後撰和歌集/巻第十四

巻十四


00994

[詞書]人のもとにつかはしける

よみ人しらす

逢ふ事をよとに有りてふみつのもりつらしと君を見つるころかな

あふことを-よとにありてふ-みつのもり-つらしときみを-みつるころかな


00995

[詞書]返し

よみ人しらす

みつのもりもるこのころのなかめには怨みもあへすよとの河浪

みつのもり-もるこのころの-なかめには-うらみもあへす-よとのかはなみ


00996

[詞書]みつからまてきて、よもすから物いひ侍りけるに、ほとなくあけ侍りにけれは、まかりかへりて

よみ人しらす

うき世とは思ふものからあまのとのあくるはつらき物にそ有りける

うきよとは-おもふものから-あまのとの-あくるはつらき-ものにそありける


00997

[詞書]女のもとにつかはしける

よみ人しらす

うらむれとこふれと君かよとともにしらすかほにてつれなかるらん

うらむれと-こふれときみか-よとともに-しらすかほにて-つれなかるらむ


00998

[詞書]返し

よみ人しらす

怨むともこふともいかか雲井よりはるけき人をそらにしるへき

うらむとも-こふともいかか-くもゐより-はるけきひとを-そらにしるへき


00999

[詞書]いひわつらひてやみにける人に、ひさしうありて又つかはしける

よみ人しらす

しつはたにへつるほとなり白糸のたえぬる身とはおもはさらなん

しつはたに-へつるほとなり-しらいとの-たえぬるみとは-おもはさらなむ


01000

[詞書]返し

よみ人しらす

へつるよりうすくなりにししつはたのいとはたえてもかひやなからん

へつるより-うすくなりにし-しつはたの-いとはたえても-かひやなからむ


01001

[詞書]をとこのまてきて、すき事をのみしけれは、人やいかか見るらんとて

よみ人しらす

くる事は常ならすともたまかつらたのみはたえしと思ふ心あり

くることは-つねならすとも-たまかつら-たのみはたえしと-おもふこころあり


01002

[詞書]返し

よみ人しらす

玉鬘たのめくる日のかすはあれとたえたえにてはかひなかりけり

たまかつら-たのめくるひの-かすはあれと-たえたえにては-かひなかりけり


01003

[詞書]をとこのひさしうおとつれさりけれは

よみ人しらす

いにしへの心はなくや成りにけんたのめしことのたえてとしふる

いにしへの-こころはなくや-なりにけむ-たのめしことの-たえてとしふる


01004

[詞書]返し

よみ人しらす

いにしへも今も心のなけれはそうきをもしらて年をのみふる

いにしへも-いまもこころの-なけれはそ-うきをもしらて-としをのみふる


01005

[詞書]をとこのたたなりける時にはつねにまうてきけるか、ものいひてのちはかとよりわたれとまてこさりけれは

よみ人しらす

たえたりし昔たに見しうちはしを今はわたるとおとにのみきく

たえたりし-むかしたにみし-うちはしを-いまはわたると-おとにのみきく


01006

[詞書]いひわひてふたとせはかりおともせすなりにけるをとこの、五月はかりにまうてきて、年ころひさしうありつるなといひてまかりにけるに

よみ人しらす

わすられて年ふるさとの郭公なににひとこゑなきてゆくらん

わすられて-としふるさとの-ほとときす-なににひとこゑ-なきてゆくらむ


01007

[詞書]題しらす

よみ人しらす

とふやとてすきなきやとにきにけれとこひしきことそしるへなりける

とふやとて-すきなきやとに-きにけれと-こひしきことそ-しるへなりける


01008

[詞書]物いひわひて女のもとにいひやりける

よみ人しらす

露のいのちいつともしらぬ世中になとかつらしと思ひおかるる

つゆのいのち-いつともしらぬ-よのなかに-なとかつらしと-おもひおかるる


01009

[詞書]女のほかに侍りけるを、そこにとをしふる人も侍らさりけれは、心つからとふらひて侍りける返事につかはしける

よみ人しらす

かり人のたつぬるしかはいなひのにあはてのみこそあらまほしけれ

かりひとの-たつぬるしかは-いなみのに-あはてのみこそ-あらまほしけれ


01010

[詞書]しのひたる女のもとより、なとかおともせぬと申したりけれは

右大臣

を山田の水ならなくにかくはかり流れそめてはたえんものかは

をやまたの-みつならなくに-かくはかり-なかれそめては-たえむものかは


01011

[詞書]をとこのまてこて、ありありて雨のふる夜、おほかさをこひにつかはしたりけれは

これひらの朝臣のむすめいまき

月にたにまつほとおほくすきぬれは雨もよにこしとおもほゆるかな

つきにたに-まつほとおほく-すきぬれは-あめもよにこしと-おもほゆるかな


01012

[詞書]はしめて人につかはしける

よみ人しらす

思ひつつまたいひそめぬわかこひをおなし心にしらせてしかな

おもひつつ-またいひそめぬ-わかこひを-おなしこころに-しらせてしかな


01013

[詞書]いひわつらひてやみにけるを、又思ひいててとふらひ侍りけれは、いと定なき心かなといひて、あすか河の心をいひつかはして侍りけれは

よみ人しらす

あすか河心の内になかるれはそこのしからみいつかよとまん

あすかかは-こころのうちに-なかるれは-そこのしからみ-いつかよとまむ


01014

[詞書]思ひかけたる女のもとに

あさよりの朝臣

ふしのねをよそにそききし今はわか思ひにもゆる煙なりけり

ふしのねを-よそにそききし-いまはわか-おもひにもゆる-けふりなりけり


01015

[詞書]返し

よみ人しらす

しるしなき思ひとそきくふしのねもかことはかりの煙なるらん

しるしなき-おもひとそきく-ふしのねも-かことはかりの-けふりなるらむ


01016

[詞書]いひかはしけるをとこのおや、いといたうせいすとききて、女のいひつかはしける

よみ人しらす

いひさしてととめらるなる池水の波いつかたに思ひよるらん

いひさして-ととめらるなる-いけみつの-なみいつかたに-おもひよるらむ


01017

[詞書]おなし所に侍りける人の、思ふ心侍りけれといはてしのひけるを、いかなるをりにかありけん、あたりにかきておとしける

よみ人しらす

しられしなわかひとしれぬ心もて君を思ひのなかにもゆとは

しられしな-わかひとしれぬ-こころもて-きみをおもひの-なかにもゆとは


01018

[詞書]心さしをはあはれとおもへと、人めになんつつむといひて侍りけれは

よみ人しらす

あふはかりなくてのみふるわかこひを人めにかくる事のわひしさ

あふはかり-なくてのみふる-わかこひを-ひとめにかくる-ことのわひしさ


01019

[詞書]題しらす

よみ人しらす

夏衣身にはなるともわかためにうすき心はかけすもあらなん

なつころも-みにはなるとも-わかために-うすきこころは-かけすもあらなむ


01020

[詞書]題しらす

よみ人しらす

いかにして事かたらはん郭公歎のしたになけはかひなし

いかにして-ことかたらはむ-ほとときす-なけきのしたに-なけはかひなし


01021

[詞書]題しらす

よみ人しらす

思ひつつへにける年をしるへにてなれぬる物は心なりけり

おもひつつ-へにけるとしを-しるへにて-なれぬるものは-こころなりけり


01022

[詞書]ふみなとつかはしける女の、ことをとこにつき侍りけるにつかはしける

源ととのふ

我ならぬ人住の江の岸にいててなにはの方を怨みつるかな

われならぬ-ひとすみのえの-きしにいてて-なにはのかたを-うらみつるかな


01023

[詞書]ととのふかれかたになり侍りにけれは、ととめおきたるふえをつかはすとて

よみ人しらす

にこりゆく水には影の見えはこそあしまよふえをととめても見め

にこりゆく-みつにはかけの-みえはこそ-あしまよふえを-ととめてもみめ


01024

[詞書]菅原のおほいまうちきみの家に侍りける女にかよひ侍りけるをとこ、なかたえて又とひて侍りけれは

よみ人しらす

菅原や伏見の里のあれしよりかよひし人の跡もたえにき

すかはらや-ふしみのさとの-あれしより-かよひしひとの-あともたえにき


01025

[詞書]女のをとこをいとひて、さすかにいかかおほえけん、いへりける

よみ人しらす

ちはやふる神にもあらぬわかなかの雲井遥に成りもゆくかな

ちはやふる-かみにもあらぬ-わかなかの-くもゐはるかに-なりもゆくかな


01026

[詞書]返し

よみ人しらす

千早振神にも何にたとふらんおのれくもゐに人をなしつつ

ちはやふる-かみにもなにに-たとふらむ-おのれくもゐに-ひとをなしつつ


01027

[詞書]女三のみこに

あつよしのみこ

うきしつみふちせにさわくにほとりはそこものとかにあらしとそ思ふ

うきしつみ-ふちせにさわく-にほとりは-そこものとかに-あらしとそおもふ


01028

[詞書]かひに人のものいふとききて

藤原守文

松山に浪たかきおとそきこゆなる我よりこゆる人はあらしを

まつやまに-なみたかきおとそ-きこゆなる-われよりこゆる-ひとはあらしを


01029

[詞書]をとこのもとに、雨ふる夜かさをやりてよひけれと、こさりけれは

よみ人しらす

さしてこと思ひしものをみかさ山かひなく雨のもりにけるかな

さしてこと-おもひしものを-みかさやま-かひなくあめの-もりにけるかな


01030

[詞書]返し

よみ人しらす

もるめのみあまたみゆれはみかさ山しるしるいかかさしてゆくへき

もるめのみ-あまたみゆれは-みかさやま-しるしるいかか-さしてゆくへき


01031

[詞書]女のもとより、いといたくな思ひわひそと、たのめおこせて侍りけれは

よみ人しらす

なくさむることのはにたにかからすは今もけぬへき露の命を

なくさむる-ことのはにたに-かからすは-いまもけぬへき-つゆのいのちを


01032

[詞書]元良のみこのみそかにすみ侍りける、今こむとたのめてこすなりにけれは

兵衛

ひとしれすまつにねられぬ晨明の月にさへこそあさむかれけれ

ひとしれす-まつにねられぬ-ありあけの-つきにさへこそ-あさむかれけれ


01033

[詞書]しのひてすみ侍りける人のもとより、かかるけしき人に見すないへりけれは

もとかた

竜田河たちなは君か名ををしみいはせのもりのいはしとそ思ふ

たつたかは-たちなはきみか-なををしみ-いはせのもりの-いはしとそおもふ


01034

[詞書]宇多院に侍りける人に、せうそこつかはしける返事も侍らさりけれは

よみ人しらす

うたののはみみなし山かよふこ鳥よふこゑにたにこたへさるらん

うたののは-みみなしやまか-よふことり-よふこゑにたに-こたへさるらむ


01035

[詞書]返し

女五のみこ

耳なしの山ならすともよふことり何かはきかん時ならぬねを

みみなしの-やまならすとも-よふことり-なにかはきかむ-ときならぬねを


01036

[詞書]つれなく侍りける人に

たたみね

こひわひてしぬてふことはまたなきを世のためしにもなりぬへきかな

こひわひて-しぬてふことは-またなきを-よのためしにも-なりぬへきかな


01037

[詞書]たちよりけるに、女にけていりけれは、つかはしける

よみ人しらす

影見れはおくへいりける君によりなとか涙のとへはいつらむ

かけみれは-おくへいりける-きみにより-なとかなみたの-とへはいつらむ


01038

[詞書]あひにける女のまたあはさりけれは

よみ人しらす

しらさりし時たにこえし相坂をなと今更にわれ迷ふらん

しらさりし-ときたにこえし-あふさかを-なといまさらに-われまよふらむ


01039

[詞書]女のもとにまかりそめて、あしたに

藤原かけもと

あかすして枕のうへに別れにしゆめちを又もたつねてしかな

あかすして-まくらのうへに-わかれにし-ゆめちをまたも-たつねてしかな


01040

[詞書]をとこのとはすなりにけれは

よみ人しらす

おともせすなりもゆくかなすすか山こゆてふなのみたかくたちつつ

おともせす-なりもゆくかな-すすかやま-こゆてふなのみ-たかくたちつつ


01041

[詞書]返し

よみ人しらす

こえぬてふ名をなうらみそすすか山いととまちかくならんと思ふを

こえぬてふ-なをなうらみそ-すすかやま-いととまちかく-ならむとおもふを


01042

[詞書]女に物いはんとてきたりけれと、こと人に物いひけれは、かへりて

よみ人しらす

わかためにかつはつらしと見山木のこりともこりぬかかるこひせし

わかために-かつはつらしと-みやまきの-こりともこりぬ-かかるこひせし


01043

[詞書]返し

よみ人しらす

あふこなき身とはしるしる恋すとて歎こりつむ人はよきかは

あふこなき-みとはしるしる-こひすとて-なけきこりつむ-ひとはよきかは


01044

[詞書]人につかはしける

戒仙法師

あさことに露はおけとも人こふるわか事のはは色もかはらす

あさことに-つゆはおけとも-ひとこふる-わかことのはは-いろもかはらす


01045

[詞書]きてものいひけるひとの、おほかたはむつましかりけれと、ちかうはえあらすして

よみ人しらす

まちかくてつらきを見るはうけれともうきはものかはこひしきよりは

まちかくて-つらきをみるは-うけれとも-うきはものかは-こひしきよりは


01046

[詞書]女のもとにつかはしける

藤原さねたた

つくしなる思ひそめ河わたりなは水やまさらんよとむ時なく

つくしなる-おもひそめかは-わたりなは-みつやまさらむ-よとむときなく


01047

[詞書]返し

よみ人しらす

渡りてはあたになるてふ染河の心つくしになりもこそすれ

わたりては-あたになるてふ-そめかはの-こころつくしに-なりもこそすれ


01048

[詞書]をとこのもとより、花さかりにこむといひて、こさりけれは

よみ人しらす

花さかりすくしし人はつらけれと事のはをさへかくしやはせん

はなさかり-すくししひとは-つらけれと-ことのはをさへ-かくしやはせむ


01049

[詞書]をとこのひさしうとはさりけれは

右近

とふことをまつに月日はこゆるきのいそにやいてて今はうらみん

とふことを-まつにつきひは-こゆるきの-いそにやいてて-いまはうらみむ


01050

[詞書]あひしりて侍りける人のもとにひさしうまからさりけれは、忘草なにをかたねと思ひしはといふことをいひつかはしたりけれは

よみ人しらす

忘草名をもゆゆしみかりにてもおふてふやとはゆきてたに見し

わすれくさ-なをもゆゆしみ-かりにても-おふてふやとは-ゆきてたにみし


01051

[詞書]返し

よみ人しらす

うきことのしけきやとには忘草うゑてたにみし秋そわひしき

うきことの-しけきやとには-わすれくさ-うゑてたにみし-あきそわひしき


01052

[詞書]女と、もろともに侍りて

よみ人しらす

かすしらぬ思ひは君にあるものをおき所なき心地こそすれ

かすしらぬ-おもひはきみに-あるものを-おきところなき-ここちこそすれ


01053

[詞書]返し

よみ人しらす

おき所なき思ひとしききつれは我にいくらもあらしとそ思ふ

おきところ-なきおもひとし-ききつれは-われにいくらも-あらしとそおもふ


01054

[詞書]元長のみこに夏のさうそくしておくるとてそへたりける

南院式部卿のみこのむすめ

わかたちてきるこそうけれ夏衣おほかたとのみ見へきうすさを

わかたちて-きるこそうけれ-なつころも-おほかたとのみ-みへきうすさを


01055

[詞書]ひさしうとはさりける人の、思ひいてて、こよひまうてこんか、とささてあひまてと申して、まてこさりけれは

よみ人しらす

やへむくらさしてし門を今更に何にくやしくあけてまちけん

やへむくら-さしてしかとを-いまさらに-なににくやしく-あけてまちけむ


01056

[詞書]人をいひわつらひて、こと人にあひ侍りてのち、いかかありけん、はしめの人に思ひかへりてほとへにけれは、ふみはやらすして、扇にたかさこのかたかきたるにつけてつかはしける

源庶明朝臣

さをしかのつまなきこひを高砂のをのへのこ松ききもいれなん

さをしかの-つまなきこひを-たかさこの-をのへのこまつ-ききもいれなむ


01057

[詞書]返し

よみ人しらす

さをしかの声高砂にきこえしはつまなき時のねにこそ有りけれ

さをしかの-こゑたかさこに-きこえしは-つまなきときの-ねにこそありけれ


01058

[詞書]思ふ人にえあひ侍らて、わすられにけれは

よみ人しらす

せきもあへす涙の河のせをはやみかからん物と思ひやはせし

せきもあへす-なみたのかはの-せをはやみ-かからむものと-おもひやはせし


01059

[詞書]題しらす

よみ人しらす

せをはやみたえすなかるる水よりもたえせぬ物はこひにそ有りける

せをはやみ-たえすなかるる-みつよりも-たえせぬものは-こひにそありける


01060

[詞書]題しらす

よみ人しらす

こふれともあふよなき身は忘草夢ちにさへやおひしけるらん

こふれとも-あふよなきみは-わすれくさ-ゆめちにさへや-おひしけるらむ


01061

[詞書]題しらす

よみ人しらす

世中のうきはなへてもなかりけりたのむ限そ怨みられける

よのなかの-うきはなへても-なかりけり-たのむかきりそ-うらみられける


01062

[詞書]たのめたりける人に

よみ人しらす

ゆふされは思ひそしけきまつ人のこむやこしやの定なけれは

ゆふされは-おもひそしけき-まつひとの-こむやこしやの-さためなけれは


01063

[詞書]女につかはしける

源よしの朝臣

いとはれてかへりこしちのしら山はいらぬに迷ふ物にそ有りける

いとはれて-かへりこしちの-しらやまは-いらぬにまよふ-ものにそありける


01064

[詞書]題しらす

よみ人も

人浪にあらぬわか身はなにはなるあしのねのみそしたになかるる

ひとなみに-あらぬわかみは-なにはなる-あしのねのみそ-したになかるる


01065

[詞書]題しらす

よみ人も

白雲のゆくへき山はさたまらす思ふ方にも風はよせなん

しらくもの-ゆくへきやまは-さたまらす-おもふかたにも-かせはよせなむ


01066

[詞書]題しらす

よみ人も

世中に猶有あけの月なくてやみに迷ふをとはぬつらしな

よのなかに-なほありあけの-つきなくて-やみにまよふを-とはぬつらしな


01067

[詞書]さたまらぬ心ありと女のいひたりけれは、つかはしける

贈太政大臣

あすか河せきてととむる物ならはふちせになるとなとかいはれん

あすかかは-せきてととむる-ものならは-ふちせになると-なとかいはれむ


01068

[詞書]ひさしうまかりかよはすなりにけれは、十月はかりに雪のすこしふりたるあしたにいひ侍りける

右近

身をつめはあはれとそ思ふはつ雪のふりぬることもたれにいはまし

みをつめは-あはれとそおもふ-はつゆきの-ふりぬることも-たれにいはまし


01069

[詞書]源たたあきらの朝臣、十月はかりに、とこなつををりておくりて侍りけれは

よみ人しらす

冬なれと君かかきほにさきけれはむへとこ夏にこひしかりけり

ふゆなれと-きみかかきほに-さきけれは-うへとこなつに-こひしかりけり


01070

[詞書]女のうらむることありて、おやのもとにまかり渡りて侍りけるに、雪のふかくふりて侍りけれは、あしたに、女のむかへにくるまつかはしけるせうそこに、くはへてつかはしける

かねすけの朝臣

白雪のけさはつもれる思ひかなあはてふる夜のほともへなくに

しらゆきの-けさはつもれる-おもひかな-あはてふるよの-ほともへなくに


01071

[詞書]返し

よみ人しらす

しらゆきのつもる思ひもたのまれす春よりのちはあらしとおもへは

しらゆきの-つもるおもひも-たのまれす-はるよりのちは-あらしとおもへは


01072

[詞書]心さし侍る女みやつかへし侍りけれは、あふことかたくて侍りけるに、ゆきのふるにつかはしける

よみ人しらす

わかこひし君かあたりをはなれねはふる白雪もそらにきゆらん

わかこひし-きみかあたりを-はなれねは-ふるしらゆきも-そらにきゆらむ


01073

[詞書]返し

よみ人しらす

山かくれきえせぬ雪のわひしきは君まつのはにかかりてそふる

やまかくれ-きえせぬゆきの-わひしきは-きみまつのはに-かかりてそふる


01074

[詞書]物いひ侍りける女に、年のはてのころほひつかはしける

藤原ときふる

あらたまの年はけふあすこえぬへし相坂山を我やおくれん

あらたまの-としはけふあす-こえぬへし-あふさかやまを-われやおくれむ