広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式あいさつ (1999年)
本日ここに、被爆五十四周年の広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式が執り行われるに当たり、原子爆弾により尊い命を奪われた数多くの方々の御霊に対し、謹んで哀悼の意を捧げます。そして、今なお原爆の後遺症に苦しんでおられる方々に対し、心からお見舞い申し上げます。
また、本年は、「広島平和記念都市建設法」の施行五十周年に当たります。原爆で破壊された廃墟の中から立ち上がり、今日、百十万人余の人口を擁する、中・四国地方の中枢都市を築き上げられた市民の皆様の御努力に対し、深く敬意を表します。
人類史上唯一の被爆国である我が国は、広島、長崎の悲劇を再び繰り返してはならないという固い決意の下、日本国憲法を守り、非核三原則を堅持するとともに、核兵器のない世界と恒久平和の実現を訴え続けてまいりました。
一方で、冷戦終結後の国際社会においては、ユーゴスラビアのコソボ紛争にみられるように、民族問題や宗教問題などを背景とする地域紛争が後をたたず、また大量破壊兵器を新たに獲得しようとの動きが見られるなど、世界の安全保障環境は厳しく、核兵器廃絶への道のりは依然として険しい状況にあります。
こうした中で、我が国政府の提唱により発足した「核不拡散・核軍縮に関する東京フォーラム」が先般報告書を取りまとめました。この中では、特に米ロに対し、新たな包括的核軍縮交渉の中で戦略核弾頭をまず千発まで削減すること、さらにその後、核兵器を保有する五ヶ国による核軍縮交渉を通じて「核廃絶の一歩手前」まで核を削減することなど、核廃絶への具体的道筋についての提言を、全世界に向けて行っております。東京フォーラムを共催された広島平和研究所、日本国際問題研究所の御尽力に対し、深く敬意を表します。日本国政府としましては、この提言を踏まえつつ、引き続き核不拡散体制を堅持・強化し、核兵器国の核軍縮の一層の進展により核のない世界を実現するため、今後とも積極的な役割を果たしてまいります。それが唯一の被爆国である我が国に課せられた使命であると考えます。
また、被爆者の方々に対しましては、平成六年十二月に制定されました「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律」に基づき、保健、医療、福祉にわたる総合的な被爆者援護施策の充実を図ってまいりました。今後とも高齢化の進行など被爆者の方々の実情を十分汲み取りながら、被爆者の方々に対する援護施策の推進に向けて誠心誠意努めてまいります。また、今年度着工する広島原爆死没者追悼平和祈念館につきましては、原爆死没者の尊い犠牲を銘記するとともに、永遠の平和を祈念し、原爆の惨禍を全世界に伝えるための施設となるよう、努めてまいります。
終わりに、本日の式典に臨み、平和への決意を新たにするとともに、亡くなられた方々の御冥福と、御遺族並びに被爆者の皆様の今後の御多幸を心からお祈りし、併せて参列者並びに広島市民の皆様の御健勝を祈念いたしまして、私のあいさつといたします。
平成十一年八月六日
内閣総理大臣 小渕恵三
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