← 地歌
御山獅子 作者:竹中墨子
神路山(かみぢやま)、昔に変らぬ杉の枝。萱の御屋根(みやね)に五色(ごしき)の玉も、光をてらす朝日山(あさひやま)、清き流れの五十鈴川(いすずがは)、御裳濯川(みもすそがは)の干網(ほしあみ)の、宇治の里ぞと見渡せば、頃は弥生(やよひ)の賑(にぎは)しき、門に笹たて鈴の音、獅子の舞ぞとうたひつる。山を越したる小田(をだ)の橋。岩戸(いはと)の山に神楽(かぐら)を奏し、二見(ふたみ)の浦の朝景色、岩間に淀む藻塩草(もしほぐさ)、世義寺(せきでら)の夕景色、野辺の螢や美女のの遊び、浮れて汲むや盃(さかづき)の、早や鳥羽口に紅葉(もみぢ)ばの、染めて楽しむ老人(おいびと)の、浅熊山(あさくまやま)眺めも勝る奥の院、晴れ渡りたる富士の白雪。
この作品は1929年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメインの状態にあります。