敎育基本法公布せられたるにつき敎育に当る者これが使命達成方


⦿文部省訓令第四号

このたび法律第二十五号をもつて、敎育基本法が公布せられた。

さきに、憲法の画期的な改正が断行され、民主的で平和的な國家再建の基礎が確立せられたのであるが、この理想の実現は、根本において敎育の力にまつべきものである。

思うに、敎育は、眞理を尊重し、人格の完成を目標として行われるべきものである。しかるに、從來は、ややもすればこの目標が見失われがちであつた。新日本の建設に当つて、この弊害を除き、新しい敎育の理念と基本原則を打ち立てることは、今日当面の急務といわなければならない。

敎育基本法は、かかる理念と基本原則を確立するため、國民の総意を表わす議会の協賛を経て制定せられたものである。卽ち、この法律においては、敎育が、何よりもまず人格の完成をめざして行われるべきものであることを宣言した。人格の完成とは、個人の價値と尊嚴との認織に基き、人間の具えるあらゆる能力を、できるかぎり、しかも調和的に発展せしめることである。しかし、このことは、決して國家及び会への義務と責任を軽するものではない。敎育は、平和的な國家及び会の形成として心身ともに健康な國民の育成を期して行われなければならない。又、あらゆる機会に、あらゆる揚所において行われなければならないのである。次に、この法律は、日本國憲法と関連して敎育上の基本原則を明示し、新憲法の精神を徹底するとともに、敎育本來の目的の達成を期した。

かくて、この法律によつて、新しい日本の敎育の基本は確立せられた。今後のわが國の敎育は、この精神に則つて行われるべきものであり、又、敎育法令もすべてこれに基いて制定せられなければならない。この法律の精神に基いて、学校敎育法は、画期的な新学制を定め、すでに実施の運びとなつた。

然しながら、この敎育基本法を運用し、眞にこれを活かすものは、敎育自身の自覚と努力である。敎育に当るは、國民全体に対する深い責任に思いを致し、この法律の精神を体得し、相共に、熱誠を傾けてその使命の達成に遺憾なきを期すべきである。

昭和二十二年五月三日

文部大臣  高橋誠一郞

この著作物は、日本国の著作権法第10条1項ないし3項により著作権の目的とならないため、パブリックドメインの状態にあります。(なお、この著作物は、日本国の旧著作権法第11条により、発行当時においても、著作権の目的となっていませんでした。)


この著作物はアメリカ合衆国外で最初に発行され(かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず)、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつ、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日)に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。