詞書]題しらす

和泉式部

いのちさへあらは見つへき身のはてをしのはん人のなきそかなしき

いのちさへ-あらはみつへき-みのはてを-しのはむひとの-なきそかなしき


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[詞書]れいならぬこと侍りけるにしれりけるひしりのとふらひにまうてきて侍けれは

大僧正行尊

さためなきむかしかたりをかそふれはわか身もかすにいりぬへき哉

さためなき-むかしかたりを-かそふれは-わかみもかすに-いりぬへきかな


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[詞書]五十首哥たてまつりし時

前大僧正慈円

世中のはれゆくそらにふる霜のうき身はかりそをき所なき

よのなかの-はれゆくそらに-ふるしもの-うきみはかりそ-おきところなき


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[詞書]れいならぬこと侍けるに無動寺にてよみ侍ける

たのみこしわかふるてらのこけのしたにいつしかくちん名こそおしけれ

たのみこし-わかふるてらの-こけのしたに-いつかくちなむ-なこそをしけれ


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[詞書]題しらす

大僧正行尊

くりかへしわか身のとかをもとむれは君もなきよにめくるなりけり

くりかへし-わかみのとかを-もとむれは-きみもなきよに-めくるなりけり


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清原元輔

うしといひてよをひたふるにそむかねは物おもひしらぬ身とやなりなん

うしといひて-よをひたふるに-そむかねは-ものおもひしらぬ-みとやなりなむ


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よみ人しらす

そむけともあめのしたをしはなれねはいつくにもふる涙なりけり

そむけとも-あめのしたをし-はなれねは-いつくにもふる-なみたなりけり


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[詞書]延喜御時女蔵人内匠白馬節会見けるにくるまよりくれなゐのきぬをいたしたりけるを検非違使のたゝさんとしけれはいひつかはしける

女蔵人内匠

おほそらにてる日のいろをいさめてもあめのしたにはたれかすむへき

おほそらに-てるひのいろを-いさめても-あめのしたには-たれかすむへき


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[詞書]かくいひければたゝさすなりにけりれいならてうつまさにこもりて侍けるに心ほそくおほえけれは

周防内侍

かくしつゝゆふへの雲となりもせは哀かけてもたれかしのはん

かくしつつ-ゆふへのくもと-なりもせは-あはれかけても-たれかしのはむ


<span id="01747">01747

[詞書]題しらす

前大僧正慈円

おもはねとよをそむかんといふ人のおなしかすにやわれもなるらん

おもはねと-よをそむかむと-いふひとの-おなしかすにや-われもなりなむ


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西行法師

かすならぬ身をも心のもちかほにうかれては又かへりきにけり

かすならぬ-みをもこころの-もちかほに-うかれてはまた-かへりきにけり


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をろかなる心のひくにまかせてもさてさはいかにつゐのおもひは

おろかなる-こころのひくに-まかせても-さてさはいかに-つひのおもひは


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とし月をいかてわか身にをくりけん昨日の人もけふはなきよに

としつきを-いかてわかみに-おくりけむ-きのふのひとも-けふはなきよに


<span id="01751">01751

うけかたき人のすかたにうかひいてゝこりすやたれも又しつむへき

うけかたき-ひとのすかたに-うかひいてて-こりすやたれも-またしつむへき


<span id="01752">01752

[詞書]守覚法親王五十首哥よませ侍けるに

寂蓮法師

そむきてもなをうき物はよなりけり身をはなれたる心ならねは

そむきても-なほうきものは-よなりけり-みをはなれたる-こころならねは


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[詞書]述懐の心をよめる

身のうさをおもひしらすはいかゝせんいとひなからも猶すくす哉

みのうさを-おもひしらすは-いかかせむ-いとひなからも-なほすくすかな


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前大僧正慈円

なにことをおもふ人そと人とはゝこたへぬさきに袖そぬるへき

なにことを-おもふひとそと-ひととはは-こたへぬさきに-そてそぬるへき


<span id="01755">01755

いたつらにすきにしことやなけかれんうけかたき身の夕暮のそら

いたつらに-すきにしことや-なけかれむ-うけかたきみの-ゆふくれのそら


<span id="01756">01756

うちたえてよにふる身にはあらねともあらぬすちにもつみそかなしき

うちたえて-よにふるみには-あらねとも-あらぬすちにも-つみそかなしき


<span id="01757">01757

[詞書]和哥所にて述懐のこゝろを

山さとに契しいほやあれぬらんまたれんとたにおもはさりしを

やまさとに-ちきりしいほや-あれぬらむ-またれむとたに-おもはさりしを


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右衛門督通具

袖にをく露をはつゆとしのへともなれゆく月やいろをしるらん

そてにおく-つゆをはつゆと-しのへとも-なれゆくつきや-いろをしるらむ


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定家朝臣

君かよにあはすはなにを玉のをのなかくとまてはおしまれし身を

きみかよに-あはすはなにを-たまのをの-なかくとまては-をしまれしみを


<span id="01760">01760

家隆朝臣

おほかたの秋のねさめのなかき夜も君をそいのる身をおもふとて

おほかたの-あきのねさめの-なかきよも-きみをそいのる-みをおもふとて


<span id="01761">01761

わかのうらやおきつしほあひにうかひいつるあはれわか身のよるへしらせよ

わかのうらや-おきつしほあひに-うかひいつる-あはれわかみの-よるへしらせよ


<span id="01762">01762

その山とちきらぬ月も秋風もすゝむる袖につゆこほれつゝ

そのやまと-ちきらぬつきも-あきかせも-すすむるそてに-つゆこほれつつ


<span id="01763">01763

雅経朝臣

君かよにあへるはかりの道はあれと身をはたのますゆくすゑの空

きみかよに-あへるはかりの-みちはあれと-みをはたのます-ゆくすゑのそら


<span id="01764">01764

皇太后宮大夫俊成女

おしむともなみたに月も心からなれぬる袖に秋をうらみて

をしむとも-なみたにつきも-こころから-なれぬるそてに-あきをうらみて


<span id="01765">01765

[詞書]千五百番哥合に

摂政太政大臣

うきしつみこんよはさてもいかにそと心にとひてこたへかねぬる

うきしつみ-こむよはさても-いかにそと-こころにとひて-こたへかねぬる


<span id="01766">01766

[詞書]題しらす

われなから心のはてをしらぬかなすてられぬよの又いとはしき

われなから-こころのはてを-しらぬかな-すてられぬよの-またいとはしき


<span id="01767">01767

をしかへし物をおもふはくるしきにしらすかほにてよをやすきまし

おしかへし-ものをおもふは-くるしきに-しらすかほにて-よをやすきまし


<span id="01768">01768

[詞書]五十首哥よみ侍けるに述懐の心を

守覚法親王

なからへてよにすむかひはなけれともうきにかへたる命なりけり

なからへて-よにすむかひは-なけれとも-うきにかへたる-いのちなりけり


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権中納言兼宗

世をすつる心はなをそなかりけるうきをうしとはおもひしれとも

よをすつる-こころはなほそ-なかりける-うきをうしとは-おもひしれとも


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[詞書]述懐の心をよみ侍ける

左近中将公衡

すてやらぬわか身そつらきさりともとおもふ心にみちをまかせて

すてやらぬ-わかみそつらき-さりともと-おもふこころに-みちをまかせて


<span id="01771">01771

[詞書]題しらす

よみ人しらす

うきなからあれはあるよにふるさとの夢をうつゝにさましかねても

うきなから-あれはあるよに-ふるさとの-ゆめをうつつに-さましかねても


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源師光

うきなから猶おしまるゝいのちかな後のよとてもたのみなけれは

うきなから-なほをしまるる-いのちかな-のちのよとても-たのみなけれは


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賀茂重保

さりともとたのむ心のゆくすゑもおもへはしらぬよにまかすらん

さりともと-たのむこころの-ゆくすゑも-おもへはしらぬ-よにまかすらむ


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荒木田長延

つくとおもへはやすきよの中を心となけくわか身なりけり

つくつくと-おもへはやすき-よのなかを-こころとなけく-わかみなりけり


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[詞書]入道前関白家百首哥よませ侍けるに

刑部卿頼輔

河舟のゝほりわつらふつなてなわくるしくてのみよをわたる哉

かはふねの-のほりわつらふ-つなてなは-くるしくてのみ-よをわたるかな


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[詞書]題しらす

大僧都覚弁

おいらくの月日はいとゝはやせかはかへらぬなみにぬるゝ袖かな

おいらくの-つきひはいとと-はやせかは-かへらぬなみに-ぬるるそてかな


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[詞書]よみて侍ける百首哥を源家長かもとに見せにつかはしけるおくにかきつけて侍ける

藤原行能

かきなかすことの葉をたにしつむなよ身こそかくても山河の水

かきなかす-ことのはをたに-しつむなよ-みこそかくても-やまかはのみつ


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[詞書]身のゝそみかなひ侍らてやしろのましらひもせてこもりゐて侍けるにあふひを見てよめる

鴨長明

見れはまついとゝ涙そもろかつらいかに契てかけはなれけん

みれはまつ-いととなみたそ-もろかつら-いかにちきりて-かけはなれけむ


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[詞書]題しらす

源季景

おなしくはあれないにしへおもひいてのなけれはとてもしのはすもなし

おなしくは-あれないにしへ-おもひいての-なけれはとても-しのはすもなし


<span id="01780">01780

西行法師

いつくにもすまれすはたゝすまてあらんしはのいほりのしはしなるよに

いつくにも-すまれすはたた-すまてあらむ-しはのいほりの-しはしなるよに


<span id="01781">01781

月のゆく山に心をゝくりいれてやみなるあとの身をいかにせん

つきのゆく-やまにこころを-おくりいれて-やみなるあとの-みをいかにせむ


<span id="01782">01782

[詞書]五十首哥の中に

前大僧正慈円

おもふことなとゝふ人のなかるらんあふけはそらに月そさやけき

おもふことを-なととふひとの-なかるらむ-あふけはそらに-つきそさやけき


<span id="01783">01783

いかにしていまゝてよには在曙のつきせぬ物をいとふ心は

いかにして-いままてよには-ありあけの-つきせぬものを-いとふこころは


<span id="01784">01784

[詞書]西行法師山さとよりまかりいてゝむかし出家し侍しその月日にあたりて侍ると申たりける返事に

うきよいてし月日のかけのめくりきてかはらぬ道を又てらすらん

うきよいてし-つきひのかけの-めくりきて-かはらぬみちを-またてらすらむ


<span id="01785">01785

[詞書]前僧都全真西国のかたに侍ける時つかはしける

承仁法親王

人しれすそなたをしのふ心をはかたふく月にたくへてそやる

ひとしれす-そなたをしのふ-こころをは-かたふくつきに-たくへてそやる


<span id="01786">01786

[詞書]前大僧正慈円ふみにてはおもふほとのことも申つくしかたきよし申つかはして侍ける返事に

前右大将頼朝

みちのくのいはてしのふはえそしらぬかきつくしてよつほのいしふみ

みちのくの-いはてしのふは-えそしらぬ-かきつくしてよ-つほのいしふみ


<span id="01787">01787

[詞書]世中のつねなきころ

大江嘉言

けふまては人をなけきてくれにけりいつ身のうへにならんとすらん

けふまては-ひとをなけきて-くれにけり-いつみのうへに-ならむとすらむ


<span id="01788">01788

[詞書]題しらす

清慎公

みちしはのつゆにあらそふわか身かないつれかまつはきえんとすらん

みちしはの-つゆにあらそふ-わかみかな-いつれかまつは-きえむとすらむ


<span id="01789">01789

皇嘉門院

なにとかやかへにおふなる草のなよそれにもたくふわか身なりけり

なにとかや-かへにおふなる-くさのなよ-それにもたくふ-わかみなりけり


<span id="01790">01790

権中納言資実

こしかたをさなから夢になしつれはさむるうつゝのなきそかなしき

こしかたを-さなからゆめに-なしつれは-さむるうつつの-なきそかなしき


<span id="01791">01791

[詞書]松の木のやけゝるを見て

性空上人

ちとせふる松たにくつるよの中にけふともしらてたてるわれかな

ちとせふる-まつたにくつる-よのなかに-けふともしらて-たてるわれかな


<span id="01792">01792

[詞書]題しらす

後頼朝臣

かすならてよにすみの江のみをつくしいつをまつともなき身なりけり

かすならて-よにすみのえの-みをつくし-いつをまつとも-なきみなりけり


<span id="01793">01793

皇太后宮大夫俊成

うきなからひさしくそよをすきにける哀やかけしすみよしの松

うきなから-ひさしくそよを-すきにける-あはれやかけし-すみよしのまつ


<span id="01794">01794

[詞書]春日社哥合に松風といふことを

家隆朝臣

かすか山たにのむもれ木くちぬとも君につけこせみねの松風

かすかやま-たにのうもれき-くちぬとも-きみにつけこせ-みねのまつかせ


<span id="01795">01795

宜秋門院丹後

なにとなくきけは涙そこほれぬるこけのたもとにかよふ松風

なにとなく-きけはなみたそ-こほれぬる-こけのたもとに-かよふまつかせ


<span id="01796">01796

[詞書]さうしにあしてなかうたなとかきておくに

女御徽子女王

みな人のそむきはてぬるよの中にふるのやしろの身をいかにせん

みなひとの-そむきはてぬる-よのなかに-ふるのやしろの-みをいかにせむ


<span id="01797">01797

[詞書]臨時祭の舞人にてもろともに侍けるをともに四位してのち祭の日つかはしける

実方朝臣

衣ての山井の水にかけみえし猶そのかみの春そこひしき

ころもての-やまゐのみつに-かけみえし-なほそのかみの-はるそこひしき


<span id="01798">01798

[詞書]題しらす

道信朝臣

いにしへの山井の衣なかりせはわすらるゝ身となりやしなまし

いにしへの-やまゐのころも-なかりせは-わすらるるみと-なりやしなまし


<span id="01799">01799

[詞書]後冷泉院御時大嘗会にひかけのくみをして実基朝臣のもとにつかはすとて先帝御時おもひいてゝそへていひつかはしける

加賀朝臣

たちなからきてたに見せよをみ衣あかぬむかしの忘かたみに

たちなから-きてたにみせよ-をみころも-あかぬむかしの-わすれかたみに


<span id="01800">01800

[詞書]秋夜きりすをきくといふ題をよめと人におほせられておほとのこもりにけるあしたにそのうたを御覧して

天暦御哥

秋の夜のあか月かたのきりすひとつてならてきかまし物を

あきのよの-あかつきかたの-きりきりす-ひとつてならて-きかましものを


<span id="01801">01801

[詞書]秋雨を

中務卿具平親王

なかめつゝわかおもふことはひくらしにのきのしつくのたゆるよもなし

なかめつつ-わかおもふことは-ひくらしに-のきのしつくの-たゆるまもなし


<span id="01802">01802

小野小町

こからしの風にもみちて人しれすうきことの葉のつもる比かな

こからしの-かせにもみちて-ひとしれす-うきことのはの-つもるころかな


<span id="01803">01803

[詞書]述懐百首哥よみける時紅葉を

皇太后宮大夫俊成

嵐ふくみねのもみちの日にそへてもろくなりゆくわか涙哉

あらしふく-みねのもみちの-ひにそへて-もろくなりゆく-わかなみたかな


<span id="01804">01804

[詞書]題しらす

崇徳院御哥

うたゝねはおきふく風におとろけとなかき夢ちそさむる時なき

うたたねは-をきふくかせに-おとろけと-なかきゆめちそ-さむるときなき


<span id="01805">01805

宮内卿

竹の葉に風ふきよはるゆふくれのものゝ哀は秋としもなし

たけのはに-かせふきよわる-ゆふくれの-もののあはれは-あきとしもなし


<span id="01806">01806

和泉式部

ゆふくれは雲のけしきをみるからになかめしとおもふ心こそつけ

ゆふくれは-くものけしきを-みるからに-なかめしとおもふ-こころこそつけ


<span id="01807">01807

くれぬめりいくかをかくてすきぬらん入あひのかねのつくとして

くれぬなり-いくかをかくて-すきぬらむ-いりあひのかねの-つくつくとして


<span id="01808">01808

西行法師

またれつる入あひのかねのをとすなりあすもやあらはきかんとすらん

またれつる-いりあひのかねの-おとすなり-あすもやあらは-きかむとすらむ


<span id="01809">01809

[詞書]暁の心をよめる

皇太后宮大夫俊成

あか月とつけの枕をそはたてゝきくもかなしき鐘のをと哉

あかつきと-つけのまくらを-そはたてて-きくもかなしき-かねのおとかな


<span id="01810">01810

[詞書]百首哥に

式子内親王

あか月のゆふつけとりそ哀なるなかきねふりをおもふ枕に

あかつきの-ゆふつけとりそ-あはれなる-なかきねふりを-おもふまくらに


<span id="01811">01811

[詞書]あまにならんとおもひたちけるを人のとゝめ侍けれは

和泉式部

かくはかりうきをしのひてなからへはこれよりまさる物もこそおもへ

かくはかり-うきをしのひて-なからへは-これよりまさる-ものをこそおもへ


<span id="01812">01812

[詞書]題しらす

たらちねのいさめし物をつれとなかむるをたにとふ人もなし

たらちねの-いさめしものを-つれつれと-なかむるをたに-とふひともなし


<span id="01813">01813

[詞書]くまのへまいりておほみねへいらんとてとしころやしなひたてゝ侍りけるめのとのもとにつかはしける

大僧正行尊

あはれとてはくゝみたてしいにしへはよをそむけともおもはさりけん

あはれとて-はくくみたてし-いにしへは-よをそむけとも-おもはさりけむ


<span id="01814">01814

[詞書]百首哥たてまつりし時

土御門内大臣

くらゐ山あとをたつねてのほれともこをおもふみちに猶まよひぬる

くらゐやま-あとをたつねて-のほれとも-こをおもふみちに-なほまよひぬる


<span id="01815">01815

[詞書]百首哥よみ侍けるに懐旧哥

皇太后宮大夫俊成

むかしたにむかしとおもひしたらちねのなをこひしきそはかなかりける

むかしたに-むかしとおもひし-たらちねの-なほこひしきそ-はかなかりける


<span id="01816">01816

[詞書]述懐百首哥よみ侍けるに

俊頼朝臣

さゝかにのいとかゝりける身のほとをおもへは夢の心ちこそすれ

ささかにの-いとかかりける-みのほとを-おもへはゆめの-ここちこそすれ


<span id="01817">01817

[詞書]ゆふくれにくものいとはかなけにすかくをつねよりもあはれと見て

僧正遍昭

さゝかにのそらにすかくもおなしことまたきやとにもいくよかはへん

ささかにの-そらにすかくも-おなしこと-またきやとりも-いくよかはへむ


<span id="01818">01818

[詞書]題しらす

西宮前左大臣

ひかりまつえたにかゝれるつゆのいのちきえはてねとやはるのつれなき

ひかりまつ-えたにかかれる-つゆのいのち-きえはてねとや-はるのつれなき


<span id="01819">01819

[詞書]野わきしたるあしたにおさなき人をたにとはさりける人に

赤染衛門

あらくふく風はいかにと宮木のゝこはきかうへを人のとへかし

あらくふく-かせはいかにと-みやきのの-こはきかうへを-ひとのとへかし


<span id="01820">01820

[詞書]和泉式部みちさたにわすられてのちほとなく敦道親王かよふときゝてつかはしける

うつろはてしはしゝのたのもりをみよかへりもそするくすのうら風

うつろはて-しはししのたの-もりをみよ-かへりもそする-くすのうらかせ


<span id="01821">01821

[詞書]返し

和泉式部

秋風はすこくふけともくすの葉のうらみかほには見えしとそおもふ

あきかせは-すこくふくとも-くすのはの-うらみかほには-みえしとそおもふ


<span id="01822">01822

[詞書]やまひかきりにおほえ侍ける時定家朝臣中将転任のこと申とて民部卿範光もとにつかはしける

皇太后宮大夫俊成

をさゝはら風まつ露のきえやらすこのひとふしをおもひをくかな

をささはら-かせまつつゆの-きえやらす-このひとふしを-おもひおくかな


<span id="01823">01823

[詞書]題しらす

前大僧正慈円

世中をいまはの心つくからにすきにしかたそいとゝこひしき

よのなかを-いまはのこころ-つくからに-すきにしかたそ-いととこひしき


<span id="01824">01824

よをいとふ心のふかくなるまゝにすくる月日をうちかそへつゝ

よをいとふ-こころのふかく-なるままに-すくるつきひを-うちかそへつつ


<span id="01825">01825

ひとかたにおもひとりにし心にはなをそむかるゝ身をいかにせん

ひとかたに-おもひとりにし-こころには-なほそむかるる-みをいかにせむ


<span id="01826">01826

なにゆへにこのよをふかくいとふそと人のとへかしやすくこたへん

なにゆゑに-このよをふかく-いとふそと-ひとのとへかし-やすくこたへむ


<span id="01827">01827

おもふへきわか後のよはあるかなきかなけれはこそはこのよにはすめ

おもふへき-わかのちのよは-あるかなきか-なけれはこそは-このよにはすめ


<span id="01828">01828

西行法師

世をいとふ名をたにもさはとゝめをきてかすならぬ身のおもひいてにせん

よをいとふ-なをたにもさは-ととめおきて-かすならぬみの-おもひいてにせむ


<span id="01829">01829

身のうさをおもひしらてやゝみなましそむくならひのなきよなりせは

みのうさを-おもひしらてや-やみなまし-そむくならひの-なきよなりせは


<span id="01830">01830

いかゝすへきよにあらはやはよをもすてゝあなうのよやとさらにおもはん

いかかすへき-よにあらはやは-よをもすてて-あなうのよやと-さらにおもはむ


<span id="01831">01831

なに事にとまる心のありけれはさらにしも又よのいとはしき

なにことに-とまるこころの-ありけれは-さらにしもまた-よのいとはしき


<span id="01832">01832

入道前関白太政大臣

むかしよりはなれかたきはうきよかなかたみにしのふ中ならねとも

むかしより-はなれかたきは-うきよかな-かたみにしのふ-なかならねとも


<span id="01833">01833

[詞書]なけく事侍けるころおほみねにこもるとて同行ともゝかたへは京へかへりねなと申てよみ侍ける

大僧正行尊

おもひいてゝもしもたつぬる人もあらはありとないひそさためなきよに

おもひいてて-もしもたつぬる-ひともあらは-ありとないひそ-さためなきよに


<span id="01834">01834

[詞書]題しらす

かすならぬ身をなにゆへにうらみけんとてもかくてもすくしけるよを

かすならぬ-みをなにゆゑに-うらみけむ-とてもかくても-すくしけるよを


<span id="01835">01835

[詞書]百首哥たてまつりしに

前大僧正慈円

いつかわれみ山のさとのさひしきにあるしとなりて人にとはれん

いつかわれ-みやまのさとの-さひしきに-あるしとなりて-ひとにとはれむ


<span id="01836">01836

[詞書]題しらす

俊頼朝臣

うき身には山田のをしねをしこめてよをひたすらにうらみわひぬる

うきみには-やまたのおしね-おしこめて-よをひたすらに-うらみわひぬる


<span id="01837">01837

[詞書]としころ修行の心ありけるをすてかたき事侍りてすきけるにおやなとなくなりて心やすくおもひたちけるころ障子にかきつけ侍ける

山田法師

しつのをのあさなにこりつむるしはしのほともありかたのよや

しつのをの-あさなあさなに-こりつむる-しはしのほとも-ありかたのよや


<span id="01838">01838

[詞書]題しらす

寂蓮法師

かすならぬ身はなき物になしはてつたかためにかはよをもうらみん

かすならぬ-みはなきものに-なしはてつ-たかためにかは-よをもうらみむ


<span id="01839">01839

法橋行遍

たのみありて今ゆくすゑをまつ人やすくる月日をなけかさるらん

たのみありて-いまゆくすゑを-まつひとや-すくるつきひを-なけかさるらむ


<span id="01840">01840

[詞書]守覚法親王五十首哥よませ侍けるに

源師光

なからへていけるをいかにもとかましうき身のほとをよそにおもはゝ

なからへて-いけるをいかに-もとかまし-うきみのほとを-よそにおもはは


<span id="01841">01841

[詞書]題しらす

八条院高倉

うきよをはいつる日ことにいとへともいつかは月のいるかたを見ん

うきよをは-いつるひことに-いとへとも-いつかはつきの-いるかたをみむ


<span id="01842">01842

西行法師

なさけありしむかしのみ猶しのはれてなからへまうき世にもふるかな

なさけありし-むかしのみなほ-しのはれて-なからへまうき-よにもふるかな


<span id="01843">01843

清輔朝臣

なからへは又このころやしのはれんうしと見しよそ今はこひしき

なからへは-またこのころや-しのはれむ-うしとみしよそ-いまはこひしき


<span id="01844">01844

[詞書]寂蓮人々すゝめて百首哥よませ侍けるにいなひ侍て熊野にまうてける道にてゆめになにこともおとろへゆけとこのみちこそよのすゑにかはらぬものはあれなをこのうたよむへきよし別当湛快三位俊成に申と見侍ておとろきなからこの哥をいそきよみいたしてつかはしけるおくにかきつけ侍ける

西行法師

すゑのよもこのなさけのみかはらすと見し夢なくはよそにきかまし

すゑのよも-このなさけのみ-かはらすと-みしゆめなくは-よそにきかまし


<span id="01845">01845

[詞書]千載集えらひ侍ける時ふるき人々のうたを見て

皇太后宮大夫俊成

ゆくすゑはわれをもしのふ人やあらんむかしをおもふ心ならひに

ゆくすゑは-われをもしのふ-ひとやあらむ-むかしをおもふ-こころならひに


<span id="01846">01846

[詞書]崇徳院に百首哥たてまつりける無常哥

皇太后宮大夫俊成

世中をおもひつらねてなかむれはむなしきそらにきゆる白雲

よのなかを-おもひつらねて-なかむれは-むなしきそらに-きゆるしらくも


<span id="01847">01847

[詞書]百首哥に

式子内親王

くるゝまもまつへきよかはあたしのゝすゑはのつゆに嵐たつ也

くるるまも-まつへきよかは-あたしのの-すゑはのつゆに-あらしたつなり


<span id="01848">01848

[詞書]つのくにゝおはしてみきはのあしを見たまひて

華山院御哥

つのくにのなからふへくもあらぬかなみしかきあしのよにこそ有けれ

つのくにの-なからふへくも-あらぬかな-みしかきあしの-よにこそありけれ


<span id="01849">01849

[詞書]題しらす

中務卿具平親王

風はやみおきの葉ことにをくつゆのをくれさきたつほとのはかなさ

かせはやみ-をきのはことに-おくつゆの-おくれさきたつ-ほとのはかなさ


<span id="01850">01850

蝉丸

秋風になひくあさちのすゑことにをく白露のあはれ世中

あきかせに-なひくあさちの-すゑことに-おくしらつゆの-あはれよのなか


<span id="01851">01851

よの中はとてもかくてもおなしことみやもわらやもはてしなけれは

よのなかは-とてもかくても-おなしこと-みやもわらやも-はてしなけれは