大正10年外務省告示第16号
⦿外務省吿示第十六號
同盟及聨合國トノ平和條約第二十二條及第百十九條ニ關シ大正八年五月七日巴里講和會議ハ左記第一ノ決議ヲ爲シ大正九年十二月十七日國際聯盟理事會ハ「ジュネーヴ」ニ於テ該講和會議及前記條約第二十二條第八項ニ基キ左記第二ノ決定ヲ爲シ帝國政府ハ今般右國際聯盟理事會決定ノ認證謄本ヲ接受シタリ
右國際聯盟理事會ノ決定ヲ爲スニ當リ帝國代表者ハ左記第三ノ宣言ヲ爲シ之ヲ記錄ニ留メタリ
大正十年四月二十九日
外務大臣 伯爵內田康哉
第一巴里講和會議決議
左ノ通決議ス
一、「トーゴーランド」及「カメルーン」
此等ノ地域ノ將來ニ關シテハ佛蘭西國及ビ大不列顚國ヨリ國際聯盟ニ對シ共同建議ヲ爲スヘシ
獨逸領東阿弗利加
大不列顚國ノ委任統治トス
獨逸領西阿弗利加
南阿弗利加聯邦ノ委任統治トス
獨逸領「サモワ」諸島
新西蘭ノ委任統治トス
太平洋中赤道以南ノ獨逸領諸島但シ「サモア」諸島及「ナウル」ヲ除ク
濠太利聯邦ノ委任統治トス
赤道以北ノ獨逸領諸島
日本國ノ委任統治トス
二、千九百十五年四月二十六日ノ倫敦條約第十三條ノ適用ヲ審議スル爲英帝國佛蘭西國及伊太利國ノ各一名ノ代表者ヨリ成ル聨合國委員會ヲ組織スルコト
三、上記決議ハ之ヲ公表スルコト
第二赤道以北太平洋舊獨逸領委任統治條項
連盟國際理事會ハ
千九百十九年六月二十八日「ヴエルサイユ」ニ於テ署名シタル獨逸國トノ平和條約第百十九條ニ依リ獨逸國ハ太平洋中赤道以北ニ位スル諸群島ヲ包含スル其ノ海外屬地ニ關スル一切ノ權利ヲ主タル同盟及聯合國ノ爲ニ抛棄シタルニ因リ
主タル同盟及聯合國ハ同平和條約第一編(國際聯盟規約)第二十二條ニ準據シ前記諸島ノ施政ヲ行フノ委任ヲ日本國皇帝陛下ニ付與スルコトニ一致シ且右委任統治條項ヲ左ノ通定ムヘキコトヲ提議シタルニ因リ
日本國皇帝陛下ハ前記諸島ニ關スル委任ヲ受諾スルニ決シ且左記ノ規定ニ準據シ國際聯盟ニ代リ該委任ヲ實行スルコトヲ約シタルニ因リ
前記第二十二條第八項ハ受任國ノ行フ權限、監理又ハ施政ノ程度ニ關シ豫メ聯盟國間ニ合意ナキトキハ聯盟理事會ハ之ヲ明定スヘキコトヲ規定スルニ因リ
前記委任ヲ確認シ其ノ條項ヲ左ノ如ク定ム
第一條
日本國皇帝陛下(以下受任國ト稱ス)ニ委任ヲ付與シタル諸島ハ太平洋中赤道以北ニ位スル舊獨逸領諸島ノ全部ヲ含ム
第二條
受任國ハ本委任統治條項ニ依ル地域ニ對シ日本帝國ノ構成部分トシテ施政及立法ノ全權ヲ有スヘク且情況ニ應シ必要ナル地方的變更ヲ加ヘテ本地域ニ日本帝國ノ法規ヲ適用スルコトヲ得受任國ハ本委任統治條項ニ依ル地域ノ住民ノ物質的及精神的幸福竝社會的進步ヲ極力增進スヘシ
第三條
受任國ハ奴隸賣買ヲ禁止スルコト竝須要ナル公共的工事及役務ノ爲ニスル場合ヲ除クノ外强制勞働ヲ許容セサルコトヲ督視スヘシ右例外ノ場合ニ於テモ相當ノ報償ヲ支拂フコトヲ要ス
受任國ハ又千九百十九年九月十日署名ノ武器取引ノ取締ニ關スル條約又ハ之ヲ修正スル條約ニ規定スル所ト同樣ナル原則ニ準據シ武器彈藥ノ取引ヲ取締ルコトヲ督視スヘシ
土著民ニ火酒及酒精飮料ヲ供給スルコトヲ禁止スヘシ
第四條
土著民ノ軍事敎育ハ地域內警察及本地域ノ地方的防衞ノ爲ニスル場合ヲ除クノ外之ヲ禁止スヘシ又本地域內ニ陸海軍根據地又ハ築城ヲ建設スルコトヲ得ス
第五條
公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ノ維持ニ關スル地方的法規ニ反セサル限リ受任國ハ本地域內ニ於テ良心ノ自由竝各種禮拜ノ自由執行ヲ確保シ又聯盟國ノ國民タル一切ノ宣敎師カ其ノ職務ヲ行フ爲本地域內ニ到リ、旅行シ又ハ居住スルコトヲ許スヘシ
第六條
受任國ハ國際聯盟理事會ヲ滿足セシムヘキ年報ヲ同理事會ニ提出スヘシ該年報中ニハ本地域ニ關スル詳細ナル情報ヲ記載シ且第二條乃至第五條ニ依リ負擔シタル義務ヲ實行スル爲ニ執リタル諸般ノ措置ヲ表示スヘシ
第七條
本委任統治條項ノ規定ヲ變更スルニハ國際聯盟理事會ノ同意ヲ要ス
受任國ハ本委任統治條項ノ規定ノ解釋ニ關シ受任國ト他ノ聯盟國トノ間ニ紛爭ヲ生シタル場合ニ於テ其ノ紛爭カ交涉ニ依リ解決スルコト能ハサルトキハ之ヲ國際聯盟規約第十四條ニ規定スル常設國際司法裁判所ニ付託スヘキコトニ同意ス
本宣言ハ國際聯盟ノ記錄ニ之ヲ寄託スヘク國際聯盟事務總長ハ本書ノ認證謄本ヲ獨逸國トノ平和條約ノ署名國ニ送付スヘシ
千九百二十年十二月十七日「ジエネヴア」ニ於テ作成ス
第三帝國政府宣言
帝國政府ハ國際聯盟ノ根本精神上將又聯盟規約ノ解釋上通商及貿易上ノ機會均等ノ保障ニ關スル一項ヲC式委任統治條項中ニ插入スヘシトノ帝國政府從來ノ主張カ正當ナルコトノ確信ヲ有ス然レトモ和衷共同ノ精神ヨリ且本問題ヲ未解決ノ儘ニ存置セシムルヲ欲セサルニ依リ帝國政府ハ現在ノ形式ニ於テ委任統治條項ヲ制定スルニ同意スルコトニ決シタリ
尤モ右ノ決定ハ委任統治地域ニ於テ帝國臣民カ差別的且不利益ナル待遇ヲ受クルコトヲ帝國政府ニ於テ容認シタルモノト看做スヲ得ス又帝國政府ハ帝國臣民カ從來是等ノ地域ニ於テ享有シタル權利及利益ノ充分ニ尊重セラルヘシトノ主張ヲ右決定ニ依リテ抛棄シタルモノニ非ス
この著作物は、日本国の著作権法第10条1項ないし3項により著作権の目的とならないため、パブリックドメインの状態にあります。(なお、この著作物は、日本国の旧著作権法第11条により、発行当時においても、著作権の目的となっていませんでした。)
この著作物はアメリカ合衆国外で最初に発行され(かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず)、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつ、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日)に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。