或女房に示されける法語
〈勅傳第二十五巻に載す。或女房とは法性寺左京の太夫信實朝臣の伯母なりとあり。〉
【一】念佛行者のぞんじ候べきやうは、後世ををそれ往生をねがひて念佛すれば、をはるときかならず來迎せさせ給よしをぞんじて、念佛申より外のことは候はず。三心と申候もふさねて申ときは、たゞ一の願心にて候なり。そのねがふ心のいつはらずかざらぬ方をば至誠心と申候。この心の實にて念佛すれば臨終にらいかうすといふことを一念もうたがはぬ方を深心とは申候。このうへわが身もかの土へむまれんとおもひ、行業をも往生のためと向るを廻向心とは申候なり。このゆへにねがふ心いつはらずしてげに往生せむとおもひ候へば、をのづから三心はぐそくすることにて候也。
【二】抑中品下生に來迎の候はぬことはあるまじければ、とかれぬにては候はず。九品往生にをの〳〵みなあるべきことの略せられてなき事も候也。善導の御心は三心も品々にわたりてあるべしとみえて候。品々ごとにおほくのこと候へども、三心と來迎とはかならずあるべきにて候なり。往生をねがはん行者はかならず三心ををこすべきにて候へば、上品上生にこれをときて、餘の品々をも是になずらへてしるべしとみえて候。
【三】又われら戒品のふねいかだもやぶれたれば、生死の大海をわたるべき緣も候はず。智惠のひかりもくもりて、生死のやみもてらしがたければ、聖道の得道にももれたるわれらがためにほどこし給他力と申候は第十九の來迎の願にて候へば、文にみえず候とても、かならず來迎はあるべきにて候也。ゆめ〳〵御うたがひ候べからず。あなかしこ〳〵。
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