宮內傳染病豫防令
朕宮內傳染病豫防令ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治四十一年十月九日
皇室令第二號
宮內傳染病豫防令
第一條 本令ニ於テ傳染病ト稱スルハ左ニ揭ケタル三類ノ傳染病及其ノ類似症ヲ謂ヒ有病地ト稱スルハ第一類ノ傳染病又ハ其ノ疑似症流行シ若ハ流行ノ兆アリテ宮內大臣ニ於テ有病地ト指定シタル土地ノ區域ヲ謂フ
第一類 | 「ペスト」、虎列刺、赤痢(疫痢ヲ含ム)、腸窒扶私、痘瘡(假痘ヲ含ム)、發疹窒扶私及猩紅熱 |
第二類 | 實布垤利亞(格魯布ヲ含ム)、麻疹、流行性感冒及流行性腦脊髓膜炎 |
第三類 | 肺結核、癩、丹毒、「トラホーム」、膿漏性結膜炎及傳染性皮膚病 |
前項ニ揭ケタル傳染病ノ外本令ニ依リ豫防方法ノ施行ヲ必要ト認メタル傳染病アルトキハ宮內大臣之ヲ指定ス
第二條 第一類ノ傳染病ニ付キ左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ一定ノ期間宮內ニ參入スルコトヲ得ス
一 | 傳染病ニ罹リタル者 |
二 | 患者ニ接シ又ハ之ト同居シタル者 |
三 | 宮內參入中又ハ退出後傳染病ニ罹リタル者ト同一ノ場所ニ在リタル者 |
四 | 病毒ニ汚染シ又ハ汚染ノ疑アル物件ニ接シタル者 |
五 | 患者ノ在ル家其ノ他病毒ニ汚染シ又ハ汚染ノ疑アル家ニ立寄リタル者 |
六 | 傳染病豫防法ニ依リ隔離ノ處分ヲ受ケタル者 |
第三條 第二類ノ傳染病ニ罹リタル者ハ全治ノ後ニ非サレハ宮內ニ參入スルコトヲ得ス
第四條 流行性腦脊髓膜炎ニ付キ第二條第二號乃至第四號ノ一ニ該當スル者ハ一定ノ期間宮內ニ參入スルコトヲ得ス
第五條 左ニ揭ケタル者ハ宮內ニ參入スルコトヲ得ル場合ニ在リテモ仍一定ノ期間側近ニ奉仕又ハ臨時カ進謁スルコトヲ得ス
一 | 第一類ノ傳染病ニ付テハ「ペスト」ヲ除キ第二條第一號乃至第五號ノ一ニ該當シ「ペスト」及虎列刺ニ付テハ同條第六號ニ該當スル者ヲ除ク |
二 | 麻疹ニ付テハ第二條第一號乃至第五號ノ一ニ該當シ實布垤利亞及流行性腦脊髓膜炎ニ付テハ同條第二號乃至第四號ノ一ニ該當シ流行性感冒ニ付テハ同條第一號ニ該當スル者但シ曾テ麻疹ニ罹リタルコトアル者ニ付テハ同條第二號乃至第五號ノ一ニ該當スル者ヲ除ク |
三 | 有病地ヲ發シ又ハ之ニ立寄リタル者 |
第六條 第三類ノ傳染病ニ罹リタル者ハ全治ノ後ニ非サレハ側近ニ奉仕シ又ハ臨時進謁スルコトヲ得ス
第七條 宮內ニ參入シ側近ニ奉仕シ又ハ臨時進謁スルコトヲ得サル期間及其ノ起算ノ日ハ宮內大臣之ヲ定ム
第八條 第二條乃至第六條ノ規定ハ勅旨ニ由リ宮內ニ參入シ側近ニ奉仕シ又ハ臨時進謁スル者ニ之ヲ適用セス
第九條 一定ノ期間ヲ經過シ又ハ疾病ノ全治シタル後若ハ前條ノ規定ニ依リ宮內ニ參入シ側近ニ奉仕シ又ハ臨時進謁スル者ハ豫メ沐浴更衣シ病毒汚染ノ疑アル携帶品アルトキハ之ヲ消毒スヘシ但シ職服ノ著用ヲ必要トシ其ノ他更衣スルコト能ハサル事由アル場合ニ限リ消毒ヲ以テ更衣ニ代フルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ宮內大臣ハ必要ト認メタルトキハ健康診斷又ハ携帶品ノ消毒ヲ行ハシムルコトヲ得
第十條 前條ノ規定ハ左ノ場合ニ之ヲ準用ス
一 | 第五條第三號ニ該當スル者及「ペスト」ニ付キ隔離ノ處分ヲ解除セラレタル者宮內ニ參入スルトキ |
二 | 腸窒扶私、實布垤利亞及流行性腦脊髓膜炎ニ付テハ第二條第五號ニ該當シ流行性感冒ニ付テハ同條第二號ニ該當スル者及曾テ麻疹ニ罹リタルコトアル者ニシテ同條第二號乃至第五號ノ一ニ該當スル者側近ニ奉仕シ又ハ臨時進謁スルトキ |
第十一條 宮內參入中又ハ退出後第一類若ハ第二類ノ傳染病ニ罹リタル者アルトキハ宮內大臣ハ病毒ニ汚染シ又ハ汚染ノ疑アル場所及物件ノ消毒ヲ行ハシムヘシ
第十二條 傳染病流行ノ狀況ニ依リ宮內大臣ハ宮內ノ場所ヲ限リ參入ヲ制限又ハ禁止スルコトヲ得
第十三條 有病地又ハ交通遮斷區域內ヲ發シ若ハ經過シタル物件ハ消毒ヲ行ヒタル後ニ非サレハ之ヲ宮內ニ搬入スルコトヲ得ス
宮內ニ搬入シタル物件ニシテ有病地又ハ交通遮斷區域內ヲ發シ若ハ經過シタル疑アルトキハ宮內大臣ハ其ノ包裝ヲ解カシメ又ハ消毒セシムヘシ
前二項ノ規定ハ有病地又ハ交通遮斷區域內ヲ發シ若ハ經過シ又ハ其ノ疑アル物件ト混同シタル物件ニ之ヲ準用ス
第十四條 傳染病流行ノ狀況ニ依リ宮內大臣ハ左ノ各號ノ全部又ハ一部ヲ施行スルコトヲ得
一 | 病毒傳播ノ虞アル物件ノ搬入ヲ制限若ハ停止シ又ハ既ニ受入シタル物件ヲ廢棄スルコト |
二 | 病毒傳播ノ虞アル水ノ使用ヲ制限又ハ停止スルコト |
三 | 淸潔方法ヲ行フコト |
四 | 鼠族ノ驅除ヲ行フコト |
第十五條 傳染病流行ノ狀況ニ依リ宮內大臣ハ勅裁ヲ經テ宮內ニ臨時傳染病豫防委員ヲ置キ其ノ職制ヲ定ムルコトヲ得
第十六條 宮內大臣ニ於テ傳染病又ハ有病地ヲ指定スルトキ及有病地ヲ解除スルトキハ之ヲ吿示ス
第十七條 第二條乃至第六條第九條第一項第十條第十三條第一項第三項ノ規定其ノ他本令ノ施行ニ關スル宮內大臣ノ命令ニ違反シタル者アルトキハ勅旨ニ由リ又ハ宮內大臣ノ命令ヲ以テ宮中ノ參入ヲ停止又ハ禁止スルコアルヘシ
第十八條 本令ノ規定ハ東宮御所ソノ他東京府下所在ノ宮殿及行幸啓ノ場所ニ之ヲ準用ス
宮內大臣ハ必要ト認メタルトキハ本令ノ全部又ハ一部ヲ東京府外所在ノ宮殿及皇族ノ殿邸竝旅館ニ準用スルコトヲ得
前二項ノ規定ニ依リ本令ノ全部又ハ一部ヲ準用スル場合ニ於テハ宮內大臣ハ疫咳、水痘、風疹又ハ流行性耳下腺炎ニ罹リタル者ニ付テモ一定ノ期間其ノ參入ヲ止ムルコトヲ得實布垤利亞ニ付キ第二條第一號乃至第四號ノ一ニ該當スル者亦同ジ
第十九條 本令ノ施行ニ付キ必要アルトキハ宮內大臣ハ皇宮警察官ノ職務ノ全部又ハ一部ヲ地方警察官ニ委託シテ之ヲ行ハシムルコトヲ得
第二十條 本令ノ施行ニ付キ國務大臣ノ職務ニ關連スルモノアルトキハ宮內大臣ハ主任ノ國務大臣ト協定ヲ經ヘシ
附則
本令ハ明治四十一年十一月一日ヨリ之ヲ施行ス
この著作物は、日本国の旧著作権法第11条により著作権の目的とならないため、パブリックドメインの状態にあります。同条は、次のいずれかに該当する著作物は著作権の目的とならない旨定めています。
- 法律命令及官公󠄁文󠄁書
- 新聞紙及定期刊行物ニ記載シタル雜報及政事上ノ論說若ハ時事ノ記事
- 公󠄁開セル裁判󠄁所󠄁、議會竝政談集會ニ於󠄁テ爲シタル演述󠄁
この著作物はアメリカ合衆国外で最初に発行され(かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず)、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつ、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日)に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。