官報 (1898年06月21日)

官報 號外 明治三十一年六月二十一日 火曜日 內閣官報局

法律

朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル民法中修正ノ件ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム

御名御璽

明治三十一年六月十五日

內閣總理大臣 侯爵 伊藤博文
海軍大臣 伯爵󠄂 西鄕從道󠄁󠄁
大藏大臣 伯爵 井上 馨
內務大臣 子爵󠄂 芳川顯正
外務大臣 男爵󠄂 西德二郞
陸軍大臣 子爵 桂 太郞
司法大臣 曾根荒助
遞信大臣 文學博士男爵 末松謙澄
農商務大臣 金子堅太郞
文部大臣 文學博士 外山正一


法律第九號

民法第四編第五編別册ノ通之ヲ定ム

此法律施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム

明治二十三年法律第九十八號民法財產編財產取得編ハ此法律發布ノ日ヨリ之ヲ廢止ス

  (別册)

民法

 第四編 親族

  第一章 總則

  第二章 戶主及ヒ家族

   第一節 總則

   第二節 戶主及ヒ家族ノ權利義務

   第三節 戶主權ノ喪失

  第三章 婚姻

   第一節 婚姻ノ成立

    第一款 婚姻ノ要件

    第二款 婚姻ノ無効及ヒ取消

   第二節 婚姻ノ効力

   第三節 夫婦財產制

    第一款 總則

    第二款 法定財產制

   第四節 離婚

    第一款 協議上ノ離婚

    第二款 裁判上ノ離婚

  第四章 親子

   第一節 實子

    第一款 嫡出子

    第二款 庶子及ヒ私生子

   第二節 養子

    第一款 緣組ノ要件

    第二款 緣組ノ無効及ヒ取消

    第三款 緣組ノ効力

    第四款 離緣

  第五章 親權

   第一節 總則

   第二節 親權ノ効力

   第三節 親權ノ喪失

  第六章 後見

   第一節 後見ノ開始

   第二節 後見ノ機關

    第一款 後見人

    第二款 後見監督人

   第三節 後見ノ事務

   第四節 後見ノ終了

  第七章 親族會

  第八章 扶養ノ義務

 第五編 相續

  第一章 家督相續

   第一節 總則

   第二節 家督相續人

   第三節 家督相續ノ効力

  第二章 遺產相續

   第一節 總則

   第二節 遺產相續人

   第三節 遺產相續ノ効力

    第一款 總則

    第二款 相續分

    第三款 遺產ノ分割

  第三章 相續ノ承認及ヒ抛棄

   第一節 總則

   第二節 承認

    第一款 單純承認

    第二款 限定承認

   第三節 抛棄

  第四章 財產ノ分離

  第五章 相續人ノ曠缺

  第六章 遺言

   第一節 總則

   第二節 遺言ノ方式

    第一款 普通方式

    第二款 特別方式

   第三節 遺言ノ効力

   第四節 遺言ノ執行

   第五節 遺言ノ取消

  第七章 遺留分

民法
第四編 親族
第一章 總則
第七百二十五條
左ニ揭ケタル者ハ之ヲ親族トス
一 六親等內ノ血族
二 配偶者
三 三親等內ノ姻族
第七百二十六條
親等ハ親族間ノ世數ヲ算シテ之ヲ定ム
傍系親ノ親等ヲ定ムルニハ其一人又ハ其配偶者ヨリ同始祖ニ遡リ其始祖ヨリ他ノ一人ニ下ルマテノ世數ニ依ル
第七百二十七條
養子ト養親及ヒ其血族トノ間ニ於テハ養子緣組ノ日ヨリ血族間ニ於ケルト同一ノ親族關係ヲ生ス
第七百二十八條
繼父母ト繼子ト又嫡母ト庶子トノ間ニ於テハ親子間ニ於ケルト同一ノ親族關係ヲ生ス
第七百二十九條
姻族關係及ヒ前條ノ親族關係ハ離婚ニ因リテ止ム
夫婦ノ一方カ死亡シタル場合ニ於テ生存配偶者カ其家ヲ去リタルトキ亦同シ
第七百三十條
養子ト養親及ヒ其血族トノ親族關係ハ離緣ニ因リテ止ム
養親カ養家ヲ去リタルトキハ其者及ヒ其實方ノ血族ト養子トノ親族關係ハ之ニ因リテ止ム
養子ノ配偶者、直系卑屬又ハ其配偶者カ養子ノ離緣ニ因リテ之ト共ニ養家ヲ去リタルトキハ其者ト養親及ヒ其血族トノ親族關係ハ之ニ因リテ止ム
第七百三十一條
第七百二十九條第二項及ヒ前條第二項ノ規定ハ本家相續、分家及ヒ廢絕家再興ノ場合ニハ之ヲ適用セス
第二章 戶主及ヒ家族
第一節 總則
第七百三十二條
戶主ノ親族ニシテ其家ニ在ル者及ヒ其配偶者ハ之ヲ家族トス
戶主ノ變更アリタル場合ニ於テハ舊戶主及ヒ其家族ハ新戶主ノ家族トス
第七百三十三條
子ハ父ノ家ニ入ル
父ノ知レサル子ハ母ノ家ニ入ル
父母共ニ知レサル子ハ一家ヲ創立ス
第七百三十四條
父カ子ノ出生前ニ離婚又ハ離緣ニ因リテ其家ヲ去リタルトキハ前條第一項ノ規定ハ懷胎ノ始ニ遡リテ之ヲ適用ス
前項ノ規定ハ父母カ共ニ其家ヲ去リタル場合ニハ之ヲ適用セス但母カ子ノ出生前ニ復籍ヲ爲シタルトキハ此限ニ在ラス
第七百三十五條
家族ノ庶子及ヒ私生子ハ戶主ノ同意アルニ非サレハ其家ニ入ルコトヲ得ス
庶子カ父ノ家ニ入ルコトヲ得サルトキハ母ノ家ニ入ル
私生子カ母ノ家ニ入ルコトヲ得サルトキハ一家ヲ創立ス
第七百三十六條
女戶主カ入夫婚姻ヲ爲シタルトキハ入夫ハ其家ノ戶主ト爲ル但當事者カ婚姻ノ當時反對ノ意思ヲ表示シタルトキハ此限ニ在ラス
第七百三十七條
戶主ノ親族ニシテ他家ニ在ル者ハ戶主ノ同意ヲ得テ其家族ト爲ルコトヲ得但其者カ他家ノ家族タルトキハ其家ノ戶主ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
前項ニ揭ケタル者カ未成年者ナルトキハ親權ヲ行フ父若クハ母又ハ後見人ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
第七百三十八條
婚姻又ハ養子緣組ニ因リテ他家ニ入リタル者カ其配偶者又ハ養親ノ親族ニ非サル自己ノ親族ヲ婚家又ハ養家ノ家族ト爲サント欲スルトキハ前條ノ規定ニ依ル外其配偶者又ハ養親ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
婚家又ハ養家ヲ去リタル者カ其家ニ在ル自己ノ直系卑屬ヲ自家ノ家族ト爲サント欲スルトキ亦同シ
第七百三十九條
婚姻又ハ養子緣組ニ因リテ他家ニ入リタル者ハ離婚又ハ離緣ノ場合ニ於テ實家ニ復籍ス
第七百四十條
前條ノ規定ニ依リテ實家ニ復籍スヘキ者カ實家ノ廢絕ニ因リテ復籍ヲ爲スコト能ハサルトキハ一家ヲ創立ス但實家ヲ再興スルコトヲ妨ケス
第七百四十一條
婚姻又ハ養子緣組ニ因リテ他家ニ入リタル者カ更ニ婚姻又ハ養子緣組ニ因リテ他家ニ入ラント欲スルトキハ婚家又ハ養家及ヒ實家ノ戶主ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
前項ノ場合ニ於テ同意ヲ爲ササリシ戶主ハ婚姻又ハ養子緣組ノ日ヨリ一年內ニ復籍ヲ拒ムコトヲ得
第七百四十二條
離籍セラレタル家族ハ一家ヲ創立ス他家ニ入リタル後復籍ヲ拒マレタル者カ離婚又ハ離緣ニ因リテ其家ヲ去リタルトキ亦同シ
第七百四十三條
家族ハ戶主ノ同意アルトキハ他家ヲ相續シ、分家ヲ爲シ又ハ廢絕シタル本家、分家、同家其他親族ノ家ヲ再興スルコトヲ得但未成年者ハ親權ヲ行フ父若クハ母又ハ後見人ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
第七百四十四條
法定ノ推定家督相續人ハ他家ニ入リ又ハ一家ヲ創立スルコトヲ得ス但本家相續ノ必要アルトキハ此限ニ在ラス
前項ノ規定ハ第七百五十條第二項ノ適用ヲ妨ケス
第七百四十五條
夫カ他家ニ入リ又ハ一家ヲ創立シタルトキハ妻ハ之ニ隨ヒテ其家ニ入ル
第二節 戶主及ヒ家族ノ權利義務
第七百四十六條
戶主及ヒ家族ハ其家ノ氏ヲ稱ス
第七百四十七條
戶主ハ其家族ニ對シテ扶養ノ義務ヲ負フ
第七百四十八條
家族カ自己ノ名ニ於テ得タル財產ハ其特有財產トス
戶主又ハ家族ノ孰レニ屬スルカ分明ナラサル財產ハ戶主ノ財產ト推定ス
第七百四十九條
家族ハ戶主ノ意ニ反シテ其居所ヲ定ムルコトヲ得ス
家族カ前項ノ規定ニ違反シテ戶主ノ指定シタル居所ニ在ラサル間ハ戶主ハ之ニ對シテ扶養ノ義務ヲ免ル
前項ノ場合ニ於テ戶主ハ相當ノ期間ヲ定メ其指定シタル場所ニ居所ヲ轉スヘキ旨ヲ催吿スルコトヲ得若シ家族カ其催吿ニ應セサルトキハ戶主ハ之ヲ離籍スルコトヲ得但其家族カ未成年者ナルトキハ此限ニ在ラス
第七百五十條
家族カ婚姻又ハ養子緣組ヲ爲スニハ戶主ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
家族カ前項ノ規定ニ違反シテ婚姻又ハ養子緣組ヲ爲シタルトキハ戶主ハ其婚姻又ハ養子緣組ノ日ヨリ一年內ニ離籍ヲ爲シ又ハ復籍ヲ拒ムコトヲ得
家族カ養子ヲ爲シタル場合ニ於テ前項ノ規定ニ從ヒ離籍セラレタルトキハ其養子ハ養親ニ隨ヒテ其家ニ入ル
第七百五十一條
戶主カ其權利ヲ行フコト能ハサルトキハ親族會之ヲ行フ但戶主ニ對シテ親權ヲ行フ者又ハ其後見人アルトキハ此限ニ在ラス
第三節 戶主權ノ喪失
第七百五十二條
戶主ハ左ニ揭ケタル條件ノ具備スルニ非サレハ隱居ヲ爲スコトヲ得ス
一 滿六十年以上ナルコト
二 完全ノ能力ヲ有スル家督相續人カ相續ノ單純承認ヲ爲スコト
第七百五十三條
戶主カ疾病、本家ノ相續又ハ再興其他已ムコトヲ得サル事由ニ因リテ爾後家政ヲ執ルコト能ハサルニ至リタルトキハ前條ノ規定ニ拘ハラス裁判所ノ許可ヲ得テ隱居ヲ爲スコトヲ得但法定ノ推定家督相續人アラサルトキハ豫メ家督相續人タルヘキ者ヲ定メ其承認ヲ得ルコトヲ要ス
第七百五十四條
戶主カ婚姻ニ因リテ他家ニ入ラント欲スルトキハ前條ノ規定ニ從ヒ隱居ヲ爲スコトヲ得
戶主カ隱居ヲ爲サスシテ婚姻ニ因リ他家ニ入ラント欲スル場合ニ於テ戶籍吏カ其屆出ヲ受理シタルトキハ其戶主ハ婚姻ノ日ニ於テ隱居ヲ爲シタルモノト看做ス
第七百五十五條
女戶主ハ年齡ニ拘ハラス隱居ヲ爲スコトヲ得
有夫ノ女戶主カ隱居ヲ爲スニハ其夫ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス但夫ハ正當ノ理由アルニ非サレハ其同意ヲ拒ムコトヲ得ス
第七百五十六條
無能力者カ隱居ヲ爲スニハ其法定代理人ノ同意ヲ得ルコトヲ要セス
第七百五十七條
隱居ハ隱居者及ヒ其家督相續人ヨリ之ヲ戶籍吏ニ屆出ツルニ因リテ其効力ヲ生ス
第七百五十八條
隱居者ノ親族及ヒ檢事ハ隱居屆出ノ日ヨリ三个月內ニ第七百五十二條又ハ第七百五十三條ノ規定ニ違反シタル隱居ノ取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得
女戶主カ第七百五十五條第二項ノ規定ニ違反シテ隱居ヲ爲シタルトキハ夫ハ前條ノ期間內ニ其取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得
第七百五十九條
隱居者又ハ家督相續人カ詐欺又ハ强迫ニ因リテ隱居ノ屆出ヲ爲シタルトキハ隱居者又ハ家督相續人ハ其詐欺ヲ發見シ又ハ强迫ヲ免レタル時ヨリ一年內ニ隱居ノ取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但追認ヲ爲シタルトキハ此限ニ在ラス
隱居者又ハ家督相續人カ詐欺ヲ發見セス又ハ强迫ヲ免レサル間ハ其親族又ハ檢事ヨリ隱居ノ取消ヲ請求スルコトヲ得但其請求ノ後隱居者又ハ家督相續人カ追認ヲ爲シタルトキハ取消權ハ之ニ因リテ消滅ス
前二項ノ取消權ハ隱居屆出ノ日ヨリ十年ヲ經過シタルトキハ時効ニ因リテ消滅ス
第七百六十條
隱居ノ取消前ニ家督相續人ノ債權者ト爲リタル者ハ其取消ニ因リテ戶主タル者ニ對シテ弁濟ノ請求ヲ爲スコトヲ得但家督相續人ニ對スル請求ヲ妨ケス
債權者カ債權取得ノ當時隱居取消ノ原因ノ存スルコトヲ知リタルトキハ家督相續人ニ對シテノミ弁濟ノ請求ヲ爲スコトヲ得家督相續人カ家督相續前ヨリ負擔セル債務及ヒ其一身ニ專屬スル債務ニ付キ亦同シ
第七百六十一條
隱居又ハ入夫婚姻ニ因ル戶主權ノ喪失ハ前戶主又ハ家督相續人ヨリ前戶主ノ債權者及ヒ債務者ニ其通知ヲ爲スニ非サレハ之ヲ以テ其債權者及ヒ債務者ニ對抗スルコトヲ得ス
第七百六十二條
新ニ家ヲ立テタル者ハ其家ヲ廢シテ他家ニ入ルコトヲ得
家督相續ニ因リテ戶主ト爲リタル者ハ其家ヲ廢スルコトヲ得ス但本家ノ相續又ハ再興其他正當ノ事由ニ因リ裁判所ノ許可ヲ得タルトキハ此限ニ在ラス
第七百六十三條
戶主カ適法ニ廢家シテ他家ニ入リタルトキハ其家族モ亦其家ニ入ル
第七百六十四條
戶主ヲ失ヒタル家ニ家督相續人ナキトキハ絕家シタルモノトシ其家族ハ各一家ヲ創立ス但子ハ父ニ隨ヒ又父カ知レサルトキ、他家ニ在ルトキ若クハ死亡シタルトキハ母ニ隨ヒテ其家ニ入ル
前項ノ規定ハ第七百四十五條ノ適用ヲ妨ケス
第三章 婚姻
第一節 婚姻ノ成立
第一款 婚姻ノ要件
第七百六十五條
男ハ滿十七年女ハ滿十五年ニ至ラサレハ婚姻ヲ爲スコトヲ得ス
第七百六十六條
配偶者アル者ハ重ネテ婚姻ヲ爲スコトヲ得ス
第七百六十七條
女ハ前婚ノ解消又ハ取消ノ日ヨリ六个月ヲ經過シタル後ニ非サレハ再婚ヲ爲スコトヲ得ス
女カ前婚ノ解消又ハ取消ノ前ヨリ懷胎シタル場合ニ於テハ其分娩ノ日ヨリ前項ノ規定ヲ適用セス
第七百六十八條
姦通ニ因リテ離婚又ハ刑ノ宣吿ヲ受ケタル者ハ相姦者ト婚姻ヲ爲スコトヲ得ス
第七百六十九條
直系血族又ハ三親等內ノ傍系血族ノ間ニ於テハ婚姻ヲ爲スコトヲ得ス但養子ト養方ノ傍系血族トノ間ハ此限ニ在ラス
第七百七十條
直系姻族ノ間ニ於テハ婚姻ヲ爲スコトヲ得ス第七百二十九條ノ規定ニ依リ姻族關係カ止ミタル後亦同シ
第七百七十一條
養子、其配偶者、直系卑屬又ハ其配偶者ト養親又ハ其直系尊屬トノ間ニ於テハ第七百三十條ノ規定ニ依リ親族關係カ止ミタル後ト雖モ婚姻ヲ爲スコトヲ得ス
第七百七十二條
子カ婚姻ヲ爲スニハ其家ニ在ル父母ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス但男カ滿三十年女カ滿二十五年ニ達シタル後ハ此限ニ在ラス
父母ノ一方カ知レサルトキ、死亡シタルトキ、家ヲ去リタルトキ又ハ其意思ヲ表示スルコト能ハサルトキハ他ノ一方ノ同意ノミヲ以テ足ル
父母共ニ知レサルトキ、死亡シタルトキ、家ヲ去リタルトキ又ハ其意思ヲ表示スルコト能ハサルトキハ未成年者ハ其後見人及ヒ親族會ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
第七百七十三條
繼父母又ハ嫡母カ子ノ婚姻ニ同意セサルトキハ子ハ親族會ノ同意ヲ得テ婚姻ヲ爲スコトヲ得
第七百七十四條
禁治產者カ婚姻ヲ爲スニハ其後見人ノ同意ヲ得ルコトヲ要セス
第七百七十五條
婚姻ハ之ヲ戶籍吏ニ屆出ツルニ因リテ其効力ヲ生ス
前項ノ屆出ハ當事者雙方及ヒ成年ノ證人二人以上ヨリ口頭ニテ又ハ署名シタル書面ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ要ス
第七百七十六條
戶籍吏ハ婚姻カ第七百四十一條第一項、第七百四十四條第一項、第七百五十條第一項、第七百五十四條第一項、第七百六十五條乃至第七百七十三條及ヒ前條第二項ノ規定其他ノ法令ニ違反セサルコトヲ認メタル後ニ非サレハ其屆出ヲ受理スルコトヲ得ス但婚姻カ第七百四十一條第一項又ハ第七百五十條第一項ノ規定ニ違反スル場合ニ於テ戶籍吏カ注意ヲ爲シタルニ拘ハラス當事者カ其屆出ヲ爲サント欲スルトキハ此限ニ在ラス
第七百七十七條
外國ニ在ル日本人間ニ於テ婚姻ヲ爲サント欲スルトキハ其國ニ駐在スル日本ノ公使又ハ領事ニ其屆出ヲ爲スコトヲ得此場合ニ於テハ前二條ノ規定ヲ準用ス
第二款 婚姻ノ無効及ヒ取消
第七百七十八條
婚姻ハ左ノ場合ニ限リ無効トス
一 人違其他ノ事由ニ因リ當事者間ニ婚姻ヲ爲ス意思ナキトキ
二 當事者カ婚姻ノ屆出ヲ爲ササルトキ但其屆出カ第七百七十五條第二項ニ揭ケタル條件ヲ缺クニ止マルトキハ婚姻ハ之カ爲メニ其効力ヲ妨ケラルルコトナシ
第七百七十九條
婚姻ハ後七條ノ規定ニ依ルニ非サレハ之ヲ取消スコトヲ得ス
第七百八十條
第七百六十五條乃至第七百七十一條ノ規定ニ違反シタル婚姻ハ各當事者、其戶主、親族又ハ檢事ヨリ其取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但檢事ハ當事者ノ一方カ死亡シタル後ハ之ヲ請求スルコトヲ得ス
第七百六十六條乃至第七百六十八條ノ規定ニ違反シタル婚姻ニ付テハ當事者ノ配偶者又ハ前配偶者モ亦其取消ヲ請求スルコトヲ得
第七百八十一條
第七百六十五條ノ規定ニ違反シタル婚姻ハ不適齡者カ適齡ニ達シタルトキハ其取消ヲ請求スルコトヲ得ス
不適齡者ハ適齡ニ達シタル後尙ホ三个月間其婚姻ノ取消ヲ請求スルコトヲ得但適齡ニ達シタル後追認ヲ爲シタルトキハ此限ニ在ラス
第七百八十二條
第七百六十七條ノ規定ニ違反シタル婚姻ハ前婚ノ解消若クハ取消ノ日ヨリ六个月ヲ經過シ又ハ女カ再婚後懷胎シタルトキハ其取消ヲ請求スルコトヲ得ス
第七百八十三條
第七百七十二條ノ規定ニ違反シタル婚姻ハ同意ヲ爲ス權利ヲ有セシ者ヨリ其取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得同意カ詐欺又ハ强迫ニ因リタルトキ亦同シ
第七百八十四條
前條ノ取消權ハ左ノ場合ニ於テ消滅ス
一 同意ヲ爲ス權利ヲ有セシ者カ婚姻アリタルコトヲ知リタル後又ハ詐欺ヲ發見シ若クハ强迫ヲ免レタル後六个月ヲ經過シタルトキ
二 同意ヲ爲ス權利ヲ有セシ者カ追認ヲ爲シタルトキ
三 婚姻屆出ノ日ヨリ二年ヲ經過シタルトキ
第七百八十五條
詐欺又ハ强迫ニ因リテ婚姻ヲ爲シタル者ハ其婚姻ノ取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得
前項ノ取消權ハ當事者カ詐欺ヲ發見シ若クハ强迫ヲ免レタル後三个月ヲ經過シ又ハ追認ヲ爲シタルトキハ消滅ス
第七百八十六條
壻養子緣組ノ場合ニ於テハ各當事者ハ緣組ノ無効又ハ取消ヲ理由トシテ婚姻ノ取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但緣組ノ無効又ハ取消ノ請求ニ附帶シテ婚姻ノ取消ヲ請求スルコトヲ妨ケス
前項ノ取消權ハ當事者カ緣組ノ無効ナルコト又ハ其取消アリタルコトヲ知リタル後三个月ヲ經過シ又ハ其取消權ヲ抛棄シタルトキハ消滅ス
第七百八十七條
婚姻ノ取消ハ其効力ヲ既往ニ及ホサス
婚姻ノ當時其取消ノ原因ノ存スルコトヲ知ラサリシ當事者カ婚姻ニ因リテ財產ヲ得タルトキハ現ニ利益ヲ受クル限度ニ於テ其返還ヲ爲スコトヲ要ス
婚姻ノ當時其取消ノ原因ノ存スルコトヲ知リタル當事者ハ婚姻ニ因リテ得タル利益ノ全部ヲ返還スルコトヲ要ス尙ホ相手方カ善意ナリシトキハ之ニ對シテ損害賠償ノ責ニ任ス
第二節 婚姻ノ効力
第七百八十八條
妻ハ婚姻ニ因リテ夫ノ家ニ入ル
入夫及ヒ壻養子ハ妻ノ家ニ入ル
第七百八十九條
妻ハ夫ト同居スル義務ヲ負フ
夫ハ妻ヲシテ同居ヲ爲サシムルコトヲ要ス
第七百九十條
夫婦ハ互ニ扶養ヲ爲ス義務ヲ負フ
第七百九十一條
妻カ未成年者ナルトキハ成年ノ夫ハ其後見人ノ職務ヲ行フ
第七百九十二條
夫婦間ニ於テ契約ヲ爲シタルトキハ其契約ハ婚姻中何時ニテモ夫婦ノ一方ヨリ之ヲ取消スコトヲ得但第三者ノ權利ヲ害スルコトヲ得ス
第三節 夫婦財產制
第一款 總則
第七百九十三條
夫婦カ婚姻ノ屆出前ニ其財產ニ付キ別段ノ契約ヲ爲ササリシトキハ其財產關係ハ次款ニ定ムル所ニ依ル
第七百九十四條
夫婦カ法定財產制ニ異ナリタル契約ヲ爲シタルトキハ婚姻ノ屆出マテニ其登記ヲ爲スニ非サレハ之ヲ以テ夫婦ノ承繼人及ヒ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
第七百九十五條
外國人カ夫ノ本國ノ法定財產制ニ異ナリタル契約ヲ爲シタル場合ニ於テ婚姻ノ後日本ノ國籍ヲ取得シ又ハ日本ニ住所ヲ定メタルトキハ一年內ニ其契約ヲ登記スルニ非サレハ日本ニ於テハ之ヲ以テ夫婦ノ承繼人及ヒ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
第七百九十六條
夫婦ノ財產關係ハ婚姻屆出ノ後ハ之ヲ變更スルコトヲ得ス
夫婦ノ一方カ他ノ一方ノ財產ヲ管理スル場合ニ於テ管理ノ失當ニ因リ其財產ヲ危クシタルトキハ他ノ一方ハ自ラ其管理ヲ爲サンコトヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得
共有財產ニ付テハ前項ノ請求ト共ニ其分割ヲ請求スルコトヲ得
第七百九十七條
前條ノ規定又ハ契約ノ結果ニ依リ管理者ヲ變更シ又ハ共有財產ノ分割ヲ爲シタルトキハ其登記ヲ爲スニ非サレハ之ヲ以テ夫婦ノ承繼人及ヒ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
第二款 法定財產制
第七百九十八條
夫ハ婚姻ヨリ生スル一切ノ費用ヲ負擔ス但妻カ戶主タルトキハ妻之ヲ負擔ス
前項ノ規定ハ第七百九十條及ヒ第八章ノ規定ノ適用ヲ妨ケス
第七百九十九條
夫又ハ女戶主ハ用方ニ從ヒ其配偶者ノ財產ノ使用及ヒ收益ヲ爲ス權利ヲ有ス
夫又ハ女戶主ハ其配偶者ノ財產ノ果實中ヨリ其債務ノ利息ヲ拂フコトヲ要ス
第八百條
第五百九十五條及ヒ第五百九十八條ノ規定ハ前條ノ場合ニ之ヲ準用ス
第八百一條
夫ハ妻ノ財產ヲ管理ス
夫カ妻ノ財產ヲ管理スルコト能ハサルトキハ妻自ラ之ヲ管理ス
第八百二條
夫カ妻ノ爲メニ借財ヲ爲シ、妻ノ財產ヲ讓渡シ、之ヲ擔保ニ供シ又ハ第六百二條ノ期間ヲ超エテ其賃貸ヲ爲スニハ妻ノ承諾ヲ得ルコトヲ要ス但管理ノ目的ヲ以テ果實ヲ處分スルハ此限ニ在ラス
第八百三條
夫カ妻ノ財產ヲ管理スル場合ニ於テ必要アリト認ムルトキハ裁判所ハ妻ノ請求ニ因リ夫ヲシテ其財產ノ管理及ヒ返還ニ付キ相當ノ擔保ヲ供セシムルコトヲ得
第八百四條
日常ノ家事ニ付テハ妻ハ夫ノ代理人ト看做ス
夫ハ前項ノ代理權ノ全部又ハ一部ヲ否認スルコトヲ得但之ヲ以テ善意ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
第八百五條
夫カ妻ノ財產ヲ管理シ又ハ妻カ夫ノ代理ヲ爲ス場合ニ於テハ自己ノ爲メニスルト同一ノ注意ヲ爲スコトヲ要ス
第八百六條
第六百五十四條及ヒ第六百五十五條ノ規定ハ夫カ妻ノ財產ヲ管理シ又ハ妻カ夫ノ代理ヲ爲ス場合ニ之ヲ準用ス
第八百七條
妻又ハ入夫カ婚姻前ヨリ有セル財產及ヒ婚姻中自己ノ名ニ於テ得タル財產ハ其特有財產トス
夫婦ノ孰レニ屬スルカ分明ナラサル財產ハ夫又ハ女戶主ノ財產ト推定ス
第四節 離婚
第一款 協議上ノ離婚
第八百八條
夫婦ハ其協議ヲ以テ離婚ヲ爲スコトヲ得
第八百九條
滿二十五年ニ達セサル者カ協議上ノ離婚ヲ爲スニハ第七百七十二條及ヒ第七百七十三條ノ規定ニ依リ其婚姻ニ付キ同意ヲ爲ス權利ヲ有スル者ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
第八百十條
第七百七十四條及ヒ第七百七十五條ノ規定ハ協議上ノ離婚ニ之ヲ準用ス
第八百十一條
戶籍吏ハ離婚カ第七百七十五條第二項及ヒ第八百九條ノ規定其他ノ法令ニ違反セサルコトヲ認メタル後ニ非サレハ其屆出ヲ受理スルコトヲ得ス
戶籍吏カ前項ノ規定ニ違反シテ屆出ヲ受理シタルトキト雖モ離婚ハ之カ爲メニ其効力ヲ妨ケラルルコトナシ
第八百十二條
協議上ノ離婚ヲ爲シタル者カ其協議ヲ以テ子ノ監護ヲ爲スヘキ者ヲ定メサリシトキハ其監護ハ父ニ屬ス
父カ離婚ニ因リテ婚家ヲ去リタル場合ニ於テハ子ノ監護ハ母ニ屬ス
前二項ノ規定ハ監護ノ範圍外ニ於テ父母ノ權利義務ニ變更ヲ生スルコトナシ
第二款 裁判上ノ離婚
第八百十三條
夫婦ノ一方ハ左ノ場合ニ限リ離婚ノ訴ヲ提起スルコトヲ得
一 配偶者カ重婚ヲ爲シタルトキ
二 妻カ姦通ヲ爲シタルトキ
三 夫カ姦淫罪ニ因リテ刑ニ處セラレタルトキ
四 配偶者カ僞造、賄賂、猥褻、竊盜、强盜、詐欺取財、受寄財物費消、贓物ニ關スル罪若クハ刑法第百七十五條第二百六十條ニ揭ケタル罪ニ因リテ輕罪以上ノ刑ニ處セラレ又ハ其他ノ罪ニ因リテ重禁錮三年以上ノ刑ニ處セラレタルトキ
五 配偶者ヨリ同居ニ堪ヘサル虐待又ハ重大ナル侮辱ヲ受ケタルトキ
六 配偶者ヨリ惡意ヲ以テ遺棄セラレタルトキ
七 配偶者ノ直系尊屬ヨリ虐待又ハ重大ナル侮辱ヲ受ケタルトキ
八 配偶者カ自己ノ直系尊屬ニ對シテ虐待ヲ爲シ又ハ之ニ重大ナル侮辱ヲ加ヘタルトキ
九 配偶者ノ生死カ三年以上分明ナラサルトキ
十 壻養子緣組ノ場合ニ於テ離緣アリタルトキ又ハ養子カ家女ト婚姻ヲ爲シタル場合ニ於テ離緣若クハ緣組ノ取消アリタルトキ
第八百十四條
前條第一號乃至第四號ノ場合ニ於テ夫婦ノ一方カ他ノ一方ノ行爲ニ同意シタルトキハ離婚ノ訴ヲ提起スルコトヲ得ス
前條第一號乃至第七號ノ場合ニ於テ夫婦ノ一方カ他ノ一方又ハ其直系尊屬ノ行爲ヲ宥恕シタルトキ亦同シ
第八百十五條
第八百十三條第四號ニ揭ケタル處刑ノ宣吿ヲ受ケタル者ハ其配偶者ニ同一ノ事由アルコトヲ理由トシテ離婚ノ訴ヲ提起スルコトヲ得ス
第八百十六條
第八百十三條第一號乃至第八號ノ事由ニ因ル離婚ノ訴ハ之ヲ提起スル權利ヲ有スル者カ離婚ノ原因タル事實ヲ知リタル時ヨリ一年ヲ經過シタル後ハ之ヲ提起スルコトヲ得ス其事實發生ノ時ヨリ十年ヲ經過シタル後亦同シ
第八百十七條
第八百十三條第九號ノ事由ニ因ル離婚ノ訴ハ配偶者ノ生死カ分明ト爲リタル後ハ之ヲ提起スルコトヲ得ス
第八百十八條
第八百十三條第十號ノ場合ニ於テ離緣又ハ緣組取消ノ請求アリタルトキハ之ニ附帶シテ離婚ノ請求ヲ爲スコトヲ得
第八百十三條第十號ノ事由ニ因ル離婚ノ訴ハ當事者カ離緣又ハ緣組ノ取消アリタルコトヲ知リタル後三个月ヲ經過シ又ハ離婚請求ノ權利ヲ抛棄シタルトキハ之ヲ提起スルコトヲ得ス
第八百十九條
第八百十二條ノ規定ハ裁判上ノ離婚ニ之ヲ準用ス但裁判所ハ子ノ利益ノ爲メ其監護ニ付キ之ニ異ナリタル處分ヲ命スルコトヲ得
第四章 親子
第一節 實子
第一款 嫡出子
第八百二十條
妻カ婚姻中ニ懷胎シタル子ハ夫ノ子ト推定ス
婚姻成立ノ日ヨリ二百日後又ハ婚姻ノ解消若クハ取消ノ日ヨリ三百日內ニ生レタル子ハ婚姻中ニ懷胎シタルモノト推定ス
第八百二十一條
第七百六十七條第一項ノ規定ニ違反シテ再婚ヲ爲シタル女カ分娩シタル場合ニ於テ前條ノ規定ニ依リ其子ノ父ヲ定ムルコト能ハサルトキハ裁判所之ヲ定ム
第八百二十二條
第八百二十條ノ場合ニ於テ夫ハ子ノ嫡出ナルコトヲ否認スルコトヲ得
第八百二十三條
前條ノ否認權ハ子又ハ其法定代理人ニ對スル訴ニ依リテ之ヲ行フ但夫カ子ノ法定代理人ナルトキハ裁判所ハ特別代理人ヲ選任スルコトヲ要ス
第八百二十四條
夫カ子ノ出生後ニ於テ其嫡出ナルコトヲ承認シタルトキハ其否認權ヲ失フ
第八百二十五條
否認ノ訴ハ夫カ子ノ出生ヲ知リタル時ヨリ一年內ニ之ヲ提起スルコトヲ要ス
第八百二十六條
夫カ未成年者ナルトキハ前條ノ期間ハ其成年ニ達シタル時ヨリ之ヲ起算ス但夫カ成年ニ達シタル後ニ子ノ出生ヲ知リタルトキハ此限ニ在ラス
夫カ禁治產者ナルトキハ前條ノ期間ハ禁治產ノ取消アリタル後夫カ子ノ出生ヲ知リタル時ヨリ之ヲ起算ス
第二款 庶子及ヒ私生子
第八百二十七條
私生子ハ其父又ハ母ニ於テ之ヲ認知スルコトヲ得
父カ認知シタル私生子ハ之ヲ庶子トス
第八百二十八條
私生子ノ認知ヲ爲スニハ父又ハ母カ無能力者ナルトキト雖モ其法定代理人ノ同意ヲ得ルコトヲ要セス
第八百二十九條
私生子ノ認知ハ戶籍吏ニ屆出ツルニ依リテ之ヲ爲ス
認知ハ遺言ニ依リテモ亦之ヲ爲スコトヲ得
第八百三十條
成年ノ私生子ハ其承諾アルニ非サレハ之ヲ認知スルコトヲ得ス
第八百三十一條
父ハ胎內ニ在ル子ト雖モ之ヲ認知スルコトヲ得此場合ニ於テハ母ノ承諾ヲ得ルコトヲ要ス
父又ハ母ハ死亡シタル子ト雖モ其直系卑屬アルトキニ限リ之ヲ認知スルコトヲ得此場合ニ於テ其直系卑屬カ成年者ナルトキハ其承諾ヲ得ルコトヲ要ス
第八百三十二條
認知ハ出生ノ時ニ遡リテ其効力ヲ生ス但第三者カ既ニ取得シタル權利ヲ害スルコトヲ得ス
第八百三十三條
認知ヲ爲シタル父又ハ母ハ其認知ヲ取消スコトヲ得ス
第八百三十四條
子其他ノ利害關係人ハ認知ニ對シテ反對ノ事實ヲ主張スルコトヲ得
第八百三十五條
子、其直系卑屬又ハ此等ノ者ノ法定代理人ハ父又ハ母ニ對シテ認知ヲ求ムルコトヲ得
第八百三十六條
庶子ハ其父母ノ婚姻ニ因リテ嫡出子タル身分ヲ取得ス
婚姻中父母カ認知シタル私生子ハ其認知ノ時ヨリ嫡出子タル身分ヲ取得ス
前二項ノ規定ハ子カ既ニ死亡シタル場合ニ之ヲ準用ス
第二節 養子
第一款 緣組ノ要件
第八百三十七條
成年ニ達シタル者ハ養子ヲ爲スコトヲ得
第八百三十八條
尊屬又ハ年長者ハ之ヲ養子ト爲スコトヲ得ス
第八百三十九條
法定ノ推定家督相續人タル男子アル者ハ男子ヲ養子ト爲スコトヲ得ス但女壻ト爲ス爲メニスル場合ハ此限ニ在ラス
第八百四十條
後見人ハ被後見人ヲ養子ト爲スコトヲ得ス其任務カ終了シタル後未タ管理ノ計算ヲ終ハラサル間亦同シ
前項ノ規定ハ第八百四十八條ノ場合ニハ之ヲ適用セス
第八百四十一條
配偶者アル者ハ其配偶者ト共ニスルニ非サレハ緣組ヲ爲スコトヲ得ス
夫婦ノ一方カ他ノ一方ノ子ヲ養子ト爲スニハ他ノ一方ノ同意ヲ得ルヲ以テ足ル
第八百四十二條
前條第一項ノ場合ニ於テ夫婦ノ一方カ其意思ヲ表示スルコト能ハサルトキハ他ノ一方ハ雙方ノ名義ヲ以テ緣組ヲ爲スコトヲ得
第八百四十三條
養子ト爲ルヘキ者カ十五年未滿ナルトキハ其家ニ在ル父母之ニ代ハリテ緣組ノ承諾ヲ爲スコトヲ得
繼父母又ハ嫡母カ前項ノ承諾ヲ爲スニハ親族會ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
第八百四十四條
成年ノ子カ養子ヲ爲シ又ハ滿十五年以上ノ子カ養子ト爲ルニハ其家ニ在ル父母ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
第八百四十五條
緣組又ハ婚姻ニ因リテ他家ニ入リタル者カ更ニ養子トシテ他家ニ入ラント欲スルトキハ實家ニ在ル父母ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス但妻カ夫ニ隨ヒテ他家ニ入ルハ此限ニ在ラス
第八百四十六條
第七百七十二條第二項及ヒ第三項ノ規定ハ前三條ノ場合ニ之ヲ準用ス
第七百七十三條ノ規定ハ前二條ノ場合ニ之ヲ準用ス
第八百四十七條
第七百七十四條及ヒ第七百七十五條ノ規定ハ緣組ニ之ヲ準用ス
第八百四十八條
養子ヲ爲サント欲スル者ハ遺言ヲ以テ其意思ヲ表示スルコトヲ得此場合ニ於テハ遺言執行者、養子ト爲ルヘキ者又ハ第八百四十三條ノ規定ニ依リ之ニ代ハリテ承諾ヲ爲シタル者及ヒ成年ノ承認二人以上ヨリ遺言カ効力ヲ生シタル後遲滯ナク緣組ノ屆出ヲ爲スコトヲ要ス
前項ノ屆出ハ養親ノ死亡ノ時ニ遡リテ其効力ヲ生ス
第八百四十九條
戶籍吏ハ緣組カ第七百四十一條第一項、第七百四十四條第一項、第七百五十條第一項及ヒ前十二條ノ規定其他ノ法令ニ違反セサルコトヲ認メタル後ニ非サレハ其屆出ヲ受理スルコトヲ得ス
第七百七十六條但書ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第八百五十條
外國ニ在ル日本人間ニ於テ緣組ヲ爲サント欲スルトキハ其國ニ駐在スル日本ノ公使又ハ領事ニ其屆出ヲ爲スコトヲ得此場合ニ於テハ第七百七十五條及ヒ前二條ノ規定ヲ準用ス
第二款 緣組ノ無効及ヒ取消
第八百五十一條
緣組ハ左ノ場合ニ限リ無効トス
一 人違其他ノ事由ニ因リ當事者間ニ緣組ヲ爲ス意思ナキトキ
二 當事者カ緣組ノ屆出ヲ爲ササルトキ但其屆出カ第七百七十五條第二項及ヒ第八百四十八條第一項ニ揭ケタル條件ヲ缺クニ止マルトキハ緣組ハ之カ爲メニ其効力ヲ妨ケラルルコトナシ
第八百五十二條
緣組ハ後七條ノ規定ニ依ルニ非サレハ之ヲ取消スコトヲ得ス
第八百五十三條
第八百三十七條ノ規定ニ違反シタル緣組ハ養親又ハ其法定代理人ヨリ其取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但養親カ成年ニ達シタル後六个月ヲ經過シ又ハ追認ヲ爲シタルトキハ此限ニ在ラス
第八百五十四條
第八百三十八條又ハ第八百三十九條ノ規定ニ違反シタル緣組ハ各當事者、其戶主又ハ親族ヨリ其取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得
第八百五十五條
第八百四十條ノ規定ニ違反シタル緣組ハ養子又ハ其實方ノ親族ヨリ其取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但管理ノ計算カ終ハリタル後養子カ追認ヲ爲シ又ハ六个月ヲ經過シタルトキハ此限ニ在ラス
追認ハ養子カ成年ニ達シ又ハ能力ヲ回復シタル後之ヲ爲スニ非サレハ其効ナシ
養子カ成年ニ達セス又ハ能力ヲ回復セサル間ニ管理ノ計算カ終ハリタル場合ニ於テハ第一項但書ノ期間ハ養子カ成年ニ達シ又ハ能力ヲ回復シタル時ヨリ之ヲ起算ス
第八百五十六條
第八百四十一條ノ規定ニ違反シタル緣組ハ同意ヲ爲ササリシ配偶者ヨリ其取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但其配偶者カ緣組アリタルコトヲ知リタル後六个月ヲ經過シタルトキハ追認ヲ爲シタルモノト看做ス
第八百五十七條
第八百四十四條乃至第八百四十六條ノ規定ニ違反シタル緣組ハ同意ヲ爲ス權利ヲ有セシ者ヨリ其取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得同意カ詐欺又ハ强迫ニ因リタルトキ亦同シ
第七百八十四條ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第八百五十八條
壻養子緣組ノ場合ニ於テハ各當事者ハ婚姻ノ無効又ハ取消ヲ理由トシテ緣組ノ取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但婚姻ノ無効又ハ取消ノ請求ニ附帶シテ緣組ノ取消ヲ請求スルコトヲ妨ケス
前項ノ取消權ハ當事者カ婚姻ノ無効ナルコト又ハ其取消アリタルコトヲ知リタル後六个月ヲ經過シ又ハ其取消權ヲ抛棄シタルトキハ消滅ス
第八百五十九條
第七百八十五條及ヒ第七百八十七條ノ規定ハ緣組ニ之ヲ準用ス但第七百八十五條第二項ノ期間ハ之ヲ六个月トス
第三款 緣組ノ効力
第八百六十條
養子ハ緣組ノ日ヨリ養親ノ嫡出子タル身分ヲ取得ス
第八百六十一條
養子ハ緣組ニ因リテ養親ノ家ニ入ル
第四款 離緣
第八百六十二條
緣組ノ當事者ハ其協議ヲ以テ離緣ヲ爲スコトヲ得
養子カ十五年未滿ナルトキハ其離緣ハ養親ト養子ニ代ハリテ緣組ノ承諾ヲ爲ス權利ヲ有スル者トノ協議ヲ以テ之ヲ爲ス
養親カ死亡シタル後養子カ離緣ヲ爲サント欲スルトキハ戶主ノ同意ヲ得テ之ヲ爲スコトヲ得
第八百六十三條
滿二十五年ニ達セサル者カ協議上ノ離緣ヲ爲スニハ第八百四十四條ノ規定ニ依リ其緣組ニ付キ同意ヲ爲ス權利ヲ有スル者ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
第七百七十二條第二項、第三項及ヒ第七百七十三條ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第八百六十四條
第七百七十四條及ヒ第七百七十五條ノ規定ハ協議上ノ離緣ニ之ヲ準用ス
第八百六十五條
戶籍吏ハ離緣カ第七百七十五條第二項、第八百六十二條及ヒ第八百六十三條ノ規定其他ノ法令ニ違反セサルコトヲ認メタル後ニ非サレハ其屆出ヲ受理スルコトヲ得ス
戶籍吏カ前項ノ規定ニ違反シテ屆出ヲ受理シタルトキト雖モ離緣ハ之カ爲メニ其効力ヲ妨ケラルルコトナシ
第八百六十六條
緣組ノ當事者ノ一方ハ左ノ場合ニ限リ離緣ノ訴ヲ提起スルコトヲ得
一 他ノ一方ヨリ虐待又ハ重大ナル侮辱ヲ受ケタルトキ
二 他ノ一方ヨリ惡意ヲ以テ遺棄セラレタルトキ
三 養親ノ直系尊屬ヨリ虐待又ハ重大ナル侮辱ヲ受ケタルトキ
四 他ノ一方カ重禁錮一年以上ノ刑ニ處セラレタルトキ
五 養子ニ家名ヲ瀆シ又ハ家產ヲ傾クヘキ重大ナル過失アリタルトキ
六 養子カ逃亡シテ三年以上復歸セサルトキ
七 養子ノ生死カ三年以上分明ナラサルトキ
八 他ノ一方カ自己ノ直系尊屬ニ對シテ虐待ヲ爲シ又ハ之ニ重大ナル侮辱ヲ加ヘタルトキ
九 壻養子緣組ノ場合ニ於テ離婚アリタルトキ又ハ養子カ家女ト婚姻ヲ爲シタル場合ニ於テ離婚若クハ婚姻ノ取消アリタルトキ
第八百六十七條
養子カ滿十五年ニ達セサル間ハ其緣組ニ付キ承諾權ヲ有スル者ヨリ離緣ノ訴ヲ提起スルコトヲ得
第八百四十三條第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第八百六十八條
第八百六十六條第一號乃至第六號ノ場合ニ於テ當事者ノ一方カ他ノ一方又ハ其直系尊屬ノ行爲ヲ宥恕シタルトキハ離緣ノ訴ヲ提起スルコトヲ得ス
第八百六十九條
第八百六十六條第四號ノ場合ニ於テ當事者ノ一方カ他ノ一方ノ行爲ニ同意シタルトキハ離緣ノ訴ヲ提起スルコトヲ得ス
第八百六十六條第四號ニ揭ケタル刑ニ處セラレタル者ハ他ノ一方ニ同一ノ事由アルコトヲ理由トシテ離緣ノ訴ヲ提起スルコトヲ得ス
第八百七十條
第八百六十六條第一號乃至第五號及ヒ第八號ノ事由ニ因ル離緣ノ訴ハ之ヲ提起スル權利ヲ有スル者カ離緣ノ原因タル事實ヲ知リタル時ヨリ一年ヲ經過シタル後ハ之ヲ提起スルコトヲ得ス其事實發生ノ時ヨリ十年ヲ經過シタル後亦同シ
第八百七十一條
第八百六十六條第六號ノ事由ニ因ル離緣ノ訴ハ養親カ養子ノ復歸シタルコトヲ知リタル時ヨリ一年ヲ經過シタル後ハ之ヲ提起スルコトヲ得ス其復歸ノ時ヨリ十年ヲ經過シタル後亦同シ
第八百七十二條
第八百六十六條第七號ノ事由ニ因ル離緣ノ訴ハ養子ノ生死カ分明ト爲リタル後ハ之ヲ提起スルコトヲ得ス
第八百七十三條
第八百六十六條第九號ノ場合ニ於テ離婚又ハ婚姻取消ノ請求アリタルトキハ之ニ附帶シテ離緣ノ請求ヲ爲スコトヲ得
第八百六十六條第九號ノ事由ニ因ル離緣ノ訴ハ當事者カ離婚又ハ婚姻ノ取消アリタルコトヲ知リタル後六个月ヲ經過シ又ハ離緣請求ノ權利ヲ抛棄シタルトキハ之ヲ提起スルコトヲ得ス
第八百七十四條
養子カ戶主ト爲リタル後ハ離緣ヲ爲スコトヲ得ス但隱居ヲ爲シタル後ハ此限ニ在ラス
第八百七十五條
養子ハ離緣ニ因リ其實家ニ於テ有セシ身分ヲ回復ス但第三者カ既ニ取得シタル權利ヲ害スルコトヲ得ス
第八百七十六條
夫婦カ養子ト爲リ又ハ養子カ養親ノ他ノ養子ト婚姻ヲ爲シタル場合ニ於テ妻カ離緣ニ因リテ養家ヲ去ルヘキトキハ夫ハ其選擇ニ從ヒ離緣又ハ離婚ヲ爲スコトヲ要ス
第五章 親權
第一節 總則
第八百七十七條
子ハ其家ニ在ル父ノ親權ニ服ス但獨立ノ生計ヲ立ツル成年者ハ此限ニ在ラス
父カ知レサルトキ、死亡シタルトキ、家ヲ去リタルトキ又ハ親權ヲ行フコト能ハサルトキハ家ニ在ル母之ヲ行フ
第八百七十八條
繼父、繼母又ハ嫡母カ親權ヲ行フ場合ニ於テハ次章ノ規定ヲ準用ス
第二節 親權ノ効力
第八百七十九條
親權ヲ行フ父又ハ母ハ未成年ノ子ノ監護及ヒ敎育ヲ爲ス權利ヲ有シ義務ヲ負フ
第八百八十條
未成年ノ子ハ親權ヲ行フ父又ハ母カ指定シタル場所ニ其居所ヲ定ムルコトヲ要ス但第七百四十九條ノ適用ヲ妨ケス
第八百八十一條
未成年ノ子カ兵役ヲ出願スルニハ親權ヲ行フ父又ハ母ノ許可ヲ得ルコトヲ要ス
第八百八十二條
親權ヲ行フ父又ハ母ハ必要ナル範圍內ニ於テ自ラ其子ヲ懲戒シ又ハ裁判所ノ許可ヲ得テ之ヲ懲戒場ニ入ルルコトヲ得
子ヲ懲戒場ニ入ルル期間ハ六个月以下ノ範圍內ニ於テ裁判所之ヲ定ム但此期間ハ父又ハ母ノ請求ニ因リ何時ニテモ之ヲ短縮スルコトヲ得
第八百八十三條
未成年ノ子ハ親權ヲ行フ父又ハ母ノ許可ヲ得ルニ非サレハ職業ヲ營ムコトヲ得ス
父又ハ母ハ第六條第二項ノ場合ニ於テハ前項ノ許可ヲ取消シ又ハ之ヲ制限スルコトヲ得
第八百八十四條
親權ヲ行フ父又ハ母ハ未成年ノ子ノ財產ヲ管理シ又其財產ニ關スル法律行爲ニ付キ其子ヲ代表ス但其子ノ行爲ヲ目的トスル債務ヲ生スヘキ場合ニ於テハ本人ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
第八百八十五條
未成年ノ子カ其配偶者ノ財產ヲ管理スヘキ場合ニ於テハ親權ヲ行フ父又ハ母之ニ代ハリテ其財產ヲ管理ス
第八百八十六條
親權ヲ行フ母カ未成年ノ子ニ代ハリテ左ニ揭ケタル行爲ヲ爲シ又ハ子ノ之ヲ爲スコトニ同意スルニハ親族會ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
一 營業ヲ爲スコト
二 借財又ハ保證ヲ爲スコト
三 不動產又ハ重要ナル動產ニ關スル權利ノ喪失ヲ目的トスル行爲ヲ爲スコト
四 不動產又ハ重要ナル動產ニ關スル和解又ハ仲裁契約ヲ爲スコト
五 相續ヲ抛棄スルコト
六 贈與又ハ遺贈ヲ拒絕スルコト
第八百八十七條
親權ヲ行フ母カ前條ノ規定ニ違反シテ爲シ又ハ同意ヲ與ヘタル行爲ハ子又ハ其法定代理人ニ於テ之ヲ取消スコトヲ得此場合ニ於テハ第十九條ノ規定ヲ準用ス
前項ノ規定ハ第百二十一條乃至第百二十六條ノ適用ヲ妨ケス
第八百八十八條
親權ヲ行フ父又ハ母ト其未成年ノ子ト利益相反スル行爲ニ付テハ父又ハ母ハ其子ノ爲メニ特別代理人ヲ選任スルコトヲ親族會ニ請求スルコトヲ要ス
父又ハ母カ數人ノ子ニ對シテ親權ヲ行フ場合ニ於テ其一人ト他ノ子トノ利益相反スル行爲ニ付テハ其一方ノ爲メ前項ノ規定ヲ準用ス
第八百八十九條
親權ヲ行フ父又ハ母ハ自己ノ爲メニスルト同一ノ注意ヲ以テ其管理權ヲ行フコトヲ要ス
母ハ親族會ノ同意ヲ得テ爲シタル行爲ニ付テモ其責ヲ免ルルコトヲ得ス但母ニ過失ナカリシトキハ此限ニ在ラス
第八百九十條
子カ成年ニ達シタルトキハ親權ヲ行ヒタル父又ハ母ハ遲滯ナク其管理ノ計算ヲ爲スコトヲ要ス但其子ノ養育及ヒ財產ノ管理ノ費用ハ其子ノ財產ノ收益ト之ヲ相殺シタルモノト看做ス
第八百九十一條
前條但書ノ規定ハ無償ニテ子ニ財產ヲ與フル第三者カ反對ノ意思ヲ表示シタルトキハ其財產ニ付テハ之ヲ適用セス
第八百九十二條
無償ニテ子ニ財產ヲ與フル第三者カ親權ヲ行フ父又ハ母ヲシテ之ヲ管理セシメサル意思ヲ表示シタルトキハ其財產ハ父又ハ母ノ管理ニ屬セサルモノトス
前項ノ場合ニ於テ第三者カ管理者ヲ指定セサリシトキハ裁判所ハ子、其親族又ハ檢事ノ請求ニ因リ其管理者ヲ選任ス
三者カ管理者ヲ指定セシトキト雖モ其管理者ノ權限カ消滅シ又ハ之ヲ改任スル必要アル場合ニ於テ第三者カ更ニ管理者ヲ指定セサルトキ亦同シ
第二十七條乃至第二十九條ノ規定ハ前二項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第八百九十三條
第六百五十四條及ヒ第六百五十五條ノ規定ハ父又ハ母カ子ノ財產ヲ管理スル場合及ヒ前條ノ場合ニ之ヲ準用ス
第八百九十四條
親權ヲ行ヒタル父若クハ母又ハ親族會員ト其子トノ間ニ財產ノ管理ニ付テ生シタル債權ハ其管理權消滅ノ時ヨリ五年間之ヲ行ハサルトキハ時効ニ因リテ消滅ス
子カ未タ成年ニ達セサル間ニ管理權カ消滅シタルトキハ前項ノ期間ハ其子カ成年ニ達シ又ハ後任ノ法定代理人カ就職シタル時ヨリ之ヲ起算ス
第八百九十五條
親權ヲ行フ父又ハ母ハ其未成年ノ子ニ代ハリテ戶主權及ヒ親權ヲ行フ
第三節 親權ノ喪失
第八百九十六條
父又ハ母カ親權ヲ濫用シ又ハ著シク不行跡ナルトキハ裁判所ハ子ノ親族又ハ檢事ノ請求ニ因リ其親權ノ喪失ヲ宣吿スルコトヲ得
第八百九十七條
親權ヲ行フ父又ハ母カ管理ノ失當ニ因リテ其子ノ財產ヲ危クシタルトキハ裁判所ハ子ノ親族又ハ檢事ノ請求ニ因リ其管理權ノ喪失ヲ宣吿スルコトヲ得
父カ前項ノ宣吿ヲ受ケタルトキハ管理權ハ家ニ在ル母之ヲ行フ
第八百九十八條
前二條ニ定メタル原因カ止ミタルトキハ裁判所ハ本人又ハ其親族ノ請求ニ因リ失權ノ宣吿ヲ取消スコトヲ得
第八百九十九條
親權ヲ行フ母ハ財產ノ管理ヲ辭スルコトヲ得
第六章 後見
第一節 後見ノ開始
第九百條
後見ハ左ノ場合ニ於テ開始ス
一 未成年者ニ對シテ親權ヲ行フ者ナキトキ又ハ親權ヲ行フ者カ管理權ヲ有セサルトキ
二 禁治產ノ宣吿アリタルトキ
第二節 後見ノ機關
第一款 後見人
第九百一條
未成年者ニ對シテ最後ニ親權ヲ行フ者ハ遺言ヲ以テ後見人ヲ指定スルコトヲ得但管理權ヲ有セサル者ハ此限ニ在ラス
親權ヲ行フ父ノ生前ニ於テ母カ豫メ財產ノ管理ヲ辭シタルトキハ父ハ前項ノ規定ニ依リテ後見人ノ指定ヲ爲スコトヲ得
第九百二條
親權ヲ行フ父又ハ母ハ禁治產者ノ後見人ト爲ル
妻カ禁治產ノ宣吿ヲ受ケタルトキハ夫其後見人ト爲ル夫カ後見人タラサルトキハ前項ノ規定ニ依ル
夫カ禁治產ノ宣吿ヲ受ケタルトキハ妻其後見人ト爲ル妻カ後見人タラサルトキ又ハ夫カ未成年者ナルトキハ第一項ノ規定ニ依ル
第九百三條
前二條ノ規定ニ依リテ家族ノ後見人タル者アラサルトキハ戶主其後見人ト爲ル
第九百四條
前三條ノ規定ニ依リテ後見人タル者アラサルトキハ後見人ハ親族會之ヲ選任ス
第九百五條
母カ財產ノ管理ヲ辭シ、後見人カ其任務ヲ辭シ、親權ヲ行ヒタル父若クハ母カ家ヲ去リ又ハ戶主カ隱居ヲ爲シタルニ因リ後見人ヲ選任スル必要ヲ生シタルトキハ其父、母又ハ後見人ハ遲滯ナク親族會ヲ招集シ又ハ其招集ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ要ス
第九百六條
後見人ハ一人タルコトヲ要ス
第九百七條
後見人ハ婦女ヲ除ク外左ノ事由アルニ非サレハ其任務ヲ辭スルコトヲ得ス
一 軍人トシテ現役ニ服スルコト
二 被後見人ノ住所ノ市又ハ郡以外ニ於テ公務ニ從事スルコト
三 自己ヨリ先ニ後見人タルヘキ者ニ付キ本條又ハ次條ニ揭ケタル事由ノ存セシ場合ニ於テ其事由カ消滅シタルコト
四 禁治產者ニ付テハ十年以上後見ヲ爲シタルコト但配偶者、直系血族及ヒ戶主ハ此限ニ在ラス
五 此他正當ノ事由
第九百八條
左ニ揭ケタル者ハ後見人タルコトヲ得ス
一 未成年者
二 禁治產者及ヒ準禁治產者
三 剝奪公權者及ヒ停止公權者
四 裁判所ニ於テ免黜セラレタル法定代理人又ハ保佐人
五 破產者
六 被後見人ニ對シテ訴訟ヲ爲シ又ハ爲シタル者及ヒ其配偶者並ニ直系血族
七 行方ノ知レサル者
八 裁判所ニ於テ後見ノ任務ニ堪ヘサル事跡、不正ノ行爲又ハ著シキ不行跡アリト認メタル者
第九百九條
前七條ノ規定ハ保佐人ニ之ヲ準用ス
保佐人又ハ其代表スル者ト準禁治產者トノ利益相反スル行爲ニ付テハ保佐人ハ臨時保佐人ノ選任ヲ親族會ニ請求スルコトヲ要ス
第二款 後見監督人
第九百十條
後見人ヲ指定スルコトヲ得ル者ハ遺言ヲ以テ後見監督人ヲ指定スルコトヲ得
第九百十一條
前條ノ規定ニ依リテ指定シタル後見監督人ナキトキハ法定後見人又ハ指定後見人ハ其事務ニ著手スル前親族會ノ招集ヲ裁判所ニ請求シ後見監督人ヲ選任セシムルコトヲ要ス若シ之ニ違反シタルトキハ親族會ハ其後見人ヲ免黜スルコトヲ得
親族會ニ於テ後見人ヲ選任シタルトキハ直チニ後見監督人ヲ選任スルコトヲ要ス
第九百十二條
後見人就職ノ後後見監督人ノ缺ケタルトキハ後見人ハ遲滯ナク親族會ヲ招集シ後見監督人ヲ選任セシムルコトヲ要ス此場合ニ於テハ前條第一項ノ規定ヲ準用ス
第九百十三條
後見人ノ更迭アリタルトキハ親族會ハ後見監督人ヲ改選スルコトヲ要ス但前後見監督人ヲ再選スルコトヲ妨ケス
新後見人カ親族會ニ於テ選任シタル者ニ非サルトキハ後見監督人ハ遲滯ナク親族會ヲ招集シ前項ノ規定ニ依リテ改選ヲ爲サシムルコトヲ要ス若シ之ニ違反シタルトキハ後見人ノ行爲ニ付キ之ト連帶シテ其責ニ任ス
第九百十四條
後見人ノ配偶者、直系血族又ハ兄弟姉妹ハ後見監督人タルコトヲ得ス
第九百十五條
後見監督人ノ職務左ノ如シ
一 後見人ノ事務ヲ監督スルコト
二 後見人ノ缺ケタル場合ニ於テ遲滯ナク其後任者ノ任務ニ就クコトヲ促シ若シ後任者ナキトキハ親族會ヲ招集シテ其選任ヲ爲サシムルコト
三 急迫ノ事情アル場合ニ於テ必要ナル處分ヲ爲スコト
四 後見人又ハ其代表スル者ト被後見人トノ利益相反スル行爲ニ付キ被後見人ヲ代表スルコト
第九百十六條
第六百四十四條、第九百七條及ヒ第九百八條ノ規定ハ後見監督人ニ之ヲ準用ス
第三節 後見ノ事務
第九百十七條
後見人ハ遲滯ナク被後見人ノ財產ノ調査ニ著手シ一个月內ニ其調査ヲ終ハリ且其目錄ヲ調製スルコトヲ要ス但此期間ハ親族會ニ於テ之ヲ伸長スルコトヲ得
財產ノ調査及ヒ其目錄ノ調製ハ後見監督人ノ立會ヲ以テ之ヲ爲スニ非サレハ其効ナシ
後見人カ前二項ノ規定ニ從ヒ財產ノ目錄ヲ調製セサルトキハ親族會ハ之ヲ免黜スルコトヲ得
第九百十八條
後見人ハ目錄ノ調製ヲ終ハルマテハ急迫ノ必要アル行爲ノミヲ爲ス權限ヲ有ス但之ヲ以テ善意ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
第九百十九條
後見人カ被後見人ニ對シ債權ヲ有シ又ハ債務ヲ負フトキハ財產ノ調査ニ著手スル前ニ之ヲ後見監督人ニ申出ツルコトヲ要ス
後見人カ被後見人ニ對シ債權ヲ有スルコトヲ知リテ之ヲ申出テサルトキハ其債權ヲ失フ
後見人カ被後見人ニ對シ債務ヲ負フコトヲ知リテ之ヲ申出テサルトキハ親族會ハ其後見人ヲ免黜スルコトヲ得
第九百二十條
前三條ノ規定ハ後見人就職ノ後被後見人カ包括財產ヲ取得シタル場合ニ之ヲ準用ス
第九百二十一條
未成年者ノ後見人ハ第八百七十九條乃至第八百八十三條及ヒ第八百八十五條ニ定メタル事項ニ付キ親權ヲ行フ父又ハ母ト同一ノ權利義務ヲ有ス但親權ヲ行フ父又ハ母カ定メタル敎育ノ方法及ヒ居所ヲ變更シ、未成年者ヲ懲戒場ニ入レ、營業ヲ許可シ、其許可ヲ取消シ又ハ之ヲ制限スルニハ親族會ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
第九百二十二條
禁治產者ノ後見人ハ禁治產者ノ資力ニ應シテ其療養監護ヲ力ムルコトヲ要ス
禁治產者ヲ瘋癲病院ニ入レ又ハ私宅ニ監置スルト否トハ親族會ノ同意ヲ得テ後見人之ヲ定ム
第九百二十三條
後見人ハ被後見人ノ財產ヲ管理シ又其財產ニ關スル法律行爲ニ付キ被後見人ヲ代表ス
第八百八十四條但書ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第九百二十四條
後見人ハ其就職ノ初ニ於テ親族會ノ同意ヲ得テ被後見人ノ生活、敎育又ハ療養監護及ヒ財產ノ管理ノ爲メ每年費スヘキ金額ヲ豫定スルコトヲ要ス
前項ノ豫定額ハ親族會ノ同意ヲ得ルニ非サレハ之ヲ變更スルコトヲ得ス但已ムコトヲ得サル場合ニ於テ豫定額ヲ超ユル金額ヲ支出スルコトヲ妨ケス
第九百二十五條
親族會ハ後見人及ヒ被後見人ノ資力其他ノ事情ニ依リ被後見人ノ財產中ヨリ相當ノ報酬ヲ後見人ニ與フルコトヲ得但後見人カ被後見人ノ配偶者、直系血族又ハ戶主ナルトキハ此限ニ在ラス
第九百二十六條
後見人ハ親族會ノ同意ヲ得テ有給ノ財產管理者ヲ使用スルコトヲ得但第百六條ノ適用ヲ妨ケス
第九百二十七條
親族會ハ後見人就職ノ初ニ於テ後見人カ被後見人ノ爲メニ受取リタル金錢カ何程ノ額ニ達セハ之ヲ寄託スヘキカヲ定ムルコトヲ要ス
後見人カ被後見人ノ爲メニ受取リタル金錢カ親族會ノ定メタル額ニ達スルモ相當ノ期間內ニ之ヲ寄託セサルトキハ其法定利息ヲ拂フコトヲ要ス
金錢ヲ寄託スヘキ場所ハ親族會ノ同意ヲ得テ後見人之ヲ定ム
第九百二十八條
指定後見人及ヒ選定後見人ハ每年少クトモ一回被後見人ノ財產ノ狀況ヲ親族會ニ報吿スルコトヲ要ス
第九百二十九條
後見人カ被後見人ニ代ハリテ營業若クハ第十二條第一項ニ揭ケタル行爲ヲ爲シ又ハ未成年者ノ之ヲ爲スコトニ同意スルニハ親族會ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス但元本ノ領收ニ付テハ此限ニ在ラス
第九百三十條
後見人カ被後見人ノ財產又ハ被後見人ニ對スル第三者ノ權利ヲ讓受ケタルトキハ被後見人ハ之ヲ取消スコトヲ得此場合ニ於テハ第十九條ノ規定ヲ準用ス
前項ノ規定ハ第百二十一條乃至第百二十六條ノ適用ヲ妨ケス
第九百三十一條
後見人ハ親族會ノ同意ヲ得ルニ非サレハ被後見人ノ財產ヲ賃借スルコトヲ得ス
第九百三十二條
後見人カ其任務ヲ曠クスルトキハ親族會ハ臨時管理人ヲ選任シ後見人ノ責任ヲ以テ被後見人ノ財產ヲ管理セシムルコトヲ得
第九百三十三條
親族會ハ後見人ヲシテ被後見人ノ財產ノ管理及ヒ返還ニ付キ相當ノ擔保ヲ供セシムルコトヲ得
第九百三十四條
被後見人カ戶主ナルトキハ後見人ハ之ニ代ハリテ其權利ヲ行フ但家族ヲ離籍シ、其復籍ヲ拒ミ又ハ家族カ分家ヲ爲シ若クハ廢絕家ヲ再興スルコトヲ同意スルニハ親族會ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
後見人ハ未成年者ニ代ハリテ親權ヲ行フ但第九百十七條乃至第九百二十一條及ヒ前十條ノ規定ヲ準用ス
第九百三十五條
親權ヲ行フ者カ管理權ヲ有セサル場合ニ於テハ後見人ハ財產ニ關スル權限ノミヲ有ス
第九百三十六條
第六百四十四條、第八百八十七條、第八百八十九條第二項及ヒ第八百九十二條ノ規定ハ後見ニ之ヲ準用ス
第四節 後見ノ終了
第九百三十七條
後見人ノ任務カ終了シタルトキハ後見人又ハ其相續人ハ二个月內ニ其管理ノ計算ヲ爲スコトヲ要ス但此期間ハ親族會ニ於テ之ヲ伸長スルコトヲ得
第九百三十八條
後見ノ計算ハ後見監督人ノ立會ヲ以テ之ヲ爲ス
後見人ノ更迭アリタル場合ニ於テハ後見ノ計算ハ親族會ノ認可ヲ得ルコトヲ要ス
第九百三十九條
未成年者カ成年ニ達シタル後後見ノ計算ノ終了前ニ其者ト後見人又ハ其相續人トノ間ニ爲シタル契約ハ其者ニ於テ之ヲ取消スコトヲ得其者カ後見人又ハ其相續人ニ對シテ爲シタル單獨行爲亦同シ
第十九條及ヒ第百二十一條乃至第百二十六條ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第九百四十條
後見人カ被後見人ニ返還スヘキ金額及ヒ被後見人カ後見人ニ返還スヘキ金額ニハ後見ノ計算終了ノ時ヨリ利息ヲ附スルコトヲ要ス
後見人カ自己ノ爲メニ被後見人ノ金錢ヲ消費シタルトキハ其消費ノ時ヨリ之ニ利息ヲ附スルコトヲ要ス尙ホ損害アリタルトキハ其賠償ノ責ニ任ス
第九百四十一條
第六百五十四條及ヒ第六百五十五條ノ規定ハ後見ニ之ヲ準用ス
第九百四十二條
第八百九十四條ニ定メタル時効ハ後見人、後見監督人又ハ親族會員ト被後見人トノ間ニ於テ後見ニ關シテ生シタル債權ニ之ニ準用ス
前項ノ時効ハ第九百三十九條ノ規定ニ依リテ法律行爲ヲ取消シタル場合ニ於テハ其取消ノ時ヨリ之ヲ起算ス
第九百四十三條
前條第一項ノ規定ハ保佐人又ハ親族會員ト準禁治產者トノ間ニ之ニ準用ス
第七章 親族會
第九百四十四條
本法其他ノ法令ノ規定ニ依リ親族會ヲ開クヘキ場合ニ於テハ會議ヲ要スル事件ノ本人、戶主、親族、後見人、後見監督人、保佐人、檢事又ハ利害關係人ノ請求ニ因リ裁判所之ヲ招集ス
第九百四十五條
親族會員ハ三人以上トシ親族其他本人又ハ其家ニ緣故アル者ノ中ヨリ裁判所之ヲ選定ス
後見人ヲ指定スルコトヲ得ル者ハ遺言ヲ以テ親族會員ヲ選定スルコトヲ得
第九百四十六條
遠隔ノ地ニ居住スル者其他正當ノ事由アル者ハ親族會員タルコトヲ辭スルコトヲ得
後見人、後見監督人及ヒ保佐人ハ親族會員タルコトヲ得ス
第九百八條ノ規定ハ親族會員ニ之ヲ準用ス
第九百四十七條
親族會ノ議事ハ會員ノ過半數ヲ以テ之ヲ決ス
會員ハ自己ノ利害ニ關スル議事ニ付キ表決ノ數ニ加ハルコトヲ得ス
第九百四十八條
本人、戶主、家ニ在ル父母、配偶者、本家並ニ分家ノ戶主、後見人、後見監督人及ヒ保佐人ハ親族會ニ於テ其意見ヲ述フルコトヲ得
親族會ノ招集ハ前項ニ揭ケタル者ニ之ヲ通知スルコトヲ要ス
第九百四十九條
無能力者ノ爲メニ設ケタル親族會ハ其者ノ無能力ノ止ムマテ繼續ス此親族會ハ最初ノ招集ノ場合ヲ除ク外本人、其法定代理人、後見監督人、保佐人又ハ會員之ヲ招集ス
第九百五十條
親族會ニ缺員ヲ生シタルトキハ會員ハ補缺員ノ選定ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ要ス
第九百五十一條
親族會ノ決議ニ對シテハ一个月內ニ會員又ハ第九百四十四條ニ揭ケタル者ヨリ其不服ヲ裁判所ニ訴フルコトヲ得
第九百五十二條
親族會カ決議ヲ爲スコト能ハサルトキハ會員ハ其決議ニ代ハルヘキ裁判ヲ爲スコトヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得
第九百五十三條
第六百四十四條ノ規定ハ親族會員ニ之ヲ準用ス
第八章 扶養ノ義務
第九百五十四條
直系血族及ヒ兄弟姉妹ハ互ニ扶養ヲ爲ス義務ヲ負フ
夫婦ノ一方ト他ノ一方ノ直系尊屬ニシテ其家ニ在ル者トノ間亦同シ
第九百五十五條
扶養ノ義務ヲ負フ者數人アル場合ニ於テハ其義務ヲ履行スヘキ者ノ順序左ノ如シ
第一 配偶者
第二 直系卑屬
第三 直系尊屬
第四 戶主
第五 前條第二項ニ揭ケタル者
第六 兄弟姉妹
直系卑屬又ハ直系尊屬ノ間ニ於テハ其親等ノ最モ近キ者ヲ先ニス前條第二項ニ揭ケタル直系尊屬間亦同シ
第九百五十六條
同順位ノ扶養義務者數人アルトキハ各其資力ニ應シテ其義務ヲ分擔ス但家ニ在ル者ト家ニ在ラサル者トノ間ニ於テハ家ニ在ル者先ツ扶養ヲ爲スコトヲ要ス
第九百五十七條
扶養ヲ受クル權利ヲ有スル者數人アル場合ニ於テ扶養義務者ノ資力カ其全員ヲ扶養スルニ足ラサルトキハ扶養義務者ハ左ノ順序ニ從ヒ扶養ヲ爲スコトヲ要ス
第一 直系尊屬
第二 直系卑屬
第三 配偶者
第四 第九百五十四條第二項ニ揭ケタル者
第五 兄弟姉妹
第六 前五號ニ揭ケタル者ニ非サル家族
第九百五十五條第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第九百五十八條
同順位ノ扶養權利者數人アルトキハ各其需要ニ應シテ扶養ヲ受クルコトヲ得
第九百五十六條但書ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第九百五十九條
扶養ノ義務ハ扶養ヲ受クヘキ者カ自己ノ資產又ハ勞務ニ依リテ生活ヲ爲スコト能ハサルトキニノミ存在ス自己ノ資產ニ依リテ敎育ヲ受クルコト能ハサルトキ亦同シ
兄弟姉妹間ニ在リテハ扶養ノ義務ハ扶養ヲ受クル必要カ之ヲ受クヘキ者ノ過失ニ因ラスシテ生シタルトキニノミ存在ス但扶養義務者カ戶主ナルトキハ此限ニ在ラス
第九百六十條
扶養ノ程度ハ扶養權利者ノ需要ト扶養義務者ノ身分及ヒ資力トニ依リテ之ヲ定ム
第九百六十一條
扶養義務者ハ其選擇ニ從ヒ扶養權利者ヲ引取リテ之ヲ養ヒ又ハ之ヲ引取ラスシテ生活ノ資料ヲ給付スルコトヲ要ス但正當ノ事由アルトキハ裁判所ハ扶養權利者ノ請求ニ依リ扶養ノ方法ヲ定ムルコトヲ得
第九百六十二條
扶養ノ程度又ハ方法カ判決ニ因リテ定マリタル場合ニ於テ其判決ノ根據ト爲リタル事情ニ變更ヲ生シタルトキハ當事者ハ其判決ノ變更又ハ取消ヲ請求スルコトヲ得
第九百六十三條
扶養ヲ受クル權利ハ之ヲ處分スルコトヲ得ス
第五編 相續
第一章 家督相續
第一節 總則
第九百六十四條
家督相續ハ左ノ事由ニ因リテ開始ス
一 戶主ノ死亡、隱居又ハ國籍喪失
二 戶主カ婚姻又ハ養子緣組ノ取消ニ因リテ其家ヲ去リタルトキ
三 女戶主ノ入夫婚姻又ハ入夫ノ離婚
第九百六十五條
家督相續ハ被相續人ノ住所ニ於テ開始ス
第九百六十六條
家督相續回復ノ請求權ハ家督相續人又ハ其法定代理人カ相續權侵害ノ事實ヲ知リタル時ヨリ五年間之ヲ行ハサルトキハ時効ニ因リテ消滅ス相續開始ノ時ヨリ二十年ヲ經過シタルトキ亦同シ
第九百六十七條
相續財產ニ關スル費用ハ其財產中ヨリ之ヲ支弁ス但家督相續人ノ過失ニ因ルモノハ此限ニ在ラス
前項ニ揭ケタル費用ハ遺留分權利者カ贈與ノ減殺ニ因リテ得タル財產ヲ以テ之ヲ支弁スルコトヲ要セス
第二節 家督相續人
第九百六十八條
胎兒ハ家督相續ニ付テハ既ニ生マレタルモノト看做ス
前項ノ規定ハ胎兒カ死體ニテ生マレタルトキハ之ヲ適用セス
第九百六十九條
左ニ揭ケタル者ハ家督相續人タルコトヲ得ス
一 故意ニ被相續人又ハ家督相續ニ付キ先順位ニ在ル者ヲ死ニ致シ又ハ死ニ致サントシタル爲メ刑ニ處セラレタル者
二 被相續人ノ殺害セラレタルコトヲ知リテ之ヲ吿發又ハ吿訴セサリシ者但其者ニ是非ノ弁別ナキトキ又ハ殺害者カ自己ノ配偶者若クハ直系血族ナリシトキハ此限ニ在ラス
三 詐欺又ハ强迫ニ因リ被相續人カ相續ニ關スル遺言ヲ爲シ、之ヲ取消シ又ハ之ヲ變更スルコトヲ妨ケタル者
四 詐欺又ハ强迫ニ因リ被相續人ヲシテ相續ニ關スル遺言ヲ爲サシメ、之ヲ取消サシメ又ハ之ヲ變更セシメタル者
五 相續ニ關スル被相續人ノ遺言書ヲ僞造、變造、毀滅又ハ藏匿シタル者
第九百七十條
被相續人ノ家族タル直系卑屬ハ左ノ規定ニ從ヒ家督相續人ト爲ル
一 親等ノ異ナリタル者ノ間ニ在リテハ其近キ者ヲ先ニス
二 親等ノ同シキ者ノ間ニ在リテハ男ヲ先ニス
三 親等ノ同シキ男又ハ女ノ間ニ在リテハ嫡出子ヲ先ニス
四 親等ノ同シキ嫡出子、庶子及ヒ私生子ノ間ニ在リテハ嫡出子及ヒ庶子ハ女ト雖モ之ヲ私生子ヨリ先ニス
五 前四號ニ揭ケタル事項ニ付キ相同シキ者ノ間ニ在リテハ年長者ヲ先ニス
第八百三十六條ノ規定ニ依リ又ハ養子緣組ニ因リテ嫡出子タル身分ヲ取得シタル者ハ家督相續ニ付テハ其嫡出子タル身分ヲ取得シタル時ニ生マレタルモノト看做ス
第九百七十一條
前條ノ規定ハ第七百三十六條ノ適用ヲ妨ケス
第九百七十二條
第七百三十七條及ヒ第七百三十八條ノ規定ニ依リテ家族ト爲リタル直系卑屬ハ嫡出子又ハ庶子タル他ノ直系卑屬ナキ場合ニ限リ第九百七十條ニ定メタル順序ニ從ヒテ家督相續人ト爲ル
第九百七十三條
法定ノ推定家督相續人ハ其姉妹ノ爲メニスル養子緣組ニ因リテ其相續權ヲ害セラルルコトナシ
第九百七十四條
第九百七十條及ヒ第九百七十二條ノ規定ニ依リテ家督相續人タルヘキ者カ家督相續ノ開始前ニ死亡シ又ハ其相續權ヲ失ヒタル場合ニ於テ其者ニ直系卑屬アルトキハ其直系卑屬ハ第九百七十條及ヒ第九百七十二條ニ定メタル順序ニ從ヒ其者ト同順位ニ於テ家督相續人ト爲ル
第九百七十五條
法定ノ推定家督相續人ニ付キ左ノ事由アルトキハ被相續人ハ其推定家督相續人ノ廢除ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得
一 被相續人ニ對シテ虐待ヲ爲シ又ハ之ニ重大ナル侮辱ヲ加ヘタルコト
二 疾病其他身體又ハ精神ノ狀況ニ因リ家政ヲ執ルニ堪ヘサルヘキコト
三 家名ニ汚辱ヲ及ホスヘキ罪ニ因リテ刑ニ處セラレタルコト
四 浪費者トシテ準禁治產ノ宣吿ヲ受ケ改悛ノ望ナキコト
此他正當ノ事由アルトキハ被相續人ハ親族會ノ同意ヲ得テ其廢除ヲ請求スルコトヲ得
第九百七十六條
被相續人カ遺言ヲ以テ推定家督相續人ヲ廢除スル意思ヲ表示シタルトキハ遺言執行者ハ其遺言カ効力ヲ生シタル後遲滯ナク裁判所ニ廢除ノ請求ヲ爲スコトヲ要ス此場合ニ於テ廢除ハ被相續人ノ死亡ノ時ニ遡リテ其効力ヲ生ス
第九百七十七條
推定家督相續人廢除ノ原因止ミタルトキハ被相續人又ハ推定家督相續人ハ廢除ノ取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得
第九百七十五條第一項第一號ノ場合ニ於テハ被相續人ハ何時ニテモ廢除ノ取消ヲ請求スルコトヲ得
前二項ノ規定ハ相續開始ノ後ハ之ヲ適用セス
前條ノ規定ハ廢除ノ取消ニ之ヲ準用ス
第九百七十八條
推定家督相續人ノ廢除又ハ其取消ノ請求アリタル後其裁判確定前ニ相續カ開始シタルトキハ裁判所ハ親族、利害關係人又ハ檢事ノ請求ニ因リ戶主權ノ行使及ヒ遺產ノ管理ニ付キ必要ナル處分ヲ命スルコトヲ得廢除ノ遺言アリタルトキ亦同シ
裁判所カ管理人ヲ選任シタル場合ニ於テハ第二十七條乃至第二十九條ノ規定ヲ準用ス
第九百七十九條
法定ノ推定家督相續人ナキトキハ被相續人ハ家督相續人ヲ指定スルコトヲ得此指定ハ法定ノ推定家督相續人アルニ至リタルトキハ其効力ヲ失フ
家督相續人ノ指定ハ之ヲ取消スコトヲ得
前二項ノ規定ハ死亡又ハ隱居ニ因ル家督相續ノ場合ニノミ之ヲ適用ス
第九百八十條
家督相續人ノ指定及ヒ其取消ハ之ヲ戶籍吏ニ屆出ツルニ因リテ其効力ヲ生ス
第九百八十一條
被相續人カ遺言ヲ以テ家督相續人ノ指定又ハ其取消ヲ爲ス意思ヲ表示シタルトキハ遺言執行人ハ其遺言カ効力ヲ生シタル後遲滯ナク之ヲ戶籍吏ニ屆出ツルコトヲ要ス此場合ニ於テ指定又ハ其取消ハ被相續人ノ死亡ノ時ニ遡リテ其効力ヲ生ス
第九百八十二條
法定又ハ指定ノ家督相續人ナキ場合ニ於テ其家ニ被相續人ノ父アルトキハ父、父アラサルトキ又ハ父カ其意思ヲ表示スルコト能ハサルトキハ母、父母共ニアラサルトキ又ハ其意思ヲ表示スルコト能ハサルトキハ親族會ハ左ノ順序ニ從ヒ家族中ヨリ家督相續人ヲ選定ス
第一 配偶者但家女ナルトキ
第二 兄弟
第三 姉妹
第四 第一號ニ該當セサル配偶者
第五 兄弟姉妹ノ直系卑屬
第九百八十三條
家督相續人ヲ選定スヘキ者ハ正當ノ事由アル場合ニ限リ裁判所ノ許可ヲ得テ前條ニ揭ケタル順序ヲ變更シ又ハ選定ヲ爲ササルコトヲ得
第九百八十四條
第九百八十二條ノ規定ニ依リテ家督相續人タル者ナキトキハ家ニ在ル直系尊屬中親等ノ最モ近キ者家督相續人ト爲ル但親等ノ同シキ者ノ間ニ在リテハ男ヲ先ニス
第九百八十五條
前條ノ規定ニ依リテ家督相續人タル者ナキトキハ親族會ハ被相續人ノ親族、家族、分家ノ戶主又ハ本家若クハ分家ノ家族中ヨリ家督相續人ヲ選定ス
前項ニ揭ケタル者ノ中ニ家督相續人タルヘキ者ナキトキハ親族會ハ他人ノ中ヨリ之ヲ選定ス
親族會ハ正當ノ事由アル場合ニ限リ前二項ノ規定ニ拘ハラス裁判所ノ許可ヲ得テ他人ヲ選定スルコトヲ得
第三節 家督相續ノ効力
第九百八十六條
家督相續人ハ相續開始ノ時ヨリ前戶主ノ有セシ權利義務ヲ承繼ス但前戶主ノ一身ニ專屬セルモノハ此限ニ在ラス
第九百八十七條
系譜、祭具及ヒ墳墓ノ所有權ハ家督相續ノ特權ニ屬ス
第九百八十八條
隱居者及ヒ入夫婚姻ヲ爲ス女戶主ハ確定日附アル證書ニ依リテ其財產ヲ留保スルコトヲ得但家督相續人ノ遺留分ニ關スル規定ニ違反スルコトヲ得ス
第九百八十九條
隱居又ハ入夫婚姻ニ因ル家督相續ノ場合ニ於テハ前戶主ノ債權者ハ其前戶主ニ對シテ弁濟ノ請求ヲ爲スコトヲ得
入夫婚姻ノ取消又ハ入夫ノ離婚ニ因ル家督相續ノ場合ニ於テハ入夫カ戶主タリシ間ニ負擔シタル債務ノ弁濟ハ其入夫ニ對シテ之ヲ請求スルコトヲ得
前二項ノ規定ハ家督相續人ニ對スル請求ヲ妨ケス
第九百九十條
國籍喪失者ノ家督相續人ハ戶主權及ヒ家督相續ノ特權ニ屬スル權利ノミヲ承繼ス但遺留分及ヒ前戶主カ特ニ指定シタル相續財產ヲ承繼スルコトヲ妨ケス
國籍喪失者カ日本人ニ非サレハ享有スルコトヲ得サル權利ヲ有スル場合ニ於テ一年內ニ之ヲ日本人ニ讓渡ササルトキハ其權利ハ家督相續人ニ歸屬ス
第九百九十一條
國籍喪失ニ因ル家督相續ノ場合ニ於テハ前戶主ノ債權者ハ家督相續人ニ對シテハ其受ケタル財產ノ限度ニ於テノミ弁濟ノ請求ヲ爲スコトヲ得
第二章 遺產相續
第一節 總則
第九百九十二條
遺產相續ハ家族ノ死亡ニ因リテ開始ス
第九百九十三條
第九百六十五條乃至第九百六十八條ノ規定ハ遺產相續ニ之ヲ準用ス
第二節 遺產相續人
第九百九十四條
被相續人ノ直系卑屬ハ左ノ規定ニ從ヒ遺產相續人ト爲ル
一 親等ノ異ナリタル者ノ間ニ在リテハ其近キ者ヲ先ニス
二 親等ノ同シキ者ハ同順位ニ於テ遺產相續人ト爲ル
第九百九十五條
前條ノ規定ニ依リテ遺產相續人タルヘキ者カ相續ノ開始前ニ死亡シ又ハ其相續權ヲ失ヒタル場合ニ於テ其者ニ直系卑屬アルトキハ其直系卑屬ハ前條ノ規定ニ從ヒ其者ト同順位ニ於テ遺產相續人ト爲ル
第九百九十六條
前二條ノ規定ニ依リテ遺產相續人タルヘキ者ナキ場合ニ於テ遺產相續ヲ爲スヘキ者ノ順位左ノ如シ
第一 配偶者
第二 直系尊屬
第三 戶主
前項第二號ノ場合ニ於テハ第九百九十四條ノ規定ヲ準用ス
第九百九十七條
左ニ揭ケタル者ハ遺產相續人タルコトヲ得ス
一 故意ニ被相續人又ハ遺產相續ニ付キ先順位若クハ同順位ニ在ル者ヲ死ニ致シ又ハ死ニ致サントシタル爲メ刑ニ處セラレタル者
二 第九百六十九條第二號乃至第五號ニ揭ケタル者
第九百九十八條
遺留分ヲ有スル推定遺產相續人カ被相續人ニ對シテ虐待ヲ爲シ又ハ之ニ重大ナル侮辱ヲ加ヘタルトキハ被相續人ハ其推定遺產相續人ノ廢除ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得
第九百九十九條
被相續人ハ何時ニテモ推定遺產相續人廢除ノ取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得
第千條
第九百七十六條及ヒ第九百七十八條ノ規定ハ推定遺產相續人ノ廢除及ヒ其取消ニ之ヲ準用ス
第三節 遺產相續ノ効力
第一款 總則
第千一條
遺產相續人ハ相續開始ノ時ヨリ被相續人ノ財產ニ屬セシ一切ノ權利義務ヲ承繼ス但被相續人ノ一身ニ專屬セシモノハ此限ニ在ラス
第千二條
遺產相續人數人アルトキハ相續財產ハ其共有ニ屬ス
第千三條
各共同相續人ハ其相續分ニ應シテ被相續人ノ權利義務ヲ承繼ス
第二款 相續分
第千四條
同順位ノ相續人數人アルトキハ其各自ノ相續分ハ相均シキモノトス但直系卑屬數人アルトキハ庶子及ヒ私生子ノ相續分ハ嫡出子ノ相續分ノ二分ノ一トス
第千五條
第九百九十五條ノ規定ニ依リテ相續人タル直系卑屬ノ相續分ハ其直系尊屬カ受クヘカリシモノニ同シ但直系卑屬數人アルトキハ其各自ノ直系尊屬カ受クヘカリシ部分ニ付キ前條ノ規定ニ從ヒテ其相續分ヲ定ム
第千六條
被相續人ハ前二條ノ規定ニ拘ハラス遺言ヲ以テ共同相續人ノ相續分ヲ定メ又ハ之ヲ定ムルコトヲ第三者ニ委託スルコトヲ得但被相續人又ハ第三者ハ遺留分ニ關スル規定ニ違反スルコトヲ得ス
被相續人カ共同相續人中ノ一人若クハ數人ノ相續分ノミヲ定メ又ハ之ヲ定メシメタルトキハ他ノ共同相續人ノ相續分ハ前二條ノ規定ニ依リテ之ヲ定ム
第千七條
共同相續人中被相續人ヨリ遺贈ヲ受ケ又ハ婚姻、養子緣組、分家、廢絕家再興ノ爲メ若クハ生計ノ資本トシテ贈與ヲ受ケタル者アルトキハ被相續人カ相續開始ノ時ニ於テ有セシ財產ノ價額ニ其贈與ノ價額ヲ加ヘタルモノヲ相續財產ト看做シ前三條ノ規定ニ依リテ算定シタル相續分ノ中ヨリ其遺贈又ハ贈與ノ價額ヲ控除シ其殘額ヲ以テ其者ノ相續分トス
遺贈又ハ贈與ノ價額カ相續分ノ價額ニ等シク又ハ之ニ超ユルトキハ受遺者又ハ受贈者ハ其相續分ヲ受クルコトヲ得ス
被相續人カ前二項ノ規定ニ異ナリタル意思ヲ表示シタルトキハ其意思表示ハ遺留分ニ關スル規定ニ反セサル範圍內ニ於テ其効力ヲ有ス
第千八條
前條ニ揭ケタル贈與ノ價額ハ受贈者ノ行爲ニ因リ其目的タル財產カ滅失シ又ハ其價格ノ增減アリタルトキト雖モ相續開始ノ當時仍ホ原狀ニテ存スルモノト看做シテ之ヲ定ム
第千九條
共同相續人ノ一人カ分割前ニ其相續分ヲ第三者ニ讓渡シタルトキハ他ノ共同相續人ハ其價額及ヒ費用ヲ償還シテ其相續分ヲ讓受クルコトヲ得
前項ニ定メタル權利ハ一个月內ニ之ヲ行使スルコトヲ要ス
第三款 遺產ノ分割
第千十條
被相續人ハ遺言ヲ以テ分割ノ方法ヲ定メ又ハ之ヲ定ムルコトヲ第三者ニ委託スルコトヲ得
第千十一條
被相續人ハ遺言ヲ以テ相續開始ノ時ヨリ五年ヲ超エサル期間內分割ヲ禁スルコトヲ得
第千十二條
遺產ノ分割ハ相續開始ノ時ニ遡リテ其効力ヲ生ス
第千十三條
各共同相續人ハ相續開始前ヨリ存スル事由ニ付キ他ノ共同相續人ニ對シ賣主ト同シク其相續分ニ應シテ擔保ノ責ニ任ス
第千十四條
各共同相續人ハ其相續分ニ應シ他ノ共同相續人カ分割ニ因リテ受ケタル債權ニ付キ分割ノ當時ニ於ケル債務者ノ資力ヲ擔保ス
弁濟期ニ在ラサル債權及ヒ停止條件附債權ニ付テハ各共同相續人ハ弁濟ヲ爲スヘキ時ニ於ケル債務者ノ資力ヲ擔保ス
第千十五條
擔保ノ責ニ任スル共同相續人中償還ヲ爲ス資力ナキ者アルトキハ其償還スルコト能ハサル部分ハ求償者及ヒ他ノ資力アル者各其相續分ニ應シテ之ヲ分擔ス但求償者ニ過失アルトキハ他ノ共同相續人ニ對シテ分擔ヲ請求スルコトヲ得ス
第千十六條
前三條ノ規定ハ被相續人カ遺言ヲ以テ別段ノ意思ヲ表示シタルトキハ之ヲ適用セス
第三章 相續ノ承認及ヒ抛棄
第一節 總則
第千十七條
相續人ハ自己ノ爲メニ相續ノ開始アリタルコトヲ知リタル時ヨリ三个月內ニ單純若クハ限定ノ承認又ハ抛棄ヲ爲スコトヲ要ス但此期間ハ利害關係人又ハ檢事ノ請求ニ因リ裁判所ニ於テ之ヲ伸長スルコトヲ得
相續人ハ承認又ハ抛棄ヲ爲ス前ニ相續財產ノ調査ヲ爲スコトヲ得
第千十八條
相續人カ承認又ハ抛棄ヲ爲サスシテ死亡シタルトキハ前條第一項ノ期間ハ其者ノ相續人カ自己ノ爲メニ相續ノ開始アリタルコトヲ知リタル時ヨリ之ヲ起算ス
第千十九條
相續人カ無能力者ナルトキハ第千十七條第一項ノ期間ハ其法定代理人カ無能力者ノ爲メニ相續ノ開始アリタルコトヲ知リタル時ヨリ之ヲ起算ス
第千二十條
法定家督相續人ハ抛棄ヲ爲スコトヲ得ス但第九百八十四條ニ揭ケタル者ハ此限ニ在ラス
第千二十一條
相續人ハ其固有財產ニ於ケルト同一ノ注意ヲ以テ相續財產ヲ管理スルコトヲ要ス但承認又ハ抛棄ヲ爲シタルトキハ此限ニ在ラス
裁判所ハ利害關係人又ハ檢事ノ請求ニ因リ何時ニテモ相續財產ノ保存ニ必要ナル處分ヲ命スルコトヲ得
裁判所カ管理人ヲ選任シタル場合ニ於テハ第二十七條乃至第二十九條ノ規定ヲ準用ス
第千二十二條
承認及ヒ抛棄ハ第千十七條第一項ノ期間內ト雖モ之ヲ取消スコトヲ得ス
前項ノ規定ハ第一編及ヒ前編ノ規定ニ依リテ承認又ハ抛棄ノ取消ヲ爲スコトヲ妨ケス但其取消權ハ追認ヲ爲スコトヲ得ル時ヨリ六个月間之ヲ行ハサルトキハ時効ニ因リテ消滅ス承認又ハ抛棄ノ時ヨリ十年ヲ經過シタルトキ亦同シ
第二節 承認
第一款 單純承認
第千二十三條
相續人カ單純承認ヲ爲シタルトキハ無限ニ被相續人ノ權利義務ヲ承繼ス
第千二十四條
左ニ揭ケタル場合ニ於テハ相續人ハ單純承認ヲ爲シタルモノト看做ス
一 相續人カ相續財產ノ全部又ハ一部ヲ處分シタルトキ但保存行爲及ヒ第六百二條ニ定メタル期間ヲ超エサル賃貸ヲ爲スハ此限ニ在ラス
二 相續人カ第千十七條第一項ノ期間內ニ限定承認又ハ抛棄ヲ爲ササリシトキ
三 相續人カ限定承認又ハ抛棄ヲ爲シタル後ト雖モ相續財產ノ全部若クハ一部ヲ隱匿シ、私ニ之ヲ消費シ又ハ惡意ヲ以テ之ヲ財產目錄中ニ記載セサリシトキ但其相續人カ抛棄ヲ爲シタルニ因リテ相續人ト爲リタル者カ承認ヲ爲シタル後ハ此限ニ在ラス
第二款 限定承認
第千二十五條
相續人ハ相續ニ因リテ得タル財產ノ限度ニ於テノミ被相續人ノ債務及ヒ遺贈ヲ弁濟スヘキコトヲ留保シテ承認ヲ爲スコトヲ得
第千二十六條
相續人カ限定承認ヲ爲サント欲スルトキハ第千十七條第一項ノ期間內ニ財產目錄ヲ調製シテ之ヲ裁判所ニ提出シ限定承認ヲ爲ス旨ヲ申述スルコトヲ要ス
第千二十七條
相續人カ限定承認ヲ爲シタルトキハ其被相續人ニ對シテ有セシ權利義務ハ消滅セサリシモノト看做ス
第千二十八條
限定承認者ハ其固有財產ニ於ケルト同一ノ注意ヲ以テ相續財產ノ管理ヲ繼續スルコトヲ要ス
第六百四十五條、第六百四十六條、第六百五十條第一項、第二項及ヒ第千二十一條第二項、第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第千二十九條
限定承認者ハ限定承認ヲ爲シタル後五日內ニ一切ノ相續債權者及ヒ受遺者ニ對シ限定承認ヲ爲シタルコト及ヒ一定ノ期間內ニ其請求ノ申出ヲ爲スヘキ旨ヲ公吿スルコトヲ要ス但其期間ハ二个月ヲ下ルコトヲ得ス
第七十九條第二項及ヒ第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第千三十條
限定承認者ハ前條第一項ノ期間滿了前ニハ相續債權者及ヒ受遺者ニ對シテ弁濟ヲ拒ムコトヲ得
第千三十一條
第千二十九條第一項ノ期間滿了ノ後ハ限定承認者ハ相續財產ヲ以テ其期間內ニ申出テタル債權者其他知レタル債權者ニ各其債權額ノ割合ニ應シテ弁濟ヲ爲スコトヲ要ス但優先權ヲ有スル債權者ノ權利ヲ害スルコトヲ得ス
第千三十二條
限定承認者ハ弁濟期ニ至ラサル債權ト雖モ前條ノ規定ニ依リテ之ヲ弁濟スルコトヲ要ス
條件附債權又ハ存續期間ノ不確定ナル債權ハ裁判所ニ於テ選任シタル鑑定人ノ評價ニ從ヒテ之ヲ弁濟スルコトヲ要ス
第千三十三條
限定承認者ハ前二條ノ規定ニ依リテ各債權者ニ弁濟ヲ爲シタル後ニ非サレハ受遺者ニ弁濟ヲ爲スコトヲ得ス
第千三十四條
前三條ノ規定ニ從ヒテ弁濟ヲ爲スニ付キ相續財產ノ賣却ヲ必要トスルトキハ限定承認者ハ之ヲ競賣ニ付スルコトヲ要ス但裁判所ニ於テ選任シタル鑑定人ノ評價ニ從ヒ相續財產ノ全部又ハ一部ノ價額ヲ弁濟シテ其競賣ヲ止ムルコトヲ得
第千三十五條
相續債權者及ヒ受遺者ハ自己ノ費用ヲ以テ相續財產ノ競賣又ハ鑑定ニ參加スルコトヲ得此場合ニ於テハ第二百六十條第二項ノ規定ヲ準用ス
第千三十六條
限定承認者カ第千二十九條ニ定メタル公吿若クハ催吿ヲ爲スコトヲ怠リ又ハ同條第一項ノ期間內ニ或債權者若クハ受遺者ニ弁濟ヲ爲シタルニ因リ他ノ債權者若クハ受遺者ニ弁濟ヲ爲スコト能ハサルニ至リタルトキハ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス第千三十條乃至第千三十三條ノ規定ニ違反シテ弁濟ヲ爲シタルトキ亦同シ
前條ノ規定ハ情ヲ知リテ不當ニ弁濟ヲ受ケタル債權者又ハ受遺者ニ對スル他ノ債權者又ハ受遺者ノ求償ヲ妨ケス
第七百二十四條ノ規定ハ前二項ノ場合ニモ亦之ヲ適用ス
第千三十七條
第千二十九條第一項ノ期間內ニ申出テサリシ債權者及ヒ受遺者ニシテ限定承認者ニ知レサリシ者ハ殘餘財產ニ付テノミ其權利ヲ行フコトヲ得但相續財產ニ付キ特別擔保ヲ有スル者ハ此限ニ在ラス
第三節 抛棄
第千三十八條
相續ノ抛棄ヲ爲サント欲スル者ハ其旨ヲ裁判所ニ申述スルコトヲ要ス
第千三十九條
抛棄ハ相續開始ノ時ニ遡リテ其効力ヲ生ス
數人ノ遺產相續人アル場合ニ於テ其一人カ抛棄ヲ爲シタルトキハ其相續分ハ他ノ相續人ノ相續分ニ應シテ之ニ歸屬ス
第千四十條
相續ノ抛棄ヲ爲シタル者ハ其抛棄ニ因リテ相續人ト爲リタル者カ相續財產ノ管理ヲ始ムルコトヲ得ルマテ自己ノ財產ニ於ケルト同一ノ注意ヲ以テ其財產ノ管理ヲ繼續スルコトヲ要ス
第六百四十五條、第六百四十六條、第六百五十條第一項、第二項及ヒ第千二十一條第二項、第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第四章 財產ノ分離
第千四十一條
相續債權者又ハ受遺者ハ相續開始ノ時ヨリ三个月內ニ相續人ノ財產中ヨリ相續財產ヲ分離センコトヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得其期間滿了ノ後ト雖モ相續財產カ相續人ノ固有財產ト混合セサル間亦同シ
裁判所カ前項ノ請求ニ因リテ財產ノ分離ヲ命シタルトキハ其請求ヲ爲シタル者ハ五日內ニ他ノ相續債權者及ヒ受遺者ニ對シ財產分離ノ命令アリタルコト及ヒ一定ノ期間內ニ配當加入ノ申出ヲ爲スヘキ旨ヲ公吿スルコトヲ要ス但其期間ハ二个月ヲ下ルコトヲ得ス
第千四十二條
財產分離ノ請求ヲ爲シタル者及ヒ前條第二項ノ規定ニ依リテ配當加入ノ申出ヲ爲シタル者ハ相續財產ニ付キ相續人ノ債權者ニ先チテ弁濟ヲ受ク
第千四十三條
財產分離ノ請求アリタルトキハ裁判所ハ相續財產ノ管理ニ付キ必要ナル處分ヲ命スルコトヲ得
裁判所カ管理人ヲ選任シタル場合ニ於テハ第二十七條乃至第二十九條ノ規定ヲ準用ス
第千四十四條
相續人ハ單純承認ヲ爲シタル後ト雖モ財產分離ノ請求アリタルトキハ爾後其固有財產ニ於ケルト同一ノ注意ヲ以テ相續財產ノ管理ヲ爲スコトヲ要ス但裁判所ニ於テ管理人ヲ選任シタルトキハ此限ニ在ラス
第六百四十五條乃至第六百四十七條及ヒ第六百五十條第一項、第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第千四十五條
財產ノ分離ハ不動產ニ付テハ其登記ヲ爲スニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
第千四十六條
第三百四條ノ規定ハ財產分離ノ場合ニ之ヲ準用ス
第千四十七條
相續人ハ第千四十一條第一項及ヒ第二項ノ期間滿了前ニハ相續債權者及ヒ受遺者ニ對シテ弁濟ヲ拒ムコトヲ得
財產分離ノ請求アリタルトキハ相續人ハ第千四十一條第二項ノ期間滿了ノ後相續財產ヲ以テ財產分離ノ請求又ハ配當加入ノ申出ヲ爲シタル債權者及ヒ受遺者ニ各其債權ノ割合ニ應シテ弁濟ヲ爲スコトヲ要ス但優先權ヲ有スル債權者ノ權利ヲ害スルコトヲ得ス
第千三十二條乃至第千三十六條ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第千四十八條
財產分離ノ請求ヲ爲シタル者及ヒ配當加入ノ申出ヲ爲シタル者ハ相續財產ヲ以テ全部ノ弁濟ヲ受クルコト能ハサリシ場合ニ限リ相續人ノ固有財產ニ付キ其權利ヲ行フコトヲ得此場合ニ於テハ相續人ノ債權者ハ其者ニ先チテ弁濟ヲ受クルコトヲ得
第千四十九條
相續人ハ其固有財產ヲ以テ相續債權者若クハ受遺者ニ弁濟ヲ爲シ又ハ之ニ相當ノ擔保ヲ供シテ財產分離ノ請求ヲ防止シ又ハ其効力ヲ消滅セシムルコトヲ得但相續人ノ債權者カ之ニ因リテ損害ヲ受クヘキコトヲ證明シテ異議ヲ述ヘタルトキハ此限ニ在ラス
第千五十條
相續人カ限定承認ヲ爲スコトヲ得ル間又ハ相續財產カ相續人ノ固有財產ト混合セサル間ハ其債權者ハ財產分離ノ請求ヲ爲スコトヲ得
第三百四條、第千二十七條、第千二十九條乃至第千三十六條、第千四十三條乃至第千四十五條及ヒ第千四十八條ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス但第千二十九條ニ定メタル公吿及ヒ催吿ハ財產分離ノ請求ヲ爲シタル債權者之ヲ爲スコトヲ要ス
第五章 相續人ノ曠缺
第千五十一條
相續人アルコト分明ナラサルトキハ相續財產ハ之ヲ法人トス
第千五十二條
前條ノ場合ニ於テハ裁判所ハ利害關係人又ハ檢事ノ請求ニ因リ相續財產ノ管理人ヲ選任スルコトヲ要ス
裁判所ハ遲滯ナク管理人ノ選任ヲ公吿スルコトヲ要ス
第千五十三條
第二十七條乃至第二十九條ノ規定ハ相續財產ノ管理人ニ之ヲ準用ス
第千五十四條
管理人ハ相續債權者又ハ受遺者ノ請求アルトキハ之ニ相續財產ノ狀況ヲ報吿スルコトヲ要ス
第千五十五條
相續人アルコト分明ナルニ至リタルトキハ法人ハ存立セサリシモノト看做ス但管理人カ其權限內ニ於テ爲シタル行爲ノ効力ヲ妨ケス
第千五十六條
管理人ノ代理權ハ相續人カ相續ノ承認ヲ爲シタル時ニ於テ消滅ス
前項ノ場合ニ於テハ管理人ハ遲滯ナク相續人ニ對シテ管理ノ計算ヲ爲スコトヲ要ス
第千五十七條
第千五十二條第二項ニ定メタル公吿アリタル後二个月內ニ相續人アルコト分明ナルニ至ラサルトキハ管理人ハ遲滯ナク一切ノ相續債權者及ヒ受遺者ニ對シ一定ノ期間內ニ其請求ノ申出ヲ爲スヘキ旨ヲ公吿スルコトヲ要ス但其期間ハ二个月ヲ下ルコトヲ得ス
第七十九條第二項、第三項及ヒ第千三十條乃至第千三十七條ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス但第千三十四條但書ノ規定ハ此限ニ在ラス
第千五十八條
前條第一項ノ期間滿了ノ後仍ホ相續人アルコト分明ナラサルトキハ裁判所ハ管理人又ハ檢事ノ請求ニ因リ相續人アラハ一定ノ期間內ニ其權利ヲ主張スヘキ旨ヲ公吿スルコトヲ要ス但其期間ハ一年ヲ下ルコトヲ得ス
第千五十九條
前條ノ期間內ニ相續人タル權利ヲ主張スル者ナキトキハ相續財產ハ國庫ニ歸屬ス此場合ニ於テハ第千五十六條第二項ノ規定ヲ準用ス
相續債權者及ヒ受遺者ハ國庫ニ對シテ其權利ヲ行フコトヲ得ス
第六章 遺言
第一節 總則
第千六十條
遺言ハ本法ニ定メタル方式ニ從フニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
第千六十一條
滿十五年ニ達シタル者ハ遺言ヲ爲スコトヲ得
第千六十二條
第四條、第九條、第十二條及ヒ第十四條ノ規定ハ遺言ニハ之ヲ適用セス
第千六十三條
遺言者ハ遺言ヲ爲ス時ニ於テ其能力ヲ有スルコトヲ要ス
第千六十四條
遺言者ハ包括又ハ特定ノ名義ヲ以テ其財產ノ全部又ハ一部ヲ處分スルコトヲ得但遺留分ニ關スル規定ニ違反スルコトヲ得ス
第千六十五條
第九百六十八條及ヒ第九百六十九條ノ規定ハ受遺者ニ之ヲ準用ス
第千六十六條
被後見人カ後見ノ計算終了前ニ後見人又ハ其配偶者若クハ直系卑屬ノ利益ト爲ルヘキ遺言ヲ爲シタルトキハ其遺言ハ無効トス
前項ノ規定ハ直系血族、配偶者又ハ兄弟姉妹カ後見人タル場合ニハ之ヲ適用セス
第二節 遺言ノ方式
第一款 普通方式
第千六十七條
遺言ハ自筆證書、公正證書又ハ祕密證書ニ依リテ之ヲ爲スコトヲ要ス但特別方式ニ依ルコトヲ許ス場合ハ此限ニ在ラス
第千六十八條
自筆證書ニ依リテ遺言ヲ爲スニハ遺言者其全文、日附及ヒ氏名ヲ自書シ之ニ捺印スルコトヲ要ス
自筆證書中ノ插入、削除其他ノ變更ハ遺言者其場所ヲ指示シ之ヲ變更シタル旨ヲ附記シテ特ニ之ニ署名シ且其變更ノ場所ニ捺印スルニ非サレハ其効ナシ
第千六十九條
公正證書ニ依リテ遺言ヲ爲スニハ左ノ方式ニ從フコトヲ要ス
一 證人二人以上ノ立會アルコト
二 遺言者カ遺言ノ趣旨ヲ公證人ニ口授スルコト
三 公證人カ遺言者ノ口述ヲ筆記シ之ヲ遺言者及ヒ證人ニ讀聞カスコト
四 遺言者及ヒ證人カ筆記ノ正確ナルコトヲ承認シタル後各自之ニ署名、捺印スルコト但遺言者カ署名スルコト能ハサル場合ニ於テハ公證人其事由ヲ附記シテ署名ニ代フルコトヲ得
五 公證人カ其證書ハ前四號ニ揭ケタル方式ニ從ヒテ作リタルモノナル旨ヲ附記シテ之ニ署名、捺印スルコト
第千七十條
祕密證書ニ依リテ遺言ヲ爲スニハ左ノ方式ニ從フコトヲ要ス
一 遺言者カ其證書ニ署名、捺印スルコト
二 遺言者カ其證書ヲ封シ證書ニ用ヰタル印章ヲ以テ之ニ封印スルコト
三 遺言者カ公證人一人及ヒ證人二人以上ノ前ニ封書ヲ提出シテ自己ノ遺言書ナル旨及ヒ其筆者ノ氏名、住所ヲ申述スルコト
四 公證人カ其證書提出ノ日附及ヒ遺言者ノ申述ヲ封紙ニ記載シタル後遺言者及ヒ證人ト共ニ之ヲ署名、捺印スルコト
第千六十八條第二項ノ規定ハ祕密證書ニ依ル遺言ニ之ヲ準用ス
第千七十一條
祕密證書ニ依ル遺言ハ前條ニ定メタル方式ニ缺クルモノアルモ第千六十八條ノ方式ヲ具備スルトキハ自筆證書ニ依ル遺言トシテ其効力ヲ有ス
第千七十二條
言語ヲ發スルコト能ハサル者カ祕密證書ニ依リテ遺言ヲ爲ス場合ニ於テハ遺言者ハ公證人及ヒ證人ノ前ニ於テ其證書ハ自己ノ遺言書ナル旨並ニ其筆者ノ氏名、住所ヲ封紙ニ自書シテ第千七十條第一項第三號ノ申述ニ代フルコトヲ要ス
公證人ハ遺言者カ前項ニ定メタル方式ヲ踐ミタル旨ヲ封紙ニ記載シテ申述ノ記載ニ代フルコトヲ要ス
第千七十三條
禁治產者カ本心ニ復シタル時ニ於テ遺言ヲ爲スニハ醫師二人以上ノ立會アルコトヲ要ス
遺言ニ立會ヒタル醫師ハ遺言者カ遺言ヲ爲ス時ニ於テ心神喪失ノ狀況ニ在ラサリシ旨ヲ遺言書ニ附記シテ之ニ署名、捺印スルコトヲ要ス但祕密證書ニ依リテ遺言ヲ爲ス場合ニ於テハ其封紙ニ右ノ記載及ヒ署名、捺印ヲ爲スコトヲ要ス
第千七十四條
左ニ揭ケタル者ハ遺言ノ證人又ハ立會人タルコトヲ得ス
一 未成年者
二 禁治產者及ヒ準禁治產者
三 剝奪公權者及ヒ停止公權者
四 遺言者ノ配偶者
五 推定相續人、受遺者及ヒ其配偶者並ニ直系血族
六 公證人ト家ヲ同シクスル者及ヒ公證人ノ直系血族並ニ筆生、雇人
第千七十五條
遺言ハ二人以上同一ノ證書ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ得ス
第二款 特別方式
第千七十六條
疾病其他ノ事由ニ因リテ死亡ノ危急ニ迫リタル者カ遺言ヲ爲サント欲スルトキハ證人三人以上ノ立會ヲ以テ其一人ニ遺言ノ趣旨ヲ口授シテ之ヲ爲スコトヲ得此場合ニ於テハ其口授ヲ受ケタル者之ヲ筆記シテ遺言者及ヒ他ノ證人ニ讀聞カセ各證人其筆記ノ正確ナルコトヲ承認シタル後之ニ署名、捺印スルコトヲ要ス
前項ノ規定ニ依リテ爲シタル遺言ハ遺言ノ日ヨリ二十日內ニ證人ノ一人又ハ利害關係人ヨリ裁判所ニ請求シテ其確認ヲ得ルニ非サレハ其効ナシ
裁判所ハ遺言カ遺言者ノ眞意ニ出テタル心證ヲ得ルニ非サレハ之ヲ確認スルコトヲ得ス
第千七十七條
傳染病ノ爲メ行政處分ヲ以テ交通ヲ遮斷シタル場所ニ在ル者ハ警察官一人及ヒ證人一人以上ノ立會ヲ以テ遺言書ヲ作ルコトヲ得
第千七十八條
從軍中ノ軍人及ヒ軍屬ハ將校又ハ相當官一人及ヒ證人二人以上ノ立會ヲ以テ遺言書ヲ作ルコトヲ得若シ將校及ヒ相當官カ其場所ニ在ラサルトキハ準士官又ハ下士一人ヲ以テ之ニ代フルコトヲ得
從軍中ノ軍人又ハ軍屬カ疾病又ハ傷痍ノ爲メ病院ニ在ルトキハ其院ノ醫師ヲ以テ前項ニ揭ケタル將校又ハ相當官ニ代フルコトヲ得
第千七十九條
從軍中疾病、傷痍其他ノ事由ニ因リテ死亡ノ危急ニ迫リタル軍人及ヒ軍屬ハ證人二人以上ノ立會ヲ以テ口頭ニテ遺言ヲ爲スコトヲ得
前項ノ規定ニ從ヒテ爲シタル遺言ハ證人其趣旨ヲ筆記シテ之ニ署名、捺印シ且證人ノ一人又ハ利害關係人ヨリ遲滯ナク理事又ハ主理ニ請求シテ其確認ヲ得ルニ非サレハ其効ナシ
第千七十六條第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第千八十條
艦船中ニ在ル者ハ軍艦及ヒ海軍所屬ノ船舶ニ於テハ將校又ハ相當官一人及ヒ證人二人以上其他ノ船舶ニ於テハ船長又ハ事務員一人及ヒ證人二人以上ノ立會ヲ以テ遺言書ヲ作ルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ將校又ハ相當官カ其艦船中ニ在ラサルトキハ準士官又ハ下士一人ヲ以テ之ニ代フルコトヲ得
第千八十一條
第千七十九條ノ規定ハ艦船遭難ノ場合ニ之ヲ準用ス但海軍ノ所屬ニ非サル船舶中ニ在ル者カ遺言ヲ爲シタル場合ニ於テハ其確認ハ之ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ要ス
第千八十二條
第千七十七條、第千七十八條及ヒ第千八十條ノ場合ニ於テハ遺言者、筆者、立會人及ヒ證人ハ各自遺言者ニ署名、捺印スルコトヲ要ス
第千八十三條
第千七十七條乃至第千八十一條ノ場合ニ於テ署名又ハ捺印スルコト能ハサル者アルトキハ立會人又ハ證人ハ其事由ヲ附記スルコトヲ要ス
第千八十四條
第千六十八條第二項及ヒ第千七十三條乃至第千七十五條ノ規定ハ前八條ノ規定ニ依ル遺言ニ之ヲ準用ス
第千八十五條
前九條ノ規定ニ依リテ爲シタル遺言ハ遺言者カ普通方式ニ依リテ遺言ヲ爲スコトヲ得ルニ至リタル時ヨリ六个月間生存スルトキハ其効ナシ
第千八十六條
日本ノ領事ノ駐在スル地ニ在ル日本人カ公正證書又ハ祕密證書ニ依リテ遺言ヲ爲サント欲スルトキハ公證人ノ職務ハ領事之ヲ行フ
第三節 遺言ノ効力
第千八十七條
遺言ハ遺言者ノ死亡ノ時ヨリ其効力ヲ生ス
遺言ニ停止條件ヲ附シタル場合ニ於テ其條件カ遺言者ノ死亡後ニ成就シタルトキハ遺言ハ條件成就ノ時ヨリ其効力ヲ生ス
第千八十八條
受遺者ハ遺言者ノ死亡後何時ニテモ遺贈ノ抛棄ヲ爲スコトヲ得
遺贈ノ抛棄ハ遺言者ノ死亡ノ時ニ遡リテ其効力ヲ生ス
第千八十九條
遺贈義務者其他ノ利害關係人ハ相當ノ期間ヲ定メ其期間內ニ遺贈ノ承認又ハ抛棄ヲ爲スヘキ旨ヲ受遺者ニ催吿スルコトヲ得若シ受遺者カ其期間內ニ遺贈義務者ニ對シテ其意思ヲ表示セサルトキハ遺贈ヲ承認シタルモノト看做ス
第千九十條
受遺者カ遺贈ノ承認又ハ抛棄ヲ爲サスシテ死亡シタルトキハ其相續人ハ自己ノ相續權ノ範圍內ニ於テ承認又ハ抛棄ヲ爲スコトヲ得但遺言者カ其遺言ニ別段ノ意思ヲ表示シタルトキハ其意思ニ從フ
第千九十一條
遺贈ノ承認及ヒ抛棄ハ之ヲ取消スコトヲ得ス
第千二十二條第二項ノ規定ハ遺贈ノ承認及ヒ抛棄ニ之ヲ準用ス
第千九十二條
包括受遺者ハ遺產相續人ト同一ノ權利義務ヲ有ス
第千九十三條
受遺者ハ遺贈カ弁濟期ニ至ラサル間ハ遺贈義務者ニ對シテ相當ノ擔保ヲ請求スルコトヲ得停止條件附遺贈ニ付キ其條件ノ成否未定ノ間亦同シ
第千九十四條
受遺者ハ遺贈ノ履行ヲ請求スルコトヲ得ル時ヨリ果實ヲ取得ス但遺言者カ其遺言ニ別段ノ意思ヲ表示シタルトキハ其意思ニ從フ
第千九十五條
遺贈義務者カ遺言者ノ死亡後遺贈ノ目的物ニ付キ費用ヲ出タシタルトキハ第二百九十九條ノ規定ヲ準用ス
果實ヲ收取スル爲メニ出タシタル通常ノ必要費ハ果實ノ價格ヲ超エサル限度ニ於テ其償還ヲ請求スルコトヲ得
第千九十六條
遺贈ハ遺言者ノ死亡前ニ受遺者カ死亡シタルトキハ其効力ヲ生セス
停止條件附遺贈ニ付テハ受遺者カ其條件ノ成就前ニ死亡シタルトキ亦同シ但遺言者カ其遺言ニ別段ノ意思ヲ表示シタルトキハ其意思ニ從フ
第千九十七條
遺贈カ其効力ヲ生セサルトキ又ハ抛棄ニ因リ其効力ナキニ至リタルトキハ受遺者カ受クヘカリシモノハ相續人ニ歸屬ス但遺言者カ其遺言ニ別段ノ意思ヲ表示シタルトキハ其意思ニ從フ
第千九十八條
遺贈ハ其目的タル權利カ遺言者ノ死亡ノ時ニ於テ相續財產ニ屬セサルトキハ其効力ヲ生セス但其權利カ相續財產ニ屬セサルコトアルニ拘ハラス之ヲ以テ遺贈ノ目的ト爲シタルモノト認ムヘキトキハ此限ニ在ラス
第千九十九條
相續財產ニ屬セサル權利ヲ目的トスル遺贈カ前條但書ノ規定ニ依リテ有効ナルトキハ遺贈義務者ハ其權利ヲ取得シテ之ヲ受遺者ニ移轉スル義務ヲ負フ若シ之ヲ取得スルコト能ハサルカ又ハ之ヲ取得スルニ付キ過分ノ費用ヲ要スルトキハ其價額ヲ弁償スルコトヲ要ス但遺言者カ其遺言ニ別段ノ意思ヲ表示シタルトキハ其意思ニ從フ
第千百條
不特定物ヲ以テ遺贈ノ目的ト爲シタル場合ニ於テ受遺者カ追奪ヲ受ケタルトキハ遺贈義務者ハ之ニ對シテ賣主ト同シク擔保ノ責ニ任ス
前項ノ場合ニ於テ物ニ瑕疵アリタルトキハ遺贈義務者ハ瑕疵ナキ物ヲ以テ之ニ代フルコトヲ要ス
第千百一條
遺言者カ遺贈ノ目的物ノ滅失若クハ變造又ハ其占有ノ喪失ニ因リ第三者ニ對シテ償金ヲ請求スル權利ヲ有スルトキハ其權利ヲ以テ遺贈ノ目的ト爲シタルモノト推定ス
遺贈ノ目的物カ他ノ物ト附合又ハ混和シタル場合ニ於テ遺言者カ第二百四十三條乃至第二百四十五條ノ規定ニ依リ合成物又ハ混和物ノ單獨所有者又ハ共有者ト爲リタルトキハ其全部ノ所有權又ハ共有權ヲ以テ遺贈ノ目的ト爲シタルモノト推定ス
第千百二條
遺贈ノ目的タル物又ハ權利カ遺言者ノ死亡ノ時ニ於テ第三者ノ權利ノ目的タルトキハ受遺者ハ遺贈義務者ニ對シ其權利ヲ消滅セシムヘキ旨ヲ請求スルコトヲ得ス但遺言者カ其遺言ニ反對ノ意思ヲ表示シタルトキハ此限ニ在ラス
第千百三條
債權ヲ以テ遺贈ノ目的ト爲シタル場合ニ於テ遺言者カ弁濟ヲ受ケ且其受取リタル物カ尙ホ相續財產中ニ存スルトキハ其物ヲ以テ遺贈ノ目的ト爲シタルモノト推定ス
金錢ヲ目的トスル債權ニ付テハ相續財產中ニ其債權額ニ相當スル金錢ナキトキト雖モ其金額ヲ以テ遺贈ノ目的ト爲シタルモノト推定ス
第千百四條
負擔附遺贈ヲ受ケタル者ハ遺贈ノ目的ノ價額ヲ超エサル限度ニ於テノミ其負擔シタル義務ヲ履行スル責ニ任ス
受遺者カ遺贈ノ抛棄ヲ爲シタルトキハ負擔ノ利益ヲ受クヘキ者自ラ受遺者ト爲ルコトヲ得但遺言者カ其遺言ニ別段ノ意思ヲ表示シタルトキハ其意思ニ從フ
第千百五條
負擔附遺贈ノ目的ノ價額カ相續ノ限定承認又ハ遺留分回復ノ訴ニ因リテ減少シタルトキハ受遺者ハ其減少ノ割合ニ應シテ其負擔シタル義務ヲ免ル但遺言者カ其遺言ニ別段ノ意思ヲ表示シタルトキハ其意思ニ從フ
第四節 遺言ノ執行
第千百六條
遺言書ノ保管者ハ相續ノ開始ヲ知リタル後遲滯ナク之ヲ裁判所ニ提出シテ其檢認ヲ請求スルコトヲ要ス遺言書ノ保管者ナキ場合ニ於テ相續人カ遺言書ヲ發見シタル後亦同シ
前項ノ規定ハ公正證書ニ依ル遺言ニハ之ヲ適用セス
封印アル遺言書ハ裁判所ニ於テ相續人又ハ其代理人ノ立會ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ開封スルコトヲ得ス
第千百七條
前條ノ規定ニ依リテ遺言書ヲ提出スルコトヲ怠リ、其檢認ヲ經スシテ遺言ヲ執行シ又ハ裁判所外ニ於テ其開封ヲ爲シタル者ハ二百圓以下ノ過料ニ處セラル
第千百八條
遺言者ハ遺言ヲ以テ一人又ハ數人ノ遺言執行者ヲ指定シ又ハ其指定ヲ第三者ニ委託スルコトヲ得
遺言執行者指定ノ委託ヲ受ケタル者ハ遲滯ナク其指定ヲ爲シテ之ヲ相續人ニ通知スルコトヲ要ス
遺言執行者指定ノ委託ヲ受ケタル者カ其委託ヲ辭セントスルトキハ遲滯ナク其旨ヲ相續人ニ通知スルコトヲ要ス
第千百九條
遺言執行者カ就職ヲ承諾シタルトキハ直チニ其任務ヲ行フコトヲ要ス
第千百十條
相續人其他ノ利害關係人ハ相當ノ期間ヲ定メ其期間內ニ就職ヲ承諾スルヤ否ヤヲ確答スヘキ旨ヲ遺言執行者ニ催吿スルコトヲ得若シ遺言執行者カ其期間內ニ相續人ニ對シテ確答ヲ爲ササルトキハ就職ヲ承諾シタルモノト看做ス
第千百十一條
無能力者及ヒ破產者ハ遺言執行者タルコトヲ得ス
第千百十二條
遺言執行者ナキトキ又ハ之ナキニ至リタルトキハ裁判所ハ利害關係人ノ請求ニ因リ之ヲ選任スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リテ選任シタル遺言執行者ハ正當ノ理由アルニ非サレハ就職ヲ拒ムコトヲ得ス
第千百十三條
遺言執行者ハ遲滯ナク相續財產ノ目錄ヲ調製シテ之ヲ相續人ニ交付スルコトヲ要ス
遺言執行者ハ相續人ノ請求アルトキハ其立會ヲ以テ財產目錄ヲ調製シ又ハ公證人ヲ以テ之ヲ調製セシムルコトヲ要ス
第千百十四條
遺言執行者ハ相續財產ノ管理其他遺言ノ執行ニ必要ナル一切ノ行爲ヲ爲ス權利義務ヲ有ス
第六百四十四條乃至第六百四十七條及ヒ第六百五十條ノ規定ハ遺言執行者ニ之ヲ準用ス
第千百十五條
遺言執行者アル場合ニ於テハ相續人ハ相續財產ヲ處分シ其他遺言ノ執行ヲ妨クヘキ行爲ヲ爲スコトヲ得ス
第千百十六條
前三條ノ規定ハ遺言カ特定財產ニ關スル場合ニ於テハ其財產ニ付テノミ之ヲ適用ス
第千百十七條
遺言執行者ハ之ヲ相續人ノ代理人ト看做ス
第千百十八條
遺言執行者ハ已ムコトヲ得サル事由アルニ非サレハ第三者ヲシテ其任務ヲ行ハシムルコトヲ得ス但遺言者カ其遺言ニ反對ノ意思ヲ表示シタルトキハ此限ニ在ラス
遺言執行者カ前項但書ノ規定ニ依リ第三者ヲシテ其任務ヲ行ハシムル場合ニ於テハ相續人ニ對シ第百五條ニ定メタル責任ヲ負フ
第千百十九條
數人ノ遺言執行者アル場合ニ於テハ其任務ノ執行ハ過半數ヲ以テ之ヲ決ス但遺言者カ其遺言ニ別段ノ意思ヲ表示シタルトキハ其意思ニ從フ
各遺言執行者ハ前項ノ規定ニ拘ハラス保存行爲ヲ爲スコトヲ得
第千百二十條
遺言執行者ハ遺言ニ報酬ヲ定メタルトキニ限リ之ヲ受クルコトヲ得
裁判所ニ於テ遺言執行者ヲ選任シタルトキハ裁判所ハ事情ニ依リ其報酬ヲ定ムルコトヲ得
遺言執行者カ報酬ヲ受クヘキ場合ニ於テハ第六百四十八條第二項及ヒ第三項ノ規定ヲ準用ス
第千百二十一條
遺言執行者カ其任務ヲ怠リタルトキ其他正當ノ事由アルトキハ利害關係人ハ其解任ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得
遺言執行者ハ正當ノ事由アルトキハ就職ノ後ト雖モ其任務ヲ辭スルコトヲ得
第千百二十二條
第六百五十四條及ヒ第六百五十五條ノ規定ハ遺言執行者ノ任務カ終了シタル場合ニ之ヲ準用ス
第千百二十三條
遺言ノ執行ニ關スル費用ハ相續財產ノ負擔トス但之ニ因リテ遺留分ヲ減スルコトヲ得ス
第五節 遺言ノ取消
第千百二十四條
遺言者ハ何時ニテモ遺言ノ方式ニ從ヒテ其遺言ノ全部又ハ一部ヲ取消スコトヲ得
第千百二十五條
前ノ遺言ト後ノ遺言ト牴觸スルトキハ其抵觸スル部分ニ付テハ後ノ遺言ヲ以テ前ノ遺言ヲ取消シタルモノト看做ス
前項ノ規定ハ遺言ト遺言後ノ生前處分其他ノ法律行爲ト牴觸スル場合ニ之ヲ準用ス
第千百二十六條
遺言者カ故意ニ遺言書ヲ毀滅シタルトキハ其毀滅シタル部分ニ付テハ遺言ヲ取消シタルモノト看做ス遺言者カ故意ニ遺贈ノ目的物ヲ毀滅シタルトキ亦同シ
第千百二十七條
前三條ノ規定ニ依リテ取消サレタル遺言ハ其取消ノ行爲カ取消サレ又ハ効力ヲ生セサルニ至リタルトキト雖モ其効力ヲ回復セス但其行爲カ詐欺又ハ强迫ニ因ル場合ハ此限ニ在ラス
第千百二十八條
遺言者ハ其遺言ノ取消權ヲ放棄スルコトヲ得ス
第千百二十九條
負擔附遺贈ヲ受ケタル者カ其負擔シタル義務ヲ履行セサルトキハ相續人ハ相當ノ期間ヲ定メテ其履行ヲ催吿シ若シ其期間內ニ履行ナキトキハ遺言ノ取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得
第七章 遺留分
第千百三十條
法定家督相續人タル直系卑屬ハ遺留分トシテ被相續人ノ財產ノ半額ヲ受ク
此他ノ家督相續人ハ遺留分トシテ被相續人ノ財產ノ三分ノ一ヲ受ク
第千百三十一條
遺產相續人タル直系卑屬ハ遺留分トシテ被相續人ノ財產ノ半額ヲ受ク
遺產相續人タル配偶者又ハ直系尊屬ハ遺留分トシテ被相續人ノ財產ノ三分ノ一ヲ受ク
第千百三十二條
遺留分ハ被相續人カ相續開始ノ時ニ於テ有セシ財產ノ價額ニ其贈與シタル財產ノ價額ヲ加ヘ其中ヨリ債務ノ全額ヲ控除シテ之ヲ算定ス
條件附權利又ハ存續期間ノ不確定ナル權利ハ裁判所ニ於テ選定シタル鑑定人ノ評價ニ從ヒ其價格ヲ定ム
家督相續ノ特權ニ屬スル權利ハ遺留分ノ算定ニ關シテハ其價額ヲ算入セス
第千百三十三條
贈與ハ相續開始前一年間ニ爲シタルモノニ限リ前條ノ規定ニ依リテ其價額ヲ算入ス一年前ニ爲シタルモノト雖モ當事者雙方カ遺留分權利者ニ損害ヲ加フルコトヲ知リテ之ヲ爲シタルトキ亦同シ
第千百三十四條
遺留分權利者及ヒ其承繼人ハ遺留分ヲ保全スルニ必要ナル限度ニ於テ遺贈及ヒ前條ニ揭ケタル贈與ノ減殺ヲ請求スルコトヲ得
第千百三十五條
條件附權利又ハ存續期間ノ不確定ナル權利ヲ以テ贈與又ハ遺贈ノ目的ト爲シタル場合ニ於テ其贈與又ハ遺贈ノ一部ヲ減殺スヘキトキハ遺留分權利者ハ第千百三十二條第二項ノ規定ニ依リテ定メタル價額ニ從ヒ直チニ其殘部ノ價額ヲ受贈者又ハ受遺者ニ給付スルコトヲ要ス
第千百三十六條
贈與ハ遺贈ヲ減殺シタル後ニ非サレハ之ヲ減殺スルコトヲ得ス
第千百三十七條
遺贈ハ其目的ノ價額ノ割合ニ應シテ之ヲ減殺ス但遺言者カ其遺言ニ別段ノ意思ヲ表示シタルトキハ其意思ニ從フ
第千百三十八條
贈與ノ減殺ハ後ノ贈與ヨリ始メ順次ニ前ノ贈與ニ及フ
第千百三十九條
受贈者ハ其返還スヘキ財產ノ外尙ホ減殺ノ請求アリタル日以後ノ果實ヲ返還スルコトヲ要ス
第千百四十條
減殺ヲ受クヘキ受贈者ノ無資力ニ因リテ生シタル損失ハ遺留分權利者ノ負擔ニ歸ス
第千百四十一條
負擔附贈與ハ其目的ノ價額中ヨリ負擔ノ價額ヲ控除シタルモノニ付キ其減殺ヲ請求スルコトヲ得
第千百四十二條
不相當ノ對價ヲ以テ爲シタル有償行爲ハ當事者雙方カ遺留分權利者ニ損害ヲ加フルコトヲ知リテ爲シタルモノニ限リ之ヲ贈與ト看做ス此場合ニ於テ遺留分權利者カ其減殺ヲ請求スルトキハ其對價ヲ償還スルコトヲ要ス
第千百四十三條
減殺ヲ受クヘキ受贈者カ贈與ノ目的ヲ他人ニ讓渡シタルトキハ遺留分權利者ニ其價額ヲ弁償スルコトヲ要ス但讓受人カ讓渡ノ當時遺留分權利者ニ損害ヲ加フルコトヲ知リタルトキハ遺留分權利者ハ之ニ對シテモ減殺ヲ請求スルコトヲ得
前項ノ規定ハ受遺者カ贈與ノ目的ノ上ニ權利ヲ設定シタル場合ニ之ヲ準用ス
第千百四十四條
受贈者及ヒ受遺者ハ減殺ヲ受クヘキ限度ニ於テ贈與又ハ遺贈ノ目的ノ價額ヲ遺留分權利者ニ弁償シテ返還ノ義務ヲ免ルルコトヲ得
前項ノ規定ハ前條第一項但書ノ場合ニ之ヲ準用ス
第千百四十五條
減殺ノ請求權ハ遺留分權利者カ相續ノ開始及ヒ減殺スヘキ贈與又ハ遺贈アリタルコトヲ知リタル時ヨリ一年間之ヲ行ハサルトキハ時効ニ因リテ消滅ス相續開始ノ時ヨリ十年ヲ經過シタルトキ亦同シ
第千百四十六條
第九百九十五條、第千四條、第千五條、第千七條及ヒ第千八條ノ規定ハ遺留分ニ之ヲ準用ス

この作品は1929年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメインの状態にあります。