平成十八年公安審査委員会告示第一号

「麻原彰晃こと松本智津夫を教祖・創始者とするオウム真理教の教義を広め、これを実現することを目的とし、同人が主宰し、同人及び同教義に従う者によって構成される団体」に対する規制処分請求事件について、次のとおり決定したので、無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律(平成十一年法律第百四十七号)第二十六条第六項において準用する同法第二十四条第三項により告示する。

平成十八年一月三十日

公安審査委員会委員長  田中  康久

決                      定

被    請    求    団   体  麻原彰晃こと松本智津夫を教祖・創始者とするオウム真理教の教義を広め、これを実現することを目的とし、同人が主宰し、同人及び同教義に従う者によって構成される団体

主たる事務所の所在地  東京都世田谷区南烏山6丁目30番19号「GSハイム烏山」1階

代 表 者  の 氏 名  麻原彰晃こと松本智津夫

昭和30年3月2日生(当50年)

代 表 者  の 職 業  団体主宰者

代 表 者  の 居 所  東京都葛飾区小菅1丁目35番1号  東京拘置所

主 幹 者  の 氏 名  上祐史浩

昭和37年12月17日生(当43年)

主 幹 者  の 職 業  団体役員

主 幹 者  の 居 所  東京都世田谷区南烏山6丁目30番19号「GSハイム烏山」201号室

平成17年11月25日、公安調査庁長官大泉隆史から、無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律(平成11年法律第147号。以下「法」という。)第12条第1項後段の規定に基づき、被請求団体に対する法第5条第4項の処分の請求があったので、当委員会は、審査を遂げ、次のとおり決定する。

主                      文

1  平成15年1月23日付けで期間更新決定を受けた、平成12年1月28日付け当委員会決定に係る被請求団体を、3年間、公安調査庁長官の観察に付する処分の期間を、更新する。

2  被請求団体は、法第5条第5項において準用する同条第3項第6号に規定する「公安審査委員会が特に必要と認める事項」として、次の事項を公安調査庁長官に報告しなければならない。

(1)  被請求団体の構成員に関する出家信徒及び在家信徒の別並びに出家信徒の位階

(2)  被請求団体作成のインターネット上のホームページに係る接続業者名、契約名義人の氏名及び掲載の管理・運営責任者の氏名

(3)  被請求団体(その支部、分会その他の下部組織を含む。以下、この項において同じ。)の営む収益事業(いかなる名義をもってするかを問わず、実質的に被請求団体が経営しているものをいう。)の種類及び概要、事業所の名称及びその所在地、当該事業の責任者及び従事する構成員の氏名並びに各事業に関する会計帳簿を備え置いている場所(その会計帳簿が電磁的記録で作成されている場合には、当該電磁的記録媒体の保管場所)

理                      由

第1  本件処分請求の内容等

公安調査庁長官の本件処分請求に係る処分の内容及び請求の原因となる事実の要旨は別添1―1「更新請求書」記載のとおりであり、同長官提出に係る証拠書類の目録は別添1―2「証拠書類一覧表」記載のとおりである。

第2  被請求団体の意見

被請求団体の意見は、別添2のとおりである。

第3  当委員会における審査の概要

当委員会は、法に規定する規制措置が国民の基本的人権に直接関わるものであることを念頭に置き、本件処分請求に係る処分要件の存否について特に慎重に認定判断を行うよう努めた。

そして、被請求団体に十分な防御の機会を与えるため、法の予定しているところではないが、当委員会の裁量により、公安調査庁長官提出に係る①更新請求書、②証拠書類目録及び証明すべき事実との関係を明らかにした書面、③証拠の全部(別紙1―2記載の証拠書類計482点)を被請求団体に開示することとし、被請求団体代理人弁護士前田裕司に対し、上記①ないし③の写しを交付した。さらに、法第26条第3項の規定に基づき被請求団体の意見を陳述した書面を提出させるとともに、これも法の予定しているところではないが、平成18年1月10日、被請求団体から陳述書の内容の口頭による陳述を聴取した。

その後、当委員会は、可及的速やかに審査を遂げ、本決定に至ったものである。

第4  当委員会の認定

1  平成15年1月の期間更新決定後現在に至るまでの間における被請求団体をめぐる動向

当委員会は、平成15年1月23日に、平成12年1月28日付け当委員会決定(以下「本件観察処分決定」ということがある。)に係る被請求団体を、3年間、公安調査庁長官の観察に付する処分の期間を更新する旨の決定(以下「前回の期間更新決定」ということがある。)をし、この決定は、平成15年1月29日、官報で公示され、同年2月1日、期間が更新された。

被請求団体は、前回の期間更新決定後である平成15年2月3日、その中心的団体の名称を「宗教団体・アレフ」から「宗教団体アーレフ」に変更する旨発表したが、上祐ら幹部を始めとして、 ほとんどその構成に変化はなく、また、後記のとおり、麻原彰晃こと松本智津夫(以下「松本」という。)を代表者、かつ、教祖として組織の頂点に位置づけた上、同人が創始したオウム真理教の教義や位階制度の根幹を堅持するなど、その団体の性質にも基本的な変化はなく、団体としての同一性を保持したまま現在に至っている。

また、被請求団体は、平成15年3月27日、東京地方裁判所に対し、前回の期間更新決定の取消しを求める行政訴訟を提起したが、同裁判所は、平成16年10月29日、これを棄却し、同判決は確定している。

2  被請求団体の法第5条第1項各号該当の有無

(1)  第1号該当性について

松本が無差別大量殺人行為である、いわゆる「松本サリン事件」及び「地下鉄サリン事件」(以下「両サリン事件」ということがある。)の首謀者であることは、当委員会が本件観察処分決定及び前回の期間更新決定(以下、この二つの決定を「両決定」ということがある。)において認定したとおりであり、また、松本が、下記のとおり、「被請求団体の活動に影響力を有している」ことが認められるので、被請求団体には、法第5条第1項第1号に該当する事由がある。

ア  法第5条第1項第1号の、「影響力を有している」とは、特定の者の言動が、団体の活動の方向性を左右する力あるいは内容に変化を生じさせる力を有していることをいうものと解されるところ、両決定のいずれの時期においても、松本が、被請求団体の活動に影響力を有していたことは、両決定において当委員会が認定したとおりである。

イ  被請求団体における松本の影響力が容易に払しょくされ得るものではないことは、当委員会が両決定において認定したところであるが、前回の期間更新決定において認定した松本が影響力を有すると判断する前提となった諸事情は、同決定から現在に至るまでも、基本的に変化はない。かえって、下記のとおり、前回の期間更新決定当時に比べ、松本及び同人の説く教義への傾斜が強まっていると認められる。

すなわち、被請求団体においては、①前回の期間更新決定後も、幹部構成員らが、各地における説法において、構成員に対し、松本を、主神であるシヴァ神の化身であり、かつ、教祖であると位置づけ、「尊師」、「グル」と尊称し、松本及び同人の説く教義への絶対的帰依を強く指導するとともに、松本の説く「衆生救済」を実現するように強調し、両サリン事件についても、「衆生救済」のためのタントラ・ヴァジラヤーナの実践として正しいものであったなどとする説法を繰り返していること、②特に平成16年1月以降は、松本が行った、タントラ・ヴァジラヤーナの実践や日本シャンバラ化計画などの危険な説法を細部まで忠実に再現した教材を相次いで多数発行して構成員に教学させるとともに、各種の修行集中月間を新たに連続して設定し、松本が直接指導していたころと同様の、PSIの装着の奨励や、不眠不休で松本への絶対的帰依を誓う詞章を唱え続けさせるなど、マインドコントロールの手法を用いた儀式・修行を行い、自己の意思や思考を捨て、松本及び同人の説いた教義に絶対的に従う意識を扶植する指導を強化していること、③解脱に至るために必要とされる煩悩の滅尽のために、松本が弟子の一人一人の煩悩の特質を見抜いて特別な課題を与え、その弟子が取り組むことを意味する「マハームドラーの修行」の名の下に両サリン事件が敢行されたものであるところ、平成13年8月ころから現在に至るまで、「マハームドラー・イニシェーション特別修行」と称する修行が継続されているほか、幹部構成員の中には、構成員に対し、両サリン事件のみならず、最近被請求団体の構成員によって敢行された違法行為についても「マハームドラーの修行」として正当化する内容の説法をする者がいること、④現在も、松本が説いていた終末思想を背景とする幹部構成員の説法等を通じて、構成員の危機感をあおっていること、⑤両サリン事件に関与した一部の者が、なおも、自己の刑事裁判において、松本を崇拝し、両サリン事件を正当化しているところ、幹部構成員が、かかる関与者の公判態度を賞賛していること、⑥破棄されたと公表されていた殺人を暗示する内容の危険な教義を説いた松本の説法を収録したCD―RやDVCAMマスターテープが、現在も、構成員が容易に立ち入ることができる場所に整理されて保管されていること、⑦機関誌には松本への帰依を誓う構成員らの言辞が多数掲載されており、一般の構成員らにも被請求団体の指導方針が深く浸透していること、さらに、⑧かつての松本の指示に基づき、幹部構成員の説法や機関誌「進化」を通じて、松本への崇拝を継続させ、構成員が松本の指示に従う体制を維持するため、松本を「王」とし、その「王権」を松本の子に継承させる動きを見せていることが認められる。

ウ  これらの事実からすれば、被請求団体は、前回の期間更新決定前と比べて、むしろ松本及び同人の説く教義に対する傾倒を深めている傾向にあり、現在においても依然として、絶対者である松本の存在が被請求団体の存立の基盤をなしていることが認められるのであって、松本が勾留され、いまだ弁護人及び家族以外の者との接見が制限されていることを十分考慮しても、被請求団体においては、現在も、依然として、松本が、その活動に絶対的ともいえる影響力を有しているものと認められる。

(2)  第2号該当性について

無差別大量殺人行為に関与した者のうち、松本、土谷正実(以下「土谷」という。)、新實智光(以下「新實」という。)、横山真人(以下「横山」という。)、渡部和実(以下「渡部」という。)及び角川知己(以下「角川」という。)については、下記のとおり、現在も、松本は、被請求団体の役員かつ構成員であると認められ、土谷以下の5名も、被請求団体の構成員であると認められるので、被請求団体には、法第5条第1項第2号に該当する事由がある。

ア  松本について

松本が、両サリン事件当時から前回の期間更新決定時に至るまで、被請求団体の代表者たる役員であり、かつ、構成員であることは、同決定において当委員会が認定したとおりである。 ところで、法第5条第1項第2号の「役員」とは、団体の意思決定に関与し得る立場にあって、当該団体の事務に従事する者をいうが、決定権限の強い者にあっては、必ずしも具体的な事務処理行為を分担し、直接的に個々の事務的行為に携わることを要せず、団体の基本的な方針を示し、具体的な個々の事務の遂行を他の者に行わせる場合であっても、「役員」といえるものであると解されるところ、松本は、下記のとおり、現在でも、その絶対的な地位に基づき、被請求団体の意思決定の権限を強く有すると認められるので、被請求団体の具体的な事務に直接携わらなくても、過去・現在の自己の言動を通じて、団体の基本方針を示し、具体的な個々の事務の遂行を構成員に行わせていることが明らかであるから、依然として、被請求団体の主宰者であり、代表者たる役員であって、かつ、その構成員であると認められる。

すなわち、被請求団体においては、現在も、依然として、絶対者である松本の存在が被請求団体の存立の基盤をなしており、しかも、前回の期間更新決定時に比べ、その絶対性がより強固なものになっていることは、前記認定のとおりである。

そして、被請求団体は、かつて松本から私選弁護人を通じて指示されたことに従い、名称をオウム真理教から「宗教団体・アレフ」へ変更し、運営体制を正大師・正悟師の合議制とし、松本の子を「王権」継承者として扱うなどしている上、現在においても、構成員らは、教義及び位階制度など、被請求団体の運営の根幹部分を変更することは松本しかできないとの認識を有していること、松本の説いた教義を行動規範とし、その活動方針も、松本が説いた「宗教と科学の合一」としていることが認められ、これらの事実と、前記の松本の被請求団体に対する影響力の強さにかんがみると、被請求団体は、かつて松本から示された基本方針の下に運営されており、松本から明示的な指示があればそれにより、明示の指示がなければ、同人の意思を推し量りつつそれに従った運営を継続していることが認められる。これによると、被請求団体は、松本から従前と異なる指示があれば、直ちにそれに従うことは明らかである上、松本も、被請求団体がそのような認識にあることを十分認識しているものと認められる。また、現在では、松本は、私選弁護人や、王権継承者とされる子を含む家族との接見も可能となり、現実に同人らとの接見も繰り返されていることが認められ、被請求団体ないし構成員との意思疎通がより容易な状況となっているのであるから、なおのこと、松本が具体的な作為をもって指示を行っていないとすれば、それは、松本が、過去に自らが決定した被請求団体の基本方針を変更する必要がないと指示しているものと認められ、さらには、かかる指示をもって、構成員をして、被請求団体の具体的な意思決定や事務処理を行わせているものと認められる。

したがって、現在も、松本は、被請求団体の主宰者であり、代表者たる役員であり、かつ、構成員であると認められる。

イ  土谷、新實、横山、渡部及び角川について

土谷及び新實は両サリン事件に、横山は「地下鉄サリン事件」に、渡部及び角川は「松本サリン事件」に、それぞれ正犯ないし幇助犯として関与した者であるから、これら5名は、いずれも無差別大量殺人行為に関与した者と認められる。

(ア)  このうち、角川は、自身の刑事事件の公判中には教団に脱会届を出した旨述べていたものの、前回の期間更新決定後、刑務所から出所した後に宗教団体アーレフに入会し、平成15年5月15日の公安調査庁長官あて第14回報告書において、被請求団体自体が、宗教団体アーレフに入会した在家信徒として報告し、それ以来、現在に至るまで、一貫して被請求団体の構成員として扱われているから、現在も、被請求団体の構成員であることは明らかである。

(イ)  また、土谷、新實、横山及び渡部は、いずれも現在まで被請求団体からの脱退を表明していない上、刑事事件の公判廷において、両サリン事件を正当化し、刑事事件の公判廷における、「今もオウム真理教徒」と供述するなどの言動等にかんがみれば、依然として強く、松本及び同人の説く教義に帰依しているものと認められる。

そして、被請求団体は、公安調査庁長官あて報告書の中で、平成16年5月15日付け第18回報告書以降、土谷、新實、横山及び渡部の氏名を掲載していないが、第1回報告書から第17回報告書までは、「勾留中の旧オウム真理教出家信徒(接見禁止のため当然宗教団体・アレフには未入会)」、「勾留中の旧オウム真理教出家信徒(宗教団体・アレフには未入会)」、「構成員とは思われないが、勾留中の旧オウム真理教出家信徒(宗教団体・アレフには未入会)」、「構成員とは思われないが、勾留中の旧オウム真理教出家信徒(宗教団体アーレフには未入会)」と肩書きを変えながらも、同人らの氏名を掲載して報告していたのであって、第18回報告書以降、同人らの氏名を掲載しなくなったことにつき、何ら合理的説明がなされていないこと、被請求団体は、前回の期間更新決定の際、同じく無差別大量殺人行為に関与した元構成員であった冨樫若清夫(平成17年1月死亡)を構成員として認めるつもりがない旨主張していながら、同人が平成16年4月6日に出所するや、直ちにその復帰を認め、その1か月余り後の第18回報告書において同人の氏名を掲載したことなどからすれば、公安調査庁長官あての報告書に土谷、新實、横山及び渡部の氏名が掲載されていないことのみを理由に構成員性を否定することはできない。

かえって、被請求団体は、これまで弁護士費用の負担や書籍等の差入れ、面会など、土谷、新實、横山及び渡部に対する支援を行ってきたこと、被請求団体内部では、無差別大量殺人行為やその関与者である新實らを正当化するような構成員の言辞があることが認められ、さらに、現在に至るまで、土谷、新實、横山及び渡部を除名処分としていないことにかんがみると、被請求団体は、土谷、新實、横山及び渡部を加入者として認知しているということができ、また、同人らに被請求団体への帰属意識がある以上、土谷、新實、横山及び渡部は、現在も、被請求団体の構成員と認められる。

(3)  第3号該当性について

無差別大量殺人行為当時、被請求団体の役員であった松本、上祐史浩(以下「上祐」という。)、杉浦茂(以下「杉浦」という。)及び野田成人(以下「野田」という。)は、下記のとおり、現在も被請求団体の役員であると認められるので、被請求団体には、法第5条第1項第3号に該当する事由がある。

ア  松本について

松本が、両サリン事件当時、被請求団体の役員であり、かつ、前回の期間更新決定当時もその地位にあったことは、同決定において当委員会が認定したとおりであるが、前記第4の2(2)において認定したとおり、同人は、現在も、被請求団体の代表者たる役員であると認められる。

イ  上祐、杉浦及び野田について

(ア)  被請求団体は、無差別大量殺人行為を行う直前の平成6年6月ころ、団体の規模拡大に伴い、省庁制を導入し、各省庁大臣を任命するなどして、絶対者たる松本の有していた権限を一部分配し、各大臣は、その担当する省庁の人事権を掌握し、分掌事務に関わる運営の意思決定や執行に主体的に関与するようになった。

なお、無差別大量殺人行為当時、被請求団体においては、松本が絶対的地位を有し、被請求団体の重要事項に関する最終意思決定者であったことは疑いないが、各大臣が、松本の意思に反しない限度内において、自己の判断に基づいて人事権を行使するとともに、分掌事務を処理していたことが認められるから、各大臣は、法第5条第1項第3号に定める「役員」に該当することが明らかである。

(イ)  上祐は、無差別大量殺人行為当時、宗教法人「オウム真理教」責任役員の立場にあり、松本に次ぐ正大師の位階に就いていたほか、「ロシア支部大臣」と呼称するかどうかはとも かく、オウム真理教の教勢拡大、武装化のための重要拠点であったロシア支部における運営全般の統括責任者であった。

しかも、上祐は、無差別大量殺人行為以前から、被請求団体が、当時の同団体を取り巻く状況等を踏まえて一般社会と対決姿勢にあり、武装化しつつあったことを十分把握していたことが認められるから、近い将来、被請求団体が無差別大量殺人行為を敢行するに至る可能性があることは十分予想し得る立場にあった。

また、上祐は、無差別大量殺人行為後、間もなくして日本に呼び戻され、外報部長に就任し、平成7年5月ころには、緊急対策本部長に就任した。

したがって、上祐は、無差別大量殺人行為の前後を通じて、被請求団体の武装化に関する重要な情報を知り得る枢要な地位に立ち、被請求団体の事務に従事し、かつ、その意思決定に関与し得る立場にあった者と認められる。

(ウ)  無差別大量殺人行為当時、杉浦は、文部省大臣として、被請求団体の若手構成員の教育や教学の推進等を行うなどの文部省の事務全般の統括責任者の地位にあり、また、野田は、車輌省大臣として、被請求団体の構成員や食料等の輸送を行うなどの車輌省の事務全般の統括責任者の地位にあり、それぞれ、その担当する「省庁」の人事権を掌握し、分掌事務に関わる運営の意思決定や執行に主体的に関与していたのであるから、被請求団体の事務に従事し、かつ、その意思決定に関与し得る立場にあった者と認められる。

(エ)  そして、現在、被請求団体は、前記のとおり、松本の指示に従い、正大師・正悟師により構成される合議制の指導部によって運営されているところ、上祐は正大師として、杉浦及び野田は正悟師として、かかる合議制指導部の中核を占める上、「宗教団体アーレフ代表」あるいは「宗教団体アーレフ役員」と称しているなど、被請求団体の事務に従事する者のうち、その意思決定に関与し得る立場にあることは明らかであるから、いずれも、現在、被請求団体の役員と認められる。

(4)  第4号該当性について

被請求団体は、下記のとおり、殺人を暗示的に勧める「綱領」を保持していると認められるので、被請求団体には、法第5条第1項第4号に該当する事由がある。

ア  被請求団体の教義

(ア)  オウム真理教の教義が、「衆生救済」に至る最速の道である秘密金剛乗(タントラ・ヴァジラヤーナ)の実践をすることをもっとも重視するものであって、その教義には殺人を暗示的に勧める内容を含んでいること、また、オウム真理教が、その教義に沿った理想郷の建設を目的とする「日本シャンバラ化計画」を推進していたが、最終的には松本を独裁者とする祭政一致の専制国家体制を樹立するという政治上の主義を有するに至り、その政治上の主義が被請求団体の教義の枢要な一部として内包されるに至っていたこと、そしてこの政治上の主義を推進する目的で、団体の活動として両サリン事件が敢行されたことは、本件観察処分決定において当委員会が認定したとおりである。

(イ)  また、上記教義が、両サリン事件以降前回の期間更新決定時に至るまでに、破棄ないし変更されたとは認められず、被請求団体において一貫して維持されたことは、同決定において認定したとおりであり、そして、同決定から現在に至るまでも、その教義が破棄ないし変更されたと認められる事実はないから、政治上の主義を含み、かつ、殺人を暗示的に勧める教義が、現在に至るまで一貫して維持されている。

イ  「綱領」該当性について

法第5条第1項第4号に規定する「綱領」とは、いかなる名称によるかを問わず、団体の立場・目的・計画・方針又は運動の順序・規範などをいい、これに該当するというためには、団体の方針等となるべき事項が明確に構成員に示され、かつ、構成員も当該事項を是認し、それに従う意思を有しているものであることが必要であると解される。

このため、被請求団体において、前記の教義が「綱領」となり得るためには、その教義が維持されているだけではなく、構成員に明確に示され、かつ、構成員がその教義を受け入れ、これに従う意思を有しているなど、構成員の行動規範といい得るものでなければならない。前記第4の2(1)において認定した諸事情、特に、幹部構成員が松本及び同人の説く教義への絶対的な帰依を強く指導していることや、タントラ・ヴァジラヤーナの実践や日本シャンバラ化計画に関わる松本の説法を収録した教材を使用して修行させ、また、従前と同様なマインドコントロールの手法を用いた儀式・修行を行わせているほか、機関誌には松本への帰依を誓う構成員の言辞が多数掲載され、一般の構成員にも幹部構成員による指導方針が深く浸透していることなどにかんがみれば、被請求団体においては、上記認定のとおり、危険な内容を含む教義が、幹部構成員による説法、教材などを通じて構成員に周知徹底されており、構成員においても、危険な内容を含む教義全体を正しいものとして受け入れ、その教義に従う意思を有しているものと認められる。

したがって、殺人を暗示的に勧める被請求団体の危険な教義は、被請求団体の「綱領」に当たると認められる。

(5)  第5号該当性について

被請求団体には、前記法第5条第1項第1号ないし第4号に該当する事由があるほか、下記のとおり、無差別大量殺人行為に及ぶ危険性があると認めるに足りる事実があるので、法第5条第1項第5号に該当する事由がある。

すなわち、①被請求団体は、殺人を暗示的に勧める教義を維持しているにもかかわらず、前回の期間更新決定後、松本及び同人が説く教義への絶対的帰依をより強調する方針を表明していること、②「マハームドラーの修行」の名の下に両サリン事件が敢行されたものであるところ、幹部構成員の中には、現在でも、両サリン事件や最近の構成員による違法行為も「マハー ムドラーの修行」であるとして正当化する言辞を述べる者もあること、③被請求団体においては、従前と同様なマインドコントロールの手法を用いた儀式・修行が続けられていること、④ 公表上破棄されていた危険な教義を説いた松本の説法を収録するCD―R等が一般構成員による接触が容易な状態で保管されていたこと及び⑤被請求団体が王権継承の準備を行っていたこ とは前記認定のとおりである。

そして、そのほか前記の「政治上の主義」を推進するための武装化の過程で、いわゆる「サリン量産プラント建設事件」や「武器等製造法違反事件」を敢行して服役した構成員を含め、両サリン事件が行われた当時に構成員であった者を現在でも多数構成員として擁していること、出家信徒に係る位階制度や、ホーリーネームの授与など、従前と同質の組織構造を現在も 継続して有しているほか、出家構成員を被請求団体管理下の施設に集団居住させ、出家構成員と家族との間の連絡・接触を制限するなど、一般社会と隔絶した独自の閉鎖社会を維持していること、各地で、その名称を秘匿したヨーガ教室を開設するなどして、詐欺まがいの手法で、新規の構成員獲得を図っていること及び依然として、幹部構成員も含め組織的に違法行為を繰り返している上、温熱修行などの人命を軽視した危険な修行を行っていることなどが認められる。

以上の事実によれば、その余の事実を論ずるまでもなく、被請求団体については、現在も、法第5条第1項第1号ないし4号に掲げる事項以外にも、無差別大量殺人行為に及ぶ危険性があると認めるに足りる事実があると認められる。

3  引き続き被請求団体の活動状況を継続して明らかにする必要性の有無

被請求団体については、下記のとおり、引き続きその活動状況を明らかにする必要性が認められるので、法第5条第4項に該当する。

すなわち、被請求団体は、前回の期間更新決定後も、前記のとおり、一般社会と融和しない独自の閉鎖社会を構築しているほか、本件観察処分に基づく公安調査官の立入検査の際にも、非協力的な姿勢をとり、検査対象物を破棄し、現金や入金伝票を隠匿し、あるいは、パソコン内のデータを暗号化するなどの隠ぺい工作を行い、平成15年7月には、検査対象物である「無料体験申込書」、「宗教団体アーレフ入会申込書」をシュレッダーで裁断した検査忌避事件で、構成員が逮捕、起訴され、有罪判決を受けるなどしたことが認められ、これによると、被請求団体においては、その活動実態を積極的につまびらかにしようとしていないことも明らかであって、その体質はいまだ閉鎖的であって透明性に欠けるというほかない。

また、幹部構成員が構成員に対し、松本への絶対的帰依を強く指導していること、幹部構成員の中には、両サリン事件も松本の説く教義の実践であったとして正当化する説法を行っている者があること、危険な教義を現在も維持し、それらに関する松本の説法を収録したCD―Rなどを保管していたことは前記認定のとおりである。他方、被請求団体においては、対外的には、松本を教祖ではないし、松本の説く危険な教義を破棄ないし封印したと公表していたし、さらに、被請求団体は、上記両サリン事件の被害者・遺族に哀悼の念と謝罪の意を表明し、前回の期間更新決定前には、社会との融和を図る措置であるとして、定例記者会見、地域住民に対する広報文書の配布、施設公開、市民との対話窓口の設置などの措置を採ることを明らかにしていたにもかかわらず、平成14年12月ころ以降、現在に至るまで、かかる社会融和措置は実施されていないことが認められるところであり、被請求団体の欺まん的な組織体質がいまだ改善されたとはいい難い。

被請求団体には、上記のとおり、閉鎖的・欺まん的な組織体質が認められ、その活動状況を把握することが困難な実情にある上、その閉鎖的・欺まん的組織体質に起因して、全国各地で地域住民が被請求団体に対する恐怖感、不安感を抱き、その結果、国に対して本件観察処分の期間の更新を要請するなどしていることが認められるので、これらの事情等にかんがみれば、引き続き被請求団体の活動状況を継続して明らかにする必要性があることは明らかである。

4  証拠

以上の認定は、別添1―2「証拠書類一覧表」記載の証拠書類に基づき行った。

第5  被請求団体の意見等について

被請求団体は、「法第5条第1項各号の要件には該当せず、無差別大量殺人行為を繰り返す危険性は既になくなっているから、本件観察処分の期間更新をする必要性はなく、請求は棄却されるべきである。」旨主張するところ、前記第4において当委員会が認定したとおり、被請求団体には、法第5条第1項各号のいずれにも該当することが認められ、引き続きその活動状況を継続して明らかにする必要性があることは明らかであるから、被請求団体の主張には理由がない。

第6  法第5条第5項において準用する同条第3項第6号に規定する「公安審査委員会が特に必要と認める事項」について

1  「被請求団体の構成員に関する出家信徒及び在家信徒の別並びに出家信徒の位階」について

被請求団体においては、その構成員が、一般社会との関係を断絶して活動する「出家信徒」及びその他の「在家信徒」に区分され、このうち、「出家信徒」については位階制度が設けられていることから、その位階と被請求団体内部における地位・役割との対応関係を把握し、その活動状況を継続して明らかにするため、上記事項を報告させることを特に必要と認める。

2  「被請求団体作成のインターネット上のホームページに係る接続業者名、契約名義人の氏名及び管理・運営責任者の氏名」について

被請求団体は、インターネット上のホームページを利用して団体の活動を広報するとともに、構成員に対する指示・連絡を行っていることが認められるから、同ホームページが被請求団体の意思に基づいて掲載されているか否かを把握し、その活動状況を継続して明らかにするため、上記事項を報告させることを特に必要と認める。

3  「被請求団体(その支部、分会その他の下部組織を含む。以下、この項において同じ。)の営む収益事業(いかなる名義をもってするかを問わず、実質的に被請求団体が経営しているものをいう。)の種類及び概要、事業所の名称及びその所在地、当該事業の責任者及び従事する構成員の氏名並びに各事業に関する会計帳簿を備え置いている場所(その会計帳簿が電磁的記録で作成されている場合には、当該電磁的記録媒体の保管場所)」について

被請求団体においては、前回の期間更新決定後も、①収益事業を活発に営んでおり、それらの事業はもとより、構成員による薬事法違反や職業安定法違反に該当する違法行為を行うなどして、多額の収益を上げ、これを重要な資金源としていること、②出家構成員が、被請求団体の資金を獲得するため、「ワーク」と称する修行の一環として、外部からプログラミング等の作業を受注し、これにより得た収益が、被請求団体に対する月会費や寄付金等の名目で被請求団体に納入されていること、③公安調査官による立入検査に際し、構成員が入金伝票及び現金を隠匿するなどの隠ぺい工作を行い、収入の一部を会計帳簿に記載しないなど、裏金化している疑いが生じていること及び④平成12年6月ころに発生したロシア人信者であるシガチョフらの企てた松本の奪還計画の際には、武器の購入資金等として用いられた約12万ドルが被請求団体から拠出されていたことが別添1―2記載の証拠書類に基づいて認定され、これらの事実と、前記のとおり、被請求団体がその属性として無差別大量殺人行為に及ぶ危険な要素を保持していることや、顕著な閉鎖的・欺まん的体質があることにかんがみれば、被請求団体が得た多額の収益を原資として危険物等を購入するおそれがある。

したがって、被請求団体については、その特質にかんがみ、従前なされていた資産及び負債や団体の活動等に関する報告だけでは、無差別大量殺人行為に及ぶ危険な要素の存否・程度を把握することは困難というべきであり、収益事業の実態を把握し、その活動状況を継続して明らかにするため、上記事項を報告させることを特に必要と認める。

第7  結論

以上のとおりであって、本件処分請求は理由があるので、法第26条第6項において準用する法第22条第1項第3号の規定に基づき、被請求団体に対し、法第5条第4項に規定する、公安調査庁長官の観察に付する処分の期間を3年間更新する処分を行うこととし、さらに、当委員会は、法第5条第5項において準用する同条第3項第6号に規定する「公安審査委員会が特に必要と認める事項」として、上記第6記載の各事項を認めたので、被請求団体に対し、これらの事項を公安調査庁長官へ報告させることとする。

よって、主文のとおり決定する。

平成18 年1月23 日

公安審査委員会    委員長    田  中  康  久    印

委  員    大  川  隆  康    印

委  員    山  岸  一  平    印

委  員    西  室  泰  三    印

委  員    藤  村  輝  子    印

委  員    寺  田  輝  介    印

委  員    長谷部  由起子    印

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