後撰和歌集/巻第十一

巻十一


00700

[詞書]女につかはしける

三条右大臣

名にしおはは相坂山のさねかつら人にしられてくるよしもかな

なにしおはは-あふさかやまの-さねかつら-ひとにしられて-くるよしもかな


00701

[詞書]女につかはしける

在原元方

こひしとは更にもいはししたひものとけむを人はそれとしらなん

こひしとは-さらにもいはし-したひもの-とけむをひとは-それとしらなむ


00702

[詞書]返し

よみ人しらす

したひものしるしとするもとけなくにかたるかことはあらすもあるかな

したひもの-しるしとするも-とけなくに-かたるかことは-あらすもあるかな


00703

[詞書]女のいと思ひはなれていふにつかはしける

よみ人しらす

うつつにもはかなき事のわひしきはねなくに夢と思ふなりけり

うつつにも-はかなきことの-わひしきは-ねなくにゆめと-おもふなりけり


00704

[詞書]宮つかへする女の、あひかたく侍りけるに

つらゆき

たむけせぬ別れする身のわひしきは人めを旅と思ふなりけり

たむけせぬ-わかれするみの-わひしきは-ひとめをたひと-おもふなりけり


00705

[詞書]かりそめなる所に侍りける女に、心かはりにけるをとこの、ここにてはかくひんなき所なれは、心さしはありなからなむえたちよらぬといへりけれは、所をかへてまちけるに見えさりけれは、女

よみ人しらす

やとかへてまつにも見えすなりぬれはつらき所のおほくもあるかな

やとかへて-まつにもみえす-なりぬれは-つらきところの-おほくもあるかな


00706

[詞書]題しらす

よみ人も

おもはむとたのめし人はかはらしをとはれぬ我やあらぬなるらん

おもはむと-たのめしひとは-かはらしを-とはれぬわれや-あらぬなるらむ


00707

[詞書]源さねあきら、たのむことなくはしぬへしといへりけれは

中務

いたつらにたひたひしぬといふめれはあふには何をかへんとすらん

いたつらに-たひたひしぬと-いふめれは-あふにはなにを-かへむとすらむ


00708

[詞書]返し

源信明

しぬしぬときくきくたにもあひみねはいのちをいつのよにかのこさん

しぬしぬと-きくきくたにも-あひみねは-いのちをいつの-よにかのこさむ


00709

[詞書]時時見えけるをとこの、ゐる所のさうしにとりのかたをかきつけて侍りけれは、あたりにおしつけ侍りける

本院侍従

ゑにかける鳥とも人を見てしかなおなし所をつねにとふへく

ゑにかける-とりともひとを-みてしかな-おなしところを-つねにとふへく


00710

[詞書]大納言国経朝臣の家に侍りける女に、平定文いとしのひてかたらひ侍りて、ゆくすゑまてちきり侍りけるころ、この女にはかに贈太政大臣にむかへられてわたり侍りにけれは、ふみたにもかよはすかたなくなりにけれは、かの女の子のいつつはかりなるか、本院のにしのたいにあそひありきけるをよひよせて、ははに見せたてまつれとてかひなにかきつけ侍りける

平定文

昔せしわかかね事の悲しきは如何ちきりしなこりなるらん

むかしせし-わかかねことの-かなしきは-いかにちきりし-なこりなるらむ


00711

[詞書]返し

よみ人しらす

うつつにて誰契りけん定なき夢ちに迷ふ我はわれかは

うつつにて-たれちきりけむ-さためなき-ゆめちにまよふ-われはわれかは


00712

[詞書]おほやけつかひにてあつまの方へまかりけるほとに、はしめてあひしりて侍る女に、かくやむことなきみちなれは、心にもあらすまかりぬるなと申してくたり侍りけるを、のちにあらためさためらるる事ありてめしかへされけれは、この女ききてよろこひなからとひにつかはしたりけれは、みちにて人の心さしおくりて侍りけるくれはとりといふあやを、ふたむらつつみてつかはしける

清原諸実

くれはとりあやに恋しく有りしかはふたむら山もこえすなりにき

くれはとり-あやにこひしく-ありしかは-ふたむらやまも-こえすなりにき


00713

[詞書]返し

よみ人しらす

唐衣たつををしみし心こそふたむら山のせきとなりけめ

からころも-たつををしみし-こころこそ-ふたむらやまの-せきとなりけめ


00714

[詞書]人のもとにつかはしける

きよなりか女

夢かとも思ふへけれとおほつかなねぬにみしかはわきそかねつる

ゆめかとも-おもふへけれと-おほつかな-ねぬにみしかは-わきそかねつる


00715

[詞書]少将さねたた、かよひ侍りける所をさりてこと女につきて、それよりかすかの使にいてたちてまかりけれは、もとの女

よみ人しらす

そらしらぬ雨にもぬるるわか身かなみかさの山をよそにききつつ

そらしらぬ-あめにもぬるる-わかみかな-みかさのやまを-よそにききつつ


00716

[詞書]あさかほの花まへにありけるさうしより、をとこのあけていて侍りけるに

よみ人しらす

もろともにをるともなしに打ちとけて見えにけるかなあさかほの花

もろともに-をるともなしに-うちとけて-みえにけるかな-あさかほのはな


00717

[詞書]内にまゐりてひさしうおとせさりけるをとこに、をんな

よみ人しらす

ももしきはをののえくたす山なれや入りにし人のおとつれもせぬ

ももしきは-をののえくたす-やまなれや-いりにしひとの-おとつれもせぬ


00718

[詞書]女のもとにきぬをぬきおきて、とりにつかはすとて

これまさの朝臣

すすか山いせをのあまのすて衣しほなれたりと人やみるらん

すすかやま-いせをのあまの-すてころも-しほなれたりと-ひとやみるらむ


00719

[詞書]題しらす

つらゆき

いかて我人にもとはん暁のあかぬ別やなにににたりと

いかてわれ-ひとにもとはむ-あかつきの-あかぬわかれや-なにににたりと


00720

[詞書]題しらす

在原行平朝臣

恋しきにきえかへりつつあさつゆのけさはおきゐん心地こそせね

こひしきに-きえかへりつつ-あさつゆの-けさはおきゐむ-ここちこそせね


00721

[詞書]題しらす

よみ人しらす

しののめにあかて別れした本をそつゆやわけしと人はとかむる

しののめに-あかてわかれし-たもとをそ-つゆやわけしと-ひとはとかむる


00722

[詞書]題しらす

平中興

こひしきも思ひこめつつあるものを人にしらるる涙なになり

こひしきも-おもひこめつつ-あるものを-ひとにしらるる-なみたなになり


00723

[詞書]からうしてあへりける女に、つつむこと侍りて又えあはす侍りけれは、つかはしける

兼輔朝臣

相坂のこのしたつゆにぬれしよりわか衣手は今もかわかす

あふさかの-このしたつゆに-ぬれしより-わかころもては-いまもかわかす


00724

[詞書]題しらす

みつね

君を思ふ心を人にこゆるきのいそのたまもやいまもからまし

きみをおもふ-こころをひとに-こゆるきの-いそのたまもや-いまもからまし


00725

[詞書]おやある女にしのひてかよひけるを、をとこもしはしは人にしられしといひ侍りけれは

よみ人しらす

なき名そと人にはいひて有りぬへし心のとははいかかこたへん

なきなそと-ひとにはいひて-ありぬへし-こころのとはは-いかかこたへむ


00726

[詞書]なき名たちけるころ

伊勢

きよけれと玉ならぬ身のわひしきはみかける物にいはぬなりけり

きよけれと-たまならぬみの-わひしきは-みかけるものに-いはぬなりけり


00727

[詞書]しのひてすみ侍りける女につかはしける

あつたたの朝臣

逢ふ事をいさほにいてなんしのすすき忍ひはつへき物ならなくに

あふことを-いさほにいてなむ-しのすすき-しのひはつへき-ものならなくに


00728

[詞書]あひかたらひける人、これもかれもつつむこと有りて、はなれぬへく侍りけれは、つかはしける

よみ人しらす

あひみてもわかるる事のなかりせはかつかつ物はおもはさらまし

あひみても-わかるることの-なかりせは-かつかつものは-おもはさらまし


00729

[詞書]人のもとより暁かへりて

閑院左大臣

いつのまにこひしかるらん唐衣ぬれにし袖のひるまはかりに

いつのまに-こひしかるらむ-からころも-ぬれにしそての-ひるまはかりに


00730

[詞書]人のもとより暁かへりて

つらゆき

別れつるほともへなくに白浪の立帰りても見まくほしきか

わかれつる-ほともへなくに-しらなみの-たちかへりても-みまくほしきか


00731

[詞書]女のもとにつかはしける

これまさの朝臣

人しれぬ身はいそけとも年をへてなとこえかたき相坂の関

ひとしれぬ-みはいそけとも-としをへて-なとこえかたき-あふさかのせき


00732

[詞書]返し

小野好古朝臣女

あつまちにゆきかふ人にあらぬ身はいつかはこえむ相坂の関

あつまちに-ゆきかふひとに-あらぬみは-いつかはこえむ-あふさかのせき


00733

[詞書]女のもとにつかはしける

藤原きよたた

つれもなき人にまけしとせし程に我もあたなは立ちそしにける

つれもなき-ひとにまけしと-せしほとに-われもあたなは-たちそしにける


00734

[詞書]かれかたになりにけるをとこのもとに、さうそくてうしておくれりけるに、かかるからにうとき心地なんするといへりけれは

小野遠興かむすめ

つらからぬ中にあるこそうとしといへ隔てはててしきぬにやはあらぬ

つらからぬ-なかにあるこそ-うとしといへ-へたてはててし-きぬにやはあらぬ


00735

[詞書]五節の所にて、閑院のおほい君につかはしける

もろまさの朝臣

ときはなる日かけのかつらけふしこそ心の色にふかく見えけれ

ときはなる-ひかけのかつら-けふしこそ-こころのいろに-ふかくみえけれ


00736

[詞書]返し

閑院のおほい君

誰となくかかるおほみにふかからん色をときはにいかかたのまん

たれとなく-かかるおほみに-ふかからむ-いろをときはに-いかかたのまむ


00737

[詞書]ふちつほの人人月夜にありきけるを見て、ひとりかもとにつかはしける

きよたた

講となくおほろに見えし月影にわける心を思ひしらなん

たれとなく-おほろにみえし-つきかけに-わけるこころを-おもひしらなむ


00738

[詞書]左兵衛督師尹朝臣につかはしける

本院兵衛

春をたにまたてなきぬる鴬はふるすはかりの心なりけり

はるをたに-またてなきぬる-うくひすは-ふるすはかりの-こころなりけり


00739

[詞書]題しらす

かねもちの朝臣女

ゆふされはわか身のみこそかなしけれいつれの方に枕さためむ

ゆふされは-わかみのみこそ-かなしけれ-いつれのかたに-まくらさためむ


00740

[詞書]題しらす

在原元方

夢にたにまたみえなくにこひしきはいつにならへる心なるらん

ゆめにたに-またみえなくに-こひしきは-いつにならへる-こころなるらむ


00741

[詞書]題しらす

壬生忠岑

思ふてふ事をそねたくふるしける君にのみこそいふへかりけれ

おもふてふ-ことをそねたく-ふるしける-きみにのみこそ-いふへかりけれ


00742

[詞書]題しらす

戒仙法師

あな恋しゆきてや見ましつのくにの今も有りてふ浦のはつ島

あなこひし-ゆきてやみまし-つのくにの-いまもありてふ-うらのはつしま


00743

[詞書]やむことなき事によりてとほき所にまかりて、たたむ月はかりになんまかりかへるへきといひてまかりくたりて、みちよりつかはしける

つらゆき

月かへて君をは見むといひしかと日たにへたてすこひしきものを

つきかへて-きみをはみむと-いひしかと-ひたにへたてす-こひしきものを


00744

[詞書]おなし所に宮つかへし侍りて、つねにみならしける女につかはしける

みつね

伊勢の海にしほやくあまの藤衣なるとはすれとあはぬ君かな

いせのうみに-しほやくあまの-ふちころも-なるとはすれと-あはぬきみかな


00745

[詞書]題しらす

これのり

わたのそこかつきてしらん君かため思ふ心のふかさくらへに

わたのそこ-かつきてしらむ-きみかため-おもふこころの-ふかさくらへに


00746

[詞書]人のをとこにて侍る人をあひしりてつかはしける

右近

唐衣かけてたのまぬ時そなき人のつまとは思ふものから

からころも-かけてたのまぬ-ときそなき-ひとのつまとは-おもふものから


00747

[詞書]ひとのもとにまかれりけるに、すのとにすゑて物いひけるを、すをひきあけけれはいたくさわきけれは、まかりかへりて、又のあしたにつかはしける

藤原守正

あらかりし浪の心はつらけれとすこしによせしこゑそこひしき

あらかりし-なみのこころは-つらけれと-すこしによせし-こゑそこひしき


00748

[詞書]あひしりて侍りける女の、心ならぬやうに見え侍りけれはつかはしける

藤原のちかけの朝臣

いつ方に立ちかくれつつ見よとてかおもひくまなく人のなりゆく

いつかたに-たちかくれつつ-みよとてか-おもひくまなく-ひとのなりゆく


00749

[詞書]をとこの心やうやうかれかたに見えゆきけれは

土左

つらきをもうきをもよそに見しかともわか身にちかき世にこそ有りけれ

つらきをも-うきをもよそに-みしかとも-わかみにちかき-よにこそありけれ


00750

[詞書]女に心さしあるよしをいひつかはしたりけれは、世中の人の心さためなけれはたのみかたきよしをいひて侍りけれは

在原元方

ふちはせになりかはるてふあすかかは渡り見てこそしるへかりけれ

ふちはせに-なりかはるてふ-あすかかは-わたりみてこそ-しるへかりけれ


00751

[詞書]題しらす

伊勢

いとはるる身をうれはしみいつしかとあすか河をもたのむへらなり

いとはるる-みをうれはしみ-いつしかと-あすかかはをも-たのむへらなり


00752

[詞書]返し

贈太政大臣

あすか河せきてととむる物ならはふちせになると何かいはせん

あすかかは-せきてととむる-ものならは-ふちせになると-なにかいはせむ


00753

[詞書]女四のみこにおくりける

右大臣

葦たつの沢辺に年はへぬれとも心は雲のうへにのみこそ

あしたつの-さはへにとしは-へぬれとも-こころはくもの-うへにのみこそ


00754

[詞書]返し

女四のみこ

あしたつのくもゐにかかる心あらは世をへてさはにすますそあらまし

あしたつの-くもゐにかかる-こころあらは-よをへてさはに-すますそあらまし


00755

[詞書]せうそこつかはしける女の、又こと人にふみつかはすとききて、いまは思ひたえねといひおくりて侍りける返事に

贈太政大臣

松山につらきなからも浪こさむ事はさすかに悲しきものを

まつやまに-つらきなからも-なみこさむ-ことはさすかに-かなしきものを


00756

[詞書]宮つかへし侍りける女、ほとひさしくありてものいはむといひ侍りけるに、おそくまかりけれは

枇杷左大臣

夜ひのまにはやなくさめよいその神ふりにしとこもうちはらふへく

よひのまに-はやなくさめよ-いそのかみ-ふりにしとこも-うちはらふへく


00757

[詞書]返し

伊勢

わたつみとあれにしとこを今更にはらはは袖やあわとうきなん

わたつみと-あれにしとこを-いまさらに-はらははそてや-あわとうきなむ


00758

[詞書]心さしありていひかはしける女のもとより、人かすならぬやうにいひて侍りけれは

はせをの朝臣

しほのまにあさりするあまもおのか世世かひ有りとこそ思ふへらなれ

しほのまに-あさりするあまも-おのかよよ-かひありとこそ-おもふへらなれ


00759

[詞書]題しらす

贈太政大臣

あちきなくなとか松山浪こさむ事をはさらに思ひはなるる

あちきなく-なとかまつやま-なみこさむ-ことをはさらに-おもひはなるる


00760

[詞書]返し

伊勢

岸もなくしほしみちなは松山をしたにて浪はこさんとそ思ふ

きしもなく-しほしみちなは-まつやまを-したにてなみは-こさむとそおもふ


00761

[詞書]まもりおきて侍りけるをとこの心かはりにけれは、そのまもりを返しやるとて

これひらの朝臣のむすめいまき

世とともになけきこりつむ身にしあれはなそやまもりのあるかひもなき

よとともに-なけきこりつむ-みにしあれは-なそやまもりの-あるかひもなき


00762

[詞書]人の心つらくなりにけれは、袖といふ人をつかひにて

よみ人しらす

ひとしれぬわか物思ひの涙をは袖につけてそ見すへかりける

ひとしれぬ-わかものおもひの-なみたをは-そてにつけてそ-みすへかりける


00763

[詞書]ふみなとおこするをとこ、ほかさまになりぬへしとききて

藤原真忠かいもうと

山のはにかかる思ひのたえさらは雲井なからもあはれとおもはん

やまのはに-かかるおもひの-たえさらは-くもゐなからも-あはれとおもはむ


00764

[詞書]まちしりの君にふみつかはしたりける返事に、みつとのみありけれはつかはしける

もろうちの朝臣

なきなかす涙のいととそひぬれははかなきみつも袖ぬらしけり

なきなかす-なみたのいとと-そひぬれは-はかなきみつも-そてぬらしけり


00765

[詞書]題しらす

源たのむ

夢のことはかなき物はなかりけりなにとて人にあふとみつらん

ゆめのこと-はかなきものは-なかりけり-なにとてひとに-あふとみつらむ


00766

[詞書]心さし侍りける女のつれなきに

よみ人しらす

思ひねのよなよな夢に逢ふ事をたたかた時のうつつともかな

おもひねの-よなよなゆめに-あふことを-たたかたときの-うつつともかな


00767

[詞書]返し

よみ人しらす

時のまのうつつをしのふ心こそはかなきゆめにまさらさりけれ

ときのまの-うつつをしのふ-こころこそ-はかなきゆめに-まさらさりけれ


00768

[詞書]題しらす

くろぬし

玉津島ふかき入江をこく舟のうきたるこひも我はするかな

たまつしま-ふかきいりえを-こくふねの-うきたるこひも-われはするかな


00769

[詞書]題しらす

紀内親王

つのくにのなにはたたまくをしみこそすくもたくひのしたにこかるれ

つのくにの-なにはたたまく-をしみこそ-すくもたくひの-したにこかるれ


00770

[詞書]人のもとにまかりて、いれさりけれはすのこにふしあかして、かへるとていひいれ侍りける

よみ人しらす

夢ちにもやとかす人のあらませはねさめにつゆははらはさらまし

ゆめちにも-やとかすひとの-あらませは-ねさめにつゆは-はらはさらまし


00771

[詞書]返し

よみ人しらす

涙河なかすねさめもあるものをはらふはかりのつゆやなになり

なみたかは-なかすねさめも-あるものを-はらふはかりの-つゆやなになり


00772

[詞書]心さしはありなから、えあはさりける人につかはしける

よみ人しらす

みるめかる方そあふみになしときく玉もをさへやあまはかつかぬ

みるめかる-かたそあふみに-なしときく-たまもをさへや-あまはかつかぬ


00773

[詞書]返し

よみ人しらす

名のみして逢ふ事浪のしけきまにいつかたまもをあまはかつかん

なのみして-あふことなみの-しけきまに-いつかたまもを-あまはかつかむ


00774

[詞書]心さしありて人にいひかはし侍りけるを、つれなかりけれはいひわつらひてやみにけるを、思ひいてていひおくりける返ことに、心ならぬさまなりといへりけれは

よみ人しらす

葛木やくめちのはしにあらはこそ思ふ心をなかそらにせめ

かつらきや-くめちのはしに-あらはこそ-おもふこころを-なかそらにせめ


00775

[詞書]人のもとにつかはしける

右大臣

かくれぬにすむをしとりのこゑたえすなけとかひなき物にそ有りける

かくれぬに-すむをしとりの-こゑたえす-なけとかひなき-ものにそありける


00776

[詞書]つりとののみこにつかはしける

陽成院御製

つくはねの峰よりおつるみなの河恋そつもりて淵となりける

つくはねの-みねよりおつる-みなのかは-こひそつもりて-ふちとなりける


00777

[詞書]あひしりて侍りける人のまうてこすなりてのち、心にもあらすこゑをのみきくはかりにて、又おともせす侍りけれは、つかはしける

よみ人しらす

かりかねのくもゐはるかにきこえしは今は限のこゑにそありける

かりかねの-くもゐはるかに-きこえしは-いまはかきりの-こゑにそありける


00778

[詞書]返し

かねみの王

今はとて行きかへりぬるこゑならはおひ風にてもきこえましやは

いまはとて-ゆきかへりぬる-こゑならは-おひかせにても-きこえましやは


00779

[詞書]をとこのけしき、やうやうつらけに見えけれは

小町

心からうきたる舟にのりそめてひと日も浪にぬれぬ日そなき

こころから-うきたるふねに-のりそめて-ひとひもなみに-ぬれぬひそなき


00780

[詞書]をとこの心つらく思ひかれにけるを、女なほさりになとかおともせぬといひつかはしたりけれは

よみ人しらす

忘れなんと思ふ心のやすからはつれなき人をうらみましやは

わすれなむと-おもふこころの-やすからは-つれなきひとを-うらみましやは


00781

[詞書]よひに女にあひて、かならすのちにあはむとちかことをたてさせて、あしたにつかはしける

藤原滋幹

ちはやふる神ひきかけてちかひてしこともゆゆしくあらかふなゆめ

ちはやふる-かみひきかけて-ちかひてし-こともゆゆしく-あらかふなゆめ


00782

[詞書]院のやまとにあふきつかはすとて

右大臣

おもひには我こそいりてまとはるれあやなく君や涼しかるへき

おもひには-われこそいりて-まとはるれ-あやなくきみや-すすしかるへき


00783

[詞書]かねみちの朝臣かれかたになりて、としこえてとふらひて侍りけれは

元平のみこのむすめ

あらたまの年もこえぬる松山の浪の心はいかかなるらむ

あらたまの-としもこえぬる-まつやまの-なみのこころは-いかかなるらむ


00784

[詞書]もとのめにかへりすむとききて、をとこのもとにつかはしける

よみ人しらす

わかためはいととあさくやなりぬらん野中のし水ふかさまされは

わかためは-いととあさくや-なりぬらむ-のなかのしみつ-ふかさまされは


00785

[詞書]女のもとにつかはしける

源中正

あふみちをしるへなくてもみてしかな関のこなたはわひしかりけり

あふみちを-しるへなくても-みてしかな-せきのこなたは-わひしかりけり


00786

[詞書]返し

しもつけ

道しらてやみやはしなぬ相坂の関のあなたは海といふなり

みちしらて-やみやはしなぬ-あふさかの-せきのあなたは-うみといふなり


00787

[詞書]女のもとにまかりたるに、はやかへりねとのみいひけれは

よみ人しらす

つれなきを思ひしのふのさねかつらはてはくるをも厭ふなりけり

つれなきを-おもひしのふの-さねかつら-はてはくるをも-いとふなりけり


00788

[詞書]あつよしのみこの家に、やまとといふ人につかはしける

左大臣

今更に思ひいてしとしのふるをこひしきにこそわすれわひぬれ

いまさらに-おもひいてしと-しのふるを-こひしきにこそ-わすれわひぬれ


00789

[詞書]いひかはしける女の、いまは思ひわすれねといひ侍りけれは

はせをの朝臣

わかためは見るかひもなし忘草わするはかりのこひにしあらねは

わかためは-みるかひもなし-わすれくさ-わするはかりの-こひにしあらねは


00790

[詞書]しのひてかよひける人に

藤原ありよし

あひ見てもつつむ思ひのわひしきは人まにのみそねはなかれける

あひみても-つつむおもひの-わひしきは-ひとまにのみそ-ねはなかれける


00791

[詞書]物いひ侍りけるをとこ、いひわつらひて、いかかはせむ、いなともいひはなちてよといひ侍りけれは

よみ人しらす

を山田のなはしろ水はたえぬとも心の池のいひははなたし

をやまたの-なはしろみつは-たえぬとも-こころのいけの-いひははなたし


00792

[詞書]方たかへに、人の家に人をくしてまかりて、かへりてつかはしける

よみ人しらす

千世へむと契りおきてし姫松のねさしそめてしやとはわすれし

ちよへむと-ちきりおきてし-ひめまつの-ねさしそめてし-やとはわすれし


00793

[詞書]物いひける女に、せみのからをつつみてつかはすとて

源重光朝臣

これを見よ人もすさめぬ恋すとてねをなくむしのなれるすかたを

これをみよ-ひともすさへぬ-こひすとて-ねをなくむしの-なれるすかたを


00794

[詞書]人のもとよりかへりまてきてつかはしける

坂上これのり

あひみてはなくさむやとそ思ひしになこりしもこそこひしかりけれ

あひみては-なくさむやとそ-おもひしに-なこりしもこそ-こひしかりけれ