内務省令第四十四號

娼妓取締規則左ノ通之ヲ定ム

   明治三十三年十月二日   内務大臣 侯爵西郷従道

娼妓取締規則


第一条 十八歳未満ノ者ハ娼妓タルコトヲ得ス

第二条 娼妓名簿ニ登録セラレサル者ハ娼妓稼ヲ為スコトヲ得ス

 娼妓名簿ハ娼妓所在地所轄警察官署ニ備フルモノトス

 娼妓名簿ニ登録セラレタル者ハ取締上警察官署ノ監督ヲ受クルモノトス

第三条 娼妓名簿ノ登録ハ娼妓タラントスル者自ラ警察官署ニ出頭シ左ノ事項ヲ具シタル書面ヲ以テ申請スヘシ

 一 娼妓ト為ルノ事由

 二 年月日

 三 同一戸籍内ニ在ル最近尊属、尊属親ナキトキハ戸主ノ承諾ヲ得タルコト若シ承諾ヲ与フヘキ者ナキトキハ其の事實

 四 未成年者ニ在テハ前號ノ他實父、實父ナキトキハ實母、實父母ナキトキハ實祖父、實祖父ナキトキハ實祖母ノ承諾ヲ得タルコト

 五 娼妓稼ヲ為スヘキ場所

 六 娼妓名簿登録後ニ於ケル住居

 七 現在ノ生業但シ他人ニ依リテ生計ヲ営ム者ハ其ノ事實

 八 娼妓タリシ事實ノ有無並ニ嘗テ娼妓タリシ者ハ其ノ稼業ノ開始廃止ノ年月日、場所、娼妓タリシトキノ住居及稼業廃止ノ理由

 九 前號ノ外廳府縣令ヲ以テ定メタル事項

 前項ノ申請ニハ戸籍吏ノ作リタル戸籍謄本、前項第三號第四號ノ承諾書及市區町村長ノ作リタル承諾者印鑑証明書ヲ添付スヘシ

 娼妓名簿登録申請者ハ登録前廳府縣令ノ規定ニ従ヒ健康診断ヲ受クヘキモノトス

第四条 娼妓稼ヲ禁止セラシタル者ハ娼妓名簿ヨリ削除セラルヽモノトス

 前項ノ外娼妓名簿ノ削除ハ娼妓ヨリ之ヲ申請スルモノトス但シ未成年者ニ在テハ前条第一項第三號及第四號に掲クル者ヨリモ之ヲ申請スルコトヲ得

第五条 娼妓名簿削除ノ申請ハ書面又ハ口頭ヲ以テスヘシ

 娼妓ハ法令ノ規定若ハ官庁ノ命令ニ依リ又ハ警察官署ニ出頭スルカ為外出スル場合ノ外警察官署ノ許可ヲ受クルニ非サレハ外出スルコトヲ得ス但シ廳府縣令ノ規定ニ依リ一定ノ地域内ニ於テ外出ヲ許ス場合ハ此ノ限ニ在ラス 

 前項ノ申請ハ自ラ警察官署ニ出頭シテ之ヲ為スニ非サレハ受理セサルモノトス

 警察官署ニ於テ娼妓名簿削除申請ヲ受理シタルトキハ直ニ名簿ヲ削除スルモノトス

第六条 娼妓名簿削除申請ニ関シテハ何人ト雖妨害ヲ為スコトヲ得ス

第七条 娼妓ハ廳府縣令ヲ以テ指定シタル地域外ニ住居スルコトヲ得ス

 娼妓ハ法令ノ規定若ハ官庁ノ命令ニ依リ又ハ警察官署ニ出頭スルカ為外出スル場合ノ外警察官署ノ許可ヲ受クルニ非サレハ外出スルコトヲ得ス但シ廳府縣令ノ規定ニ依リ一定ノ地域内ニ於テ外出ヲ許ス場合ハ此ノ限ニ在ラス 

第八条 娼妓稼ハ官廳ノ許可シタル貸座敷内ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス

第九条 娼妓ハ廳府縣令ノ規定ニ従ヒ健康診断ヲ受クヘシ

第十条 警察官署ノ指定シタル醫師又ハ病院ニ於テ疾病ニ罹リ稼業ニ堪ヘサル者又ハ伝染性疾患アル者ト診断シタル娼妓ハ治癒ノ上健康診断ヲ受クルニ非サレハ稼業ニ就クコトヲ得ス

第十一条 警察官署ハ娼妓名簿ノ登録ヲ拒ムコトヲ得

 廳府縣長官ハ娼妓稼業ヲ停止シ又ハ禁止スルコトヲ得

第十二条 何人ト雖娼妓ノ通信、面接、文書ノ閲讀、物件ノ所持、購買其ノ他ノ自由ヲ妨害スルコトヲ得ス

第十三条 左ノ事項ニ該當スル者ハ二十五圓以下ノ罰金又ハ二十五日以下ノ重禁錮ニ處ス

 一 虚偽ノ事項ヲ具シ娼妓名簿登録ヲ申請シタル者

 二 第六条第七条第九条第十二条ニ違背シタル者

 三 第八条ニ違背シタル者及官廳ノ許可シタル貸座敷外ニ於テ娼妓稼ヲ為サシメタル者

 四 第十条ニ違背シタル者及第十条ニ依リ稼業ニ就クコトヲ得サル者ヲシテ強テ稼業ニ就カシメタル者

 五 第十一条ノ停止命令ニ違背シタル者及稼業停止中ノ娼妓ヲシテ強テ稼業ニ就カシメタル者

 六 本人ノ意ニ反シテ強テ娼妓名簿ノ登録申請又ハ登録削除申請ヲ為サシメタル者

第十四条 本令ノ外必要ナル事項ハ廳府縣令ヲ以テ之ヲ定ム

第十五条 本令施行ノ際現ニ娼妓タル者ハ申請ヲ待タスシテ娼妓名簿ニ登録セラルヽモノトス