宗教団体法実施に関する答弁書 (1941年3月25日衆議院)
質問主意書
宗教団体法実施に関する質問主意書
右成規に拠り提出候也
1941年3月22日
提出者 板野友造
宗教団体法実施に関する質問主意書
国民精神の昂揚を期するは現下非常時局に於ける最緊要事なり。凡そ国民精神の興隆は宗教の活溌適正なる教化活動に之を負う所多し。而して宗教団体法の命する所に拠り目下制定せられつつある各教宗派の教規、宗制は、其の教宗派今後の基本方向及体制を規制するものなるが故に、其の認可に当りては政府として特に留意を要すと思料す。仍て左記二三の点に付政府の所見を承りたし。
1 各教宗派の現状を観るに教規、宗制認可期限も旬日後に切迫せる今日、尚内部に種々紛糾抗争ありて、其の認可申請の見込立たざるもの尠からざるやに聞く。果して然りとせば、政府は宗教団体法制定の精神に鑑み、積極的態度を以て之に臨み、速に適正なる教規、宗制を制定せしめて以て国家目的に即応する教化活動体制を確立せしむべく適切なる措置を講するの要ありと思料す。政府の所見並措置方針如何。
2 前記教宗派の紛争中には、管長選定方法に関し教宗派の 与論と管長の私見との対立に原因するものも一二に止らざるが如し。而も其の管長の私見たるや、教宗派を以て自己の私有物と観るが如き偏見に出発して、単なる自己一個の小我に捉われ、自己の地位を安固ならしめんことにのみ汲々として、教宗派の総意と抗争し甚しきに至りては、政府当局其の他顕官名士に泣訴して、自己の主張を擁護せんとする運動を試みつつある者あり。抑抑、宗教団体法の意図するところは、宗教団体其のものに重点を置き、管長は其の統理機関と見るにあるべく、即ち教宗派の為の管長にして管長の為の教宗派に非らず。従て、管長選定方法に関して真に一教一派を率いて之を指導し之を統理するに堪うる徳望と識見とを具備する人物を以て管長に挙げ得るよう、公正なる方法を定むべきなり。若し前述の如き事実ありとせば、政府は断乎たる処置を措り、宗教団体の健全なる発達を助成するに努むべきなりと思惟す。政府の所見如何。
3 目下政府が慫慂的態度を以て臨みつつある教宗派の合同は、宗教団体をして高度国防国家体制に即応して教化力の集結、人的及財的無駄の排除、機構組織の整備強化を図らしむる点より観て、適切なる措置なりと信ず。然るに教宗派中には単なる自派の利害、面目に偏執して之に反対するもの尠からすと聞く。事実如何。事実なしとせば是等の教宗派に対しては、其の小我的態度を是正して合同を促進すべく更に積極的措置を執りて然るべしと思料す。政府の所見如何。
右及質問候也
答弁書
1941年3月25日
内閣総理大臣 公爵 近衛文麿
衆議院議長 小山松寿殿
衆議院議員板野友造君提出宗教団体法実施に関する質問に対し別紙答弁書差進候
〔別紙〕 衆議院議員板野友造君提出、宗教団体法実施に関する質問に対する答弁書
1 昨年4月1日より実施せられたる宗教団体法に基き新に制定せらるべき教規、宗制等に付きては、既に認可を了したるものあるも、未だ認可を受くる運びに到らざるものに対しては、各教宗派当局者を督励して其の認可申請方を急がしめつつある状況にして、目下之が指導に力を致しつつあり。
2 管長選定の方法に関しては、宗教団体法の精神に則り又各教宗派の伝統と実情とに稽え、宗教団体の健全なる発達を期して公正妥当なる方法を規定せしむべく、夫々指導し居れり。
3 教宗派の合同は、各教宗派自体の積極的意向を尊重し、其の沿革と伝統とに稽え、適当なる指導を加え来りたるが、宗教団体の特質に鑑み其の自覚に期待し今の後も引続き指導を継続する所存なり。
右及答弁候也
1941年3月25日
文部大臣 橋田邦彦
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