或女房に示されける法語

ある女房によばうしめされけるほふ

〈勅傳第二十五巻に載す。或女房とは法性寺左京の太夫信實朝臣の伯母なりとあり。〉


【一】念佛ねんぶつ行者ぎやうじやのぞんじさふらふべきやうは、後世ごせををそれわうじやうをねがひて念佛ねんぶつすれば、をはるときかならず來迎らいかうせさせたまふよしをぞんじて、念佛ねんぶつまをすよりほかのことはさふらはず。三心さんじんまをしさふらふもふさねてまをすときは、たゞいつぐわんしんにてさふらふなり。そのねがふこころのいつはらずかざらぬはうをばじやうしんまをしさふらふ。このこころじつにて念佛ねんぶつすれば臨終りんじうにらいかうすといふことを一念いちねんもうたがはぬはう深心じんしんとはまをしさふらふ。このうへわがもかのへむまれんとおもひ、ぎやうごふをもわうじやうのためとむくるを向心かうしんとはまをしさふらふなり。このゆへにねがふこころいつはらずしてげにわうじやうせむとおもひさふらへば、をのづから三心さんじんはぐそくすることにてさふらふなり

【二】そも中品ちうぼんしやう來迎らいかうさふらはぬことはあるまじければ、とかれぬにてはさふらはず。ほんわうじやうにをのみなあるべきことのりやくせられてなきことさふらふなり善導ぜんだうおんこころ三心さんじん品々ほんにわたりてあるべしとみえてさふらふ品々ほんごとにおほくのことさふらへども、三心さんじん來迎らいかうとはかならずあるべきにてさふらふなり。わうじやうをねがはんぎやうじやはかならず三心さんじんををこすべきにてさふらへば、じやうぼん上生じやうしやうにこれをときて、品々ほんをもこれになずらへてしるべしとみえてさふらふ

【三】またわれら戒品かいほんのふねいかだもやぶれたれば、しやう大海だいかいをわたるべきえんさふらはず。智惠ちえのひかりもくもりて、しやうのやみもてらしがたければ、しやうだう得道とくだうにももれたるわれらがためにほどこしたまふりきまをしさふらふ第十だいじふ來迎らいかうぐわんにてさふらへば、もんにみえずさふらふとても、かならず來迎らいかうはあるべきにてさふらふなり。ゆめおんうたがひさふらふべからず。あなかしこ


げん  くう    

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