弁護士法 (1893年)
朕帝国議会の協賛を経たる弁護士法を裁可し茲に之を裁可せしむ
御名御璽
明治26年3月3日
法律第7号
弁護士法
第1章 弁護士の資格及職務
第2条 弁護士たらんと欲する者は左の条件を具ふることを要す。
第一 日本臣民にして民法上の能力を有する成年以上の男子たること
第二 弁護士試験規則に依り試験に及第したること
第3条 弁護士試験に関する規則は司法大臣之を定む。
第4条 左に掲げる者は試験を要せずして弁護士たることを得。
第一 判事検事たる資格を有する者、又は弁護士にして其の請求に因り登録を取消したる者
第5条 左に掲ぐる者は弁護士たることを得ず。
第二 不敬罪、偽造罪、偽証罪、賄賂罪、誣告罪、窃盗罪、詐欺取財罪、費消罪、臓物に関する罪、遺失物埋蔵物に関する罪、家資分散に関する罪、及び刑法第175条、同第260条、同第282条、同第286条、同第287条、同第360条に記載したる定役に服すべき軽罪を犯したる者
第三 公職停止中の者
弁護士は商業を営むことを得ず。但し、弁護士会の許可を得たるものは此の限に在らず。
第2章 弁護士名簿
第7条 弁護士は弁護士名簿に登録せらるることを要す。
第8条 各地方裁判所に弁護士名簿を備う。
弁護士は其の氏名を登録したる地方裁判所の所属とす。
刑事訴訟法第264条及第279条の所属弁護士は受訴裁判所所在地の弁護士を以て之に充つ。
第9条 弁護士名簿に登録を請う者は其の所属地方裁判所の検事局を経由して司法大臣に請求書を差出す可し。
登録請求書には第2条乃至第6条の事項に関する証明書を添う可し。
第10条 登録を請う者は登録手数料として金20円を納む可し。
他の地方裁判所に登録換を為すときは手数料として金10円を納む可し。
第11条 登録に関する規制は司法大臣之を定む。
第3章 弁護士の権利及義務
第13条 弁護士は正当の理由を証明するに非ざれば裁判所の命じたる職務を行うを辞することを得ず。
第14条 弁護士は左に掲げる訴訟事件に付き其の職務を行うことを得ず。
第一 相手方の協議を受けて之を賛助し、又は委任を受けたる事件
第二 判事検事奉職中取扱いたる事件
第三 仲裁手続に依り仲裁人と為りて取扱いたる事件
第15条 弁護士は係争権利を買い受くことを得ず。
第16条 弁護士は訴訟事件の委任を承諾せざるときは速に其の旨を委任者に通告す可し。若、通告を怠りたるときは之が為め生じたる損害の責に任ず。
第17条 弁護士は所属地方裁判所、又は其の管内区裁判所所在の地に事務所を定め、之を所属地方裁判所検事局に届出可し。
第4章 弁護士会
第18条 弁護士は其の所属地方裁判所毎に弁護士会を設立す可し。
第19条 弁護士会は所属地方裁判所検事正の監督を受く。
第20条 弁護士会に会長を置く。又、副会長を置くことを得。
第21条 弁護士会は毎年定期総会を開く。又、臨時総会を開くことを得。
第22条 弁護士会は便宜により常議員を置くことを得。
第23条 弁護士会は其の会則を定め検事正を経由して司法大臣の認可を受く可し。
弁護士は所属弁護士会の会則を遵守す可し。
第24条 弁護士は弁護士会に加入したる後に非ざれば職務を行うことを得ず。
第25条 弁護士はその所属地方裁判所管轄外に事務所を設け職務を行わんとするときは其の職務を行うべき地方裁判所所在の弁護士会会則を遵守すべし。
第26条 弁護士会会則には会長、副会長、常議員の選挙及其の職務、総会、常議員会及其の議事に関する規程、弁護士の風紀を保持する規程、並に謝金及手数料に関する規程、其の他会務の処理に必要なる規程を設く可し。
第27条 会長副会長及常議員選挙の結果、総会及常議員会開会の日時場所及議題は弁護士会より之を検事正に届出可し。
第28条 弁護士会に於ては左の事項の外、議することを得ず。
第29条 検事正は弁護士会の会務に臨席することを得。又、会議の結果を報告せしむることを得。
第30条 弁護士会の会議にして法律命令及弁護士会会則に違うものあるときは司法大臣は其の議決を無効とし、又は其の議事を停止することを得。
第5章 懲戒
第31条 弁護士にして此の法律、又は弁護士会会則に違背したる所為あるときは会長は常議員会、又は総会の決議に依り懲戒を求むる為検事正に申告す可し。
検事正は会長の申告に依り、又は職権を以て懲戒訴追を検事長に請求す可し。
第32条 弁護士に対する懲戒事件に付ては管轄控訴院に於て懲戒裁判所を開く可し。
第33条 懲戒罰は左の4種とす。
第一 譴責
第二 100円以下の過料
第三 1年以下の停職
第四 除名
第34条 懲戒処分に付ては判事懲戒法の規定を準用す。
附則
第35条 現在の代言人は本法施行の日より60日以内に弁護士名簿に登録を請うときは試験を要せずして弁護士たることを得。
第36条 現在の代言人は本法施行前に委任を受けたる事件に付ては其の判決に至るまで職務を行うことを得。
第37条 第12条の規定は現在の代言人に之を適用せず。
第38条 本法は明治26年5月1日より施行す。
法律第7号参照
法律第96号刑事訴訟法(明治23年10月7日官報)抄録
第264条 控訴院に於て地方裁判所が軽罪なりと判決したる事件を重罪なりとするとき、又は其事件を重罪なりとして主たる控訴又は付帯控訴ありたるときは、其公判を止め更に重罪事件として裁判す可き旨の決定を為し、受命判事をして其事件の取調を為し報告を為さしむ可し。
受命判事は予審判事に属する処分を為すことを得。
本条の場合に於て被告人弁護人を選任せざるときは、第237条第2項の規定に従い裁判長の職権を以て弁護人を選任す可し。
第279条 上告申立人及び相手方は弁護士を差出すことを得。
重罪の刑の言渡を受けたる者上告を為し、又は検事より重罪の刑に該る可きものとして上告を為したる場合に於て刑の言渡を受けたる者自ら弁護士を選任せざるときは、上告裁判所長の職権を以て其の裁判所所属の弁護士中より之を選任す可し。