弟
弟
――弟益吉は知多半󠄁島の西海岸
なる寒󠄁村小鈴ヶ谷に丁稚奉公をなす
弟の攝りておこせし
十六枚の寫眞われらは見たり
親子三人
蟲のごとつどひて見たり
この家がなんぢのつとむる店か
この海が店の前󠄁なる海か
この突堤にも舟はつくか
このとべるはかもめか
弟よ 汝がわざは
いまだ拙ければ
もののあやめさだかならねど
これら木の葉のごとき
十六枚の寫眞をつづりて
われらは見たり
汝が
かかる店にて貧しき海村の人々に
味噌たまりひさぐなんぢが日々の
いかに寂しきかを
弟よ 風邪ひくな
夜はとくいねよ
なんぢが兄は遠󠄁く家鄕にありて
なんぢが村にいづくより早く
春來れかしと祈る
この著作物は、1943年に著作者が亡くなって(団体著作物にあっては公表又は創作されて)いるため、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(回復期日を参照)の時点で著作権の保護期間が著作者(共同著作物にあっては、最終に死亡した著作者)の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)50年以下である国や地域でパブリックドメインの状態にあります。
この著作物は、アメリカ合衆国外で最初に発行され(かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず)、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつ、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日)に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。